(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070938
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】C軸機能を有する工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 3/12 20060101AFI20240517BHJP
G05B 19/19 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G05D3/12 305V
G05B19/19 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181579
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 優
(72)【発明者】
【氏名】酒井 健史
【テーマコード(参考)】
3C269
5H303
【Fターム(参考)】
3C269AB01
3C269BB11
3C269EF05
3C269GG01
3C269MN40
5H303AA01
5H303CC03
5H303DD01
5H303FF03
5H303HH05
5H303KK02
5H303KK03
5H303KK04
5H303KK21
5H303KK27
(57)【要約】
【課題】機械式ブレーキの状態が変わる時に機械式ブレーキの固有振動やブレーキトルクの影響による発振を防止すること。
【解決手段】C軸制御中に、機械式ブレーキ6の状態を切り替えるために機械制御部7がブレーキ動作指令を変更すると、制御パラメータ変更部25は、ブレーキ動作指令を入力として、ブレーキ動作指令が切り替わる時の機械式ブレーキ6のブレーキトルクを、動作遅れ時間、立ち上がり時間、解除遅れ時間及び立ち下がり時間から推定する。制御パラメータ変更部25は、推定ブレーキトルクに適合したフィードバック制御パラメータをフィードバック制御部28に出力し、推定ブレーキトルクに適合したフィードフォワード制御パラメータ係数をフィードフォワード制御部17に出力する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸を駆動するモータと、
前記主軸又は前記モータに備え付けられ、ブレーキトルクの変更およびブレーキ解除が可能である機械式ブレーキと、
前記機械式ブレーキにブレーキ動作指令を出力する機械制御部と、
前記モータの位置を検出するエンコーダと、
上位から前記主軸のC軸制御の位置指令を出力する位置指令生成部と、
前記エンコーダの位置検出値が前記位置指令に追従するようフィードバック制御により前記モータのトルク指令を算出するフィードバック制御部と、
前記モータのトルク指令を入力とし、前記モータが発生するトルクが前記トルク指令に追従するように電流を流す電流制御部と、
前記C軸を制御中に前記機械式ブレーキを動作させる場合、前記ブレーキ動作指令を入力とし、前記機械式ブレーキの応答遅れ、ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間を考慮して、前記フィードバック制御部のC軸制御パラメータを変更する制御パラメータ変更部と、
を有することを特徴とするC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御部による制御方法が、前記C軸の位置と前記位置指令との位置誤差からPID制御を行う方法、または、前記位置誤差からP制御により速度指令を算出し、後段で前記C軸の速度を検出し前記速度指令に追従するようにPI制御を行うP-PI制御方法である、
ことを特徴とする請求項1に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記C軸が前記位置指令に追従するように、前記フィードバック制御部に加えて、前記位置指令に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード制御部を更に有し、
前記制御パラメータ変更部は、前記C軸を制御中に前記機械式ブレーキを動作させる場合、前記機械式ブレーキの応答遅れ、ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間を考慮して、前記フィードフォワード制御部のC軸制御パラメータを変更する、
ことを特徴とする請求項2に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記フィードフォワード制御部による制御方法が、前記位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を算出し前記P-PI制御の速度指令に加算する第1方法、前記位置指令を2階微分してフィードフォワード加速度指令を算出し、前記C軸が前記フィードフォワード加速度指令に対応する加速度を発生させるような制御入力を、フィードバック制御の制御入力に加算する第2方法、および、前記C軸が反転動作する時に前記位置誤差が小さくなるように反転補償制御をする第3方法、の中の少なくとも1つのフィードフォワード制御方法を含む、
