(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007097
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 382
A61B5/055 390
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108311
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】沼野 智一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大輝
(72)【発明者】
【氏名】陣崎 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】奥田 茂男
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA18
4C096AA20
4C096AB24
4C096AD07
4C096BB02
4C096FC20
(57)【要約】
【課題】従来の画質を維持あるいは向上させた状態で撮像時間を短縮し、対象物内の硬さの情報を取得する。
【解決手段】被検査部に振動を加えるとともに磁場を印加することで、前記被検査部に含まれるプロトンが緩和するときに発する電磁波信号を受信するMRI装置を制御する制御装置であって、前記MRI装置を制御して、空間上の複数の軸に対して発生タイミングが異なる傾斜磁場を発生させる傾斜磁場制御部と、前記MRI装置が受信した前記電磁波信号に基づいて対象内部を伝わる伝播波を可視化したウェーブイメージを生成するウェーブイメージ生成部と、前記ウェーブイメージから、前記傾斜磁場の異なる発生タイミングに基づいて、前記複数の軸ごとのウェーブイメージを抽出するウェーブイメージ抽出部と、前記抽出されたウェーブイメージを用いて前記被検査部の硬さを示す画像であるMRE画像を生成するMRE画像生成部と、を備える制御装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査部に振動を加えるとともに磁場を印加することで、前記被検査部に含まれるプロトンが緩和するときに発する電磁波信号を受信するMRI装置を制御する制御装置であって、
前記MRI装置を制御して、空間上の複数の軸に対して発生タイミングが異なる傾斜磁場を発生させる傾斜磁場制御部と、
前記MRI装置が受信した前記電磁波信号に基づいて対象内部を伝わる伝播波を可視化したウェーブイメージを生成するウェーブイメージ生成部と、
前記ウェーブイメージから、前記傾斜磁場の異なる発生タイミングに基づいて、前記複数の軸ごとのウェーブイメージを抽出するウェーブイメージ抽出部と、
前記抽出されたウェーブイメージを用いて前記被検査部の硬さを示す画像であるMRE画像を生成するMRE画像生成部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記ウェーブイメージ抽出部は、前記ウェーブイメージをフーリエ変換し、フーリエ変換により生じる前記発生タイミングごとに異なる周波数のピークを検出し、前記ピークに対して逆フーリエ変換を行うことで、前記複数の軸ごとのウェーブイメージを抽出する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記傾斜磁場制御部は、前記MRI装置を制御して、空間上において互いに直交する3つの軸に対して、撮像ごとに前記振動の位相に対してそれぞれ45度、90度、135度ずつずれる傾斜磁場を発生させる、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
被検査部に振動を加えるとともに磁場を印加することで、前記被検査部に含まれるプロトンが緩和するときに発する電磁波信号を受信するMRI装置を制御する制御方法であって、
前記MRI装置を制御して、空間上の複数の軸に対して発生タイミングが異なる傾斜磁場を発生させる傾斜磁場制御ステップと、
前記MRI装置が受信した前記電磁波信号に基づいて対象内部を伝わる伝播波を可視化したウェーブイメージを生成するウェーブイメージ生成ステップと、
前記ウェーブイメージから、前記傾斜磁場の異なる発生タイミングに基づいて、前記複数の軸ごとのウェーブイメージを抽出するウェーブイメージ抽出ステップと、
前記抽出されたウェーブイメージを用いて前記被検査部の硬さを示す画像であるMRE画像を生成するMRE画像生成ステップと、
