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  • 特開-モータへのオイル供給システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070937
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】モータへのオイル供給システム
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/38 20060101AFI20240517BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H02K3/38 Z
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181572
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡隆
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 唱
(72)【発明者】
【氏名】山田 識由
【テーマコード(参考)】
5H604
5H609
【Fターム(参考)】
5H604AA01
5H604BB01
5H604BB03
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604DA04
5H604PB02
5H609BB03
5H609BB12
5H609BB19
5H609PP06
5H609QQ05
5H609SS22
5H609SS23
(57)【要約】
【課題】モータにおけるコイル間ギャップにおいて、流体を用いて効果的に絶縁性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】システム2は、モータ4に流体6を供給するポンプ10と、ポンプ10を制御する制御装置16と、を備える。流体6は、絶縁性と、電界強度の増大に応じて粘性が増大する電気粘性効果と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータへ流体を供給するシステムであって、
前記モータに前記流体を供給するポンプと、
前記ポンプを制御する制御装置と、
を備え、
前記流体は、絶縁性と、電界強度の増大に応じて粘性が増大する電気粘性効果と、を有する流体である、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、例えば、車両などに用いるモータへのオイル供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに用いるモータにおいて、モータコイルの他相同士が接触するコイルエンドにおいて、絶縁被膜を厚膜化することで絶縁性を向上させている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-158129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コイルエンドのみ厚膜化するため、コストが増大する。また、コイルエンドを低くするようにして小型モータを製造する場合、コイルエンドの隙間と曲げ加工の製造工程管理を厳しくする必要がある。このため、製造効率の低下を招くという問題があった。
【0005】
本明細書は、モータにおけるコイル間ギャップにおいて、流体を用いて効果的に絶縁性を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、モータへの流体供給システムである。このシステムは、モータに流体を供給するポンプと、ポンプを制御する制御装置と、を備える。流体は、絶縁性と、電界強度の増大に応じて粘性が増大する電気粘性効果と、を有する。
【0007】
本明細書において、電気粘性効果とは、流体が有しうる効果であって、電圧が印加されない状態では、流動性を有する低粘度の流体であるが、電圧が印加されると、電圧の大きさに応じて、粘性が大きくなるという事象を生じさせることをいう。また、電気粘性流体は、電気粘性効果を有する流体をいう。
【0008】
本発明者らは、モータのコイル間ギャップでは、流体の粘体が高いほど、振動などの外乱発生時においても流体が保持されやすく、流体が絶縁を有するとき、コイル間ギャップの絶縁性が向上するという知見を得た。さらに、本発明者らは、高い電界強度で粘性が増大する絶縁性の電気粘性流体をオイルとしてモータに供給することで、コイル間ギャップにおいて選択的に粘性を増大させて保持させることで、オイルとしての機能を損なうことなくコイル間ギャップの絶縁性を向上させうるという知見を得た。
【0009】
上記システムによれば、絶縁性と電気粘性効果とを有する流体がモータに供給される。流体は、コイル間ギャップにも供給される。コイル間ギャップは概して微小であり、高い電圧がかかるため、電界強度が高くなる。流体は、電界強度が高く部分放電が発生しやすい狭小なコイル間ギャップにおいて選択的に粘性が増大されて、狭小なコイル間ギャップに保持されるようになる。これにより、コイル間ギャップの絶縁性を向上させることができる。
