(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070672
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】安全装置付き刈払機
(51)【国際特許分類】
A01D 75/20 20060101AFI20240516BHJP
A01D 34/67 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A01D75/20 Z
A01D34/67 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181298
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元一
(72)【発明者】
【氏名】飯原 裕太
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 正志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聖
(72)【発明者】
【氏名】望月 寛
【テーマコード(参考)】
2B083
2B085
【Fターム(参考)】
2B083AA02
2B083BA02
2B083DA02
2B083DA03
2B083HA52
2B085AA06
2B085BC07
2B085BC20
2B085BE13
2B085BE50
2B085CA50
(57)【要約】
【課題】作業中の刈払機の周囲にいる人や物に対する安全性を確保できるようにする。
【解決手段】安全装置付き刈払機は、刈払機への接近対象を検出するためのドップラセンサとドップラセンサの出力を処理する処理装置を備えた安全装置を具備し、刈払機には、刈払機の動きを検出する動き検出センサが設置され、処理装置は、動き検出センサの出力に基づいて、ドップラセンサの出力から刈払機の動きに伴うノイズを除去する処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と該本体に端部が接続された操作桿と該操作桿の先端部に装備された刈払作業部を備える刈払機であって、
当該刈払機への接近対象を検出するためのドップラセンサと前記ドップラセンサの出力を処理する処理装置を備えた安全装置を具備し、
前記刈払機には、当該刈払機の動きを検出する動き検出センサが設置され、
前記処理装置は、前記動き検出センサの出力に基づいて、前記ドップラセンサの出力から前記刈払機の動きに伴うノイズを除去する処理を行うことを特徴とする安全装置付き刈払機。
【請求項2】
前記本体における前記操作桿が接続された側とは反対側に前記ドップラセンサを配備したことを特徴とする請求項1に記載された安全装置付き刈払機。
【請求項3】
前記動き検出センサは、加速度センサ又はジャイロセンサであることを特徴とする請求項1に記載された安全装置付き刈払機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全装置付き刈払機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安全装置付きの刈払機が知られている。この従来技術は、刈払機に加速度センサを搭載させ、加速度センサの検出値が閾値よりも大きい場合に、安全装置を作動させるものであり、加速度センサは、検出軸が刈払機の左右方向に対して傾斜した姿勢で刈払機に取り付けられている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術によると、加速度センサによって、刈払機に加わる様々な方向の力を検出することで、刈払機の落下や刈刃の障害物への衝突(キックバック)など、作業者が予期しない状態を検知して、刈払機の作動を停止させることができる。これによると、刈払機を用いて作業を行う作業者に対しての安全を確保することができる。
【0005】
これに対して、刈払機は、長尺な操作桿の先端部に刈刃が装備されている構造上の特徴を有することから、刈払機を用いて作業を行う作業者に対してだけでなく、作業中の刈払機の周囲にいる人や物に対しても、安全性を確保することが必要になる。
【0006】
刈払作業中の作業者は、原動機の作動音や刈刃の接触音などの騒音で周囲の音を識別することが困難である。加えて、これらの騒音を遮断するために、耳当てなどの保護具を装着するため、周囲の音声が聞こえ難くなる。また、刈刃の位置に集中して作業を行うことで、周囲に対する視野が狭くなることが考えられる。このため、人や物が接近したことに刈払作業中の作業者が気づかず、振り向きざまに長尺な操作桿の先端を接近した人や物に向けてしまう事態が起こり得る。このような事態を避けるために、作業中の刈払機に対して接近する人や物を検知することができる刈払機の安全装置が求められている。
【0007】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、作業中の刈払機に対して接近する人や物を効果的に検知することで、作業中の刈払機の周囲にいる人や物に対する安全性を確保できるようにすること、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
