(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070972
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】地盤改良材及び地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/02 20060101AFI20240517BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20240517BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20240517BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240517BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240517BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240517BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240517BHJP
C04B 28/08 20060101ALI20240517BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C09K17/02 P
C09K17/10 P
C09K17/06 P
C09K3/00 S
C04B18/14 A
C04B22/14 B
C04B22/06 Z
C04B28/08
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181639
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 一貴
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】諸冨 鉄之助
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AB03
2D040CA01
2D040CA05
2D040CA10
4G112PA29
4G112PB03
4G112PB11
4H026CA01
4H026CA02
4H026CA04
4H026CA05
4H026CB01
4H026CB03
4H026CC01
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】CO
2の排出量削減及び六価クロムの溶出量低減を図りつつ、水和反応を阻害する物質を含む対象地盤に所望の強度を安定的に発現させる。
【解決手段】対象地盤の土壌に混合して攪拌し、前記対象地盤を改良する地盤改良材であって、高炉スラグ及び石膏を含有する混合主材と、該混合主材に添加される生石灰とを含み、高炉スラグは、40質量%以上80質量%以下、石膏は、5質量%以上25質量%以下、生石灰は、前記混合主材100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地盤の土壌に混合して攪拌し、前記対象地盤を改良する地盤改良材であって、
高炉スラグ及び石膏を含有する混合主材と、
該混合主材に添加される生石灰とを含み、
高炉スラグは、40質量%以上80質量%以下、
石膏は、5質量%以上25質量%以下、
生石灰は、前記混合主材100質量%に対して10質量%以上50質量%以下であることを特徴とする地盤改良材。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤改良材において、
前記混合主材に、セメント系固化材を35質量%以下含むことを特徴とする地盤改良材。
【請求項3】
請求項1に記載の地盤改良材を用いた地盤改良工法であって、
粉体状の前記地盤改良材を前記土壌に供給し、撹拌混合することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項4】
請求項1に記載の地盤改良材を用いた地盤改良工法であって、
前記地盤改良材に水を添加してスラリー状にしたのち、前記土壌に供給して撹拌混合することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の地盤改良工法であって、
前記土壌が、水和反応を阻害する物質を含むことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の地盤改良工法であって、
