(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070997
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
H01T 1/22 20060101AFI20240517BHJP
H01T 2/02 20060101ALI20240517BHJP
H01T 4/12 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H01T1/22
H01T2/02 F
H01T4/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181674
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】野村 祐太
(57)【要約】
【課題】 より耐久性に優れ、放電開始電圧等のサージ特性のさらに高い安定性を得ることができるサージ防護素子を提供すること。
【解決手段】 絶縁性管2と、絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材4と、絶縁性部材の両端部に設けられ対向する封止電極の内面と接触した一対のキャップ電極5と、絶縁性部材の表面に電子源材料で形成された放電補助部6とを備え、キャップ電極が、絶縁性部材の端部が嵌合可能な凹部5aを先端部に有し、絶縁性部材の端部が、凹部の基端側に接触し、凹部の先端側の内径が、基端側よりも大きく設定されていると共に、凹部の先端側と絶縁性部材との間に空間部Sが形成され、放電補助部が、凹部内に配されていると共に少なくとも一部が空間部に面している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記絶縁性管内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材と、
前記絶縁性部材の両端部に設けられ対向する前記封止電極の内面と接触した一対のキャップ電極と、
前記絶縁性部材の表面に電子源材料で形成された放電補助部とを備え、
前記キャップ電極が、前記絶縁性部材の端部が嵌合可能な凹部を先端部に有し、
前記絶縁性部材の端部が、前記凹部の基端側に接触し、
前記凹部の先端側の内径が、基端側よりも大きく設定されていると共に、前記凹部の先端側と前記絶縁性部材との間に空間部が形成され、
前記放電補助部が、前記凹部内に配されていると共に少なくとも一部が前記空間部に面していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記放電補助部が、基端側で前記凹部に接触していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記凹部が、基端側に形成され内径が一定の嵌合部と、前記嵌合部より先端側に形成され内径が先端に向けて漸次広くなった拡径部とを有し、
前記絶縁性部材の端部が、前記嵌合部に嵌まっていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記放電補助部が、少なくとも前記空間部の全体に面して周方向に延在した帯状かつ環状に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線と接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT、液晶テレビおよびプラズマテレビ等の画像表示駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1には、絶縁性管と、絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、絶縁性管内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材と、絶縁性部材の両端部に設けられ対向する封止電極の内面と接触した一対のキャップ電極と、絶縁性部材の軸線方向中間部の表面に一対のキャップ電極から離間して配されイオン源材料で形成された放電補助部とを備え、キャップ電極が、絶縁性部材の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部を有し、キャップ外周部の端面における外周縁が、内周縁よりも軸線方向に突出しており、放電補助部が、絶縁性部材の軸線方向中央の周面に線環状に形成されているサージ防護素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
繰り返し放電によって一対のキャップ電極の間にあるカーボントリガ等の放電補助部が放電の熱により損傷・消失し易く、インパルス放電開始電圧(Vimp)や応答電圧が上昇してしまう問題がある。上記特許文献1の技術では、インパルス放電開始電圧等のサージ特性の高い安定性が得られるが、サージ特性のより高い安定性が求められている。例えば、電源から電子機器へ繰り返し侵入するサージに対して、インパルス放電開始電圧等の変化をより抑えることが要望されている。