(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070753
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】流動浸漬装置および塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05C 19/04 20060101AFI20240516BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240516BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240516BHJP
B05D 1/24 20060101ALI20240516BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240516BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20240516BHJP
【FI】
B05C19/04
B05D3/02 F
B05D3/00 C
B05D1/24
B05D7/24 301A
B05B12/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181468
(22)【出願日】2022-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】592001403
【氏名又は名称】株式会社IEC
(74)【代理人】
【識別番号】110003373
【氏名又は名称】弁理士法人石黒国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 寛人
(72)【発明者】
【氏名】福田 和也
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AB07
4D075AB12
4D075AB31
4D075AB39
4D075AB51
4D075AB56
4D075BB35Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA23
4D075DB01
4D075DB06
4D075DC13
4D075EA02
4F035AA03
4F035BC02
4F042AA06
4F042AA09
4F042AB03
4F042EC02
4F042EC04
4F042EC05
4F042EC09
(57)【要約】
【課題】電磁誘導加熱によりワーク2を加熱して塗装する流動浸漬装置1に関し、電源装置12を高出力化することなく、形状が複雑なワーク2でも、塗装時間や塗装厚さに対する要求を満たすようにする。
【解決手段】装置1によれば、タンク5は、粉体塗料を貯留する貯留空間を有し、貯留空間の底側を、多孔質の材料からなる多孔壁3により区画される。また、流動手段6は、多孔壁3から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間5aに粉体塗料の流動層を形成する。また、コイル7は、貯留空間に磁束を通すように通電制御され、ワーク2を流動層に浸漬した状態で電磁誘導により加熱する。さらに、ロボット8は、ワーク2を保持するとともに流動層に浸漬させ、コイル7に対するワーク2の姿勢や位置を変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料を貯留する貯留空間を有し、この貯留空間の底側を、多孔質の材料からなる多孔壁により区画される貯留容器と、
前記多孔壁から気体を上向きに噴出することにより、前記貯留空間に粉体塗料の流動層を形成する流動手段とを備え、
前記流動層に、被塗物としてのワークを浸漬させて塗装する流動浸漬装置において、
前記貯留空間に磁束を通すように通電制御され、前記ワークを前記流動層に浸漬した状態で電磁誘導により加熱するコイルと、
前記ワークを保持するとともに前記流動層に浸漬させ、前記コイルに対する前記ワークの姿勢や位置を変化させるロボットとを備える流動浸漬装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流動浸漬装置を用いた塗装方法であって、
前記ロボットにより前記ワークを保持して前記流動層に浸漬させた状態で、前記コイルを通電制御して前記ワークに磁束を通すとともに、前記ロボットにより、前記ワークの姿勢や位置を変化させることを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主に、流動浸漬法により、被塗物としてのワークを塗装する流動浸漬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔板の孔から上向きに気体を噴出することにより粉体塗料の流動層を形成するとともに、予熱したワークを粉体塗料の流動層に浸漬させて塗装する流動浸漬法が公知であり、例えば、自動車用モータのロータやステータの塗装に用いられている。
【0003】
