(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007103
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】解析装置、および解析方法
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20240111BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240111BHJP
A63B 71/06 20060101ALI20240111BHJP
A63B 43/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
A63B69/00 505L
A61B5/11 230
A63B69/00 504D
A63B69/00 504K
A63B71/06 T
A63B43/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108323
(22)【出願日】2022-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月21日 ウェブサイト「https://shd2021.jsme-shd.org/」を通じて公開 令和3年11月13日 オンライン開催された「日本機械学会シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2021」にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505425328
【氏名又は名称】国立大学法人鹿屋体育大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】島名 孝次
(72)【発明者】
【氏名】角 淳之介
(72)【発明者】
【氏名】前田 明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雅文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智晴
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 雅洋
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB11
4C038VB12
4C038VB13
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】ボールの球質を制御するためのフィードバック情報を提示することが可能な解析装置を提供する。
【解決手段】解析装置は、投球動作時における被験者の身体部位の位置情報を取得する位置情報取得部と、被験者が投げるボールに関するパラメータと、被験者の複数のセグメントに関するパラメータとを取得するパラメータ取得部と、投球動作時における被験者の複数の関節の角度を算出する角度算出部と、投球動作時において各セグメントの関節に作用するトルクを算出するトルク算出部と、時系列の各関節の角度と、時系列の各トルクとに基づいて、投球動作時における被験者の関節間の協調パターンを算出するパターン算出部と、算出された協調パターンと、ボールの球質と関連付けられた1以上の基準パターンとの類似度に基づいて、被験者の投球動作に対するフィードバック情報を出力する出力制御部とを備える。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投球動作時における被験者の身体部位の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記被験者が投げるボールに関するパラメータと、前記被験者の複数のセグメントに関するパラメータとを取得するパラメータ取得部と、
前記身体部位の位置情報に基づいて、投球動作時における前記被験者の複数の関節の角度を算出する角度算出部と、
前記被験者が投げるボールおよび前記被験者の手指に関する運動方程式と、前記身体部位の位置情報と、前記被験者が投げるボールに関するパラメータと、前記複数のセグメントに関するパラメータとに基づいて、投球動作時において各前記セグメントの関節に作用するトルクを算出するトルク算出部と、
時系列の各前記関節の角度と、時系列の各前記トルクとに基づいて、投球動作時における前記被験者の関節間の協調パターンを算出するパターン算出部と、
算出された前記協調パターンと、ボールの球質と関連付けられた1以上の基準パターンとの類似度に基づいて、前記被験者の投球動作に対するフィードバック情報を出力する出力制御部とを備える、解析装置。
【請求項2】
前記パターン算出部は、
時系列の各前記関節の角度と時系列の各前記トルクとを含む観測行列に対して、特異値分解を施すことにより左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出し、
前記左特異ベクトルを列方向に並べた行列を示す時間パターンと、前記右特異ベクトルを列方向に並べた行列を示す空間パターンとを、前記協調パターンとして算出する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
