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特開2024-70986リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体
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  • 特開-リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体 図1
  • 特開-リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体 図2
  • 特開-リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体 図3
  • 特開-リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070986
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/02 20060101AFI20240517BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240517BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C03C10/02
H01M10/0562
H01M10/052
C03B32/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181658
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】小笠 和仁
【テーマコード(参考)】
4G015
4G062
5H029
【Fターム(参考)】
4G015EA02
4G062AA11
4G062BB09
4G062BB10
4G062CC09
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DB02
4G062DB03
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD05
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA04
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4G062EB02
4G062EB03
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4G062ED01
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4G062HH20
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4G062KK10
4G062MM23
4G062NN29
4G062NN40
4G062QQ04
4G062QQ20
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ03
5H029HJ14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】700℃以下での焼結によって高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成可能な前駆体の提供。
【解決手段】P、Al、Ge及びLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、及びSiから選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比あるいはLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、及びSiから選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、目開き106μmのメッシュをパスしたリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が60ppm以下であるガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結によりリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能なガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体であって、
P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、
目開き106μmのメッシュをパスした前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が、前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下である、
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
【請求項2】
酸化物基準のmol%で、ZrO2成分を0.05~2.4%含有する、請求項1に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
【請求項3】
焼結によりリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能なガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体であって、
P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、
目開き106μmのメッシュをパスした前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が、前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下である、
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
【請求項4】
酸化物基準のmol%で、ZrO2成分を0.05~2.4%含有する、請求項3に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを固体電解質として含む、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体、およびそれが焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを固体電解質として含む全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用電源、携帯電話端末用電源などの用途で、エネルギー密度が高く、充放電が可能なリチウムイオン二次電池が広く用いられている。
現在市販されているリチウムイオン二次電池の多くは、高いエネルギー密度を有するようにするために液体電解質(電解液)が使用されている。そして、この電解液としては、通常、炭酸エステルや環状エステル等の非プロトン性有機溶媒などにリチウム塩を溶解させたものが用いられている。
【0003】
しかし、液体電解質(電解液)を用いたリチウムイオン二次電池においては、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に一般的に用いられる有機溶媒などは揮発性がある可燃性物質であり、安全上、好ましくないという問題がある。
【0004】
そこで、リチウムイオン二次電池の電解質として、有機溶媒などの液体電解質(電解液)に替えて、固体電解質を用いることが提案されている。さらに、電解質として固体電解質を用いるとともに、電極層などのその他の構成要素も全て固体で構成された全固体二次電池の開発が進められている。
なお、全固体二次電池の固体電解質に求められる特性の中で代表的なものとしては、リチウムイオン伝導性および焼結特性が挙げられる。また、電極層等との良好な界面形成(抵抗の低い界面の形成)などのために焼結後において高密度となることも求められる。
【0005】
全固体二次電池用の固体電解質としては、LISICON型構造のLi4-xGe1-xx4などに代表される硫化物系固体電解質と、NASICON型構造のLi1+xAlxGe2-x312やLi1+xAlxTi2-x312、ペロブスカイト型構造のLa2/3-xLi3xTiO3などに代表される酸化物系固体電解質と、が挙げられる。酸化物系固体電解質のより具体的な例としては、特許文献1~3や非特許文献1に記載されているものなどが示される。特に、NASICON型構造のLi1+xAlxGe2-x312(LAGP)やLi1+xAlxTi2-x312(LATP)は、ガラス状態から結晶化することができるため比較的低い焼結温度で高リチウムイオン伝導度を備えるものが得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-258165号公報
