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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070669
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】杖
(51)【国際特許分類】
   A45B 9/00 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
A45B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181295
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000101961
【氏名又は名称】イズミ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野津 敬
(72)【発明者】
【氏名】村田和也
(57)【要約】
【課題】1)市販の木製あるいはアルミ製などの一体式、伸縮式の杖と同形状であり、おしゃれな外観を大きく損ねないこと。
2)カウンターテーブルの天板下の幕板あるいは壁面など垂直面に立て掛けるのに、使用者が杖を別の手で持ち替えて杖を180度回転させたり、あるいは手の平を返して杖を90度回転させたりすることなく、握った状態のまま、すなわち杖正面を体側に向けた状態で、グリップの短い方の端部を壁面等に接触させて立てかける場合に、杖が滑って転倒したり、回転して転倒することを抑制できること。
【解決手段】本発明では、杖のT字型グリップの横棒の短い方の端縁に、横倒しにした円筒形の側面の一部を切り取った形状のすべり止め材を設置・形成し、さらに、石突き部の底部をゴム等、弾力があり滑りにくい素材で、一部を切欠いた円柱状に形成し、切欠きの向きを、上記T字グリップの短い方に合わせて設置する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T字型のグリップとシャフトを備える杖で、
前記グリップの横棒の一方の端縁部に、
円柱体の側面を、中心線を通る第一の平面と、
前記平面と直交し、前記中心線と平行な第二の平面とで切り取った形状の
すべり止め材を配置した杖。
【請求項2】
前記杖にさらに石突を備える杖で、
石突の底面形状が、前記第二の平面と平行な直線部を有する請求項1の杖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T字型グリップの横棒の一方の端縁部に、円柱体の側面を、中心線を通る第一の平面と前期平面と直交し、前記中心線と平行な第二の平面とで切り取った形状のすべり止め材を配置した杖に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や下肢を負傷した人などの歩行の助けや転倒防止、あるいはリハビリのため、一本杖・ステッキが広く用いられている。
特に近年は、軽量で、伸縮や折りたたみが可能な杖が安価で販売されており、任意の長さに調節できるばかりか、シャフトの表面に美しい木目や花柄などがプリントされ、使用者、特に高齢者などにとっては歩行補助具を兼ねたファッションアイテムのひとつとなっている。
【0003】
一本杖の使用者は、銀行や役所などを訪れるとき、片手で杖を握り、杖に頼りながら歩行し、目的地に到着して用事をするときには、手を空けるため、杖を引っ掛けて吊り下げたり、立てかけるなどして、杖から手を離す。この際、立位で使用されるカウンター(杖の長さより背の高いもの)では、グリップの長い方の先端を天板端部に引掛けて杖を吊り下げることができるが、杖の使用者は歩行時にはグリップの短い方を前に向けているため、カウンター天板に引っ掛けるにあたっては、杖の前後を反転する必要があり煩わしい。
【0004】
また、カウンターの天板端部が大きなアール形状の場合は、杖のグリップではアール部分を超えられず、物理的に引っ掛けることができないため、天板下の幕板部分に杖を立てかける必要がある。この際、立てかけた杖がすべって倒れたり、シャフトを軸に回転して倒れたりすることがあると、高齢者や身体障害者にとっては倒れた杖を拾い上げることが身体的に困難だったり、膝や腰などに痛みを伴ったりと、苦痛や苦労を強いられることが多い。
【0005】
これに対し、特許文献1ではシャフトの横断面形状を四角形あるいはグリップの長い方の下面を平面状にし、その平面上に滑りづらい素材を装着することで、カウンター天板などにグリップの長い方を引っ掛けて吊り下げたときに、杖が滑り落ちにくくするとともに、立てかけた杖が滑って転倒したり、回転して転倒したりすることを減少させる提案がなされている。
