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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070975
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】移動装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20240517BHJP
   A61G 5/10 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61G5/04 707
A61G5/04 710
A61G5/10 715
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181642
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000222934
【氏名又は名称】東洋電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】山田 一
(72)【発明者】
【氏名】董 文▲こん▼
(72)【発明者】
【氏名】平谷 浩洋
(72)【発明者】
【氏名】平林 雅登
(72)【発明者】
【氏名】大原 惟暉
(72)【発明者】
【氏名】鯉渕 慶比古
(57)【要約】
【課題】移動装置が転倒したときの安全性の向上を図ることができる移動装置を提供することを目的とする。
【解決手段】移動装置1は、人Pが搭乗して移動する装置である。移動装置1は、回転により移動装置1が移動可能となる車輪22を有する装置本体2と、装置本体2に設けられ、人Pが座るための椅子3と、車輪22を回転させる車輪用駆動部43と、車輪22の回転軸O22と直交する軸(中心軸O21)回りに椅子3を回転させる椅子用駆動部44と、車輪用駆動部43および椅子用駆動部44を制御する制御部41とを備える。制御部41は、移動装置1が転倒する際、その転倒方向に応じて椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを変更可能である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が搭乗して移動する移動装置であって、
回転により前記移動装置が移動可能となる車輪を有する装置本体と、
前記装置本体に設けられ、前記人が座るための椅子と、
前記車輪を回転させる車輪用駆動部と、
前記車輪の回転軸と直交する軸回りに前記椅子を回転させる椅子用駆動部と、
前記車輪用駆動部および前記椅子用駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記移動装置が転倒する際、その転倒方向に応じて前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを変更可能である、移動装置。
【請求項2】
前記移動装置の姿勢を検出する姿勢検出部を備え、
前記制御部は、前記姿勢検出部での検出結果に基づいて、前記移動装置が転倒するか否かと、前記転倒方向とを判断する、請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記姿勢検出部での検出結果に基づいて、前記人が搭乗した状態での前記移動装置の重心を演算可能であり、前記重心の位置に応じて、前記移動装置が転倒するか否かと、前記転倒方向とを判断する、請求項2に記載の移動装置。
【請求項4】
前記姿勢検出部は、加速度センサを有し、
前記制御部は、前記加速度センサで検出された加速度が閾値を越えた場合に、前記移動装置が転倒すると判断し、前記加速度センサで検出された加速度の方向に基づいて、前記転倒方向を判断する、請求項2に記載の移動装置。
【請求項5】
前記椅子の向きを検出する向き検出部を備え、
前記制御部は、前記移動装置が転倒する際、前記向き検出部での検出結果に基づいて、前記転倒方向と前記椅子の向きとの関係を判断して、
前記転倒方向が前記移動装置の前方であり、前記椅子が前記移動装置の前方を向いている場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを前記移動装置の側方に変更し、
前記転倒方向が前記移動装置の前方であり、前記椅子が前記移動装置の後方を向いている場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを前記移動装置の側方に変更し、
前記転倒方向が前記移動装置の前方であり、前記椅子が前記移動装置の側方を向いている場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを維持し、
