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特開2024-70709電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070709
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20240516BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20240516BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALN20240516BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/052
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181369
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399041561
【氏名又は名称】常陽工学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
(72)【発明者】
【氏名】下田 茉優
(72)【発明者】
【氏名】江守 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】猫橋 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌典
(72)【発明者】
【氏名】水流 則幸
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028BB15
5H028BB18
5H028CC11
5H029AJ14
5H029BJ12
5H029CJ12
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029CJ30
5H029DJ04
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】薄化された電池用電極に比較的大きな曲げ応力が負荷されることなく、電池用電極を搬送治具から離脱させることができる電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置を提供する。
【解決手段】搬送治具内フィルム部脱離装置であって、離脱装置60,80は、一対のローラ及び搬送治具10を垂直方向に相対移動させ、一対のローラR1,R2とフィルム部14の他面側とを屈曲起点部BSで当接させ、フィルム部14が所望の屈曲角α0,β0,γ0,δ0を有するように配置した後、屈曲起点部BSにより画定される内側領域において、一対のローラR1,R2を、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させる。これにより、薄化された電池用電極WA,WBに比較的大きな曲げ応力が負荷されることなく、電池用電極WA,WBを搬送治具10から離脱させることができる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の短辺部及び一対の長辺部を有する治具枠部と、前記一対の短辺部間に架設され、一面側に電池用電極を保持する可撓性のフィルム部と、前記短辺部への前記フィルム部の巻回を行い、前記フィルム部のテンションを所望の値に維持するテンション調節部とを有する搬送治具と、
対向配置された転動可能な一対のローラを用いて、前記電池用電極を前記フィルム部から離脱させる離脱装置と、を備え、
前記離脱装置は、前記一対のローラ及び前記搬送治具を垂直方向に相対移動させ、前記一対のローラと前記フィルム部の他面側とを屈曲起点部で当接させ、前記フィルム部が所望の屈曲角を有するように配置した後、前記屈曲起点部により画定される内側領域において、前記一対のローラを、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させることを特徴とする、電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項2】
垂直方向からみて、前記屈曲起点部を、前記フィルム部に保持された前記電池用電極と重複しない位置にすることを特徴とする請求項1に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項3】
前記離脱装置は、前記内側領域において、前記一対のローラを、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させる際に、前記一対のローラを所定間隔に並設させた状態で、前記一対のローラを同期させて水平方向に往復移動させることにより、前記電池用電極の全面から前記フィルム部を離脱することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項4】
2つの前記搬送治具上に、前記電池用電極をそれぞれ配置する電極配置装置と、
一の前記搬送治具に保持された前記電池用電極にセパレータを貼付けるセパレータ貼付装置と、
一の前記搬送治具を反転させる反転装置と、
他の前記搬送治具に保持された前記電池用電極と、一の前記搬送治具に保持された前記電池用電極とを当接させるとともに、当接させた前記電池用電極のそれぞれを仮止めするために、前記フィルム部が架設される方向に延在する一対の縁部に沿って、離間的に貼合する貼合装置と、
他の前記搬送治具上に貼合された前記電池用電極を、一の前記搬送治具の前記フィルム部から離脱させる前記離脱装置と、をさらに備え、
前記貼合装置において仮止めされた前記一対の縁部に沿って、前記離脱装置における前記一対のローラを水平方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項5】
前記搬送治具は、前記フィルム部の巻回をロックするロック部を有し、
前記離脱装置のみにおいて、前記ロック部のロックが解除状態とされることを特徴とする請求項4に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項6】
他の前記搬送治具が真空チャンバの一部を画定し、他の前記搬送治具上に前記貼合された前記電池用電極の全周囲を、真空下においてヒートシールして、電池セルを形成する真空シール装置と、
他の前記搬送治具上に形成された前記電池セルを、他の前記搬送治具の前記フィルム部から離脱させる前記離脱装置を、さらに備えることを特徴とする請求項4に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項7】
前記フィルム部の一面側は、前記電池用電極が保持される領域に、粘着固定のための粘着層、又は、帯電固定のための絶縁体を有することを特徴とする請求項1に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【請求項8】