【0006】
さらに石突きの底部を四角形状として回転して転倒しづらくすることが併せて提案されている。しかしながら、該特許は立位で使用されるカウンター(杖の長さより背の高いもの)の天板に吊り下げるか、杖の長さより背が低いテーブルの天板端部に立て掛けることが想定されており、カウンターの幕板に立てかける場合には滑り止め効果がない。
【0007】
さらに、現在市販されている杖のシャフト部分はほとんどが円柱状で
あり、角柱状の杖は外観上奇異に映る。また、特許文献2では、壁面等に立てかけた杖が滑り落ちないよう、杖のグリップ部およびシャフト部表面全体を樹脂や熱可塑性エラストマー材で被覆し、さらに杖がシャフトの軸を中心に回転して転がり落ちるのを防止するため、シャフトの断面形状を円形だけでなく、三角~八角形状(すなわち円柱、三角柱、八角柱)などとすることが提案されている。
【0008】
該特許では、石突を除くグリップとシャフト部分全体にすべり止め素材が一体成形されており、どの部分が接触した場合でも滑りにくいものと思われるが、T字型グリップの横棒の短い方の端縁および石突部には、特に立てかけやすくしたり、滑りにくくするための材質や形状等についての工夫はなされていない。そのため、カウンターテーブルの幕板部に立てかける場合は、グリップ正面をカウンターに向ける必要があるため、握った手を返さなければならず煩わしい。滑り止め素材は硬度が低いほどすべり止め効果が高いと考えられるが、低硬度のゴム、エラストマーはタック性があるため、グリップ全体を被覆したときには、グリップを握る手の平にべたつきが感じられ、不快である。ゴム、エラストマーの硬度をべたつきが感じられないほど高く設定すると今度はすべり止め効果が低減し、当初の目的が達成できない。
【0009】
同様に、グリップ部を壁面等に接触させて立てかけたときに滑って転
倒しにくくすることを目的にゴム糸等から成る編地の筒を杖のグリップ部分に被せることが特許文献3に提案されているが、同じく、立てかける際に杖の向きを変える必要があり煩わしく、また立てかけた杖を再度使用する際も、取り上げた杖を再度持ち替える必要があり、煩わしい。
これに対し、特許文献4には、「対壁面すべり止め脱着可能ゴム部品」が提案されており、杖のシャフト上部に取り付け、壁面に立てかけた際に、杖が滑って転倒することを防止できることが謳われている。
【0010】
該特許では、当該ゴム部品は脱着可能で壁面に接触させる部分の方向を自由に調整できるため、杖のT字グリップの短い方(使用者の前側)に向ければ、使用者は杖の方向を変えたり、持ち替えたりすることなく、カウンターの幕板あるいは壁面に立てかけることができる。しかしながら、杖は斜めに立てかけられるため、当該ゴム製品の寸法を、杖のT字グリップより長くしないと、ゴム部品より先に、グリップの端部が幕板あるいは壁面に当たってしまい、折角のすべり防止効果が得られない。
【0011】
そこで、該ゴム部品の寸法をT字グリップの横棒の短い方よりさらに長くすると、今度は部品自体が大きくなり、見栄えが悪くなるばかりでなく、歩行の邪魔になるという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-306217号公報
【特許文献2】特開2006-280837号公報
【特許文献3】特開2019-84170号公報
【特許文献4】実用新案登録番号第3037827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
1)市販の木製あるいはアルミ製などの一体式、伸縮式の杖と同形状であり、おしゃれな外観を大きく損ねないこと。
2)カウンターテーブルの天板下の幕板あるいは壁面など垂直面に立て掛けるのに、使用者が杖を別の手で持ち替えてグリップの向きを180度回転させたり、あるいは手の平を返して杖を90度回転させたりすることなく、握った状態のまま、すなわち杖正面を体側に向けた状態で、グリップの短い方の端部を壁面等に接触させて立てかける場合に、杖が滑って転倒したり、回転して転倒することを抑制できること。
【0014】
歩行時の杖の握り方や手の方向を変えることなく、カウンター下の幕板に立てかけられるという課題を解決することは、用事を済ませた後、立てかけた杖を取り上げやすいことにもつながる。すなわち、手離れがよく、立てかけても倒れることがなく、さらに立てかけた杖が取り上げやすく、再度手に持ちやすい杖を実現することに繋がるのである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