算出された前記協調パターンと、前記1以上の基準パターンの各々との類似度を算出する類似度算出部をさらに備え、
前記1以上の基準パターンの各々は、ボールの球質と相関性を有する投球動作タイプと関連付けられており、
前記出力制御部は、算出された各前記類似度のうち最も高い類似度に対応する基準パターンに関連付けられた投球動作タイプを、前記フィードバック情報として出力する、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記出力制御部は、算出された前記協調パターンをさらに出力する、請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記出力制御部は、算出された前記協調パターンに基づいて、最も貢献が大きい関節を示す情報をさらに出力する、請求項3に記載の解析装置。
【請求項6】
前記類似度算出部は、
前記被験者および他の被験者を含む複数の被験者の各々について、当該被験者の前記協調パターンと当該被験者とは別の被験者の前記協調パターンとの類似度をさらに算出し、
算出された各前記類似度に基づいて、前記複数の被験者を複数のグループに分類する、請求項3に記載の解析装置。
【請求項7】
前記出力制御部は、前記複数の被験者の各々が属するグループを示す情報を出力する、請求項6に記載の解析装置。
【請求項8】
前記被験者が投げるボールに関するパラメータは、前記ボールの質量と、前記ボールの加速度とを含み、
前記複数のセグメントに関するパラメータは、各前記セグメントの質量、加速度、角速度、角加速度および慣性モーメントと、各前記セグメントの近位の関節から遠位の関節までのベクトルと、各前記セグメントの近位の関節から当該セグメントの質量中心位置までのベクトルと、前記被験者の手指セグメントの質量中心位置からボールおよび手指の作用点までのベクトルとを含む、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項9】
前記複数のセグメントは、上腕セグメント、前腕セグメント、手掌セグメント、および手指セグメントを含み、
前記上腕セグメント、前記前腕セグメント、前記手掌セグメント、および前記手指セグメントの関節は、それぞれ、肩関節、肘関節、手関節およびMP(Metacarpophalangeal)関節である、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項10】
投球動作時における被験者の身体部位の位置情報を取得するステップと、
前記被験者が投げるボールに関するパラメータと、前記被験者の複数のセグメントに関するパラメータとを取得するステップと、
前記身体部位の位置情報に基づいて、投球動作時における前記被験者の複数の関節の角度を算出するステップと、
前記被験者が投げるボールおよび前記被験者の手指に関する運動方程式と、前記身体部位の位置情報と、前記被験者が投げるボールに関するパラメータと、前記複数のセグメントに関するパラメータとに基づいて、投球動作時において各前記セグメントの関節に作用するトルクを算出するステップと、
時系列の各前記関節の角度と、時系列の各前記トルクとに基づいて、投球動作時における前記被験者の関節間の協調パターンを算出するステップと、
算出された前記協調パターンと、ボールの球質と関連付けられた1以上の基準パターンとの類似度に基づいて、前記被験者の投球動作に対するフィードバック情報を出力するステップとを含む、解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置、および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運動に伴う莫大な情報を簡略化する機構として、筋シナジーの存在が提唱されている。筋シナジーとは、類似した機能を持つ筋の運動情報をとりまとめることで、中枢神経系と各筋の間に介在させ、中枢神経系の取り扱う冗長自由度を簡略化することができる仕組みと考えられている。これに対して、主成分分析、非負値行列因子分解、特異値分解等の数学的手法により筋シナジーあるいは動力学シナジーと呼ばれる関節間協調パターンを抽出する試みがなされている。例えば、非特許文献1では、特異値分解によって、関節間協調パターン分析が進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】林祐一郎,辻内伸好,中村匠汰,牧野裕太,浅野真由,松田靖史,土屋陽太郎,関節モーメント・角度を含めた下肢関節回転運動の定量的な解析手法の提案、日本機械学会論文集,Vol.82,No.834(2016),pp.1-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
数理的に抽出されたシナジーは、脊髄介在ニューロンの活動と関連していることが脊髄動物モデルにより示されており、脊髄神経回路を間接的に調べることが可能と考えられている。一方、高速で末端部を加速させるような投球動作では、投手の中枢神経系がどのようにボールの球質(例えば、回転数、球速)を制御しているのかは明らかになっていない。そのため、ボールの球質は、投手が打者を打ち取る上で有効なパラメータであるが、球質を変化させる(例えば、回転数を上げるまたは下げる)には、どのように身体の制御を行なうべきか具体的な改善方法が不明であるという課題があった。