【0010】
流体は、コイル間ギャップなどにおいてのみ粘性が増大するため、高粘性による不都合が抑制又は回避される。このため、流体をモータの冷媒及び/又は潤滑剤として有効に機能させることもできる。また、流体を用いることで、絶縁被膜を厚膜化することなども抑制又は回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本明細書が開示するモータへの流体供給システムの概要を示す図である。
図2】従来のオイルと、絶縁性と電気粘性効果とを有するオイルと、をそれぞれコイル間ギャップに供給して電圧を印加した状態で加振したときの状態を示す模式的に示す図である。
図3】内燃機関により駆動されるメカ式オイルポンプを備えるモータへの流体供給システムの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書に開示されるモータへ流体を供給するシステム(以下、単に、システムともいう。)に関し、適宜図面を参照しながら説明する。図1はモータへの流体供給システムを示す。
【0013】
なお、システムは、例えば、車両用のモータに用いられ、なかでも、駆動用のモータ又は発電も兼ねるモータジェネレータに用いられる。ここで、車両とは、例えば、モータを用いて車軸を駆動する車両が挙げられる。例えば、BEV(バッテリ式電気自動車)、HEV(ハイブリッド電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)、FCV(燃料電池車)が挙げられる。
【0014】
図1に示すシステム2は、BEV用の電動駆動モジュールの一部としてのモータジェネレータ(以下、単に、MGという。)4に、絶縁性と電気粘性とを備える流体としてのオイル6を供給するシステムである。システム2は、MG4と、オイル6が貯留されるオイルパン8と、ポンプ10と、クーラ12と、ポンプ10によって、オイル6を、クーラ12からMG4へ送出し、オイルパン8を経てポンプ10まで還流させるための流路14と、ポンプ10に対して、オイル流量を制御する制御装置16と、を備えている。
【0015】
MG4は、公知の各種MGを用いることができる。MG4は、例えば、ロータに永久磁石を備えた同期電動機によって構成されており、発電機及び電動機として機能する。MG4は、図示しない、ロータ及びステータを有している。なお、システム2がMG4を複数備える場合には、適宜流路を分割して各MGにオイル6が供給される。MG4は、本明細書に開示されるモータの一例である。
【0016】
オイルパン8は、公知のモータに用いられる公知のパンを適宜用いることができる。ポンプ10は、オイルパン8に貯留されたオイル6を吸引し、MG4に供給する。ポンプ10は、その駆動形式を特に問わないで公知のポンプを適宜用いることができる。特に限定するものではないが、例えば、電動機によって駆動されてもよい。電気的に制御可能であるため、車両の駆動とは独立して駆動させることが可能である。
【0017】
クーラ12は、ポンプ10から流入するオイル6を冷却する。クーラ12及び流路14は、オイル6の冷却及び搬送に適した公知のクーラ及び流路を適宜用いることができる。
【0018】
制御装置16は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成される制御装置である。具体的には、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPUと、必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROM及び入出力ポート等を備える。制御装置16は、モータ温度、外気温度、気圧、湿度といった環境要因や、車速や走行振動といった走行要因をもとに、MG4にオイル6を供給するように、ポンプ10に対してオンオフ制御などを行う。
【0019】
システム2がMG4に供給するオイル6は、絶縁性と電気粘性効果とを備える、絶縁性の電気粘性流体である。特に限定するものではないが、オイル6は、絶縁性のオイルを分散媒として、電気粘性効果を発揮する所定の粒子を所定割合に分散することにより、絶縁性と電気粘性効果を備えることができる。
【0020】
分散媒は、例えば、鉱油、公知の車両用トランスミッション用合成オイル、シリコン油やアルキルベンゼンを主原料とした合成油、ナタネ油等の植物油といったその他の公知の絶縁油が挙げられる。
【0021】
粒子は、公知の粒子系電気粘性流体に用いられている粒子を適宜用いることができる。特に限定するものではないが、例えば、炭素質粒子、シリカ粒子、半導体粒子、微結晶セルロース、ゼオライト、でんぷん粒子、イオン交換樹脂粒子、スルホン系高分子などのポリマー粒子、及びポリマー粒子などの表面を酸化チタンの微粒子で被覆した複合粒子などが挙げられる。
【0022】