ところで、流動浸漬装置では、予熱の簡素化を目的として、電磁誘導加熱を利用する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1の流動浸漬装置は、次のような電磁誘導加熱炉を備えている。すなわち、特許文献1の電磁誘導加熱炉は、炉内の底側を多孔板により区画されており、多孔板の孔から上向きに気体を噴出することができ、かつ、炉内に粉体を注入することができるものである。また、炉の周囲にコイルが配設され、コイルは、炉内に磁束が通るように通電制御される。
【0004】
このような構成により、特許文献1の流動浸漬装置は、次のように動作して予熱の簡素化を達成することができる、としている。
すなわち、炉内に被塗物としてのワークを収容してコイルを通電制御することで、ワークを電磁誘導加熱により予熱する。その後、粉体塗料を炉内に注入するとともに多孔板から気体を噴出させることでワークを塗装する。また、塗装中も、必要に応じて、コイルを通電制御してワークを加熱する。
【0005】
以上により、引用文献1の流動浸漬装置によれば、予熱用の別の加熱炉を不要にし、また、ワークの移動作業を省くとともに、移動に伴うワークの降温を阻止することができ、予熱の簡素化を達成することができる、としている。
ところで、ワークの形状は多種多様であり、上記の自動車用モータのロータやステータのみならず、より複雑な形状を有するバスバー等も塗装の対象となっている。しかし、ワークの形状が複雑になるほど、部位ごとの塗装厚さのばらつきが発生しやすくなる。このため、塗装が必要な部位全てを所定の時間内に必要な厚さまで塗装しようとすると、より高出力の電源装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本開示は、電磁誘導加熱によりワークを加熱して塗装する流動浸漬装置に関し、電源装置を高出力化することなく、形状が複雑なワークでも、塗装時間や塗装厚さに対する要求を満たすようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の流動浸漬装置は、以下の貯留容器および流動手段を備える。まず、貯留容器は、粉体塗料を貯留する貯留空間を有し、貯留空間の底側を、多孔質の材料からなる多孔壁により区画される。また、流動手段は、多孔壁から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間に粉体塗料の流動層を形成する。そして、流動浸漬装置は、流動層に、被塗物としてのワークを浸漬させて塗装する。
【0009】
また、流動浸漬装置は、以下のコイルおよびロボットを備える。まず、コイルは、貯留空間に磁束を通すように通電制御され、ワークを流動層に浸漬した状態で電磁誘導により加熱する。また、ロボットは、ワークを保持するとともに流動層に浸漬させ、コイルに対するワークの姿勢や位置を変化させる。
以上により、本開示によれば、電磁誘導加熱によりワークを加熱して塗装する流動浸漬装置に関し、電源装置を高出力化することなく、形状が複雑なワークでも、塗装時間や塗装厚さに対する要求を満たすようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】流動浸漬装置の内、貯留容器およびコイルの斜視図である。
【
図4】流動浸漬装置の内、貯留容器およびコイルの平面図である。
【
図5】流動浸漬装置の内、主に貯留容器の内部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明する。なお、実施例は具体例を開示するものであり、本願発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例0012】
〔実施例の構成〕
実施例の流動浸漬装置1を、図面を用いて説明する(以下、流動浸漬装置1を装置1と略して呼ぶことがある。)。
まず、装置1は、被塗物としてのワーク2を流動浸漬法により塗装するために用いられるものである。すなわち、装置1では、多孔質の材料からなる多孔壁3から上向きに気体を噴出することにより粉体塗料の流動層4を形成するとともに、ワーク2を流動層4に浸漬させて塗装する。また、ワーク2は、例えば、銅を素材とするバスバーであり、板状の材料が複数個所で折れ曲がっている。
以下、装置1を詳述する。
【0013】
装置1は、以下の貯留容器5、流動手段6、コイル7およびロボット8を備える。
まず、貯留容器5は直方体の内周空間を有する直方体状の筒体である。そして、この内周空間が、粉体塗料を貯留する貯留空間5aをなし、貯留空間5aの底側が、多孔壁3により区画される(以下、貯留容器5をタンク5と呼ぶことがある。)。
なお、貯留空間5aの上下方向に垂直な断面は、例えば、正方形である。また、タンク5の下端には、多孔壁3を保持するためのフランジ部5cが設けられている。
【0014】
また、タンク5の下側には、有底容器9が組み付けられている。
有底容器9は、タンク5の内周空間と同形の正方形を断面とする内周空間を有し、上端にフランジ部9aを有する。そして、フランジ部5c、9a同士により多孔壁3を挟んで所定の締結具10を締め付けることで、タンク5と有底容器9とが多孔壁3を挟んで強固に締結される。