前記転倒方向が前記移動装置の後方であり、前記椅子が前記移動装置の前方を向いている場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを前記移動装置の側方に変更し、
前記転倒方向が前記移動装置の後方であり、前記椅子が前記移動装置の後方を向いている場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを前記移動装置の側方に変更し、
前記転倒方向が前記移動装置の後方であり、前記椅子が前記移動装置の側方を向いている場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを維持し、
前記転倒方向が前記移動装置の側方であり、前記椅子が前記移動装置の前方を向いて場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを維持し、
前記転倒方向が前記移動装置の側方であり、前記椅子が前記移動装置の後方を向いて場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを維持し、
前記転倒方向が前記移動装置の側方であり、前記椅子が前記移動装置の側方を向いて場合には、前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを前記移動装置の前方または後方に変更する、請求項1に記載の移動装置。
【請求項6】
前記椅子は、肘掛けを有し、
前記制御部は、前記椅子の向きを前記移動装置の側方に変更する際には、前記肘掛けの側面が前記転倒方向に臨む位置まで、前記椅子の向きの変更を行う、請求項5に記載の移動装置。
【請求項7】
前記椅子は、背もたれを有し、
前記肘掛けの側面が前記転倒方向に臨む位置は、前記背もたれの法線が前記移動装置の正面に向かっているときの前記椅子の回転角度を0°としたとき、前記移動装置の上面視で時計回りに、前記回転角度が85°~95°または265°~275°である、請求項6に記載の移動装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記移動装置が転倒する際、前記車輪用駆動部を制御して、前記車輪の回転を停止させる、請求項5に記載の移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間が着座して移動する移動装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の移動装置は、人間が着座する着座シートが取り付けられる上方本体部と、上方本体部を着座シートごと回転させるターンテーブルと、ターンテーブルを駆動するターンテーブル用駆動装置と、移動装置を移動させるための2つの車輪と、車輪を駆動する駆動装置とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-110663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の移動装置では、例えば急勾配の下り坂を走行中に、着座シートが移動装置の正面、すなわち、坂道の下方を向いた状態で移動装置が正面側に転倒した場合、着座シートに着座している人間がそのまま正面側(前方)に投げ出されるおそれがある。また、例えば移動装置が急勾配の上り坂の途中で停止している最中に、着座シートが移動装置の正面、すなわち、坂道の上方を向いた状態で背面側に転倒した場合、着座シートに着座している人間が後頭部を坂道に打ち付けるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものである。本発明は、移動装置が転倒したときの安全性の向上を図ることができる移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の移動装置は、人が搭乗して移動する移動装置であって、回転により前記移動装置が移動可能となる車輪を有する装置本体と、前記装置本体に設けられ、前記人が座るための椅子と、前記車輪を回転させる車輪用駆動部と、前記車輪の回転軸と直交する軸回りに前記椅子を回転させる椅子用駆動部と、前記車輪用駆動部および前記椅子用駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記移動装置が転倒する際、その転倒方向に応じて前記椅子用駆動部を制御して、前記椅子の向きを変更可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移動装置が転倒したときの安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】移動装置の外観斜視図である。
