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特開2024-70742パルプモールド成形品の製造方法、及び、成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070742
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】パルプモールド成形品の製造方法、及び、成形品
(51)【国際特許分類】
   D21J 5/00 20060101AFI20240516BHJP
   D21H 17/67 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
D21J5/00
D21H17/67
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181451
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】597047163
【氏名又は名称】日本モウルド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087778
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 明夫
(72)【発明者】
【氏名】石原 雄大
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG10
4L055AH01
4L055BF06
4L055EA16
4L055FA23
(57)【要約】
【課題】 パルプ泥漿に炭酸カルシウム粉末を混ぜてパルプモールド成形用の原料泥漿として用いる技術に於いて、パルプ繊維への炭酸カルシウム粉末の定着を良好にする。
【解決手段】 パルプ繊維を含む原料泥漿20へ成形型1を浸漬し、成形型面11の背面側からの吸引により前記成形型面11上に原料を堆積させて成形体31と成し、前記成形型1を前記原料泥漿20から引き上げた後、前記成形型面11から前記成形体31を取り外して乾燥させることによりパルプモールド成形品32を得る、パルプモールド成形品の製造方法であって、前記原料泥漿20は、平均粒径が10~20[μm]の範囲で且つ粒径分布が対数正規分布を成すように調整した炭酸カルシウム粉末を、パルプ繊維を含むパルプ泥漿に混合して成る製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維を含む原料泥漿へ成形型を浸漬し、成形型面の背面側からの吸引により前記成形型面上に原料を堆積させて成形体と成し、前記成形型を前記原料泥漿から引き上げた後、前記成形型面から前記成形体を取り外して乾燥させることによりパルプモールド成形品を得る、パルプモールド成形品の製造方法であって、
前記原料泥漿は、平均粒径が10~20[μm]の範囲で且つ粒径分布が対数正規分布を成すように調整した炭酸カルシウム粉末を、パルプ繊維を含むパルプ泥漿に混合して成る、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に於いて、
前記炭酸カルシウム粉末は、平均粒径を算術標準偏差で除算して成る値が1.6以上である、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に於いて、
前記炭酸カルシウム粉末は、少なくとも3.7~35[μm]の粒径範囲が2σ区間に含まれる、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項2に於いて、
前記炭酸カルシウム粉末は、少なくとも3.7~35[μm]の粒径範囲が2σ区間に含まれる、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1に於いて、