ことを特徴とする請求項3に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記制御パラメータ変更部は、
前記ブレーキ動作指令を入力としてブレーキ動作指令の切り換えに対する前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定するブレーキ状態シミュレーション部と、
前記ブレーキ状態シミュレーション部が推定する推定ブレーキトルクに応じてフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力するパラメータ補間部と、
を有し、
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記トルク指令から前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定し、
前記パラメータ補間部は、前記推定ブレーキトルクに適合したフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項6】
前記制御パラメータ変更部は、
前記ブレーキ動作指令を入力としてブレーキ動作指令の切り換えに対する前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定するブレーキ状態シミュレーション部と、
前記ブレーキ状態シミュレーション部が推定する推定ブレーキトルクに応じてフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力するパラメータ補間部と、
前記ブレーキ動作指令を入力としてブレーキ動作指令の切り換えに対するフィードフォワード制御パラメータ係数を選択するか、又は、前記推定ブレーキトルクを入力としてフィードフォワード制御パラメータ係数を補間し、前記フィードフォワード制御部に出力するパラメータ係数選択部と、
を有し、
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記トルク指令から前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定し、
前記パラメータ補間部は、前記推定ブレーキトルクに適合したフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力し、
前記パラメータ係数選択部は、前記ブレーキ動作指令または前記推定ブレーキトルクに適合したフィードフォワード制御パラメータ係数を前記フィードフォワード制御部に出力し、
前記フィードフォワード制御部は、前記反転補償制御の補償パラメータに前記フィードフォワード制御パラメータ係数を乗じる、
ことを特徴とする請求項4に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項7】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記ブレーキトルクを推定するときに、前記位置指令生成部が前記C軸を一定速度で回転させる指令を出力することで、前記C軸が一定速度で回転するときに前記機械式ブレーキを動作させ、前記応答遅れ、前記ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間を前記トルク指令から推定する、
ことを特徴とする請求項6に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項8】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記トルク指令を入力とし、都度推定する前記応答遅れ、前記ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間に応じて、前記推定ブレーキトルクの応答を更新し、前記フィードバック制御パラメータまたはフィードフォワード制御パラメータ係数の変更時間を可変とする、
ことを特徴とする請求項6に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項9】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記ブレーキトルクの立ち上がり時間と立ち下がり時間での補間方法として、線形補間または指数補間を選択する、
ことを特徴とする請求項6に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【請求項10】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、指数補間を選択した状態で前記フィードバック制御パラメータまたはフィードフォワード制御パラメータ係数を変化させたときに異音や振動が発生した場合は、線形補間を選択する、
