IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 内山工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-密封部材及びこれを用いた密封構造 図1
  • 特開-密封部材及びこれを用いた密封構造 図2
  • 特開-密封部材及びこれを用いた密封構造 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070981
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】密封部材及びこれを用いた密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3236 20160101AFI20240517BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240517BHJP
   F16J 15/32 20160101ALI20240517BHJP
【FI】
F16J15/3236
F16J15/3232 201
F16J15/3232 101
F16J15/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181650
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レーホントー
(72)【発明者】
【氏名】江見 健太
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩規
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AA01
3J006AB02
3J006AB04
3J006AE22
3J006CA01
3J043AA11
3J043AA15
3J043BA05
3J043CA02
3J043CA12
3J043CB13
(57)【要約】
【課題】損傷を抑制しながらも、密封性を向上し得る密封部材及びこれを用いた密封構造を提供する。
【解決手段】密封部材1は、径方向に対向する外周側部材5の内周面6及び内周側部材2の外周面3のうちの第1面3において開口するように設けられた環状の取付溝4に嵌め込まれる環状の基部10と、該基部から前記内周面及び前記外周面のうちの第2面6に向けてかつ軸方向一方側となる被密封空間7側に斜め状に延出するように設けられ、前記第2面に摺接される環状のリップ部12と、前記リップ部の摺接部13に設けられ、当該リップ部の延出方向に延びる連通溝15と、を備えており、該連通溝は、軸方向両側の空間を連通させる連通状態から前記被密封空間側における圧力上昇に伴う前記リップ部の変形によって当該連通溝の周縁部16が前記第2面に当接されて非連通状態となるように形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面において開口するように設けられた環状の取付溝に嵌め込まれる環状の基部と、
該基部から前記内周面及び前記外周面のうちの第2面に向けてかつ軸方向一方側となる被密封空間側に斜め状に延出するように設けられ、前記第2面に摺接される環状のリップ部と、
前記リップ部の摺接部に設けられ、当該リップ部の延出方向に延びる連通溝と、
を備えており、
該連通溝は、軸方向両側の空間を連通させる連通状態から前記被密封空間側における圧力上昇に伴う前記リップ部の変形によって当該連通溝の周縁部が前記第2面に当接されて非連通状態となるように形成されていることを特徴とする密封部材。
【請求項2】
請求項1において、
前記連通溝は、前記リップ部の先端面において開口し、かつ溝底面が前記リップ部の摺接部の表面と平行状となるように設けられていることを特徴とする密封部材。
【請求項3】
請求項2において、
前記連通溝の少なくとも前記先端面の開口側部位の両溝側壁は、溝底面側から拡開状に形成されていることを特徴とする密封部材。
【請求項4】
請求項2において、
前記リップ部の先端部における径方向で前記連通溝が設けられた側とは反対側には、前記先端面において開口する凹所が設けられていることを特徴とする密封部材。
【請求項5】
請求項1において、
前記リップ部は、先端に向かうに従い厚さが小さくなるように形成されていることを特徴とする密封部材。
【請求項6】
請求項1において、