前記一対のローラは、軸方向の両端に拡径部を有する略円筒形状からなり、
垂直方向からみて、前記一対のローラの前記拡径部が、前記フィルム部に保持された前記電池用電極又は前記電池セルと重複しないように配置されることを特徴とする請求項1に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、電池用電極をフィルム部から離脱させる搬送治具内フィルム部脱離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池には、高容量化及び高エネルギ密度化が要望されているため、積層される電池用電極自体の薄化が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、製造装置であって、電極配置工程、セパレータ貼付工程、貼合工程、及び、真空シール工程を備え、薄化された電池用電極を積層することにより、電池セルを形成するものが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、薄化された電池用電極の剛性は、極めて低くなっているため、形成した電池用電極を搬送治具から離脱させる際、意図せずとも、電池用電極に比較的大きな曲げ応力が負荷されてしまうおそれがあった。その結果、電池用電極に破損が生じることにより、電池製造システムの生産効率の低下や、歩留まりの低下を引き起こすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6861127号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、薄化された電池用電極に比較的大きな曲げ応力が負荷されることなく、電池用電極を搬送治具から離脱させることができる電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、一対の短辺部及び一対の長辺部を有する治具枠部と、前記一対の短辺部間に架設され、一面側に電池用電極を保持する可撓性のフィルム部と、前記短辺部への前記フィルム部の巻回を行い、前記フィルム部のテンションを所望の値に維持するテンション調節部とを有する搬送治具と、対向配置された転動可能な一対のローラを用いて、前記電池用電極を前記フィルム部から離脱させる離脱装置と、を備え、前記離脱装置は、前記一対のローラ及び前記搬送治具を垂直方向に相対移動させ、前記一対のローラと前記フィルム部の他面側とを屈曲起点部で当接させ、前記フィルム部が所望の屈曲角を有するように配置した後、前記屈曲起点部により画定される内側領域において、前記一対のローラを、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させるものである。
【0008】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、垂直方向からみて、前記屈曲起点部を、前記フィルム部に保持された前記電池用電極と重複しない位置にするものとしてもよい。
【0009】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、前記離脱装置は、前記内側領域において、前記一対のローラを、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させる際に、前記一対のローラを所定間隔に並設させた状態で、前記一対のローラを同期させて水平方向に往復移動させることにより、前記電池用電極の全面から前記フィルム部を離脱するものとしてもよい。
【0010】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、2つの前記搬送治具上に、前記電池用電極をそれぞれ配置する電極配置装置と、一の前記搬送治具に保持された前記電池用電極にセパレータを貼付けるセパレータ貼付装置と、一の前記搬送治具を反転させる反転装置と、他の前記搬送治具に保持された前記電池用電極と、一の前記搬送治具に保持された前記電池用電極とを当接させるとともに、当接させた前記電池用電極のそれぞれを仮止めするために、前記フィルム部が架設される方向に延在する一対の縁部に沿って、離間的に貼合する貼合装置と、他の前記搬送治具上に貼合された前記電池用電極を、一の前記搬送治具の前記フィルム部から離脱させる前記離脱装置と、をさらに備え、前記貼合装置において仮止めされた前記一対の縁部に沿って、前記離脱装置における前記一対のローラを水平方向に移動させるものとしてもよい。
【0011】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、前記搬送治具は、前記フィルム部の巻回をロックするロック部を有し、前記離脱装置のみにおいて、前記ロック部のロックが解除状態とされるものとしてもよい。
【0012】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、他の前記搬送治具が真空チャンバの一部を画定し、他の前記搬送治具上に前記貼合された前記電池用電極の全周囲を、真空下においてヒートシールして、電池セルを形成する真空シール装置と、他の前記搬送治具上に形成された前記電池セルを、他の前記搬送治具の前記フィルム部から離脱させる前記離脱装置を、さらに備えるものとしてもよい。
【0013】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、前記フィルム部の一面側は、前記電池用電極が保持される領域に、粘着固定のための粘着層、又は、帯電固定のための絶縁体を有するものとしてもよい。
【0014】
また、上記電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置であって、前記一対のローラは、軸方向の両端に拡径部を有する略円筒形状からなり、垂直方向からみて、前記一対のローラの前記拡径部が、前記フィルム部に保持された前記電池用電極又は前記電池セルと重複しないように配置されるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、薄化された電池用電極に比較的大きな曲げ応力が負荷されることなく、電池用電極を搬送治具から離脱させることができる電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る電池製造システムを示す平面模式図である。
図2図1に示される電池製造システムに用いる搬送治具の斜視図である。
図3図1に示される電極配置工程から反転工程までを説明する断面模式図であり、(a)電極配置工程、(b)セパレータ貼付工程、(c)反転工程、をそれぞれ表す。
図4図1に示される貼合工程から第1の離脱工程までを説明する断面模式図であり、(a)貼合準備工程、(b)貼合工程、(c)第1の離脱工程、をそれぞれ表す。
図5図1に示される真空シール工程を説明する断面模式図であり、(a)真空シール準備工程、(b)真空引き工程、(c)加熱シール工程、(d)真空シール後工程、をそれぞれ表す。
