(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070762
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】真空封止構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20240516BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
F16L59/065
B23K1/00 330Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022192341
(22)【出願日】2022-11-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】598174923
【氏名又は名称】大阪サニタリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101616
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 吉之
(72)【発明者】
【氏名】山中 純次
【テーマコード(参考)】
3H036
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB33
3H036AC01
3H036AE13
(57)【要約】
【課題】製造容易でメンテナンス不要なろう付けタイプの真空封止構造を提供する。
【解決手段】ワークのジャケット13内を真空に保持するための真空封止構造は、ジャケット13内を外部に連通させる排気孔18をもった排気ソケット20と、排気孔18内に収容した球体30とを有し、排気孔18の内壁面22はジャケット13内に向かって縮径した円すい面部分22aを含み、円すい面部分22aと球体30を密着させて気密にろう付けしてある。その製造方法は、排気孔18内に順次、第一リング26と球体30とろう材製の第二リング24を配置したワークを真空熱処理炉内にセットする準備工程と、真空熱処理炉内を目標真空度に達するまで排気する排気工程と、真空熱処理炉内を目標温度に達するまで加熱する加熱工程を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークのジャケット内を真空に保持するための真空封止構造であって、前記ジャケットの内部を外部と連通させる排気孔をもった排気ソケットと、前記排気孔内に収容した球体とを有し、前記排気孔の内壁面は前記ジャケット内に向かって縮径した円すい面状の部分を含み、前記円すい面状の部分と前記球体を密着させて前記排気ソケットと前記球体を気密にろう付けしてあり、
前記排気孔内に、内周面及び/又は外周面に切り欠き及び/又はへこみを設けた第一リングと、前記球体と、ろう材製の第二リングを、この順番で収容した状態で真空熱処理炉内にセットする工程と、
真空熱処理炉内を所定の真空度に達するまで排気する排気工程と、
真空熱処理炉内を所定の温度に達するまで加熱する加熱工程を含む、真空封止構造の製造方法。
【請求項2】
前記第一リングは前記球体と前記内壁面との間に介在し、前記切り欠き及び/又は前記へこみが、前記球体及び/又は前記内壁面との間にすきまを形成して前記排気工程において通気を許容する、請求項1に記載の真空封止構造の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、前記第一リングが溶け落ちることにより、前記球体が落下して前記排気孔の前記内壁面と密着し、前記通気を遮断する、請求項2に記載の真空封止構造の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、前記第二リングが溶融して前記球体と前記排気孔の前記内壁面との間に浸透し、前記球体と前記排気ソケットを気密に接合する、請求項1に記載の真空封止構造の製造方法。
【請求項5】
真空室とすべきジャケットに、前記ジャケットの内部を外部と連通させる排気孔を持った排気ソケットを設け、前記排気孔の内壁面には、少なくとも前記排気孔の軸方向の一部の領域に、前記ジャケット側に向かって縮径した円すい面状の部分が存在し、前記排気孔に球体を収容し、前記円すい面状の部分と前記球体を、前記球体の全周にわたって接触させ、当該接触部に沿って前記排気ソケットと前記球体を気密にろう付けすることにより前記ジャケット内を真空に保持した真空封止構造。
【請求項6】
前記ろう付けは、前記排気孔内に、前記円すい面状の部分又は前記球体との間にすきまを形成する切り欠き又はへこみを設けた第一リングと、前記球体と、ろう材製の第二リングをこの順番で収容した状態で真空熱処理炉内の所定位置にセットし、前記真空熱処理炉内を所定の真空度まで排気し、前記真空熱処理炉内を所定の温度まで加熱することを含む、請求項5に記載の真空封止構造。
