(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070826
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物用分散液体、樹脂組成物および膜成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 7/02 20060101AFI20240516BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240516BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240516BHJP
C08L 21/02 20060101ALI20240516BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20240516BHJP
C08C 1/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C08L7/02
C08K3/26
C08K9/04
C08L21/02
C08L33/02
C08C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187711
(22)【出願日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2022181044
(32)【優先日】2022-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】奥西 良太
(72)【発明者】
【氏名】菅野 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 智明
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC011
4J002BG012
4J002DE236
4J002EH047
4J002EH057
4J002FB086
4J002FD016
4J002FD317
4J002GC00
4J002GG02
4J002GT00
4J002HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】表面処理を施した炭酸カルシウムを添加した天然ゴムまたは合成ゴムラテックスにより形成した、強度の高い膜成形体を提供すること。
【解決手段】電子顕微鏡観察法にて求められる平均粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、湿潤剤0.1-4.0質量部と、およびポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、を含む、樹脂組成物用分散液体を提供する。さらに樹脂組成物用分散液体を含む樹脂組成物、ならびに樹脂組成物から形成された膜成形体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡観察法にて求められる平均粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、
湿潤剤0.1-4.0質量部と、および
ポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、
を含む、樹脂組成物用分散液体。
【請求項2】
表面処理炭酸カルシウム100質量部に対し、4.0質量部以下の消泡剤をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物用分散液体。
【請求項3】
天然ゴムまたは合成ゴムラテックスと、樹脂組成物用分散液体と、を含む樹脂組成物であって、
該樹脂組成物用分散液体は、電子顕微鏡観察法にて求められる平均一次粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、
湿潤剤0.1-4.0質量部と、および
ポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、
を含み、
該天然ゴムまたは合成ゴムラテックスに含まれている天然ゴムまたは合成ゴムラテックスポリマーと、該樹脂組成物用分散液体に含まれている該表面処理炭酸カルシウムとの質量比は、100:1~100:40である、樹脂組成物。
【請求項4】
該樹脂組成物用分散液体は、4.0質量部以下の消泡剤をさらに含む、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の樹脂組成物を加硫させてなる、膜成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に用いる分散液体と、それを混合した樹脂組成物および樹脂組成物から形成した膜成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム手袋の市場は年々増加している。ゴム手袋に従来から使用されている天然ゴムには、アレルゲンとなるタンパク質が含まれている。このため、アナフィラキシーショック等を防止する観点から、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等の合成ゴムや、アレルゲンタンパク質を除去した天然ゴムを使用したゴム手袋が好まれている。