前記リップ部は、径方向において、その先端面全体が前記第1面よりも前記第2面側に位置するように形成されていることを特徴とする密封部材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の密封部材を用い、相対的な軸方向への移動に伴い軸方向一方側の被密封空間の圧力が上昇する構成とされた外周側部材と内周側部材との間を密封する密封構造であって、
前記外周側部材及び前記内周側部材の径方向に対向する内周面及び外周面のうちの第1面において開口するように設けられた環状の取付溝に、前記密封部材の前記基部が嵌め込まれ、前記内周面及び前記外周面のうちの第2面に、前記密封部材の前記リップ部が当接されていることを特徴とする密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封部材及びこれを用いた密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面との間を密封する密封部材が知られている。
例えば、下記特許文献1には、シリンダに設けられた環状溝に装着される環状の胴体部と、この胴体部から軸方向一方側かつ内周側に伸びるように構成され、先端がピストンの外周面に密着される内周リップと、を備えた密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-137729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された密封装置では、内周リップが伸びる側となる被密封空間側の急激な圧力上昇によって被密封空間側に残存する気体が圧縮されれば、被密封空間側が急激に昇温し密封装置に局部的な炭化や溶融が生じ易くなる懸念があった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、損傷を抑制しながらも、密封性を向上し得る密封部材及びこれを用いた密封構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る密封部材の構成1は、径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面において開口するように設けられた環状の取付溝に嵌め込まれる環状の基部と、該基部から前記内周面及び前記外周面のうちの第2面に向けてかつ軸方向一方側となる被密封空間側に斜め状に延出するように設けられ、前記第2面に摺接される環状のリップ部と、前記リップ部の摺接部に設けられ、当該リップ部の延出方向に延びる連通溝と、を備えており、該連通溝は、軸方向両側の空間を連通させる連通状態から前記被密封空間側における圧力上昇に伴う前記リップ部の変形によって当該連通溝の周縁部が前記第2面に当接されて非連通状態となるように形成されていることを特徴とする。
【0007】
以下の実施の形態の記載により、本発明に係る密封部材は、以下の従属的構成を備えていてもよいことが開示される。
<構成2>
構成1において、前記連通溝は、前記リップ部の先端面において開口し、かつ溝底面が前記リップ部の摺接部の表面と平行状となるように設けられていてもよい。
<構成3>
構成2において、前記連通溝の少なくとも前記先端面の開口側部位の両溝側壁は、溝底面側から拡開状に形成されていてもよい。
<構成4>
構成2または3において、前記リップ部の先端部における径方向で前記連通溝が設けられた側とは反対側には、前記先端面において開口する凹所が設けられていてもよい。
<構成5>
構成1~構成4のいずれか1つにおいて、前記リップ部は、先端に向かうに従い厚さが小さくなるように形成されていてもよい。
<構成6>
構成1~構成5のいずれか1つにおいて、前記リップ部は、径方向において、その先端面全体が前記第1面よりも前記第2面側に位置するように形成されていてもよい。
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係る密封構造は、本発明に係る密封部材を用い、相対的な軸方向への移動に伴い軸方向一方側の被密封空間の圧力が上昇する構成とされた外周側部材と内周側部材との間を密封する密封構造であって、前記外周側部材及び前記内周側部材の径方向に対向する内周面及び外周面のうちの第1面において開口するように設けられた環状の取付溝に、前記密封部材の前記基部が嵌め込まれ、前記内周面及び前記外周面のうちの第2面に、前記密封部材の前記リップ部が当接されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る密封部材及びこれを用いた密封構造は、上述のような構成としたことで、損傷を抑制しながらも、密封性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る密封部材及びこれを用いた密封構造の一例を模式的に示し、(a)は、概略平面図、(b)は、(a)におけるX-X線矢視に対応させた概略断面図である。