を有する制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の制御方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関などにおいて生体内を撮像する手法にMRE(Magnetic Resonance Elastography:磁気共鳴エラストグラフィ)と呼ばれる手法がある。MREは、対象物に外部から振動を与えながらMRI装置で撮像することで、対象物内の伝播波を画像化(wave image)し、伝播波の局所波長を推定することで、対象物内の硬さ(弾性率)を画像化する手法である。MREは触診が難しい部分の硬さの計測を可能にすることができることから、研究が進められている(例えば、特許文献1及び2など)。
【0003】
振動の伝播をwave image上に表示するためには、静止画ではなく動画として描画する必要がある。MRI(MREも含む)撮像は振動を動画として描画できるほどの時間分解能はないため、MREではMRIと振動を同期させて「コマ撮り」の画像を複数回撮像する。この「コマ撮り」の回数を増やすほど、伝播波の波長や振幅を読み出す精度を向上させることができる。また、生体内は音響インピーダンスが異なる組織(骨や空気など)が複雑に位置するため、生体内を伝播する波は散乱、反射及び回折などの影響を強く受ける。そのため、1方向(1軸)に変位する伝播波を画像化しただけでは伝播波の波長推定精度が高くない。例えば軸を変えて伝播波を画像化し、複数の画像を取得することで伝搬波を軸ごとに分解して観察し、硬さをより正確に算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-064309号公報
【特許文献2】特開2011-156412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、分解する軸の数及び振動位相を変える回数を増加させると、撮像時間が増加する。各々の撮像において、対象物の撮像断面位置が変化しないことが前提となっているため、全撮像が終了するまで患者は動かないことが必要である。現臨床でMREの対象となっている肝臓などの体幹部臓器においては、体動に加えて呼吸変動の影響も強く受ける。そのため、撮像時間が増加すると患者への負担が大きくなるだけでなく、息止め不良や体動が生じた場合に弾性率推定精度が低下する。また、MRI(MRE)の画質をあえて低下させることで、撮像時間の短縮は可能であるが、画像ノイズや空間分解能の低下によって弾性率推定精度が低下する。このような状況より、臨床では1軸の変位データのみを使用して弾性率推定を行っており、複数軸を用いた正確な弾性率解析を実施できていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、このような事情を考慮してなされたものであり、従来の画質を維持あるいは向上させた状態で、撮像時間の短縮を可能とした対象物内の硬さの情報を取得する制御装置、制御方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る制御装置は、被検査部に振動を加えるとともに磁場を印加することで、前記被検査部に含まれるプロトンが緩和するときに発する電磁波信号を受信するMRI装置を制御する制御装置であって、前記MRI装置を制御して、空間上の複数の軸に対して発生タイミングが異なる傾斜磁場を発生させる傾斜磁場制御部と、前記MRI装置が受信した前記電磁波信号に基づいて対象内部を伝わる伝播波を可視化したウェーブイメージを生成するウェーブイメージ生成部と、前記ウェーブイメージから、前記傾斜磁場の異なる発生タイミングに基づいて、前記複数の軸ごとのウェーブイメージを抽出するウェーブイメージ抽出部と、前記抽出されたウェーブイメージを用いて前記被検査部の硬さを示す画像であるMRE画像を生成するMRE画像生成部と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る制御方法は、被検査部に振動を加えるとともに磁場を印加することで、前記被検査部に含まれるプロトンが緩和するときに発する電磁波信号を受信するMRI装置を制御する制御方法であって、前記MRI装置を制御して、空間上の複数の軸に対して発生タイミングが異なる傾斜磁場を発生させる傾斜磁場制御ステップと、前記MRI装置が受信した前記電磁波信号に基づいて対象内部を伝わる伝播波を可視化したウェーブイメージを生成するウェーブイメージ生成ステップと、前記ウェーブイメージから、前記傾斜磁場の異なる発生タイミングに基づいて、前記複数の軸ごとのウェーブイメージを抽出するウェーブイメージ抽出ステップと、前記抽出されたウェーブイメージを用いて前記被検査部の硬さを示す画像であるMRE画像を生成するMRE画像生成ステップと、を有する。
