(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070757
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】給与管理装置及び給与管理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20240516BHJP
【FI】
G06Q10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181473
(22)【出願日】2022-11-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】507074915
【氏名又は名称】株式会社プライムコンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100186831
【弁理士】
【氏名又は名称】梅澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】菊谷寛之
(72)【発明者】
【氏名】田中博志
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA08
5L049AA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】等級や職種、働き方が異なる従業員の賃金をシンプルに管理し、等級異動に伴う賃金管理の煩雑さや人件費負担の増大、人材活用や適切な組織編成に支障をきたす賃金変動を回避する給与管理装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】給与対象者に対して、それぞれ給与情報及び等級を記憶する記憶部110と、各等級に共通した給与の額ごとの賃金ランクを割り当てた賃金ランクテーブル210と、賃金ランクテーブル210内の賃金ランクの連続をそれぞれ割り当てることにより段階別の給与ランクとなる等級別の賃金バンド120と、給与対象者の一人について、評価情報を入力する評価入力部130と、評価情報に基づいて、新たな給与情報を求める算出部140と、給与対象者の一人について、等級異動を入力する等級入力部160と、異動前後の等級で、新たな給与情報に対して、異動後の等級で該当する賃金ランクを特定する特定部170と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
給与対象者に対して、それぞれ給与情報及び等級を記憶する記憶部と、
各等級に共通した給与の額ごとの賃金ランクを割り当てた賃金ランクテーブルと、
前記賃金ランクテーブル内の前記賃金ランクの連続をそれぞれ割り当てることにより段階別の給与ランクとなる等級別の賃金バンドと、
前記給与対象者の一人について、評価情報を入力する評価入力部と、
前記評価情報に基づいて、新たな給与情報を求める算出部と、
前記給与対象者の一人について、等級異動を入力する等級入力部と、
異動前後の等級で、前記新たな給与情報に対して、異動後の等級で該当する賃金ランクを特定する特定部を備えた、
給与管理装置。
【請求項2】
前記賃金バンドを分割するそれぞれの等級の給与ランクの上限下限は、各等級に共通したものとして規定される、請求項1に記載の給与管理装置。
【請求項3】
最小等級の給与額下限から最大等級の給与額上限までを含む範囲について賃金ランクごとに分割し、各等級の賃金バンドごとに、前記賃金ランクを割り当ててそれぞれ各等級の給与ランクとする、
請求項1又は請求項2に記載の給与管理装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記算出部によって算出された給与額が該当する給与ランクを、異動後の等級から特定し、前記算出部によって求められた給与が、異動後の等級の賃金バンドの上限下限の範囲外の場合に、異動前の給与ランクの上限下限に対応する賃金ランクを割り当てて特定する、
請求項1~請求項3のいずれかに記載の給与管理装置。
【請求項5】
給与対象者に対して、それぞれ給与情報及び等級を記憶する記憶部と、
各等級に共通した給与の額ごとの賃金ランクを割り当てた賃金ランクテーブルと、
前記賃金ランクテーブル内の前記賃金ランクの連続をそれぞれ割り当てることにより段階別の給与ランクとなる等級別の賃金バンドと、を備える給与管理装置に、
前記給与対象者の一人について、評価情報を入力する評価入力ステップと、