T字型のグリップとシャフトを備える杖で、前記グリップの横棒の一方の端面に、円柱体の側面を、中心線を通る第一の平面と、前記平面と直交し、前記中心線と平行な第二の平面とで切り取った形状のすべり止め材を配置した杖。
【0016】
さらに石突部には、底面形状が、前記第二の平面と平行な直線部を設けた杖。
【発明の効果】
【0017】
本発明を利用することで、一般に市販されている一本杖、伸縮杖などの軽量でおしゃれな杖の外観形状を保ったまま、杖を握る手の方向を変えたり、持ち替えたりすることなく、立位で使用されるカウンターの幕板部分や壁面に立てかけることができ、立てかけた杖がすべって転倒したり、シャフトを軸に回転して転倒することを抑止することができるため、足腰の弱った高齢者や障害者が、おしゃれな外観を享受しつつも、転倒した杖を拾い上げる苦労を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一般的な市販の杖の正面図である。
図2】杖のグリップを右手で握った様子を示す図である。
図3】立位で使用されるカウンターを側面方向から見たときの縦断面図である。
図4】本発明の実施例の一つを示した図である。
図5図4の実施例の左側面図である。
図6】杖を壁面に立て掛けた様子を示した図である。
図7】(a)は杖と幕板あるいは壁面とのなす角を円周上に表わした図である。(b)T字型グリップの左側(短い方)のエッジと幕板あるいは壁面とのなす角を円周上に表わした図である。
図8】杖のT字型グリップ端面に配置される、すべり止め材の形状を説明するための図である。
図9図8の縦断面図である。
図10】杖のT字型グリップの端面に配置される、すべり止め材の最適形状を導出するための図である。
図11】スペーサーの説明図である。
図12】本発明の別の態様を示した図である。
図13】本発明の別の態様を示した図である。
図14】本発明の石突部の説明図である。
図15】杖のT字型グリップと石突底部の直線部分との位置関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1(a)は一般的な杖1の正面像を示している。グリップの部分は所謂「撞木」の形状通りT字型をしているが、最近の市販の杖ではほとんどすべてが、T字の縦棒(シャフトの付け根部分)は横棒の中心ではなく、片側にオフセットされている。図1(a)の例ではシャフトが左側にオフセットされている。杖各部の名称を図1(b)の2~6に示す。
【0020】
図2は、使用者が杖1を握った様子を示した図である。杖の使用者は、図2のように、グリップの左側(短い方)に人差し指をかけ、右側(長い方)に中指、薬指、小指の3本をかけて握り、杖の正面を自身の体側に向けて、グリップの左側(短い方)を進行方向に向けて歩行するのが一般的である。
【0021】
図3は、銀行や役所に設置されている、立位で使用されるカウンターを側面方向から見たときの縦断面図で、図3にはカウンター各部の名称が示されている。立位で使用されるカウンターの場合は、天板8の高さは低いものでも100cm以上あり、高いものでは115cmほどが一般的である。図ではカウンターをはさんで左側に接客係、右側に客である杖の使用者が立って、面談する。
【0022】
杖の使用者は右側からカウンターに向かって左向きに歩行し、カウンター前に至れば杖を手から離して用事をする。この際、杖をもう片方の手で持ち替えて、杖のT字型グリップの長い方(図1(b)の6側)をカウンターの天板端縁部9に引っ掛けて吊り下げることが多いが、図3(b)、(c)に示すような、天板端縁部9にアールの意匠が施されたものでは、引っ掛けることができないため、幕板10に凭れかけるように杖を立てかけざるを得ない。
【0023】
本発明の実施例を図4に示す。図4(a)は本発明記載の杖の平面図であり、杖上部からシャフト3の長手方向に沿って見下ろした図である。図4(b),(c)はその正面図と右側面図であり、図5には左側面図を示す。実際の市販の杖ではT字型グリップ2の横棒の右側は水平ではなく、握りやすいように上に凸のアール形状、あるいはフラミンゴの嘴のような形状でカウンターの天板端縁等に引掛かかりやすく工夫されているが、ここでは簡単のため単純な水平横棒の模式図とした。
【0024】
図4に示す通り、T字型のグリップの横棒の左側の端面にはすべり止め材11が配置されている。前記すべり止め材11は、円柱体の側面を、前記円柱体の中心線を通る第一の平面と、前記平面と直交し、前記中心線と平行な第二の平面とで切り取った形状をしている。これをT字型グリップの左端面側から見た図が図5であり、図4中、杖のグリップ2の端面と該すべり止め材11とは、接合部30において互いに形状が等しく、不連続性のない、グリップと一体化した立体形状となっている。