一方、ゴム手袋使用者の作業性の向上や、ゴム手袋自体のコストダウンを図るため、ゴム手袋のより一層の薄膜化が試みられている。ゴム手袋の厚さを小さくすると、物理的強度が低下するため、日本産業規格(JIS T9107、T9113、T9114、T9115等)に定められた規格値を下回る可能性がある。そこで、薄膜でも強度の高いゴム手袋ならびにそのようなゴム手袋を形成可能なゴム組成物の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1には、硫黄および加硫促進剤を使用しない、配合カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス混合物から製造されるニトリル手袋が開示されている。特許文献1のゴム手袋は、架橋剤としてアルミニウム-酸化亜鉛化合物と、金属イオン安定剤とを含み、IV型アレルギーのリスクを減少させるために硫黄および加硫促進剤を使用していない。これによりカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックスの充填剤担持能力を増加させてコストダウンを図っている。
特許文献2には、耐薬品性を損なわず、費用対効果が高く食品産業で使用できる手袋を製造するためのラテックス配合物として、エラストマーと、熱可塑性樹脂と、促進剤と、消泡剤と、酸化防止剤と、架橋剤と、着色剤と、界面活性剤と、充填剤と、pH調整剤と、分散媒体とを含むラテックス配合物が開示されている。
特許文献3には、高い架橋効率、電気的絶縁性、機械的強度を有するゴム組成物として、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)とエチレン-プロピレン三元共重合体(EPDM)の2種類のゴムマトリックスを含むゴム組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-9272号公報
【特許文献2】特開2021-55040号公報
【特許文献3】特表2020-507001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1-3は、いずれも、ラテックスやゴムの配合物に充填剤として炭酸カルシウムを添加することができることを開示している。しかしながらこれらの特許文献には、炭酸カルシウムがゴムラテックス中に分散にしにくいこと等の、ゴム成形体の強度特性の向上を目的として炭酸カルシウムを添加するにあたり生じうる技術課題は記載されておらず、これらの解決手段の提案もない。
【0006】
本発明は、樹脂組成物より形成された膜成形体の強度特性の向上を図るために炭酸カルシウムを効果的に利用すること、具体的には樹脂組成物中での炭酸カルシウムの分散性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電子顕微鏡観察法にて求められる平均粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、湿潤剤0.1-4.0質量部と、およびポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、を含む、樹脂組成物用分散液体である。
【0008】
ここで、樹脂組成物用分散液体は、表面処理炭酸カルシウム100質量部に対し、4.0質量部以下の消泡剤をさらに含むことが好ましい。
【0009】
さらに本発明は、天然ゴムまたは合成ゴムラテックスと、樹脂組成物用分散液体と、を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物用分散液体は、電子顕微鏡観察法にて求められる平均一次粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、湿潤剤0.1-4.0質量部と、およびポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、を含み、該天然ゴムまたは合成ゴムラテックスに含まれている天然ゴムまたは合成ゴムラテックスポリマーと、該樹脂組成物用分散液体に含まれている該表面処理炭酸カルシウムとの質量比は、100:1~100:40である、樹脂組成物である。
【0010】
ここで、樹脂組成物に含まれている樹脂組成物用分散液体は、4.0質量部以下の消泡剤をさらに含むことが好ましい。
【0011】
さらに本発明は、上記の樹脂組成物を加硫させてなる、膜成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、表面処理を施した炭酸カルシウムを含む樹脂組成物用分散液体を樹脂と混合することにより、物理的強度の向上した膜成形体を形成可能な樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0014】
本発明の一の実施形態は、電子顕微鏡観察法にて求められる平均粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、湿潤剤0.1-4.0質量部と、およびポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、を含む、樹脂組成物用分散液体である。