【特許文献2】特開2013-112599号公報
【特許文献3】特開2021-174766号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 192(2009)689-692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、正極層、固体電解質層、および負極層により構成される酸化物系の全固体二次電池の作製は、大きく分けて2通りの方法が考えられる。1つ目は、正極層、固体電解質層、または負極層のいずれかを基材として残りの層を焼結していく方法であり、2つ目は、正極層、固体電解質層、負極層、および必要に応じてインターコネクタ層のすべてを一体で焼結して成形する方法(共焼結)である。特に、酸化物系固体電解質を用いた全固体二次電池のうち積層セラミックスコンデンサー(MLCC)タイプのものは、共焼結による作製が求められている。そして、電極層と固体電解質層とを一体成形する場合において、電極活物質の分解および放電容量(電池容量)低下を可能な限り抑制するためにできるだけ低い焼結温度により焼結を行うのが望ましいが、所定のリチウムイオン伝導度や密度等を備える酸化物系固体電解質層の形成などの観点から、通常は700℃を超える温度で焼結が行われている。
【0009】
そして、非特許文献1に示す固体電解質は電極活物質(正極活物質または負極活物質)との反応が知られており、700℃を超える温度での共焼結は困難であることが知られている。
一方で、特許文献1ではNASICON型構造の固体電解質Li1.5Al0.5Ge1.5312を用いて800℃で焼結させた電池が開示されているが、これは抵抗値が10kΩと高く、面積と厚みからリチウムイオン伝導度を計算しても3×10-7S/cmと低い。
さらに、特許文献2に示すようにLAGPの組成を変えることに着目したものもあるが、これは良好な界面形成に必要な焼結後の密度について開示されていない。そして、LAGP系ガラス材料(Li、Al、GeおよびPを必須成分として含み、これらの組成比がLi1+xAlxGe2-x312またはこれに準ずる組成比を満たす酸化物系のガラス材料)はLATP系ガラス材料(Li、Al、TiおよびPを必須成分として含み、これらの組成比がLi1+xAlxTi2-x312またはこれに準ずる組成比を満たす酸化物系のガラス材料)と比較してより低い焼結温度での結晶化(ガラスセラミックス化)が可能であるものの、より高密度な固体電解質を得ることが難しいという課題があり、実質的に全固体二次電池の電極層界面等を良好に構成できる高密度な固体電解質の取得には至っていない。
また、特許文献3では、出発材料を高温工程で溶融し、得られた中間生成物を冷却または急冷する段階、または細分化段階において低温工程を実施して粉末を生成する段階で水または水蒸気と接触させ、引き続き乾燥させ(例えば凍結乾燥後に窒素雰囲気で焼出ししてから真空乾燥する等)、高温(例えば950℃)でセラミックス化を行う固体リチウムイオン伝導体材料の製造方法が開示されている。しかしながら、LAGP系ガラス材料に水や水蒸気を添加すると組成ずれが発生して製造が難しくなり、さらに低温焼結も難しくなってしまう。また、一部の成分が水分に溶解してしまうため、この溶解・水和した成分を含む材料を高密度化することも難しくなる。
【0010】
そこで本発明は、700℃以下での焼結によって高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能な、LAGP系ガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、LAGP系ガラス材料を低温焼結して得られるガラスセラミックスの高密度化が難しい原因は、この焼結時においてガラス材料に溶け込んだ水分がガス化し、これは表面に吸着(化学吸着または物理吸着)した水分がガス化した場合とは異なり瞬時に逃げにくいためであることを見出した。そして、P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比、あるいはLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、目開き106μmのメッシュをパスした粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が60ppm以下であるガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体とすることにより、700℃以下での低温焼結によって、より高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は次の<1>~<5>である。
<1>焼結によりリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能なガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体であって、P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、目開き106μmのメッシュをパスした前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が、前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下である、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
<2>酸化物基準のmol%で、ZrO2成分を0.05~2.4%含有する、<1>に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
<3>焼結によりリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能なガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体であって、P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、目開き106μmのメッシュをパスした前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が、前記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下である、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
<4>酸化物基準のmol%で、ZrO2成分を0.05~2.4%含有する、<3>に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体。
<5><1>~<4>のいずれか1つに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを固体電解質として含む、全固体二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、700℃以下での焼結によって高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能な、LAGP系ガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2、実施例3、および比較例4のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を低温焼結して結晶化した際の湿度測定結果を示すグラフである。
図2】粒径が異なる比較例4のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を低温焼結して結晶化した際の湿度測定結果を示すグラフである。
図3】比較例4のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体(25μmメッシュパス品)を低温焼結して結晶化した際の湿度測定結果を示すグラフである。
図4】比較例1(左)および実施例3(右)の焼結体ペレットにおける破断面の二次電子像である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について説明する。
本発明は、焼結によりリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能なガラス材料のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体であって、P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たすか、あるいは、P、Al、GeおよびLiの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、目開き106μmのメッシュをパスしたこのリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化した際に、550~700℃において放出される水分量が、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下のものである。