【0009】
本発明の一態様に係るプログラムは、上記制御方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の画質を維持あるいは向上させた状態で撮像時間を短縮して、対象物内の硬さの情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御装置21の構成を示す図である。
【
図3】被検査部に印加される磁場及び被検査部に与えられる振動を示す図である。
【
図4】設定される位相オフセットの一例を示した図である。
【
図5】従来例と実施形態におけるウェーブイメージを示す図である。
【
図6】従来例と実施形態におけるMRE画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0013】
〈磁気共鳴撮像装置の構成〉
図1は、第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1を示す図である。磁気共鳴撮像装置1は、磁場発生装置2を有する。磁場発生装置2は、内部を水平方向に貫通する貫通孔3を有する。寝台4は、貫通孔3を通って磁場発生装置2に対して相対的に摺動可能に設置される。これにより、寝台4と寝台4に横になった被験者5は、貫通孔3を通り抜けることができる。
【0014】
磁場発生装置2は、静磁場発生装置11、傾斜磁場発生装置12、高周波磁場発生装置13及び電磁波受信装置14を備える。静磁場発生装置11は、例えば超伝導電磁石や永久磁石を含み、貫通孔3内に静磁場を発生させる。傾斜磁場発生装置12は静磁場発生装置11よりも貫通孔側に配置され、例えばコイルを有する。傾斜磁場発生装置12は、貫通孔3に傾斜磁場を発生させる。高周波磁場発生装置13は傾斜磁場発生装置12よりも貫通孔側に配置され、例えばコイルを有する。高周波磁場発生装置13は貫通孔3に高周波磁場を発生させる。電磁波受信装置14は、高周波磁場発生装置13よりも貫通孔側に配置され、例えばコイルを有する。電磁波受信装置14は、貫通孔3内の撮像対象で発生した電磁波を受信する。
【0015】
磁気共鳴撮像装置1は、振動発生装置15を有する。振動発生装置15は、例えば被験者5の被検査部に対応する体表面に取り付けられる。振動発生装置15は予め設定された周波数の振動を任意の波形と任意の振動位相で被験者5に与える。
【0016】
磁場発生装置2は制御装置21とケーブルを介して電気的に接続される。制御装置21は制御信号を磁場発生装置2に送信することで、磁気発生及び振動発生のタイミングや大きさなどを制御する。また、制御装置21は、電磁波受信装置14から電磁波に関する情報を取得する。制御装置21は、無線通信により磁場発生装置2及び振動発生装置15と信号を送受信してもよい。制御装置21は、音圧発生装置も含み、制御装置21で発生した音圧は非磁性体の管を通って振動発生装置15が振動し、振動発生装置15の振動が被験者5の被検査部を振動させる。
【0017】
〈制御装置の構成〉
図2は、第1の実施形態に係る制御装置21の構成を示す図である。制御装置21は、磁場制御部31を備える。
【0018】
磁場制御部31は、磁場発生装置2を制御し、被験者5の被検査部をMR撮影するための磁場を制御する。磁場制御部31は、静磁場制御部311、傾斜磁場制御部312、高周波磁場制御部313、TR記憶部314、TE記憶部315を備える。
【0019】
図3は、一般的なスピンエコー法を用いた被検査部に印加される磁場及び被検査部に与えられる振動を示す図である。
図3において、時間は横軸に取っている。なお、スピンエコー法は一例であり、グラディエントエコー法などの他のMRI撮像法でも実施可能である。
【0020】
TR記憶部314は、高周波磁場を印加する間隔である繰り返し時間TRを記憶する。高周波磁場は、被験者5の被検査部に含まれるプロトンを励起するために印加される。
【0021】
TE記憶部315は、エコー時間TEを記憶する。エコー時間TEは、高周波磁場が印加されてから励起されたプロトンが緩和する際に発する電磁波を取得するまでの間隔である。なお、繰り返し時間TR及びエコー時間TEは、予め設定されていてもよく、利用者による入力などにより設定されてもよい。
【0022】
静磁場制御部311は、静磁場発生装置11を制御して静磁場を発生させる。
【0023】
傾斜磁場制御部312は、傾斜磁場発生装置12を制御して位置に応じて磁場が変化する傾斜磁場を発生させる。傾斜磁場制御部312は、傾斜磁場発生装置12を制御して空間上の複数の軸に対して振動検出傾斜磁場MEG(motion encoding gradient)と呼ばれる傾斜磁場を発生させる。MEGは、例えば、