【0015】
一の実施形態の樹脂組成物用分散液体とは、樹脂組成物、特にゴム組成物に添加することを目的とした液体である。樹脂組成物用分散液体は、後述するように、樹脂組成物から形成された膜成形体の強度の向上を目的とした炭酸カルシウムを含んでいる。一の実施形態の樹脂組成物用分散液体は、この炭酸カルシウムを、予め良好に分散させた分散液体の形で用意しておくためのものである。樹脂組成物、および樹脂組成物から形成された膜成形体については後述する。一の実施形態の樹脂組成物用分散液体の主成分は、水である。
【0016】
一の実施形態の樹脂組成物用分散液体は、電子顕微鏡観察法にて求められる平均粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウムを含む。炭酸カルシウムは、従来より樹脂組成物の充填剤として広く用いられている物質であり、樹脂組成物により形成された膜成形体の強度特性を向上させることができる。ここで、炭酸カルシウムとは、組成式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩であり、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態で用いる炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムである。したがって、本明細書にて単に炭酸カルシウムと云う場合、特に断らない限り軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)のことを意味するものとする。炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれであっても良い。
【0017】
一の実施形態において用いられる炭酸カルシウムは、表面処理された、表面処理炭酸カルシウムであることが好ましい。本明細書にて表面処理炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウムの表面の少なくとも一部を表面処理剤が覆う状態となっているか、あるいは、炭酸カルシウムの表面の少なくとも一部に表面処理剤が付着した状態となっていることを指す。炭酸カルシウムの表面処理は、たとえば、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される物質を含む表面処理剤を用いて行うことができるが、一の実施形態では、特に、樹脂酸、樹脂酸のエステル、樹脂酸の金属塩(特に樹脂酸ナトリウム塩または樹脂酸カリウム塩)を含む表面処理剤を用いて表面処理されていることが好ましい。ここで樹脂酸とは、松脂などの天然植物樹脂に由来するカルボキシル基を有する化合物である。樹脂酸として、アビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、ネオアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、メチルデヒドロアビエチン酸、レボピマル酸、サンダラコピマル酸等の炭素数20程度のジテルペンカルボン酸を挙げることができる。これらの樹脂酸の混合物を主成分として含むガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類およびこれらの精製物は、一般にロジン酸と呼ばれ、一の実施形態の表面処理炭酸カルシウムの表面処理に好適に用いることができる。炭酸カルシウムの表面が、樹脂酸で処理されていることにより、炭酸カルシウムの樹脂への分散性が向上する。
【0018】
一の実施形態において、表面処理炭酸カルシウムは、電子顕微鏡観察法にて求められる平均粒子径が20-150nmであることが好ましい。ここで平均粒子径とは、炭酸カルシウムの一次粒子径を指す。表面処理炭酸カルシウムの平均粒子径は、具体的には、電子顕微鏡を用いた観察による画像解析にて算出することができる。
【0019】
好適な範囲の平均粒子径を有する表面処理炭酸カルシウムを得るために、たとえば、水酸化カルシウムスラリー(懸濁液)に炭酸ナトリウム水溶液を添加して炭酸カルシウムスラリーを製造する、いわゆる苛性化法により炭酸カルシウムを製造することができるが、これには限定されない。合成された炭酸カルシウムをそのまま、あるいは粉砕等の処理を施し、所望の平均粒子径を有する炭酸カルシウムを得ることができる。先に記載した通り、表面処理炭酸カルシウムの平均粒子径は、小さいほど樹脂組成物から形成された膜成形体の強度を向上させる効果が高くなる。しかしながら平均粒子径が小さすぎると炭酸カルシウムの粒子同士が凝集して高次粒子を形成しやすくなるため、樹脂組成物への分散が困難になるおそれがある。炭酸カルシウムを樹脂組成物中に良好に分散させて、樹脂組成物から形成された膜成形体の強度の向上に寄与させるため、適切な範囲の平均一次粒子径を有する炭酸カルシウムに樹脂酸により表面処理を行って用いることが好ましい。
【0020】
炭酸カルシウムの表面処理は、既知の方法で適宜行うことが可能であるが、たとえば、炭酸カルシウムと水とを含むスラリーに、上記の樹脂酸類の少なくとも1種を添加し、脱水、および乾燥する方法(湿式法)により行うことができる。たとえば、ロジン酸で炭酸カルシウムを表面処理する具体的な方法としては、次のような方法が挙げられる。