以下においては、これらを「本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体」という場合もある。また、これらのうち前者の組成比を満たす実施形態を「第1実施形態」、後者の組成比を満たす実施形態を「第2実施形態」という場合もある。
【0016】
まず、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を構成する成分および組成について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、P成分、Al成分、Ge成分およびLi成分を必須成分として含み、第1実施形態ではこれらの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たし、第2実施形態ではこれらの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たす。
【0017】
なお、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体に含まれる成分の含有量は、特に断りがない限り全て酸化物基準のmol%で表す(以下、単にmol%と記載している場合も特に断りがない限り酸化物基準のmol%を意味する)。この「酸化物基準のmol%」で表す含有量とは、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物に変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総モル数を100mol%として、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体中に含まれる各成分の含有量を表記したものである。
【0018】
(1)第1実施形態の必須成分およびその組成
25成分は、第1実施形態のLAGP系ガラス材料のガラス形成、ならびに第1実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含み優れたリチウムイオン伝導度を有するために必要な必須成分である。そのため、このP25成分の含有量は好ましくは34.0mol%、より好ましくは35.0mol%、さらに好ましくは36.0mol%、さらに好ましくは37.0mol%を下限とする。また、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、P25成分の含有量は好ましくは45.0mol%、より好ましくは44.0mol%、さらに好ましくは43.0mol%、さらに好ましくは42.0mol%、さらに好ましくは41.0mol%、さらに好ましくは40.0mol%、さらに好ましくは39.0mol%、さらに好ましくは38.0mol%を上限とする。例えば、第1実施形態ではP25成分を37.0~42.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0019】
Al23成分は、第1実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含み且つ優れたリチウムイオン伝導度を有するために必要な必須成分である。そのため、Al23成分の含有量は好ましくは0.5mol%、より好ましくは1.0mol%、さらに好ましくは2.0mol%、さらに好ましくは3.0mol%、さらに好ましくは4.0mol%、さらに好ましくは4.5mol%を下限とする。また、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、Al23成分の含有量は好ましくは10.0mol%、より好ましくは9.0mol%、さらに好ましくは8.0mol%、さらに好ましくは7.0mol%、さらに好ましくは6.0mol%、さらに好ましくは5.5mol%を上限とする。例えば、第1実施形態ではAl23成分を2.0~7.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0020】
GeO2成分も、第1実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含み且つ優れたリチウムイオン伝導度を有するために必要な必須成分である。そのため、GeO2成分の含有量は好ましくは29.0mol%、より好ましくは30.0mol%、さらに好ましくは31.0mol%、さらに好ましくは32.0mol%、さらに好ましくは33.0mol%、さらに好ましくは34.0mol%、さらに好ましくは35.0mol%、さらに好ましくは36.0mol%、さらに好ましくは37.0mol%、さらに好ましくは38.0mol%、さらに好ましくは39.0mol%を下限とする。また、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、GeO2成分の含有量は好ましくは49.0mol%、より好ましくは48.0mol%、さらに好ましくは47.0mol%、さらに好ましくは46.0mol%、さらに好ましくは45.0mol%、さらに好ましくは44.0mol%、さらに好ましくは43.0mol%、さらに好ましくは42.0mol%、さらに好ましくは41.0mol%を上限とする。例えば、第1実施形態ではGeO2成分を32.0~46.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0021】
Li2O成分は、第1実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスにリチウムイオン伝導性を付与させるのに必要な必須成分である。そのため、Li2O成分の含有量は好ましくは12.0mol%、より好ましくは13.0mol%、さらに好ましくは14.0mol%、さらに好ましくは15.0mol%、さらに好ましくは16.0mol%、さらに好ましくは17.0mol%を下限とする。一方で、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、Li2O成分の含有量は好ましくは22.0mol%、より好ましくは21.0mol%、さらに好ましくは20.0mol%、さらに好ましくは19.0mol%、さらに好ましくは18.0mol%を上限とする。例えば、第1実施形態ではLi2O成分を15.0~19.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0022】
そして、この第1実施形態では、これらの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312(x=0.2~0.6、z=0~0.1、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たす。つまり、第1実施形態は、P、Al、Ge、およびLiの組成比がLAGP系となるような組成比であるガラス材料(LAGP系ガラス材料)となっている。なお、上記組成式のxは、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.3以上を下限とし、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.5以下を上限とする。また、上記組成式のzは、下限が0超であってもよく、0.005以上であってもよく、さらに、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下を上限とする。そして、上記組成式のMは、Zr、Ti、およびSnからなる群から選ばれる1種以上であるのがより好ましく、Zrおよび/またはSnであるのがさらに好ましく、Zrであるのがさらに好ましい。
【0023】
(2)第2実施形態の必須成分およびその組成
25成分は、同様に、第2実施形態のLAGP系ガラス材料のガラス形成、ならびに第2実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含み優れたリチウムイオン伝導度を有するために必要な必須成分である。そのため、このP25成分の含有量は好ましくは33.0mol%、より好ましくは34.0mol%、さらに好ましくは35.0mol%、さらに好ましくは36.0mol%、さらに好ましくは37.0mol%を下限とする。また、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、P25成分の含有量は好ましくは42.0mol%、より好ましくは41.0mol%、さらに好ましくは40.0mol%、さらに好ましくは39.0mol%、さらに好ましくは38.0mol%を上限とする。例えば、第2実施形態ではP25成分を36.0~39.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0024】