【請求項7】
前記球体と前記円すい面状の部分との接触部から前記円すい面状の部分の大径側にかけて、前記第二リング由来のろう材の溶融金属が浸透し固化している、請求項5に記載の真空封止構造。
【請求項8】
端部にて閉じたジャケットを相互間に形成した内管と外管を有し、前記外管に排気ソケットを設け、前記排気ソケットは、前記外管から半径方向に延在して前記ジャケット内を外部と連通させる排気孔を有し、前記排気孔の内壁面には、少なくとも前記排気孔の軸方向の一部の領域に、前記ジャケットに向かって縮径した円すい面状の部分が存在し、前記排気孔に前記球体を収容し、前記球体と前記円すい面状の部分とを前記球体の全周にわたって接触させ、当該接触部に沿って前記排気ソケットと前記球体とを気密にろう付けすることにより前記ジャケット内を真空に保持した真空断熱二重管。
【請求項9】
前記ろう付けは、前記排気孔内に、前記円すい面状の部分又は前記球体との間にすきまを形成する切り欠き又はへこみを設けた第一リングと、前記球体と、ろう材製の第二リングをこの順番で収容した状態で真空熱処理炉内の所定位置にセットし、前記真空熱処理炉内を所定の真空度まで排気し、前記真空熱処理炉内を所定の温度まで加熱することを含む、請求項8に記載の真空断熱二重管。
【請求項10】
前記球体と前記円すい面状の部分との接触部から前記円すい面状の部分の大径側にかけて、前記第二リング由来のろう材の溶融金属が浸透し固化している、請求項8に記載の真空断熱二重管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空封止構造の製造方法とその製造方法により製造した真空封止構造及びその真空封止構造を具備した真空断熱二重管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に真空断熱二重管は、プロセス液に接する内管と、内管の外周に位置して両者間に真空層となるべきすきま(ジャケット)を形成する外管とからなり、前記ジャケットを真空排気して真空層を形成したものである。熱伝導率の低い真空層が存在することにより、内管全体が外界から熱遮断され、内管の内側を流れる流体は外気温による影響を受けることがない。
【0003】
たとえば食品製造工場では、食品原料などの流体搬送用配管系統に真空断熱二重管が用いられている。食品工業においては、生産する液体物を加熱または冷却した状態で、配管を通して設備間を移送する。この時生じる配管放熱を最小化し(省エネ)、移送物を一定の温度に保持するため、真空断熱二重管が用いられる。
なお、食品工業における設備配管は、衛生維持のため、日常的に配管類を分解洗浄することがあり、配管外周に断熱材等を巻き付ける構造は不適切である。
【0004】
真空断熱二重管を真空加熱炉で真空ろう付けして製造する方法は知られている(特許文献1)。
【0005】
真空封止構造としては、外管に排気口を設け、その排気口を銀ろう又はニッケル系若しくはガラス系のろう材を使用して封止した構造のものが知られている(特許文献2)。たとえば銀ろうを使用するものの場合、外管に、排気口を有する導電金属製の封止用筒体を取り付け、その排気口に弁体を銀ろうでろう付けする。
【0006】
弁体はネジ棒の先端に取り付けてある。弁体はフランジを有し、フランジよりも前端側は排気口に進入可能な径としてあり、後端側にはネジ棒のネジ部を受け入れるネジ孔を設けてある。弁体のフランジは銀ろうを担持する部分となる。
【0007】
ネジ棒は外部の駆動機構によって回転および進退動作を行なわせることができる。ネジ棒を前進させることにより弁体のフランジを排気口の肩に押し付けて排気口を閉塞することができ、逆に、ネジ棒を回しながら後退させることにより弁体からネジ棒を分離させることができる。
【0008】
真空断熱二重管の製造にあたっては、まず、弁体を、排気口を完全に閉塞しない位置まで後退させた状態で、封止用筒体に排気管を介して接続した真空排気ポンプを作動させて、外管の管内を排気口から真空排気する。
【0009】
外管の管内が目標真空度に到達すると、ネジ棒を前進させて排気口閉塞用の弁体を、排気口を閉塞する位置に移動させる。
【0010】
続いて、封止用筒体の周囲に配置した高周波発生器により封止用筒体を加熱することで銀ろうを熔解させ、溶融した銀ろうが弁体と封止用筒体との間のすきまを埋める。加熱を停止し放冷すると、溶融した銀ろうが固化し、排気口に対する真空シールが完成する。
【0011】
その後、ネジ棒を回しながら後退させることにより弁体から分離させ、排気管を含む真空排気装置および高周波加熱器を真空断熱二重管から分離し、完成品たる真空断熱二重管を搬出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭62-40968号公報