【0021】
ロジン酸を水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液中で加熱しながら、ロジン酸アルカリ金属塩水溶液を得る。次に、炭酸カルシウムと水とのスラリーに、ロジン酸アルカリ金属塩水溶液を添加して、攪拌する。これにより、炭酸カルシウムの表面にロジン酸アルカリ金属塩を付着させることができる。表面をロジン酸アルカリ金属塩で処理した炭酸カルシウムスラリーの脱水は、たとえば、フィルタープレス等の方法によって行うことができる。また、乾燥は、たとえば、箱型乾燥機等を用いて行えばよい。こうして、表面処理炭酸カルシウムを得ることができる。
【0022】
一の実施形態の樹脂組成物用分散液体は、上記の表面処理炭酸カルシウムの他、湿潤剤と分散剤とを少なくとも含む。湿潤剤とは、一般に、固体の表面を濡れやすくする作用を有する界面活性剤であるが、一の実施形態では、表面処理炭酸カルシウムを水になじませる、すなわち樹脂組成物用分散液体(水系)中に、撥水性の表面処理炭酸カルシウムを良好に分散させるために用いられる。湿潤剤として、たとえば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルのような、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートのようなポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのような非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。この他、湿潤剤の例として、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、脂肪族多価カルボン酸類、ポリカルボン酸類、長鎖アミノアマイド、特殊変性ポリアマイド、リン酸エステル、変性シリコーン類、フッ素含有ポリマー等を挙げることができる。樹脂組成物用分散液体中における湿潤剤の量は、表面処理炭酸カルシウム60質量部に対し、0.1-4.0質量部、好ましくは0.6-1.8質量部、さらに好ましくは1.0-1.2質量部である。樹脂組成物用分散液体中において、湿潤剤の量が少なすぎると、表面処理炭酸カルシウムと樹脂とが良好に混ざらず、反対に湿潤剤の量が多すぎると、耐久性、耐食性の悪化につながる。湿潤剤は、サンノプコ株式会社のSNウエットシリーズ等の市販品を適宜入手することができる。
【0023】
一方、分散剤とは、樹脂組成物用分散液体と樹脂とを混合する際に、樹脂組成物用分散液体中に含まれている表面処理炭酸カルシウムを樹脂中に均一に分散させるために用いられる。分散剤として、たとえば、ポリアクリル酸のナトリウム塩等のポリカルボン酸のナトリウム塩を用いることが特に好ましい。樹脂組成物用分散液体中における分散剤の量は、表面処理炭酸カルシウム100質量部に対し、1.0-10.0質量部、好ましくは3.0-8.0質量部、さらに好ましくは4.0-6.0質量部である。樹脂組成物用分散液体中において、分散剤が少なすぎると、表面処理炭酸カルシウムが樹脂中に良好に分散せず、反対に分散剤の量が多すぎると、粒子の再凝集が起こり樹脂組成物用分散液体の粘度が高くなることや、樹脂組成物用分散液体を用いて成形した膜成形体の強度物性の低下が生じる等の不利益が起こる。分散剤は、東亞合成株式会社のA-6330等の市販品を適宜入手することができる。このように、撥水性を有する表面処理炭酸カルシウムを樹脂組成物用分散液体(水系)中に分散させ、さらに樹脂組成物中にも良好に分散させるために、湿潤剤と分散剤とを所定の量で配合することが好ましい。
【0024】
一の実施形態の樹脂組成物用分散液体は、この他、消泡剤をさらに含むことが好ましい。消泡剤は、樹脂組成物が泡立つことを防止するために添加されるものである。消泡剤として、たとえば、ポリエーテル系、金属石鹸系、鉱物油系、シリコーン系の消泡剤を用いることができる。消泡剤の具体例として、たとえば、高級アルコールとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドとのエーテル;高級アルコールや高級エステルを水に乳化分散させたもの;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等の脂肪族エステル;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール等のアルコール類;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等のシリコーン類を挙げることができる。樹脂組成物用分散液体における消泡剤の量は、表面処理炭酸カルシウム100質量部に対し、4.0質量部以下、好ましくは2.0質量部以下である。消泡剤は必須の成分ではなく、添加する場合には少ないほど好ましい。消泡剤の量が多すぎると、外観不良や成膜品の強度物性の低下が生じる。消泡剤は、サンノプコ株式会社のノプコNXZシリーズ等の市販品を適宜入手することができる。
【0025】