オイル6における、分散媒に対する粒子の比率は、特に限定するものではないが、例えば、分散媒の総量に対して10~50質量%程度の粒子を分散させることができる。オイル6は、こうした分散媒と粒子とのほか、粒子の沈殿、固着や分散媒の消泡性向上を目的とした各種添加剤を含有していてもよい。
【0023】
こうした粒子系電気粘性流体においては、流体が奏する電気粘性効果は、粒子濃度に比例すること及び印加電界の二乗に比例すること、分散粒子の誘電率が高いほど高い電気粘性効果が得られること等がよく知られている。したがって、当業者であれば、所定の電圧又は電界強度で粘性が増大して所望の粘性を呈する電気粘性流体を適宜調製できる。
【0024】
オイル6の選択及び調製(入手)については、特に限定するものではないが、例えば、後段にて説明する方法等に基づいて行うことができる。
【0025】
システム2においては、オイル6は、オイルパン8に貯留されており、ポンプ10を作動させて吸引することにより、クーラ12で冷却され、流路14を通じてMG4に到達する。MG4のステータのコイルエンド、コイルなどに供給される。オイル6がコイルに供給された後、オイル6は、MG4の下方のオイルパン8の貯留部に到達される。
【0026】
システム2によれば、オイル6を、MG4のコイルに供給することで、部分放電が発生しやすいコイル間ギャップの狭小部においてのみオイル6の粘性を増大させて、当該部位におけるオイル6の保持力を向上することができる。この結果、オイル6の有する絶縁性によってコイル間ギャップの絶縁性を向上させることができる。
【0027】
以下、システム2におけるオイル6の選択及び調製の一例について説明する。本発明者らは、ポリイミドなどの絶縁性樹脂膜(膜厚30μm及び300μm)で被覆された導線からなるコイル間にサージ電圧として2~3kVを付与したときのコイル間ギャップの距離と放電発生電圧との関係をパッシェン則により評価した。その結果、放電が発生するコイル間距離はそれぞれ0.6mm及び0.3mmとなることがわかった。したがって、例えば、車両用向けMGにおいては、1mm程度までのコイル間を絶縁できれば、コイル間における部分放電を回避できることになる。
【0028】
また、本発明者らは、上記サージ電圧が印加されたとき、コイル間ギャップの距離が1mmのときでも、2kV/mmの電界強度となり、ギャップの距離がさらに狭くなると電界強度もさらに増大することを確認した。
【0029】
以上のことから、部分放電を回避するのに絶縁すべきコイル間ギャップの距離(この場合は、約1mmまで)とかかるコイル間ギャップにおいて発生しうる電界強度(ここでは、2kV/mm)を取得することができる。
【0030】
次いで、こうした電気粘性効果を奏するオイルとしてポリマー粒子の表面を酸化チタンの微粒子で被覆した複合粒子を従来用いられてきたオイルである車両用トランスミッション用合成オイルに分散させた(対オイルで約30質量%)オイルを準備した。このオイルと、対照として分散媒として用いたオイルとを、評価用モータのコイル間ギャップにそれぞれ付着させた後、コイルに電圧を印加した状態で加振し、その後に残存するオイル量を比較観察した。その結果を図2に示す。
【0031】
図2に示すように、絶縁性の電気粘性流体であるオイルは、分散媒であるオイルと比較してコイル間ギャップにおける保持力が増大していることがわかった。また、このオイルを用いることで、モータのコイル間ギャップの絶縁性を向上させることができることがわかった。
【0032】
以上のとおり、部分放電を回避するのに必要なコイル間ギャップの距離とかかるコイル間ギャップにおいて発生しうる電界強度を取得することができる。こうした電界強度で粘性が増大して所望の粘性を呈する絶縁性の電気粘性効果を発揮する電気粘性流体を用いることで、コイル間ギャップを十分に充填して絶縁性を向上させることができる。また、当業者であれば、2kV/mmなど所望の電界強度で粘性が増大して、所望の距離のコイル間ギャップに保持される絶縁性の電気粘性流体を適宜入手ないし調製することができる。
【0033】
なお、以上の実施形態では、ポンプ10として電動機駆動のポンプを例示したが、これに限定するものではなく、例えば、ハイブリッド車両(HEV)におけるシステム102は、内燃機関の駆動力によりメカ式オイルポンプを駆動するようにしてもよい。図3に示すように、システム102は、メカ式のポンプ110を備えている。ポンプ110は、内燃機関30の出力軸に連結され、内燃機関から出力された動力により駆動され、オイルパン8に貯留されたオイル6を吸引しMG4に供給する。なお、このシステム102においては、内燃機関30は制御装置116によって制御されるものであってもよい。ポンプ20は内燃機関30に連動して動作するため、内燃機関30の出力軸が回転しないときは停止状態となる。
【符号の説明】
【0034】
2、102:モータへの流体供給システム、4:モータジェネレータ(MG)、6:オイル、8:オイルパン、10、110:ポンプ、12:オイルクーラ、14:流路、16、116:制御装置、30:内燃機関
図1
図2
図3