前記原料泥漿は、前記成形型を浸漬する浸漬層に供給する直前に、前記炭酸カルシウム粉末を前記パルプ泥漿に混合することにより得られる、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れかの製造方法により製造されたパルプモールド成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料泥漿から成形体を形成する成形工程(例:成形型を原料泥漿に浸漬して成形型面の裏面側から吸引することにより該成形型面を覆っている網上に原料を付着・堆積させて成形する工程)を経てパルプモールド成形品を得る製造方法と、該製造方法により製造されるパルプモールド成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1や2に記載のように、パルプ泥漿に炭酸カルシウム(卵殻粉末等)を混ぜた泥漿をパルプモールド成形用の原料泥漿として用いることが試みられている。
特許文献1:
特開2021-147713号公報(特許文献1)には、
「パルプAと、卵殻、貝殻、及び、貝化石から選択される少なくとも1種の粉状物Bとを含有し、パルプA(乾燥重量)および前記粉状物Bの総量における粉状物Bの含有量が10重量%以上50重量%未満の範囲であるパルプモールド成形体。」
が、開示されている。
上記粉状物Bの粒径について、
「好ましくは10μm以上500μm以下の範囲であり、より好ましくは20μm以上300μm以下である。」
との記載もある。
また、
「意匠性を高めるためには、粒径500μm超の粉状物Bを加えてもよい。」
との記載もある。
【0003】
特許文献2~5:
特許第6829451号(特許文献2)には、
「繊維状物質を成形してパルプモールドを生成するパルプモールドの製造方法であって、繊維状物質及び卵殻粉末を混合して成形原料を生成する混合工程と、前記成形原料を所望形状に成形する成形工程とを備え、前記成形原料において、前記繊維状物質と前記卵殻粉末の総重量に対する該卵殻粉末の重量含有比率が10%以上であり、更に、卵殻から卵殻膜を分離して卵殻粉末を生成する卵殻膜分離工程を備え、前記卵殻粉末は、900℃以上の焼成が行われていない状態のものを含み、前記卵殻膜分離工程では、前記卵殻を粉砕し、かつ、前記卵殻と前記卵殻膜との比重差を利用して前記卵殻膜を分離して前記卵殻粉末を生成することを特徴とする、パルプモールドの製造方法。」
が、開示されている。
上記卵殻粉末の粒径について、
「微粉砕行程では、卵殻膜が分離された卵殻のみをミルを用いて微粉砕する。粉砕する粒径は、例えば、体積平均粒形として300μm以下が好ましく、更に100μm以下が好ましく、70μm以下が望ましい。一方、粉砕後の凝集作用を低減するためには、体積平均粒形として5μm以上にすることが好ましく、望ましくは10μm以上、更に望ましくは20μm以上とする。」
との記載もある。
特許文献2の分割元(直接又は間接の分割元)出願/特許である特開2020-180402号公報(特許文献3)、特許第6667841号(特許文献4)、特許第6747686号(特許文献5)にも同様の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-147713号公報
【特許文献2】特許第6829451号
【特許文献3】特開2020-180402号公報
【特許文献4】特許第6667841号
【特許文献5】特許第6747686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルプモールド成形では、古紙等のパルプ繊維を水と攪拌して得られるパルプ泥漿を成形工程(例:成形型を原料泥漿に浸漬して成形型面の裏面側から吸引することにより該成形型面を覆っている網上に原料を付着・堆積させて成形する工程)に供給して成形体を形成し、該成形体からパルプモールド成形品を得ている。
【0006】
特許文献1や2のように、パルプ泥漿に炭酸カルシウム(例:卵殻粉末)を混ぜてパルプモールド成形用の原料泥漿として用いる場合、パルプ繊維に炭酸カルシウムを良好に定着させる必要がある。定着が不良であると、例えば、残余の炭酸カルシウムが、原料泥漿供給ラインの各段階や成形工程の槽底に沈殿して、動作不良等の種々の不具合の原因となるためである。
しかしながら、特許文献1や2には、定着を良好に行う技術について、記載が無い。
本願は、パルプ泥漿に炭酸カルシウム(例:卵殻粉末)を混ぜてパルプモールド成形用の原料泥漿として用いる技術に於いて、パルプ繊維への炭酸カルシウム(例:卵殻粉末)の定着を良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構成を、下記[1]~[6]に記す。なお、この項([課題を解決するための手段])と次項([発明の効果])に於いて、符号は理解を容易にするために付したものであり、本発明を符号の構成に限定する趣旨ではない。
