(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070748
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】非ゲノム配列抗ウイルス用オリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240516BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240516BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240516BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240516BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240516BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20240516BHJP
C07H 21/02 20060101ALI20240516BHJP
C07K 14/08 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
A61K31/7088 ZNA
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/12
C07H21/04
C07H21/02
C07K14/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181458
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】722013209
【氏名又は名称】久下 周佐
(72)【発明者】
【氏名】久下 周佐
(72)【発明者】
【氏名】関根 僚也
(72)【発明者】
【氏名】色川 隼人
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057MM02
4C057MM04
4C057MM09
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4H045AA30
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】複数種のRNAウイルスの感染細胞に働き抗ウイルス効果を示し、また、耐性ウイルスが出現しにくい抗ウイルス用オリゴヌクレオチドおよびその薬理学的組成物を提供する。
【解決手段】RNAゲノムを持つウイルスのゲノムRNAとヌクレオキャプシドタンパク質の結合を阻害するゲノム配列に存在しないオリゴヌクレオチドであって、ウイルス粒子及び/あるいはウイルス感染細胞においてウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス用オリゴヌクレオチドおよびその薬学的組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスのゲノムRNA中に少なくとも6塩基連続して存在しない配列を含む6~19ヌクレオチド長であって、ウイルスのヌクレオカプシド(N)タンパク質とRNAの結合を抑制する活性を有するオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
ウイルスのゲノムRNA中に少なくとも6塩基連続して存在しない配列を含む6~19ヌクレオチド長であって、ウイルスの増殖を抑制するオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
ウイルスのNタンパク質とRNAの結合を抑制する活性を有するオリゴヌクレオチドであって、グアニンヌクレオチドが少なくとも6つ連続した配列を含む6~19ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
ウイルス及び/又はウイルス感染細胞に接触させた場合にウイルスの増殖を抑制する活性を有する抗ウイルス用オリゴヌクレオチドであって、グアニンヌクレオチドが少なくとも6つ連続した配列を含む6~19ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1~4に記載されたオリゴヌクレオチドでグアニンヌクレオチドが12個または12を超える数が連続したオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1~5に記載されたオリゴヌクレオチドの一部又は全てがリボヌクレオチドであるオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1~5に記載されたオリゴヌクレオチドの一部又は全てがデオキシリボヌクレオチドであるオリゴヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1~7に記載されたオリゴヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の一部又は全てがホスホロチオエート化されたオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1~8に記載されたオリゴヌクレオチドの一部又は全てのリボース部分への2′‐Oメチル、2′‐O(2‐メトキシエチル)、2′‐フルオロ化のいずれかあるいは組み合わせた修飾を含むオリゴヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1~9に記載されたオリゴヌクレオチドの、一部又は全ての塩基に修飾を加えたオリゴヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1~10に記載されたオリゴヌクレオチドの、一部又は全がペプチド核酸であるオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