図4(a)、(b)の左向き矢印は使用者の進行方向を表しており、杖を立てかける方向を示している。
【0025】
次に本発明のすべり止め材の円柱体の側面を、中心線を通る第一の平面と、前記平面と直交し、前記中心線と平行な第二の平面とで切り取った形状について詳細に説明する。 図6(a)~(c)に、杖の使用者がカウンターの幕板10あるいは壁面に杖1を立てかける際の杖1と幕板10あるいは壁とのなす角を示す。図6(a)では杖はほぼ垂直に立てかけられている。実際には垂直には立てかけられないので、幕板あるいは壁面に対し、少なくとも1度乃至3度ほど傾けて立てかける。一方、(b)、(c)は、幕板あるいは壁面との「なす角」がそれぞれ約10度、約30度の例である。
【0026】
この範囲を図示すると、図7(a)のようになる。ここで、黒い扇形部分12が杖のシャフトと幕板あるいは壁面とのなす角を表している。ここでは0度から30度とした。円の中心を通る縦横2本の直線は、円の中心を通る垂線と水平線を示す。これに対し、T字グリップの左側(短い方)の端面と幕板あるいは壁面とのなす角は図7(b)の円の黒い扇形部分13となる。これはT字グリップの横棒と縦棒(すなわちシャフト)が直角に交わっているから、位相が90度ずれるためである。
【0027】
ここで、発明者らは、図7(b)で表されるT字型グリップの端面と幕板あるいは壁面とのなす角度の範囲に適したすべり止め材11の形状は、図10(c)に示す円弧部分16であることを新たに見出した。ここで、適したすべり止め材の形状について、図8~10を用いて、さらに詳細に説明する。図8は、特許請求の範囲に示した円柱体と、杖1との位置関係を示している。図中、円柱体32が特許請求項1で述べた円柱体であるが、杖1との位置関係を示すため、すべての面が透明に描かれている。直線18はシャフト3の付け根部分を通り、T字型グリップ2の横棒と直交する、円柱体32の中心線である。ここで、すべり止め材11の表面は、前記円柱体32の側面上にある。
【0028】
前記円柱体32とグリップ2を、図5の直線31を通り、T字型グリップ2の横棒と平行な面で切断した断面図を図9に示す。図9中、円33は、図8の円柱体32の断面であり、半径19はシャフト3の付け根部分からグリップの左端縁上部までの距離に等しい。すべり止め材11の円弧部分は円33の円周上にある。前術の通り、すべり止め材11の形状として、図10(c)の円弧部分16が最適な形状と考えられる。図10は前記最適形状を導出するための図で、図10(a)の円33は図9の円33を抜き出したものあるが、黒い扇形部分14は、図7(b)の黒い扇形13を、円の中心を通る水平線に対して対称に描いたもので、黒い扇形13のどの角度範囲においても、幕板10あるいは壁面に対して有効なすべり止め効果および回転抑止効果を発揮することができる、すべり止め材の断面形状を表している。
【0029】
図10(b)は(a)の黒い扇型部分14を抜き出したものである。図10(b)の扇形14の頭頂部から底辺に向けて下した垂線15と扇形14の底辺とで規定されるのが、円弧部分16である。図10は2次元図であるが、3次元的に見ると、円弧部分16は紙面に対して垂直な柱状体であり、扇形14の底辺は円柱体32の中心を通る水平面、垂線15はそれと直交し、円柱体32の中心線と平行な垂直面となり、それぞれ、特許請求項1で述べた円柱体の中心線を通る第一の平面と、前記平面と直交し、前記中心線と平行な第二の平面に相当する。
【0030】
すべり止め材11の最適形状は円弧部分16であることをすでに述べているが、図11(a)に示すように、T字型グリップの端面に配置する際には、前記端面とすべり止め材11との間に、同じ材質のスペーサー17を設けてもよい。スペーサー17の右端面は、T字型グリップの左端面と同形状で、左側面34はすべり止め材11の右端面と同形状とし、厚みは1mm~8mmとするのが望ましい。図11(a)のすべり止め材11の右側面はシャフト3の中心線35と平行で紙面に対して垂直な面15上になければならないが、T字型グリップ2の左端面が前記垂直面15と平行でない場合、あるいは前記端面が平面でない場合は、すべり止め材11をT字グリップ端面上に直接配置することができない。そのような例のひとつを図11(b)に示す。図11(b)ではT字型グリップの端面の角度が垂直面15と平行ではないので、前記端面と補角の形状を有するスペーサー35を介してすべり止め材11を配置することで、すべり止め材11の右側面を垂直面15と平行になるよう配置することができる。すべり止め材11とスペーサー17(あるいは35)は、いずれも同じ材質であるので、両者を同時に、一体に形成してもよい。ただし、スペーサーを設けるときには、円33の半径19を前記スペーサーの分だけ延長する必要がある。