前記評価情報に基づいて、新たな給与情報を求める算出ステップと、
前記給与対象者の一人について、等級異動を入力する等級入力ステップと、
異動前後の等級で、前記新たな給与情報に対して、異動後の等級で該当する賃金ランクを特定する特定ステップを実行させる、給与管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
給与管理装置及び給与管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、企業において、他の企業や個人と契約した業務に関する経費を、契約先ごとに配分する経費配分システムが開示されている。ここで、社員区分ごとの賃金表(以下「等級別賃金表」)を設定し、人事評価(SABCD)に応じて、所定の号数をプラスマイナスして賃金を改定することを自動計算で行えるようにした装置があった。なお、社員区分については、以下「等級」という。等級のほか、グレード、区分、級など様々な呼び方がある。職種区分でもよい。
【0003】
また、「等級別賃金表」とは、等級ごとに賃金額の範囲を定め、その中に複数の号俸を設定し、賃金額が「○等級○号=○円」という形で決まるようにしたものである。一方で、等級別賃金表において、各等級の賃金の範囲をいくつかのゾーンに分け(以下「ゾーン型等級別賃金表」)、現在の賃金のゾーンと評価の組み合わせに応じて改定号数を変える方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(1)等級異動時(昇格・降格)の賃金の取り扱いについて、賃金バンドが重なっているところでは、異動先の同額又は直近上位/直近下位で読み替えが必要となるため、実務が煩雑となり、また人件費が増大し、賃金バンドが重なっていないところでは、特別昇給/特別降給が発生するため次の問題が生じるという問題がある。
賃金バンドが重なっていない場合についてさらに説明すると、
1)特別昇給の場合は次の問題がある。
•人件費の急増
•特別昇給額の記録(将来、降格したときに同額を下げるため)にともなう実務の煩雑さ
•人件費の急増を避けるために昇格を見送ることもあり、人材活用への支障
2)特別降給の場合は次の問題がある。
•特別降給の緩和策としての調整手当の運用にともなう実務の煩雑さ
•特別降給による意欲の低下を避けるために降格を見送ることがあるなど人材活用や適切な組織編成への支障が生じること
(2)従業員の貢献度と賃金の対応について
1.ゾーン型等級別賃金表では、賃金ゾーンが評価の累積を表すので、従業員の貢献度と賃金の高さをマッチングさせる機能がある。ただしこれは、一つの等級の中での比較であって、等級をまたいでの貢献度と賃金のマッチングは難しい。そのため、経営者が全従業員の貢献度を等級横断的に把握して賃金に反映させることが難しく、処遇の説明性・納得性を高めにくい。
2.上記から、従業員がより高次の処遇を求めて昇格を求める圧力が高まり、人件費の高騰につながる恐れもある。
(3)多様な職種や働き方への対応について
多様な職種や働き方に応じて適切な人事処遇を行うために、職種や働き方に応じた賃金表を設定することが一般的だが、多数の賃金表を設定・使用することは、制度の複雑化を招き、実務に過大な負荷を及ぼすとともに、同一労働同一賃金法制が求める均等待遇・均衡待遇の説明も難しくなる。
【0006】
本発明の一形態は、等級や職種、働き方が異なる従業員の賃金をシンプルに管理し、等級異動に伴う賃金管理の煩雑さや人件費負担の増大、人材活用や適切な組織編成に支障をきたす賃金変動を回避することができ、また同一労働同一賃金法制が求める均等待遇・均衡待遇を実現することが可能な給与装置及び給与算出プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、給与対象者に対して、それぞれ給与情報及び等級を記憶する記憶部と、各等級に共通した給与の額ごとの賃金ランクを割り当てた賃金ランクテーブルと、前記賃金ランクテーブル内の前記賃金ランクの連続をそれぞれ割り当てることにより段階別の給与ランクとなる等級別の賃金バンドと、前記給与対象者の一人について、評価情報を入力する評価入力部と、前記評価情報に基づいて、新たな給与情報を求める算出部と、前記給与対象者の一人について、等級異動を入力する等級入力部と、異動前後の等級で、前記新たな給与情報に対して、異動後の等級で該当する賃金ランクを特定する特定部を備えた、給与管理装置である。
【0008】