ウイルスの増殖を抑制する目的で使用する、請求項1~11に記載された抗ウイルス用オリゴヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12のウイルスが、リボヌクレオチドゲノムをもつウイルスである、請求項12に記載の抗ウイルス用オリゴヌクレオチド。
【請求項14】
請求項12のウイルスがコロナウイルス又はインフルエンザウイルスである、請求項12に記載の抗ウイルス用オリゴヌクレオチド。
【請求項15】
ウイルス感染症の予防又は治療のための、請求項1~14に記載された抗ウイルス用オリゴヌクレオチド薬学的組成物。
【請求項16】
請求項15のウイルス感染症が、リボヌクレオチドゲノムをもつウイルスによる感染症である、請求項15に記載の抗ウイルス用オリゴヌクレオチド薬学的組成物。
【請求項17】
請求項15のウイルス感染症がコロナウイルス感染症又はインフルエンザウイルス感染症である、請求項15に記載の抗ウイルス用オリゴヌクレオチド薬学的組成物。
【請求項18】
治療上有効量の請求項1~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの薬理学的に許容される抗ウイルス用オリゴヌクレオチド、及び薬学的に許容されるキャリアを含む抗ウイルス用薬学的組成物。
【請求項19】
ウイルスに病因のある疾患の治療、抑制又は予防に適合される、請求項18に記載の抗ウイルス用薬学的組成物。
【請求項20】
眼内注射、経口摂取、経腸、経鼻、吸入、皮膚注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、くも膜下注入、気管内注入及び静脈内注射から成る群より選択される方式による送達に適合される、請求項18~19に記載の抗ウイルス用薬学的組成物。
【請求項21】
少なくとも1つのそのほかの抗ウイルス用薬学的組成物を組み合わせた、請求項18~20に記載の抗ウイルス用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス及び/又はウイルス感染細胞に作用しウイルスの増殖を阻害する抗ウイルス用オリゴヌクレオチド、並びにヒト及び動物のウイルスにより起きるウイルス感染、および病因がウイルスに基づくその他の疾患における治療剤としての該抗ウイルス用オリゴヌクレオチドとその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の議論は、単に読者の理解を助けるために提供されるのであって、議論された情報又は引用された文献のいかなるものも本発明の先行技術を構成することを容認するものではない。
【0003】
有史以来世界の人々を苦しめてきた痘瘡の根絶が1977年に宣言され、「ウイルス感染症は克服できるもの」と認識された時期があった。しかし、エボラウイルス病、新型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症など新たな感染症が次々見いだされ人類を苦しめている。ヒトに病気を起こす新たな感染症の多くは自然界の動物より派生する人獣共通感染症である。
【0004】
インフルエンザA型ウイルスは、8本の分節に分かれたゲノムをもち、ヒト、ブタ、トリに感染する。複数の異なった型のインフルエンザAウイルスがブタの気道上皮細胞に同時感染したときに、分節ゲノムの組み換えを起こす。さらに変異を繰り返す過程で、ヒトに感染しさらにヒトからヒトへの感染が成立した場合に、人類がこれまで経験したことがない(免疫を持たない)新型インフルエンザウイルスの発生とその感染拡大につながると考えられている。
【0005】
コロナウイルスは多くの動物に固有のウイルスが存在する。ヒトコロナウイルス(HCoV)としてはHCoV-229E、HCoV‐OC43、HCoV‐NL63、HCoV‐HKU1が存在し通常の風邪の10~15%(流行期35%)の原因となる。これら風邪のコロナウイルスに加えて、重症肺炎を起こす重症急性呼吸器症候群(SARS)を起こすSARSコロナウイルス(2002年)、中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるMERSコロナウイルス(2012年)、新型コロナウイルス(SARSコロナウイルス2型、2019年)が発生した。SARSのり患者は8096人で9.7%の致死率と高いが1年足らずで収束した。一方MERSは22500名以上のり患者で致死率は35%と高く感染は継続している。新型コロナウイルス感染症は発生後4年が経過し約6億3千万人以上がり患し660万人が犠牲になっており、この新感染症が医療の混乱をはじめ感染対策による社会経済活動の停滞と混乱の原因となっている。これらのコロナウイルスのほとんどは、もともとはコウモリが持つコロナウイルスに由来し、ヒトに感染するようになったと考えられている(非特許文献1)。
【0006】
これらの状況から考えて、今後も新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの新感染症の発生を防ぐのは難しく、発生時に対応するための有効な予防法および治療法の開発が求められる。
【0007】
これまでに人類が唯一根絶に成功した感染症は痘瘡である。痘瘡は痘瘡ウイルスの接触、飛沫感染により起こる。感染者を早期に発見して隔離治療をするとともに、広くワクチン接種(種痘)を施したことによる。自然界で痘瘡ウイルスにり患する動物はヒトのみで、痘瘡にり患すると症状が現れること、痘瘡ワクチン接種による感染防御の有効性は高いことが理由で1980年に根絶することに成功した。
【0008】
一方で新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は、自然界のヒト以外の動物よりその派生する人獣共通感染症ためにその発生を防ぐことは難しい。また、これらの感染症は感染しても症状が出ない場合や発症前の数日の期間(潜伏期)の人の移動が感染拡大の要因となっている。
【0009】