ことを特徴とする請求項9に記載のC軸機能を有する工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸又は主軸を駆動するモータに備わる機械式ブレーキを用いてC軸を制御する機能を有する工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミーリング加工を行う旋盤や複合加工機によって行われる、主軸の位置制御(以下「C軸制御」と呼ぶ)を用いた加工には、割出加工と創成加工の2種類がある。割出加工では、主軸を所望の角度に位置決めし、主軸に備わる機械式ブレーキを用いて主軸角度を固定する。
【0003】
創成加工は、主軸を軌跡制御しながらミーリング加工などを行う方法である。加工負荷が小さい場合は、機械式ブレーキを解除して加工精度を向上させ、加工負荷の大きい重切削を行う場合は、機械式ブレーキを低圧で駆動させて低ブレーキトルクを発生して、切削能力を向上させたり加工ビビリを防止したりする技術が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の装置では、機械式ブレーキを低圧ブレーキにする場合、機械式ブレーキを解除する場合に比べて、サーボ制御におけるフィードバックゲインを下げる。これにより、機械式ブレーキの固有振動やブレーキトルクの影響による発振を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3には、ブレーキ動作指令、ブレーキトルク及びサーボ制御パラメータのそれぞれの時間変化が示されている。
図3中の横軸は時間を示している。
【0007】
図3に示すように、実際は、機械式ブレーキにブレーキ動作指令(
図3上段)が伝達されてからブレーキトルクが応答するまでには、油圧装置などが駆動する分の時間を要する。また、ブレーキトルクの立ち上がりが緩やかな場合がある(
図3中段)。従って、先行技術にあるように制御パラメータを瞬時に切り替えると、緩やかに変化する機械の状態と制御パラメータとが適合せず、機械式ブレーキの状態が変わる時に、機械式ブレーキの固有振動やブレーキトルクの影響によって発振するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、機械式ブレーキの状態が変わる時に機械式ブレーキの固有振動やブレーキトルクの影響による発振を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、主軸を駆動するモータと、前記主軸又は前記モータに備え付けられ、ブレーキトルクの変更およびブレーキ解除が可能である機械式ブレーキと、前記機械式ブレーキにブレーキ動作指令を出力する機械制御部と、前記モータの位置を検出するエンコーダと、上位から前記主軸のC軸制御位置指令を出力する位置指令生成部と、前記エンコーダの位置検出値が前記位置指令に追従するようフィードバック制御により前記モータのトルク指令を算出するフィードバック制御部と、前記モータのトルク指令を入力とし、前記モータが発生するトルクが前記トルク指令に追従するように電流を流す電流制御部と、前記C軸を制御中に前記機械式ブレーキを動作させる場合、前記ブレーキ動作指令を入力とし、前記機械式ブレーキの応答遅れ、ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間を考慮して、前記フィードバック制御部のC軸制御パラメータを変更する制御パラメータ変更部と、を有することを特徴とするC軸機能を有する工作機械の制御装置である。
【0010】
前記フィードバック制御部による制御方法は、前記C軸の位置と前記位置指令との位置誤差からPID制御を行う方法、または、前記位置誤差からP制御により速度指令を算出し、後段で前記C軸の速度を検出し前記速度指令に追従するようにPI制御を行うP-PI制御方法であってもよい。
【0011】
C軸機能を有する工作機械の制御装置は、前記C軸が前記位置指令に追従するように、前記フィードバック制御部に加えて、前記位置指令に基づいてフィードフォワード制御するフィードフォワード制御部を更に有し、前記制御パラメータ変更部は、前記C軸を制御中に前記機械式ブレーキを動作させる場合、前記機械式ブレーキの応答遅れ、ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間を考慮して、前記フィードフォワード制御部のC軸制御パラメータを変更してもよい。
【0012】
前記フィードフォワード制御部による制御方法は、前記位置指令を微分してフィードフォワード速度指令を算出し前記P-PI制御の速度指令に加算する第1方法、前記位置指令を2階微分してフィードフォワード加速度指令を算出し、前記C軸が前記フィードフォワード加速度指令に対応する加速度を発生させるような制御入力を、フィードバック制御の制御入力に加算する第2方法、および、前記C軸が反転動作する時に前記位置誤差が小さくなるように反転補償制御をする第3方法、の中の少なくとも1つのフィードフォワード制御方法を含んでもよい。
【0013】
