(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070853
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】副鼻腔疾患判定補助プログラム、副鼻腔疾患判定学習プログラム、情報処理装置、副鼻腔疾患判定補助方法及び副鼻腔疾患判定学習方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
A61B6/03 360T
A61B6/03 360J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192646
(22)【出願日】2023-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2022181463
(32)【優先日】2022-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、橋渡し研究プログラム、「鼻および副鼻腔疾患のAIによるCT画像診断支援システム開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】坂下 雅文
(72)【発明者】
【氏名】張 潮
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 重治
(72)【発明者】
【氏名】扇 和弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寿人
(72)【発明者】
【氏名】足立 直人
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA39
4C093DA04
4C093FD03
4C093FD09
4C093FD12
4C093FF16
4C093FF17
4C093FF27
4C093FF42
4C093FG13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CT画像から副鼻腔疾患の診断を支援する方法において、区画化の学習を効率化し、複数の副鼻腔疾患の診断を支援する副鼻腔疾患判定補助プログラム、副鼻腔疾患判定学習プログラム、情報処理装置、副鼻腔疾患判定補助方法及び副鼻腔疾患判定学習方法を提供する。
【解決手段】情報処理装置1は、副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した区画学習結果情報114に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する副鼻腔区画特定手段104と、複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する区画内炎症推定手段105と、複数の区画の炎症の組み合わせについて、炎症疾患関連付情報117との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する副鼻腔疾患候補判定手段106とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した第1の学習結果に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する特定手段と、
前記複数断面のCT画像から、前記複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する推定手段と、
前記複数の区画の炎症の組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症の組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する判定手段として動作させる副鼻腔疾患判定補助プログラム。
【請求項2】
前記複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像は、
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションが補間されることで生成される請求項1に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
【請求項3】
前記推定手段は、前記複数断面のCT画像のうち前記複数の区画のそれぞれに対応する領域に含まれる画素のパラメータの統計値に基づいて炎症を推定する請求項1又は2に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
【請求項4】
前記判定手段は、前記複数の区画を次元とする空間において、前記複数の区画の炎症の組み合わせと、前記関連付情報中の疾患毎の前記複数の区画の炎症の組み合わせとの距離に基づいて類似度を算出する請求項1又は2に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
【請求項5】
コンピュータを、
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、前記複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションを補間する補間手段として機能させる副鼻腔疾患判定学習プログラム。
【請求項6】
前記補間手段によって副鼻腔の区画のアノテーションが付与された各断面のCT画像を用いて学習し、第1の学習結果を生成する学習手段としてさらに機能させる請求項5に記載の副鼻腔疾患判定学習プログラム。
【請求項7】
副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した第1の学習結果に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する特定手段と、
前記複数断面のCT画像から、前記複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する推定手段と、
前記複数の区画の炎症の組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症の組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する判定手段とを有する情報処理装置。
【請求項8】
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、前記複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションを補間する補間手段とを有する情報処理装置。