図6図1に示される第2の離脱工程を説明する断面模式図であり、(a)及び(b)吸着移動工程、(c)第2の離脱工程、をそれぞれ表す。
図7図4(c)に示される第1の離脱工程を詳細に説明する断面模式図であり、(a)一対のローラ当接工程、(b)屈曲起点部形成工程、(c)一対のローラ近接転動工程、をそれぞれ表す。
図8図4(c)に示される第1の離脱工程を詳細に説明する断面模式図であり、(a)及び(b)一対のローラ並設転動工程、(c)一対のローラ離隔工程、をそれぞれ表す。
図9図4(c)に示される第1の離脱工程を詳細に説明する断面模式図であり、(a)及び(b)第1の搬送治具離脱工程、をそれぞれ表す。
図10図6(c)に示される第2の離脱工程を詳細に説明する断面模式図であり、(a)一対のローラ当接工程、(b)屈曲起点部形成工程、(c)一対のローラ近接転動工程、をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、本発明を具体的に実現した形態を例示するものである。よって、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって、以下に説明される実施形態の構成は適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<用語について>
本明細書および特許請求の範囲の記載において、各用語を以下のように定義する。「フィルム」とは、所定未満の厚さを有するものを示すのではなく、様々な厚さを有するものを示す。「水平方向」及び「垂直方向」とは、図面におけるX軸方向及びZ軸方向に対応するものをそれぞれ示す。「電池用電極をフィルム部から離脱」とは、電池用電極(電池用電極のみならず、電池用電極からなる電池セルを含む)をフィルム部から離脱するものを示す。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る電池製造システム100を示す平面模式図であり、図2は、図1に示される電池製造システムに用いる搬送治具10(10A,10B)の斜視図である。ここで、X軸方向は、搬送治具10(10A,10B)の一対の長辺部13が延在する方向を示すものであり、Y軸方向は、搬送治具10(10A,10B)の一対の短辺部12が延在する方向を示すものである。また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向と直交し、かつ、ワークW(WA,WB)に対して各処理工程が実施される際に、ワークW(WA,WB)が面する方向を示すものである。
【0020】
<電池製造システムについて>
電池製造システム100は、ワークW(WA,WB)である電池用電極を積層し、電池セルWCを形成するものである。この電池製造システム100は、搬送治具10(10A,10B)と、電極配置ユニット(電極配置装置)20A,20Bと、セパレータ貼付ユニット(セパレータ貼付装置)30と、反転ユニット(反転装置)40と、貼合ユニット(貼合装置)50、第1の離脱ユニット(離脱装置)60と、真空シールユニット(真空シール装置)70と、第2の離脱ユニット(離脱装置)80と、を備える。以下、それらを順に説明する。なお、電池製造システム100は、各ユニットの駆動などを制御する制御装置(不図示)をさらに備える。また、図1中の点Aから点Gは、各処理ユニットの位置を模式的に示すものであり、それぞれ、電極配置位置、セパレータ貼付位置、反転位置、電極配置位置、貼合・第1の離脱位置、真空シール位置、第2の離脱位置に対応する。
【0021】
<搬送治具について>
図2に示すように、搬送治具10(10A,10B)は、枠状の治具枠部11と、治具枠部11に架設された可撓性のフィルム部14と、フィルム部14のテンションを常に一定に維持するテンション調節部(不図示)と、フィルム部14の巻回をロックするロック部(不図示)と、を有する。詳細は後述するが、搬送治具10は、同一構成を有する、第1の搬送治具(一の搬送治具)10A、及び、第2の搬送治具(他の搬送治具)10Bからなる。
【0022】
治具枠部11は、Z軸方向からみて、矩形の枠形状を有し、一対の短辺部12と、一対の長辺部13と、を備える。この一対の短辺部12は、一対の長辺部13に対して回転可能な円筒形状を有する。
【0023】
フィルム部14は、Z軸方向からみて、帯形状を有し、長手方向(X軸方向)の両端部が、一対の短辺部12に固定されることにより、一対の短辺部12の間に架設される。また、フィルム部14は、一面側(Z軸方向プラス側)の少なくともワークW(WA,WB)の載置領域に、ワークWを粘着固定するための粘着層15を有する。これにより、フィルム部14に対するワークW(WA,WB)の脱着を簡単に行うことができる。さらに、フィルム部14は、短手方向(Y軸方向)の両端部が、一対の長辺部13と離間しているため、可撓性を有するフィルム部14は、Z軸方向に比較的容易に撓むことができる。これにより、詳細は後述するが、第1の離脱ユニット60、及び、第2の離脱ユニット80において、フィルム部14の撓みを利用し、フィルム部14の粘着層15からワークW(WA,WB)をスムーズに離脱させることができる。
【0024】
本実施形態のフィルム部14は、少なくともワークW(WA,WB)の載置領域に、粘着層15を有するものであるが、これに限らず、例えば、ワークW(WA,WB)の載置領域を含めた全面に粘着層15を有してもよい。また、本実施形態のフィルム部14は、粘着層15からワークWをスムーズに離脱させるために、剥離が容易な材質からなる粘着層15を有してもよい。さらに、本実施形態のフィルム部14は、ワークWを粘着層15からスムーズに脱着させるために、感温性を有する粘着層15を有し、脱着の際に温度制御を行ってもよい。ここで、粘着層15が感温性を有する場合には、粘着層15がクールオフ又はウォームオフの機能を有してもよい。例えば、粘着層15の感温性がクールオフの場合には、電極配置ユニット20A,20B、セパレータ貼付ユニット30、反転ユニット40、貼合ユニット50、及び、真空シールユニット70において、雰囲気温度を高めに調温、熱ロールによる圧縮(例えば、60~80℃)、加熱ユニットによる加熱(例えば、110~140℃)などにより、粘着層15の粘着力を高く設定してもよい。一方、第1の離脱ユニット60、及び、第2の離脱ユニット80において、粘着層15の雰囲気温度を低めに調温することにより、粘着層15の粘着力を低く設定してもよい。
【0025】
本実施形態のフィルム部14は、繰り返し使用することができるように、耐熱性を有してもよい。加えて、本実施形態のフィルム部14は、一面側(Z軸方向プラス側)の少なくともワークW(WA,WB)の載置領域に、粘着固定のための粘着層15を有するものであるが、これに限らず、例えば、粘着層15に代えて、帯電固定のための絶縁体、例えば、シリコンゴム等のシリコン系材料を採用してもよい。ここで、フィルム部14に絶縁体を採用する場合には、電極配置ユニット20A,20Bにおいて、イオナイザにより、絶縁体に荷電粒子(例えば、陰イオンや陽イオン)を供給し、絶縁体とワークW(WA,WB)との静電吸着力を増加させてもよい。さらに、第1の離脱ユニット60、及び、第2の離脱ユニット80において、イオナイザにより、絶縁体に電荷中和に必要な電荷を供給し、絶縁体とワークW(WA,WB)との静電吸着力を低下させてもよい。これにより、フィルム部14に対するワークW(WA,WB)の脱着を簡単に行うことができる。