前記制御パラメータ変更部は、前記ブレーキ動作指令を入力としてブレーキ動作指令の切り換えに対する前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定するブレーキ状態シミュレーション部と、前記ブレーキ状態シミュレーション部が推定する推定ブレーキトルクに応じてフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力するパラメータ補間部と、を有し、前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記トルク指令から前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定し、前記パラメータ補間部は、前記推定ブレーキトルクに適合したフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力してもよい。
【0014】
前記制御パラメータ変更部は、前記ブレーキ動作指令を入力としてブレーキ動作指令の切り換えに対する前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定するブレーキ状態シミュレーション部と、前記ブレーキ状態シミュレーション部が推定する推定ブレーキトルクに応じてフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力するパラメータ補間部と、前記ブレーキ動作指令を入力としてブレーキ動作指令の切り換えに対するフィードフォワード制御パラメータ係数を選択するか、または、前記推定ブレーキトルクを入力としてフィードフォワード制御パラメータ係数を補間し、前記フィードフォワード制御部に出力するパラメータ係数選択部と、を有し、前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記トルク指令から前記機械式ブレーキのブレーキトルクを推定し、前記パラメータ補間部は、前記推定ブレーキトルクに適合したフィードバック制御パラメータを前記フィードバック制御部に出力し、前記パラメータ係数選択部は、前記ブレーキ動作指令又は前記推定ブレーキトルクに適合したフィードフォワード制御パラメータ係数を前記フィードフォワード制御部に出力し、前記フィードフォワード制御部は、前記反転補償制御の補償パラメータに前記フィードフォワード制御パラメータ係数を乗じてもよい。
【0015】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記ブレーキトルクを推定するときに、前記位置指令生成部が前記C軸を一定速度で回転させる指令を出力することで、前記C軸が一定速度で回転するときに前記機械式ブレーキを動作させ、前記応答遅れ、前記ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間を前記トルク指令から推定してもよい。
【0016】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記トルク指令を入力とし、都度推定する前記応答遅れ、前記ブレーキトルクの立ち上がり時間および立ち下がり時間に応じて、前記推定ブレーキトルクの応答を更新し、前記フィードバック制御パラメータまたはフィードフォワード制御パラメータ係数の変更時間を可変としてもよい。
【0017】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、前記ブレーキトルクの立ち上がり時間と立ち下がり時間での補間方法として、線形補間または指数補間を選択してもよい。
【0018】
前記ブレーキ状態シミュレーション部は、指数補間を選択した状態で前記フィードバック制御パラメータまたはフィードフォワード制御パラメータ係数を変化させたときに異音や振動が発生した場合は、線形補間を選択してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機械式ブレーキの状態が変わる時に機械式ブレーキの固有振動やブレーキトルクの影響による発振を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1に係るシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】制御パラメータ変更部8の構成を示すブロック図である。
【
図3】線形補間時のブレーキ動作時のブレーキトルクとサーボ制御パラメータの時間応答を示す図である。
【
図4】指数補間時のブレーキ動作時のブレーキトルクとサーボ制御パラメータの時間応答を示す図である。
【
図5】フィードバック制御部3の構成を示すブロック図であって、PID制御を説明するためのブロック図である。
【
図6】フィードバック制御部3の構成を示すブロック図であって、P-PI制御を説明するためのブロック図である。
【
図7】フィードフォワード制御部17を含む実施例1の構成を示すブロック図である。
【
図8】フィードフォワード制御部17の構成を示すブロック図である。
【
図9】制御パラメータ変更部25の構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の実施例2に係るシステムの構成を示すブロック図である。
【
図11】制御パラメータ変更部23の構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の実施例2に係る推定動作の時間応答を示す図である。