図3に示すように互いに直交するスライス(slice)方向(z軸)、リードアウト(read out)方向(x軸)及びフェーズ(phase)方向(y軸)の3軸方向において、繰り返し時間TRごとにリードアウト方向に発生される第1の傾斜磁場41、フェーズ方向に発生される第2の傾斜磁場42及びスライス方向に発生される第3の傾斜磁場43である。以下、MEGとして第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42及び第3の傾斜磁場43を発生させる場合を説明する。
【0024】
高周波磁場制御部313は、高周波磁場発生装置13を制御して、90度パルス44a、180度パルス44b、エコー44cを発生させる。90度パルス44a、180度パルス44b、エコー44cを発生させるタイミングは、一般的なスピンエコー法と同様である。つまり、180度パルス44bは、90度パルス44aが発生してからエコー時間TEの半分の時間経過後に発生される。エコー44cは、180度パルス44bが発生してからエコー時間TEの半分の時間経過後に発生される。
【0025】
振動制御部32は、振動発生装置15を制御して被検査部に振動45を加える。例えば、振動制御部32は、音圧を発生させ振動発生装置15を振動させる。
図3において、振動45の周期は、繰り返し時間TRに同期している。つまり、繰り返し時間TRは振動45の周期T
0に従って決定される。振動45の位相は、高周波磁場の発生タイミングを基準として定められる。
【0026】
第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42及び第3の傾斜磁場43は、それぞれ90度パルス44a発生後180度パルス44b発生前に発生される第1の傾斜磁場41a、第2の傾斜磁場42a及び第3の傾斜磁場43aと、180度パルス44b発生後エコー44c発生前に発生される第1の傾斜磁場41b、第2の傾斜磁場42b及び第3の傾斜磁場43bとに分けられる。第1の傾斜磁場41b、第2の傾斜磁場42b及び第3の傾斜磁場43bは、それぞれ第1の傾斜磁場41a、第2の傾斜磁場42a及び第3の傾斜磁場43aを振動45の振動位相に対して強め合う。例えば、第1の傾斜磁場41a発生時の振動45の位相と、第1の傾斜磁場41b発生時の振動45の位相を逆位相とすることで、180度パルス44b発生後反転された信号が増強される。
【0027】
複数の軸に対して発生されるMEGは、複数の撮像のうち、少なくとも1回の撮像において、発生タイミングが異なる。
例えば、ある撮像において、第1の傾斜磁場41a、第2の傾斜磁場42a及び第3の傾斜磁場43aは、ある特定の時点を基準としてTx、Ty、Tz秒遅れて発生されるが、Tx、Ty、Tzはそれぞれ異なる値である。
Tx、Ty、Tzは、振動発生装置15により発生される振動45の位相のずれθx、θy、及びθzを用いて表すと、Tx=T0θx/360、Ty=T0θy/360、Tz=T0θz/360である。θx、θy、及びθzをそれぞれ第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42及び第3の傾斜磁場43における位相オフセットと呼ぶ。第1の傾斜磁場41をTx秒遅れて発生させることで、第1の傾斜磁場41を発生させた軸方向において、振動45の位相をθxずらしたときと同じ効果を得ることができる。
【0028】
また、傾斜磁場を反転させることで、T
0/2だけ早く傾斜磁場を印加することができ、振動45の位相を180度ずらしたときと同じ効果を得ることができる。
図3に示す例においては、第2の傾斜磁場42を反転することで、振動45の位相をθy+180度ずらしたときと同じ効果を得ることができる。
【0029】
θx、θy、及びθzを変化させることで、軸ごとに異なる大きさの振動の位相をずらしたことと同じ効果を得ることができる。例えば、最終的には高速フーリエ変換(FFT)を行い、位相オフセットに起因する周波数におけるピークを検出し、検出したピークごとに信号を算出する。そのため、位相オフセットθx、θy、及びθzは、上記のようにθ、2θ、3θの関係であるのが望ましい。例えば8回撮像する場合、θは360度を撮像回数の8で割ったθ=360/8=45度である。
【0030】
図4は、設定される位相オフセットの一例を示した図である。
図4に示す例においては1回撮像するごとに、θxは45度ずつ増加させ、θyは90度ずつ増加させ、θzは135度ずつ増加させる。