【0026】
テンション調節部は、フィルム部14のテンションが所望の値(所定値又は所定範囲内)となるように、フィルム部14が固定されている一対の短辺部12を回動させるものであり、一対の短辺部12のそれぞれの支持端部に設けられており、例えば、定トルクばねやトルクモータなどを採用することができる。
【0027】
ロック部は、フィルム部14の巻回、つまり、長辺部13に対する短辺部12の回転の有無を制御するように、ロック状態及び解除状態への切り替えを行うものであり、一対の短辺部12のそれぞれの支持端部に設けられており、例えば、メカニカルブレーキや磁気ブレーキなどを採用することができる。なお、詳細は後述するが、本実施形態のロック部は、第1の離脱ユニット60及び第2の離脱ユニット80においてのみ、ロック状態から解除状態へと切り替えられる。これにより、第1の離脱ユニット60及び第2の離脱ユニット80以外では、フィルム部14のテンションが所望の値に維持されるため、搬送治具10は、ワークWを確実に保持することができる。
【0028】
<電極配置工程について>
電極配置ユニット20A,20Bは、電極配置位置(図1中の点A及び点D参照)にあり、図3(a)に示すように、搬送治具10(10A,10B)のフィルム部14上に、ワークWである電池用電極(正極WA,負極WB)を形成する。なお、図3(a)は、説明を簡略化するために、電池用電極(正極WA,負極WB)が形成された後の搬送治具10(10A,10B)のみを示す。
【0029】
具体的に、電極配置ユニット20A,20Bは、真空吸着やメカチャクなどにより、電極配置ステージ(不図示)上に、搬送治具10(10A,10B)を固定させる。その後、電極配置ユニット20A,20Bは、図2に示される搬送治具10(10A,10B)のフィルム部14上に、矩形形状の集電体c及び矩形の枠形状の枠体fを、熱ロール(不図示)により、順に貼り付ける。この際、Z軸方向からみて、集電体c及び枠体fの外縁が一致するように配置される。
【0030】
次に、この集電体c及び枠体fに画定される凹部に、電極活物質を敷き詰め、敷き詰めた電極活物質を、熱ロール(不図示)により、圧縮することにより、電極活物質層eを形成する。そして、圧縮後の電極活物質層eに、電解液を塗布することにより、フィルム部14上に、ワークWである電池用電極(正極WA,負極WB)を形成する。
【0031】
電池製造システム100は、第1の搬送治具10Aのフィルム部14上に、正極WAを形成する電極配置ユニット20Aと、第2の搬送治具10Bのフィルム部14上に、負極WBを形成する電極配置ユニット20Bと、をそれぞれ備える。正極WAが形成された第1の搬送治具10Aは、セパレータ貼付位置(図1中の点B参照)へと搬送される。また、負極WBが形成された第2の搬送治具10Bは、貼合・第1の離脱位置(図1中の点E参照)へと搬送される。
【0032】
<セパレータ貼付工程について>
セパレータ貼付ユニット30は、セパレータ貼付位置(図1中の点B参照)にあり、図3(b)に示すように、第1の搬送治具10Aのフィルム部14に形成された正極WAの電極活物質層e上に、セパレータSを載置する。なお、図3(b)は、説明を簡略化するために、正極WAの電極活物質層e上に、セパレータSを載置された後の搬送治具10(10A,10B)のみを示す。
【0033】
具体的に、セパレータ貼付ユニット30は、真空吸着やメカチャクなどにより、セパレータ貼付ステージ(不図示)上に、第1の搬送治具10Aを固定させる。その後、セパレータ貼付ユニット30は、矩形形状のセパレータSの外縁を、正極WAの枠体f上に載置する。この際、セパレータSが、電極活物質層eを完全に覆うとともに、電解液が、毛細管現象により、セパレータSと電極活物質層eとの隙間に染み込み、結果、セパレータSが電極活物質層eにぴったりと貼り付くことができる。
【0034】
<反転工程について>
反転ユニット40は、反転位置(図1中の点C参照)にあり、図3(c)に示すように、第1の搬送治具10Aを反転させる。なお、図3(c)は、説明を簡略化するために、反転された第1の搬送治具10Aのみを示す。
【0035】
具体的に、反転ユニット40は、真空吸着やメカチャクなどにより、反転ステージ(不図示)上に、第1の搬送治具10Aを固定させる。その後、反転ユニット40は、図3(c)に示すように、第1の搬送治具10AをY軸周り(矢印I方向)に反転させる。この際、セパレータSは、電解液を介して、電極活物質層eに貼り付いており、電極活物質層eからセパレータSが落下しないため、第1の搬送治具10Aに載置されている正極WAを、他の搬送治具へと載せ替える必要はない。これにより、詳細は後述するが、第1の搬送治具10Aを、電極配置ユニット20Aから貼合ユニット50まで使用することができ、コストを削減させるとともに、生産効率を向上させる(図1中の点A→点B→点C→点E参照)。
【0036】
なお、本実施形態において、第1の搬送治具10Aを反転させた際に、第1の搬送治具10Aから正極WAが落下しないように、粘着層15の粘着力が設定されている。
【0037】
<貼合工程について>
貼合ユニット50は、貼合・第1の離脱位置(図1中の点E参照)にあり、図4(a)及び図4(b)に示すように、正極WAと負極WBとを対向させた状態で、ヒートシールにより仮止めし、貼合させる。
【0038】
(貼合準備工程)
具体的に、貼合ユニット50は、図4(a)に示すように、真空吸着やメカチャクなどにより、アライメントステージ51上に、第2の搬送治具10Bを固定させる。そして、第2の搬送治具10Bの負極WBと、反転させた第1の搬送治具10Aの正極WAとを対向配置させた後、第1の搬送治具10Aを、Z軸方向(矢印II方向)に移動させ、セパレータSを介して、正極WA及び負極WBを当接させる。
【0039】
(貼合工程)
次に、図4(b)に示すように、第1の加熱ユニット52を、Z軸方向(矢印III方向)に移動させ、これにより、第1の搬送治具10Aのフィルム部14を上方より押圧する。この際、正極WA及び負極WBは、アライメントステージ51と第1の加熱ユニット52との間に挟持される。そして、第1の加熱ユニット52が、第1の搬送治具10Aのフィルム部14を介して、フィルム部14が架設される方向(X軸方向)に延在する一対の枠体fの外周縁(正極WA及び負極WBの一対の縁部)に沿って、離間的に加熱(例えば、120~140℃)する。このヒートシールの仮止めにより、枠体fを溶融させるとともに、正極WA及び負極WBの枠体f同士を離間的に溶着させて、貼合された電池用電極WPを一体的に形成する。その後、第1の加熱ユニット52を、Z軸方向(矢印IV方向)に移動させる。