図2図1に示す移動装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3図1に示す移動装置が有する駆動部を示す斜視図である。
図4図1に示す移動装置の重心の位置の一例を示す平面図である。
図5図1に示す移動装置の転倒方向と椅子の向き(回転角度)との関係を示す平面図である。
図6図1に示す移動装置で実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、以下の実施形態に記載されている構成はあくまで例示に過ぎず、本発明の範囲は実施形態に記載されている構成によって限定されることはない。例えば、本発明を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0010】
図1は、移動装置の外観斜視図である。図2は、図1に示す移動装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図3は、図1に示す移動装置が有する駆動部を示す斜視図である。図4は、図1に示す移動装置の重心の位置の一例を示す平面図である。図5は、図1に示す移動装置の転倒方向と椅子の向き(回転角度)との関係を示す平面図である。図6は、図1に示す移動装置で実行される処理を示すフローチャートである。なお、以下では、説明の都合上、図1図3中の上側を「上(または上方)」、下側を「下(または下方)」と言う。また、図3図5中、移動装置の前後方向を「X方向」、移動装置の左右方向を「Y方向」、移動装置の上下方向を「Z方向」とする。また、図3図5中の白抜き矢印は、いずれも、移動装置1の移動方向(進行方向)を示す。
【0011】
図1に示す移動装置1は、人Pが搭乗して移動する装置である。移動装置1は、本実施形態では車椅子に適用されているが、これに限定されず、例えば、遊園地で使用される遊具等にも適用可能である。この移動装置1は、装置本体2と、装置本体2上(Z方向正側)に設けられた椅子3とを備える。装置本体2は、筐体21と、回転により移動装置1が移動可能となる2つの車輪22と、移動装置1を補助する4つの補助輪23とを有する。筐体21は、円筒状をなす筒状部211と、筒状部211の上部から放射状に延びる4つのアーム212とを有する。図3図5に示すように、2つの車輪22は、筒状部211の中心軸O21に関して対称的(Y方向)に配置されている。4つのアーム212は、筒状部211の中心軸O21回りに一括して回転可能に支持されている。各アーム212の先端部には、補助輪23が配置されている。各補助輪23は、キャスタで構成される。本実施形態では、アーム212と補助輪23とで補助機構24が構成される。
【0012】
椅子3には、人Pが座ることができる。この椅子3は、座面331を有する座板31と、背もたれ32と、2つの肘掛け33と、背もたれ32と反対側に配置された足置き34とを有する。2つの肘掛け33のうち、人Pの左腕の肘をもたせかける方の肘掛け33を「肘掛け33L」と言い、人Pの右腕の肘をもたせかける方の肘掛け33を「肘掛け33R」と言うことがある。本実施形態では、椅子3は、補助機構24を介して連結されており、補助機構24ごと、筒状部211の中心軸O21回りに回転することができる。また、4つの補助輪23のうち、2つの補助輪23は足置き34側(X方向正側)に配置され、残りの2つの補助輪23は背もたれ32側(X方向負側)に配置されている。
【0013】
また、図2に示すように、移動装置1は、制御部41と、記憶部42と、車輪用駆動部43と、椅子用駆動部44と、姿勢検出部45と、向き検出部46とを有する。制御部41は、例えばCPUを有し、記憶部42、車輪用駆動部43、椅子用駆動部44、姿勢検出部45、向き検出部46を制御する。記憶部42は、制御部41が実行する制御プログラム等の各種情報が記憶されている。
【0014】
図3に示すように、車輪用駆動部43は、2つのモータ431を有する。各モータ431は、それぞれ、車輪22を回転させることができる。これにより、2つの車輪22は、互いに独立して回転可能となる。例えば、2つの車輪22が所定の同じ方向に回転することにより、移動装置1を前進させることができる。また、2つの車輪22が前記所定方向と反対方向に回転することにより、移動装置1を後退させることができる。また、2つの車輪22が互いに反対方向に回転することにより、移動装置1を左旋回または右旋回させることができる。なお、各モータ431は、それぞれ、本実施形態では車輪22に設けられているが、これに限定されず、車輪22を回転駆動させる位置に設けられていればよい。その位置としては、特に限定されず、例えば、車輪22を支持する車軸上、車軸の根元側となるハブ側等であってもよい。
【0015】