【請求項9】
副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した第1の学習結果に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する特定ステップと、
前記複数断面のCT画像から、前記複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する推定ステップと、
前記複数の区画の炎症の組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症の組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する判定ステップとを有する副鼻腔疾患判定補助方法。
【請求項10】
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、前記複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションを補間する補間ステップを有する副鼻腔疾患判定学習方法。
【請求項11】
前記推定手段は、前記複数の区画の前記CT画像が予め定めた特徴を有する場合に当該予め定めた特徴に対する重み付けを行い、
前記判定手段は、前記複数の区画の炎症及び前記予め定めた特徴に対する重み付けの組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症及び予め定めた特徴に対する重み付けの組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する請求項1又は2に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副鼻腔疾患判定補助プログラム、副鼻腔疾患判定学習プログラム、情報処理装置、副鼻腔疾患判定補助方法及び副鼻腔疾患判定学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、鼻及び副鼻腔疾患の診断を支援する情報処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された情報処理装置は、上顎洞、前頭洞、篩骨洞及び蝶形骨洞を含むCT画像を取得する工程と、前記CT画像について、上顎洞、前頭洞、前篩骨洞、後篩骨洞、及び蝶形骨洞の領域を5つに区画化する区画化工程と、前記区画化された5つ領域の大きさと、前記5つの領域の内部にできたものの領域大きさとの関係をそれぞれ数値化し、一方の上顎洞周辺の骨と他方の上顎洞周辺の骨との差を数値化し、前記区画化された5つ領域のそれぞれについて、濃淡を数値化する数値化工程と、前記CT画像に対応する問診データと、前記数値化工程により数値化されたものと、前記CT画像に対応する鼻及び副鼻腔疾患のデータとを教師データとして、CT画像と鼻及び副鼻腔疾患との関係を学習させる学習工程とを実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した特許文献1の情報処理装置は、CT画像から副鼻腔の各区画を特定し、各区画の領域にできたものの領域の大きさを数値化して、当該数値から鼻及び副鼻腔疾患の診断を支援するものの、区画化の学習を効率化する方法や、数値と複数の副鼻腔疾患との関連性について具体的方法が示されたものではない。
【0006】
本発明の目的は、CT画像から副鼻腔疾患の診断を支援する方法において、区画化の学習を効率化し、複数の副鼻腔疾患の診断を支援する副鼻腔疾患判定補助プログラム、副鼻腔疾患判定学習プログラム、情報処理装置、副鼻腔疾患判定補助方法及び副鼻腔疾患判定学習方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の副鼻腔疾患判定補助プログラム、副鼻腔疾患判定学習プログラム、情報処理装置、副鼻腔疾患判定補助方法及び副鼻腔疾患判定学習方法を提供する。
【0008】
[1]コンピュータを、
副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した第1の学習結果に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する特定手段と、
前記複数断面のCT画像から、前記複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する推定手段と、
前記複数の区画の炎症の組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症の組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する判定手段として動作させる副鼻腔疾患判定補助プログラム。
[2]
前記複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像は、
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションが補間されることで生成される前記[1]に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
なお、上記の「予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果」とは、具体的に、区画モデルから、学習手段への入力となる任意の2つの断面と同じ方向の断面を抽出し、2つの断面に付与されたアノテーションと同一又は類似の形状となる区画モデル中の断面の位置を特定し、かつ2つの断面に挟まれた位置にある補間対象となる断面に対応する位置の区画モデル中の断面位置の形状が補完対象となる断面のアノテーションの形状と同一又は類似の形状となるように学習することで得られた学習結果である。
[3]
前記推定手段は、前記複数断面のCT画像のうち前記複数の区画のそれぞれに対応する領域に含まれる画素のパラメータの統計値に基づいて炎症を推定する前記[1]又は[2]に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
[4]
前記判定手段は、前記複数の区画を次元とする空間において、前記複数の区画の炎症の組み合わせと、前記関連付情報中の疾患毎の前記複数の区画の炎症の組み合わせとの距離に基づいて類似度を算出する前記[1]又は[2]に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
[5]
コンピュータを、
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、前記複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションを補間する補間手段として機能させる副鼻腔疾患判定学習プログラム。