【0008】
[1]発明1
パルプ繊維を含む原料泥漿20へ成形型1を浸漬し、成形型面11の背面側からの吸引により前記成形型面11上に原料を堆積させて成形体31と成し、前記成形型1を前記原料泥漿20から引き上げた後、前記成形型面11から前記成形体31を取り外して乾燥させることによりパルプモールド成形品32を得る、パルプモールド成形品の製造方法であって、
前記原料泥漿20は、平均粒径が10~20[μm]の範囲で且つ粒径分布が対数正規分布を成すように調整した炭酸カルシウム粉末を、パルプ繊維を含むパルプ泥漿に混合して成る、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
炭酸カルシウム粉末としては、工業的に製造されたものの他、卵殻、貝殻、貝化石等を例示することができる。
[2]発明2
発明1に於いて、
前記炭酸カルシウム粉末は、平均粒径を算術標準偏差で除算して成る値が1.6以上である、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
この値は、後述の実施例1では「1.94」、実施例2では「1.72」である。
[3]発明3
発明1に於いて、
前記炭酸カルシウム粉末は、少なくとも3.7~35[μm]の粒径範囲が2σ区間に含まれる、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
2σ(σは標準偏差)区間とは、-2σ~+2σの区間である。後述の実施例1(試料A)では、端からの頻度の和が「2.5%」を越えないNo.24~No.42は、確実に含まれる。また、実施例2(試料B)では、端からの頻度の和が「2.5%」を越えないNo.27~No44は、確実に含まれる。
[4]発明4
発明2に於いて、
前記炭酸カルシウム粉末は、少なくとも3.7~35[μm]の粒径範囲が2σ区間に含まれる、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
[5]発明5
発明1に於いて、
前記原料泥漿20は、前記成形型1を浸漬する浸漬層2に供給する直前に、前記炭酸カルシウム粉末を前記パルプ泥漿に混合することにより得られる、
ことを特徴とするパルプモールド成形品の製造方法。
[6]発明6
発明1~発明5の何れかの製造方法により製造されたパルプモールド成形品。
【発明の効果】
【0009】
発明1は、パルプ繊維を含む原料泥漿20へ成形型1を浸漬し、成形型面11の背面側からの吸引により前記成形型面11上に原料を堆積させて成形体31と成し、前記成形型1を前記原料泥漿20から引き上げた後、前記成形型面11から前記成形体31を取り外して乾燥させることによりパルプモールド成形品32を得る、パルプモールド成形品の製造方法であって、前記原料泥漿20は、平均粒径が10~20[μm]の範囲で且つ粒径分布が対数正規分布を成すように調整した炭酸カルシウム粉末を、パルプ繊維を含むパルプ泥漿に混合して成る製造方法であるため、パルプ泥漿に炭酸カルシウム粉末を混ぜてパルプモールド成形用の原料泥漿として用いる製造技術に於いて、パルプ繊維への炭酸カルシウム粉末の定着を良好にすることができる。
発明2~発明4は、上記発明1の作用効果を得る炭酸カルシウム粉末を更に的確に規定することができる。
発明5は、原料泥漿供給ラインの複数の段階の各槽底への炭酸カルシウム粉末の沈殿を、確実に防止できる効果がある。
発明6は、上記効果を奏して成形されるパルプモールド成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、2、比較例1、参考例1、2、及び、特許文献1~5の製造に於いて、パルプ泥漿に混合する炭酸カルシウム粉末の粒径等を示す一覧図。実施例1、2、比較例1、参考例1、2については、定着評価も併せて示す。
図2】実施例1の炭酸カルシウム粉末の粒子径のヒストグラム(横軸は対数目盛)及び試験条件等を示す説明図。
図3】実施例2の炭酸カルシウム粉末の粒子径のヒストグラム(横軸は対数目盛)及び試験条件等を示す説明図。
図4】比較例1の炭酸カルシウム粉末の粒子径のヒストグラム(横軸は対数目盛)及び試験条件等を示す説明図。
図5】参考例1の炭酸カルシウム粉末の粒子径のヒストグラム(横軸は対数目盛)及び試験条件等を示す説明図。