【0031】
信号取得部33は、電磁波受信装置14を介して被験者5の被検査部に含まれるプロトンが緩和するときに発する電磁波信号を取得する。信号取得部33は、エコー時間TEにおいて電磁波信号を取得する。また、信号取得部33は、第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42及び第3の傾斜磁場43のパターンの数(例えば、8通り)の電磁波信号を取得する。
【0032】
信号処理部34は、電磁波信号に信号処理を行う。ここで電磁波信号に行われる信号処理は通常のMRI装置で行われている処理と同様の処理である。具体的には信号処理部34は信号取得部33により取得される信号からk空間の信号を生成する。より具体的には、信号処理部34は、始めに信号取得部33により取得された信号を実数部rとし、当該信号をπ/2位相遅らせた信号を虚数部iとする。その後、信号処理部34は、実数部r及び虚数部iに対してフーリエ逆変換を行い、実空間における実数部R及び虚数部Iを生成する。その後、信号処理部34は、R及びIに基づいて複素平面における電磁波信号の強度M及び電磁波信号の位相Φを算出する。電磁波信号の強度MはM=(R2+I2)1/2と算出され、電磁波信号の位相ΦはΦ=tan-1(1/R)と算出される。
【0033】
ウェーブイメージ生成部35は、信号処理部34により算出された電磁波信号の位相Φから生成されるMR位相画像に基づいてウェーブイメージを生成する。ここでウェーブイメージ(wave image)と呼ばれる画像はMR位相画像に対して位相アンラッピングと呼ばれる画像処理を行うことで生成される画像であって、対象内部を伝わる伝播波を可視化した画像である。ウェーブイメージの各画素が対応する位置の複素平面における位相を示す。ウェーブイメージ生成部35により生成されるウェーブイメージは、第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42及び第3の傾斜磁場43が印加されたときのウェーブイメージ(3軸の変位が積算されたウェーブイメージ)である。
【0034】
ウェーブイメージ抽出部36は、ウェーブイメージ生成部35により生成されたウェーブイメージから傾斜磁場が加えられた各軸におけるウェーブイメージを抽出する。具体的には、ウェーブイメージ抽出部36は以下の処理を行う。
ウェーブイメージ抽出部36は、3軸の変位が積算されたウェーブイメージに示される変位を時間軸方向にフーリエ変換(例えば、FFT)する。フーリエ変換を行うと、各軸において撮像ごとに増加させた位相オフセットの大きさごとにピークが観察される。その後、各ピークを逆フーリエ変換(例えばIFFT)することで各軸におけるウェーブイメージが抽出される。
【0035】
波長推定部37は、振動45により被験者5の内部を伝播する伝播波の波長λを推定する。波長推定部37は、各軸におけるウェーブイメージの画像から得られる伝播波が伝播する様子から画像の局所領域ごとに伝播波の局所波長λを推定する。
【0036】
硬さ推定部38は、波長推定部37により推定される伝播波の局所波長λ、振動発生装置15により発生された振動の周波数f及び被検査部の密度ρに基づいて被検査部の硬さμを推定する。硬さμは、例えば局所波長を用いて式μ=ρ×(λ×f)2により算出される。また、硬さμは、例えば伝播波による変位uを用いて式(1)によって算出されてもよい。
【0037】
【0038】
式(1)においてω=2πf(つまり、振動の角周波数)であり、分母は変位uにラプラシアンを作用させた結果である。なお、周波数fは制御装置21などから知ることができ、密度ρはおよそ1g/cm3として計算することができる。硬さ推定部38は、波長推定部37と同様に、局所領域ごとに硬さμを推定する。
【0039】
MRE画像生成部39は、硬さ推定部38により推定された硬さμを画像化したMRE画像(MRエラストグラム)を生成する。MRE画像生成部39は、例えば局所領域ごとに推定された硬さμの大きさにより色分けされたMRE画像を生成する。
【0040】
(実験例)
以下、従来例と実施形態の比較を示す。従来例と実施形態とは、傾斜磁場を印加する方法及び取得したウェーブイメージの処理方法が異なる。従来例において、傾斜磁場を印加する方法及び取得したウェーブイメージの処理方法以外の手順は実施形態と同じである。
【0041】
