(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007093
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ローラ型切削ビット
(51)【国際特許分類】
E21D 9/087 20060101AFI20240111BHJP
E21D 9/10 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
E21D9/087 C
E21D9/10 K
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108299
(22)【出願日】2022-07-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000158769
【氏名又は名称】機動建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 桂三
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC02
2D054BB06
2D054DA12
(57)【要約】
【課題】推進工法等において、地中の支障物を掘進機で確実に切削し排除できるようにする。
【解決手段】掘進機前面のカッタヘッド1に回転自在に取り付けられるローラ型切削ビット10において、周方向に沿って断続的に設定された突条部21と突条部21の稜線に沿って設けられた複数のチップ30とを有する突条配置部20を、周方向に交差する幅方向に沿って複数列備えたローラ型切削ビット10とした。幅方向に隣り合う突条配置部20,20同士は、突条部21が設定されている方位が周方向にずれて設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機前面のカッタヘッド(1)に回転自在に取り付けられるローラ型切削ビット(10)において、
周方向に沿って断続的に設定された突条部(21)と前記突条部(21)の稜線に沿って設けられた複数のチップ(30)とを有する突条配置部(20)を、前記周方向に交差する幅方向に沿って複数列備え、
前記幅方向に隣り合う前記突条配置部(20,20)同士は、前記突条部(21)が設定されている方位が前記周方向にずれて設定されているローラ型切削ビット。
【請求項2】
前記周方向に隣り合う前記突条部(21,21)同士の間は、前記周方向に沿って長手状に形成され凹状にへこむ溝部(22)である請求項1に記載のローラ型切削ビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トンネル工事施工における推進工法又はシールド工法に適用される掘進機に用いられるローラ型切削ビットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
推進工法やシールド工法(以下、推進工法等と称する)における掘進機では、その前面のカッタヘッドに、複数のカッタビットが装着されている。カッタビットは、主に砂や粘土、比較的小さな礫地盤を切り崩すための固定切削ビットと、大きな石や岩盤を切り崩すためのローラ型切削ビットに大別される。
【0003】
固定切削ビットは、硬質で耐摩耗性に優れたタングステンカーバイトを主成分とした超硬チップが様々な形状で埋め込まれているタイプが主流である。しかし、衝撃に弱い特性があるため、巨石等に接触した際に超硬チップが欠損するトラブルが発生するという問題がある。また、固定切削ビットでは、特に、硬質な地盤を切削する際に大きな切削抵抗が発生する。このため、掘進機にも非常に大きな回転トルクが要求されるとともに、ローリング防止のために掘進機本体に回転トルク同等以上の反力が必要となる。さらに、固定切削ビットでは、超硬チップの摩耗も促進されるため、巨石が存在する地盤や岩盤を掘進する場合は切削ビットと地盤との切削抵抗を減少させる必要がある。このため、上述の巨石地盤や岩盤では、推進工法等における掘進機では、切削ビットが回転するローラ型切削ビットを使用するのが一般的である。
【0004】