[6]
前記補間手段によって副鼻腔の区画のアノテーションが付与された各断面のCT画像を用いて学習し、第1の学習結果を生成する学習手段としてさらに機能させる前記[5]に記載の副鼻腔疾患判定学習プログラム。
[7]
副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した第1の学習結果に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する特定手段と、
前記複数断面のCT画像から、前記複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する推定手段と、
前記複数の区画の炎症の組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症の組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する判定手段とを有する情報処理装置。
[8]
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、前記複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションを補間する補間手段とを有する情報処理装置。
[9]
副鼻腔を含む複数断面のCT画像であって、当該複数断面のそれぞれについて副鼻腔の区画に該当する領域のアノテーションが付与されたCT画像を用いて学習した第1の学習結果に基づいて、患者の複数断面のCT画像のそれぞれについて副鼻腔の複数の区画を特定する特定ステップと、
前記複数断面のCT画像から、前記複数の区画のそれぞれについて生じている炎症を推定する推定ステップと、
前記複数の区画の炎症の組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症の組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する判定ステップとを有する副鼻腔疾患判定補助方法。
[10]
予め用意した副鼻腔の区画モデルに基づき、副鼻腔を含むCT画像に対し副鼻腔の単一又は複数の区画に該当する領域をアノテーションするよう学習した第2の学習結果を用いて、副鼻腔を含む複数断面のCT画像について、前記複数断面のうちの一部のCT画像に区画のアノテーションが付与されている状態で、当該区画のアノテーションが付与されている断面のCT画像間の区画のアノテーションが付与されていない断面のCT画像に対し、当該区画のアノテーションが付与されている断面と前記第2の学習結果を用いて区画のアノテーションを補間する補間ステップを有する副鼻腔疾患判定学習方法。
[11]前記推定手段は、前記複数の区画の前記CT画像が予め定めた特徴を有する場合に当該予め定めた特徴に対する重み付けを行い、
前記判定手段は、前記複数の区画の炎症及び前記予め定めた特徴に対する重み付けの組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症及び予め定めた特徴に対する重み付けの組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定する前記[1]又は[2]に記載の副鼻腔疾患判定補助プログラム。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、7、9に係る発明によれば、CT画像から副鼻腔疾患の診断を支援する方法において、区画化の学習を効率化し、複数の副鼻腔疾患の診断を支援することができる。
請求項2に係る発明によれば、CT画像から副鼻腔疾患の診断を支援する方法において、区画化の学習を効率化することができる。
請求項3に係る発明によれば、複数断面のCT画像のうち複数の区画のそれぞれに対応する領域に含まれる画素のパラメータの統計値に基づいて炎症を推定することができる。
請求項4に係る発明によれば、複数の区画数の空間において、複数の区画の炎症の組み合わせと、関連付情報中の疾患毎の複数の区画の炎症の組み合わせとの距離に基づいて類似度を算出することができる。
請求項5、8、10に係る発明によれば、CT画像から副鼻腔疾患の診断を支援する方法において、区画化の学習を効率化することができる。
請求項6に係る発明によれば、補間手段によって副鼻腔の区画のアノテーションが付与された各断面のCT画像を用いて学習し、第1の学習結果を生成することができる。
請求項11に係る発明によれば、複数の区画のCT画像が予め定めた特徴を有する場合に当該予め定めた特徴に対する重み付けを行い、複数の区画の炎症及び予め定めた特徴に対する重み付けの組み合わせについて、副鼻腔の複数の疾患と副鼻腔の複数の区画の炎症及び予め定めた特徴に対する重み付けの組み合わせとを予め関連付けた関連付情報との類似度に基づいて、副鼻腔の疾患候補を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る副鼻腔疾患判定補助システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、副鼻腔の各区画を定義する境界を示す表である。
【
図4】
図4は、CT画像中の副鼻腔の各区画を説明するための図である。
【
図5】
図5は、アノテーション補間学習動作を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、副鼻腔区画特定学習動作を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図8】
図8は、各区画の炎症と各疾患を関連づける炎症疾患関連付情報の内容を示す表である。
【
図9】
図9は、アノテーション補間学習動作を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図10は、副鼻腔区画特定学習動作を説明するためのフローチャートである。
【
図11】
図11は、疾患判定動作を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図13】
図13(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図14】
図14は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図15】
図15は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図16】
図16(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図17】