Al23成分は、同様に、第2実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含み且つ優れたリチウムイオン伝導度を有するために必要な必須成分である。そのため、Al23成分の含有量は好ましくは0.5mol%、より好ましくは1.0mol%、さらに好ましくは2.0mol%、さらに好ましくは3.0mol%、さらに好ましくは3.5mol%を下限とする。また、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、Al23成分の含有量は好ましくは10.0mol%、より好ましくは9.0mol%、さらに好ましくは8.0mol%、さらに好ましくは7.0mol%、さらに好ましくは6.5mol%を上限とする。例えば、第2実施形態ではAl23成分を2.0~7.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0025】
GeO2成分も、同様に、第2実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含み且つ優れたリチウムイオン伝導度を有するために必要な必須成分である。そのため、GeO2成分の含有量は好ましくは29.0mol%、より好ましくは30.0mol%、さらに好ましくは31.0mol%、さらに好ましくは32.0mol%、さらに好ましくは33.0mol%、さらに好ましくは34.0mol%、さらに好ましくは35.0mol%、さらに好ましくは36.0mol%を下限とする。また、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、GeO2成分の含有量は好ましくは47.0mol%、より好ましくは46.0mol%、さらに好ましくは45.0mol%、さらに好ましくは44.0mol%、さらに好ましくは43.0mol%、さらに好ましくは42.0mol%を上限とする。例えば、第2実施形態ではGeO2成分を32.0~44.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0026】
Li2O成分は、同様に、第2実施形態が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスにリチウムイオン伝導性を付与させるのに必要な必須成分である。そのため、Li2O成分の含有量は好ましくは15.0mol%、より好ましくは16.0mol%、さらに好ましくは17.0mol%を下限とする。一方で、焼結により菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を得やすくすることができることから、Li2O成分の含有量は好ましくは25.0mol%、より好ましくは24.0mol%、さらに好ましくは23.0mol%、さらに好ましくは22.0mol%、さらに好ましくは21.0mol%、さらに好ましくは20.0mol%を上限とする。例えば、第2実施形態ではLi2O成分を18.0~23.0mol%含有する構成であるとより好適である。
【0027】
そして、この第2実施形態では、これらの組成比がLi1+xAlxGe2-x-zz312+aLi2O+bP25(x=0.2~0.6、z=0~0.1、a=0.01~0.3、b=0~0.3、MはZr、Ti、Sn、およびSiからなる群から選ばれる1種以上)の組成式で示される組成比を満たす。つまり、第2実施形態は、P、Al、Ge、およびLiの組成比が、LAGP系に焼結助剤となり得る所定量の酸化リチウムあるいは酸化リチウムおよび五酸化二リン酸が加えられた組成となるような組成比であるガラス材料(LAGP系ガラス材料)となっている。
【0028】
なお、上記組成式のxは、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.3以上を下限とし、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.5以下を上限とする。また、上記組成式のzは、下限が0超であってもよく、0.005以上であってもよく、さらに、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下を上限とする。そして、上記組成式のMは、Zr、Ti、およびSnからなる群から選ばれる1種以上であるのがより好ましく、Zrおよび/またはSnであるのがさらに好ましく、Zrであるのがさらに好ましい。さらに、上記組成式のaは、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上を下限とし、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.07以下を上限とする。さらには、上記組成式のbは、好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上を下限とし、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下を上限とする。
【0029】
(3)任意成分
なお、第1実施形態および第2実施形態はいずれも、上記した必須成分からなる構成であっても良いが、さらに任意成分として、前述したZrO2成分、TiO2成分、SnO2成分、SiO2成分や、B23成分、Nb25成分、La23成分、Y23成分、Sc23成分、CaO成分、MgO成分、Ta25成分、およびCo、Ni、Mn、Fe等の遷移金属酸化物からなる群から選ばれる1以上が含まれていても良い。
特に、熔解時におけるガラス材料への水分の溶け込みを抑制し、低温焼結して結晶化した際の550~700℃において放出される水分量をより低減させ易くなることから、第1実施形態および第2実施形態はいずれも、さらにZrO2成分を含む構成であるとより好ましい。
【0030】
ZrO2成分は、上記したように、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を低温焼結で結晶化した際の550~700℃において放出される水分量を低減できる任意成分である。また、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を焼結したときの結晶化を促進できる成分でもある。さらに、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体およびこれが焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの化学的耐久性向上に寄与することができる成分でもある。ZrO2成分の含有量は好ましくは0.05mol%以上、より好ましくは0.1mol%以上、さらに好ましくは0.15mol%以上、さらに好ましくは0.2mol%以上とするのが好適である。一方で、原料熔解時の熔解温度をより低く設定でき且つキャスト(ガラス塊形成)時の失透を抑制し易くなることから、好ましくは2.4mol%以下、より好ましくは2.0mol%以下、さらに好ましくは1.5mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以下、さらに好ましくは0.5mol%以下とするのが好適である。
【0031】
SiO2成分、B23成分、La23成分、およびNb25成分は、いずれも本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体のガラス形成をし易くする任意成分である。また、SiO2成分は、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスの機械的強度を高めることもできる。なお、SiO2成分の含有量は、好ましくは5.0mol%以下、より好ましくは3.0mol%以下、さらに好ましくは2.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以下とするのが好適である。そして、B23成分の含有量は、好ましくは10.0mol%以下、より好ましくは8.0mol%以下、さらに好ましくは5.0mol%以下、さらに好ましくは3.0mol%以下とするのが好適である。さらに、La23成分の含有量は、好ましくは10.0mol%以下、より好ましくは8.0mol%以下、さらに好ましくは5.0mol%以下、さらに好ましくは3.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以下とするのが好適である。さらに、Nb25成分の含有量は、好ましくは50.0mol%以下、より好ましくは40.0mol%以下、さらに好ましくは30.0mol%以下、さらに好ましくは20.0mol%以下とするのが好適である。
【0032】