新型コロナウイルス感染症の発生で実用化されたmRNAワクチンは感染予防効果、重症化を防ぐ効果を示してその有効性が認められている(非特許文献2)。しかし、新型コロナウイルスに対する感染予防効果を示す免疫は数カ月で減弱する。さらにウイルスのゲノムの変異が積み重なり、抗原性を担うSタンパク質の抗原性が変化し人の免疫から逃れた変異株が発生し、それによる度重なる流行を繰り返した(非特許文献3)。そのため、感染症の流行の抑制には有効なワクチンと共に抗ウイルス薬の実用化が好ましい。
【0010】
新型インフルエンザではないインフルエンザ、いわゆる季節性インフルエンザは毎年流行を繰り返し、世界で毎年3~5約万人がり患し29~65万人が呼吸器死すると見積もられている感染症である(非特許文献4)。地球上のどこかで流行し、変異を繰り返すことで抗原性を変えながら流行地を変えていく。したがって年ごとに流行する可能性のある抗原型を予測して、それに合わせたワクチンを用意するという計画的な施策がなされている。また、ワクチンの有効性も数か月で減弱することからその予防には毎年の接種が求められる。
【0011】
インフルエンザ、新型インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐためには、ワクチン接種による予防に加えて、感染時にウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬が有効である。
【0012】
抗ウイルス薬はウイルスタンパク質の構造に特異的に作用してその活性を阻害する。これまでに、ウイルスの増殖に機能する数種類のタンパク質をターゲットに、それぞれ特異的な数種類の抗ウイルス薬が開発されているが、これらウイルスタンパク質はウイルスごとに異なった立体構造を持つことから、対象となるウイルスタンパク質ごとに開発することが望ましい。
【0013】
ウイルスタンパク質に特異的に作用する化合物は、ウイルスの変異によるウイルスタンパク質の構造変化でその有効性が低下することがある(非特許文献5)。ウイルスの感染拡大に伴って、そのウイルスに有効な特定の抗ウイルス薬が多用されると、ウイルスゲノムの変異によりその抗ウイルス薬の結合部位が変化して耐性化することがある。
【0014】
これまでに、耐性ウイルスが広がりその使用ができなくなった抗インフルエンザ薬が知られている。インフルエンザA型ウイルスが細胞に侵入しウイルス粒子からゲノムRNAを細胞内に放出する「脱殻」の段階を阻害するアマンタジンが使用されたが、アマンタジン耐性化ウイルスの拡大により使用ができなくなっている。また、ウイルスの出芽に機能するノイラミニダーゼを阻害するタミフルに対する耐性ウイルスも出現し拡大した(非特許文献6)。さらにmRNA合成の段階を阻害する新規抗インフルエンザ薬のゾフルーザの耐性ウイルスの出現も指摘されている(非特許文献7)。
【0015】
抗インフルエンザ薬でヌクレオキャプシドタンパク質(NP)に結合してその機能を阻害するNucleozinが開発された(非特許文献8)。これはゲノムRNAとNPが結合して形成されるvRNPの形成阻害やvRNP細胞内輸送を阻害しウイルスの増殖を阻害する。一方、NPのY289H変異はNucleozinに抵抗性を示す(非特許文献9)。
【0016】
以上のように、ウイルスは感染拡大に伴い感染宿主の免疫や使用された抗ウイルス薬から逃れる変異を繰り返し流行するため、当該抗ウイルス薬に抵抗性を獲得したウイルスが感染拡大する傾向がある。また、新たな感染症に備えるため広いウイルス種およびウイルスの変異に抵抗性がある抗ウイルス薬を創出することが好ましい。
【0017】
核酸医薬としてアンチセンス核酸(ASO)はターゲットRNAに相補的なおよそ21ヌクレオチド長の配列である。このASOが細胞内で相補的なmRNAとハイブリダイズして細胞内の酵素によりそのmRNAの分解を促し遺伝子発現を抑制する。
【0018】
ASO医薬としてRSウイルス感染症の治療を目的に開発されたALN-RSV01はRSウイルス感染を抑制し(非特許文献10、11)、経鼻投与による臨床試験も良好な結果が得られている(非特許文献12)。ASOの効果は配列特異性があるためウイルスごとに配列を選択することが望ましい。さらに、ウイルスが変異しにくい配列を選択するなど、ウイルスの変異によるASOの効果の減弱を防ぐことが望まれる。
【0019】
特許第5514179号においては、配列番号23(REP 2055)は AおよびCが20回繰り返した40塩基長でありそのすべての連結がホスホロチオエート化したヌクレオチドポリマーが抗ウイルスオリゴヌクレオチドとしてB型肝炎ウイルス(HBV)の増殖を抑制することが示された。REP2139はREP 2155に5′メチルシトシン及び2′O-メチルリボースの修飾を加えたヌクレオチドポリマーであるが、これはHBV感染細胞内のウイルス複製(HBV DNA、RNAの合成)及びHBVの細胞からの放出は阻害しないが、HBs抗原の放出を阻害することが明らかとなった。特許第5796024号では少なくとも1つの完全にホスホロチオエート化された20及び120ヌクレオチド長の抗ウイルス性ヌクレオチドポリマーが、インフルエンザウイルスおよびコロナウイルスを含む各種ウイルスに対して抗ウイルス性を示す。前述したHBVの結果から、これらのヌクレオチドポリマーは細胞外でウイルスの放出を阻害する効果があると予想される。
【0020】
抗ウイルス効果を高めるため細胞内に導入され、明確な機構でウイルスの複製を阻害し、しかもウイルスの変異に抵抗性である薬剤が望ましい。
【0021】
特許第2818031号(1999, 米国特許第5,952,490号)においては、Gカルテット形成を起こすコンセンサス配列を持つ8~27塩基長のオリゴヌクレオチド配列がヒト免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス及びインフルエンザウイルスに抗ウイルス活性を示すことが示された。この配列はグアニン塩基のみで形成されたものでなく、3塩基あるいは4塩基の連続したグアニン塩基を多くの場合はグアニン塩基以外の1塩基以上のスペーサーを持つ構造を基本とし、請求項の配列番号 8、10および34が連続した5つのグアニンを持つが6つ以上連続した配列は含まれていない。