ローラ型切削ビットとして、例えば、特許文献1に記載されたものがある。ローラ型切削ビットは、掘進機前面のカッタヘッドに回転自在に複数取り付けられている。カッタヘッドが地盤に押し当てられ、そのカッタヘッドの回転に伴う反力によりローラ型切削ビットは回転しながら地盤を削り、岩を割っていく。ローラ型切削ビットは、回転方向に沿って形成された複数列の円環状の突条と、その突条の稜線に沿って周方向に沿って埋め込まれた超硬チップを備えた構成となっている。また、ローラ型切削ビットとは別に、複数の固定切削ビットがカッタヘッドに対して不動に取り付けられている。カッタヘッドの回転により、固定切削ビットは地盤を削り取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-201975号公報(
図1、
図7、
図8等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、推進工法等において、地中に残置された支障物を避けるためには、例えば、地上からオープンで掘削して支障物を取り除く方法がある。また、その支障物が、地上の構造物と一体となった土留杭や支持杭等の場合は、推進工法等の掘削ルートに平面曲線や縦断曲線を設けて、その支障物を回避する方法が一般的である。
【0007】
地上から掘削して対象物を取り除く方法は、掘削作業や地盤改良工事、埋設物の移設作業等を伴うため、費用面や工期、周辺の環境に大きく影響を及ぼすことになる。さらに、構造物と一体となった地中の支障物であれば、地上からでは取り除くことができないものも多く存在する。また、掘削ルートを変更して回避する方法も、他の埋設物が隣接している、あるいは、前後に曲線を設けることが技術的に困難な場合は回避できないケースが多い。さらに、仮に、支障物を回避する施工が可能であっても、その回避のために、特別な設備機器の導入、前後の曲線施工を可能とするための新設管路の材料等の確保が必要となり、費用面や工期等に大きく影響を及ぼす場合がある。さらに、支障物を、前後への縦断曲線の導入によって回避しようとすると、自然勾配で管路を構築することを基本とする下水道管路では適用できない場合がある。そして、地中に残置されている支障物は、必ずしも事前に把握されているものだけではなく、記録に残っていない支障物に遭遇する場合もあり、事前に把握されていないものに関しては回避することができないために地上からの対応とならざるを得ない。このため、地中の支障物に対して、その支障物を地上側から取り除くことなく、また、掘削ルートを変更することなく施工できる工法が期待される。
【0008】
この点、仮に、特許文献1のような従来のローラ型切削ビットを使用して、掘削ルートを変更することなく支障物を貫通させようとすると、カッタヘッドによって切削された支障物の破片が、ローラ型切削ビットの突条と突条の間の谷部に嵌りこみ、その後の切削及び切削物の排出に支障をきたしてしまう場合がある。このような支障が出た場合、施工を中断して掘進機を後退させた後、破片を取り除く必要がある。施工の中断が頻繁に生じると、作業工程に遅れが生じ、また、作業コストも上昇するので好ましくない。
【0009】
そこで、この発明の課題は、推進工法等において、地中の支障物を掘進機で確実に切削し排除できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、掘進機前面のカッタヘッドに回転自在に取り付けられるローラ型切削ビットにおいて、周方向に沿って断続的に設定された突条部と前記突条部の稜線に沿って設けられた複数のチップとを有する突条配置部を、前記周方向に交差する幅方向に沿って複数列備え、前記幅方向に隣り合う前記突条配置部同士は、前記突条部が設定されている方位が前記周方向にずれて設定されている構成を採用できる。
【0011】
また、前記周方向に隣り合う前記突条部同士の間は、前記周方向に沿って長手状に形成され凹状にへこむ溝部である構成を採用できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、推進工法等において、地中の支障物を掘進機で確実に切削し排除できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ローラ型切削ビットを備えたカッタヘッドの正面図
【
図3】中央部に用いられるローラ型切削ビットの一部切断正面図
【
図5】中央部に用いられるローラ型切削ビットの正面図
【
図7】中央部に用いられるローラ型切削ビットの斜視図
【