【特許文献2】特開2005-337386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の従来の技術によれば、真空加熱炉内で、ろう材を担持させた弁体を、真空排気工程では排気口を完全に閉塞しない位置に、加熱工程では排気口を閉塞する位置に、それぞれ保持しなければならない。したがって、ろう材を担持させた弁体を各工程に応じた所定の位置に保持し、また、移動させるための装置が不可欠である。
【0014】
本発明の課題は、かかる問題を除去することにある。すなわち、本発明は、製造過程において弁体を保持し、また、移動させるための装置を必要としない、真空封止構造とその製造方法を提供せんとするものである。本発明は、また、そのような真空封止構造を具備した真空断熱二重管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、真空層となるべきジャケットを封止する真空封止構造として、ジャケットにその内部を外部と連通させる排気孔を持った排気ソケットを設け、排気孔の円すい面状の内壁面に球体を接触させた状態で両者を真空ろう付けしたものである。この真空封止構造は、真空断熱二重管のほか、真空層を備えたあらゆるタイプの真空容器等に適用することができる。
そして、かかる真空封止構造は、円すい面状の内壁面と球体との間に第一リングを介在させ、球体の上部に第二リングを載置して、真空熱処理炉内で排気工程と加熱工程を経ることによって、得ることができる。
【0016】
第一リングは、球体と排気孔の内壁面との間に通気路を形成することのできる切り欠き又はへこみを有する。リングの円周上の1カ所に切り欠きを設けてC形のリングとするほか、2以上のへこみを周方向に配分したものであっても同様の通気作用が得られる限り採用できる。第一リングの材料は、球体やソケットの材料よりも融点が低いものを採用し、必ずしもろう材である必要はない。
【0017】
第二リングはろう材製で、溶融して球体と排気孔の内壁面との間に浸透し、球体と排気ソケットをろう付けする。ろう付けは、母材よりも融点の低いろう材を用い、ろう材を溶融させて接合を行なうものである。したがって、単にろう材というときは、排気ソケットや球体よりも低融点のろう材を選択するのは言うまでもない。
【0018】
そして、排気工程では、第一リングの切り欠きやへこみが形成する通気路を通じて排気が支障なく行なわれる。加熱工程では、球体を支えていた第一リングが溶け落ちることにより球体が自重で落下し、排気孔の内壁面にすきまなく密着する。このようにして、外部の装置を必要とすることなく、いわば自動的に、通気路の形成と閉塞が行なわれる。さらに加熱工程では、球体が排気孔の内壁面に密着した状態で第二リングが溶融し、球体の外表面を伝って球体と排気孔の内壁面との間に浸透し、球体と排気孔の内壁面との接触部を底とした環状の溶融池を球体の全周にわたって形成する。
【0019】
より具体的に述べるならば、真空層となるべきジャケット13を封止するための真空封止構造は、ジャケット13にその内部を外部と連通させる排気孔18を持った排気ソケット20を設け、排気孔18の内壁面22には、少なくとも排気孔18の軸方向の一部の領域に、ジャケット13側に向かって縮径した円すい面状の部分22aが存在し、排気孔18に球体30を収容し、球体30と円すい面状の部分22aとを球体30の全周にわたって接触させ、当該接触部に沿って排気ソケット20と球体30とを気密にろう付けすることによりジャケット13内を真空に保持したものである。
【0020】
ろう付けは、切り欠き28又はへこみを設けた第一リング26と、球体30と、ろう材製の第二リング24を、この順番で排気孔18内に収容した状態で真空熱処理炉内にセットし、真空熱処理炉内での排気工程と加熱工程を経ることによって行なわれる。
【0021】
排気工程では、第一リング26と球体30との間及び又は第一リング26と排気孔18の内壁面22との間に形成された通気路を通じてジャケット13の真空排気を行なう。
【0022】
加熱工程では、第一リング26と第二リング24を溶融させる。第一リング26は溶融して流れ落ち、その結果、球体30が円すい面状の部分22aに接触するまで落下し、同時に通気路が消失する。第二リング24も溶融し、球体30と円すい面状の部分22aとの接触部から円すい面状の部分22aの大径側にかけて、第二リング24由来のろう材の溶融金属が浸透し、固化する。
【0023】