【0005】
本開示のある局面における目的は、被験者の投球動作を解析することによって、ボールの球質を制御するためのフィードバック情報を提示することが可能な解析装置、および解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある実施の形態に従う解析装置は、投球動作時における被験者の身体部位の位置情報を取得する位置情報取得部と、被験者が投げるボールに関するパラメータと、被験者の複数のセグメントに関するパラメータとを取得するパラメータ取得部と、身体部位の位置情報に基づいて、投球動作時における被験者の複数の関節の角度を算出する角度算出部と、被験者が投げるボールおよび被験者の手指に関する運動方程式と、身体部位の位置情報と、被験者が投げるボールに関するパラメータと、複数のセグメントに関するパラメータとに基づいて、投球動作時において各セグメントの関節に作用するトルクを算出するトルク算出部と、時系列の各関節の角度と、時系列の各トルクとに基づいて、投球動作時における被験者の関節間の協調パターンを算出するパターン算出部と、算出された協調パターンと、ボールの球質と関連付けられた1以上の基準パターンとの類似度に基づいて、被験者の投球動作に対するフィードバック情報を出力する出力制御部とを備える。
【0007】
好ましくは、パターン算出部は、時系列の各関節の角度と時系列の各トルクとを含む観測行列に対して、特異値分解を施すことにより左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出し、左特異ベクトルを列方向に並べた行列を示す時間パターンと、右特異ベクトルを列方向に並べた行列を示す空間パターンとを、協調パターンとして算出する。
【0008】
好ましくは、解析装置は、算出された協調パターンと、1以上の基準パターンの各々との類似度を算出する類似度算出部をさらに備える。1以上の基準パターンの各々は、ボールの球質と相関性を有する投球動作タイプと関連付けられている。出力制御部は、算出された各類似度のうち最も高い類似度に対応する基準パターンに関連付けられた投球動作タイプを、フィードバック情報として出力する。
【0009】
好ましくは、出力制御部は、算出された協調パターンをさらに出力する。
好ましくは、出力制御部は、算出された協調パターンに基づいて、最も貢献が大きい関節を示す情報をさらに出力する。
【0010】
好ましくは、類似度算出部は、被験者および他の被験者を含む複数の被験者の各々について、当該被験者の協調パターンと当該被験者とは別の被験者の協調パターンとの類似度をさらに算出し、算出された各類似度に基づいて、複数の被験者を複数のグループに分類する。
【0011】
好ましくは、出力制御部は、複数の被験者の各々が属するグループを示す情報を出力する。
【0012】
好ましくは、被験者が投げるボールに関するパラメータは、ボールの質量と、ボールの加速度とを含む。複数のセグメントに関するパラメータは、各セグメントの質量、加速度、角速度、角加速度および慣性モーメントと、各セグメントの近位の関節から遠位の関節までのベクトルと、各セグメントの近位の関節から当該セグメントの質量中心位置までのベクトルと、被験者の手指セグメントの質量中心位置からボールおよび手指の作用点までのベクトルとを含む。
【0013】
好ましくは、複数のセグメントは、上腕セグメント、前腕セグメント、手掌セグメント、および手指セグメントを含む。上腕セグメント、前腕セグメント、手掌セグメント、および手指セグメントの関節は、それぞれ、肩関節、肘関節、手関節およびMP(Metacarpophalangeal)関節である。
【0014】
他の実施の形態に従う解析方法は、投球動作時における被験者の身体部位の位置情報を取得するステップと、被験者が投げるボールに関するパラメータと、被験者の複数のセグメントに関するパラメータとを取得するステップと、身体部位の位置情報に基づいて、投球動作時における被験者の複数の関節の角度を算出するステップと、被験者が投げるボールおよび被験者の手指に関する運動方程式と、身体部位の位置情報と、被験者が投げるボールに関するパラメータと、複数のセグメントに関するパラメータとに基づいて、投球動作時において各セグメントの関節に作用するトルクを算出するステップと、時系列の各関節の角度と、時系列の各トルクとに基づいて、投球動作時における被験者の関節間の協調パターンを算出するステップと、算出された協調パターンと、ボールの球質と関連付けられた1以上の基準パターンとの類似度に基づいて、被験者の投球動作に対するフィードバック情報を出力するステップとを含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示によると、被験者の投球動作を解析することによって、ボールの球質を制御するためのフィードバック情報を提示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】解析システムの全体構成を説明するための図である。