【0031】
次に、本発明のすべり止め材の別の態様について述べる。前述の通り、図5(b)に示すすべり止め材11の右端面あるいは図11(a)に示すスペーサー17の両端面形状を、T字グリップの横棒の左端面の形状と一致させることで、美観を損ねることなくすべり止め材を配置できることを述べた。とはいえ、すべり止めの機能、回転抑止の機能ともに、該すべり止め材の幅が広いほど高く、安定である。また、図5からわかるように、グリップの意匠上、すべり止め材はT字型グリップ2の上端部にいくほど幅が狭くなり、壁面に大きな角度で凭れかけさせるほど、壁面と接触する位置がT字型グリップの上に移動するため、すべり止め効果あるいは回転抑止効果が小さくなる傾向にある。
【0032】
そこで、一般的なグリップの形状からはやや外れるが、T字型グリップの横棒の左側端面を、図12に示すように、縦横に広げ、カウンターの幕板や壁面などへの接触面積を増やす態様も合わせて提案する。すなわち、通常の市販の杖のT字グリップの左端面の大きさは、大きくとも長径40mm以下程度の楕円あるいは角を丸めた台形状と思われ、図4図5ともその例を図示しているが、図12のグリップの左端縁の大きさは水平方向の横幅が40mm~60mm、垂直方向の長さが30mm~50mmの構造物20がT字グリップの左端面上に設けられたもので、さらに構造物20の表面には、すべり止め材21が形成されている。
【0033】
すべり止め材21の断面形状は前述した通り、円弧部分16の形状と同一であるが、幅と長さは構造物20の大きさに合うよう調整されている。結果として、杖のグリップは金鎚のような形状となり、見栄えが悪くなるものの、構造物20が大きくなるほど安定性が増すと考えられる。ここで、これまで述べてきたすべり止め材11または21の材質についてであるが、熱硬化性エラストマーおよび熱可塑性エラストマーが好適である。熱硬化性エラストマーとして、シリコンゴム、ニトリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴムなどのゴム材がすべり止め効果および弾力性の点で望ましい。
【0034】
また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレンブタジエン、ポリウレタン、エステル系、アミド系、ポリオレフィン系(EPDM)などが使用できる。また、発泡ゴムなども軽量性、弾力性の点で使用可能である。これらすべり止め材の硬度は5度から30度が望ましい。硬度が低いほど滑りにくく、変形しやすいため、すべったり、回転したりするのを防ぐ効果が高いが、べたつき感や耐久性が低い、汚れやすいなどのデメリットもあり、その辺りのバランスを考えて選定するべきである。
【0035】
色調としてはアイボリーやオフホワイトなどのナチュラル色の他、各種の着色剤を配合することで、白、グレー、半透明、飴色、黒色など、あるいは茶色、ベージュ、ピンクなど、木目、花柄などシャフトの加飾と調和した色を選定でき、杖本来のおしゃれな外観を損なうことなく、さらに引き立たせる効果を持たせることができる。次に、杖のグリップ端縁への該すべり止め材の設置方法であるが、杖の製造工程で形成してもいいし、完成した杖に後から設置することも可能である。
【0036】
杖製造工程で形成する方法としては、注型用の型にグリップを設置してそこに硬化前の流動性のある熱硬化性エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーを注入して、硬化後離型して形成することができる。その他、半硬化してゼリー状あるいは粘土状になったエラストマーをグリップ端面に接着・形成した後、硬化させる方法もある。さらに、成形・硬化したエラストマー体をグリップ端面に接着剤や両面テープなどを介して接着することも可能である。
【0037】
完成した杖に後から、杖の使用者自らが配置する方法としては、上述のように成形・硬化したエラストマー体をグリップ端縁に接着剤、両面テープ等を介して接着する、あるいは、キャップ状にしたエラストマー体をクリップ端縁にはめ込むなどの方法が考えられる。図13にキャップ状に形成したすべり止め材22を、杖のT字型グリップの横棒左側にはめ込んだ例を図示した。
【0038】