【0022】
Gカルテット構造は4つのグアニン塩基(G)の中心に向いた酸素分子が1価の陽イオンを中心に水素結合により平面構造を形成したものである。核酸塩基配列上に4つのGGGが、ループと呼ばれる1~7塩基長をはさみ存在するときに、それぞれのG塩基により形成される3つのGカルテット構造によりG‐quadruplexと呼ばれる4重鎖構造を形成する(非特許文献13)。この構造はDNAにもRNAにも存在し、DNAにはテロメアやプロモーター領域に存在し特異的結合タンパク質との相互作用がそれらの機能制御に寄与している。また、mRNAの非翻訳領域やmiRNAなどの種々の低分子RNAに存在し結合タンパク質の影響によりその機能に影響を与える(非特許文献14)。G‐quadruplexのコンセンサス配列は5′‐G3-5N1-7G3-5N1-7G3-5N1-7G3-5N1-7-3‘ (NはA,C,G,TあるいはU)で構成される(非特許文献15、16)。
【0023】
アプタマーAS1411はグアニンヌクレオチドに富む26塩基のデオキシオリゴヌクレオチドはG‐quadruplexを形成し、がん細胞特異的に細胞内のnucleolinに結合し急性骨髄性白血病の増殖を抑制する(非特許文献17)。
【0024】
一方、試験管内でG‐quadruplexを形成するグアニンヌクレオチドリッチなデオキシオリゴヌクレオチドを細胞外から処理した場合の細胞増殖抑制作用は、G‐quadruplexの形成に相関がなく、デオキシグアノシン1リン酸やグアニンなどのデオキシオリゴヌクレオチドの分解産物に起因することが示唆されておおり(非特許文献18)、その作用点や作用機序が不明瞭である可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特許第2818031号
【特許文献2】特許第5514179号
【特許文献3】特許第5796024号
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Cui, J., F. Li, and Z.L. Shi, Origin and evolution of pathogenic coronaviruses. Nat Rev Microbiol, 2019. 17(3): p. 181-192.
【非特許文献2】Zeng, B., et al., Effectiveness of COVID-19 vaccines against SARS-CoV-2 variants of concern: a systematic review and meta-analysis. BMC Med, 2022. 20(1): p. 200.
【非特許文献3】Araf, Y., et al., Omicron variant of SARS-CoV-2: Genomics, transmissibility, and responses to current COVID-19 vaccines. J Med Virol, 2022. 94(5): p. 1825-1832.
【非特許文献4】Iuliano, A.D., et al., Estimates of global seasonal influenza-associated respiratory mortality: a modelling study. Lancet, 2018. 391(10127): p. 1285-1300.
【非特許文献5】Hampton, T., New Flu Antiviral Candidate May Thwart Drug Resistance. JAMA, 2020. 323(1): p. 17.
【非特許文献6】Hussain, M., et al., Drug resistance in influenza A virus: the epidemiology and management. Infect Drug Resist, 2017. 10: p. 121-134.
【非特許文献7】Imai, M., et al., Influenza A variants with reduced susceptibility to baloxavir isolated from Japanese patients are fit and transmit through respiratory droplets. Nat Microbiol, 2020. 5(1): p. 27-33.
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【非特許文献14】Dumas, L., et al., G-Quadruplexes in RNA Biology: Recent Advances and Future Directions. Trends Biochem Sci, 2021. 46(4): p. 270-283.
【非特許文献15】Todd, A.K., M. Johnston, and S. Neidle, Highly prevalent putative quadruplex sequence motifs in human DNA. Nucleic Acids Res, 2005. 33(9): p. 2901-7.
【非特許文献16】Huppert, J.L. and S. Balasubramanian, Prevalence of quadruplexes in the human genome. Nucleic Acids Res, 2005. 33(9): p. 2908-16.
【非特許文献17】Bates, P.J., et al., G-quadruplex oligonucleotide AS1411 as a cancer-targeting agent: Uses and mechanisms. Biochim Biophys Acta Gen Subj, 2017. 1861(5 Pt B): p. 1414-1428.