図6】参考例2の炭酸カルシウム粉末の粒子径のヒストグラム(横軸は対数目盛)及び試験条件等を示す説明図。
図7】実施例1の炭酸カルシウム粉末の粒子径及び頻度のデータ一覧。及び、粒子径と頻度から算出した平均粒径や算術標準偏差等の各データの一覧図。
図8】実施例2の炭酸カルシウム粉末の粒子径及び頻度のデータ一覧。及び、粒子径と頻度から算出した平均粒径や算術標準偏差等の各データの一覧図。
図9】比較例1の炭酸カルシウム粉末の粒子径及び頻度のデータの一覧図。
図10】参考例1、2の炭酸カルシウム粉末の粒子径及び頻度の各データの一覧図。
図11】実施の形態のパルプモールド製造システムの構成を示す説明図。
図12】パルプモールド成形品の一例の斜視図。
図13】150倍・顕微鏡写真(炭酸カルシウムの混合無し)
図14】150倍・顕微鏡写真(炭酸カルシウムの混合有り)
図15】600倍・顕微鏡写真(炭酸カルシウムの混合無し)
図16】600倍・顕微鏡写真(炭酸カルシウムの混合有り)
【発明を実施するための形態】
【0011】
パルプモールド成形:
まず、図11を参照して、パルプモールド成形を説明する。
図示のパルプモールド製造装置は、いわゆる回転型の装置である。即ち、成形型1を支持する支持部材を、回転可能に設けた断面正六角形の筒状体5によって構成した装置である。筒状体5の軸芯には回転軸51が設けられており、筒状体5を、回転(図11で時計回りの回転)可能に支持している。また、筒状体5の周面である6個の各支持平面(支持部)上にはそれぞれ成形型1が取り付けられており、各成形型1の成形型面11はそれぞれ金網(不図示)で被覆されている。
なお、成形型1としては、目的とする製品(パルプモールド成形品)に応じた適宜の成形型が支持部材上にセットされる。例えば、図12に示す鶏卵容器はパルプモールド成形により製造される成形品の一例であり、かかる成形品を製造する場合、図示の成形品の凹凸に対応する凸凹を成す成形型がセットされる。
【0012】
筒状体5の回転に伴い、成形型1は、原料泥漿槽2内に満たされている原料泥漿20内へ没する。或る成形型1が原料泥漿20内に沈んでいるとき、当該成形型1の成形型面11に開口する多数の細管(不図示)を介して負圧による吸引が行われる。これにより、原料泥漿(水にパルプ繊維や炭酸カルシウム(卵殻粉末等)を混合・攪拌して成る泥漿)20中の原料(炭酸カルシウムが定着したパルプ繊維)が、当該成形型1の成形面11上の網に付着・堆積して、成形体31が形成される。原料泥漿中の水は、不図示の配管を経て排出される。
【0013】
原料泥漿20は、新聞,雑誌,ダンボール,牛乳パック等の古紙と、水とを、混合・攪拌して成るパルプ泥漿に、炭酸カルシウム(卵殻粉末等)を定着剤とともに混合・攪拌して成る。このパルプ泥漿と、炭酸カルシウム・定着剤との混合・攪拌は、本実施の形態では、原料泥漿槽2の直前に設けられた混合槽25にて行われており、該混合槽25にて混合・攪拌された原料泥漿20が、原料泥漿槽2へ定常的に供給されている。
【0014】
混合槽25には、その前段側に設けられた複数の混合槽(不図示)を経て混合・攪拌されたパルプ泥漿(水+古紙等のパルプ繊維の泥漿)が、常時、供給されている。
また、混合槽25には、卵殻粉末調整部23にて粒径を調整された卵殻粉末(炭酸カルシウムの一例)が供給されているとともに、定着剤調整部24から2種類の定着剤(カチオン性スチレン系樹脂水溶液,ポリアクリルアミド部分加水分解物の水溶液)が供給されている。
このように、原料泥漿槽2の直前に設けられた混合槽25にてパルプ泥漿と炭酸カルシウム(卵殻粉末等)と定着剤とが混合・攪拌されて供給されるため、原料泥漿槽2での炭酸カルシウムの沈殿が抑制され、適量の炭酸カルシウムがパルプ繊維内に良好に定着された状態で成形体31が形成される。
【0015】
筒状体5の回転に伴い、次に、成形型1は、原料泥漿20から引き上げられる。成形型1が引き上げられる直ぐ上の位置には、シャワーノズル41が設けられており、該シャワーノズル41から噴射される水で、成形体31の表面が洗浄される。
こうして表面を洗浄された成形体31は、筒状体5の回転に伴い、次に、受け装置7の受け型71に対向されて、該受け型71に渡される。このとき、成形型面11側では吐出が行われ、受け型71側では吸引が行われる。
【0016】