SnO2成分およびTiO2成分は、いずれも本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を焼結したときの結晶化を促進できる任意成分である。なお、TiO2成分の含有量は、好ましくは5.0mol%以下、より好ましくは3.0mol%以下、さらに好ましくは2.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以下とするのが好適である。なお、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、GeO2成分を含み且つTiO2成分を実質的に含まない(例えば0.1mol%未満の)組成であったとしても高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能であるのが特徴である。また、SnO2成分の含有量も、好ましくは5.0mol%以下、より好ましくは3.0mol%以下、さらに好ましくは2.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以下とするのが好適である。
【0033】
Sc23成分およびY23成分は、Al23成分の一部と代替でき、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス中のリチウムイオン伝導性を調整できる任意成分である。なお、Y23成分の含有量は、好ましくは10.0mol%以下、より好ましくは8.0mol%以下、さらに好ましくは5.0mol%以下、さらに好ましくは3.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以下とするのが好適である。また、Sc23成分の含有量も、好ましくは10.0mol%以下、より好ましくは5.0mol%以下、さらに好ましくは3.0mol%以下とするのが好適である。
【0034】
CaO成分およびMgO成分は、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスのリチウムイオン伝導性をより高くすることができる任意成分である。なお、CaO成分の含有量およびMgO成分の含有量はいずれも、好ましくは10.0mol%以下、より好ましくは8.0mol%以下、さらに好ましくは5.0mol%以下、さらに好ましくは3.0mol%以下とするのが好適である。
【0035】
Ta25成分、ならびにCo、Ni、Mn、Fe等の遷移金属は、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを固体電解質として用いて電極層と一体成形した際に、電極活物質(特に正極活物質)に含まれるTa25成分や遷移金属が固体電解質に溶出することを抑制することができる任意成分である。なお、Ta25成分およびこれらの遷移金属酸化物の合計含有量は、好ましくは20.0mol%以下、より好ましくは15.0mol%以下、さらに好ましくは10.0mol%以下、さらに好ましくは5.0mol%以下とするのが好適である。
【0036】
さらに、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、上記以外に、その効果に大きな影響を与えない可能性が高いため、Na2O成分、K2O成分、または他の遷移金属(Ag、Cu、Au等)の酸化物が少量(例えば5.0mol%以下、さらには3.0mol%以下、さらには1.0mol%以下)含まれていても構わない。しかしながら、これらから選ばれる1以上を実質的に含まない(例えば0.1mol%未満の)構成であってもよい。
【0037】
なお、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、硫黄(S)の含有を極力低減することが好ましく(例えば1mol%未満、さらには0.1mol%未満など)、含有しないことがより好ましい。S成分の低減により、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを固体電解質として用いた全固体二次電池などにおいて硫化水素等の有害ガス発生の可能性を低減できるからである。また、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、および鉛(Pb)も同様に極力低減することが好ましく、含有しないことがより好ましい。有害物質となるからである。さらに、電子伝導性発現という観点から、ビスマス(Bi)およびテルル(Te)も同様に極力低減することが好ましく、含有しないことがより好ましい。さらには、焼結されてなる固体電解質の機能を高度に維持するという観点から、バナジウム(V)も同様に極力低減することが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0038】
そして、上記のような含有成分および組成である本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、ガラス材料(アモルファス材料)となっている。したがって、焼結前の本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体には、結晶相は実質的に含まれない。
【0039】
<リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の水分量>
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、P、Al、GeおよびLiの組成比が上記した組成式で示される組成比を満たし、且つ低温焼結での結晶化時に所定の温度帯で放出される水分量が一定量以下となっている。
具体的には、目開き106μmのメッシュをパスした(106μmメッシュパス品の)本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化(ガラスセラミックス化)した際に、550~700℃の温度帯において放出される水分量(積算値)が、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下となっている。つまり、低温焼結によってガラス状態から結晶化させる際にガラス材料に溶け込んだ水分のガス化が極めて少なく、言い換えれば結晶相の形成時において内部でのガスの発生や滞留が極めて少なく、LAGP系ガラス材料でありながら理論値にかなり近い(例えば理論値の90%を超える)高密度のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能となっている。
ここで、「このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体あたり60ppm以下」とは、焼結前におけるこのリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の質量に対する質量割合として、上記した550~700℃の温度帯で放出される水分量が60ppm(0.006wt%)以下であるという意味である。なお、この温度帯で放出される水分のほとんどはガラス材料に溶け込んだ水分であり、ガラス材料の表面に吸着(化学吸着または物理吸着)した水分のほとんどはこれより低い温度帯で放出される。
【0040】
なお、この水分量は55ppm以下であるのが好ましく、50ppm以下であるのがより好ましく、48ppm以下であるのがさらに好ましく、45ppm以下であるのがさらに好ましく、42ppm以下であるのがさらに好ましく、40ppm以下であるのがさらに好ましく、38ppm以下であるのがさらに好ましく、36ppm以下であるのがさらに好ましく、34ppm以下であるのがさらに好ましく、32ppm以下であるのがさらに好ましく、30ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
ここで、この水分量は、以下のように測定、算出される値である。具体的には、目開き106μmのメッシュをパスした(例えば目開き106μmのメッシュをパスし且つ平均粒子径(D50)が30μm以上100μm以下、さらには40μm以上100μm以下である)本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の粒子を700℃以下の温度で焼結して結晶化する際に、TG-DTA(例えばブルカー社製のTG-DTA200SAなど)の後段(例えば出口側)に湿度計(例えばチノー社製のHN-CJ、テクネ計測社製の露点計TK-100、ヴァイサラ社製のDM70など)をつけ、データレコーダー(例えばグラフテック社製のG400)にて記録し、湿度計の湿度とキャリアガス(例えば窒素など)流量の積算値から550~700℃において放出される水分量を算出する。キャリアガス流量は、例えば50ml/min(0℃、1気圧換算)とする。
【0042】
<リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の形態>