最後に、本発明の杖の石突部分の底部の構造について、図を示しながら説明する。まず、石突部分には円錐台形のゴムキャップが用いられるのが通常であるが、通常の石突部分のように底面が円形であると、杖を斜めに立てかけた際に、床への接地面積が小さくなるためすべりやすく、さらに、シャフトを軸にして回転しやすいという問題があった。
【0039】
これに対し、特許文献1では前述の通り、石突の底面形状を四角形として、杖を斜めに立てかけた際の接地面積を大きくして摩擦力を上げ、すべりにくくするとともに、杖が回転して転倒しづらくすることが提案されているが、円柱形のシャフトに四角形の石突キャップを取付けようとすると石突部分が大きくなり、見栄えが悪くなるとともに、四角の一辺特に杖のT字グリップの長い方を立てかける側に向けるため、杖を持ち変える必要があり、煩わしい。
【0040】
本発明では、石突部分は、市販の杖・ステッキの石突の外観形状を大きく変えることのないよう、石突底面に直線部分を有することを特徴としている。前記底面の直線部分を、T字型グリップの横棒の短い方(すなわち前述のすべり止め材を設置・形成した側)に向けることで、杖を斜めに立てかけたとき、前記石突底面の直線部分が接地するため、接地面積が増加し、より滑りにくく、且つ回転しにくくなる。
【0041】
本発明の構造の例を図14に示す。図14(a)は本発明の石突ゴムキャップ4の平面図でシャフト上部から長手方向に見下ろしたところ、図14(b)は同側面図で、下部に円柱状のすべり止め材23が配置されている。図14(c)は同底面図で、すべり止め材23の底面の左寄りに直線部分24が設けられている。すべり止め材23の材質は前述のグリップ端部のすべり止め材と同じでもよいし、石突ゴムキャップと同じゴム材でも構わない。ただし、この部品の硬度は、体重をかけたときの安定性および耐久性の点に鑑み20度以上50度以下とすることが好適である。
【0042】
まず、市販の杖に見られる石突のサイズであるが、最太部の直径が30mm~60mm、高さが40mm~60mm程度のものが一般的である。この寸法に対しては、底面の直線部分24の長さは20mm~40mm程度とすることが望ましい。この理由として、直線24が短いと、幕板や壁に立てかけたときの接地面積が不足してすべりやすくなり、さらに、軸方向の回転を抑える力が不足するからである。一方、前記直線24が長すぎると、すべりや回転抑止の効果は高まるものの、杖をついて歩くときの安定性が悪くなるおそれがあるためである。また、底部23の厚みは5mm~20mm程度が好適と考えられる。
【0043】
図15にT字型グリップの左端面に配置されたすべり止め材11と石突底面の直線24との位置関係を示した。図15(a)は杖1の正面図であるが、破線で示した直線15は、特許請求項1で述べた第二の平面である。また、図5(b)はこれを底面からシャフトの長手方向に見上げた図で、この図において、直線15Bは特許請求項1に述べた第二の平面であり、前記第二の平面と、石突底面の直線24が、平面15Bの側に、平面15Bに対して平行に配置されていることがわかる。
【符号の説明】
【0044】
1・・T字型のグリップを備えた杖、2・・T字型グリップ、3・・シャフト、4・・石突、5・・T字型グリップの横棒の短い方すなわちグリップの前側、6・・T字型グリップの横棒の長い方すなわちグリップの後側、7・・カウンター、8・・天板、9・・天板端縁部、10・・幕板、11・・グリップ端縁に配置されたすべり止め材、12・・杖のシャフトとカウンターの幕板とのなす角、13・・杖のグリップ端縁とカウンターの幕板とのなす角、14・・杖のシャフトとカウンターの幕板とのなす角が0°から30°のときのすべり止め材の最適形状を表す扇形、15・・扇型の頭頂部から底辺に下した垂線、15B・・特許請求項1記載の第二の平面、16・・杖のシャフトとカウンターの幕板とのなす角が0°から30°のときのすべり止め材の最適断面形状、17・・スペーサー、18・・杖のシャフトの付け根を通る円柱体の中心線、19・・円柱体の半径、20・・杖のグリップの左端面の寸法を拡大するための構造物、21・・20の構造物の上に配置されたすべり止め材、22・・すべり止め材11をキャップ形状に成形したもの、23・・石突底部、24・・石突底部の直線部分、30・・すべり止め材11と、T字型グリップの横棒の短い方5の端面との接続部、31・・杖1の左側面図の中心線、32・・中心線18を中心とする円柱体、33・・・円柱体32の横断面の円、34・・スペーサー17または35の左側面、35・・スペーサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15