受け装置7に渡された成形体31(パルプモールド成形品32)は、次に、搬送装置8へ移載され、後段の乾燥装置(不図示)へ送られる。こうして、パルプモールド成形品32が製造される。
なお、成形体31を受け型71へ渡した後、成形型1は、再び、原料泥漿槽2内の原料泥漿20へ浸漬される。この浸漬に先立ち、成形型面11及びその表面に被覆された不図示の網は、シャワーノズル45によって洗浄される。
【0017】
上記では断面が正六角形を成す回転型の支持部材(筒状体5)を有する装置に即して説明したが、断面正六角形以外の多角形の支持部材を有する回転型の装置や、公知の上下動型の支持部材を有する装置の場合も、同様に、パルプ泥漿に、粒径を調整された炭酸カルシウム粉末(卵殻粉末等)及び定着剤を混合・攪拌して成る原料泥漿を用いることができる。
また、上記では、成形型1の成形型面11上に原料泥漿を吸引して付着・堆積させて成形体31を形成する例を述べたが、成形型内に原料泥漿を入れて圧縮して成形体を形成する場合も、同様に、パルプ泥漿に、粒径を調整された炭酸カルシウム粉末(卵殻粉末等)及び定着剤を混合・攪拌して成る原料泥漿を用いることができる。
【0018】
次に、図1図10を参照して、炭酸カルシウム粉末の粒径と定着について説明する。
各々炭酸カルシウム粉末の粒径分布や分布範囲が異なる実施例1、2、比較例1、参考例1、2の試料を用いて、それぞれ、原料泥漿の定着状況を試験した。
評価結果等を図1に示す。
試験は、
(1)ダンボール8[g] 、炭酸カルシウム粉末2[g] を、ミキサー1/3の水で30[sec] 攪拌。
(2)ミキサーの水を1/3継ぎ足し、10[sec] 攪拌。
(3)0.3[g] のセラフィックスST(明成化学工業株式会社製・カチオン性スチレン系樹脂水溶液)をミキサーにいれて10[sec] 攪拌。
(4)0.3[g] のファイレックスM(明成化学工業株式会社製・ポリアクリルアミド部分加水分解物の水溶液)をミキサーにいれて10[sec] 攪拌。
(5)ミキサーの水を更に1/3継ぎ足し、10[sec] 攪拌。
(6)分離の状態になるまで、しばらく放置。
(7)成形型1の成形型面11を覆う金網(不図示)と同じメッシュサイズの金網越しに吸引。溜まった濾過水をビーカーへ移す。
(8)ビーカーの底に溜まった粒子を確認。
という手順で行った。
定着が良好であればパルプ繊維に炭酸カルシウム粉末が入り込んで付着するため、ビーカーの底に溜まった粒子(残余の炭酸カルシウム粉末が多いほど、定着不良である。
【0019】
実施例1、2、比較例1、参考例1、2の炭酸カルシウム粉末の粒径分布を、それぞれ、図2図6に示す。
実施例1(図2):
粒径分布が対数正規分布を成し、平均粒径が14[μm]付近で、No.24~42の範囲が確実に2σ(95%)に含まれる実施例1は、試験試料の中で最良の定着状況を呈した。この顕微鏡写真を、図14(150倍)、図16(600倍)に示す。図示のように、炭酸カルシウム粉末が、パルプ繊維(古紙原料)に良好に定着している。なお、図13(150倍)、図15(600倍)は、比較のために、炭酸カルシウム粉末を混合しないパルプ繊維のみの原料泥漿を示したものである。
実施例2~参考例2(図3図6):
粒径分布が対数正規分布を成し、平均粒径が16[μm]付近で、No.27~44の範囲が確実に2σ(95%)に含まれる実施例2も、良好な定着状況を呈した。
粒径分布が対数正規分布を成さずに左方へ拡がり、平均粒径が8~9[μm]付近の比較例1は、定着可能ではあったが、良好とは言えなかった。
粒径分布が対数正規分布を成さないばかりでなく、ピークが2箇所有り、平均粒径が37~41[μm]付近の参考例1は、定着状況が悪かった。
粒径分布が対数正規分布を成さないばかりでなく、ピークが2箇所有り、平均粒径が16~19[μm]付近の参考例2は、試験試料の中で最悪の定着状況だった。
【0020】
試験機関からヒストグラムとともに返されたデータ(粒子径,頻度)を用いて、実施例1、2、比較例1、参考例1、2の各平均粒径と各標準偏差をそれぞれ求めた。その結果を、図1内の各上段に示す。図7図10は試験機関からヒストグラムとともに返されたデータ(粒子径,頻度)を示し、その中の図7図8は実施例1、2の平均粒径と標準偏差の算出過程を併せて示す。
これらの値(演算した平均粒径と標準偏差)を、試験機関からヒストグラムの右肩部分付近に添付して返された平均粒径と算術標準偏差と比較すると、それぞれ若干の差異があった。この差異は、演算途中での切り捨て/切り上げ/四捨五入の差異に起因すると推定される。試験機関から返された平均粒径と算術標準偏差を、図1内の各下段に示す。
