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  • 特開-押湯切断方法および押湯 図1
  • 特開-押湯切断方法および押湯 図2
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  • 特開-押湯切断方法および押湯 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070821
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】押湯切断方法および押湯
(51)【国際特許分類】
   B22D 31/00 20060101AFI20240516BHJP
   B22C 9/08 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
B22D31/00 Z
B22C9/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181624
(22)【出願日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2022180863
(32)【優先日】2022-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】長島 健吾
(72)【発明者】
【氏名】行田 哲彬
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PB16
(57)【要約】
【課題】自動的に押湯を切断する押湯切断装置を用いて確実に押湯を切断することができる押湯切断方法および押湯を提供する。
【解決手段】鋳型に溶湯を注入して鋳造した後の押湯を切断する押湯切断方法は、切断トーチにより自動的に押湯を切断する押湯切断装置を準備する工程と、押湯の切断起点部分に、押湯切断装置の切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分を存在させる工程と、切断トーチの火炎により押湯の切断起点部分を予熱する工程と、予熱後、切断トーチを移動させて押湯を切断する工程とを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型に溶湯を注入して鋳造した後の押湯を切断する押湯切断方法であって、
切断トーチにより自動的に押湯を切断する押湯切断装置を準備する工程と、
前記押湯の切断起点部分に、前記押湯切断装置の前記切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分を存在させる工程と、
前記切断トーチの火炎により前記押湯の前記切断起点部分を予熱する工程と、
予熱後、前記切断トーチを移動させて前記押湯を切断する工程と、
を有することを特徴とする押湯切断方法。
【請求項2】
前記押湯は円柱状であることを特徴とする請求項1に記載の押湯切断方法。
【請求項3】
前記切り欠き部分の角度が120°以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押湯切断方法。
【請求項4】
前記予熱する工程は、前記押湯が溶融する温度に予熱することを特徴とする請求項1に記載の押湯切断方法。
【請求項5】
前記予熱する工程の際に前記切断トーチから放射される前記火炎は、燃焼ガスを供給して形成されることを特徴とする請求項4に記載の押湯切断方法。
【請求項6】
前記溶湯を構成する金属材料が鉄系材料である場合に、前記切断する工程において、切断箇所に、前記予熱する工程において供給された前記燃焼ガスの他に酸素ガスが供給され、
前記酸素ガスは、前記予熱する工程による予熱により前記押湯表面が溶融する温度またはその直前の温度に達した時点で供給が開始されることを特徴とする請求項5に記載の押湯切断方法。
【請求項7】
前記押湯切断装置は、前記切断トーチを三次元空間で自在に移動させる移動装置を有し、前記移動装置は、その先端に、前記切断トーチが取り付けられた首振り可能なヘッド部を有し、前記予熱する工程の際に前記ヘッド部を首振りさせることを特徴とする請求項1に記載の押湯切断方法。
【請求項8】
鋳型に溶湯を注入して鋳造された鋳物に付属し、切断トーチにより自動的に切断する押湯切断装置を用いて切断される押湯であって、
切断トーチにより切断される切断起点部分に、前記切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分が形成され、
前記切断トーチの火炎により前記切断起点部分が予熱され、予熱後、前記切断トーチが移動されることにより切断されることを特徴とする押湯。
【請求項9】
円柱状であることを特徴とする請求項8に記載の押湯。
【請求項10】
前記切り欠き部分の角度が120°以下であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の押湯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物に付属した押湯を切断する押湯切断方法および押湯に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物は鋳型に溶湯を注入することにより製造されるが、溶湯の凝固収縮によって製品に発生する引け巣等の鋳造欠陥を防止するために、鋳物の製品部に溶湯を補給する押湯を設けることがある。
【0003】
押湯は、溶湯が凝固後にバーナ等を用いて切断されるが、手作業では熟練を要し、また多大な時間がかかることから、特許文献1には、押湯を自動的に切断する押湯切断装置(ロボット)が提案されている。
【0004】