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、より耐久性に優れ、放電開始電圧等のサージ特性のさらに高い安定性を得ることができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記絶縁性管内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材と、前記絶縁性部材の両端部に設けられ対向する前記封止電極の内面と接触した一対のキャップ電極と、 前記絶縁性部材の表面に電子源材料で形成された放電補助部とを備え、前記キャップ電極が、前記絶縁性部材の端部が嵌合可能な凹部を先端部に有し、前記絶縁性部材の端部が、前記凹部の基端側に接触し、前記凹部の先端側の内径が、基端側よりも大きく設定されていると共に、前記凹部の先端側と前記絶縁性部材との間に空間部が形成され、前記放電補助部が、前記凹部内に配されていると共に少なくとも一部が前記空間部に面していることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、放電補助部が、凹部内に配されていると共に少なくとも一部が空間部に面しているので、放電補助部が一対のキャップ電極の間には無く、一対のキャップ電極の間に生じる放電の熱により放電補助部が劣化や消失してしまうことを抑制できる。したがって、放電補助部の耐久性が増すことで、インパルス放電開始電圧(Vimp)の早期上昇を抑えることができる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記放電補助部が、基端側で前記凹部に接触していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、放電補助部が、基端側で凹部に接触しているので、キャップ電極と電気的に接続され、放電補助部の先端に大きな電界が発生することで、放電を容易にトリガさせることが可能になる。また、放電補助部が絶縁性部材上に形成されているため、絶縁性部材の誘電率の影響により容易に放電し易くなる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記凹部が、基端側に形成され内径が一定の嵌合部と、前記嵌合部より先端側に形成され内径が先端に向けて漸次広くなった拡径部とを有し、前記絶縁性部材の端部が、前記嵌合部に嵌まっていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、凹部が、基端側に形成され内径が一定の嵌合部と、嵌合部より先端側に形成され内径が先端に向けて漸次広くなった拡径部とを有し、絶縁性部材の端部が、嵌合部に嵌まっているので、絶縁性部材が嵌合部に嵌まることで、ぐらつかずに位置ズレにし難いと共に、拡径部により空間部を確保することができる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記放電補助部が、少なくとも前記空間部の全体に面して周方向に延在した帯状かつ環状に形成されていることを特徴とす。
すなわち、このサージ防護素子では、放電補助部が、少なくとも空間部の全体に面して周方向に延在した帯状かつ環状に形成されているので、空間部の全体に放電補助部が存在することで、放電開始電圧やサージ応答性の安定性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、放電補助部が、凹部内に配されていると共に少なくとも一部が空間部に面しているので、放電補助部が一対のキャップ電極の間には無く、一対のキャップ電極の間に生じる放電の熱により放電補助部が劣化や消失してしまうことを抑制できる。
したがって、本発明に係るサージ防護素子では、より耐久性に優れ、電源から浸入するサージに対しても、インパルス放電開始電圧(Vimp)等のサージ特性のさらに高い安定性を得ることができ、高い信頼性を有すると共に精度の高い放電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子の一実施形態において、サージ防護素子の一部を破断した正面図である。
【
図2】本実施形態において、サージ防護素子の要部を拡大した正面図である。
【
図3】本発明に係るサージ防護素子の従来例において、サージ印加回数に対するインパルス放電開始電圧(Vimp)を示すグラフである。
【
図4】本発明に係るサージ防護素子の実施例において、サージ印加回数に対するインパルス放電開始電圧(Vimp)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサージ防護素子の一実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1及び
図2に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管2内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材4と、絶縁性部材4の両端部に設けられ対向する封止電極3の内面と接触した一対のキャップ電極5と、絶縁性部材4の表面に電子源材料で形成された放電補助部6とを備えている。
なお、
図1は、絶縁性管2及び封止電極3を破断した状態のサージ防護素子1を示す正面図である。
【0016】
上記キャップ電極5は、絶縁性部材4の端部が嵌合可能な凹部5aを先端部に有している。
すなわち、凹部5aは、絶縁性部材4の端部側の外周面を覆っている。
なお、キャップ電極5の基端部は、封止電極3に接触している側であり、一対のキャップ電極5の先端部は、互いに対向配置されている。
【0017】
上記絶縁性部材4の端部は、凹部5aの基端側に接触している。