【非特許文献18】Zhang, N., et al., Cytotoxicity of guanine-based degradation products contributes to the antiproliferative activity of guanine-rich oligonucleotides. Chem Sci, 2015. 6(7): p. 3831-3838.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
解決しようとする課題は、従前の抗ウイルス薬より広い範囲のウイルス種に抗ウイルス効果を示し、また耐性ウイルスが出現しにくい様態を示す抗ウイルス用オリゴヌクレオチドおよびその薬学的組成物を提供する点である。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、ウイルスゲノムRNA中に存在しない配列を含むRNAオリゴマーが、ウイルスのゲノムRNAとその結合タンパク質である(ヌクレオカプシドタンパク質(Nucleocapsid protein、Nタンパク質)との相互作用を阻害しウイルス複製を抑制することを主要な特徴とする。以下にその内容を示す。
【0029】
一般的にNタンパク質とRNAの結合は、ウイルス特異的タンパク質合成、ゲノムRNA複製に寄与し、さらに最終的にはRNA配列に依存せずにゲノムRNA全体がNタンパク質-RNA(viral ribonucleoprotein、vRNP)のポリマーを形成しウイルス粒子の核を形成する。vRNPポリマーが適切に形成されることは、効率の良いウイルス粒子の形成や他の細胞への感染(感染力)の維持に機能する。
【0030】
ウイルスの複製酵素は、RNAウイルスゲノムがそのコピーを作る複製過程で誤って塩基を取り込む。ウイルス進化の過程でウイルスの複製に不利な配列が形成された場合には、その配列を持つウイルスの増殖が阻害され、結果的に淘汰されると考えられる。逆に、コードされるタンパク質の機能に不利な影響を及ぼさない変異はゲノムRNA中に蓄積すると考えられる。vRNPポリマー形成を想定した場合、Nタンパク質への結合が極端に強いRNA配列や、vRNPの構造に影響を与えるRNA配列が存在する場合は、正常なゲノムRNAのN蛋白質への結合を阻害するなど複製に不利な影響を与え、このような配列はゲノムRNA上から変異により排除されると洞察して鋭意研究の結果、本発明に至った。
【0031】
すなわち、本発明は以下の1)~6)に関するものである。
1)動物ウイルスのゲノムRNA中に少なくとも6塩基連続して存在しない配列を含む6~19ヌクレオチド長であって、ヌクレオカプシド(N)タンパク質とRNAの結合を抑制する活性を有する抗ウイルス用オリゴヌクレオチド。
2)動物ウイルスのNタンパク質とRNAの結合を抑制する活性を有する抗ウイルス用オリゴヌクレオチドであって、グアニンリボヌクレオチドが少なくとも6つ連続した配列を含む6~19ヌクレオチド長あるいはグアニンヌクレオチドが12個連続したオリゴヌクレオチド。
3)ウイルス及び/又はウイルス感染細胞に接触させた場合にウイルスの増殖を抑制する活性を有する抗ウイルス用オリゴヌクレオチドであって、グアニンヌクレオチドが少なくとも6つ連続した配列を含む6~19ヌクレオチド長のオリゴリボヌクレオチド。
4)上記1)~3)のオリゴヌクレオチドの塩基以外および塩基部分に公知の技術を用いて修飾して安定性及び/又は抗ウイルス効果を高めたオリゴヌクレオチド。
5)上記1)~4)のオリゴヌクレオチドであってコロナウイルス感染およびインフルエンザウイルス感染を防ぐオリゴヌクレオチド。
6)上記1)~5)のオリゴヌクレオチドであってRNAをゲノムとして持つウイルスの感染を防ぐオリゴヌクレオチド。
7)上記1)~6)のオリゴヌクレオチドを含む抗ウイルス用薬学的組成物。
8)上記1)~6)を他の抗ウイルス剤と組み合わせた抗ウイルス用薬学的組成物。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、RNAゲノムを持つ複数のウイルスに対する抗ウイルス効果を示すオリゴヌクレオチドおよび、これを含む抗ウイルス用薬学的組成物が提供される。また、好適には遺伝子変異による抗ウイルス効果の低下を起こしにくい抗ウイルス用オリゴヌクレオチドおよび、抗ウイルス用薬学的組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1はSARS-CoV-2のゲノム(GenBank Accession、NC_044512.2)中に存在する配列で出現頻度の低い3塩基、4塩基、5塩基および6塩基の配列の出現頻度を示す。29.87K塩基長にランダムに4種の塩基(G、A、T、C)が出現すると仮定してSARS-CoV-2のゲノム中に出現頻度をグラフに示した。In-1(CCGGCG)およびG6(GGGGGG)は存在しない。
【
図2】
図2はSARS-CoV-2のNタンパク質のN末端RNA結合ドメイン(NTD、Nタンパク質のアミノ酸番号46-174、前出NC_044512.2)と32塩基のSARS-CoV-2のRNA(NC_044512.2、塩基番号29733-29764)を