【
図2】解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】センサ機器のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】本実施の形態に従う剛体モデルを説明するための図である。
【
図5】解析システムの動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】MP関節の関節角度および関節トルクを示している。
【
図7】手関節の関節角度および関節トルクを示している。
【
図8】肘関節の関節角度および関節トルクを示している。
【
図9】肩関節の関節角度および関節トルクを示している。
【
図11】第1グループにおける投球動作タイプおよび関節間協調パターンを示す図である。
【
図12】第2グループにおける投球動作タイプおよび関節間協調パターンを示す図である。
【
図13】第3グループにおける投球動作タイプおよび関節間協調パターンを示す図である。
【
図14】各被験者のSPVと投球動作タイプとの関係を示す図である。
【
図15】各被験者の相対的な関係性を示す図である。
【
図16】解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図17】各被験者の球速と投球動作タイプとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0018】
<全体構成>
図1は、解析システム1000の全体構成を説明するための図である。
図1を参照して、解析システム1000は、被験者5の投球動作における関節間協調を解析するためのシステムである。本実施の形態では、被験者5は、センサ機器20が内蔵されたボール2を投げるものとする。ただし、ボール2は、センサ機器が内蔵されていない一般的な野球用のボールであってもよい。
【0019】
解析システム1000は、解析装置10と、センサ機器20が内蔵されたボール2と、複数のカメラ30とを含む。本実施の形態では、光学式のモーションキャプチャシステムを用いて被験者5およびボール2の3次元位置(例えば、3次元座標)が取得される。被験者5の身体およびボール2には反射マーカが取り付けられており、複数のカメラ30および解析装置10で構成される光学式3次元動作解析システムを使用して反射マーカの画像信号の3次元座標が取得される。カメラ30は、例えば、赤外線カメラで構成される。反射マーカは、例えば、ボール2の表面、被験者5の手指、手背部、前腕、上腕、体幹等に取り付けられる。
【0020】
なお、被験者5およびボール2の3次元位置が取得されるシステム構成であれば上記構成に限られない。例えば、カメラ付きの解析装置10を用いてモーションキャプチャシステムを構成してもよい。あるいは、慣性センサ式、機械式、磁気式、ビデオ式等の他の方式によるモーションキャプチャシステムを採用してもよい。
【0021】
解析装置10は、ラップトップPC(Personal Computer)で構成される。ただし、解析装置10は、種類を問わず任意の装置として実現できる。例えば、解析装置10は、スマートフォン、タブレット端末、デスクトップPC等であってもよい。
【0022】
解析装置10は、無線通信方式によりセンサ機器20と通信する。例えば、無線通信方式としては、BLE(Bluetooth(登録商標) low energy)が採用される。ただし、解析装置10は、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(local area network)等のその他の無線通信方式を採用してもよい。また、解析装置10は、有線通信方式によりカメラ30と接続されるが、無線通信方式によってカメラ30と接続される構成であってもよい。
【0023】
センサ機器20は、センサ座標系(すなわち、ローカル座標系)における加速度、角速度および地磁気を検出する。具体的には、センサ機器20は、加速度センサと、角速度センサと、地磁気センサとを含む。加速度センサは、互いに直交する3つの軸(x軸,y軸,z軸)方向の加速度を検出する。角速度センサは、3軸(x軸,y軸,z軸)まわりの角速度を検出する。地磁気センサは、3軸(x軸,y軸,z軸)方向の磁場(磁束密度)を示す地磁気データを検出する。
【0024】
解析装置10は、加速度センサ、角速度センサ、および地磁気センサにより取得された時系列データを受信する。例えば、解析装置10は、公知のボール解析アプリケーションプログラムを用いて、3軸方向の加速度および3軸方向の地磁気データを解析することにより、ボール2の速度および回転数を算出する。「回転数」は、リリース直後のボール2の単位時間当たりの回転数である。
【0025】
解析装置10は、カメラ30により得られた被験者5の3次元位置情報を解析することによって、投球動作時における被験者5の関節間の協調パターンを特定し、投球動作に対するフィードバック情報を出力する。
【0026】
<ハードウェア構成>
(解析装置10)