椅子用駆動部44は、椅子3を補助機構24ごと筒状部211の中心軸O21回りに回転させる。図3に示すように、中心軸O21は、車輪22の回転軸O22と直交する。椅子用駆動部44は、モータ441と、モータ441に連結された歯車442と、歯車442と噛み合う歯車443とを有する。モータ441が作動することにより、その回転力が歯車442および歯車443を介して補助機構24に伝達される。これにより、椅子3を補助機構24ごと回転させることができる。なお、椅子用駆動部44は、椅子3の回転方向を反転させることもできる。
【0016】
姿勢検出部45は、移動装置1の姿勢を検出する。姿勢検出部45としては、例えば、加速度センサおよび角度センサを有する慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)を用いることができる。図4に示すように、制御部41は、姿勢検出部45の検出結果、すなわち、移動装置1の姿勢に基づいて、人Pが搭乗した状態での移動装置1の重心CGを演算することができる。そして、制御部41は、重心CGの位置に応じて、移動装置1が転倒するか否かを判断する。なお、「転倒する」には、「実際に転倒する」と、「転倒のおそれがある」とが含まれるとする。
【0017】
制御部41は、例えば4つの補助輪23で囲まれた四角形状の仮想領域AR内に重心CG(図4中の重心CG1参照)が位置する場合には、移動装置1が転倒しないと判断する。これとは反対に、制御部41は、仮想領域AR外に重心CG(図4中の重心CG2参照)が位置する場合には、移動装置1が転倒すると判断する。なお、制御部41は、仮想領域AR内と仮想領域AR外との境界線上に重心CGが位置する場合には、移動装置1が転倒すると判断する。また、仮想領域ARに関する情報は、記憶部42に予め記憶されている。
【0018】
姿勢検出部45としては、本実施形態では慣性計測装置が用いられているが、これに限定されない。例えば、慣性計測装置よりも簡単な構成の傾斜センサやカメラ等を姿勢検出部45に用いて、重力CGの方向に対する傾斜角から姿勢を検出し、その検出結果に基づいて、移動装置1の転倒を予測してもよい。また、椅子3または車輪22に対する荷重を検出することにより、重心CGの位置を検出して、その検出結果に基づいて、移動装置1の転倒を予測してもよい。
【0019】
向き検出部46は、椅子3の向き、すなわち、椅子3の回転角度を検出する。例えばモータ441がエンコーダ付きモータである場合には、当該エンコーダが向き検出部46として機能する。その他、向き検出部46としては、例えば角度センサ等を用いることもできる。
【0020】
制御部41は、姿勢検出部45での検出結果(重心CGの位置)に基づいて、移動装置1が転倒するか否かの判断の他に、移動装置1が転倒する場合の転倒方向の判断も行うことができる。例えば、制御部41は、姿勢検出部45での検出結果として図4中の重心CG2が検出された場合には、移動装置1が進行方向左側に転倒すると判断する。そして、制御部41は、移動装置1が転倒すると判断した際、その転倒方向に応じて椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを変更可能である。以下、この転倒時の制御および作用について説明する。
【0021】
制御部41は、移動装置1が転倒する際、向き検出部46での検出結果に基づいて、移動装置1の転倒方向と椅子3の向きとの関係を判断する。なお、移動装置1の転倒方向を単に「転倒方向」と言うことがある。また、「椅子3の向き」とは、背もたれ32が臨む向き、すなわち、背もたれ32の法線N32(図5参照)が向かう方向のことを言う。また、転倒方向と椅子3の向きとの組み合わせとしては、例えば下記の9つの場合が考えられる。
【0022】
1つ目は、転倒方向が移動装置1の前方であり、椅子3が移動装置1の前方を向いている場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを移動装置1の側方(左側方または右側方、以下同じ)に変更する。
【0023】
2つ目は、転倒方向が移動装置1の前方であり、椅子3が移動装置1の後方を向いている場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを移動装置1の側方に変更する。
【0024】
3つ目は、転倒方向が移動装置1の前方であり、椅子3が移動装置1の側方を向いている場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを維持する。
【0025】
4つ目は、転倒方向が移動装置1の後方であり、椅子3が移動装置1の前方を向いている場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを移動装置1の側方に変更する。
【0026】
5つ目は、転倒方向が移動装置1の後方であり、椅子3が移動装置1の後方を向いている場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを移動装置1の側方に変更する。