図2】(a)~(c)は、図1(a)におけるY-Y線矢視に対応させた一部破断概略断面図である。
図3】(a)、(b)は、同密封構造の一変形例を模式的に示し、図1(a)におけるY-Y線矢視に対応させた一部破断概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
図1図3は、本実施形態に係る密封部材の一例並びにこの密封部材を用いた密封構造の一例及び変形例を模式的に示す図である。
【0012】
本実施形態に係る密封部材1は、図1に示すように、径方向に対向する外周側部材5の内周面6及び内周側部材2の外周面3のうちの第1面(本実施形態では、外周面3)において開口するように設けられた環状の取付溝4に嵌め込まれる環状の基部10を備えている。密封部材1は、この基部10から内周面6及び外周面3のうちの第2面(本実施形態では、内周面6)に向けてかつ軸方向一方側となる被密封空間7側に斜め状に延出するように設けられ、内周面6に摺接される環状のリップ部12を備えている。
本実施形態に係る密封構造は、この密封部材1を用い、相対的な軸方向への移動に伴い軸方向一方側の被密封空間7の圧力が上昇する構成とされた外周側部材5と内周側部材2との間を密封する構造とされている。これら内周側部材2及び外周側部材5としては、外周側部材5が筒状のシリンダを構成し、内周側部材2が外周側部材5内において往復動されるピストンであってもよい。この場合、内周側部材2の往復動を潤滑する密封対象としてのオイルが被密封空間7側において密封されていてもよい。
【0013】
外周側部材5は、図1(b)に示すように、有底筒状とされている。
内周側部材2は、外周側部材5内において同軸状に配される円柱状とされている。内周側部材2の外周面3と外周側部材5の内周面6との間には、内周側部材2の往復動が可能なように全周に亘って隙間が形成されている。密封部材1は、この内周側部材2の外周面3と外周側部材5の内周面6との隙間を密封する。内周側部材2の取付溝4は、外周面3において径方向外側に向けて開口し、全周に亘って延びるように設けられている。この取付溝4は、溝長手方向に見た形状が方形溝状とされている。
被密封空間7は、外周側部材5の底面、この底面に対向する内周側部材2の軸方向一端面及び外周側部材5の内周面6によって区画されている。内周側部材2が、その軸方向一端面が外周側部材5の底面に向けて近接する側に移動すれば、被密封空間7の流体が圧縮されて被密封空間7の圧力が上昇する。
【0014】
密封部材1の基部10は、取付溝4に嵌め込み可能な形状とされている。この基部10は、内周側部材2と同軸状の略円筒形状とされている。この基部10は、径方向断面(径方向に沿って切断した断面)視において概ね方形状とされている。この基部10の軸方向に沿う寸法は、取付溝4の溝幅寸法に応じた寸法とされている。この基部10の軸方向に沿う寸法は、取付溝4の溝幅寸法と略同寸法でもよく、僅かに小さい寸法であってもよい。この基部10の径方向に沿う寸法は、取付溝4の溝深さ寸法よりも小さい寸法とされている。図例では、基部10は、その径方向に沿う寸法が軸方向に沿う寸法よりも小さい寸法とされている。この基部10の軸方向で被密封空間7側とは反対側となる軸方向他方側の端部の内周側縁部には、凹段部11が設けられている。この凹段部11は、基部10の軸方向他方側の端部を、軸方向一方側よりも拡径するように形成されている。
【0015】
密封部材1のリップ部12は、上記した基部10の軸方向他方側の端部から径方向外側かつ被密封空間7側に向けて斜め状に延出するように設けられている。このリップ部12は、自然状態(弾性変形していない状態)において、被密封空間7側に向かうに従い拡径状の略円錐台筒状とされている。このリップ部12と基部10とによって軸方向一方側に向けて開口する環状溝18が全周に亘って形成されている。
このリップ部12の摺接部13には、図2に示すように、当該リップ部12の延出方向に延びる連通溝15が設けられている。
【0016】