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、前述したように700℃以下での焼結(結晶化)によってより高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが可能なものであるが、その形態は、全固体二次電池の一括焼結時などにおいて界面形成がよりし易く、正極層、固体電解質層、負極層、および必要に応じてインターコネクタ層のすべてを一体で焼結して成形する共焼結などに好適に用いることができることから、粉末であるのがより好ましい。ここでいう界面形成とは、電極活物質、導電助剤および固体電解質の三次元構造を形成する三相界面と、固体電解質材料どうしの界面の両方を表す。これにより、粉末状のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結により軟化して界面を形成し、それが結晶化して高密度のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを得ることができるため、共焼結等における全固体二次電池の電極活物質、導電助剤および固体電解質の三次元構造を形成する三相界面形成などの観点から非常に好適である。特に、全固体二次電池の構成において、より低温で界面を形成すること、反応界面をより増やすこと、電解質層の膜の厚さをより薄くすることなどの観点から、この粉末の平均粒子径(D90)が2μm以下(例えば1μm以上2μm以下)、またはこの粉末の平均粒子径(D50)が1μm前後(例えば2μm以下、さらには1.5μm以下、さらには1μm以下)であると好ましい。
なお、全固体二次電池の構成には、シート成形などを用いる場合があるが、シート成形の構成材料としても上記した粉末状の本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を用いることが好ましい。その際は、耐候性を鑑み、粒子の再凝集なども抑制するために、粉末の最大粒子径が200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下であり、且つ平均粒子径(D50)が100μm以下、より好ましくは80μm以下程度の粉末、具体的には106μmメッシュパス品や、これを粉砕して最終的に最大粒子径を目標とするシートの膜厚の1/20以下としたもの、例えば目標とするシート膜厚が20μmであれば最大粒子径1μm以下のものなどであるのが好適である。これにより、シート成形の直前まで外気との反応を抑制し易くなる。ガラス塊から106μmメッシュパスの粉末状とするためには、特に限定されるものではないが、スタンプミルやボールミル、ジョークラッシャーなどを用いればよい。
ここで、本発明において粒子の「最大粒子径」、および「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によって測定される最大粒子径、および体積基準の平均粒子径(体積積算分布90%径(D90)、体積積算分布50%径(D50))である。
【0043】
なお、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、P、Al、GeおよびLiの組成比が上記したいずれかの組成式で示される組成比を満たすように2種以上のガラス材料が混合(例えば粉体混合)あるいは混合焼成(混合されてガラス状態が維持されるように熱処理)された混合物であっても構わない。つまり、2種以上のガラス材料が混合あるいは混合焼成された、P、Al、Ge、およびLiの組成比が上記したいずれかの組成式で示される組成比を満たす混合物であっても構わない。そして、この混合物も、上記したような最大粒子径、平均粒子径(D90)、または平均粒子径(D50)を満たす粉末であると好適である。
しかしながら、本発明の効果がより発揮され易くなることから、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、P、Al、GeおよびLiの組成比が上記したいずれかの組成式で示される組成比を満たすようにガラス化された1種のガラス材料であるのがより好ましい。
【0044】
<リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の製造方法>
次に、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の製造方法について詳細に説明する。
【0045】
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、後述する熔解条件を備える限りにおいて、他は無機材料の焼成(仮焼成)、熔解、ガラス化などの、アモルファス無機材料製造の一般的な方法を用いて製造することができる。製造に用いる無機材料については特に限定されないが、リン酸リチウム(Li3PO4)、メタリン酸リチウム(LiPO3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)、正リン酸(H3PO4)、リン酸アルミニウム(Al(PO33)、リン酸ジルコニウム((ZrO)2(HPO42)などを用いるのが好ましく、特にリン酸リチウム、メタリン酸リチウム、酸化ゲルマニウム、リン酸アルミニウム、および正リン酸を製造原料として用いるのが好適である。
【0046】
そして、無機材料の熔解条件は、前述した水分量が一定以下であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体(LAGP系ガラス材料)を得るために、窒素雰囲気での熔解(窒素雰囲気熔解)を行う必要がある。これにより、熔解して得られるガラス材料への水分の溶け込みを高度に抑制することができ、前述した水分量を十分に低減させることができる。この窒素雰囲気熔解を行わない場合には、これ以外のガラス材料製造工程やその結晶化時(焼結時)などにおいて窒素雰囲気とした場合でも前述した水分量を十分に低減させることができない。また、この熔解において窒素雰囲気の代わりに露点-10℃程度まで湿度を低減させたドライエアー雰囲気としても、同様に前述した水分量を十分に低減させることができない。そして、熔解前に焼成(仮焼成)を行う場合には、この焼成も同様に窒素雰囲気で行うのが好ましい。また、熔解後のガラス塊を粉砕する場合も同様に窒素雰囲気で行うのが好ましい。熔解温度は、限定されるものではないが、1000℃以上であるのが好ましく、1200℃以上1450℃以下であるのがより好ましい。
【0047】
<リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス>
次に、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスについて詳細に説明する。
【0048】
このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されて得られる、菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相およびガラス状態の相(アモルファス相)を含むリチウムイオン伝導性のガラスセラミックスである。したがって、構成成分や組成は、焼結助剤等を用いない限り焼結前の本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体と実質的に同じである。そして、全固体二次電池の固体電解質として好適に用いることができる。また、700℃以下という低い焼結温度での焼結により形成することができるため電極層と一体成形しても電極活物質(正極活物質または負極活物質)の分解および放電容量(電池容量)低下が生じ難く、また、高い密度を備えるためその界面形成も良好となり、緻密膜などを形成し易い。
ここで、本発明において「ガラスセラミックス」とは、原料となるガラス材料(アモルファス材料)を熱処理することにより結晶相を析出させて得られるもの、あるいはガラス材料と他の材料とを熱処理することで結晶相を合成したものであり、熱処理により形成された結晶相とアモルファス相(非晶質相)とを含む。つまり、セラミックスとガラスとの混合物である。
【0049】
そして、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、上記したように、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体から低温焼結により得ることができるものである。具体的には、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を用いて700℃以下(例えば550℃以上680℃以下、さらには550℃以上660℃以下)の焼結温度によって焼結して結晶化することにより得ることができるものである。なお、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、焼結助剤(結晶化後に粒界抵抗を低減させる成分)を別途添加混合しなくてもそのまま低温焼結することによって、高密度なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成できる。
【0050】