特許文献1の押湯切断装置は、ガス切断トーチと、切断トーチを移動させる移動装置と、移動装置の移動動作を制御する制御装置とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5960591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の押湯切断装置では、移動装置の移動動作が適宜制御されて押湯の切断が可能であるが、押湯の切断起点において十分に予熱ができずに切断が失敗することがある。
【0007】
本発明は、自動的に押湯を切断する押湯切断装置を用いて確実に押湯を切断することができる押湯切断方法および押湯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)~(10)の手段を提供する。
【0009】
(1)鋳型に溶湯を注入して鋳造した後の押湯を切断する押湯切断方法であって、
切断トーチにより自動的に押湯を切断する押湯切断装置を準備する工程と、
前記押湯の切断起点部分に、前記押湯切断装置の前記切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分を存在させる工程と、
前記切断トーチの火炎により前記押湯の前記切断起点部分を予熱する工程と、
予熱後、前記切断トーチを移動させて前記押湯を切断する工程と、
を有することを特徴とする押湯切断方法。
【0010】
(2)前記押湯は円柱状であることを特徴とする(1)に記載の押湯切断方法。
【0011】
(3)前記切り欠き部分の角度が120°以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の押湯切断方法。
【0012】
(4)前記予熱する工程は、前記押湯が溶融する温度に予熱することを特徴とする(1)に記載の押湯切断方法。
【0013】
(5)前記予熱する工程の際に前記切断トーチから放射される前記火炎は、燃焼ガスを供給して形成されることを特徴とする(4)に記載の押湯切断方法。
【0014】
(6)前記溶湯を構成する金属材料が鉄系材料である場合に、前記切断する工程において、切断箇所に、前記予熱する工程において供給された前記燃焼ガスの他に酸素ガスが供給され、
前記酸素ガスは、前記予熱する工程による予熱により前記押湯表面が溶融する温度またはその直前の温度に達した時点で供給が開始されることを特徴とする(5)に記載の押湯切断方法。
【0015】
(7)前記押湯切断装置は、前記切断トーチを三次元空間で自在に移動させる移動装置を有し、前記移動装置は、その先端に、前記切断トーチが取り付けられた首振り可能なヘッド部を有し、前記予熱する工程の際に前記ヘッド部を首振りさせることを特徴とする(1)に記載の押湯切断方法。
(8)鋳型に溶湯を注入して鋳造された鋳物に付属し、切断トーチにより自動的に切断する押湯切断装置を用いて切断される押湯であって、
切断トーチにより切断される切断起点部分に、前記切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分が形成され、
前記切断トーチの火炎により前記切断起点部分が予熱され、予熱後、前記切断トーチが移動されることにより切断されることを特徴とする押湯。
【0016】
(9)円柱状であることを特徴とする(8)に記載の押湯。
【0017】
(10)前記切り欠き部分の角度が120°以下であることを特徴とする(8)または(9)に記載の押湯。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、自動的に押湯を切断する押湯切断装置を用いて確実に押湯を切断することができる押湯切断方法および押湯が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る押湯切断方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る押湯切断方法の実施に用いられる押湯切断装置の一例を示す側面図である。
図3】切り欠き部が存在する押湯を具体的に示す斜視図である。
図4】押湯の切り欠き部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態においては、鋳型に溶湯を注入して鋳造した後の押湯を切断する。鋳型に注入される溶湯を構成する金属材料は特に限定されないが、鋳鋼等の鉄系材料が例示される。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る押湯切断方法を示すフローチャートである。
本実施形態の押湯切断方法は、切断トーチにより自動的に押湯を切断する押湯切断装置(ロボット)を準備する工程(ST1)と、押湯の切断起点に対応する位置に切断装置の切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分を存在させる工程(ST2)と、切断トーチの火炎により押湯の切断起点部分を予熱する工程(ST3)と、予熱後、切断トーチを移動させて押湯を切断する工程(ST4)と、を有する。
【0022】
図2に示すように、ST1における押湯切断装置10は、切断トーチ1と、移動装置2と、制御装置3とを有する。
【0023】
切断トーチ1は、燃焼ガスによる火炎を放射して押湯を切断するものである。燃焼ガスとしては、都市ガス、アセチレンガス、プロパンガス、水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガス等を用いることができる。水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスとしては、例えば、水素ガスとエチレンガスとの混合ガスを挙げることができる。水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスは、都市ガス等と比較して、火炎の直進性が高いため熱エネルギー密度が高く、かつ、輻射熱が少ないため切断に必要な局所的な熱量が増加し、高速で平坦に切断することが可能となる。また、水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスは、都市ガス等の他のガスと比較して、燃焼ガスの単位体積あたりのCO発生量を少なくすることができる。水素ガスとエチレンガス等の炭化水素ガスとの混合ガスにおいて、水素ガスの比率は、30~70vol%、例えば60vol%であってよい。