図2は、解析装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2を参照して、解析装置10は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ104と、入力装置106と、ディスプレイ108と、入出力インターフェイス(I/F)110と、通信インターフェイス(I/F)112とを含む。これらの各部は、互いにバスに接続される。
【0027】
CPU102は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、解析装置10の各部の動作を制御する。より詳細には、CPU102は、当該プログラムを実行することによって、後述する解析装置10の処理を実現する。
【0028】
メモリ104は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、ハードディスクなどによって実現される。メモリ104は、CPU102によって実行されるプログラム、またはCPU102によって用いられるデータなどを記憶する。
【0029】
入力装置106は、解析装置10に対する操作入力を受け付ける。入力装置106は、例えば、キーボード、ボタン、マウスなどによって実現される。また、入力装置106は、タッチパネルとして実現されていてもよい。
【0030】
ディスプレイ108は、CPU102からの信号に基づいて、表示画面に画像、テキスト、その他の情報を表示する。
【0031】
入出力インターフェイス110は、カメラ30との間で信号を通信する。典型的には、入出力インターフェイス110は、USB(Universal Serial Bus)等の有線通信方式を用いてカメラ30と通信する。
【0032】
通信インターフェイス(I/F)112は、解析装置10とセンサ機器20との間で各種データをやり取りするごとが可能である。なお、通信方式としては、例えば、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(Local Area Network)などによる無線通信方式が用いられる。通信方式として、USB等を利用した有線通信方式を用いてもよい。
【0033】
(センサ機器20)
図3は、センサ機器20のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3を参照して、センサ機器20は、主たる構成要素として、各種処理を実行するためのCPU202と、CPU202によって実行されるプログラム、データなどを格納するためのメモリ204と、加速度センサ205と、角速度センサ206と、地磁気センサ208と、解析装置10と通信するための通信インターフェイス(I/F)210と、センサ機器20の各種構成要素に電力を供給する蓄電池212とを含む。
【0034】
<剛体モデル>
図4は、本実施の形態に従う剛体モデルを説明するための図である。
図4を参照して、本実施の形態では、投球動作中の手指トルクを算出するために、手指セグメント(示指、中指および環指)および手掌セグメントを2つの剛体とみなす2セグメントモデルが採用される。手指部は、中指の中手指節間関節(MP関節:Metacarpophalangeal joint)から指先までを1リンクとして定義される。また、実際の投球動作ではボールリリース直前にボールは手指を転がりながら移動する。そこで、手指およびボール間で作用する力の作用点の移動が考慮されている。
【0035】
手指セグメントは指先とMP関節とを結んだ線分で定義され、手掌セグメントはMP関節と手関節とを結んだ線分で定義される。なお、同様に、前腕セグメントは、手関節と肘関節(不図示)とを結んだ線分で定義され、上腕セグメント(不図示)は肘関節と肩関節(不図示)とを結んだ線分で定義される。手掌、手指、前腕および上腕の各々の質量、質量中心位置、慣性モーメントおよび回転半経比は、被験者5の体重および身長等から公知の手法を用いて推定される。ボールの中心位置は、例えば、ボールに取り付けられた複数のマーカの座標から推定される。
【0036】
<動作例>
図5は、解析システム1000の動作例を説明するためのフローチャートである。典型的には、
図5に示す各ステップは、解析装置10のCPU102により実現される。
【0037】
解析装置10は、投球動作を行なう被験者5の各身体部位(例えば、手指、手背部、前腕、上腕、体幹等)の3次元位置情報(例えば、3次元位置座標)の時系列データを取得する(ステップS10)。例えば、解析装置10は、各カメラ30で取得された各反射マーカの二次元位置情報と、各カメラ30の位置関係の情報とを組み合わせることによって、被験者5の各部位に取り付けられた反射マーカの3次元位置情報を取得(算出)する。
【0038】
解析装置10は、被験者5の各セグメント(例えば、手指セグメント、手掌セグメント、前腕セグメント、上腕セグメント)に関するパラメータを取得する(ステップS12)。セグメントに関するパラメータは、セグメントの質量、加速度、角速度、慣性モーメントを含む。典型的には、各セグメントの質量および慣性モーメントは、被験者5の体重および身長等から推定される。各セグメントの加速度および角速度は、時系列の3次元位置情報に基づいて算出される。
【0039】