連通溝15は、図2(b)、(c)及び図3(a)、(b)に示すように、軸方向両側の空間を連通させる連通状態から被密封空間7側における圧力上昇に伴うリップ部12の変形によって当該連通溝15の周縁部16が内周面6に当接されて非連通状態となるように形成されている。このような構成とすれば、被密封空間7側の圧力上昇が生じていない状態や圧力上昇が生じる初期状態では、連通溝15を介して被密封空間7側に残存する気体を排出することができ、被密封空間7側に残存する気体を少なくすることができる。被密封空間7側の圧力上昇に伴ってリップ部12が変形すれば、連通溝15の周縁部16が内周面6に当接されて非連通状態となるので、密封性を向上させることができる。このように非連通状態となる前に連通溝15を介して被密封空間7側の気体が排出されて少なくなっているので気体の圧縮による急激な昇温が生じ難くなり、密封部材1の損傷を抑制することができる。
【0017】
連通溝15は、リップ部12の先端面14において開口している。このような構成とすれば、リップ部12の先端部が内周面6に僅かに当接する程度に締代が小さい場合には、連通溝15の先端面14側の開口及びその近傍部位を介して軸方向両側の空間を連通させることができる。また、被密封空間7側の圧力上昇に伴ってリップ部12が変形すれば、連通溝15の先端面14の開口側の縁部となる先端側縁部16aが内周面6に当接し非連通状態にすることができる(図2(c)参照)。連通溝15の具体的構成については後述する。
リップ部12は、図2(a)に示すように、先端に向かうに従い厚さが小さくなるように形成されている。このような構成とすれば、リップ部12の先端側が変形し易くなり、連通溝15の周縁部16が内周面6に当接し易くなる。つまり、このリップ部12は、基部10側部位の厚さよりも先端側部位の厚さが小さくなるように形成されている。
【0018】
このリップ部12は、径方向において、その先端面14全体が内周側部材2の外周面3よりも外周側部材5の内周面6側に位置するように形成されている。このような構成とすれば、被密封空間7側の圧力上昇を、リップ部12によって受け易くなり、リップ部12が迅速に変形し易くなる。これにより、連通溝15の周縁部16が迅速に内周面6に当接し易くなる。本実施形態では、リップ部12は、当該密封部材1が内周側部材2及び外周側部材5に組付けられた状態で、その先端面14全体が内周側部材2の外周面3よりも外周側部材5の内周面6側に位置するように形成されている。このような構成とすれば、被密封空間7側の圧力上昇を、リップ部12によってより効果的に受け易くなる。つまり、リップ部12の先端部の厚さ寸法を、内周側部材2の外周面3と外周側部材5の内周面6との隙間寸法よりも小さい寸法としている。
【0019】
リップ部12の先端部における径方向で連通溝15が設けられた側とは反対側には、先端面14において開口する凹所17が設けられている。このような構成とすれば、リップ部12の先端側が変形し易くなり、リップ部12の先端部が内周面6に僅かに当接する程度に締代が小さい場合にも、連通溝15の先端面14側の先端側縁部16aを内周面6に迅速に当接させることができる。この凹所17は、後記する連通溝15が設けられた部位のみに設けられていてもよいが、本実施形態では、全周に亘って設けられている。この凹所17は、リップ部12の先端部の内周側縁部に凹段部を形成するように設けられている。つまり、この凹所17は、リップ部12の先端部の内周側を、基部10側よりも拡径するように形成されている。図例の凹所17では、リップ部12の延出方向に沿う寸法L2を、後記する連通溝15の溝長さ(延出方向に沿う寸法)L1よりも小さくした例を示している。より具体的には、凹所17は、そのリップ部12の延出方向に沿う寸法L2が、連通溝15の溝長さL1の1/2よりも小さく形成されている。また、図例の凹所17では、リップ部12の厚さ方向に沿う寸法が、連通溝15におけるリップ部12の厚さ方向に沿う寸法よりも小さくした例を示している。
【0020】
連通溝15は、図1(a)に示すように、周方向に間隔を空けて複数箇所に設けられている。本実施形態では、複数(図例では、6つ)の連通溝15を、互いに等間隔を空けて設けた例を示している。これら連通溝15は、互いに同様の構成であるので、以下では、一つを例にとって説明する。