【0024】
移動装置2は、切断トーチ1を三次元空間で自在に移動させるものであり、図2の例では、移動装置2は、多関節構造を有しており、その先端のヘッド部に切断トーチ1が取り付けられる。ヘッド部は関節部を介して首振りが可能であり、予熱の際にヘッド部を首振りさせてもよい。これにより、切り欠き部への予熱の際に火炎を予熱が必要な箇所に有効に到達させることができる。
【0025】
制御部3は、移動装置2による切断トーチ1の移動を制御するとともに、切断トーチ1からの火炎のオンオフやガスの流量等を制御する。
【0026】
押湯切断装置10においては、移動装置2により切断トーチ1を鋳物20に付属する押湯21の切断箇所に対応する位置に位置させ、切断トーチ1からの火炎が押湯21の切断箇所に放射された状態で移動装置2により切断トーチ1を移動させることで押し湯21を切断する。
【0027】
ST2では、押湯の切断起点に対応する位置に切断装置の切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分を存在させるが、これは以下のような理由による。
【0028】
押湯は、鋳型に溶湯を注入して鋳物を製造する際に、溶湯の凝固収縮によって製品に発生する引け巣等の鋳造欠陥を防止するために、鋳物の製品部に付属して設けられるものであり、製品部に溶湯を補給するものである。溶湯が凝固した後は、鋳型を取り外して鋳物が得られるが、鋳物には凝固した押湯が付属しているため、押湯を切断除去する。
【0029】
押湯を切断トーチで切断する場合には、押湯の切断起点部分を十分に予熱してから切断トーチを移動させて切断する必要があるが、押湯が例えば円柱状であると、押湯の切断起点部分に切断トーチの火炎を当てても火炎が円周方向に逃げていき、予熱が困難な場合がある。このような予熱が困難な形状の押湯であっても、切断作業を熟練工が行う場合には、切断トーチの火炎位置の調整等により押湯の切断起点部分を適切に予熱することができ、押湯を適切に切断することができる。しかし、押湯の切断を押湯切断装置(ロボット)により自動的に行う場合には、切断トーチの火炎位置の調整を必ずしも適切に行えるわけではなく、予熱が不十分なまま切断トーチが移動され、押湯の切断が失敗してしまうことがある。ヘッド部を首振りさせることにより、予熱が必要な箇所に有効に火炎を到達させることができるが、それでもなお、十分でない場合が生じる。
【0030】
そこで、本実施形態では、押湯の切断起点に切断装置の切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分を存在させる。具体的には、図3に示すように、鋳物20に付属する押湯21の基端部の切断起点に対応する位置に切断トーチからの火炎が集中するような切り欠き部分22を存在させる。これにより、後述するように、予熱の際に切断トーチからの火炎が切断起点に集中し、十分な予熱を行うことができる。
【0031】
切り欠き部分22の形状は切断トーチからの火炎が集中するような形状であれば特に限定されない。図4に示す切り欠き部分22の角度θは、120°以下が好ましく、90°以下がより好ましい。
【0032】
押湯の切り欠き部分は、鋳型の元型である木型の段階で対応する部分に同じ形状の切り欠き部分を形成しておくことにより、存在させることができる。
【0033】
ST3の予熱工程は、例えば、切断トーチを停止した状態で、またはヘッド部を首振りさせた状態で、切断トーチからの火炎を押湯の切断起点部分に放射し、押湯が溶融する温度に予熱する。このとき、上述のように、切り欠き部分に火炎を集中させることができるので、十分な予熱を行うことができる。
【0034】
ST4の切断工程では、ST3の予熱により押湯の切断起点部分が十分に加熱された状態で、切断トーチを移動させ、火炎の熱により押湯を切断する。このとき、押湯は予熱により十分に高い温度に加熱されているため、押湯を適切に切断することができる。
【0035】
鋳造される金属材料が、鋳鋼等の鉄系材料の場合、切断する際に酸化する必要があるため、切断に際しては、切断箇所に燃焼ガスの他に酸素ガスを供給する。このとき、酸素ガスは、ST3の予熱により押湯表面が溶融する温度またはその直前の温度、例えば1550℃に達した時点で供給が開始されることが好ましい。酸素ガスを供給するタイミングが早すぎると無駄な酸素ガスの量が多くなってしまう。酸素ガスを供給するタイミングは、製品ごとに予め把握しておき、制御部3にプログラミングしておくことが好ましい。
【0036】
本実施形態によれば、自動的に押湯を切断する押湯切断装置を用いて確実に押湯を切断することができる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、これらはあくまで例示に過ぎず、制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0038】
例えば、上記実施形態では図2に示すような多関節タイプの移動装置を用いて切断トーチを移動させる例を示したが、これに限るものではない。
【符号の説明】
【0039】
1 切断トーチ
2 移動装置
3 制御部
10 押湯切断装置(ロボット)
20 鋳物
21 押湯
22 切り欠き部分
図1
図2
図3
図4