【
図13】フィードフォワード制御部17を含む実施例2の構成を示すブロック図である。
【
図14】制御パラメータ変更部26の構成を示すブロック図である。
【
図15】制御パラメータ変更部25の構成を示すブロック図である。
【
図16】制御パラメータ変更部26の構成を示すブロック図である。
【
図17】フィードバック制御部28の構成を示すブロック図であって、P-PI制御を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る構成について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係るシステムの構成を示すブロック図である。当該システムは、実施例1に係る制御装置(つまり工作機械の制御装置)とモータ5とを含む。
【0022】
位置指令生成部1は、C軸の位置指令を減算器50に出力する。
【0023】
エンコーダ2がモータ5に設けられている。エンコーダ2は、モータ5の位置を検出し、検出した位置を示す位置検出値を減算器50に出力する。
【0024】
減算器50は、位置指令生成部1から出力された位置指令から、エンコーダ2によって検出された位置検出値を減算することで位置誤差を算出し、その位置誤差をフィードバック制御部3に出力する。
【0025】
フィードバック制御部3は、減算器50から出力された位置誤差に応じたフィードバック制御によって、フィードバックトルク指令を電流制御部4に出力する。
【0026】
電流制御部4は、モータ5が発生するトルクがフィードバックトルク指令に追従するようにモータ5に流れる電流を制御する。モータ5は、電流制御部4から供給される電流によってトルクを発生することで主軸を駆動する。
【0027】
機械制御部7は、モータ5又は主軸に設けられている機械式ブレーキ6にブレーキ動作指令を出力することで、機械式ブレーキ6を制御する。
【0028】
機械式ブレーキ6は、機械制御部7から出力されたブレーキ動作指令に応じて油圧装置によって駆動する。機械式ブレーキ6の状態は、ブレーキ動作指令に応じて、ブレーキを作用させない解除状態、ブレーキを弱く作用させる低圧ブレーキ状態、又は、ブレーキを強く作用させC軸を固定する高圧ブレーキ状態、のいずれかに切り替えられる。
【0029】
以下、実施例1では、C軸制御パラメータの変更時間が固定の場合について説明する。
【0030】
制御パラメータ変更部8は、機械制御部7から出力されたブレーキ動作指令を入力として受け付け、そのブレーキ動作指令に基づいて、ブレーキ動作指令が切り替わる時の機械式ブレーキ6のブレーキトルクを推定し、フィードバック制御部3にフィードバック制御パラメータを出力する。
【0031】
図2を参照して、制御パラメータ変更部8の具体的な構成について説明する。
図2は、制御パラメータ変更部8の構成を示すブロック図である。
【0032】
制御パラメータ変更部8は、ブレーキ状態シミュレーション部9とパラメータ補間部10とを含む。
【0033】
ブレーキ状態シミュレーション部9は、機械制御部7から出力されたブレーキ動作指令を入力として受け付ける。ブレーキ状態シミュレーション部9は、そのブレーキ動作指令に基づいて、機械式ブレーキの応答遅れ、ブレーキトルクの立ち上がり時間、及び、ブレーキトルクの立ち下がり時間を考慮して低圧ブレーキ時のブレーキトルクをシミュレーションすることで、低圧ブレーキ率を算出し、その低圧ブレーキ率をパラメータ補間部10に出力する。
【0034】
図3に示すように、低圧ブレーキ動作指令(
図3上段)が伝達されてからブレーキトルクが応答するまでには遅れが生じ、ブレーキトルクの立ち上がりや立ち下がりにも時間がかかる。そのため、ブレーキトルクが時間に比例して変化する場合、ブレーキトルクは、
図3中段に示すように、低圧ブレーキ動作指令が伝達された時点から遅れて変化する(
図3に示す例では、ブレーキトルクは増大する)。
【0035】
ブレーキ解除状態のときの低圧ブレーキ率は0%であり、低圧ブレーキ状態のときの低圧ブレーキ率は100%である。低圧ブレーキ率は、低圧ブレーキ動作指令(
図3上段)に応じてブレーキトルク(
図3中段)を模擬する応答となる。
【0036】
パラメータ補間部10は、ブレーキ状態シミュレーション部9から出力された低圧ブレーキ率を入力として受け付け、その低圧ブレーキ率に基づいて、
図3下段に示すように、ブレーキ解除状態と低圧ブレーキ状態との間の状態におけるフィードバック制御パラメータを補間する。すなわち、パラメータ補間部10は、低圧ブレーキ率が0%のときはブレーキ解除状態のフィードバック制御パラメータS1を出力し、低圧ブレーキ率が100%のときは低圧ブレーキ状態のフィードバック制御パラメータS2を出力する。パラメータ補間部10は、低圧ブレーキ率が50%のときは、ブレーキ解除状態のフィードバック制御パラメータS1と低圧ブレーキ状態のフィードバック制御パラメータS2との平均値を出力する。
【0037】
ブレーキトルクが時間に対して指数的に変化する場合、低圧ブレーキ動作指令(
図4上段)に対するブレーキトルクは、