解析装置10は、取得した時系列の3次元位置情報を用いて、被験者5の複数の関節角度を時系列で算出する(ステップS14)。複数の関節角度は、MP関節角度、手関節角度、肘関節角度、および肩関節角度を含む。
【0040】
解析装置10は、所定の運動方程式と、3次元位置情報と、各セグメントに関するパラメータとに基づいて、投球動作時において各セグメントの近位の関節に作用する関節トルクを算出する(ステップS16)。関節トルクの算出方式の詳細については後述する。
【0041】
解析装置10は、時系列の関節角度と、時系列の各関節トルクとに基づいて、投球動作時における被験者5の関節間協調パターンを算出する(ステップS18)。関節間協調パターンの算出方式の詳細については後述する。
【0042】
解析装置10は、算出された関節間協調パターンと、ボール回転数と関連付けられた1以上の基準パターンの各々との類似度を算出する(ステップS20)。類似度の算出方式の詳細については後述する。
【0043】
解析装置10は、算出された各類似度に基づいて、被験者5の投球動作タイプを特定する(ステップS22)。具体的には、解析装置10は、各類似度のうち最も高い類似度に対応する基準パターンに関連付けられた投球動作タイプを、被験者5の投球動作タイプとして特定する。
【0044】
解析装置10は、被検査は5の投球動作に対するフィードバック情報を表示する(ステップS24)。具体的には、解析装置10は、特定された投球動作タイプを、上記フィードバック情報としてディスプレイ108に表示する。
【0045】
<関節トルクの算出方式>
図5のステップS16における関節トルクの算出方式について説明する。
【0046】
解析装置10は、逆動力演算により、手指のMP関節トルク、手関節トルク、肘関節トルク、および肩関節トルクを算出する。
【0047】
ボール2と被験者5の手指とに関する運動方程式より以下の式(1)~(3)が成立する。
【0048】
【0049】
これらの方程式により、以下の式(4)、式(5)、式(6)および式(7)が得られ、MP関節トルクT3、手関節トルクT2、肘関節トルクT1、および肩関節トルクT0が算出される。
【0050】
【0051】
上記の式(1)~(7)における添え字はセグメントとその近位の関節が同じ番号になるように番号付けされている。セグメントに関しては、i=0,1,2,3は、それぞれ上腕セグメント、前腕セグメント、手掌セグメント、手指セグメントに対応している。関節に関しては、i=0,1,2,3は、それぞれ肩関節、肘関節、手関節、MP関節に対応している。すなわち、上腕セグメント、前腕セグメント、手掌セグメント、および手指セグメントの近位の関節は、それぞれ肩関節、肘関節、手関節、およびMP関節である。
【0052】
Iiはセグメントの慣性テンソルを示す。例えば、I3は、手指セグメントの慣性テンソルを示す。
【0053】
agiは、セグメントの質量中心位置における加速度ベクトルを示す。例えば、ag3は、手指セグメントの質量中心位置における加速度ベクトルを示す。aballはボール中心の加速度ベクトルを示す。ωiおよびωi・はそれぞれセグメントの角速度および角加速度を示している。例えば、ω3およびω3・は、それぞれ手指セグメントの角速度および角加速度を示す。なお、「ω・」はωの文字の上に点を付した文字を意味する。なお、セグメントの角速度および角加速度は、それぞれ、当該セグメントの近位の関節の関節角度の1回微分および2回微分によって算出される。例えば、手指セグメントの角速度および角加速度は、MP関節の関節角度の1回微分および2回微分によって算出される。
【0054】
Lgiは、近位の関節からセグメントの質量中心位置までのベクトルを示している。例えば、Lg3は、MP関節から手指セグメントの質量中心位置までのベクトルを示す。Liは、近位の関節から遠位の関節までのベクトルを示す。例えば、L3は、MP関節から手関節までのベクトルを示す。lは、手指セグメントの質量中心位置からボールおよび手指の作用点までのベクトルを示す。
【0055】
Fballは、ボールに作用する力を示す。F3は、手指に作用する力を示す。mballは、ボールの質量を示す。miは、セグメントの質量を示す。例えば、m3は、手指セグメントの質量を示す。Tiは、関節に作用するトルクを示す。例えば、T3は、MP関節に作用するMP関節トルクを示す。
【0056】
なお、Iiは、セグメントの慣性モーメントから求められる。agi、aball、ωiおよびωi・は、時系列の3次元位置情報から算出される。Lgi、Li、lは、3次元位置情報および公知の質量中心比から算出される。Fballは、静止座標系におけるボールの加速度から算出される。
【0057】
<関節間協調パターンの算出方式>
図5のステップS18における関節間協調パターンの算出方式、およびステップS20に対応する類似度の算出方式について説明する。
【0058】
ヒトの投球動作における上肢の関節間協調動作を定量的に評価するため、関節角度と、関節トルクとを含めて特異値分解を行なう評価手法を投球データに適用する。関節トルクは、上肢関節回転運動に大きく寄与すると考えられる動力学としての代表的な物理量である。
【0059】