図17(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【
図18】
図18は、各区画の炎症と各疾患を関連づける炎症疾患関連付情報の内容を示す表である。
【
図19】
図19は、疾患判定動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
(副鼻腔疾患判定補助システムの構成)
図1は、第1の実施の形態に係る副鼻腔疾患判定補助システムの構成の一例を示す概略図である。
【0012】
この副鼻腔疾患判定補助システムは、副鼻腔の疾患判定の補助動作を実行する情報処理装置1と、当該動作の学習のために用いる情報を格納する学習用データベース(DB)2と、情報処理装置1と通信して上記の動作を医師6等の操作に基づいて実行させる端末3と、放射線等を利用して患者7の副鼻腔を含む範囲を走査しコンピュータを用いて処理することで内部構造を画像(以降「CT画像」と言う。)として構成するCT(Computed Tomography)4とをネットワーク5を介して互いに通信可能に接続することで構成される。なお、情報処理装置1、学習用DB2、端末3は、それぞれ別の構成としたが、全て又は一部を組み合わせて一体に構成してもよい。また、各構成を複数の装置に分割して構成してもよい。また、情報処理装置1、学習用DB2、端末3は、それぞれ異なる拠点に設置されるものであってもよく、遠隔地における診断の補助に用いるものであってもよい。
【0013】
情報処理装置1は、PC(Personal Computer)又はサーバ型等の情報処理装置であり、外部の要求に応じて動作するものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やフラッシュメモリ等の電子部品を備える。
【0014】
学習用DB2は、1人に対して複数断面からなるCT画像を複数人含むCT画像情報200と、CT画像情報200の人物の副鼻腔の各区画の3Dモデルを含む3Dモデル情報201とを格納し、情報処理装置1の要求に応じてこれらの情報を情報処理装置1に送信する。CT画像情報200と3Dモデル情報201は、予め用意しておくものとする。CT画像情報200は、任意の患者の頭部を予め撮影することで用意する。3Dモデル情報201は、区画モデルの一例であり、任意の患者の複数のCT画像情報から副鼻腔の3Dモデルをトレースすることで生成するものであり、特定の患者の3Dモデルを採用してもよいし、一般的な複数人のCT画像情報の平均値から求めた一般的な3Dモデルを採用してもよい。また、3Dモデルは、公知の副鼻腔の3Dモデルを用いるものであってもよい。なお、3Dモデル情報201は、3Dのモデルに限らず副鼻腔の形状を定義できるものであれば後述するように断面の集合であってもよい。
【0015】
端末3は、PC、タブレット端末、スマートフォン等の情報処理装置であり、医師6又は医師6の作業を補助する者により操作されるものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPUやフラッシュメモリ等の電子部品を備え、さらにLCD(Liquid Crystal Display)等の表示部やキーボード、マウス等の操作部を有する。端末3は、情報処理装置1に要求を送信し、情報処理装置1を動作させ、動作結果としての情報を受信して表示部に表示する。
【0016】
CT4は、放射線を利用して患者7の体内の状態を断層像として描写するコンピュータ断層診断装置であり、撮影結果としてのCT画像を生成し、情報処理装置1に送信する。撮影範囲は、少なくとも患者7の副鼻腔を含むものであり、断面の方向は矢状断、水平断、冠状断から1以上の断面が選択されるものとする。
【0017】
(情報処理装置の構成)
図2は、第1の実施の形態に係る情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。
【0018】
情報処理装置1は、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10と、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11と、ネットワーク5を介して外部と通信する通信部12とを備える。
【0019】
制御部10は、後述する学習プログラム110、判定補助プログラム111を実行することで、学習用情報取得手段100、アノテーション受付手段101、アノテーション補間手段102、学習手段103、副鼻腔区画特定手段104、区画内炎症推定手段105、副鼻腔疾患候補判定手段106等として機能する。
【0020】
学習用情報取得手段100は、学習手段103が学習に用いる情報として、通信部12を介して学習用DB2からCT画像情報200及び3Dモデル情報201を取得する。
【0021】
アノテーション受付手段101は、CT画像情報200に対する副鼻腔の各区画のアノテーションを端末3から受け付ける。アノテーションは、医師6等が端末3を操作することで付与される。また、アノテーションは、後述するアノテーション補間学習動作では、ある人物の複数断面のCT画像のうち学習に用いる全ての断面に付与され、後述するアノテーション補間動作では、ある人物の複数断面のCT画像のうち一部の断面に付与される。
【0022】
アノテーション補間手段102は、ある人物の複数断面のCT画像のうち一部の断面にアノテーションが付与された状態で、3Dモデル情報201に基づいて、アノテーションが付与された断面間に含まれる断面のCT画像に対してアノテーションを補間し、アノテーション済CT画像情報113を生成する。アノテーション補間手段102は、当該補間動作を、第2の学習結果としての補間学習結果情報112を用いて行う。
【0023】
学習手段103は、上記補間動作のための学習を行い、補間学習結果情報112を生成する。また、学習手段103は、後述する区画特定動作のための学習を行い、第1の学習結果としての区画学習結果情報114を生成する。学習方法の詳細については後述する。いずれの学習についても、学習手段103はUNet、PSPNet(Pyramid Scene Parsing Network)、HRNet(High Resolution Network)等のニューラルネットワークを用いる。
【0024】
副鼻腔区画特定手段104は、通信部12を介してCT4から患者7のCT画像を取得して患者CT画像情報115として記憶部11に格納するとともに、区画学習結果情報114を用いて、患者CT画像情報115のうち副鼻腔の各区画に対応する領域を特定する。
【0025】
区画内炎症推定手段105は、患者CT画像情報115の副鼻腔の区画に対応する領域が特定されると、一例として、当該領域の濃淡から炎症の度合いを推定し、各区画の炎症のパターンを炎症パターン情報116として記憶部11に格納する。