本体と該本体に端部が接続された操作桿と該操作桿の先端部に装備された刈払作業部を備える刈払機であって、当該刈払機への接近対象を検出するためのドップラセンサと前記ドップラセンサの出力を処理する処理装置を備えた安全装置を具備し、前記刈払機には、当該刈払機の動きを検出する動き検出センサが設置され、前記処理装置は、前記動き検出センサの出力に基づいて、前記ドップラセンサの出力から前記刈払機の動きに伴うノイズを除去する処理を行うことを特徴とする安全装置付き刈払機。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する本発明は、ドップラセンサを刈払機に設置することで、作業中の刈払機に接近する人や物を効果的に検知する安全装置を備えた刈払機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る安全装置付きの刈払機を示した説明図。
【
図2】安全装置を装備した刈払機の作業状況を示した説明図。
【
図3】安全装置における処理装置の機能を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1において、刈払機10は、本体11と、本体11に端部が接続された操作桿12と、操作桿12の先端部に装備された刈払作業部13を備えている。刈払作業部13の駆動形態は、本体11に搭載した原動機(エンジン又は電動モータ)の回転を操作桿12内の伝動軸を介して刈払作業部13に伝達するもの、刈払作業部13に原動機(電動モータ)を搭載させ、本体11に装備したバッテリと原動機を操作桿12内の配線で接続するものなど、各種の形態を採用することができる。また、刈払作業部13自体の形態も、回転刃、往復動刃、樹脂コードなど、どのような形態であってもよい。
【0013】
刈払機10が備える安全装置1は、刈払機10に搭載されるドップラセンサ1Aとドップラセンサ1Aの出力を処理する処理装置1Bを備えている。ドップラセンサ1Aは、所定の検出範囲に送信波を発信すると共に、検出範囲から戻ってくる反射波を受信して、ドップラ信号を含む信号を出力する。ドップラ信号は、送信波と反射波との位相差から検出範囲に存在する移動体との距離の変化に応じて異なる周波数の信号になる。処理装置1Bは、ドップラセンサ1Aの出力に応じて、ノイズを除去して接近物の有無を判定する。
【0014】
ドップラセンサ1Aは、図示の例では、刈払機10の本体11における操作桿12が接続された側とは反対側に配備されている。これにより、ドップラセンサ1Aが発信する送信波は、操作桿12の延長方向とは反対側に向けて発信される。刈払機10の作業者Mは、操作桿12の延長方向先端部に装備された刈払作業部13を見ながら作業を行うので、前述したドップラセンサ1Aの配備により、作業者Mの背後に向けて効果的に送信波を発信させることができる。
【0015】
また、ドップラセンサ1Aは、本体11において、操作桿12の中心を貫く中心線Oより下側に配置することが好ましい。このように、中心線Oより下側にドップラセンサ1Aを配備することで、
図1に示す作業姿勢で、本体11の一部が送信波に干渉することを避けることができる。
【0016】
この際、ドップラセンサ1Aは、本体11の底部11Aに対して上側に配備することが好ましい。本体11の底部11Aより上側にドップラセンサ1Aを配備することで、刈払機10を地面に置いたとき、或いは刈払機10の本体11を地面に落下させたときなどに、ドップラセンサ1Aが直接地面から衝撃を受けることを回避することができ、また、地面に浅い水たまりや草に付く水滴がある場合などに、ドップラセンサ1Aに対する防水効果を期待することができる。
【0017】
また、ドップラセンサ1Aは、本体11に熱源が存在する場合には、その熱願から離して配置することが好ましい。より具体的には、エンジン式の刈払機10であれば、エンジンが搭載された本体11において、リコイルスタータの下側辺りに配置することが好ましい。このように熱源から離して配置することで、ドップラセンサ1Aが高温に晒されることによる悪影響を回避することができる。
【0018】
ドップラセンサ1Aの向きは、
図1に示すように、作業者Mが操作桿12のハンドル12Aを持って、刈払作業を行っている状態で、地面と略平行に送信波の発信方向が向くように配置することが好ましく、そのためには、刈払作業部13の回転軸13Aと直交する方向で、操作桿12の中心軸Oに沿って送信波が発信されるように、ドップラセンサ1Aを本体11に配置することが好ましい。また、送信波が地面に当たって戻ってくる反射波は、接近物を検出する上でのノイズになるので、これを抑止するために、ドップラセンサ1Aの向きは、刈払作業中において地面と平行な面に対して水平ないしやや上向きにすることがより好ましい。
【0019】
そして、より具体的には、刈払機10の操作桿12と刈払作業部13の回転軸13Aとの角度θaを調整可能にしているものにおいては、本体11に配備されるドップラセンサ1Aの向きは、角度θaの調整に応じて変更できるようにすることが好ましい。
【0020】
これに対して、刈払機10には、刈払機10の動きを検出する動き検出センサ1A1が設置されている。動き検出センサ1A1は、刈払作業中における刈払機10の本体11や操作桿12の動きを検出することができるものであればよく、ジャイロセンサや加速度センサなどを用いることができる。動き検出センサ1A1は、一つに限らず、複数設けてもよい。動き検出センサ1A1の設置位置は、図示の例では操作桿12に設置しているが、刈払機10に設置されたドップラセンサ1Aと同時に動く箇所であれば、刈払機10における何処に設置しても構わない。
【0021】
ドップラセンサ1Aを、刈払機10の本体11における操作桿12が接続された側とは反対側に配備すると、刈払作業中の作業者Mの背後にドップラセンサ1Aの検出範囲を向けることができるので、作業者Mの背後の死角に対して効果的に送信波を発信することができる。