32Pで放射性標識したRNAプローブを混和してアガロースゲル電気泳動により移動度シフトを検出した結果を示す。6塩基のオリゴRNAのIn-1(CCGGCG)およびその塩基置換体のmIn-1(CCAGCG)、G6(GGGGGG)、A6(AAAAAA)を図に示す濃度(μM)で添加したときの移動度シフトの結果を示す。
【
図3】
図3は、
図2の移動度シフト法で見出した6塩基のオリゴRNAのプローブRNA―NTDの移動度シフトしたバンドの50%阻害効果を示す。各6塩基RNAのNTD―RNA結合の50%阻害効果の平均値は、In-1 34.4μM、mIn-1 3.48μM、G6 0.62μM、A6 22.9μMである。
【
図4】
図4はSARS-CoV-2の全長のNタンパク質は6塩基長オリゴRNAを添加するとLLPSの誘導効果を示す。In-1は数μmの強大なLLPSを誘導するが、それ以外の6塩基オリゴRNAは1μm程度の球状あるいは線状のLLPSを誘導する。
【
図5】
図5の上段にSARS-CoV-2 Nタンパク質と32塩基長の蛍光標識RNAプローブによるLLPSの形成と形成されたLLPSの6塩基長オリゴRNAによる阻害効果を示す。下段はN末端RNA結合領域(NTD)を欠失したSARS-CoV-2 Nタンパク質と32塩基長の蛍光標識RNAプローブによるLLPSの形成と形成されたLLPSの6塩基長オリゴRNAによる阻害効果を示す。G6及びIn-1はLLPSの相転移を促進する。
【
図6】
図6はSARS-CoV-2 Nタンパク質と32塩基長の蛍光標識RNAプローブによるLLPS内の蛍光標識RNAプローブの蛍光はグアノシンが12個連続したRNAのG12(GGGGGGGGGGGG)により濃度依存的に消失効果を示す。
【
図7】
図7はG12とSARS-CoV-2 Nタンパク質と32塩基長蛍光RNAプローブは同時添加したG12により短時間で強い相転移を誘導する効果を示す。
【
図8】
図8はG12によるコロナウイルスOC43の増殖阻害効果を示す。G12を培養液に添加したときのOC43感染HCT8細胞内のOC43RNAの減少効果を、逆転写後の定量PCR(RT-qPCR)で検出した結果を示す。A)阻害効果は4日継続した。B)0.2μMで阻害効果がある。
【
図9】
図9はG12のOC43の細胞内Nタンパク質の量を減少させる効果を示す。感染細胞の溶解液をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後に抗OC43N抗体を用いてウエスタンブロティング法を行った結果を示す。G12はOC43感染細胞内のNタンパク質を減少する効果、即ち増殖阻害効果を示す。
【
図10】
図10はG12のOC43感染細胞内のNタンパク質細胞内分布を変える効果を示す。A549細胞にOC43を感染させG12未処理、処理細胞を固定して免疫染色し共焦点レーザー顕微鏡で観察した。OC43のNタンパク質は膜近辺に検出されるが、G12存在下では中間の輝度の分布が増加して、細胞内に広く分布した。
【
図11】
図11はG12の毒性が低いことを示す。HCT8(A)、A549(B)およびHKT293(C)に表示した最終濃度のG12存在下で2日間培養した。80%以上の増殖をした。
【
図12】
図12(A)はホスホロチオエート化したG12(G12(S))は32塩基長蛍光RNAプローブで形成されたLLPSの相転移の進行を促す効果を示す。また、(B)は、G12(S)がOC43感染HCR8感染細胞のNタンパク質のレベルを低下する効果を示す。
【
図13】
図13はG12がインフルエンザAウイルスの増殖を阻害する効果を示す。(A)および(B)、G12をインフルエンザAウイルス(H3N2Aichi)感染MDCK細胞培養液に最終濃度で1、2、3μM添加して、24時間培養した。2μM以上のG12は細胞内のNPのレベルを低下させ、インフルエンザウイルスの増殖を阻害したことを示した。
【
図14】
図14はG12がインフルエンザAウイルスの複製を多段階で阻害する効果を示す。細胞内のインフルエンザRNAのレベルは感染後22時間まではG12の強い効果があるが、感染後24時間では半分程度の抑制にとどまった(A)。一方、細胞外のRNAは24時間経過後も相当程度抑制されている(B)。細胞内のRNAに対する細胞外RNAの量比を(C)に示す。感染後12時間から24時間経過後もその比は9分の1程度まで抑制されている。G12はインフルエンザウイルスの細胞外への放出を阻害する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0035】
本発明において使用するプローブRNAは、特に限定はされないがウイルスゲノム配列の一部あるいはランダムな配列をもつRNAが挙げられる。また、Nタンパク質はウイルスから調整したタンパク質、あるいはNタンパク質全体およびRNAが結合することが知られているNタンパク質の一部、あるいは精製時に使用するHISタグ等のペプチド配列をNタンパク質の全長あるいはNタンパク質の一部と融合した融合タンパク質を遺伝子組換え技術により大腸菌などに発現させ精製したものなど(Nタンパク質等)が挙げられる。
【0036】
RNAウイルスのゲノム配列は、例えばGenBankやDDBJなどの公的データベースに公開されているものが使用できる。データベースより得たゲノム配列から6塩基程度の連続した配列でゲノム配列中に存在しない配列を選択することができる。単なる例示として挙げると、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の配列のその配列の中にグアノシンが6つ連続したG6およびIn-1の配列が存在しない(