また、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、これも上記したように菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相を含むが、他の構造のリチウムイオン伝導性結晶相(例えば、LISICON型、ペロブスカイト型、ガーネット型など)が一部含まれていても良い。この場合でも、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスに含まれる全ての結晶相(全結晶相)のうち、菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相が80質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましく、95質量%以上であるのがさらに好ましく、99質量%以上であるのがさらに好ましい。つまり、菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相が主結晶相であるのが好ましい。また、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスに含まれる結晶相が、実質的に菱面体晶系のNASICON型構造の結晶相からなる構成であっても良い。
【0051】
そして、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは高い密度(例えば2.85g/cm3以上)を備えるものであり、且つ高いリチウムイオン伝導度を備えるものであるが、その密度は2.86g/cm3以上であるのが好ましく、2.87g/cm3以上であるのがより好ましく、2.88g/cm3以上であるのがさらに好ましく、2.89g/cm3以上であるのがさらに好ましく、2.90g/cm3以上であるのがさらに好ましく、2.91g/cm3以上であるのがさらに好ましい。そして、その25℃におけるリチウムイオン伝導度は4.0×10-5S/cm以上であるのが好ましく、9.0×10-5S/cm以上であるのがより好ましく、1.0×10-4S/cm以上であるのがさらに好ましく、1.1×10-4S/cm以上であるのがさらに好ましく、1.2×10-4S/cm以上であるのがさらに好ましく、1.3×10-4S/cm以上であるのがさらに好ましい。
【0052】
以上のように、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、700℃以下での低温焼結によってより高密度なLAGP系のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することができる。そして、このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは高い密度および高いリチウムイオン伝導度を備えるため、全固体二次電池の固体電解質(固体電解質層など)として好適に用いることができる。つまり、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体が焼結されてなるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを固体電解質として含む全固体二次電池を形成することができる。なお、従来のLAGP系ガラス材料では、低温焼結により前述のような高密度のLAGP系リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することが難しかったが、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、前述のような高密度のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを形成することができるため、共焼結等により良好な界面形成がされた全固体二次電池を製造するための製造原料として好適に用いることができる。
【0053】
全固体二次電池の電極層となる層(正極層および/または負極層)やインターコネクタ層などを一体成形させる場合には、この電極層としては公知のものを用いることができ、例えば、電極活物質(正極活物質または負極活物質)と、必要に応じて導電助剤、無機バインダー等とを混合してから焼結することにより得られた全固体二次電池用の電極層などを用いることができる。また、本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体と、正極活物質または負極活物質とを低温混合焼結して、全固体二次電池の電極層(固体電解質を含む電極層)を得ることもできる。
【0054】
なお、正極活物質としては、NASICON型のLiV2(PO43、オリビン型のLixyMtPO4(但し、JはAl、Mg、Wから選ばれる少なくとも1種以上、MtはNi、Co、Fe、Mnから選ばれる1種以上であり、xは0.9≦x≦1.5、yは0≦y≦0.2を満たす)、層状酸化物、スピネル型酸化物などが例示される。また、負極活物質としては、NASICON型、オリビン型、スピネル型の結晶を含む酸化物、ルチル型酸化物、アナターゼ型酸化物、非晶質金属酸化物、金属合金などが例示される。さらに、導電助剤としては、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブなどの炭素化合物、Ni、Fe、Mn、Co、Mo、Cr、AgおよびCuから選ばれる少なくとも1種からなる金属、これらの合金、チタンやステンレス、アルミニウム等の金属、白金、金、ルテニウム、ロジウム等の貴金属などが例示される。
【0055】
上記において説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、上記において説明した成分等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0056】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでもなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0057】
ガラス材料である各種組成のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の合成、ならびに、それらについて全固体二次電池界面形成を模擬した焼結試験(低温焼結試験)を行った。
【0058】
<リチウムイオン伝導性ガラスセラミック前駆体の合成>
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体は、大気雰囲気または窒素雰囲気のいずれかで仮焼きおよび熔解して合成を行った。
【0059】
(1)ガラス熔解
原料にはメタリン酸リチウム(LiPO3)、リン酸リチウム(Li3PO4)、酸化ゲルマニウム(GeO2)、正リン酸(H3PO4)、リン酸アルミニウム(Al(PO33)、および必要に応じてリン酸ジルコニウム((ZrO)2(HPO42)を用いた。
そして、下記表1に示す量論比になるように原料を調合し、あわとり錬太郎にて1000rpmで5分間攪拌後に薬さじで1回のバッチ量を200gとした。混合した原料を白金ポットに入れて、下記表1の処理条件に示すように大気雰囲気または窒素雰囲気のいずれかで1000℃まで5時間かけて昇温後、1時間保持して炉冷し仮焼き粉末とした。この仮焼きした粉末を下記表1の処理条件に示すような大気雰囲気または窒素雰囲気のいずれかの雰囲気とした1200℃以上の熔解炉にてよく攪拌しながら熔解してガラス化し(大気雰囲気熔解または窒素雰囲気熔解)、金属製のキャスト板の上にキャストして、ガラス材料である比較例1~5および実施例1~10の各種リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体(ガラス塊)を得た。得られたガラスの塊は、5cm×10cm~2×3cmなど大きさはさまざまであった。この比較例1~5および実施例1~11のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体のガラス塊(約3~10cm)をスタンプミルにより106μmメッシュパス以下まで粉砕した。粉砕雰囲気は、いずれも窒素雰囲気とした。
【0060】
【表1】
【0061】
<リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の全固体二次電池界面形成を模擬した焼結試験>
上記の性能比較のために、全固体二次電池の焼結時の界面形成を模擬した評価を行った。つまり、上記で合成した各種リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を粉砕した粉末を成形後に焼結して固体電解質(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス)を作製し、その密度およびリチウムイオン伝導度を評価した。具体的には、以下の手順により行った。
【0062】