【0021】
実施例1、2、比較例1、参考例1、2の各々について、平均粒径μを標準偏差σで除算した値、「μ/σ」を、それぞれ求めた。その結果を図1に示す。
図示のように、試験機関からヒストグラムとともに返されたデータ(粒子径,頻度)を用いて演算した平均粒径μと標準偏差σを用いる場合(図内の各上段)と、試験機関からヒストグラムに添付して返されたデータ平均粒径μと標準偏差σを用いる場合(図内の各下段)とで、「μ/σ」の値は同一である。
【0022】
μ/σ:
図1から、「μ/σ>1.50」の範囲(実施例1、2、比較例1が該当する)であれば、定着可能と考えられる。
また、「μ/σ>1.60」の範囲(実施例1、2が該当する)であれば、定着良好と認められる。
【0023】
実施例2-参考例2:
実施例2と参考例2を比較すると、実施例2の平均粒径が15~17[μm]程度であるのに対して、参考例2の平均粒径は16~19[μm]程度であり、両者の平均粒径は略同等である。それにもかかわらず、定着状況は、実施例2が「定着良好」であるのに対して、参考例2は「定着最悪」であり、両者は全く異なる。
その原因は、両者のヒストグラムの差異にあると考えられる。前述のように、実施例2が比較的急峻で綺麗な対数正規分布を成すのに対して、参考例2は緩やかで且つピークの左方に膨らみを有しており対数正規分布は成していない。この差異が、両者の定着状況の差異を生ぜしめていると考えられる。
【0024】
実施例2-比較例1:
実施例2と比較例1の定着状況の差異は相対的に小さいが、実施例2の方が比較例1よりも良好である。その原因は、ヒストグラムの形状(実施例2が急峻で綺麗な対数正規分布、比較例1がピークの左方へ拡がる対数正規分布とは言えない形状)の差異、平均粒径の差異にあると考えられる。
【0025】
対数正規分布:
卵殻粉末の(1)粒径分布が対数正規分布を成し、(2)平均粒径が所望の値となるように調整するためには、厳密な調整が必要となる。
例えば、上記(1)の必須要件の一つとして「粒径分布に複数のピークが現れることを防止する」ことが挙げられるが、そのためには、「炭酸カルシウムとして卵殻を用いる場合であれば、卵殻を破砕する機械を運転途中で停止させない」ことが、少なくとも必要となる。
また、上記(2)を満たすためには、卵殻(炭酸カルシウムとして卵殻を用いる場合)を破砕する当該の機械に、そのためのパラメータを適切に設定する必要がある。
したがって、上記(1)と(2)を満たすためには、卵殻(炭酸カルシウムとして卵殻を用いる場合)を破砕する機械に適した複数のパラメータを、試行錯誤等によって予め機械毎に求めておく必要がある。
【0026】
このような事情があるため、炭酸カルシウム粉末を提供する業者に、例えば、平均粒径を指定して注文すると、一般に、平均粒径は略指定した数値ではあるが、分布が対数正規分布ではない炭酸カルシウム粉末が提供される。また、粒径範囲を指定して注文すると、粒径範囲は略指定した数値範囲ではあるが、分布が対数正規分布ではない炭酸カルシウム粉末が提供される。
比較例1は粒径範囲を指定して注文した場合、参考例1、2は平均粒径を指定して注文した場合である。何れも、分布は対数正規分布ではない。
【0027】
図1内に示すように、特許文献1では粒径の好ましい範囲やより好ましい範囲は示されているが、平均粒径は示されてなく、対数正規分布についての示唆も無い。また、特許文献2~5では平均粒径の好ましい範囲、更に好ましい範囲、望ましい範囲は示されているが、対数正規分布についての言及は無く、示唆も無い。したがって、特許文献1、2~5のように業者に注文したとしても、所望の分布を成す炭酸カルシウム粉末を得ることはできない。
【符号の説明】
【0028】
1 成形型
11 成形型面12 連通細管2 原料泥漿槽
20 原料泥漿
23 卵殻粉末調整部
24 定着剤調整部
25 混合部
31 成形体
32 パルプモールド成形品401 給水装置41 シャワーノズル(成形体洗浄用)
42 シャワーノズル
45 シャワーノズル
5 筒状体
51 回転軸
7 受け装置
71 受け型
8 搬送装置
図1
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