真空断熱二重管10は、端部にて閉じたジャケット13を相互間に形成した内管12と外管14を有し、外管14に排気ソケット20を設け、排気ソケット20は、外管14から半径方向に延在してジャケット13を外部と連通させる排気孔18を有し、排気孔18の内壁面22には、少なくとも排気孔18の軸方向の一部の領域に、ジャケット13に向かって縮径した円すい面状の部分22aが存在し、排気孔18に球体30を収容し、球体30と円すい面状の部分22aとを球体30の全周にわたって接触させ、当該接触部に沿って排気ソケット20と球体30とを気密にろう付けすることによりジャケット13内を真空に保持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排気ソケットの排気孔に球体をろう付けした真空封止構造であるため、長期にわたりメンテナンスフリーの真空断熱二重管を提供することできる。とりわけ、排気孔の円すい面状の内壁面によって球体を受け止めさせる構造であるから、最初に球体と第一、第二リングを排気孔内にセットすれば、その後の排気工程、加熱工程の間、何ら外部の装置を必要とすることなく、各工程を遂行することができる。したがって、本発明の真空封止構造及びそのような真空封止構造を具備した本考案の真空断熱二重管は、ワークの保持や工程間での移動のための特別な設備や装置を要することなく、容易に製造することができる。
【0025】
たとえば食品設備においては、配管類を分解して手洗いするラインまたはCIP(分解せず設置した状態)で循環洗浄するラインがあり、このCIP洗浄を施すラインにも、長期間に至って断熱性を維持できるメンテナンスフリーの真空断熱二重管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例を示す真空断熱二重管の排気ソケット付近の断面図である。
【
図2】排気ソケット部分の拡大断面図であって、(A)は第一リング、球体、第二リングをセットした状態、(B)は加熱工程の初期段階、(C)は加熱工程の終了段階を示し、(D)は第一リングの平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に従って実施の形態を説明する。
【0028】
図1に、完成品たる真空断熱二重管の一例を示す。同図は真空断熱二重管の一端部の断面図である。
【0029】
図示するように、真空断熱二重管10は、内管12と外管14とからなり、両者間に真空層(ジャケット)13が形成される。内管12は流体搬送用で、内表面が被搬送物と接する。外管14は、内管12の外周にジャケット13を形成する。熱伝導率の低い真空層が存在することにより、内管12全体が外界から熱遮断され、内管12の内側を流れる流体は外気温による影響を受けることがない。
【0030】
完成品たる真空断熱二重管10では、ジャケット13は気密に保たれている。また、図示した実施例はヘルール継手を採用した場合で、真空断熱二重管10の端部にヘルール16が形成してある。ヘルール継手は、ヘルールガスケットを挟み込んでヘルールどうしを突き合わせ、クランプで締め付けることによって連結するようにしたもので、ボルト、ナットで締結するフランジ継手と比較して、連結、分離が迅速、容易に行える。
【0031】
外管14には排気ソケット20が取り付けてある。図示した例では排気ソケット20を外管14に溶接で固定してある。排気ソケット20は中空筒状で、内部を排気孔18が貫通している。したがって、完成前の状態(
図2(A)(B)参照)では、排気孔18はジャケット13を外管14の外部と連通させる。
【0032】
排気孔18の内壁面22は、外管14の外部からジャケット13内に向かって徐々に縮径した円すい面状を呈している。円すい面状の部分22aは、排気孔18の軸方向で見て、内壁面22の全長にわたって延在してもよく、あるいは、排気孔18の軸方向の一部に存在してもよい。図面に示したのは後者の一例で、外側に円すい面状の部分22aが位置し、内側に円筒形部分22bが位置している。
【0033】
排気孔18の内部に球体30を配置し、ろう付けする。
排気孔18は、小さいと排気に時間が掛かり、大きいとろう材が溶融した際に排気孔18を塞ぎきれず流れ落ちてしまうため、かかる観点から効果的な内径を設定し、球体30は排気孔18よりやや大径とする。排気孔18の最大内径は球体30の外径より大きく、最小内径は球体30の外径より小さい。したがって、上向きにした排気孔18に球体30を入れると、球体30は自重で排気孔18の内壁面22の円すい面状部分22aと接し、その位置で止まる。排気孔18を過度に傾けない限り、排気孔18から球体30が落下することはない。この時の球体30の位置、つまり、排気孔18の軸方向における球体30の停止位置は、球体30の外径と排気孔18の内壁面22の内径およびテーパー角から定まる。
【0034】