500ccのジルコニアポットに粉砕した上記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体(106μmメッシュパス粉末)、1-プロパノールを加え、φ2mmのジルコニアビーズ(ニッカトー社製、YTZビーズ)を粉砕メディアとして用いた遊星ボールミルにて250rpm、2時間(5分粉砕、1分休止)の条件で粉砕を行った。篩を用いて粉砕後のスラリーとジルコニアビーズとを分離後、得られたスラリーを、棚型溶剤回収乾燥機(創造化学工業社製)を用いて乾燥した。得られたこれらの粉末の平均粒子径(D90)はいずれも2μm以下(1~2μm)であり、平均粒子径(D50)はいずれも1μm以下であった。
【0063】
上記のようにして得られた各種の乾燥した粉末を、アルミナ乳鉢およびアルミナ乳棒を用いて500μmメッシュパスまで解砕後に、1.5gとり、φ20mmの成形金型を用いて20kNの圧力をかけて成形して、各種リチウムイオン伝導度測定用ペレットをそれぞれ複数得た。そして、この各種リチウムイオン伝導度測定用ペレットを窒素雰囲気下で焼結した。550℃で保持後に650℃までの昇温速度を50℃/hと遅くして、650℃で1時間熱処理してガラスセラミックスの固体電解質である焼結体ペレット(実施例1~10、および比較例1~5の焼結体ペレット)を得た。
【0064】
得られた各焼結体ペレットを、♯800および♯2000の耐水研磨紙と1-プロパノールとを用いて表面を研磨、乾燥した後、ノギス、マイクロメータ、および電子天秤により、それぞれ直径、厚さ、重量を測定し、密度を算出した。
【0065】
各焼結体ペレットのリチウムイオン伝導度測定は、マグネトロンスパッタ装置(サンユー電子社製、SC-701HMC)により、ブロッキング電極として金電極を密度測定に用いた焼結体の両面に形成し、電気化学評価装置(バイオロジック社製、SP300)により、25℃において、周波数0.1Hz~7MHz、振幅電圧10mV、開回路電圧の条件によりインピーダンス測定を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
【0066】
焼結体ペレットの二次電子像観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM―IT700HR/LA)にて行い、破断面を観察した。加速電圧は5kV、試料間距離(W.D.)は10mmとした。
【0067】
また、これらとは別に、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を焼結して結晶化した際に放出される水分量の測定については、TG-DTA(ブルカー社製、TG-DTA200SA)の出口側(後段)に湿度計(チノー社製、HN-CJ)をつけ、データレコーダー(グラフテック社製、G400)にて記録することで行った。あわせて、このTG-DTA(ブルカー社製、TG-DTA200SA)を用いて結晶化開始温度(Tc)も測定した。試料は106μmメッシュパス(粒径106μm以下、平均粒子径(D50)50~80μm程度)まで粉砕した上記リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体を用いた。水分発生には材料内の拡散を伴うことから、粒径の影響を確認するため、比較例4については、材料をボールミルにて粉砕して25μmメッシュパス(粒径25μm以下)としたものについても測定、評価した。測定温度は550~700℃を含む範囲とし、キャリアガスは窒素とし、キャリアガス流量は50ml/min(0℃、1気圧換算)とした。湿度計の湿度とキャリアガス流量の積算値から結晶化時の水分発生量(550~700℃において放出される水分量)を算出した。
【0068】
<評価結果>
得られた結果について、以下に評価項目ごとに示す。
(1)結晶化時の水分放出量評価
下記表2に合成した試料の熔解処理条件(処理条件)、組成、焼結の際に550~700℃において放出される水分量(水分)、得られた焼結体ペレットの密度およびリチウムイオン伝導度(イオン伝導度)を示す。また、代表的な値として、a=0.05、b=0、x=0.4を固定し、大気雰囲気熔解である比較例4、窒素雰囲気熔解である実施例2、ならびに、ジルコニア成分を0.015置換した(得られた焼結体ペレットの密度が最も高かった)実施例3の湿度測定結果を図1に示す。なお、図1では550~700℃における湿度測定結果を示している。結晶化時(550~700℃)に検出(放出)された水分量を算出すると比較例4が101.2ppm、実施例2が54.2ppm、および実施例3が24.5ppmであり(表2)、大気雰囲気熔解のものが最も高く、窒素雰囲気熔解により約半分に、ジルコニア成分の添加によりさらにその半分になることが確認できた。そして、焼結体ペレットの密度は、比較例4が最も低く2.75g/cm3であり、実施例2は2.86g/cm3、さらに実施例3は2.97g/cm3と理論値(3.1g/cm3)の96%の値を示した。リチウムイオン伝導度はいずれも1×10-4S/cm以上であり大きな差はなかったが、いずれも高い値であった。
【0069】
さらに、LAGPの基本組成にリチウム成分、リン成分およびジルコニア成分をいずれも追加していない比較例1および実施例1での比較、リチウム成分を追加した比較例4と実施例2との比較、ジルコニア成分のみを追加した比較例3と実施例8との比較、リチウム成分を追加した組成においてジルコニア成分を追加した比較例5と実施例3~6との比較、さらにそこにリン成分を追加した実施例7、リチウム成分を追加した組成においてアルミ成分の組成を変更した実施例9および実施例10の結果から、いずれにおいても、結晶化時に水分放出量が大きい大気雰囲気熔解で得られたガラス材料から形成された焼結体ペレットは密度が低く(比較例)、結晶化時の水分放出量が小さくなると焼結体ペレットの密度が高くなる傾向を示した(実施例)。窒素雰囲気熔解に加えてゲルマニウム成分に対するジルコニア成分の置換が特に密度を高くするうえで有効であったが、リチウム成分を追加しない比較例3、実施例8においてはリチウムイオン伝導度が4×10-5S/cm程度にやや低下した。
【0070】
上記水分量を測定したガラス材料(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体)の粒径は106μmメッシュパスであり、材料中の水分については拡散を伴うため粒径の影響が懸念された。そのため、比較例4の試料について25μmメッシュパス品でも水分量を確認した。これらを比較した湿度測定結果を図2に示す。なお、図2も550~700℃における湿度測定結果を示している。この結果、粒径が4分の1程度になっても結晶化時(550~700℃)に放出される水分量を算出すると137ppmであり、その変動は106μmメッシュパス品の30%以下にとどまっていた。このことから、この測定方法では粒径の違いによる大きな影響はないと認められた。結晶化時の水分の放出開始温度については、25μmメッシュパス品が若干低温側にシフトした(図2)。これは粒径が小さくなることにより結晶化が促進されるため起こると推定している。TG-DTAによる結晶化開始温度の測定結果においても、106μmメッシュパス品のTcは645℃、25μmメッシュパス品のTcは620℃であり、図2で示される550~700℃の温度帯での水分の放出開始温度と良い一致を示した。
また、この25μmメッシュパス品の低温からの湿度測定結果を図3に示す。ここで、100℃をピークとする湿度の増加が確認された。これはガラス材料の中に溶け込んだ水分ではなく、その表面に吸着(化学吸着または物理吸着)した吸着水分であると推定される。ここでの放出水分量(60~150℃において放出される水分量)を算出すると0.45wt%(4500ppm)であり、結晶化の際に放出される水分量より数十倍大きいことが確認できた。一方で、620℃あたりをピークとする湿度の増加は、ガラス材料の中に溶け込んだ水分が結晶化時に結晶中に保持できずに放出されているものであると推定された。
【0071】
【表2】
【0072】
(2)二次電子像観察による外観確認
LAGP系ガラス材料における低温焼結後の密度と結晶化時の水分放出量とは反比例関係であると認められることから、低温焼結後の密度が高まらない原因はガラス材料が結晶化する際の溶け込んだ水分のガス化が原因であると認められる。そして、前述したように、実際に上記水分放出量の抑制により高密度化が実現できている。そこで、外観上の観察によりガス化(水分放出)の確認とその抑制の確認を行った。最も顕著な差のある比較例1と実施例3とについて、それぞれの低温焼結した焼結体ペレットの破断面の二次電子像観察結果を実施した。この観察結果を図4に示す。比較例1においては内径が500nm程度の空孔が散見された。空孔はリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス前駆体の結晶化時に内部に溶け込んでいる水分がガス化することにより発生するものと考えられる。結晶化時にはガラス軟化を経ているため緻密化・密閉しており、そのためにガスの逃げ道が少なくこのような空孔になったものと推定される。一方、実施例3においては、わずかな空孔は見られるが、比較例1に比べると大幅に少なく改善している様子が確認できた。
図1
図2
図3
図4