【0026】
副鼻腔疾患候補判定手段106は、予め炎症パターンと疾患とを関連付けた炎症疾患関連付情報117を参照し、患者7の炎症パターン情報116と類似する疾患を疾患候補として判定し、疾患候補情報118を生成する。
【0027】
記憶部11は、制御部10を上述した各手段100-106として動作させる学習プログラム110及び判定補助プログラム111、補間学習結果情報112、アノテーション済CT画像情報113、区画学習結果情報114、患者CT画像情報115、炎症パターン情報116、炎症疾患関連付情報117、疾患候補情報118等を記憶する。
【0028】
次に、本願明細書で用いる副鼻腔の区画の定義について説明する。
【0029】
図3は、副鼻腔の各区画を定義する境界を示す表である。また、
図4は、CT画像中の副鼻腔の各区画を説明するための図である。
【0030】
副鼻腔は、前頭洞、前篩骨洞、後篩骨洞、蝶形骨洞、上顎洞の区画に分けることができ、CT画像のうち矢状断、冠状断、水平断のそれぞれについてこれらの区画は
図3に示すように上下前後の境界により、上下内外の境界により、前後内外下の境界により特定される。
【0031】
図4は、矢状断による人体頭部のCT画像であり、
図4(a)は人体頭部の左右方向における中心付近の断面を、
図4(b)は人体の左右方向における中心から2cm程度外側であって眼球中心を通る断面である。
図4(a)における区画A1は前頭洞、区画A2は前篩骨洞、区画A3は後篩骨洞、区画A4は蝶形洞であり、CT画像中の実線が
図3に示した境界に対応する。また、前篩骨洞の区画A2と後篩骨洞の区画A3とを分ける境界B1(「第3基板」と呼ぶ場合がある。)は、鼻堤と蝶形骨洞前壁の間であって、人体の前後方向の中間地点に設定され、発明者らは当該位置に境界B1を設定することで副鼻腔疾患の判定が良好に行えることを発見した。また、
図4(b)における区画A5は上顎洞である。
【0032】
(情報処理装置の動作)
次に、本実施の形態の作用を、(1)アノテーション補間学習動作、(2)副鼻腔区画特定学習動作、(3)疾患判定補助動作に分けて説明する。
【0033】
(1)アノテーション補間学習動作
まず、入力されたCT画像に対して上記した副鼻腔の区画を特定するには区画を特定するための学習が必要である。当該学習には、CT画像に対して予め各区画に対応する画像上の領域指定のアノテーションが付与されたデータが必要となるが、CT画像に対してアノテーションを付与する作業は医師6又は他の人物の作業が必要となる。まず、区画特定学習に十分な数のCT画像の全てに対して人手による作業を行うことなく、人手によりアノテーションが付与された断面以外の断面にアノテーションを補間して付与するための学習動作(アノテーション補間学習動作)について説明する。
【0034】
図9は、アノテーション補間学習動作を説明するためのフローチャートである。
【0035】
まず、医師6等は、端末3を操作して情報処理装置1にアクセスする。情報処理装置1は、端末3の要求に応じて動作し、以降のアノテーション補間学習動作を行う。
【0036】
情報処理装置1の学習用情報取得手段100は、通信部12を介して学習用DB2からCT画像情報200及び3Dモデル情報201を取得する(S1)。
【0037】
次に、学習用情報取得手段100は、取得したCT画像情報200の内容を端末3の表示部に表示処理する。なお、CT画像情報200は、複数断面のCT画像(矢状断、冠状断、水平断)を含み、例えば、一方向の断面の数は150である。一方向の断面のうち、アノテーションを付与する断面の数は、一例として29であり、当該29の断面は150のうちから等間隔で選択されることが望ましい。断面の方向の数は一方向でもよいが、複数方向を採用することで疾患候補の判定精度が向上する。学習用情報取得手段100は、当該29の断面を端末3の表示部に表示する。
【0038】
医師6等は、端末3の表示部に表示された画像を確認しつつ、当該29の断面に対し、操作部を操作して副鼻腔の各区画のアノテーションを付与する。具体的には、CT画像中の各区画に対応する領域を指定し、当該領域が副鼻腔のいずれの区画であるかをアノテーションの情報として付与する。
【0039】
次に、アノテーション受付手段101は、CT画像情報200のうち上記29の断面に対する副鼻腔の各区画のアノテーションを端末3から受け付ける(S2)。
【0040】
次に、学習手段103は、アノテーションが付与された29の断面の画像と、3Dモデル情報201を入力とし、補間動作のための学習を行い(S3)、補間学習結果情報112を生成する(S4)。具体的な学習動作は以下のとおりである。
【0041】
図5は、アノテーション補間学習動作を説明するための概略図である。
【0042】
学習手段103は、アノテーション101aが付与された断面200a及びアノテーション101cが付与された断面200cと、3Dモデル情報201のうち当該断面200a及び断面200cに含まれる区画の3Dモデルとを入力とした場合に、出力が断面200bに付与されたアノテーション101bとなるように学習する。この学習により、補間学習結果情報112が生成される。具体的には、3Dモデルから、入力となる断面200a及び断面200cと同じ方向の断面を抽出し、断面200a及び断面200cに付与されたアノテーション101a及び101cと同一又は類似の形状となる3Dモデル中の断面の位置を特定し、かつ出力となる3Dモデル中の断面位置の形状が断面200bのアノテーションの形状と同一又は類似の形状となるように学習する。なお、このように3Dモデルを使用するため、3Dモデルではなく領域ラベル付きの断面の集合を用いるものであってもよいが、複数断面に対応する場合は3Dモデルを用いる方が任意の方向の断面を選択できるため合理的であり好ましい。また、3Dモデルから得られる断面の間隔はCT画像の断面間隔より密のものを用いることが望ましいが、同一間隔でもあってもよい。
【0043】
次に、この補間学習結果情報112を用いてアノテーション補間を行う動作について説明する。
図10は、アノテーション補間動作を説明するためのフローチャートである。
【0044】
まず、医師6等は、同様に端末3を操作して情報処理装置1にアクセスする。情報処理装置1は、端末3の要求に応じて動作し、以降のアノテーション補間動作を行う。
【0045】
また、情報処理装置1の学習用情報取得手段100は、同様に、通信部12を介して学習用DB2からCT画像情報200及び3Dモデル情報201を取得する(S10)。
【0046】