図8】端部に用いられるローラ型切削ビットの正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る推進工法等に用いられる掘進機Sのカッタヘッド1を示す正面図、
図2はその右側面図である。
図3~
図9は、カッタヘッド1に取り付けられるローラ型切削ビット10の詳細を示している。
【0015】
掘進機Sは、
図1及び
図2に示すように、円筒状のケーシング3に収容されたシールド本体2で構成される。シールド本体2が、掘削ルートのいずれかの場所に設定された発進立坑から地中に投入され、到達立坑に向かって横方向に推進される。推進には、通常は発進立坑付近に設置した油圧ジャッキが用いられる。油圧ジャッキの押圧により、掘進機Sとともにその後端側に接続された推進管Cも推進する(
図10参照)。推進管Cには、鉄筋コンクリート製の管体等が多用されるが、その他にも、管路の仕様によっては鋼管や鋳鉄管等が用いられる場合もある。
【0016】
図10に示すように、掘進機Sには隔壁Bが設けられ、その隔壁Bで前端の地山側と後端の推進管Cとを区画している。また、隔壁Bには軸受機構5が取り付けられ、その軸受機構5を介してシャフト6が隔壁Bを貫通している。シャフト6の先端にはカッタアーム4が設けられている。カッタアーム4には円筒状のカッタディスク7と、そのカッタディスク7の前面を閉じる前面板8が接続されている。前面板8には、複数のローラ型切削ビット10が回転自在に取り付けられている(
図1及び
図2参照)。ローラ型切削ビット10は、側方に突出した支持軸13(
図3及び
図4参照)が前面板8に設けられた軸受(図示せず)に支持されて、その支持軸13の軸心周りにフリーで回転するようになっている。以下、このローラ型切削ビット10を単にローラビット10と称し、ローラビット10の軸心回りの回転方向を「周方向」、ローラビット10の支持軸13の方向(周方向に交差する方向)を「幅方向」と称する。
【0017】
掘進機Sは、方向制御用ジャッキを有しているが、これとは別に掘進機Sと推進管Cとの間に微速設備筒Pを備えている。微速設備筒Pは低速推進ジャッキJを備え、その低速推進ジャッキJは、ロッドの伸長速度が毎分0.1mm程度の微速になるように制御される。低速推進ジャッキJのロッドが伸長してカッタヘッド1が地山に押し当てられ、カッタヘッド1は、減速機Rを介して伝達されるモータMの駆動力により、掘進機Sの軸心(設置する推進管Cの軸心と一致)周りに回転する。カッタヘッド1の回転に伴う反力によりローラビット10は支持軸13の軸心周りに回転しながら地盤を削り、岩を割っていく。また、ローラビット10とは別に、複数の固定切削ビット40(
図1参照)がカッタヘッド1に対して不動に取り付けられているので、カッタヘッド1の回転により固定切削ビット40も地盤を削り取っていく。固定切削ビット40は、従来例と同様に板状の切削刃で構成されている。地盤の掘削によって発生した土砂や岩塊等は、排泥管Dを通じて発進立坑側へ排出される。
【0018】
ここで、この発明では、ローラビット10として、新設管路を構築するルートの途中にある支障物、例えば、地下空間に埋設されている土留杭、支持杭、その他残置物等を切削して排除し、その後も掘進を継続できる機能を備えたものを採用している。この点、従来のローラビットでは、このような機能を発揮できなかった。
【0019】
(この発明のローラビット10の開発過程)
従来のローラビットでは、地中の支障物を切削する際に、その支障物の一部を大きな塊で切削した場合、切削した支障物塊がローラビットに引っ掛かって、カッタヘッドを停止させる事象(カッタロック)が発生していた。また、カッタロックは掘進機のローリングを引き起こし、さらに、カッタヘッドに装着されたローラビットに衝撃が加わることで、ローラビットの外周に沿って埋め込まれた超硬チップを欠損させる事象も発生していた。また、引っ掛かった支障物塊が掘進機から排出できない大きさであれば、その後の継続した掘進が不可能となることが懸念される。したがって、この発明の開発過程では、まず第一の課題として、支障物を掘削残土と一緒に排出できる大きさまで細分化して切削できることを念頭に置いた。
【0020】