【0027】
6つ目は、転倒方向が移動装置1の後方であり、椅子3が移動装置1の側方を向いている場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを維持する。
【0028】
7つ目は、転倒方向が移動装置1の側方であり、椅子3が移動装置1の前方を向いて場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを維持する。
【0029】
8つ目は、転倒方向が移動装置1の側方であり、椅子3が移動装置1の後方を向いて場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを維持する。
【0030】
9つ目は、転倒方向が移動装置1の側方であり、椅子3が移動装置1の側方を向いて場合である。この場合、制御部41は、椅子用駆動部44を制御して、椅子3の向きを移動装置1の前方または後方に変更する。
【0031】
なお、移動装置1が前方に転倒する状態としては、例えば、移動装置1が前進中に急停止した状態等が考えられる。移動装置1が後方に転倒する状態としては、例えば、移動装置1が後退中に急停止した状態等が考えられる。移動装置1が側方に転倒する状態としては、例えば、移動装置1が進行方向に向かって左側または右側に傾斜した斜面(バンク)を進行中の状態等が考えられる。
【0032】
このような例示にも適した制御部41で実行されるプログラムについて、図6を参照して説明する。図6に示すように、ステップS101では、制御部41は、姿勢検出部45で移動装置1の姿勢に関する情報を取得する。そして、制御部41は、姿勢検出部45の検出結果に基づいて、重心CGを演算する。
【0033】
ステップS102では、制御部41は、重心CGの位置に応じて、移動装置1が転倒するか否かを判断する。ステップS102での判断の結果、移動装置1が転倒すると判断された場合には、処理はステップS103に進む。一方、ステップS102での判断の結果、移動装置1が転倒しないと判断された場合には、処理はステップS101に戻る。
【0034】
ステップS103では、制御部41は、ステップS101で演算された重心CGの位置に基づいて、移動装置1の転倒方向を決定する。
【0035】
ステップS104では、制御部41は、向き検出部46で椅子3の向き、すなわち、椅子3の回転角度に関する情報を取得する。
【0036】
ステップS105では、制御部41は、ステップS104で取得された椅子3の向きが転倒方向に対してどの程度ズレているのかを判断する。すなわち、図5に示すように、制御部41は、転倒方向に対する椅子3の向きの相対角度θが、移動装置1の上面視で時計回りに90°±5°(85°~95°)の第1角度範囲内にあるか、または、270°±5°(265°~275°)の第2角度範囲内にあるか否かを判断する。ステップS105での判断の結果、相対角度θが第1角度範囲および第2角度範囲のうちの一方範囲内にあると判断された場合には、処理はステップS106に進む。一方、ステップS105での判断の結果、相対角度θが第1角度範囲および第2角度範囲のいずれの範囲内にはないと判断された場合には、処理はステップS107に進む。
【0037】
例えば図5に示すように、移動装置1が前進している場合、相対角度θが第1角度範囲内にあれば、椅子3の肘掛け33Lの側面は、転倒方向に臨む位置(状態)となる。肘掛け33の側面が転倒方向に臨む位置は、背もたれ32の法線N32が移動装置1の正面に向かっているときの椅子3の回転角度を0°としたとき、移動装置1の上面視で時計回りに、回転角度が第1角度範囲または第2角度範囲である。そして、肘掛け33Lの側面が転倒方向に臨んだ状態のまま移動装置1が実際に転倒したとしても、人Pは、肘掛け33Lによって椅子3から落ちるのが防止され、保護される。また、相対角度θが第2角度範囲内にあれば、椅子3の肘掛け33Rの側面が転倒方向に臨む状態となる。そして、この状態のまま移動装置1が実際に転倒したとしても、人Pは、肘掛け33Rによって椅子3から落ちるのが防止され、保護される。このように移動装置1では、当該移動装置1が転倒したときの人Pに対する安全性の向上を図ることができる。
【0038】
ステップS106では、制御部41は、車輪用駆動部43の作動を停止させる。これにより、車輪22の回転が停止する。この場合、たとえ移動装置1が実際に転倒したとしても、車輪22に人Pの衣服等が巻き込まれるのを防止することができ、安全性がより向上する。
【0039】
ステップS107では、制御部41は、相対角度θが0°以上180°未満の第3角度範囲内にあるか否かを判断する。ステップS107での判断の結果、相対角度θが第3角度範囲内にあると判断された場合には、処理はステップS108に進む。一方、ステップS107での判断の結果、相対角度θが第3角度範囲内にはないと判断された場合には、処理はステップS109に進む。