前記土壌が、火山灰質粘性土であることを特徴とする地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象地盤を改良する地盤改良材及び地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟弱な地盤に所望の強度を発現させるべく、セメント系固化材と現地土とを混合攪拌する地盤改良工事が実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セメント系固化材に消石灰や生石灰、もしくはセメント焼成炉プレヒーターから抽出されたセメント原料粉末を混合し、これを、軟弱土壌や浚渫廃土などの対象地盤の土壌に供給して、攪拌する地盤改良工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象地盤をなす土壌が、セメントによる水和反応を阻害する成分を多く含む場合、特許文献1の地盤改良工法では、所望の強度発現が得られない可能性がある。また、水和反応が阻害されると、セメントに含まれる六価クロムを固定できる水和物の生成も妨げられる。このため、固定されなかった六価クロムが土壌環境基準を超えて溶出するおそれが生じる。
【0006】
さらに、セメント系固化材は、製造時に膨大な量のCO2を排出することが知られている。したがって、近年の国際的な課題のひとつであるCO2排出量の削減に寄与できない。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、CO2の排出量削減及び六価クロムの溶出量低減を図りつつ、水和反応を阻害する物質を含む対象地盤に所望の強度を安定的に発現させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため本発明の地盤改良材は、対象地盤の土壌に混合して攪拌し、前記対象地盤を改良する地盤改良材であって、高炉スラグ及び石膏を含有する混合主材と、該混合主材に添加される生石灰とを含み、高炉スラグは、40質量%以上80質量%以下、石膏は、5質量%以上25質量%以下、生石灰は、前記混合主材100質量%に対して10質量%以上50質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の地盤改良材は、前記混合主材に、セメント系固化材を35質量%以下含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の地盤改良工法は、粉体状の前記地盤改良材を前記土壌に供給し、撹拌混合することを特徴とする。
【0011】
本発明の地盤改良工法は、前記地盤改良材に水を添加してスラリー状にしたのち、前記土壌に供給して撹拌混合することを特徴とする。
【0012】
本発明の地盤改良工法は、前記土壌が、水和反応を阻害する物質を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の地盤改良工法は、前記土壌が、火山灰質粘性土であることを特徴とする。
【0014】
本発明の地盤改良材及び地盤改良工法によれば、混合主材の主成分を高炉スラグ及び石膏とし、セメント系固化材を無使用、もしくは含有する場合であっても主成分とはならない程度とする。これにより、セメント系固化材の製造時に生じるCO2の排出量や、セメント系固化材を用いることにより生じる恐れのある地中への六価クロムの溶出を抑制できる。
【0015】
したがって、従来のようなセメント系固化材を主成分とする地盤改良材を採用する地盤改良工法と比較して、環境への負荷を大幅に低減することが可能となる。
【0016】
また、生石灰を、混合主材に対して外割で添加する。これにより、対象地盤が、水和反応を阻害する物質を含み、セメント系固化材を主成分とする地盤改良材では強度発現が困難な土壌であっても、生石灰を適宜調整することで、所望の強度を安定して発現させることが可能となる。
【0017】
さらに、特殊な施工手順が不用であり、従来より地盤改良工法で実施されている、粉体散布・噴射方式もしくはスラリー噴射方式をいずれも採用することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高炉スラグ及び石膏を含む混合主材に、生石灰を混合した地盤改良材を用いることで、CO2の排出量削減及び六価クロムの溶出量低減を図りつつ、水和反応を阻害する物質を含む対象地盤に、所望の強度を安定的に発現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態における地盤改良材のイメージを示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における地盤改良材を用いた地盤改良の実施例を示す図である。
【
図3】従来より実施されているセメント系固化材を用いた地盤改良の参考例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、セメントによる水和反応を阻害する成分を多く含む土壌に好適な地盤改良材及び地盤改良工法である。以下に
図1~
図3を参照しつつ、その詳細を説明する。
【0021】
≪≪地盤改良材≫≫
対象地盤の土壌に供給する地盤改良材は、高炉スラグ、石膏、及びセメント系固化材を含有する混合主材と、混合主材に添加される生石灰と、を含む。
【0022】
≪混合主材:高炉スラグ≫
高炉スラグは、銑鉄を製銑する際の副産物である高炉スラグのうち、水で急冷させた水砕スラグを乾燥、粉砕した粉末である。なかでも、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定されている高炉スラグ微粉末の適用が好ましい。混合主材における高炉スラグの含有量は、40質量%以上80質量%以下が好ましく、より好ましくは60質量%以上80質量%以下である。