一般に、ビットで支障物を切削しようとすると、超硬チップの摩耗が早まり、早期に摩耗限界を超えて切削不能となる問題がある。また、掘進中に想定外の支障物に接触し衝撃により超硬チップを欠損させる恐れもある。このような場合、地中でカッタヘッドに取り付けられたビットを交換する必要がある。しかし、ビットを交換するためには、作業員がシールド本体2内に入って作業できるような特殊な構造の掘進機と、ビットを機内側から交換できる特殊なカッタヘッドを使用する必要がある。さらに、地盤改良等の補助工法が必要になることで、費用面や工期等に大きく影響する。このため第二の課題として、耐久性が高い(超硬チップの摩耗が遅い)ことを重要視した。
【0021】
さらに、支障物の切削時に大きな振動が発生すれば、仮にその支障物が上部の構造物と一体化したものであれば、構造物自体に影響を与えることが懸念される。さらに、騒音や振動は周辺環境への影響が懸念される。このため、第三の課題として、支障物を切削する際には、振動及び騒音を極力軽減させることも重要視した。
【0022】
ところで、特許文献1に示すような従来のローラビットは、全周に亘る山と谷が幅方向に沿って交互に配置され、山の部分にノミ形状の超硬チップが周方向に沿って埋め込まれている。このローラビットを使用して実験した結果、山と山の間の谷の部分で支障物の削り残しが発生し、また、ローラビットの谷の部分に、周方向に沿って円弧状の大きな支障物塊が残存した(噛み込んだ)結果となった。この結果により、開発の初期過程では、支障物を細分化して切削するためには、ローラビットとしては、同一に近い高さで切削軌跡を全断面(全周)に亘って確保するように配置し、可能な限り「やすり」のように面で切削する必要があると考えた。このため、ローラビットの谷の部分に、外径方向へ突出する先鋭なチゼルチップを埋め込んだ特殊形状のローラビットを試作し、鋼矢板を切削する実験を実施した。
【0023】
しかしながら、この試作したローラビットでは、結果として鋼矢板の貫通には至ったが、部分的にローラビットの谷部分に埋め込まれたチゼルチップの欠損が散見された。この事象は、鋼矢板の継手部(セクション)を切削しない他のローラビットには確認されなかたことから、チゼルチップの欠損の原因として、鋼矢板継手部は可撓性があるため、チゼルチップが喰い込んだ鋼矢板が動いてしまい、戻る際の反動によって欠損したものと推察した。この実験結果から、支障物を細分化して切削するためには、チゼルチップのような構造ではなく、ローラビットの母材に超硬チップが埋め込まれたチップインサート構造が最適であると判断した。
【0024】
一方、支障物を細分化して切削するためには、当初は、ローラビットの機能として、同一の高さの切削軌跡を、全断面(全幅)で確保するように配置する必要があると考えた。しかし、ロ一ラビットの山部分の間隔を技術的に可能な限り狭めて製作すると、谷の部分がほとんどなくなってしまう。この場合、超硬チップの無い谷の部分では、支障物の切削が難しくなる。このため、山の部分が支障物である鉄板に貫入した時に、谷の部分で鉄板を押し込む現象が発生することがわかった。このため、超硬チップが埋め込まれたチップインサート構造を前提として、ローラビットの山の部分の間隔をできる限り狭め、さらに、支障物である鉄板の厚みに対して、山の部分で貫通できるように谷の部分を深い構造とした特殊形状のローラビットを検討した。
【0025】
ローラビットの山の部分のピッチについては、切削軌跡を全断面(全幅)で確保するため、切削軌跡展開図から検討した結果、例えば、20mmピッチが適していると判断した。また、谷の部分に支障物が押し込まないようにするためには、例えば、20mmの深さを確保する必要があると考えた。しかし、この2つの条件を満たそうとすると、ローラビットの加工があまりにも緻密な作業となり、加工の精度上及びその構造上、製作は難しいことがわかった。
【0026】
以上のようなことから、この発明の試作品では、従来のローラビットの山のように、超硬チップを備えた突条が全周に亘って連続的に設けられている形状ではなく、1つの山(突条)を周方向に沿って複数に分割して、それらを周方向に断続配置とした。これにより、周方向に沿って、チップインサート構造である山の部分と、チップの無い谷の部分とが交互配置の構成となった。また、ローラビットの軸回り特定の方位を外径方向から軸心方向へ向かって見た場合、隣り合う列同士では、山の部分と谷の部分が交互配置となるようにしている。これにより、地中の支障物の切削及びその切削物の排出に関して、良好な結果が得られた。以下、この発明の具体的な構成について説明する。
【0027】
(この発明のローラビット10の構成)
実施形態に示すローラビット10は、