一の実施形態の樹脂組成物用分散液体は、これらの成分のほか、乳化剤、増粘剤、殺生物剤、酸化防止剤、潤滑剤、離型剤、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤等の、樹脂組成物に一般的に用いられる各種添加剤を含んでいても良い。樹脂組成物用分散液体は、表面処理炭酸カルシウムと、湿潤剤、分散剤と、所望の場合消泡剤および他の添加剤とを所定の量混合し、適宜分散機等を利用して、水に分散させることにより得ることができる。
【0026】
本発明の二の実施形態は、天然ゴムまたは合成ゴムラテックスと、樹脂組成物用分散液体と、を含む樹脂組成物である。樹脂組成物用分散液体は、電子顕微鏡観察法にて求められる平均一次粒子径が20-150nmであり、かつ樹脂酸により表面処理された表面処理炭酸カルシウム100質量部と、湿潤剤0.1-4.0質量部と、およびポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤1.0-10.0質量部と、を含み、天然ゴムまたは合成ゴムラテックスに含まれている天然ゴムまたは合成ゴムラテックスポリマーと、樹脂組成物用分散液体に含まれている表面処理炭酸カルシウムとの質量比は、100:1~100:40であることを特徴とする。二の実施形態の樹脂組成物は、天然ゴムまたは合成ゴムラテックスを含む。天然ゴムラテックスは、パラゴムノキから採取された乳液のことであり、天然ゴムラテックスに含まれているゴム成分(天然ゴムラテックスポリマー)を凝固させて天然ゴムを製造することができる。一方合成ゴムラテックスは、人工的に合成されたゴム状物質を含む乳液のことである。合成ゴムラテックスに含まれている合成ゴムラテックスポリマーとして、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MBR)、2-ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体(VP)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)等を挙げることができる。天然ゴムまたは合成ゴムラテックスポリマーの、ラテックス中での粒子径は、および0.1-0.3μmである。天然ゴムまたは合成ゴムラテックスの固形分(天然ゴムまたは合成ゴムラテックスポリマー分)の濃度は、通常40-70質量%、好ましくは45-55質量%程度である。このような範囲の固形分濃度を有する天然ゴムまたは合成ゴムラテックス中に含まれている天然ゴムまたは合成ゴムラテックスポリマーと、樹脂組成物用分散液体に含まれている表面処理炭酸カルシウムとを、質量比で100:1~100:40となるように混合することができる。天然ゴムまたは合成ゴムラテックスの量に対して樹脂組成物用分散液体の量は、多すぎても少なすぎても、樹脂組成物から形成された膜成形体の強度の向上の効果が期待できない。適切な量の天然ゴムまたは合成ゴムラテックスと樹脂組成物用分散液体とを混合し、適宜撹拌機等を利用して、混合して樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
二の実施形態に用いる樹脂組成物用分散液体として、一の実施形態を用いることが好ましい。先に説明した通り、一の実施形態の樹脂組成物用分散液体は、表面処理炭酸カルシウムを含む組成物である。表面処理炭酸カルシウムは、樹脂組成物から形成された膜成形体の強度を向上させる役割を果たす。また、二の実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて加硫剤、加硫促進剤、受酸剤等の添加剤を含んでいて良い。
【0028】
本発明の三の実施形態は、二の実施形態の樹脂組成物を加硫させてなる膜成形体である。天然ゴムまたは合成ゴムラテックスを含む二の実施形態の樹脂組成物を、成形型に浸漬して成形型の表面に樹脂組成物の膜を形成し、次いで、成形型ごと加硫させて、膜成形体を製造することができる。ここで加硫とは、樹脂組成物中の樹脂成分が架橋反応により樹脂組成物が固化することを意味する。表面に樹脂組成物の膜が形成された成形型を、樹脂を凝固させる作用を有する凝固剤を含んだ凝固浴に浸漬することにより、樹脂の加硫を促進させることができる。また樹脂組成物の加硫は、樹脂組成物を加熱することにより促進することもできる。樹脂組成物が加硫して固化した後に、成形型ごと熱湯等を用いて水洗して膜に含まれている各種添加剤を除去し、成形型から外して膜成形体を得る。三の実施形態の膜成形体の代表例は、ゴム手袋である。なお、三の実施形態の膜成形体の厚さは、用途にも依るが、通常は0.1-1.0mm、好ましくは0.15-0.5mm程度である。三の実施形態の膜成形体には、表面処理炭酸カルシウムが分散されており、強度特性が向上している。ここで膜成形体の強度特性とは、たとえば、引張強度、破断伸び、引裂強度のような、機械的特性のことを指す。すなわち、本明細書において、強度特性の向上、強度の向上、良好な強度等という場合は、膜成形体の厚さが比較的小さくても高い機械的特性を示す、ことを意味する。
【実施例0029】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[ラテックス]
樹脂組成物を作製するにあたり、天然ゴムラテックス(NRラテックス、ゴム成分の固形分割合61%)100phrに対し亜鉛華(正同化学株式会社)0.5phr、加硫促進剤であるジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC、大内新興化学株式会社)0.8phrおよび加硫剤であるコロイド硫黄(細井化学株式会社)1.0phrを配合したラテックスを用意した。