【0023】
高炉スラグ自体は水と混合させても硬化しないが、消石灰などのアルカリ刺激剤の存在下において水和反応が進行して硬化する、いわゆる潜在硬化性を有する。また、高炉スラグは、製造時のCO2排出量がセメント系固化材の製造時より大幅に少ないことが知られている。したがって、高炉スラグは、セメン系固化材の代替材料として使用でき、かつ、代替材料として使用することでCO2排出量の観点から環境負荷低減に大きく寄与できる。
【0024】
≪混合主材:石膏≫
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏などいずれも採用できるが、地盤改良土の強度発現性を考慮すると無水石膏もしくは半水石膏が好ましい。混合主材における石膏の含有量は、5質量%以上25質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以上25質量%以下である。
【0025】
≪混合主材:セメント系固化材≫
セメント系固化材は、JIS R5210「ポルトランドセメント」に規定されている各種ポルトランドセメントいずれをも採用できる。なかでも、短期材齢の強度発現性を考慮すると、早強ポルトランドセメントの採用が好ましい。
【0026】
セメント系固化材は、必ずしも混合主材に含有しなくてもよく、対象地盤の土壌や対象地盤に予定する圧縮強度などに考慮し、必要な場合に含有する。セメント系固化材を使用する場合に、混合主材におけるセメント系固化材の含有量は、35質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下である。CO2排出量の低減効果を鑑みれば、最も好ましい含有量は、15質量%以下である。
【0027】
混合主材にセメント系固化材を含有させると、対象土壌がセメントによる水和反応を阻害する成分を多く場合、一部が水和反応を生じることなく対象地盤中に残存するおそれがある。しかし、混合主材は高炉スラグを含有しているため、この高炉スラグに含まれる還元物質にセメントに含まれる六価クロムが還元される。したがって、六価クロムの地盤中への溶出は抑制される。
【0028】
≪生石灰≫
生石灰は、上記の少なくとも高炉スラグと石膏を含む混合主材に対して、外割で添加される添加剤であり、土壌中の水分と接触して水酸化カルシウムを主成分とする消石灰を生成する。これが上記の高炉スラグで説明したアルカリ刺激剤として機能する。また、生成された水酸化カルシウムは、土壌の硬化にも寄与するなど、対象地盤の強度発現に影響を及ぼす材料である。
【0029】
このように機能する生石灰の混合主材に対する添加量は、10質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以上40質量%以下である。対象地盤がセメントによる水和反応を阻害する成分を多く含む土壌である場合、20質量%以上で添加量を調整すると、高炉スラグによる潜在硬化性と相まって、より安定した強度確保を実現できる。その一方で、生石灰は、製造時にCO2が排出される。したがって、CO2排出量を考慮すると、混合主材に対する添加量の上限は、40質量%以下とすることがより好ましい。
【0030】
生石灰は、石灰石を焼成して得た塊状生石灰を粉砕して粉末としたもので、JIS R9001:2006「工業用石灰」に規定されているものが好ましい。または、セメント焼成炉プレヒーターから抽出されたセメント原料粉末(セメント原料中の石灰石が熱分解して生成した生石灰を含有)を、生石灰の代替品として用いてもよい。
【0031】
≪混和材≫
地盤改良材には、上記の混合主材と生石灰に対して、さらに混和材を添加してもよい。混和材は、地盤改良工法で一般に採用されている、いずれの材料をも採用することができる。添加する際は、その種類に応じて混合主材に対する外割で添加量を適宜設定する。
【0032】
≪≪地盤改良工法≫≫
上記の地盤改良材を用いた地盤改良工法は、地盤改良材を粉体状のまま対象地盤に供給してもよいし、スラリー状にして対象地盤に供給してもよい。
【0033】
≪粉体散布・噴射方式≫
地盤改良材を粉体状のまま対象地盤に供給する場合、あらかじめ、混合主材に生石灰を添加して混合し、地盤改良材を作製しておく。
【0034】
そして、改良範囲が対象地盤の表層であれば、例えば、地盤改良材を地盤上に散布し、バックホウやスタビライザを利用して混合撹拌したのち、転圧するいわゆる浅層混合処理工法を採用することができる。
【0035】
また、改良範囲が対象地盤の中層もしくは深層に至る場合には、粉体噴射方式の中層混合処理工法もしくは深層混合処理工法を実施するとよい。例えば、先端に混合攪拌翼を備えた回転軸を地中に貫入し、回転軸を利用して地盤改良材をエアとともに対象地盤に供給する。これと同時に、回転軸を回転させて対象地盤の土壌と地盤改良材とを強制的に混合攪拌する。
【0036】
ここで例示したスタビライザや先端に混合攪拌翼を備えた回転軸などは、地盤改良工事で一般に採用されている地盤改良機である。