本発明の一形態は、給与対象者に対して、それぞれ給与情報及び等級を記憶する記憶部と、各等級に共通した給与の額ごとの賃金ランクを割り当てた賃金ランクテーブルと、前記賃金ランクテーブル内の前記賃金ランクの連続をそれぞれ割り当てることにより段階別の給与ランクとなる等級別の賃金バンドと、を備える給与管理装置に、前記給与対象者の一人について、評価情報を入力する評価入力ステップと、前記評価情報に基づいて、新たな給与情報を求める算出ステップと、前記給与対象者の一人について、等級異動を入力する等級入力ステップと、異動前後の等級で、前記新たな給与情報に対して、異動後の等級で該当する賃金ランクを特定する特定ステップを実行させる、給与管理プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】給与管理装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図5】等級別評価レートと号俸改定基準の一例を示す。
【
図6】給与算出および等級異動の処理を示すフローチャートである。
【
図7】多様な正社員やパートタイマーのランク型賃金表の一例を示す。
【
図8】多様な正社員やパートタイマーの等級別評価レートと号俸改定基準の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態に係る給与管理装置では、等級や職種、働き方が異なる従業員の賃金を一つのランク型賃金表で管理し、賃金改定や等級異動を伴う賃金管理を円滑に行い、また同一労働同一賃金法制が求める均等待遇・均衡待遇をわかりやすく実現することができるものにした。特に、本実施の形態に係る給与管理装置は次の機能を有する。
【0011】
・等級や職種、働き方が異なる従業員の賃金を共通の仕組みで管理できるように、全従業員向けの賃金表(ランク型賃金表)を設定できるようにした。
・等級ごとの賃金の範囲(賃金バンド)の外でも賃金が運用できるように、全等級にまたがる賃金ランク、評価レートを設けた。
・多様な正社員やパートタイマーについても、正社員と同じ仕組みとしつつ、働き方に応じた適切な賃金差を設けられるように、就労可能賃率を設定できるようにした。
【0012】
本実施の形態に係る給与管理装置の制御部は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、画像処理部と、メモリを備えている。CPU、ROM、RAM、画像処理部及びメモリは、バスを介して相互に接続されている。
【0013】
CPUは、ROMに記録されているプログラム、又はメモリからRAMにロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。RAMには、CPUが各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0014】
画像処理部は、DSP(Digital Signal Processor)や、VRAM(Video Random Access Memory)等から構成されており、CPUと協働して、画像のデータに対して各種画像処理を施す。
【0015】
メモリは、DRAMやキャッシュメモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等何らかの記憶媒体が挙げられる。メモリは、バスにより接続されるもののみならず、ドライブまたはインターネットを介して読み書きされるものも含まれる。本実施形態で記憶されたデータは、一時的記憶も不揮発性メモリによる長期記憶の場合も、このメモリにいったん記憶するものとして説明する。
【0016】
図1は、給与管理装置の機能的構成を示すブロック図である。
図1に示す給与管理装置の制御部は、記憶部110と、賃金バンド120と、賃金ランクテーブル210と、評価入力部130と、算出部140と、評価レートテーブル150と、等級入力部160と、特定部170と、異動部180を備える。
【0017】
記憶部110は、組織内の複数の給与対象者に対して、それぞれ給与情報及び等級を記憶する。本実施の形態においては給与情報は号俸の場合を例に挙げて説明するが、給与情報は給与の額そのもの又は給与の額を示すインデックス情報を含めた概念である。給与情報は基本給のみについての概念として説明するが、基本給と諸手当を合算した給与総額としても良い。給与情報は月額または時給額の数字である。
【0018】
記憶部110は、各等級に共通した給与の額ごとの賃金ランク210を割り当てたテーブルを備える。賃金ランク210のテーブルは