MP関節角度、手関節角度、肘関節角度、肩関節角度、MP関節トルク、手関節トルク、肘関節トルク、肩関節トルクを順番に並べた時系列データパターンを用いると、時刻tに対して関節角度θ-j(ti)および関節トルクM-j(ti)は、式(8)に示す行列で表わされる。ただし、i=1,…,m、j=1,…,pである。m,pはデータ数である。本実施の形態では、pは4である。なお、「θ-」はθの文字の上に線を引いた文字を意味する。「M-」、「R-」についても同様である。
【0060】
【0061】
式(8)に示す行列を観測行列と定義する。観測行列は、行方向が各関節角度および各関節トルクを表わし、列方向が時系列方向を表わす。次に、観測行列に対して特異値分解を施す。特異値分解を用いて関節角度と関節トルクを互いに直交する基底ベクトルで展開すると、観測行列は式(9)で表わされる。
【0062】
【0063】
ここで、特異値λjは、特異値の大きい順にモードMd1、モードMd2とした各正規直交基底ベクトルの寄与度に相当する。また、vj(t)は、各基底の活動パターンを示し、zj
T(θ-,M-)は、各基底における物理量の協調パターンを示す。本実施の形態では、vj(t)を時間パターンとも称し、zj
T(θ-,M-)を空間パターンとも称する。本実施の形態では、関節間協調パターンは、時間パターンおよび空間パターンを含む。
【0064】
観測されたすべてのモードに対するj番目の特異値λjが有する寄与率γjは式(10)で表わされる。
【0065】
【0066】
例えば、累積寄与率が90%を超えた最小のjがモードの数として定義される。
被験者5の関節間協調パターンと、他の関節間協調パターンとの類似度は、コサイン類似度を用いて算出される。例えば、空間パターンベクトルをza、空間パターンベクトルをzbとすると、これらの空間パターン間における類似度sabは式(11)によって算出される。
【0067】
【0068】
なお、時間パターン間における類似度は、式(11)において、空間パターンベクトルzaを時間パターンベクトルvaに置き換え、空間パターンベクトルzbを時間パターンベクトルvbに置き換えたものに相当する。
【0069】
<実施例>
(関節角度、関節トルク)
ここでは、7人の被験者の各々の関節角度および関節トルクを算出し、これらの時系列データの観測行列に対して特異値分解を行ない、時間パターンおよび空間パターンをそれぞれ算出した結果について説明する。
【0070】
図6~
図9は、7人の被験者の関節角度および関節トルクの平均データを示している。具体的には、
図6は、MP関節の関節角度および関節トルクを示している。
図7は、手関節の関節角度および関節トルクを示している。
図8は、肘関節の関節角度および関節トルクを示している。
図9は、肩関節の関節角度および関節トルクを示している。各図において、踏み出し脚接地時(ボールのリリース時点の約110ms前)からリリース時点までにおける関節角度および関節トルクの時間変化が示されている。ボールリリースの瞬間は、ボール中心と指先のマーカとの距離が、ボールの半径、指先のマーカの半径、および手指の厚さの合計値を超えた瞬間と定義される。
【0071】
図6および
図7に示すMP関節ならびに手関節の動作、およびMP関節ならびに手関節トルクの変化は先行研究と類似する結果であった。また、MP関節屈曲トルクおよび手関節掌屈トルクの最大値は、それぞれ14.1±4.1N・m、27.5±9.5N・mであり、MP関節屈曲トルクが約15N・m前後、手関節掌屈トルクが約20N・m前後であるという先行研究と類似する結果であった。
【0072】
図8を参照して、肘関節では屈曲から伸展、回外から回内がなされ、回外トルクからリリースにかけて回内トルクが発揮された。これらは先行研究と類似する結果であった。
【0073】
図9に示す肩関節の動作および肩関節トルク変化は先行研究と類似する結果であった。また、肩関節外転トルクおよび水平内転トルクの最大値は、それぞれ58.9±21.7N・m、57.4±55.6N・mであり、それぞれ約50N・m前後であると報告している先行研究と類似する結果であった。
【0074】
なお、肘関節トルクは屈曲トルクから、リリースにかけて伸展トルクへ移行した。これらは伸展トルクからリリースにかけて屈曲トルクを発揮する先行研究の結果と異なっていた。これは、先行研究では、本実施の形態のモデルと異なり、手掌、手指、およびボールを1つのセグメントとしたモデルを用いているためであると考えられる。
【0075】
上記の全体的な類似性は、今回得られた関節角度および関節トルクの妥当性を支持する結果であると考えられる。
【0076】
(モード数)
7人の被験者毎に、特異値から各正規直交基底ベクトルの寄与率を式(10)から算出し、その平均値と標準偏差を求めた。
【0077】
図10は、各モードの寄与率を示すグラフである。
図10を参照して、各モードの寄与率は、各モードの全体の運動に対する割合を示している。そのため、モードにおける空間パターンによって、全体の運動をその割合分表現することができる。平均モードの数は1.6±0.5個であった。したがって、特に主要な特徴を表すモードMd1に着目し、以下の分析が行なわれた。
【0078】
(投球動作タイプと関節間協調パターンとの関係)