図1)。
【0037】
Nタンパク質とプローブRNAの結合を阻害するオリゴヌクレオチドの選択は、一つの好適例として電気泳動移動度シフト法が挙げられる。例えば、プローブとしては、α‐32P‐CTPを含ませたリボヌクレオチド(ATP、UTP,GTC、低濃度CTP)溶液中でT7‐RNAポリメラーゼ等を利用したインビトロRNA合成系を用いて32P―RNAプローブを作製することができる。精製したNタンパク質等をこのプローブに接触させアガロースゲルあるいはアクリルアミドゲル電気泳動により分離後し、オートラジオグラフィーで32P―プローブRNAのバンドの移動度を検出する。Nタンパク質等が結合することで移動度が遅延したバンドを定量することでNタンパク質等とプローブRNAの結合レベルを検出することができる。即ち、例えば候補オリゴヌクレオチドを接触させNタンパク質により出現したバンドのレベルを定量することで、候補オリゴヌクレオチドのNタンパク質―RNA結合の阻害効果を定量的に見積もることができる。
【0038】
Nタンパク質等とRNAの結合を阻害する化合物の選択は、他の好適例として、液―液相分離(LLPS, Liquid-liquid phase separation)による液滴形成を指標とすることができる。単なる例示として挙げるが、蛍光物質で標識したプローブRNAとNタンパク質あるいはNタンパク質の一部分は、シラン化ポリエチレングリコールでコートしたガラス表面でLLPSを起こし数μmの小さな液滴を形成する。形成した液滴を、蛍光顕微鏡により蛍光像と微分干渉光学系で液滴の形態を観察すると、プローブRNAとNタンパク質等との可逆的な結合とLLPSを検出することができる。
【0039】
一つの好適例として挙げると、候補オリゴヌクレオシドがNタンパク質等に接したときに相状態が変化するとNタンパク質等の間の相互作用が強調されるなどの影響をうける例が挙げられる。例えば候補オリゴヌクレオチドの存在によりLLPSが進行した場合に1μm程度の液滴が数μmの大きさに成長したり相転移を起こし液滴が崩壊したりすることがある。また、他方LLPS内の蛍光プローブRNAと候補オリゴヌクレオチドが置き換わりLLPS液滴中の蛍光強度の減少する場合などが挙げられる。1本のゲノムRNAとNタンパク質等が会合してウイルス粒子を形成することから考えると、これらの変化の何れの場合もウイルスvRNA形成は阻害されたあるいは負の影響を受けたと考えることができる。
【0040】
以上のように、ゲノムRNAとNタンパク質等の相互作用の変化を、好適例として電気泳動移動度シフト法およびLLPSの変化を見出した候補オリゴヌクレオチドは、Nタンパク質とプローブRNAとの結合を効率よく阻害する目的で、例えば塩基長を6塩基以上19塩基以下の長さの間で変更してもよい。
【0041】
選択された候補オリゴヌクレオチドの安定性、及び/あるいは細胞内への侵入効率を上げるために、その抗ウイルス用オリゴヌクレオチドの構成する塩基部分、リボース部分、ホスホジエステル結合のいずれか、あるいはそれぞれを組み合わせて、該候補オリゴヌクレオチドの一部あるいは全てを修飾してもよい。
【0042】
候補オリゴヌクレオチドの修飾としては、リボース部分の一部又は全部を2′位をデオキ化、2′-Oメチル化修飾、2′-O(2-メトキシエチル)化修飾、2′フルオロ化修飾、架橋型人工核酸(Bridged nucleic acid、および/またはLocked nucleic acid)に変更することができる。リン酸ジエステル結合一部又は全部をホスホロチオエート化してもよい。
【0043】
ホスホジエステル結合の修飾法としては、候補オリゴヌクレオチドのホスホジエステル結合の一部または全てのリン酸をホスホロチオエート化修飾してもよい。
【0044】
選択された候補オリゴヌクレオチドが低分子の場合には細胞内に侵入することが知られている。また、効率よく細胞内に導入するために、好適例として脂質類似膜やPolyethylenimine(PEI)のキャリアを用いて導入する方法、また、細胞透過性ペプチド等を候補オリゴヌクレオチドに共有結合する方法などが挙げられる。
【0045】
選択された候補オリゴヌクレオチドあるいは、以上のように修飾した抗ウイルス用オリゴヌクレオチドの効果を確認する。例えば、感染症の原因となるRNAウイルスの感染細胞培養系がある場合には、感染細胞の培養液に抗ウイルス用オリゴヌクレオチドを添加し、ウイルスの増殖の抑制効率を観察する方法を用いる。ウイルスの増殖抑制効果は、例えばウイルス複製に伴い誘導されるウイルスタンパク質の定量、あるいは細胞内ウイルスRNAや細胞外に放出されたウイルスRNAあるいはウイルスの感染力価を定量する方法を用いる。ウイルスRNAの定量は、例えば塩基配列を元に設計した2つの特異的なプライマーDNAと検出用蛍光標識オリゴDNAを用いて、逆転写反応後の定量PCR(RT‐qPCR)により該ウイルス特異的なmRNAおよびゲノムRNAを定量する方法を用いる。ウイルスタンパク質の存在量は、例えば特異抗体を用いたウエスタンブロッティングや蛍光抗体法などが挙げられる。また、ウイルスの細胞変性効果や蛍光抗体法を用いて候補オリゴヌクレオチドによる感染力価を低下する効果を求める方法も挙げられる。
【0046】