なお、凹部5aの基端側は、凹部5aの底部側であり、凹部5aの先端側は、キャップ電極5の先端側である。
上記凹部5aの先端側の内径は、基端側よりも大きく設定されていると共に、凹部5aの先端側と絶縁性部材4との間に空間部Sが形成されている。
上記放電補助部6は、凹部5a内に配されていると共に少なくとも一部が空間部Sに面している。
【0018】
上記放電補助部6は、基端側(絶縁性部材4の端部側)で凹部5aに接触している。
なお、放電補助部6は、絶縁性部材4の両端部の外周面にそれぞれ形成されている。
上記凹部5aは、基端側に形成され内径が一定の嵌合部5bと、嵌合部5bより先端側に形成され内径が先端に向けて漸次広くなった拡径部5cとを有している。
また、絶縁性部材4の端部は、嵌合部5bに嵌まっている。
【0019】
放電補助部6は、少なくとも空間部Sの全体に面して周方向に延在した帯状かつ環状に形成されている。
この放電補助部6は、導電性材料であって、例えば炭素材で形成されている。すなわち、放電補助部6は、インパルス電圧に対して応答性を確保するための初期電子放出機構として機能する電子源である。
【0020】
上記絶縁性管2は、例えばガラス又はアルミナなどの結晶性セラミックス材等で円筒状に形成されている。
上記絶縁性部材4は、例えばアルミナなどの結晶性セラミックス材で円柱状に形成されている碍子である。
上記封止電極3は、例えば42アロイ(Fe:58wt%、Ni:42wt%)やCu等で構成されている。
【0021】
なお、封止電極3の外面には、リード線3aが突出して接続されている。
上記封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材(図示略)により加熱処理によって密着状態に固定されている。
上記キャップ電極5は、絶縁性部材4の端部が凹部5aに嵌め込み・圧入可能なキャップ型であり、ステンレス鋼等の金属で形成されている。
【0022】
上記導電性融着材は、例えばAgを含むろう材としてAg-Cuろう材で形成されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF6,CO2,C3F8,C2F6,CF4,H2,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
【0023】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、放電補助部6が、凹部5a内に配されていると共に少なくとも一部が空間部Sに面しているので、放電補助部6が一対のキャップ電極5の間には無く、一対のキャップ電極5の間に生じる放電の熱により放電補助部6が劣化や消失してしまうことを抑制できる。したがって、放電補助部6の耐久性が増すことで、インパルス放電開始電圧(Vimp)の早期上昇を抑えることができる。
【0024】
また、放電補助部6が、基端側で凹部5aに接触しているので、キャップ電極5と電気的に接続され、放電補助部6の先端に大きな電界が発生することで、放電を容易にトリガさせることが可能になる。また、放電補助部6が絶縁性部材4上に形成されているため、絶縁性部材4の誘電率の影響により容易に放電し易くなる。
【0025】
また、凹部5aが、基端側に形成され内径が一定の嵌合部5bと、嵌合部5bより先端側に形成され内径が先端に向けて漸次広くなった拡径部5cとを有し、絶縁性部材4の端部が、嵌合部5bに嵌まっているので、絶縁性部材4が嵌合部5bに嵌まることで、ぐらつかずに位置ズレにし難いと共に、拡径部5cにより空間部Sを確保することができる。
さらに、放電補助部6が、少なくとも空間部Sの全体に面して周方向に延在した帯状かつ環状に形成されているので、空間部Sの全体に放電補助部6が存在することで、放電開始電圧やサージ応答性の安定性が向上する。
【実施例0026】
次に、上記本実施形態に基づいて実際に作製したサージ防護素子の実施例について、サージ印加試験を行って評価した結果を具体的に説明する。
上記印加試験のサージ条件として、6kV/3kAコンビネーションサージを繰り返し印加した際のインパルス放電開始電圧Vimpを測定した。インパルス放電開始電圧Vimpは、6kV/3kAのインパルス電圧を印加し、放電を開始した電圧を求めたものである。
【0027】
なお、比較例として、特許文献1と同様に、内径が一定の凹部を有したキャップ電極と、絶縁性部材の軸線方向の中央に形成された円環状の放電補助部とを備えたサージ防護素子も作製し、同様に印加試験を行った。
上記比較例におけるサージ印加回数とインパルス放電開始電圧Vimpとの関係を示すグラフを、
図3に示すと共に、本発明の上記実施例におけるサージ印加回数とインパルス放電開始電圧Vimpとの関係を示すグラフを、
図4に示す。
【0028】
これらの評価結果から分かるように、上記比較例では、サージ印加回数が10回に達する前にインパルス放電開始電圧Vimpが大きく増加しているのに対し、本発明の実施例では、サージ印加回数が10回程度では、あまりインパルス放電開始電圧Vimpが増えていない。さらに、比較例では、サージ印加回数が10回ではサージ防護素子として機能しなくなっているのに対し、本発明の実施例では、サージ印加回数が40回になってもサージ防護素子として機能している。
このように本発明の実施例では、比較例に対して高いサージ耐量を有している。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。