図2に示すように、1ランクから、表上では17ランクに分けられている。もちろん17ランクに限られるものではなく、それ以上でもそれ以下でもよく、表記は数字ではなくアルファベットなどでもよい。記憶部110は、賃金バンド120を備える。賃金バンド120は、上記テーブル内の賃金ランク210の連続をそれぞれ割り当てることにより段階別の給与ランクとなる。それにより、賃金バンド120は、等級別に設けられ、それぞれ、評価ランク(SABCD)に対応する給与額の高さに沿って複数の給与ランクとなっている。詳細は
図2及び
図3に記載して後述する。評価入力部130は、給与対象者について、評価ランクを入力する。
図4及び
図5に示すように、各等級共通に評価S~Dにて入力する。
【0019】
算出部140は、入力された評価情報から評価レートを求め、等級、元の号俸、元の号俸が属する賃金ランク、及び号俸改定基準を参照して、号俸を改定する。具体的な給与額は、新たな号俸に従って求める。また、算出部140は、評価レートテーブル150を備える。評価レートテーブル150は、評価ランクと等級のマトリックスとして設けられ、評価と等級の組み合わせに対して、評価レートを参照するための表である。等級入力部160は、給与対象者について、前記等級異動を入力する。
【0020】
特定部170は、異動前後の等級で、前記新たな給与情報に対して該当する賃金ランク210を特定する。等級異動前後で基本的には賃金ランク210は共通するが、昇格・降格に伴って、賃金ランク210が変動する場合もある。また特定部170はこの時に給与ランクを特定するが、これは必須ではない。この場合、特定部170は、算出部140によって求められた給与に、異動前の給与ランクの上限下限に対応する賃金ランクを割り当てて特定する。異動部180は、特定部170によって特定された給与ランクへの移動処理を実行する。
【0021】
上述の機能的構成を用いて、ランク型賃金表、給与計算、そしてランク型賃金表を用いた等級異動後の給与の扱いについて説明する。まず、
図2及び
図3を参照して等級と賃金ランク、給与ランクの関係について説明する。
【0022】
図2は、等級別の賃金バンドの一例を示す。まず、
図2に示すように、各等級に共通する賃金ランク210を設ける。賃金ランク210は、給与の額を並べたものを一定又は不定の金額の間隔ごとに分けて区切ったものである。賃金ランク210は、
図2においては一番下の1ランクから、一番上の17ランクまで示すが、等級などが多くなる場合にはもっと長くなり、小さい組織の場合には短くなる場合もある。
【0023】
等級は、給与対象者全てに設定されている。等級Iが最も低い給与体系であり、等級VIが最も高い給与体系である。この等級は役職に対応付けられている。そして、この等級の範囲内で賃金バンド(範囲給)を同じくSABCDの5つの給与ランク(「ゾーン」ともいう)に分けている。各人の基本給は、原則としてこの賃金バンド内のどこかの給与ランクに位置づける。その上で、各給与対象者の貢献度を評価ランクSABCDの5段階で評価する。等級別の給与ランクは、基本給の到達範囲として設定されており、それぞれこの評価ランクSABCDに対応している。
【0024】
前述のとおり、賃金バンド120は、等級ごとに一連の給与ランクを設けてバンド(帯)状に並べたものである。給与ランクも各等級に設けられる。なお、前述のS、A、B、C、Dの記号は任意に表記することができ、例えばA、B、C、D、Eでもよいし、5、4、3、2、1でもよい。等級ごとに給与の範囲は異なるので、等級ごとに各給与ランクの給与の額の上限と下限は異なる。Dが最も低く、C、B、A、Sの順に給与の範囲は高くなっていく。
【0025】
賃金バンド120は、I等級賃金バンド220~VI等級賃金バンド270からなる。なお賃金バンド120というとき、全体としての賃金バンド120と、I等級賃金バンド220~VI等級賃金バンド270のうちそれぞれを指す場合の両方がある。
【0026】
I等級賃金バンド220は給与ランクS~Dからなる。ここで、給与ランクDは賃金ランク3に該当する。さらに上がって給与ランクCは賃金ランク4、給与ランクBは賃金ランク5、給与ランクAは賃金ランク6、給与ランクSは賃金ランク7、というように割り当てられる。同様に、
【0027】
・II等級賃金バンド230の給与ランクS~Dには賃金ランク9~5、
・III等級賃金バンド240の給与ランクS~Dには賃金ランク11~7、
・IV等級賃金バンド250の給与ランクS~Dには賃金ランク13~9、
・V等級賃金バンド260の給与ランクS~Dには賃金ランク15~11、