【0022】
図2に示すように、刈払作業では、操作桿12の先端に装備した刈払作業部13を左右に振りながら作業を行うので、操作桿12の延長方向とは逆向きのドップラセンサ1Aの発信方向は、操作桿12の左右の振りに応じて、左右に移動することになる。これによると、作業者Mの背後に対して、広い検出範囲で接近物の有無を検知することができるようになる。つまり、通常作業の振り動作を活かすことで、作業者が何らの追加操作を行うことなく検出範囲を拡張できる。
【0023】
しかしながら、刈払作業で操作桿12が左右に振られる(スイングする)ことで、本体11に配備されたドップラセンサ1Aが出力するドップラ信号には、刈払機10の動きに伴ってドップラセンサ1Aが移動することによるドップラ信号がノイズとして含まれる。このノイズは、刈払作業中における刈払機10の動きに同期して生じるので、刈払作業中における刈払機10の動きを動き検出センサ1A1で検出して、動き検出センサ1A1の出力に基づいて、ドップラセンサ1Aにおける刈払機10の動きに伴うノイズを除去する。
【0024】
安全装置1の処理装置1Bは、ドップラセンサ1Aと同様に刈払機10に設置してもよいし、
図1に示すように、刈払機10とは離れた位置で、例えば、作業者Mの着用物(作業着やハーネスなど)に設置してもよい。ドップラセンサ1Aから処理装置1Bへの出力信号の伝達は、有線送信又は無線送信で行うことができる。
【0025】
処理装置1Bの機能を、
図3にて説明する。ドップラセンサ1Aの出力は、信号増幅部20で信号増幅されて、必要に応じてFFT演算部21にて高速フーリエ変換され、ノイズ除去部22に入力される。これに対して、刈払機10の動きを検出する動き検出センサ1A1の出力は、動き検出部21Aにて信号処理がなされ、その出力がノイズ除去部22に入力される。
【0026】
動き検出部21Aでは、動き検出センサ1A1の出力によって、操作桿12を左右に振って作業を行う際の刈払機10の動作(スイング動作)の周期を解析する。刈払機10のスイング動作は一定ではないが、左右に往復するスイング動作には往復反転するときに動きが止まるタイミングがあり、また、スイング動作の途中に動きが加速されるタイミングがあるので、このような動きの変化を動き検出センサ1A1の出力から解析することで、刈払機10のスイング動作の周期を求めることができる。
【0027】
ノイズ除去部22では、ドップラセンサ1Aからの出力と動き検出部21Aの出力に基づいて、刈払機10の動きに伴うノイズの除去処理が行われる。
【0028】
ノイズ除去部22の処理例を説明すると、ドップラセンサ1Aのセンサ出力の時間変化は、
図4(a)に示すような波形で表される。この波形の中には、接近する対象物の速度由来の周波数と、刈払機10のスイング動作でドップラセンサ1Aが動いてしまうことによって検出されるスイング動作の速度由来の周波数が合成されている。
【0029】
このようなドップラセンサ1Aのセンサ出力の波形を任意の時間間隔で区切って、その区間毎にFFT演算部21にて周波数分析を行うと、
図4(b)に示すような周波数毎の出力レベルに分けることができる。そして、この分析を、区間をずらしながら連続して行うことで、周波数帯域毎の出力レベルの時間変化を確認することができる。
【0030】
一方、動き検出部21Aでの出力の解析から、刈払機10のスイング動作の一定でない周期の特定周波数帯域を求めることができるので、
図4(c)に示すように、ドップラセンサ1Aのセンサ出力における、周波数毎の出力レベルの時間変化から、スイング動作による特定周波数帯域の時間変化を取り除くことで、ドップラセンサ1Aのセンサ出力から刈払機10の動きに伴うノイズを除去することができる。
【0031】
ノイズ除去部22でノイズが除去された出力信号は、接近判定部23の判定処理で、ドップラセンサ1Aの検出範囲に刈払機10に向かって接近する対象物が存在するか否かの判定がなされる。検出範囲で接近する対象物が存在すると判定した場合には、判定出力を報知装置1C等に出力する。
【0032】
報知装置1Cは、刈払作業を行う作業者Mに接近対象物の存在を報知する装置であり、例えば、警告音、振動(バイブレーション)、発光表示等による報知を行う。報知装置1Cに替えて、判定出力が入力される駆動制御部を備える制御装置を設け、判定出力に対して刈払作業部13の駆動を停止する制御を行うようにしてもよい。
【0033】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る刈払機の安全装置1は、刈払機10の本体11における操作桿12が接続された側とは反対側にドップラセンサ1Aを配備することで、作業者Mの死角となる背後にドップラセンサ1Aの検出範囲を向けることができ、作業中の刈払機10に対して人や物が近づくことを効果的に検出することができる。これによって、作業中の刈払機10の周囲に存在する人や物の安全性を確保することができる。
【0034】
そして、動き検出センサ1A1の出力に基づいて、刈払機10の動きに伴うドップラセンサ1Aのノイズを除去することで、刈払機10への接近対象を精度よく検出することができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1:安全装置,1A:ドップラセンサ,1A1:動き検出センサ,
1B:処理装置,1C:報知装置,
10:刈払機,11:本体,11A:底部,
12:操作桿,12A:ハンドル,
13:刈払作業部,13A:回転軸,
20:信号増幅部,21:FFT演算部,21A:動き検出部,
22:ノイズ除去部,23:接近判定部,
M:作業者