【0040】
<第1の離脱工程について>
第1の離脱ユニット60は、貼合・第1の離脱位置(図1中の点E参照)にあり、図4(c)に示すように、第1の搬送治具10Aを、第2の搬送治具10B上に貼合された電池用電極WPから離脱させる。なお、第1の離脱工程における、第1の離脱ユニット60の具体的な動作については、後述するため、ここでの説明は省略する。
【0041】
<真空シール工程について>
真空シールユニット70は、真空シール位置(図1中の点F参照)にあり、図5(a)から図5(d)に示すように、第2の搬送治具10Bの上に、カバーフィルム72を覆いかぶせ、真空下において、第2の搬送治具10Bの上に、貼合された電池用電極WPの全周囲に沿って、第2の加熱ユニット73により、ヒートシールを行い、電池セルを形成する。
【0042】
(真空シール準備工程)
まず、真空シールユニット70は、図5(a)に示すように、カバーフィルム72を、Z軸方向に(矢印VI方向)に移動させ、第2の搬送治具10Bの上に、カバーフィルム72を覆いかぶせることにより、真空チャンバが画定される。
【0043】
本実施形態において、カバーフィルム72は、フィルム部14と同程度の可撓性のフィルムからなる。なお、カバーフィルム72は、繰り返し使用することができるように、耐熱性を有するフィルムであってもよい。さらに、カバーフィルム72は、貼合された電池用電極WPを覆うことができる形状を有していれば、如何なる形状であってもよい。
【0044】
(真空引き工程)
次に、真空シールユニット70は、図5(b)に示すように、第2の搬送治具10Bのフィルム部14とカバーフィルム72とにより画定される真空チャンバに、真空ポンプ等に繋がる排気経路(不図示)を接続し、排気経路を介して、真空チャンバ内の気体を、排気することにより、真空引きが行われる。この真空チャンバ内における真空圧PVは、例えば、-100(kpa)程度に設定されている。なお、真空チャンバ内に収容される、貼合された電池用電極WPは、貼合ユニット50において、X軸方向に延在する一対の枠体fに沿って、離間的にヒートシールが行われていることから、枠体fの非ヒートシール部分を介して、貼合された電池用電極WPの内部から気体を排気することができる。
【0045】
(加熱シール工程及び真空シール後工程)
さらに、図5(c)に示すように、第2の加熱ユニット73を、Z軸方向(矢印VII方向)に移動させ、これにより、カバーフィルム72を上方より押圧する。この第2の加熱ユニット73は、Z軸方向からみて、枠体fと略同形状を有しており、貼合された電池用電極WPは、真空ステージ71と第2の加熱ユニット73との間に挟持される。そして、第2の加熱ユニット73を加熱し(例えば、110~140℃)、カバーフィルム72を介して、貼合された電池用電極WPが有する枠体fの全周囲に沿って、連続的に加熱する。このヒートシールにより、枠体fを溶融させるとともに、貼合された電池用電極WPの枠体f同士を完全に溶着させて、真空シールされた電池セルWCを形成する。その後、排気経路を介して、真空チャンバ内を大気開放にするとともに、カバーフィルム72及び第2の加熱ユニット73を、Z軸方向に(矢印VIII方向)に移動させる。
【0046】
本実施形態において、第2の搬送治具10Bのフィルム部14及びカバーフィルム72により、真空チャンバを画定していることから、堅固で気密性の高い真空チャンバを別途必要としないため、電池製造システム100のコストを削減させることができる上、貼合された電池用電極WPを第2の搬送治具10Bから真空チャンバなどに載せ替える必要がない。また、本実施形態において、カバーフィルム72は、第2の加熱ユニット73により加熱されるが、カバーフィルム72は、比較的薄く、放熱性が比較的高いため、特別な冷却装置を用いずとも、十分な冷却を行うことができるため、コストの削減、及び、生産効率の向上を実現することができる。
【0047】
<第2の離脱工程について>
第2の離脱ユニット80は、第2の離脱位置(図1中の点G参照)にあり、図6(a)から図6(c)に示すように、第2の搬送治具10Bを、電池セルWCを介して、吸着固定定盤81に吸着固定させた後、第2の搬送治具10Bを、電池セルWCから離脱させる。この吸着固定定盤81は、下面に、電池セルWCを真空吸着させる複数の吸着ポート(不図示)を備える。
【0048】
(吸着移動工程)
第2の離脱ユニット80は、図6(a)及び図6(b)に示すように、電池セルWCを保持する第2の搬送治具10Bを、真空シール位置(図1中の点F参照)から第2の離脱位置(図1中の点G参照)に移動させる。具体的には、吸着固定定盤81を、X軸方向及びZ軸方向に(矢印IX方向)に移動させ、電池セルWCの上面に当接させる。そして、吸着固定定盤81の下面に電池セルWCを吸着固定させた後、Z軸方向及びX軸方向に(矢印X方向)に移動させる。
【0049】
(第2の離脱工程)
第2の離脱ユニット80は、図6(c)に示すように、第2の搬送治具10Bを、電池セルWCから離脱させる。なお、第2の離脱工程における、第2の離脱ユニット80の具体的な動作については、後述するため、ここでの説明は省略する。
【0050】
<第1の離脱ユニットの具体的な動作について>
第1の離脱ユニット60は、図7及び図8に示すように、第1のローラR1と、第2のローラR2とからなる一対のローラR1,R2を有する。この一対のローラR1,R2は、互いに平行に対向配置されており、XZ平面内を移動可能であるとともに、Y軸方向を中心に自由に回転(転動)可能である。また、一対のローラR1,R2は、Y軸方向の両端に拡径部を有する略円筒形状からなる。ここで、詳細は後述するが、一対のローラR1,R2が、X軸方向に移動し、フィルム部14上を転動する際に、Z軸方向からみて、一対のローラR1,R2の拡径部が、貼合された電池用電極WPと重複しないように設けられている。これにより、一対のローラR1,R2の押圧力が、貼合された電池用電極WPに直接負荷されないため、貼合された電池用電極WPの破損を抑制することができる。さらに、第1の離脱工程において、粘着層15の粘着力が低下するように、雰囲気温度を低めに調温している。
【0051】
(一対のローラ当接工程)
図7(a)に示すように、一対のローラR1,R2を、Z軸方向(矢印V(1)方向)に移動させ、第1の搬送治具10Aのフィルム部14の他面側に当接させる。この際、一対のローラR1,R2とフィルム部14との当接部には、屈曲起点部BSがそれぞれ形成される。この屈曲起点部BSは、垂直方向からみて、フィルム部14の下面と、貼合された電池用電極WPの上面との間に形成されている接着領域Aaと、重複しない位置に設定されている。なお、一対のローラR1,R2を、簡単な動き、つまり、屈曲起点部BSにより画定される内側領域において、常時、互いに、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持してX軸方向に移動させることにより、貼合された電池用電極WPをフィルム部14から離脱させることができる。さらに、本実施形態において、一対のローラR1,R2を、第1の搬送治具10Aに対して、移動させるものであるが、これに限らず、第1の搬送治具10Aを、一対のローラR1,R2に対して、移動させるもの、つまり、一対のローラR1,R2を、第1の搬送治具10Aに対して、相対移動させるものであればよい。