従来例においては、互いに直交するスライス(slice)方向(z軸)、リードアウト(read out)方向(x軸)及びフェーズ(phase)方向(y軸)の3軸方向のうち、1軸ごとにMEGを印加した。また、軸ごとに振動45の振動位相を90度ずつ変化させ、4回伝搬波を画像化した。これにより、軸ごとに4枚、計12枚のウェーブイメージを生成した。従来例においては、軸ごとに傾斜磁場を印加しウェーブイメージを生成していることから、実施形態のように、ウェーブイメージをフーリエ変換などで処理する必要はない。
【0042】
実施形態においては、MEGとして第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42、第3の傾斜磁場43を発生させ、
図4に示す位相オフセットにより8枚のウェーブイメージを生成した。その後、ウェーブイメージに対してFFTを行い、各ピークに対してIFFTを行うことで軸ごとのウェーブイメージを生成した。従来例においては12枚のウェーブイメージを生成しており、本実施形態においては、8枚のウェーブイメージを生成している。1枚のウェーブイメージを生成するための撮像時間は従来例と本実施形態において同じであることから、本実施形態の方が撮像時間が短かった。また、従来法では各軸で4枚の撮像に対し、本実施形態では各軸で8枚の撮像を行っている。よって、撮像時間の短い本実施形態の方が「コマ撮り」の回数が多いため、従来法と比較して弾性率推定精度が向上している可能性がある。
【0043】
図5は、従来例と実施形態におけるウェーブイメージを示す図である。また、
図6は、従来例と実施形態におけるMRE画像を示す図である。MRE画像において、対象物(ファントム)の周縁はMRIの特性上誤差が生じやすい部分であり、測定領域からは除外するのが一般的である。除外される対象物の周縁を除くと、実施形態において、従来例と同様の精度で対象物の硬さを測定できていることが分かる。以上より、撮像時間を短くして、同様の精度で対象物の硬さを測定することができた。
【0044】
《作用・効果》
以上説明したように、第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1は、空間上の複数の軸において、発生タイミングの異なる傾斜磁場を発生させ、生成されたウェーブイメージから、軸ごとのウェーブイメージを抽出することで空間上の軸ごとに撮像をすることなく、各軸におけるウェーブイメージを取得することができる。これにより、軸ごとに撮像を行う一般的な方法と比較して、撮像時間を短くすることができ、被験者の負担を減らすことができる。
【0045】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、上述した実施形態では傾斜磁場として、第1の傾斜磁場41、第2の傾斜磁場42及び第3の傾斜磁場43の3つの傾斜磁場を使用する形態を説明したが、これに限らない。例えば、異なる軸方向に対して4つ以上の傾斜磁場を印加してもよい。テンソルイメージングにおいては、より多くの異なる軸におけるデータを取得することができ、より正確な弾性率情報を得ることにつながりうる。
【0046】
本実施形態において、ウェーブイメージ抽出部36はフーリエ変換(FFT)により、ウェーブイメージ生成部35により生成されたウェーブイメージから傾斜磁場が加えられた各軸におけるウェーブイメージを抽出するが、これに限られない。例えば、ウェーブイメージ抽出部36は、深層学習などの手段により作成した、3軸の変位が積算されたウェーブイメージを入力として各軸におけるウェーブイメージを出力する画像生成モデルを使用して、各軸におけるウェーブイメージを抽出してもよい。
【0047】
上述した実施形態における制御装置21の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記録装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。また、制御装置21の一部または全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 磁気共鳴撮像装置、2 磁場発生装置、3 貫通孔、4 寝台、5 被験者、11 静磁場発生装置、12 傾斜磁場発生装置、13 高周波磁場発生装置、14 電磁波受信装置、15 振動発生装置、21 制御装置、31 磁場制御部、311 静磁場制御部、312 傾斜磁場制御部、313 高周波磁場制御部、314 TR記憶部、315 TE記憶部、32 振動制御部、33 信号取得部、34 信号処理部、35 ウェーブイメージ生成部、36 ウェーブイメージ抽出部、37 波長推定部、38 推定部、39 MRE画像生成部、41 第1の傾斜磁場、42 第2の傾斜磁場、43 第3の傾斜磁場、44a 90度パルス、44b 180度パルス、44c エコー、45 振動