図4中段に示すように変化する。この場合、ブレーキ状態シミュレーション部9は、
図4中段に示されているブレーキトルクに対応して低圧ブレーキ率を模擬する。パラメータ補間部10は、
図4下段に示すように、S1からS2の間の曲線で表現されるパラメータに従って、フィードバック制御パラメータを補間する。
【0038】
なお、C軸制御パラメータの変更時間は固定であるため、実機のブレーキトルクの立ち上がり時間と立ち下がり時間とを事前に実測しておくことで、変更時間と応答遅れ時間とが決定される。
【0039】
また、パラメータの線形補間と指数補間の選択は、モータトルクの実測値と補間動作時の異音の有無とに基づいて判別される。低圧ブレーキを実現するときのモータトルクは、フィードバック制御による遅れをもってブレーキトルクと釣り合う。そのため、線形補間よりも指数補間の方がモータトルクの実測値と一致しやすい。また、指数補間の計算負荷は低いという利点がある。ただし、指数補間では線形補間よりも補間開始時のパラメータの傾きが急になり、制御が不安定化しやすい。そのため、指数補間を選択した場合の動作で異音や振動が発生した場合は、線形補間を選択する。
【0040】
フィードバック制御部3の詳細な構成として、以下の2つの構成が挙げられる。
【0041】
図5には、フィードバック制御部3の第1構成が示されている。
図5は、その第1構成を示すブロック図である。第1構成においては、PID制御が実現される。減算器50は、モータ5に設けられているエンコーダ2によって検出された位置検出値を位置指令から減算することで位置誤差を算出し、算出した位置誤差を、P制御部11、I制御部12及びD制御部13に出力する。P制御部11は比例制御を行い、I制御部12は積分制御を行い、D制御部13は微分制御を行い、それぞれの制御入力が加算器51に出力される。加算器51は、P制御部11、I制御部12及びD制御部13のそれぞれから出力された制御入力を加算することでフィードバックトルク指令を算出し、算出したフィードバックトルク指令を電流制御部4に出力する。
【0042】
図6には、フィードバック制御部3の第2構成が示されている。
図6は、その第2構成を示すブロック図である。第2構成においては、P-PI制御が実現される。減算器50は、モータ5に設けられているエンコーダ2によって検出された位置検出値を位置指令から減算することで位置誤差を算出し、算出した位置誤差を位置制御部14に出力する。位置制御部14は、その位置誤差からP制御によって速度指令を算出し、算出した速度指令を減算器52に出力する。微分器15は、モータ位置検出値を微分することで速度検出値を算出し、算出した速度検出値を減算器52に出力する。減算器52は、前述の速度指令から速度検出値を減算することで速度誤差を算出し、算出した速度誤差を速度制御部16に出力する。速度制御部16は、入力された速度誤差に基づいてPI制御によってフィードバックトルク指令を算出し、算出したフィードバックトルク指令を電流制御部4に出力する。
【0043】
制御パラメータ変更部8によって算出されたフィードバック制御パラメータをフィードバック制御部3に設定することで、機械式ブレーキ6の状態に応じてフィードバック制御部3の各制御パラメータを変更することができる。
【0044】
制御装置の別の構成例として、フィードフォワード制御を実現する構成が用いられてもよい。
図7には、その構成の一例が示されている。
図7に示されている制御装置は、位置指令に基づいてフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御部17を含む。フィードフォワード制御部17は、位置指令に応じたフィードフォワード制御によってフィードフォワードトルク指令を生成し、生成したフィードフォワードトルク指令を出力すると共に、速度指令を計算しフィードバック制御部28に出力する。加算器53は、フィードバックトルク指令とフィードフォワードトルク指令とを加算することでトルク指令を生成し、生成したトルク指令を電流制御部4に出力する。
【0045】
図8には、フィードフォワード制御部17の詳細な構成が示さている。フィードフォワード制御部17の詳細な構成として、以下に説明する3つの構成が挙げられる。
【0046】
第1構成においては、フィードフォワード制御部17は、位置指令から微分器18によって速度指令を算出し、算出した速度指令を微分器19へ入力すると共に、減算器52への入力に加算する。
図17には、フィードバック制御部28の詳細な構成が示されている。前述のP-PI制御に加え、フィードフォワード制御部17が出力する速度指令を減算器52に足して速度誤差を算出し、算出した速度誤差を速度制御部16に出力する。第1構成によって実現される方法が、第1方法の一例に相当する。
【0047】
第2構成においては、フィードフォワード制御部17は、速度指令から微分器19によって加速度指令を算出し、駆動系のイナーシャに比例する定数K20をその値に乗じることで、加速度指令を発生する加速トルク指令を算出し、算出した加速トルク指令をフィードフォワードトルク指令として出力する。第2構成によって実現される方法が、第2方法の一例に相当する。
【0048】