【0052】
(屈曲起点部形成工程)
図7(b)に示すように、一対のローラR1,R2のXZ平面内への移動を固定した状態で、第1の搬送治具10Aのロック部(不図示)を解除状態とする。その後、図7(b)に示すように、第1の搬送治具10Aを、Z軸方向(矢印V(2)方向)に移動させる。また、第1の搬送治具10Aのテンション調節部(不図示)により、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に反時計方向(左側の矢印V(3)方向)及び時計方向(右側の矢印V(3)方向)にそれぞれ回動させる。これにより、フィルム部14が、貼合された電池用電極WPに対して、X軸方向のせん断力を生じさせることがないため、貼合された電池用電極WPが、破損してしまうことを防ぐことができる。この際、フィルム部14は、左右の屈曲起点部BSを頂点として、上側屈曲起点角α0,β0をそれぞれ有することとなる。ここで、詳細は後述するが、上側屈曲起点角α0,β0を、適切な値に設定することにより、貼合された電池用電極WPから第1の搬送治具10Aを離脱させる際に、貼合された電池用電極WPに、比較的大きな曲げ応力が負荷されることを抑制することができる。
【0053】
(一対のローラ近接転動工程)
図7(c)に示すように、一対のローラR1,R2を、所定間隔に近接されるまで、フィルム部14に対して転動させながら、X軸方向(矢印V(4)方向)に移動させる。また、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に時計方向(左側の矢印V(5)方向)及び反時計方向(右側の矢印V(5)方向)にそれぞれ回動させる。この際、一対のローラR1,R2とフィルム部14との当接部が、屈曲起点部BSから近接位置まで、移動するのにつれて、フィルム部14の下面が、貼合された電池用電極WPの上面から順に剥離され、剥離領域Raが形成される。なお、一対のローラR1,R2とフィルム部14との当接部には、剥離線PL1,PL2がそれぞれ形成されており、フィルム部14は、剥離線PL1,PL2をそれぞれ頂点として、第1の上側屈曲角α1,β1を有している。
【0054】
この第1の上側屈曲角α1,β1は、上側屈曲起点角α0,β0より、小さな値となっている。このように、実際に、貼合された電池用電極WPからフィルム部14が剥離される角度(例えば、図7及び図8の第1の上側屈曲角α1,β1~第4の上側屈曲角α4,β4参照)を、上側屈曲起点角α0,β0より必ず小さな値に設定することができる(α0>α1,α2,α3,α4、β0>β1,β2,β3,β4)。
【0055】
したがって、仮に、フィルム部14の剥離角度を、比較的大きな値とする場合には、貼合された電池用電極WPに、比較的大きな曲げ応力が負荷されるため、破損してしまうおそれがあった。しかしながら、本実施形態においては、フィルム部14の剥離角度を、安全側の角度、つまり、上側屈曲起点角α0,β0未満に設定することができるため、貼合された電池用電極WPが、比較的大きな曲げ応力により、破損してしまうことを防ぐことができる。また、本実施形態は、貼合ユニット50において、X軸方向に延在する正極WA及び負極WBの枠体fに沿って、離間的に仮止めしているため、第1の離脱ユニット60において、正極WAが第1の搬送治具10Aにくっ付いた状態で、負極WBから剥がれることを抑制することができる。
【0056】
(一対のローラ並設転動工程)
まず、図8(a)に示すように、一対のローラR1,R2を、所定間隔に並設させた状態で、フィルム部14に対して転動させながら、同期させて、X軸方向(矢印V(6)方向)に移動させる。また、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に反時計方向(左側の矢印V(7)方向、右側の矢印V(8)方向)にそれぞれ回動させる。なお、一対のローラR1,R2とフィルム部14との当接部には、剥離線PL3,PL4がそれぞれ形成されており、フィルム部14は、剥離線PL3,PL4をそれぞれ頂点として、第2の上側屈曲角α2,β2を有している。
【0057】
この際、ローラR2とフィルム部14との当接部が、剥離線PL2から剥離線PL4まで、移動するのにつれて、フィルム部14の下面が、貼合された電池用電極WPの上面から順に剥離され、新たに剥離領域Raが形成される。
【0058】
一方、ローラR1とフィルム部14との当接部が、剥離線PL1から剥離線PL3まで、移動するのにつれて、一度剥離されたフィルム部14と貼合された電池用電極WPとが、再び、接着される再接着領域Reが形成される。ここで、フィルム部14と貼合された電池用電極WPとの粘着力は、一度剥離されると著しく低下するため、再接着領域Reにおける粘着力は、接着領域Aaにおける粘着力と比べ、著しく低い値となっている。
【0059】
次に、図8(b)に示すように、一対のローラR1,R2を、所定間隔に並設させた状態で、フィルム部14に対して転動させながら、同期させて、X軸方向(矢印V(9)方向)に移動させる。また、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に時計方向(左側の矢印V(10)方向、右側の矢印V(11)方向)にそれぞれ回動させる。なお、一対のローラR1,R2とフィルム部14との当接部には、剥離線PL5,PL6がそれぞれ形成されており、フィルム部14は、剥離線PL5,PL6をそれぞれ頂点として、第3の上側屈曲角α3,β3を有している。
【0060】
この際、ローラR1とフィルム部14との当接部が、剥離線PL3から剥離線PL5まで、移動するのにつれて、フィルム部14の下面が、貼合された電池用電極WPの上面から順に剥離され、新たに剥離領域Raが形成される。一方、ローラR1とフィルム部14との当接部が、剥離線PL1から剥離線PL3まで、移動するのにつれて、一度剥離されたフィルム部14と貼合された電池用電極WPとが、再び、接着される再接着領域Reが形成される。
【0061】
本実施形態において、一対のローラR1,R2を、所定間隔に並設させた状態で、フィルム部14に対して転動させながら、同期させて、X軸方向に往復移動させることによって、全ての接着領域Aaに対して、少なくとも一度は、剥離領域Raを経験させることにより、剥離領域Ra又は再接着領域Reへと置き換えることができる。これにより、フィルム部14と貼合された電池用電極WPとの粘着力を、ゼロ又は、比較的低い値にすることができる。
【0062】
(一対のローラ離隔工程)