・VI等級賃金バンド270の給与ランクS~Dには賃金ランク17~13、
がそれぞれ割り当てられる。
【0028】
各給与対象者は原則としてこの等級のいずれかに該当しており、過去に支給された給与(給与情報)はその給与ランクのSの上限からDの下限までのどこかに当てはまる。一方で、等級異動の後の過渡期や新規採用後の一定期間においてはこの給与ランクのSの上限からDの下限の範囲を外れる場合もある。
【0029】
ここでは給与ランクはそれぞれ5段階であるが、各等級での給与の金額は5段階という訳ではなく、各等級で細かな金額ステップ(号俸)が設けられており、従業員の給与はそのどれかに該当する。
【0030】
図3は、ランク型賃金表の一例(抜粋)を示す。
図2では等級を横軸に、賃金ランクを縦軸にして、賃金ランクと賃金バンド及び給与ランクの関係を模式的に示したが、
図3では、各賃金ランク内の号俸を表示し、一本の賃金表(号俸表)として示したものである。号俸の分だけ
図2よりも賃金ランクが幅広く表現されており、したがって
図3では賃金バンド120はその分長く表現される。
【0031】
図2では賃金ランク1について左下に1つのブロックとして表現したが、
図3に示す賃金表では、まず左上から、ランク1(+1T)について、号俸1~8が設けられている。そしてこの号俸1~8にそれぞれ金額14万9200円~16万3200円が規定される。金額の右にあるランク号差は、隣り合う号俸の金額差を示す。ランク1共通の2000という数字は、号俸1~号俸9の間は、号俸が上がるごとに金額が2000円ずつ上がることを示している。
【0032】
同様に、賃金ランク2について、号俸9~16にそれぞれ金額が規定される。賃金ランク2にはランク号差2200円が規定される。賃金ランク3について、号俸17~24にそれぞれ金額が規定される。賃金ランク3にはランク号差2300円が規定される。一方で等級Iの給与ランクDが賃金ランク3に該当する。
【0033】
このように、賃金ランクごとに8つの号俸と、号俸ごとの給与金額が設けられ、その差分はランク号差として規定される。そして等級ごとに連続する給与ランクが割り当てられる。
【0034】
次に、ランク型賃金表を用いた等級異動後の給与の扱いについて説明する。まず、等級異動の前の段階の給与計算を行う。この給与計算に当たって、各等級の評価(SABCD)を等級横断的に比較できるように、等級及び評価に対応した評価レートを用いる。
【0035】
図4は、評価レートテーブルを示す。評価レートテーブル150は、評価ランクと等級のマトリックスとして設けられ、評価と等級の組み合わせに対して、評価レートを参照することができる。
図4の例だと、等級Iでは評価S~Dに対して7~3点である一方で、等級Vでは評価S~Dに対して15点~11点が割り当てられる。評価が同じでも評価の等級ごとに評価レートが異なる。次に、ここで規定した評価レートを用いた給与計算について説明する。
【0036】
図5は、ランク型賃金表の号俸改定基準(抜粋)を示す。算出部140は、賃金ランクと評価レートから、号俸改定基準を参照して、号俸の改定号数を求める。そして元の号俸に改定号数を加減し、新たな号俸を求め、新たな給与とする。このとき、給与が等級ごとの賃金バンド以外にあっても賃金表を使えることにする。
【0037】
図5の一番上は、
図2に示した等級に対応しており、
図5では等級I~IVを抜粋して並べたものである。各等級について左から右へと並ぶDからSは、従業員の評価ランクである。各従業員に対してS~Dのいずれかの評価がされたものが
図4に示した評価ランクに当てはめられる。
【0038】
等級別一覧の下には評価レートが並ぶ。評価レートは1点~17点まで並んでいるが、これは、各等級の評価ランクS~Dを、
図4の評価レートテーブルに基づいて読み替えた評価レートを示している。例えば
図4で等級Iでは評価DからSまで順に評価レートが3点、4点、5点、6点、7点と並んでいるように、
図5の等級Iの評価Dは評価レート3点の上、評価Cは評価レート4点の上、評価Bは評価レート5点の上、評価Aは評価レート6点の上、評価Sは評価レート7点の上に表示してある。等級II~等級IVについても同様である。
【0039】
次に、
図5の左側の軸の上から下に沿って賃金ランクが並ぶ。この賃金ランク530は
図2に示した賃金ランク210に対応している。すなわち、1と1T、2と2T、・・・が賃金ランク210の1、2、・・・に対応している。なお、1T、2T・・・のように「T」がついている部分は、各賃金ランクの中で最も高い号俸を示す。また、この賃金ランクは、