材料の具体例を挙げるならば、外管14及びソケット20はステンレス鋼製とするのが一般的であり、球体30にもステンレス鋼を採用するのが好ましい。その場合、ろう材としては銅ろうを採用することができ、銀ろう、ニッケルろうも採用可能である。
【0035】
ろう材はリング状のものを使用する。リングの内径は球体30の外径より小さく、リングの外径は排気孔18の円筒形部分22bの内径より大きく設定する。なお、円筒形部分22bを設けない場合、リングの外径は円すい面状部分22aの最小径より大きく設定する。
上向きにした排気孔18の軸方向で見たときの球体30の上下すなわち、球体30と内壁面22のうち円すい面状の部分22aとの接触部の両側に、リング状のろう材を配置する。説明の便宜上、下側のものを第一リング26、上側のものを第二リング24と呼ぶこととする。
【0036】
ここで、リング状というとき、完全な円形のほか、円周上の一部を切り欠いた不完全円形つまりC形であってもよい。切り欠き28の一例を
図2(D)に示す。さらに、図示は省略するが、完全円形のリングに部分的にへこみを設けたものでもよい。第一リング26の場合、外周に設けたへこみは排気孔18の内壁面22との間にすきまを形成し、内周に設けたへこみは球体30との間にすきまを形成する。このように、第一リング26に設けた切り欠きやへこみは、排気孔18の内壁面22や球体30との間にすきまを形成し、真空排気の過程で通気路として機能する。したがって、全体として、排気工程において必要な断面積の通気路が確保できる限り、へこみは、単一でも、2以上のへこみを周方向に配分したものであってもよい。
【0037】
第二リング24はろう付けに必要な量のろうを提供するためのものであることから、リング径および/または線径をその観点から設定する。また、同様の観点から、2以上の第二リング24を重ねて使用することも可能である。その場合、複数第二リング24のリング径や線径は同一でも異なっていてもよい。
図2(A)に示したのはリング径が異なる2本の第二リング24を使用した例である。
【0038】
第二リング24も第一リング26と同様の形状としてもよい。第二リング24は球体30に載置しておくだけで、加熱工程で溶融するものであることから、切り欠きやへこみがあっても支障はない。むしろ、同一のリングを第二リング24としても第一リング26としても使用するときは、判別が不要となるため作業性がよく、保管上も有利である。
【0039】
なお、第一リング26は加熱工程で溶融し、排気孔18の内壁面22を伝って流れ落ちる。つまり、第一リング26は球体30と排気孔18の内壁面22との間に介在し、切り欠き又はへこみが排気工程において通気路を確保する、という役割を果たすもので、ろう付け自体には関与しない。その意味で、第一リング26は必ずしも第二リング24と同じ材料である必要はない。たとえば、第一リング26の材料として第二リング24よりも融点の低いものを採用することで、第一リング26が溶融し流れ落ちて球体30が排気孔18の内壁面22に接した後に第二リング24の溶融が始まるように、タイミングの調整を図ることができる。さらに、第一リング26については、一般的にはろう材として用いられない材料を採用することも可能である。
【0040】
第一リング26が溶融して排気孔18から流下するとき、これを受け止めて溜める部分たとえば環状溝を、排気孔18の下端部や排気ソケット20の下端面などに設けてもよい。
【0041】
次に、
図2を参照して、上述の真空封止構造を備えた真空断熱二重管の製造方法を説明する。なお、真空排気と高真空下で熱処理を行なうことのできる真空熱処理炉を使用するが、その構成は知られているため詳細な説明を省略する。
【0042】
(1)準備工程
準備工程では、排気ソケット20の排気孔18内に、第二リング26、球体30、第一リング24をこの順番で重ねて入れた、ワークとしての真空断熱二重管を準備する。そして、このワークを真空熱処理炉内へ搬入し、排気孔18を上向きにした状態で、所定位置にセットする。
【0043】
(2)排気工程
排気工程では、真空熱処理炉内を所定の真空度まで真空排気する。目標真空度の具体例を挙げるならば、10-2~10-3Paである。
排気工程においては、第一リング26によって球体30と排気孔18の内壁面22との間にすきまが形成され、通気路が確保されているため、ジャケット13の内部と外部すなわち炉内雰囲気とが連通した状態となり、排気が支障なく実行される。
【0044】
(3)加熱工程
真空熱処理炉内が目標真空度に達したら、その真空度を保持した状態で、加熱を開始する。目標加熱温度の具体例を挙げるならば、1000~1100℃である。
【0045】
加熱工程においては、第一リング26が溶融して流れ落ち、それに伴い、それまで第一リング26で支えられていた球体30が自重で落下し、排気孔18の内壁面22、具体的には円すい状の部分22aと接するに至る。