次に、学習用情報取得手段100は、取得したCT画像情報200の内容を端末3の表示部に表示処理する。アノテーションを付与する断面の数は、一例として29であり、学習用情報取得手段100は、当該29の断面のうち、2以上の断面、例えば、5の断面(等間隔で選択されることが好ましい)を端末3の表示部に表示する(アノテーションが付与された5の断面間にアノテーションが付与されていない6の断面が存在する場合。)。
【0047】
医師6等は、端末3の表示部に表示された画像を確認しつつ、当該5の断面に対して、操作部を操作して副鼻腔の各区画のアノテーションを付与する。
【0048】
次に、アノテーション受付手段101は、CT画像情報200のうち上記5の断面に対する副鼻腔の各区画のアノテーションを端末3から受け付ける(S11)。
【0049】
次に、アノテーション補間手段102は、補間学習結果情報112を用い、上記5の断面にアノテーションが付与された状態で、3Dモデル情報201に基づいて、アノテーションが付与された断面間に含まれる断面のCT画像に対してアノテーションを補間し、アノテーション済CT画像情報113を生成する(S12)。
図5を用いて説明するならば、アノテーション補間手段102は、アノテーション101aが付与された断面200a及びアノテーション101cが付与された断面200cと、3Dモデル情報201のうち当該断面200a及び断面200cに含まれる区画の3Dモデルとを入力とし、断面200bに付与すべきアノテーション102bを出力し、断面200bに対してアノテーションを付与する。このように断面29のうち5の断面だけ人手で付与すれば、残りの24の断面にはアノテーションが自動で付与されるので、学習の材料として必要な数の断面について、人手によって全てアノテーションすることが不要となり、少ない枚数のアノテーションで足り、アノテーションの工程数を減少することができる。
【0050】
次に、生成されたアノテーション済CT画像情報113を用いて副鼻腔区画を特定するための学習方法について説明する。
【0051】
(2)副鼻腔区画特定学習動作
図6は、副鼻腔区画特定学習動作を説明するための概略図である。
【0052】
学習手段103は、アノテーション済CT画像情報113を用いて断面200a、200b、200c…に対するアノテーション101a、102b、101c…に該当する区画特定動作のための教師あり学習を行い、区画学習結果情報114を生成する。
【0053】
次に、上記動作で得た区画学習結果情報114を用いて以降の疾患判定補助動作を行う。
【0054】
(3)疾患判定補助動作
図11は、疾患判定動作を説明するためのフローチャートである。
【0055】
まず、医師6等は、CT4を操作し、副鼻腔の疾患診断対象となる患者7のCT画像を撮影する。撮影の結果生成されるCT画像情報は、複数断面のCT画像(矢状断、冠状断、水平断)を含み、例えば、一方向の断面の数は150である。次に、医師6等は、撮影したCT画像から疾患候補を得るべく端末3を操作し、情報処理装置1にアクセスする。
【0056】
情報処理装置1の副鼻腔区画特定手段104は、端末3からの要求に応じて、通信部12を介してCT4から患者7のCT画像を取得して患者CT画像情報115として記憶部11に格納する(S20)。患者CT画像情報115の断面の数は一方向について、例えば、29であるが、断面の数を増やすことで疾患判定の精度が向上する。また、副鼻腔区画特定手段104は、区画学習結果情報114を用いて、患者CT画像情報115のうち各区画に対応する領域を特定する(S21)。
【0057】
次に、区画内炎症推定手段105は、患者CT画像情報115の区画が特定されると、当該区画の炎症の度合いを推定し(S22)、各区画の炎症のパターンを炎症パターン情報116として記憶部11に格納する(S23)。
【0058】
区画内炎症推定手段105は、ステップS23において具体的に、炎症の度合いをCT画像の区画に対応する領域の陰影(画像の濃淡)から推定する。当該陰影は、骨壁にある粘膜が浮腫状に膨隆して副鼻腔を充満している場合や、粘膜が炎症を起こして分泌物が過多になって副鼻腔に充満している場合、又は両者が混在している場合に現れる。
【0059】
一例として、区画内炎症推定手段105は、各区画に対応する領域の画素の濃淡値(0~255)を基に陰影を数値化する。次に、区画内炎症推定手段105は、領域毎の画素の平均値を計算する。次に、区画内炎症推定手段105は、3つの区分を予め用意し(例えば、0~t1、t1~t2、t2~255)、それぞれLund-Mackay scoreの0(炎症なし)、1(部分的な炎症)、2(100%炎症)に対応させる。どの区分に入るかによって、LMの値が決定される。なお、t1、t2の値は予め定めるものとし、医師6等によって定められるものであってもよい。また、区画内炎症推定手段105は、画素の濃淡値に限らずCT画像情報から得られる任意のパラメータ(輝度、勾配、顕著性等)を用いることができる。また、パラメータは画素に限らず、複数の画素、任意の形状の領域、画素の分布等から得るものであってもよい。
【0060】
副鼻腔疾患候補判定手段106は、予め炎症パターンと疾患とを関連付けた炎症疾患関連付情報117を参照し、患者7の炎症パターン情報116と類似する疾患を疾患候補として判定し、疾患候補情報118を生成する(S24~S27)。詳しくは後述する。
【0061】
図7は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。また、
図8は、各区画の炎症と各疾患を関連づける炎症疾患関連付情報117の内容を示す表である。
【0062】
図7に示すように、例えば、Bは、歯性上顎洞炎に見られる炎症のパターンであり、区画A1、A2、A5に陰影が認められるケースが多い。
【0063】
また、Cは、好酸球性副鼻腔炎に見られる炎症のパターンであり、区画A1~A4に陰影が認められるケースが多い。
【0064】
また、Dは、副鼻腔真菌症に見られる炎症のパターンであり、区画A5に陰影が認められるケースが多い。特に当該陰影は、副鼻腔粘膜の炎症に真菌感染が関与することで、真菌が増殖した塊がCT画像上では白く高輝度になるため、あたかも骨に含まれるカルシウムの様に見えることから石灰化病変と呼ばれる。そのため、CTにおいて副鼻腔に石灰化病変がみられた場合には真菌感染の典型的所見ととらえられる。また、真菌感染による副鼻腔炎は無症状で長期間の炎症状態を保つため、感染した副鼻腔の骨が全体的に肥厚する。そのため、CTにおいて一つの副鼻腔が全周性に骨肥厚を呈した場合は真菌感染の典型的所見ととらえられる。
【0065】
また、Fは、内反性乳頭腫に見られる炎症のパターンであり、区画A2、A5に陰影が認められるケースが多い。特に内反性乳頭腫は、その発生部位の骨が肥厚するという特徴的所見がある。そのため、上顎洞の内腔の壁を見て骨の厚みが増している部分があれば腫瘍の基部であることが疑われ、内反性乳頭腫の典型的所見ととらえる。
【0066】