図3のランク型賃金表に記載の賃金ランクにも対応している。
【0040】
ランク型賃金表を用いた給与の改定は、対象となる従業員の現在の賃金ランクと評価レートから、
図5の号俸改定基準に基づいて改定号数を求め、当該従業員の元の号俸に改定号数を加減することによって行う。例えば、等級Iで、現在の賃金ランクが3(給与ランクは等級IのD)、評価レートが5点(評価ランクは等級IのB)の場合、改定号数は「+3号」となり、元の号俸に3号を加算した号数・号俸が、改定後の給与となる。
【0041】
ここで、等級異動の前の段階の給与計算について、
図3の賃金表が適用される等級Iの従業員が、B評価を受け、評価レートが5点となった場合で説明する。まず、給与改定の前後で給与ランクの変更がない場合について説明する。
(1)ここで従業員の賃金ランクが3の場合は改定号数は+3になる。元の号俸がランク3の例えば号俸20の場合、新たな号俸は23になる。
(2)従業員の賃金ランクが4または3Tの場合は改定号数は+2になる。元の号俸がランク4の例えば号俸28の場合、新たな号俸は30になる。
(3)従業員の賃金ランクが5または4Tの場合は改定号数は+1になる。元の号俸がランク5の例えば号俸36の場合、新たな号俸は37になる。
(4)従業員の賃金ランクが5Tの場合は改定号数はゼロとなり、号俸の加算はない。
(5)従業員の賃金ランクが6または6Tの場合は改定号数が-1になる。元の号俸がランク6の例えば号俸46の場合、新たな号俸は45になる。
【0042】
以上のようにして算出部140は新たな号俸を計算し、新たな号俸に従って新たな給与の額が決まる。(1)の例のように新たな号俸が23の場合は19万6600円となる。(2)の例のように新たな号俸が30の場合は21万3200円となる。(3)の例のように新たな号俸が37の場合は23万800円となる。(5)の例のように新たな号俸が45の場合は25万2000円となる。
【0043】
次に、給与改定の前後で給与ランクの変更がある場合について説明する。
(6)(1)の元の号俸が異なる場合で、改定号数が+3で、元の号俸がランク3の例えば号俸23の場合、新たな号俸は26になり、給与ランクはDからCに上がる。
(7)(2)の元の号俸が異なる場合で、改定号数が+2で、元の号俸がランク4の例えば号俸31の場合、新たな号俸は33になり、給与ランクはCからBに上がる。
【0044】
再び
図2を参照して、給与改定について説明する。上述の(1)、(2)、(5)の例について、
図2のa,b,cを参照して、等級Iの場合の同一給与ランク内での給与改定について模式的に示す。
a:現在の賃金ランク<<評価レート→大きく昇給
b:現在の賃金ランク<評価レート→小さく昇給
c:現在の賃金ランク>評価レート→降給
の場合の例を示す。
【0045】
次に等級異動について説明する。等級入力部160によって、等級の上昇または等級の下降、若しくは等級の変更なしのいずれかを、等級異動として入力する。そして特定部170は、異動前後の等級で、新たな給与情報に対して該当する賃金ランクを特定する。また特定部170はこの時に給与ランクを特定するが、これは必須ではない。この場合、特定部170は、算出部140によって求められた給与に、異動前の給与ランクの上限下限に対応する賃金ランクを割り当てて特定する。特定部170は、算出部140によって求められた給与が、異動後の等級の賃金バンドの上限下限の範囲外の場合に、異動前の給与ランクの上限下限に対応する賃金ランクを割り当てて特定する。異動部180は、特定部170によって特定された給与ランクへの移動処理を行う。等級の上下動は通常は1等級の異動であるが、場合によって2等級以上の上下動があってもよい。
図2では1等級の異動を例に挙げて説明する。
【0046】
図2及び
図3にて示したように、等級が異なっても給与対象者の給与ランクは全等級に共通の賃金ランクによって決まっているので、賃金バンドが重なっている場合、新たな等級にもちょうど対応する給与ランクが存在する。一方で賃金バンドが重なっていない場合は対応する給与ランクは存在しないが、便宜上該当する賃金ランクは割り当ててあるので、給与変動を伴わない等級異動は可能である。
【0047】
等級異動の際の賃金の移動について、
図2のd、e、f、gを参照しながら、等級IIIと等級IVの間の1等級の異動を例にして説明する。
賃金バンドが重なっている場合、特定部170は下記のように給与ランクを特定する。
d:同額(同賃金ランク・同号俸)のまま等級IIIから等級IVへ昇格