【0037】
≪スラリー噴射方式≫
地盤改良材をスラリー状にして対象地盤に供給する場合、あらかじめ、混合主材に生石灰を添加して混合したのち、所定量の水を添加してスラリー状の地盤改良材を作製しておく。
【0038】
そして、スラリー状の地盤改良材を対象地盤に供給し混合攪拌する方法は、上記の粉体散布・粉体噴射方式と、ほぼ同様である。つまり、改良範囲が対象地盤の表層であれば、スラリー状の地盤改良材を地盤上に投下し、混合攪拌する、いわゆる浅層混合工法を採用すればよい。
【0039】
また、改良範囲が対象地盤の中層もしくは深層に至る場合には、上記の混合攪拌翼を備えた回転軸などの地盤改良機を採用して、スラリー状の地盤改良材をエアとともに噴射し混合攪拌する、いわゆる中層混合工法もしくは深層混合工法を採用するとよい。
【0040】
もしくは、先端に粉体の噴射口を設けたトレンチャーを、地中に鉛直姿勢で貫入し、地盤改良材をエアとともに対象地盤に供給する。これと同時にトレンチャーに備えた攪拌翼付きドライブチェーンを回転させ、対象地盤の土壌と地盤改良材とを強制的に混合攪拌するなどしてもよい。
【0041】
上記のとおり、地盤改良材は、従来の地盤改良機工法を採用でき、特別な手間を有することはない。なお、地盤改良工法に、上記の粉体散布・噴射方式もしくはスラリー噴射方式のいずれを採用するかは、対象地盤の状態や現場の周辺環境、混和材を添加する場合にはその性状などを考慮し、適宜選択すればよい。
【0042】
また、スラリー噴射方式を採用する場合に地盤改良材に添加する水の量は、対象地盤の状態に対応させて、適宜調整するとよい。地盤改良材に混和材を添加する場合は、スラリー噴射方式の採用が好ましい。
【0043】
≪≪地盤改良試験≫≫
次に、上記の地盤改良材を用いて地盤改良を実施した場合に得られる一軸圧縮強度、及び六価クロム溶出量、CO2排出量を確認するべく、次のような試験を行った。
【0044】
試験は、試験用土壌に地盤改良材を供給して攪拌混合したのち、締め固めて養生した。養生日数は7日及び28日とし、7日養生については、養生後に一軸圧縮試験を実施した。28日養生については、養生後に一軸圧縮試験と六価クロム溶出試験を実施した。六価クロム溶出試験は、環境庁告示第46号(平成3年8月23日)に従って実施した。
【0045】
≪試験体(実施例1~7及び比較例1~4の作製)≫
試験用土壌は、アロフェンを主要粘土鉱物とする関東ロームを採用した。また、地盤改良材は、混合主材を構成する高炉スラグに高炉スラグ微粉末を採用し、石膏には無水石膏を採用した。セメント系固化材は、混合主材に含む場合と含まない場合の2ケースを準備し、含む場合は早強ポルトランドセメントを採用した。
【0046】
図2に、地盤改良材の詳細を示す。セメント系固化材を含む混合主材の配合割合は、高炉スラグ64.2質量%、無水石膏22.6質量%、早強ポルトランドセメント13.2質量%である。比較例1~2及び実施例1~7は、上記の混合主材に対して、生石灰の添加量を変化させて混合した地盤改良材を採用している。
【0047】
セメント系固化材を含まない混合主材の配合割合は、高炉スラグを80.0質量%、無水石膏を20.0質量%である。比較例3~6及び実施例8~11は、上記の混合主材に対して、生石灰の添加量を変化させて混合した地盤改良材を採用している。
【0048】
地盤改良材は、試験用土壌に対して300kg/m3供給することとし、試験における一軸圧縮強度の目標値は、700kN/m2に設定した。これは、現場で150kN/m2程度の強度発現を要求された場合を想定し、設定した室内目標強度qulであり、次の(1)式による算定結果に基づく。
【0049】
【0050】
上記の(1)式は、「2018年版 建築物のため改良地盤の設計及び品質管理指針,一般財団法人日本建築センター,p367-369,p377」に準じるものである。また、地盤改良方法は、地盤改良材を粉体で添加し、バックホウにより混合攪拌する浅層混合処理工法を想定している。
【0051】
図2に、上記の比較例1~6及び実施例1~11の試験結果を示す。試験結果はそれぞれ、7日養生後の一軸圧縮強度と、28日養生後の一軸圧縮強度及び六価クロム溶出量、さらに、CO
2排出量を示している。
【0052】
≪試験体(参考例1~3の作製≫
また、
図3には、参考例1~3として、地盤改良材に替えてセメント系固化材を使用した場合の試験結果を示した。セメント系固化材には、普通ポルトランドセメント、及び2種類のセメント系固化材A、Bの3種類を採用した。セメント系固化材A、Bは、一般市場に流通しているセメント製品を採用した。
【0053】
上記のセメント系固化材3種ともに、試験用土壌に対する供給量は300kg/m3とし、試験用土壌には関東ロームを採用した。また、試験方法も、地盤改良材を使用した場合と同様の手順で実施した。
【0054】
≪試験結果≫
まず、
図3のセメント系固化材を使用した参考例1~3をみると、試験用土壌にセメント系固化材を300kg/m
3添加した場合に、すべてにおいて28日養生後に700kN/m
2を超える強度を発現している。
【0055】