図3~
図7に示す中央部用ローラビット11と、
図8及び
図9に示す端部用ローラビット12とがある。中央部用ローラビット11は、カッタヘッド1の軸心に近い中央部に固定され、端部用ローラビット12は、カッタヘッド1の軸心から遠い外縁付近に固定されるようになっている。中央部用ローラビット11と、端部用ローラビット12とは、互いに設定される山と谷の列数(後述の突条配置部20の列数)が異なるものの、その基本構成は同じである。このため、以下、中央部用ローラビット11を例に、この実施形態のローラビット10の構成を説明する。なお、ローラビット10に設定される山と谷の列数は、支障物の状況や施工条件等に応じて自由に増減できる。
【0028】
図3~
図7に示すように、ローラビット10は、周方向に沿って断続的に設定された突条部21と、突条部21の稜線に沿って設けられた複数のチップ30とを有している。チップ30として、通常は超硬チップが用いられる。また、周方向に沿って隣り合う突条部21,21同士の間は、周方向に沿って長手状に形成され凹状にへこむ溝部22となっている。ここで、周方向に沿って交互に並列する突条部21と溝部22によって構成された環状の領域を、突条配置部20と称する。
図3~
図7に示す中央部用ローラビット11では、突条配置部20を幅方向に8列、
図8及び
図9に示す端部用ローラビット12では、突条配置部20を幅方向に3列設定している。
【0029】
最も外側に位置する突条配置部20のさらに外側の領域は、突条部21や溝部22が形成される外方部材19の端面に接続される肩部19aとなっている。突条配置部20の配置列数が少ない端部用ローラビット12は、中央部用ローラビット11よりやや幅が広い肩部19aとなっている。なお、図中の符号14は、ローラビット10の軸心に当たる芯材18に対して、支持軸13を同軸に固定するためのボルトである。符号15は、支持軸13と外方部材19との間に設けられるシール15である。符号16は、芯材18と外方部材19とを軸回り回転自在に支持する軸受16である。符号17は、支持軸13と外方部材19とを軸回り回転自在に支持する軸受17である。
【0030】
この実施形態では、
図4に示すように、或る一つの突条配置部20において、突条部21が設定されている方位(中心角)L1と、溝部22が設定されている方位(中心角)L2が周方向に沿って交互に配置されている。突条部21の方位(中心角)L1と溝部22の方位(中心角)L2の間には、僅かな方位(中心角)L0からなる隙間が設定されている。全ての突条部21の方位(中心角)L1は同一に、全ての溝部22の方位(中心角)L2も同一に、全ての隙間の方位(中心角)L0は、それぞれ同一に設定されていることが望ましい。ただし、突条部21の方位L1同士を異ならせる、あるいは、溝部22の方位(中心角)L2同士を異ならせる、隙間の方位(中心角)L0同士を異なる値に設定することを妨げるものではない。
【0031】
ここで、幅方向に隣り合う突条配置部20,20同士は、突条部21が設定されている方位が周方向にずれて設定されている。
図4及び
図6に示すように、或る一つの突条配置部20における溝部22が設定されている方位(中心角)L2は、幅方向に隣接する突条配置部20における突条部21の方位(中心角)L1に相当している。また、或る一つの突条配置部20における突条部21が設定されている方位(中心角)L1は、すぐ隣りの突条配置部20における溝部22の方位(中心角)L2に相当している。
【0032】
実施形態では、1つの突条配置部20を周方向に沿って6つのエリアに分割し、周方向に沿って3本の突条部21と3本の溝部22を交互に配置する構成としている。これを、幅方向に沿って、例えば20mmピッチで合計8列配置し、周方向に沿って特定の方位を幅方向に見た場合に、隣り合う突条配置部20同士では山の部分と谷の部分が、例えば、20mm毎の交互配置となるようにしている。また、ローラビット10を端面側から投影すると、その外縁がほぼ真円となるように、山の部分と谷の部分を周方向に対して60°毎の等分方位に割り付けている。このようにすれば、支障物とローラビット10のいずれかの山の部分(突条部21)とが常に接している態様となり、局所的に衝撃荷重の発生を抑制することで、チップ30の欠損を防止できる。
【0033】
前述のように、掘進機Sのカッタヘッド1で支障物を直接切削することに必要な条件として、3つの課題を列挙した。この発明のローラビット10は、その3つの条件を満たしている。