等級IIIの給与ランクBから等級IVの給与ランクDに異動
e:同額(同賃金ランク・同号俸)のまま等級IVより等級IIIへ降格
等級IVの給与ランクBから等級IIIの給与ランクSに異動
【0048】
賃金バンドが重なっていない場合、特定部170は下記のように給与ランクを特定する。
f:同額(同賃金ランク・同号俸)のまま等級IIIから等級IVへ昇格
等級IIIの給与ランクDから等級IVの給与ランクなしに異動
※賃金ランクが等級IVの賃金バンドより低い分、昇給しやすくなり、本人の意欲は高まる
g:同額(同賃金ランク・同号俸)のまま等級IVより等級IIIへ降格
等級IVの給与ランクSから等級IIIの給与ランクなしに異動
※等級IIIの賃金バンドを超えるランクなので、翌年以降、徐々に降給になる
【0049】
以上により次の効果を奏する。
1.等級異動時の賃金の取り扱いについて
1)賃金バンドの重なりの有無にかかわらず、同額(同賃金ランク・同号俸)のまま昇格・降格でき、賃金の読み替えや特別昇給の記録や降格等級の緩和策が不要となり、実務の負担が軽減される
※なお、人事制度として、昇格昇給や降格降給を設定することは可能である
2)特別昇給による人件費の急増や、特別降給による本人の意欲低下の心配がないため、等級異動を躊躇する必要がなくなり、人材活用や組織編成の柔軟性が保たれる
2.職種によって適用する賃金ランクを変えれば(すなわち、賃金バンドを変えれば)、同じ賃金表を使って職種別賃金を設定できる
【0050】
3.従業員の貢献度と賃金の対応について
1)評価レートを軸に貢献度と賃金をマッチングさせるので、経営者が全従業員の貢献度を等級横断的に把握して賃金に反映させることができ、処遇の説明性・納得性を高めやすい。
2)上記のことから、従業員からの昇格圧力も弱まり、無用な人件費の高騰を回避できる。
【0051】
図6は、給与算出および等級異動の処理を示すフローチャートである。本処理の前に、記憶部110に事前に全従業員の給与情報及び等級の情報を用意して記憶しておく。
図2及び
図3に示した賃金バンド120、
図4に示した評価レートテーブル150も同様に用意しておく。
【0052】
まず評価入力部130より評価を入力する(S610)。評価はS~Dから入力する。次に、算出部140は評価レートテーブル150を参照する(S620)。例えば
図4の例では、等級IIに対して評価Bの場合には評価レート7点を読みだす。そして算出部140は、給与情報を読み出す(S630)。次に算出部140は、給与算出処理を行う(S640)。算出部140は、評価レート、等級、元の号俸、元の号俸が属する賃金ランク、及び号俸改定基準を参照して、号俸を改定する。
【0053】
等級入力部160は、給与対象者について、等級異動を入力する(S650)。等級入力部160によって、等級の上昇または等級の下降、若しくは等級の変更なしのいずれかを、等級異動として入力する。
【0054】
次に等級異動後の給与ランクについて説明する。号俸はそのままで等級のみ異動するので
図2に示した賃金ランクとしては同じままである。特定部170は、同一号俸について、異動後の等級に給与ランクがあるか否かを判定する(S660)。ある場合、特定部170は、異動前後の等級で、新たな給与情報に対して、
図2のd、eに示した通り、異動後の等級で該当する給与ランクを特定する(S670)。
【0055】
ない場合、新たな給与情報に対して、
図2のf、gに示した通り、給与ランクに相当する賃金ランクの部分を割り当てる(S680)。このように特定部170は、算出部140によって求められた給与が、異動後の等級の賃金バンドの上限下限の範囲外の場合に、異動前の給与ランクの上限下限に対応する賃金ランクを割り当てて特定する。そして異動部180は、等級異動を行うとともに(S690)、特定部170によって特定された給与ランクへの移動処理を行い、一連の処理を終了する。
【0056】
次に、多様な働き方(多様な正社員やパートタイマー等)に応じて賃率を設定する場合について説明する。一般正社員の号俸は
図3に示したとおりであるが、地域限定社員、職種限定正社員などの多様な正社員や、有期契約社員、パートタイマーなどの場合にはそのまま適用することはできない。
【0057】
しかしながらこのような多様な働き方についても適宜昇給は行っていく必要があり、そのために何らかの号俸を適用する必要がある。勤務形態は様々であるが、1つ1つの勤務形態に対応して賃金表を別途設けることは、制度設計に多大な労力を要するだけでなく、運用が煩雑となり、さらに従業員に対する説明もわかりにくくなるので合理的ではない。したがって、