【0040】
ステップS108では、制御部41は、相対角度θを目標相対角度である90°に変更していくことを決定する。この目標相対角度、すなわち、90°は、第1角度範囲内の角度となっている。
【0041】
ステップS109では、制御部41は、相対角度θを目標相対角度である270°に変更していくことを決定する。この目標相対角度、すなわち、270°は、第2角度範囲内の角度となっている。
【0042】
ステップS110では、制御部41は、目標相対角度まで椅子3を回転させることに決定する。例えば、ステップS108実行後のステップS110では、制御部41は、相対角度θが目標相対角度である90°となるように椅子3を回転させることに決定する。また、ステップS109実行後のステップS110では、制御部41は、相対角度θが目標相対角度である270°となるように椅子3を回転させることに決定する。
【0043】
ステップS111では、制御部41は、椅子用駆動部44の作動を開始する。これにより、椅子3を回転させることができる。
【0044】
ステップS112では、制御部41は、向き検出部46で椅子3の回転角度に関する情報を取得し、当該情報に基づいて、相対角度θが、ステップS110で決定された目標相対角度に到達したか否かを判断する。ステップS112での判断の結果、相対角度θが目標相対角度に到達したと判断された場合には、処理はステップS113に進む。一方、ステップS112での判断の結果、相対角度θが目標相対角度に到達していないと判断された場合には、処理はステップS112のまま待機する。
【0045】
ステップS113では、制御部41は、椅子用駆動部44の作動を停止する。これにより、椅子3の回転が停止する。このとき、相対角度θが第1角度範囲または第2角度範囲内にあるため、前述したように椅子3の肘掛け33の側面が転倒方向に臨む状態となる。そして、この状態のまま移動装置1が実際に転倒したとしても、人Pは、肘掛け33によって椅子3から落ちるのが防止され、保護される。ステップS113実行後、処理はステップS106に進む。
【0046】
以上ように移動装置1では、当該移動装置1が転倒したとしても、人Pが肘掛け33によって保護される。これにより、人Pが椅子3から落ちるのが防止され、安全性を確保することができる。以下、この効果を「安全性確保効果」と言う。ここで、前述した9つの例示の場合に対する、図6に示すフローチャートに基づくプログラムの有効性ついて検証する。前記1つ目、2つ目、4つ目、5つ目、9つ目の場合には、転倒方向と椅子3の向きとが同じまたは反対であっても、その後に椅子3の向きを変更することができる(ステップS105でNOから下位のステップに向かう処理)。これにより、安全性確保効果が得られる。前記3つ目、6つ目、7つ目、8つ目の場合には、椅子3の向きを維持することができる(ステップS105でYESから下位のステップに向かう処理)。これにより、安全性確保効果が得られる。このように、いずれの場合もプログラムの有効性が認められる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0048】
制御部41は、本実施形態では重心CGの位置に基づいて、移動装置1の転倒の有無の判断と、転倒方向の判断とを行うよう構成されているが、これに限定されない。例えば、制御部41は、姿勢検出部45の加速度センサで検出された加速度が閾値を越えた場合に、移動装置1が転倒すると判断し、加速度センサで検出された加速度の方向に基づいて、転倒方向を判断するよう構成されていてもよい。この場合、姿勢検出部45から角度センサを省略して、その分、姿勢検出部45を簡単な構成とすることができる。
【0049】
また、移動装置1が椅子3上の人Pの有無を検出する人検出部を備えていてもよい。制御部41は、人検出部での検出結果として椅子3上に人Pが有りとなった場合には、車輪用駆動部43および椅子用駆動部44に対する制御が可能となるのが好ましい。また、制御部41は、人検出部での検出結果として椅子3上に人Pが無しとなった場合には、車輪用駆動部43および椅子用駆動部44に対する制御が制限されるのが好ましい。また、人検出部での検出結果として椅子3上に人Pが無しとなり、その状態(人Pが搭乗していない状態)で移動装置1を後ろから押して移動させる作業等を行う場合に、安全性を確保しつつ、その作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0050】
1 移動装置
2 装置本体
3 椅子
22 車輪
41 制御部
43 車輪用駆動部
44 椅子用駆動部
45 姿勢検出部
46 向き検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6