第3構成においては、フィードフォワード制御部17は、反転補償演算部21によって反転補償トルク指令を算出し、算出した反転補償トルク指令をフィードフォワードトルク指令として出力する。反転補償演算部21は、位置指令に応じた反転突起補償などの公知技術によって、反転補償トルク指令を算出する。第3構成によって実現される方法が、第3方法の一例に相当する。なお、詳細は後述するが、反転補償演算部21は、低圧ブレーキ状態における補償パラメータを持ち、パラメータ係数選択部22が出力するフィードフォワード制御パラメータ係数を乗じた値を補償に用いる。
【0049】
第1構成、第2構成及び第3構成の中の少なくとも1つの構成が採用される。つまり、第1方法、第2方法及び第3方法の中の少なくとも1つの方法が実行される。第1構成、第2構成及び第3構成の中の複数の構成の組み合わせが採用されることで、第1方法、第2方法及び第3方法の中の複数の方法の組み合わせが実行されてもよい。
【0050】
例えば、第2構成と第3構成とを併用する場合、加算器54によって加速トルク指令と反転補償トルク指令とを加算し、その加算で得られた指令をフィードフォワードトルク指令として出力すればよい。
【0051】
図7に示されている制御パラメータ変更部25は、ブレーキ動作指令に基づいて、ブレーキ動作指令が切り替わる時の機械式ブレーキ6のブレーキトルクを推定し、フィードバック制御部28にフィードバック制御パラメータを出力し、フィードフォワード制御部17にフィードフォワード制御パラメータ係数を出力する。
【0052】
図9には、制御パラメータ変更部25の構成が示されている。
図9は、制御パラメータ変更部25の構成を示すブロック図である。パラメータ係数選択部22は、ブレーキ動作指令を入力として受け付け、ブレーキ動作指令に応じてフィードフォワード制御パラメータに乗じるフィードフォワード制御パラメータ係数を選択し、選択したフィードフォワード制御パラメータ係数をフィードフォワード制御部17に出力する。
【0053】
フィードフォワード制御部17においてC軸反転時の位置誤差(反転突起)を小さくするための反転突起補償を行う場合、機械式ブレーキ6の状態に応じて補償パラメータを切り替える必要がある。低圧ブレーキ状態ではブレーキトルクが作用するため反転突起補償が必要であるが、ブレーキ解除状態ではブレーキトルクが作用しないため反転突起補償を小さくし、高圧ブレーキ状態では反転突起補償を無効にするような補償パラメータが選択される。従って、フィードフォワード制御部17には低圧ブレーキ状態における補償パラメータを持たせ、フィードフォワード制御パラメータ係数として、低圧ブレーキ状態の時に1、高圧ブレーキ状態の時に0、ブレーキ解除状態の時に0以上1未満の値を選択する。このように選択したフィードフォワード制御パラメータ係数をフィードフォワード制御部17に出力することで、ブレーキ状態に応じて適切にフィードフォワード制御を切り替えることができる。
【0054】
なお、上述した実施形態では、パラメータ係数選択部22がブレーキ動作指令に基づきフィードフォワード制御パラメータ係数を選択する場合を説明した。
図15に示すように、ブレーキ状態シミュレーション部9が出力する低圧ブレーキ率をパラメータ係数選択部27に入力し、低圧ブレーキ率に応じてフィードフォワード制御パラメータ係数を時間と共に変化するように算出し、フィードフォワード制御部17に出力してもよい。
【0055】
機械式ブレーキ6が発生させるブレーキトルクの応答遅れや立ち上がり時間や立ち下がり時間は、油圧装置やブレーキパッド等の経年変化などによって変化する可能性がある。実施例2では、実施例1では固定だったC軸制御パラメータの変更時間が可変である場合について説明する。
【0056】
実施例2と実施例1との相違点は、
図10および
図11に示すように、制御パラメータ変更部23とブレーキ状態シミュレーション部24とにモータのトルク指令が追加で入力される点である。
【0057】
ブレーキトルクの応答遅れや立ち上がり時間や立ち下がり時間を経年変化に合わせて更新するために、ブレーキトルク推定動作として、C軸を一定速度で動作中に低圧ブレーキ状態とブレーキ解除状態を切り替え、低圧ブレーキ動作指令とモータトルク指令の時間応答を測定する。
【0058】
図12に、本推定動作における、モータ回転数、モータトルク指令、低圧ブレーキ動作指令及びブレーキトルクのそれぞれの時間応答を示す。推定動作では、一定速度でC軸動作中に低圧ブレーキをON・OFFするため、低圧ブレーキ動作指令より遅れてブレーキトルクが発生し、一定速度で送るためにブレーキトルクに釣り合うモータトルク指令が発生する。従って、以下の表1に示す通り、低圧ブレーキ動作指令とモータトルク指令との関係から各種時間を推定することができる。
【0059】
本推定動作は、ワークを把持しない重心バランスのとれた状態での動作を想定しているが、把持しているワークが偏心していて重心がアンバランスな状態であり、一定速度でC軸動作中のモータトルク指令がC軸1周の内に変化する状況下で、推定動作を行うことも考えられる。この場合は、低圧ブレーキをOFFにした状態でのC軸1周分のモータトルク指令をメモリ等の記憶装置に記憶させておき、低圧ブレーキ動作指令をONした後のモータトルクと記憶されたモータトルク指令とを比較し、同位相でのトルクの差異に基づいて、上記と同様に各種時間を推定することができる。