また、Gは、上顎癌に見られる炎症のパターンであり、区画A5に陰影が認められるケースが多い。特に上顎癌は、腫瘍が増大することにより進展方向の骨を融解する特徴的所見がある。そのため、上顎洞の内腔の壁を見て骨の連続性が途絶える(骨融解)部分があれば、上顎癌の典型的所見ととらえる。
【0067】
なお、上記B~Gのケースは、いずれも各疾患の一例であり、示した区画以外の他の区画に陰影が認められる場合もある。
【0068】
ここで、上記各疾患の特徴を炎症の度合い(Lund-Mackay score)によりスコア化して、各区画の炎症と各疾患を関連づけたものが、
図8に示す、炎症疾患関連付情報117である。なお、ここでスコア化の際に石灰化、骨肥厚、骨欠損は考慮していないが、これらを考慮してスコア化してもよい。また、図示した炎症疾患関連付情報117は、スコアの一例であり、実際は各疾患に対して複数のスコアが用意される。また、複数のスコアは、スコアを、区画を次元とした空間として捉えた場合に、当該空間において疾患毎にクラスタリングされるものとし、各クラスターが重なる部分については複数疾患が候補として挙げられるものとする。
【0069】
副鼻腔疾患候補判定手段106は、具体的に、患者7の炎症パターン情報116がいずれの疾患の特徴に近いかを、炎症疾患関連付情報117の各疾患の炎症パターンとの距離(例えば、マンハッタン距離)によって求め(S24)、予め定めた距離以内の距離にある場合(S25;Yes)、当該疾患を疾患候補とする(S26)。なお、副鼻腔疾患候補判定手段106が用いる「予め定めた距離」は、人為的に決定するものであってもよいし、疾患毎に平均、分散等の統計値から求めるものであってもよいし、学習により得るものであってもよい。また、当該予め定めた距離に含まれる疾患が複数であってもよく、この場合複数の疾患を疾患候補とする。このように、「予め定めた距離」を大きく設定すると、複数の疾患が疾患候補となり、可能性のある疾患を医師6に疾患候補として提示でき、医師6が当該疾患候補から可能性のある候補を検証することができ、「予め定めた距離」を小さく設定すると、疾患候補を絞り込むこととなり、可能性の高い疾患を医師6に疾患候補として提示できる。また、各疾患に対する炎症パターンがある傾向を持たず、曖昧な場合であっても「予め定めた距離」を当該曖昧さにあわせて(大きく)調整して設定することで、疾患候補を適切に(可能性のある疾患を排除せずに、かつ、可能性の低い疾患を排除して)結果として得ることができる。このように設定する「予め定めた距離」を疾患候補選定の基準として有しているので、副鼻腔の各区画の炎症パターンに曖昧さのある副鼻腔疾患に対しても、本発明により効果的な診断の支援が実現できる。
【0070】
なお、いずれの炎症パターンとも類似しない場合(S25;No)、慢性副鼻腔炎を疾患候補とする(S27)(除外診断)。
【0071】
また、副鼻腔疾患候補判定手段106は、疾患候補情報118に基づいて疾患候補を端末3の表示部に表示処理する。医師6等は、端末3の表示部に表示された疾患候補を確認し、患者7の疾患を診断する。
【0072】
(第1の実施の形態の効果)
上記した第1の実施の形態によれば、CT画像から副鼻腔疾患の診断を支援する方法において、区画特定の学習に用いるCT画像に対しアノテーションを補間する学習をし、アノテーションを補間することでアノテーション済CT画像情報113を生成したため、すべてのCT画像に人手でアノテーションを付与するのに比べて作業減となり、区画化の学習を効率化することができる。
【0073】
また、副鼻腔の各区画の炎症パターンと複数の副鼻腔疾患を関連付けた炎症疾患関連付情報117を準備し、当該炎症疾患関連付情報117と患者7の炎症パターンとの類似度を算出するようにしたため、複数の副鼻腔疾患の診断を支援することができる。
【0074】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、CT画像の特徴(眼窩上顎骨肥厚、上顎洞石灰化病変、篩骨蝶型洞骨肥厚、蝶型洞石灰化病変、上顎脳幹CT値比、上顎骨融解)を追加して第1の実施の形態の炎症パターン情報116及び炎症疾患関連付情報117を拡張した点と、CTスコアを3段階から6段階に変更した点で第1の実施の形態と異なる。第1の実施の形態の(1)アノテーション補間学習動作、(2)副鼻腔区画特定学習動作は同様に行い、(3)疾患判定補助動作の代わりに以下の(4)疾患判定補助動作を行う。
【0075】
(4)疾患判定補助動作
図19は、疾患判定動作を説明するためのフローチャートである。なお、
図11と同様の動作については説明を省略する。
【0076】
区画内炎症推定手段105は、ステップS23において具体的に、炎症の度合いをCT画像の区画に対応する領域の陰影(画像の濃淡)から推定する。当該陰影は、骨壁にある粘膜が浮腫状に膨隆して副鼻腔を充満している場合や、粘膜が炎症を起こして分泌物が過多になって副鼻腔に充満している場合、又は両者が混在している場合に現れる。
【0077】
一例として、区画内炎症推定手段105は、各区画に対応する領域の画素の濃淡値(0~255)を基に陰影を数値化する。次に、区画内炎症推定手段105は、領域毎の画素の平均値を計算する。次に、区画内炎症推定手段105は、Lund-Mackay score(3つの区分)を拡張した6つの区分からなるModified Lund-Mackay scoreを予め用意し(例えば、0、1~25、26~50、51~75、76~99、100%)、それぞれLund-Mackay scoreの0(炎症なし)、1、2、3、4(部分的な炎症)、5(100%炎症)に対応させる。どの区分に入るかによって、MLMの値が決定される。また、区画内炎症推定手段105は、画素の濃淡値に限らずCT画像情報から得られる任意のパラメータ(輝度、勾配、顕著性等)を用いることができる。また、パラメータは画素に限らず、複数の画素、任意の形状の領域、画素の分布等から得るものであってもよい。なお、6段階に限らず、1~99%の範囲を任意の複数段階で定義してもよい。また、段階は、判定精度が向上するものであれば、必ずしも均等に分けられていなくともよい。
【0078】
区画内炎症推定手段105が区画の炎症の度合いを推定し(S22)、各区画の炎症のパターンを炎症パターン情報116Aとして記憶部11に格納した後(S23)、副鼻腔疾患候補判定手段106は、CT画像の特徴を確認し(S30)、以下に説明する予め定めた特徴に一致するか確認する(S31)。一致する場合(S31;Yes)、炎症パターン情報116Aの項目として予め用意された特徴(眼窩上顎骨肥厚、上顎洞石灰化病変、篩骨蝶型洞骨肥厚、蝶型洞石灰化病変、上顎脳幹CT値比、上顎骨融解)に対して重み付けを行う(程度に応じてスコアの値を大きくする。)(S32)。
【0079】
(眼窩上顎骨肥厚)