【0031】
[樹脂組成物用分散液体]
表面処理炭酸カルシウムとして、白艶華-O(平均一次粒子径30nm、ロジン酸により表面処理した表面処理炭酸カルシウム、白石工業株式会社)を用意した。湿潤剤として
レオドールTW-L120(ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、花王株式会社)を用意した。分散剤としてA-6330(ポリカルボン酸ナトリウム、東亞合成株式会社)を用意し、さらに消泡剤としてノプタム8034-LF(鉱油、シリカ、ポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤等の混合物、サンノプコ株式会社)を用意した。表面処理炭酸カルシウム60質量部に対し、湿潤剤1.2質量部、分散剤10.0質量部、消泡剤1.0質量部、水60質量部を配合し、ペイントコンディショナーで120分間分散させ、樹脂組成物用分散液体を得た(分散液体1)。
分散液体1において、白艶華-Oの代わりに、白艶華-T-DD(平均一次粒子径80nm、ロジン酸により表面処理した表面処理炭酸カルシウム、白石工業株式会社)を用いた分散液体を得た(分散液体2)。
分散液体1において、白艶華-Oの代わりに、カルモスA(平均一次粒子径50nm、ロジン酸及びリグニン酸により表面処理した表面処理炭酸カルシウム、白石工業株式会社)を用いた分散液体を得た(分散液体3)。
分散液体1において、白艶華-Oの代わりに、ホモカルD(平均一次粒子径80nm、ロジン酸により表面処理した表面処理炭酸カルシウム、白石工業株式会社)を用いた分散液体を得た(分散液体4)。
分散液体1において、白艶華-Oの代わりに、白艶華-DD(平均一次粒子径50nm、ロジン酸により表面処理した表面処理炭酸カルシウム、白石工業株式会社)を用いた分散液体を得た(分散液体5)。
分散液体1において、白艶華-Oの代わりに、Brilliant-1500(平均一次粒子径150nmの表面処理のない炭酸カルシウム、白石工業株式会社)を用い、湿潤剤を添加しない分散液体を得た(分散液体6)。
分散液体1において、白艶華-Oの代わりに、ホワイトンP-30(平均粒子径4.0μmの表面処理のない炭酸カルシウム、東洋ファインケミカル株式会社)を用い、湿潤剤を添加しない分散液体を得た(分散液体7)。
分散液体1において、分散剤であるA-6330の代わりに、ディスパーサント5027(ポリカルボン酸のアンモニウム塩、サンノプコ株式会社)を用いて、分散液体を得た(分散液体8)。
分散液体1において、分散剤であるA-6330の代わりに、SN-PW-43(縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、サンノプコ株式会社)を用いて、分散液体を得た(分散液体9)。
分散液体1において、分散剤であるA-6330の代わりに、デモールN(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダ、花王株式会社)を用いて、分散液体を得た(分散液体10)。
【0032】
[樹脂組成物の作製]
上記のラテックスと、分散液体1とを質量で167:20になるように混合した(実施例1)。同様に、ラテックスと、分散液体2、分散液体3、分散液体4または分散液体5とを質量で167:20になるように混合した(実施例2-5)。
ラテックスと、分散液体6、分散液体7、分散液体8、分散液体9または分散液体10とを質量で167:20になるように混合した(比較例1-5)。
また、対照の樹脂組成物として、上記のラテックス(分散液体を混合しないもの)を用いた。
【0033】
[膜成形体の作製]
70℃で予熱した成形型(株式会社シンコー)を25wt%の硝酸カルシウム水溶液に浸漬し、再度70℃で乾燥させた。硝酸カルシウムが表面に付着した成形型を各樹脂組成物浴に浸漬し、100℃で60分間加硫させることで、厚さ0.20-0.40mmの範囲の膜成形体を作製した。
【0034】
[膜成形体の特性]
[ヤング率、引張強さ、破断伸びの測定]
各膜成形体からダンベル状3号形試験片を切り出し、抗張力試験機(ショッパー式、株式会社上島製作所)を用いて500%伸び時のヤング率[MPa]、引張強さ[MPa]、および破断伸び[%]をそれぞれ測定した。
[引裂強さの測定]
各膜成形体からクレセント型試験片を切り出し、1mmの切り込みを入れ、抗張力試験機(ショッパー式、株式会社上島製作所)を用いて引き裂き強さ[N/mm]を測定した。
【0035】
【表1-1】
【表1-2】
【表2-1】
【表2-2】
【0036】
本発明の分散液体と混合したラテックスより形成された膜成形体は、対照の膜成形体よりも高い機械的強度を有していた。一方、比較例1および2(表面処理をしていない炭酸カルシウムを含む分散液体と混合したラテックス)の膜成形体は、対照の膜成形体よりはやや高い機械的強度を示したものの、実施例にかかる膜成形体ほどの改善は見られなかった。また、ポリカルボン酸ナトリウムを含む分散剤を配合していない分散液体と混合したラテックスより形成された膜成形体(比較例3-5)は、満足な機械的強度を示さなかった。