しかし、CO2排出量は最低でも160kg/m3を超え、28日後の六価クロム溶出量も、最も少ない参考例2で0.08mg/Lと、土壌環境基準値(0.05mg/L未満)を超過する結果となっている。
【0056】
これに対し、
図2を見ると、試験用土壌に地盤改良材を300kg/m
3添加した場合には、CO
2排出量及び28日養生後の六価クロム溶出量の両者を大幅に低減できることがわかる。
【0057】
CO2排出量に着目すると、混合主材に早強ポルトランドセメントを含む場合、CO2排出量は最大でも実施例7の105.4kg/m3と、参考例を大幅に下回っている。また、混合主材に早強ポルトランドセメントを含まない場合にはその効果はさらに大きく、CO2排出量は実施例11で75.6kg/m3まで抑制されている。
【0058】
六価クロム溶出量に着目すると、混合主材に早強ポルトランドセメントを含む場合及び含まない場合のいずれにおいても、0.01mg/L以下と、土壌環境基準値(0.05mg/L未満)を満たしている。
【0059】
上記のとおり、混合主材の主成分を高炉スラグ及び石膏とし、セメント系固化材を無使用、もしくは含有する場合であっても主成分とならない程度に配合を抑えているため、CO2の排出量や地中への六価クロムの溶出を、大幅に抑制できる。したがって、従来のようなセメント系固化材を主成分とする地盤改良材を採用する地盤改良工法と比較して、環境への負荷を大幅に低減することが可能となる。
【0060】
一軸圧縮強度を見ると、混合主材にセメント系固化材を含む場合、生石灰を添加していない比較例1、5質量%添加した比較例2では、十分な一軸圧縮強度が発現できていない。
【0061】
しかし、10質量%添加した実施例1では、28日養生後の強度が1050kN/m2と目標値700kN/m2を大きく超えている。また、生石灰の添加量が20質量%を超えると、28日養生後だけでなく7日養生後の強度においても、900kN/m2を超える強度が発現している。これは、20.5質量%添加した実施例3で、965kN/m2であることからも明らかである。また、28日養生後の強度は、実施例2~6のすべてで1200kN/m2を超えており、十分な強度が安定して発現している。
【0062】
上記のとおり、混合主材に高炉スラグを60質量%以上、無水石膏を20質量%以上含むと、早強ポルトランドセメントを15質量%以下に抑えても、生石灰を10質量%以上とすることで、関東ロームに700kN/m2を大きく超える一軸圧縮強度を発現させることができる。この効果は、生石灰を20質量%以上とすれば、早期の段階でも安定して得ることができる。
【0063】
また、混合主材にセメント系固化材を含まない場合の一軸圧縮強度を見ると、生石灰を添加していない比較例3、生石灰を8.4質量%添加した比較例4、生石灰を10質量%添加した比較例5では、十分な一軸圧縮強度が発現できていない。
【0064】
しかし、16.7質量%添加した実施例8では、28日養生後の強度が720kN/m2と目標値700kN/m2を超えている。また、生石灰の添加量が20質量%を超えると、28日養生後だけでなく7日養生後の強度においても、800kN/m2を超える強度が発現している。これは、実施例9の7日養生後の強度が873kN/m2、実施例10の7日養生後の強度が857kN/m2となっている点からも明らかである。また、28日養生後の強度は、実施例9~10ともに900kN/m2を超えており、十分な強度が安定して発現している。
【0065】
上記のとおり、混合主材に高炉スラグを80質量%、無水石膏を20質量%含むと、早強ポルトランドセメントを含まなくても、生石灰を15質量%以上で適宜調整することにより、関東ロームに700kN/m2を超える一軸圧縮強度を発現させることができる。この効果は、生石灰を20質量%以上とすれば、早期の段階でも安定して得ることができる。
【0066】
本発明の地盤改良材及び地盤改良工法によれば、生石灰を、混合主材に対して外割で添加することで、対象地盤が関東ロームのような、水和反応を阻害する物質を含み、セメント系固化材を主成分とする地盤改良材では強度発現が困難な土壌であっても、生石灰を適宜調整することで、所望の強度を安定して発現させることが可能となる。
【0067】
本発明の地盤改良材及び地盤改良工法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0068】
例えば、本実施の形態では、地盤改良の対象地盤として関東ロームを事例に挙げた。しかし、これに限定するものではなく、粘土鉱物を多く含む火山灰質粘性土や、フミン酸を多く含む有機質土など、水和反応を阻害する物質を多く含むいずれにも適用可能である。
【0069】
また、本実施の形態では、地盤改良工法として、粉体散布・噴射方式及びスラリー噴射方式ともに、あらかじめ混合主材と生石灰とを混合して地盤改良材を作製し、対象地盤に供給する場合を事例に挙げた。しかし、対象地盤中で混合主材と生石灰とを土壌とともに混合してもよい。具体的には、先行して生石灰を対象地盤に供給し、対象地盤の土壌と混合攪拌しておく。こののち、生石灰が混合攪拌された対象地盤に、混合主材を上記の手順で供給し、混合攪拌するなどしてもよい。