まず、図8(c)に示すように、一対のローラR1,R2を、所定間隔に並設させた状態で、フィルム部14に対して転動させながら、同期させて、貼合された電池用電極WPの中央位置までX軸方向に移動させる。また、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心にそれぞれ回動させる。この際、一対のローラR1,R2とフィルム部14との当接部には、剥離線PL7,PL8がそれぞれ形成されており、フィルム部14は、剥離線PL7,PL8をそれぞれ頂点として、第4の上側屈曲角α4,β4を有している。また、フィルム部14と貼合された電池用電極WPとの間には、剥離線PL7,PL8を境界として、剥離領域Ra及び再接着領域Reがそれぞれ形成されている。その後、一対のローラR1,R2を、Z軸方向(矢印V(12)方向)に移動させ、第1の搬送治具10Aのフィルム部14から離隔させる。
【0063】
(第1の搬送治具離脱工程)
まず、図9(a)に示すように、第1の搬送治具10Aを、Z軸方向(矢印V(13)方向)に移動させる。また、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に時計方向(左側の矢印V(14)方向)及び反時計方向(右側の矢印V(14)方向)にそれぞれ回動させる。この際、第1の搬送治具10AがZ軸方向(矢印V(13)方向)に移動するにつれて、フィルム部14と貼合された電池用電極WPとの間に形成された剥離線PL7,PL8が、互いに接近し、再接着領域Reが、剥離領域Raへと順に置き換えられ、最終的には、貼合された電池用電極WPの上面の全てに、剥離領域Raが形成される。この再接着領域Reにおけるフィルム部14と貼合された電池用電極WPとの粘着力は、比較的低い値であることから、第1の搬送治具10Aを、貼合された電池用電極WPから比較的容易に離脱させることができる。
【0064】
そして、図9(a)に示すように、第1の搬送治具10Aを、さらに、Z軸方向(矢印V(15)方向)に移動させ、第1の搬送治具10Aのロック部(不図示)をロック状態とする。
【0065】
<第2の離脱ユニットの具体的な動作について>
図10を用いて、第2の離脱ユニット80の具体的な動作について説明する。第2の離脱ユニット80は、第1の離脱ユニット60と、上下が反転して配置されている点で相違するが、その他の点では第1の離脱ユニット60と同一である。なお、第2の離脱ユニット80の動作は、第1の離脱ユニット60で示した動作と同様に、一対のローラ当接工程から、第2の搬送治具離脱工程まで有するものであるが、ここでは、一対のローラ当接工程から一対のローラ近接転動工程までを説明し、それ以降の工程については、説明を省略する。
【0066】
第2の離脱ユニット80は、一対のローラR1,R2と同一構成からなる、一対のローラR3,R4を有し、この一対のローラR3,R4は、それぞれ、Y軸方向の両端に拡径部を有する略円筒形状からなる。一対のローラR3,R4は、XZ平面内を移動可能であるとともに、Y軸方向を中心に自由に回転(転動)可能である。なお、第2の離脱工程において、一対のローラR3,R4を、常時、互いに、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持しX軸方向に移動させている。ここで、詳細は後述するが、一対のローラR3,R4が、X軸方向に移動し、フィルム部14上を転動する際に、Z軸方向からみて、一対のローラR3,R4の拡径部が、電池セルWCと重複しないように設けられている。これにより、一対のローラR3,R4の押圧力が、電池セルWCに直接負荷されないため、電池セルWCの破損を抑制することができる。さらに、第2の離脱工程において、粘着層15の粘着力が低下するように、雰囲気温度を低めに調温している。
【0067】
(一対のローラ当接工程)
図10(a)に示すように、一対のローラR3,R4を、Z軸方向(矢印XI(1)方向)に移動させ、第2の搬送治具10Bのフィルム部14の他面側に当接させる。この際、一対のローラR3,R4とフィルム部14との当接部には、屈曲起点部BSがそれぞれ形成される。この屈曲起点部BSは、垂直方向からみて、フィルム部14の下面と、電池セルWCの上面との間に形成されている接着領域Aaと、重複しない位置に設定されている。
【0068】
(屈曲起点部形成工程)
図10(b)に示すように、一対のローラR3,R4のXZ平面内への移動を固定した状態で、第2の搬送治具10Bのロック部(不図示)を解除状態とする。その後、図10(b)に示すように、第2の搬送治具10Bを、Z軸方向(矢印XI(2)方向)に移動させる。また、第2の搬送治具10Bのテンション調節部(不図示)により、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に時計方向(左側の矢印XI(3)方向)及び反時計方向(右側の矢印XI(3)方向)にそれぞれ回動させる。これにより、フィルム部14が、電池セルWCに対して、X軸方向のせん断力を生じさせることがないため、電池セルWCが、破損してしまうことを防ぐことができる。この際、フィルム部14は、左右の屈曲起点部BSを頂点として、下側屈曲起点角γ0,δ0をそれぞれ有することとなる。ここで、下側屈曲起点角γ0,δ0を、適切な値に設定することにより、電池セルWCから第2の搬送治具10Bを離脱させる際に、電池セルWCに、比較的大きな曲げ応力が負荷されることを抑制することができる。
【0069】
(一対のローラ近接転動工程)
図10(c)に示すように、一対のローラR3,R4を、所定間隔に近接されるまで、フィルム部14に対して転動させながら、X軸方向(矢印XI(4)方向)に移動させる。また、フィルム部14のテンションが所望の値となるように、一対の短辺部12を、Y軸中心に反時計方向(左側の矢印XI(5)方向)及び時計方向(右側の矢印XI(5)方向)にそれぞれ回動させる。この際、一対のローラR3,R4とフィルム部14との当接部が、屈曲起点部BSから近接位置まで、移動するのにつれて、フィルム部14の下面が、電池セルWCの上面から順に剥離され、剥離領域Raが形成される。なお、一対のローラR3,R4とフィルム部14との当接部には、剥離線PL1,PL2がそれぞれ形成されており、フィルム部14は、剥離線PL1,PL2をそれぞれ頂点として、第1の下側屈曲角γ1,δ1を有している。
【0070】
この第1の下側屈曲角γ1,δ1は、下側屈曲起点角γ0,δ0より、小さな値となっている。このように、実際に、電池セルWCからフィルム部14が剥離される角度(例えば、図10の第1の下側屈曲角γ1,δ1参照)を、下側屈曲起点角γ0,δ0より必ず小さな値に設定することができる(γ0>γ1、δ0>δ1)。
【0071】
したがって、仮に、フィルム部14の剥離角度を、比較的大きな値とする場合には、電池セルWCに、比較的大きな曲げ応力が負荷されるため、破損してしまうおそれがあった。しかしながら、本実施形態においては、フィルム部14の剥離角度を、安全側の角度、つまり、下側屈曲起点角γ0,δ0未満に設定することができるため、電池セルWCが、比較的大きな曲げ応力により、破損してしまうことを防ぐことができる。また、本実施形態は、真空シールユニット70において、貼合された電池用電極WPが有する枠体fの全周囲に沿って、連続的にヒートシールが行われているため、第2の離脱ユニット80において、負極WBが第2の搬送治具10Bにくっ付いた状態で、正極WAから剥がれることを抑制することができる。