【0060】
【0061】
C軸を一定速度で回転させる理由は、推定動作においてブレーキトルクに釣り合うモータトルク指令が発生することで、モータトルク指令からブレーキトルクを推定することができるためである。また、一定速度で回転させることで、加減速トルクを必要とせず、モータトルク指令の変化要因をブレーキトルクの影響のみに限定することができる。
【0062】
更新した前述のパラメータを用いてブレーキ状態シミュレーション部24においてブレーキトルクを模擬することで、経年変化などによるブレーキトルクの変化に対応し、安定してC軸を制御することができる。
【0063】
また、実施例2についても、
図13に示すように、制御装置は、位置指令に基づいてフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御部17を含んでもよい。
【0064】
制御パラメータ変更部26は、ブレーキ動作指令とトルク指令を入力として受け付け、ブレーキ動作指令が切り替わる時の機械式ブレーキ6のブレーキトルクを推定し、フィードバック制御部28にフィードバック制御パラメータを出力し、フィードフォワード制御部17にフィードフォワード制御パラメータ係数を出力する。
【0065】
図14は、制御パラメータ変更部26の構成を示すブロック図である。パラメータ係数選択部22は、ブレーキ動作指令を入力として受け付け、ブレーキ動作指令に応じてフィードフォワード制御パラメータに乗じるフィードフォワード制御パラメータ係数を選択し、選択したフィードフォワード制御パラメータ係数をフィードフォワード制御部17に出力する。
【0066】
なお、実施例1と同様に、
図16に示すように、ブレーキ状態シミュレーション部24が出力する低圧ブレーキ率をパラメータ係数選択部27に入力し、低圧ブレーキ率に応じてフィードフォワード制御パラメータ係数を時間と共に変化するように算出し、フィードフォワード制御部17に出力してもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、反転補償制御を実現するために、反転補償演算部21において位置指令に基づくフィードフォワードトルク指令を生成する方法について説明した。
図6に示すP-PI制御を用いる場合は、反転補償演算部21において公知技術によって位置指令から反転補償位置指令や反転補償速度指令を生成し、反転補償位置指令を減算器50に加算するか、又は、反転補償速度指令を減算器52に加算することでフィードフォワード制御を実現してもよい。
【0068】
上述した各実施例に係る制御装置によれば、機械式ブレーキの応答遅れとブレーキトルクの立ち上がり時間と立ち下がり時間を考慮して機械式ブレーキのブレーキ状態を推定し、フィードバック制御パラメータやフィードフォワード制御パラメータを適切に変化させる。これにより、機械式ブレーキの状態が変わる時に機械式ブレーキの固有振動やブレーキトルクの影響による発振を防止することができる。
【0069】
例えば、創成加工の加工負荷が小さい場合は、機械式ブレーキを解除して加工精度を向上させることができる。また、加工負荷の大きい重切削を行う場合は、機械式ブレーキを低圧で駆動させて低ブレーキトルクを発生させることで、切削能力を向上させたり、加工ビビリを防止したりすることができる。
【0070】
上述した各実施例に係る制御装置の構成は、例えばプロセッサや電子回路等のハードウェア資源を利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。また、各実施例に係る制御装置の構成は、コンピュータによって実現されてもよい。つまり、コンピュータが備えるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェア資源と、CPU等の動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により、各実施例に係る制御装置の構成の全部又は一部が実現されてもよい。当該プログラムは、CDやDVD等の記録媒体を経由して、又は、ネットワーク等の通信経路を経由して、各実施例に係る制御装置が有する記憶装置に記憶される。別の例として、各実施例に係る制御装置の構成は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 位置指令生成部、2 エンコーダ、3,28 フィードバック制御部、4 電流制御部、5 モータ、6 機械式ブレーキ、7 機械制御部、8,23,25,26 制御パラメータ変更部、9,24 ブレーキ状態シミュレーション部、10 パラメータ補間部、11 P制御部、12 I制御部、13 D制御部、14 位置制御部、15,18,19 微分器、16 速度制御部、17 フィードフォワード制御部、20 駆動系のイナーシャに比例する定数K、21 反転補償演算部、22 パラメータ係数選択部、27 パラメータ係数選択部、50,52 減算器、51,53,54 加算器。