図3に示したランク型賃金表に、働き方の違いに応じた就労可能賃率を掛け合わせて勤務形態ごとに適切な賃金水準の賃金表を設定して用いるのが合理的である。
【0058】
表1は、前述した就労可能賃率の一例である。
【表1】
【0059】
図7は、多様な正社員やパートタイマーのランク型賃金表の一例である。この表の左側の号俸、賃金ランク、ランク号差の列は
図3のランク型賃金表と同じであるが、その右の就労可能賃率(以下、「賃率」という)の列は、勤務形態に応じて就労可能賃率を変えた場合を表示している。
【0060】
この列の中の一番左の就労可能賃率100%の列は、
図3のランク型賃金表の各号俸の金額と同じであり、この金額が基準となる。通常、一般の正社員(以下、単に「正社員」という)には100%の列を適用する。そして右に行くにつれて、95%、90%、85%、80%と賃率が下がっていき、各列にはこの賃率を掛け合わせた金額が記載されている。正社員以外の多様な正社員や有期契約社員には、勤務形態に応じて適切な賃率の列を適用する。
【0061】
さらにその右には、時給で表現した場合の基本給額を号俸に対応付けて記載している。正社員の場合は100%であり、月平均所定労働時間が162時間を想定して、月額を160で除した金額としている。さらに右隣のパート時給の列は、正社員の時給額の80%であるが、これはパートの勤務形態を考慮して賃率を80%に設定した例である。その右に等級と給与ランクを対応付けた賃金バンドがあるが、これも
図3に示した内容と同じである。
【0062】
図8は、多様な正社員やパートタイマーの等級別評価レートと号俸改定基準を示す。正社員の号俸改定基準は
図5に示した通りであるが、これを多様な働き方に合わせたものをここに示している。
【0063】
一番上に等級Iと等級IIの場合の評価ランクを記載しているが、これは
図5に示したものと同じであり、評価レート3点~9点にそれぞれ対応している。その下のP1、P2、P3はパートタイマーの等級を示しており、その右のD~Sは、各等級の評価ランクである。パートタイマーの等級P1から等級P3の評価ランクはそれぞれの下に記載されている評価レート1点~9点に対応する。
【0064】
その下に、
図5の場合と同様に、縦軸を賃金ランク、横軸を評価レートとした改定号数の一覧が示されている。賃金改定の際は、対象従業員の現在の賃金ランクと評価レートの組み合わせから決まる改定号数を、当該従業員の元の号俸に加減算することで、新たな号俸を求める。そして新たな号俸に基づいて新たな賃金とする。
【0065】
図8を見ると、評価レート3点~7点は等級Iと等級P2の評価ランクD~Sの両方に対応している。これは、等級Iと等級P2の各評価ランクの価値が同じであることを示している。そのため、
図7において等級Iと等級P2の賃金バンドがいずれも3ランク~7ランクとなり、両等級の給与ランクも一致している。この給与ランクの一致から、等級Iの正社員と等級P2のパートタイマーの評価が同じ場合は、同じ賃金ランクで処遇しつつ、働き方の違いを反映する賃率を適用することにより、実際に支払われる賃金額に適切な差を設けていることがわかる。同様に、等級IIと等級P2は、
図8において評価レート5点~9点が両等級の評価ランクに対応し、
図7において両等級の賃金バンドと給与ランクが一致していることから、両等級の評価が同じ場合は、同じ賃金ランクで処遇しつつ、働き方の違いに基づいて実際の賃金額に適切な差を設けていることがわかる。このようにして、同一労働同一賃金法制が求める、正社員と非正規社員との均衡待遇を実現し、待遇に差がある場合の合理的な説明が可能となる。なお、働き方に有意な違いがない場合は、賃率を100%として均等待遇を行うことになる。
【0066】
以上、本発明について実施例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施例に記載の範囲には限定されない。上記実施例に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、実施例で示した特定部170において、等級異動後に対応する給与ランクの有無を判定するステップを省略した場合でも、本発明で解決しようとしている課題は十分に解決される。
【符号の説明】
【0067】
記憶部110、賃金バンド120、賃金ランクテーブル210、評価入力部130、算出部140、評価レートテーブル150、等級入力部160、特定部170、異動部180