連通溝15は、図2(a)に示すように、溝底面15aがリップ部12の摺接部13の表面13aと平行状となるように設けられている。このような構成とすれば、例えば、先端面14の開口側に向かうに従い連通溝15の溝深さが大きくなるものと比べて、締代が大きい場合における連通状態を確保可能としながらも、締代が小さい場合において連通溝15の先端面14側の先端側縁部16aが内周面6に当接し易くなる。つまり、この連通溝15は、溝長手方向の概ね全長に亘って一様な溝深さとされている。図例では、連通溝15の長手方向で先端面14側とは反対側の端部の溝奥側面15cを、表面13aから溝底面15aに向けて下るように傾斜する傾斜面とした例を示している。
【0021】
この連通溝15の少なくとも先端面14の開口側部位の両溝側壁15b,15bは、図1(a)に示すように、溝底面15a側から拡開状に形成されている。つまり、連通溝15の少なくとも先端面14の開口側部位は、溝底面15a側から両溝側壁15b,15bの表面13a側の縁部となる側壁縁部16b,16bに向かうに従い溝幅が大きくなるように形成されている。このような構成とすれば、例えば、連通溝15の先端面14の開口側部位を方形溝状としたようなものと比べて、締代が小さい場合にも連通溝15の先端面14側の先端側縁部16aが内周面6に当接し易くなる。図例では、連通溝15は、溝長手方向に見て、略V字溝状とされている。つまり、両溝側壁15b,15bの交差部が溝底面15aとなる。この連通溝15の両溝側壁15b,15bは、少なくとも先端面14側部位が拡開状に形成されていればよいが、本実施形態では、溝長手方向の概ね全長に亘って拡開状に形成されている。
【0022】
連通溝15の溝幅は、溝長手方向の概ね全長に亘って一様な寸法であってもよい。この連通溝15の溝幅、溝深さ及び溝長さL1は、被密封空間7側の圧力上昇が生じていない状態及び圧力上昇が生じる初期状態において軸方向両側の空間を連通可能なように適宜の寸法とすればよい。連通溝15の溝幅、溝深さ及び溝長さL1は、圧力上昇に伴うリップ部12の変形によって当該連通溝15の周縁部16が内周面6に当接されて非連通状態となるように適宜の寸法とすればよい。図例では、連通溝15の溝長さL1を、リップ部12の延出寸法の概ね1/2程度とした例を示している。
連通溝15の周縁部16は、上記した先端側縁部16aと、上記した両側の側壁縁部16b,16bと、溝奥側面15cの表面13a側の縁部となる奥側縁部16cと、を含んでいる。
この密封部材1は、ゴム等の弾性材料から一体的に形成されている。この密封部材1に用いられるゴムの材質は特に限定されないが、例えば、NBR、H-NBR、EPDM、ACM、AEM、FKM、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0023】
上記構成とされた密封部材1を用いた密封構造の一例は、図2(b)、(c)に示すように、内周側部材2の取付溝4に、密封部材1の基部10が嵌め込まれ、内周面6に密封部材1のリップ部12が当接されている。このような構成とすれば、上記のように内周側部材2の移動に伴い被密封空間7の圧力が上昇するような場合にも、密封部材1のリップ部12の連通溝15を介して気体を排出することができる。従って、被密封空間7側の気体が少なくなるので気体の圧縮による急激な昇温が生じ難くなり、密封部材1の損傷を抑制することができる。また、被密封空間7側の圧力上昇に伴ってリップ部12が変形することで、上述のように連通溝15の周縁部16が内周面6に当接されるので密封性を向上させることができる。
【0024】
図2の例では、後記する変形例に比べて、締代が小さい場合を例示している。
本例では、図2(b)に示すように、内周側部材2が停止状態及び移動初期状態では、リップ部12の先端部が僅かに内周面6に当接した状態とされている。この状態では、連通溝15の先端面14側部位の両側壁縁部16b,16bが僅かに内周面6に当接した状態で、溝奥側面15c側部位の両側壁縁部16b,16b及び奥側縁部16cが内周面6に非当接状態であり、連通溝15を介して軸方向両側の空間が連通した状態である。この状態から、図2(c)に示すように、内周側部材2が移動すれば、被密封空間7の圧力が上昇し、環状溝18に被密封空間7の流体が流入することも相俟ってリップ部12が内周面6に押し付けられるように変形する。これにより、連通溝15の先端面14側部位が拡開するように変形して連通溝15の先端側縁部16aが内周面6に当接し、軸方向両側が非連通状態となる。
【0025】
図3の例では、上記した例と比べて、締代が大きい場合を例示している。本変形例では、内周側部材2の取付溝4Aの溝深さを上記した例よりも小さくしている。つまり、取付溝4Aの溝底から内周面6までの寸法を上記した例よりも小さくしている。内周側部材2の外径を上記した例よりも小さくして取付溝4Aの溝深さを小さくした態様であってもよい。または、取付溝4Aの溝底の径を上記した例よりも大きくして取付溝4Aの溝深さを小さくした態様であってもよい。この場合は、この取付溝4Aの溝底の径に応じて、密封部材1の径を上記した例よりも大きくしてもよい。