【0046】
一方、第二リング24は溶融して流動性を備えた溶融金属となり、球体30の表面を伝って流下し、排気孔18の内壁面22と球体30との間のすきまに浸透する。このとき、球体30が排気孔18の内壁面22に接しているため、溶融金属の下方に向かう移動は、排気孔18の内壁面22と球体30との接触部が下限となる。その結果、第二リング24由来の溶融金属が球体30の周方向に流動して全周に行き渡り、環状の溶融池を形成する。
【0047】
(4)冷却工程
目標加熱温度に達してから所定時間経過後、加熱を停止し、真空熱処理炉内を徐冷する。上述の第二リング24由来の溶融池は、冷却後、固化する。それにより、ろう付けが終了し、同時に真空封止が完了する。
【0048】
(5)搬出工程
ワークを真空熱処理炉から搬出し、ジャケット13が完全密封された、すなわち真空封止構造を具備した、完成品たる真空断熱二重管10を得る。
【0049】
以上、添付図面に例示した実施例に基づいてこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、ここに述べ、かつ、図示した実施の形態に限らず、特許請求の範囲を逸脱することなく種々の改変を加えて実施をすることができることは言うまでもない。とりわけ真空封止構造は、真空断熱二重管のような二重管に限らず、真空層を備えたあらゆるタイプの真空容器等に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 真空断熱二重管
12 内管
13 ジャケット
14 外管
16 ヘルール
18 排気孔
20 排気ソケット
22 内壁面
22a 円すい面状部分
22b 円筒形部分
24 第二リング
26 第一リング
28 切り欠き
30 球体
【手続補正書】
【提出日】2023-12-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークのジャケット内を真空に保持するための真空封止構造であって、前記ジャケットの内部を外部と連通させる排気孔をもった排気ソケットと、前記排気孔内に収容した球体とを有し、前記排気孔の内壁面は前記ジャケット内に向かって縮径した円すい面状の部分を含み、前記円すい面状の部分と前記球体を密着させて前記排気ソケットと前記球体を気密にろう付けしてあり、
前記排気孔内に、内周面及び/又は外周面に切り欠き及び/又はへこみを設けた第一リングと、前記球体と、ろう材製の第二リングを、この順番で収容した状態で真空熱処理炉内にセットする工程と、
真空熱処理炉内を所定の真空度に達するまで排気する排気工程と、
真空熱処理炉内を所定の温度に達するまで加熱する加熱工程を含む、真空封止構造の製造方法。
【請求項2】
前記第一リングは前記球体と前記内壁面との間に介在し、前記切り欠き及び/又は前記へこみが、前記球体及び/又は前記内壁面との間にすきまを形成して前記排気工程において通気を許容する、請求項1に記載の真空封止構造の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、前記第一リングが溶け落ちることにより、前記球体が落下して前記排気孔の前記内壁面と密着し、前記通気を遮断する、請求項2に記載の真空封止構造の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、前記第二リングが溶融して前記球体と前記排気孔の前記内壁面との間に浸透し、前記球体と前記排気ソケットを気密に接合する、請求項1に記載の真空封止構造の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、真空封止構造の製造方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
本発明の課題は、かかる問題を除去することにある。すなわち、本発明は、製造過程において弁体を保持し、また、移動させるための装置を必要としない、真空封止構造の製造方法を提供せんとするものである。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
本発明によれば、排気ソケットの排気孔に球体をろう付けした、長期にわたりメンテナンスフリーの真空封止構造を提供することができる。とりわけ、当該真空封止構造は、排気孔の円すい面状の内壁面によって球体を受け止めさせる構造であるから、最初に球体と第一、第二リングを排気孔内にセットすれば、その後の排気工程、加熱工程の間、何ら外部の装置を必要とすることなく、各工程を遂行することができる。したがって、そのような真空封止構造や、それを具備した真空断熱二重管等は、ワークの保持や工程間での移動のための特別な設備や装置を要することなく、容易に製造することができる。