【0034】
第1の課題である支障物の細分化について、この発明のローラビット10は、突条部21(山の部分)の幅方向へのピッチを極力狭めることで、チップ30による切削軌跡を実質的に全断面で(全幅で)確保している。このため、従来のローラビットの場合と比べて谷の部分で生じる削り残しで大きな切削片を生じない形状を実現している。なお、このように、突条部21(山の部分)の幅方向へのピッチを極力狭めることができたのは、幅方向に沿って山の部分と谷の部分が交互配置となるように設定したことが大きいといえる。大きな切削片を生じないことから、排泥ラインの閉塞を生じさせず、泥水還流の流体を安定供給することができる。また、切削時のカッタトルクも安定し、カッタロックの発生を防止できる。
【0035】
つぎに、第2の課題である耐久性について、従来から固定切削ビットは一つの軌跡に対してビットに埋め込まれたチップが常に切削する態様となる。このため、チップの摩耗が顕著であった。この点、一般にローラビットでは、1山に対して円周方向に多数の超硬チップが埋め込まれており、切削ビット自体が回転することでチップへの負担が分散されることから、その摩耗量は固定切削ビットと比較するとはるかに少ないといえる。この発明のローラビット10においても、チップ30の摩耗を抑制することができる。
【0036】
さらに、第3の課題である低振動及び低騒音について、一般にローラビットは、ビット自体が回転することで、チップによる回転破砕が行われる。このため、固定切削ビットと比較すると振動及び騒音ははるかに小さいといえる。この発明のローラビット10においても、固定切削ビットとの比較で、非常に低い振動レベル及び騒音レベルを実現できる。
【0037】
上記の実施形態では、周方向に沿って隣り合う突条部21,21同士の間は、周方向に沿って長手状に形成され凹状にへこむ溝部22となっている。実施形態では、
図4及び
図6に示すように、溝部22は、その長手方向中央部がフラット面からなる底部22aで、長手方向両端部は、それぞれ底部22aの端から離れるにつれて徐々に浅くなるフラット面からなる傾斜部22bと、突条部21への接続部となる円弧面22cで構成されている。なお、この溝部22の底面の形状や溝部22の深さは、支障物の状況や施工条件等に応じて適宜変形できる。例えば、溝部22の底面の形状を軸回り方向の円筒面部としてもよい。また、溝部22の深さを、この実施形態の溝部22の深さよりも深くしてもよいし、逆に浅くしてもよい。また、周方向に隣り合う突条部21,21同士の間に溝部22を設けることなく、凹状に凹まない軸回り方向の円筒面部、あるいは、突条部21よりも相対的に低い高さの山部としてもよい。ただし、その円筒面部や山部にはチップ30は設ける必要がない。
【0038】
上記の実施形態では、
図4に示すように、或る一つの突条配置部20における突条部21が設定されている方位(中心角)L1は、その全域が、幅方向に隣接する他の突条配置部20における突条部21と突条部21の間の方位(中心角)内に位置している。すなわち、隣り合う突条配置部20,20同士の間で、突条部21が設定されている方位(中心角)が互いに重複していない。また、同様に、隣り合う突条配置部20,20同士の間で、溝部22が設置されている方位(中心角)も互いに重複していない。この例を変形して、例えば、或る一つの突条配置部20における突条部21が設定されている方位(中心角)L1の一部が、幅方向に隣接する他の突条配置部20における突条部21の方位(中心角)に重複しているように設定してもよい。
【0039】
上記の実施形態では、突条配置部20の方向をローラビット10の軸心に直交する断面に沿って配置したが、例えば、突条配置部20の方向を軸心に直交する断面に対して傾斜する方向に沿って配置してもよい。また、支持軸13の態様はこの実施形態には限定されず、カッタヘッド1に対してローラビット10を軸回り回転可能に支持できる任意の形態の支持軸13を採用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 カッタヘッド
10 ローラ型切削ビット(ローラビット)
11 中央部用ローラビット
12 端部用ローラビット
13 支持軸
20 突条配置部
21 突条部
22 溝部
30 超硬チップ(チップ)
40 固定切削ビット