【0072】
その後、(一対のローラ並設転動工程)、(一対のローラ離隔工程)、及び、(第2の搬送治具離脱工程)と続いて行われ、最終的に、第2の搬送治具10Bを、電池セルWCから離脱させるものであるが、第1の離脱ユニット60で説明した動作を上下反転させたものと同一であるから、説明は省略する。
【0073】
<実施形態のまとめ>
次に、以上説明した実施形態における符号などを援用して、本件発明を構成する発明特定事項を連記する。なお、下記の各符号などは、特許請求の範囲における構成要素を実施形態の記載を援用して説明するに過ぎず、その構成要素を具体的な部材等に限定するものではないことは言うまでもない。
【0074】
「1」 一対の短辺部及び一対の長辺部を有する治具枠部と、前記一対の短辺部間に架設され、一面側に電池用電極を保持する可撓性のフィルム部と、前記短辺部への前記フィルム部の巻回を行い、前記フィルム部のテンションを所望の値に維持するテンション調節部とを有する搬送治具と、
対向配置された転動可能な一対のローラを用いて、前記電池用電極を前記フィルム部から離脱させる離脱装置と、を備え、
前記離脱装置は、前記一対のローラ及び前記搬送治具を垂直方向に相対移動させ、前記一対のローラと前記フィルム部の他面側とを屈曲起点部で当接させ、前記フィルム部が所望の屈曲角を有するように配置した後、前記屈曲起点部により画定される内側領域において、前記一対のローラを、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させることを特徴とする、電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0075】
「2」 垂直方向からみて、前記屈曲起点部を、前記フィルム部に保持された前記電池用電極と重複しない位置にすることを特徴とする「1」に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0076】
「3」 前記離脱装置は、前記内側領域において、前記一対のローラを、平行、かつ、同一水平面内に配置された状態を維持して水平方向に移動させる際に、前記一対のローラを所定間隔に並設させた状態で、前記一対のローラを同期させて水平方向に往復移動させることにより、前記電池用電極の全面から前記フィルム部を離脱することを特徴とする「1」又は「2」に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0077】
「4」 2つの前記搬送治具上に、前記電池用電極をそれぞれ配置する電極配置装置と、
一の前記搬送治具に保持された前記電池用電極にセパレータを貼付けるセパレータ貼付装置と、
一の前記搬送治具を反転させる反転装置と、
他の前記搬送治具に保持された前記電池用電極と、一の前記搬送治具に保持された前記電池用電極とを当接させるとともに、当接させた前記電池用電極のそれぞれを仮止めするために、前記フィルム部が架設される方向に延在する一対の縁部に沿って、離間的に貼合する貼合装置と、
他の前記搬送治具上に貼合された前記電池用電極を、一の前記搬送治具の前記フィルム部から離脱させる前記離脱装置と、をさらに備え、
前記貼合装置において仮止めされた前記一対の縁部に沿って、前記離脱装置における前記一対のローラを水平方向に移動させることを特徴とする「1」から「3」のいずれか一つに記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0078】
「5」 前記搬送治具は、前記フィルム部の巻回をロックするロック部を有し、
前記離脱装置のみにおいて、前記ロック部のロックが解除状態とされることを特徴とする「4」に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0079】
「6」 他の前記搬送治具が真空チャンバの一部を画定し、他の前記搬送治具上に前記貼合された前記電池用電極の全周囲を、真空下においてヒートシールして、電池セルを形成する真空シール装置と、
他の前記搬送治具上に形成された前記電池セルを、他の前記搬送治具の前記フィルム部から離脱させる前記離脱装置を、さらに備えることを特徴とする「4」又は「5」に記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0080】
「7」 前記フィルム部の一面側は、前記電池用電極が保持される領域に、粘着固定のための粘着層、又は、帯電固定のための絶縁体を有することを特徴とする「1」から「6」のいずれか1つに記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0081】
「8」 前記一対のローラは、軸方向の両端に拡径部を有する略円筒形状からなり、
垂直方向からみて、前記一対のローラの前記拡径部が、前記フィルム部に保持された前記電池用電極又は前記電池セルと重複しないように配置されることを特徴とする「1」から「7」のいずれか1つに記載の電池製造におけるローラを用いた搬送治具内フィルム部脱離装置。
【0082】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【0083】
以上に、本発明の実施形態およびその変形例を説明したが、実施形態および変形例における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0084】
100 電池製造システム
10 搬送治具
10A 第1の搬送治具(一の搬送治具)
10B 第2の搬送治具(他の搬送治具)
11 治具枠部
12 短辺部
13 長辺部
14 フィルム部
15 粘着層
20A,20B 電極配置ユニット(電極配置装置)
30 セパレータ貼付ユニット(セパレータ貼付装置)
40 反転ユニット(反転装置)
50 貼合ユニット(貼合装置)
51 アライメントステージ
52 第1の加熱ユニット
60 第1の離脱ユニット(離脱装置)
70 真空シールユニット(真空シール装置)
71 真空ステージ
72 カバーフィルム
73 第2の加熱ユニット
80 第2の離脱ユニット(離脱装置)
81 吸着固定定盤

Aa 接着領域
BS 屈曲起点部
PL1~PL8 剥離線
Ra 剥離領域
Re 再接着領域
S セパレータ
W ワーク(電池用電極)
WA 正極
WB 負極
WC 電池セル
WP 貼合された電池用電極
α0,β0 上側屈曲起点角
α1,β1 第1の上側屈曲角
α2,β2 第2の上側屈曲角
α3,β3 第3の上側屈曲角
α4,β4 第4の上側屈曲角
γ0,δ0 下側屈曲起点角
γ1,δ1 第1の下側屈曲角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10