また、多孔壁3は、多孔板や、グラスウールの織布等で設けられており、粉体塗料を下側に通過させずに気体を上下に通過させることができるものであり、粉体塗料の質量によって弛まないように支持されている。
【0015】
これにより、多孔壁3と有底容器9とにより形成される空間は主に気体が流動する気体室11を形成する。
なお、タンク5の内周空間と有底容器9の内周空間とは同軸に配置されており、多孔壁3の上側、下側表面は、それぞれ貯留空間5a、気体室11に対して正方形の露出面をなす。
【0016】
次に、流動手段6は、多孔壁3から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間5aに粉体塗料の流動層4を形成し、装置1は、流動層4にワーク2を浸漬させて塗装する。
具体的には、流動手段6は、エアコンプレッサ、エアフィルタおよびバルブ等から構成される周知の空気供給部6a、空気供給部6aと気体室11とを接続する配管6b、ならびに、上記の気体室11等からなる。
【0017】
また、コイル7は、貯留空間5aに磁束を通すように通電制御され、ワーク2を流動層4に浸漬した状態で電磁誘導により加熱するものである。
ここで、コイル7は、タンク5の周囲を包囲するように巻かれており、より具体的には、タンク5の周囲に正方形状の環を形成しつつ螺旋状に巻かれている。なお、コイル7は所定の電源装置12から給電される。
【0018】
また、ロボット8は、ワーク2を保持するとともに流動層4に浸漬させ、コイル7に対するワーク2の姿勢や位置を変化させる。
なお、ロボット8は、例えば、6軸の垂直多関節ロボットであり、先端にワーク2を掴むためのハンド8aが組み付けられている。
【0019】
〔実施例の動作〕
実施例の装置1の動作を説明する。
タンク5に粉体塗料を貯留した状態で空気供給部6aを動作させて粉体塗料の流動層4を形成する。この状態で、ロボット8によりワーク2を保持して流動層4に浸漬させ、コイル7を通電制御してワーク2に磁束を通す。これにより、ワーク2は、電磁誘導加熱により加熱され、ワーク2の近傍の粉体塗料が溶融され、ワーク2の表面が塗装される。
【0020】
また、装置1は、ロボット8を制御して、ワーク2の姿勢や位置を変化させる。すなわち、ワーク2は、長手方向に、順次、法線方向が異なる平面が連続するものである。一方、電磁誘導加熱の加熱効率は、コイル7とワーク2との距離が近いほど大きい。そこで、ワーク2の折れ曲がりに応じて、例えば、ワーク2の長手方向に連続する平面が、順次、コイル7の一辺の部分と平行になるようにワーク2の姿勢や位置を変化させる。これにより、ワーク2の平面が順次所定の厚さまで塗装されていく。
【0021】
〔実施例の効果〕
実施例の装置1は、以下のタンク5および流動手段6を備える。まず、タンク5は、粉体塗料を貯留する貯留空間5aを有し、貯留空間5aの底側を、多孔質の材料からなる多孔壁3により区画される。また、流動手段6は、多孔壁3から気体を上向きに噴出することにより、貯留空間5aに粉体塗料の流動層4を形成する。そして、装置1は、流動層4に、被塗物としてのワーク2を浸漬させて塗装する。
【0022】
また、装置1は、以下のコイル7およびロボット8を備える。まず、コイル7は、貯留空間5aに磁束を通すように通電制御され、ワーク2を流動層4に浸漬した状態で電磁誘導により加熱する。また、ロボット8は、ワーク2を保持するとともに流動層4に浸漬させ、コイル7に対するワーク2の姿勢や位置を変化させる。
【0023】
これにより、ワーク2の形状が複雑であっても、電磁誘導加熱に有利になるように、流動層4においてワーク2を直線的に移動させたり、回転させたりすることができる。このため、装置1では、電源装置12を高出力化することなく、複雑な形状を有するワーク2でも、決められた時間内に、部位ごとの塗装厚さのばらつきを抑えて、要求された厚さまで塗装することができる。
【0024】
また、実施例の塗装方法によれば、ロボット8によりワーク2を保持して流動層4に浸漬させた状態で、コイル7を通電制御してワーク2に磁束を通すとともに、ロボット8により、ワーク2の姿勢や位置を変化させる。
これにより、ワーク2の形状が複雑でも、流動層4においてロボット8によりワーク2を移動させたり回転させたりすることで、ワーク2の部位ごとに、電磁誘導加熱に有利な位置に移動させたり姿勢をとらせたりすることができる。
【0025】
〔変形例〕
本願発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形例を考えることができる。
例えば、実施例の装置1によれば、タンク5は断面が正方形の内周空間を有する直方体状の筒体であり、コイル7は、タンク5の周囲に正方形状の環を形成しつつ螺旋状に巻かれていたが、例えば、タンク5を、断面が円形の内周空間を有する円筒形状の筒体とし、コイル7を、タンク5の周囲に円形の環を形成するように巻いてもよい。また、タンク5を、断面が矩形の内周空間を有する直方体状の筒体とし、コイル7を、タンク5の周囲に矩形状の環を形成するように巻いてもよい。
1 装置(流動浸漬装置) 2 ワーク 3 多孔壁 4 流動層 5 貯留容器 5a 貯留空間 6 流動手段 7 コイル 8 ロボット