本変形例では、図3(a)に示すように、内周側部材2が停止状態及び移動初期状態では、リップ部12の先端側部位の摺接部13の表面13aが比較的大きく内周面6に当接した状態とされている。この状態でも、連通溝15の溝奥側面15c側部位の両側壁縁部16b,16b及び奥側縁部16cが内周面6に非当接状態であり、連通溝15を介して軸方向両側の空間が連通した状態である。この状態から、図3(b)に示すように、内周側部材2が移動すれば、上記同様、リップ部12が内周面6に押し付けられるように変形する。これにより、リップ部12の摺接部13の表面13aがより大きく内周面6に当接し、連通溝15の両側壁縁部16b,16b及び奥側縁部16cが内周面6に当接し、軸方向両側が非連通状態となる。
【0026】
本実施形態に係る密封部材1は、上記のような相対的に往復移動する内周側部材2と外周側部材5との隙間を密封する密封構造に用いられる以外に、相対的に軸心回りに回転する内周側部材2と外周側部材5との隙間を密封する密封構造に用いられてもよい。
上記した例では、内周側部材2に設けられた取付溝4,4Aに嵌め込まれる基部10を有した密封部材1を例示しているが、このような態様に限られない。外周側部材5に設けられた取付溝に嵌め込まれる基部10を有した密封部材1であってもよい。つまり、第1面を構成する外周面6に設けられた取付溝に嵌め込まれる基部10から第2面を構成する内周面3に向けて延出するリップ部12を有した密封部材1であってもよい。つまりは、基部10の内周側にリップ部12を設けた構成としてもよい。
【0027】
上記した例では、連通溝15を、溝長手方向に見て略V字溝状とした例を示しているが、このような態様に代えて、略U字溝状や、略台形溝状、略半円溝状等としてもよい。また、溝底面15a側から拡開状に形成された連通溝15に限られない。
上記した例では、連通溝15を先端面14において開口させた例を示しているが、先端面14において開口していなくてもよい。この場合は、リップ部12の先端が第2面(内周面6)に対して非接触となるように摺接部13の表面13aを湾曲面状とし、連通溝15を軸方向両側の空間を連通可能な構成としてもよい。また、この場合は、連通溝15の溝底面15aと摺接部13の表面13aとを平行状とせずに、溝長手方向外側に向かうに従い溝深さが小さくなるような形状としてもよい。連通溝15としては、その他、種々の構成とされたものであってもよい。
【0028】
上記した凹所17においては、そのリップ部12の延出方向に沿う寸法L2を連通溝15の溝長さL1よりも小さくした例を示しているが、リップ部12の先端側が変形し易くなるような適宜の寸法であればよく、例えば、凹所17におけるリップ部12の延出方向に沿う寸法L2を連通溝15の溝長さL1よりも大きくしてもよい。また、凹所17におけるリップ部12の厚さ方向に沿う寸法は、リップ部12の先端側が変形し易くなるように適宜の寸法とすればよく、例えば、連通溝15におけるリップ部12の厚さ方向に沿う寸法よりも大きくしてもよい。
上記した例では、リップ部12の先端部における径方向で連通溝15が設けられた側とは反対側に凹所17を設けた例を示しているが、このような凹所17を設けないようにしてもよい。
上記した例では、リップ部12を先端に向かうに従い厚さが小さくなるように形成した例を示しているが、延出方向の全体に亘って一様な厚さとされていてもよく、延出方向途中部位の厚さが小さくされていてもよい。
上記した例では、リップ部12は、径方向において、その先端面14全体が第1面(外周面3)よりも第2面(内周面6)側に位置するように形成されているが、このような態様に限られない。リップ部12としては、その他、種々の構成とされたものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 密封部材
10 基部
12 リップ部
13 摺接部
13a 表面
14 先端面
15 連通溝
15a 溝底面
15b 溝側壁
16 周縁部
16a 先端側縁部(周縁部)
16b 側壁縁部(周縁部)
16c 奥側縁部(周縁部)
17 凹所
2 内周側部材
3 外周面(第1面)
4 取付溝
5 外周側部材
6 内周面(第2面)
7 被密封空間
図1
図2
図3