図12(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【0080】
図12(b)は、例えば、真菌症(上顎洞)に見られるCT画像の特徴であり、区画A5の周囲の骨幅d2が、
図12(a)に示す正常時のCT画像の区画A5の周囲の骨幅d1に比べて大きいケースが多い。
【0081】
副鼻腔疾患候補判定手段106は、d2がd1の1.2倍以上である場合、炎症パターン情報116Aの眼窩上顎骨肥厚の重み付けを大きくする。具体的に、d2とd1の比が1.2以上の場合、スコアを1に、1.2未満の場合、スコアを0にする。
【0082】
(篩骨蝶型洞骨肥厚)
図13(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【0083】
図13(b)は、例えば、真菌症(蝶型洞)に見られるCT画像の特徴であり、区画A3、A4の間の骨幅d4が、
図13(a)に示す正常時のCT画像の区画A3、A4の間の骨幅d3に比べて大きいケースが多い。
【0084】
副鼻腔疾患候補判定手段106は、d4がd3の1.2倍以上である場合、炎症パターン情報116Aの篩骨蝶型洞骨肥厚の重み付けを大きくする。具体的に、d4とd3の比が1.2以上の場合、スコアを1に、1.2未満の場合、スコアを0にする。
【0085】
(上顎洞石灰化病変)
図14は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【0086】
図14は、例えば、真菌症(上顎洞)に見られるCT画像の特徴であり、区画A5内の印影105
1と石灰化部105
2のCT画像上の輝度の比が10以上である場合、炎症パターン情報116Aの上顎洞石灰化病変の重み付けを大きくする。具体的に、輝度の比が10以上の場合、スコアを1に、10未満の場合、スコアを0にする。
【0087】
(蝶型洞石灰化病変)
図15は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【0088】
図15は、例えば、真菌症(蝶型洞)に見られるCT画像の特徴であり、区画A4内の印影105
3と石灰化部105
4のCT画像上の輝度の比が10以上である場合、炎症パターン情報116Aの蝶型洞石灰化病変の重み付けを大きくする。具体的に、輝度の比が10以上の場合、スコアを1に、10未満の場合、スコアを0にする。
【0089】
(上顎脳幹CT値比)
図16(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【0090】
図16(a)は、例えば、内反性乳頭腫に見られるCT画像の特徴であり、区画A5内の印影105
5と、
図16(b)の脳幹部105
6の輝度の比が1.5以上である場合、炎症パターン情報116Aの上顎脳幹CT値比の重み付けを大きくする。具体的に、輝度の比が1.5以上の場合、スコアを1に、1.5未満の場合、スコアを0にする。
【0091】
(上顎骨融解)
図17(a)及び(b)は、各疾患と各区画のCT画像上の陰影との関係を示す概略図である。
【0092】
図17(b)は、例えば、上顎癌に見られるCT画像の特徴であり、区画A5の内側壁を走査し(点線部)、
図17(a)のようにすべて走査すること(105
7)ができず、一部が走査され(105
8)、走査できない部分105
9がある場合は、「骨融解」があり、炎症パターン情報116Aの上顎骨融解の重み付けを大きくする。具体的に、骨融解が検出される場合、スコアを1に、骨融解が検出されない場合、スコアを0にする。
【0093】
副鼻腔疾患候補判定手段106は、予め炎症パターンと疾患とを関連付けた炎症疾患関連付情報117Aを参照し、患者7の炎症パターン情報116Aと類似する疾患を疾患候補として判定し、疾患候補情報118を生成する(S24~S27)。
【0094】
図18は、各区画の炎症と各疾患を関連づける炎症疾患関連付情報117Aの内容を示す表である。
【0095】
炎症疾患関連付情報117Aは、第1の実施の形態の炎症疾患関連付情報117のCTスコア(陰影濃度の重症度分類)を0,1,2の3段階(Lund-Mackay score)から、0,1,2,3,4,5の6段階(Modified Lund-Mackay score)に変更するとともに、上述したCT画像の特徴(眼窩上顎骨肥厚、上顎洞石灰化病変、篩骨蝶型洞骨肥厚、蝶型洞石灰化病変、上顎脳幹CT値比、上顎骨融解)を数値に変換して追加したものである。
【0096】
(第2の実施の形態の効果)
上記した第2の実施の形態によれば、CT画像の特徴(眼窩上顎骨肥厚、上顎洞石灰化病変、篩骨蝶型洞骨肥厚、蝶型洞石灰化病変、上顎脳幹CT値比、上顎骨融解)を追加して炎症パターン情報116A及び炎症疾患関連付情報117Aを拡張し、第1の実施の形態に比べて高精度に複数の副鼻腔疾患の診断を支援することができる。
【0097】
また、CTスコアを6段階のModified Lund-Mackay scoreに変更したため、0%、100%、それ以外の3段階だった場合に比べて、炎症疾患関連付情報117Aの各疾患の炎症パターンとの距離の解像度が向上し、判定精度が向上する。
【0098】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0099】
例えば、炎症の度合いのスコア化に際し、石灰化、骨肥厚、骨欠損を考慮してスコア化してもよいし、これらを判別できるよう画像解析等を行ってもよい。石灰化、骨肥厚、骨欠損を判別することで、スコアだけでは区別できない疾患を
図7に示した疾患毎に現れる石灰化、骨肥厚、骨欠損の特徴に基づいて区別することができる。
【0100】
上記実施の形態では制御部10の各手段100~106の機能をプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD-ROM等の記録媒体に記憶して提供することもできる。また、上記実施の形態で説明した上記ステップの入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 :情報処理装置
3 :端末
5 :ネットワーク
6 :医師
7 :患者
10 :制御部
11 :記憶部
12 :通信部
100 :学習用情報取得手段
101 :アノテーション受付手段
102 :アノテーション補間手段
103 :学習手段
104 :副鼻腔区画特定手段
105 :区画内炎症推定手段
106 :副鼻腔疾患候補判定手段
110 :学習プログラム
111 :判定補助プログラム
112 :補間学習結果情報
113 :アノテーション済CT画像情報
114 :区画学習結果情報
115 :患者CT画像情報
116、116A:炎症パターン情報
117、117A:炎症疾患関連付情報
118 :疾患候補情報
200 :CT画像情報
201 :3Dモデル情報