候補オリゴヌクレオチドの抗ウイルス効果は、実験動物を用いることができる。好適例として、マウスなどの実験動物の新生仔の鼻腔、気道、肺内にRNAウイルスを接種しながら候補オリゴヌクレオチドを投与し、その動物体内におけるウイルスの増殖レベルを定量PCR法や組織切片の蛍光抗体法により検出する方法、動物の病態の変化を観察することにより候補オリゴヌクレオチドの効果を見積もる方法が挙げられる。
【0047】
抗ウイルス効果がある候補オリゴヌクレオチドを抗ウイルス用オリゴヌクレオチドとする。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0049】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の配列のその配列の中に存在しない配列頻度を
図1に示す。グアノシンが6つ連続したG6およびIn-1の配列が存在しない(
図1)。
【0050】
Nタンパク質のN末端のRNA結合ドメイン(NTD)と
32P‐RNAプローブの混合液に候補オリゴリボヌクレオチドを添加して、RNA‐NP結合阻害効果を見積もることができる。本発明はこの方法を用いて、数種の異なった配列の6塩基長のオリゴリボヌクレオシドの中からIn-1の阻害効果は極端に低いが、G6に最も効果が最も高いことを示す(
図2-1、
図2-2、
図3)。
【0051】
本発明者らは、この方法でIn-1はNタンパク質のC末端側に結合してLLPSが進行させ~数μmの液滴とさらに相転移を誘導すること、G6はNTDおよびそれ以外の領域に結合して液滴の成長と相転移を誘導することを見出した。さらに、グアノシンが連続した12塩基長のオリゴリボヌクレオチド(G12)が高いNタンパク質-RNAの結合阻害活性を持つことを発見した(
図4、
図5)。G12の効果は、形成されたLLPS液滴中のプローブRNAを追い出す効果(
図6)、プローブRNAによる安定な液滴形成そのものを阻害し相転移を促進する両方の効果がある(
図7)。
【0052】
βコロナウイルス間でNタンパク質の立体構造を比較した研究が多数あるが、Nタンパク質の共通の立体構造が見出されている。また、発明者らが見出したG6やIn-1の配列も他のコロナウイルスゲノム中には極端に少ないことから、G12の効果はコロナウイルス感染細胞に同様な影響を与える可能性を検討した。
【0053】
選択されたオリゴヌクレオチドのG12は、核酸を包む脂質膜等がない状態でウイルス感染細胞培養液に添加することで効果を示すことを見出した。すなわち、G12の効果をヒトコロナウイルスでSARS-CoV-2と同様にβコロナウイルス科にOC43を用いて検証した。OC43感染ヒト細胞の培養液中にG12加えて培養すると、感染細胞のRNAの合成(
図8)およびOC43のタンパク質が阻害されるた(
図9)。さらに、ヒトがん細胞A549を用いてOC43のNタンパク質の細胞内分布を、蛍光抗体法を用いて検出した結果、G12は感染細胞において点状に分布するNタンパク質を拡散させる効果があることを示すことができる(
図10)。これの結果より、G12はOC43のRNAの複製、mRNAの転写、複製された新生RNAとNタンパク質との会合に影響を与えるものと推察された。
【0054】
培養液中のG12は最終濃度で20μM程度に増加しても細胞の増殖は80%以上で細胞に毒性はないことがわかる(
図11)。
【0055】
オリゴヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート化されたG12オリゴヌクレオチドも液―液相分離(
図12―A)およびOC43のNタンパク質の合成を効率よく阻害する(
図12―B)。
【0056】
候補オリゴヌクレオチドは、G12の抗ウイルス効果は、コロナウイルス以外でvRNP構造を持ちエンベロープにくるまれたウイルスの感染細胞にも有効であると洞察して、インフルエンザA型ウイルス感染MDCK細胞の培養液に添加し、その増殖を検討した。インフルエンザウイルスの細胞由来のHAタンパク質の合成を効率よく阻害することを発見した(
図13)。また、細胞内RNAレベルの増加もG12存在下で阻害される(
図14―A)。さらに細胞外RNA(培養液RNA)を同時に定量した結果、細胞内部のRNAが増加してもG12は細胞外への放出も阻害していることを見出した(
図14-BおよびC)。
【0057】
これらの結果から、G12はコロナウイルスおよびインフルエンザウイルスのRNA合成に加えて、ウイルス粒子の産生のステップで阻害することを見出した。これらの知見より、Nタンパク質とゲノムRNAが結合してvRNP構造を形成するRNAウイルスに共通した阻害効果を示す抗ウイルス用オリゴヌクレオチドを見出し、本発明を完成した。
オリゴヌクレオチドの好適な修飾により核酸分解酵素の抵抗性を上げる効果がある。さらに、低分子のオリゴヌクレオチドは細胞内に侵入するため、抗ウイルス用オリゴヌクレオチドとして生体に適応できる。複数のウイルスに効果があることから好適には新感染症にも適応が可能な抗ウイルス薬が創出される。
1 「候補オリゴヌクレオチド」とは、ウイルスゲノム中に存在しない塩基配列、あるいは/およびNタンパク質とプローブRNAの結合を阻害するオリゴヌクレオチド。
2 「抗ウイルス用オリゴヌクレオチド」とは、Nタンパク質とプローブRNAの結合に影響を与えウイルスの増殖を低下させるオリゴヌクレオチド。