各被験者の関節角度および関節トルクについて時系列データの観測行列に対して特異値分解を行ない、時間パターンと空間パターンをそれぞれ算出した。各被験者のモードMd1に着目し、被験者間での類似性をコサイン類似度を用いて評価した。本実施例では、コサイン類似度の絶対値が0.5以上の被験者間を同一グループとみなした。被験者が複数のグループに分類された場合には、よりグループ内の平均類似度が高いグループを当該被験者の所属グループとした。その結果、7人の被験者を3つのグループに分類することができた。
【0079】
図11~
図13は、それぞれ3つのグループにおける投球動作タイプと、関節間協調パターン(空間パターンおよび時間パターン)との関係を示す図である。具体的には、
図11は、第1グループにおける投球動作タイプおよび関節間協調パターンを示す図である。
図12は、第2グループにおける投球動作タイプおよび関節間協調パターンを示す図である。
図13は、第3グループにおける投球動作タイプおよび関節間協調パターンを示す図である。
【0080】
図11を参照して、被験者A,Bの2名が分類された第1グループにおいて、空間パターンに着目すると、肩関節内旋トルクの貢献が大きいことが理解される。そのため、第1グループの投球動作タイプを“肩内旋トルクタイプ”とも称する。
【0081】
図12を参照して、被験者C,Dの2名が分類された第2グループにおいて、空間パターンに着目すると、肘関節伸展トルクの貢献が大きいことが理解される。そのため、第2グループの投球動作タイプを“肘伸展トルクタイプ”とも称する。
【0082】
図13を参照して、被験者E,F,Gの3名が分類された第2グループにおいて、空間パターンに着目すると、肩関節水平内転トルクの貢献が大きいことが理解される。そのため、第3グループの投球動作タイプを“肩水平内転トルクタイプ”とも称する。
【0083】
さらに、第1~第3グループの投球動作タイプと各被験者のSPV(spin per velocity)との関係に着目した結果を
図14に示す。SPVは、ボール回転数をボール速度で除した値を示す。ボール回転数およびボール速度は、ボール2のセンサ機器20で取得された加速度データおよび地磁気データから算出される。
【0084】
図14は、各被験者のSPVと投球動作タイプとの関係を示す図である。
図14を参照すると、第1グループに属する肩内旋トルクタイプの被験者Aが全被験者7名の中で最もSPVが高い投手であり、当該タイプの被験者Bが2番目にSPVが高い投手であることがわかる。また、第2グループに属する肘伸展トルクタイプの被験者Cが3番目にSPVが高い投手であり、当該タイプの被験者Dが4番目にSPVが高い投手であることがわかる。さらに、第3グループに属する肩水平内転トルクタイプの被験者E,F,Gの3名が5,6,7番目にSPVが高い投手であることがわかる。
【0085】
このことから、SPVと投球動作タイプとの間には相関があることがわかる。具体的には、SPVが高い投手は肩内旋トルクタイプに属し、SPVが低い投手は肩水平内転タイプに属することが理解される。これは、回転数の異なる投手はそれぞれ背後の神経活動が異なる可能性があることを示唆している。
【0086】
上記の結果から、回転数を高めるためには肩関節内旋トルクの貢献を高めた運動パターンの習得が必要であることが示唆される。一方、回転数を低くするためには、肩関節水平内転トルクの貢献を高めた運動パターンの習得が必要であると考えられる。
【0087】
なお、各被験者間の類似度を多次元尺度構成法を用いて可視化すると
図15のような結果が得られた。多次元尺度構成法は、対象物間の関連性や類似性の強さをマップ上の点と点の距離に置き換えて、対象物同士の相対的な関係性を視覚化する手法である。
【0088】
図15は、各被験者の相対的な関係性を示す図である。
図15を参照すると、肩内旋トルクタイプの一部の被験者と、肩水平内転タイプの一部の被験者とは類似度が高いことが理解される。
【0089】
<機能構成>
図16は、解析装置10の機能構成例を示すブロック図である。
図16を参照して、解析装置10は、位置情報取得部250と、パラメータ取得部252と、関節角度算出部254と、関節トルク算出部256と、パターン算出部258と、類似度算出部260と、出力制御部262とを含む。典型的には、これらは、解析装置10のCPU102などによって実現される。なお、これらの機能構成の一部または全部は、ハードウェアで実現されていてもよい。
【0090】
位置情報取得部250は、投球動作時における被験者5の身体部位(例えば、手指、手背部、前腕、上腕、体幹)の位置情報を取得する。具体的には、位置情報取得部250は、各カメラ30で取得された被験者5の身体部位に取り付けられた各反射マーカの二次元位置情報と、各カメラ30の位置関係の情報とに基づいて、各反射マーカの3次元位置情報を取得(算出)する。なお、位置情報取得部250は、他の方式(例えば、慣性センサ式、機械式、磁気式、ビデオ式等)を用いて、被験者5の各身体部位の3次元位置情報を取得する構成であってもよい。
【0091】
パラメータ取得部252は、被験者5が投げるボール2に関するパラメータと、被験者5の複数のセグメント(例えば、上腕セグメント、前腕セグメント、手掌セグメント、および手指セグメント)に関するパラメータとを取得する。ボール2に関するパラメータは、ボール2の質量(例えば、mball)と、ボール2の加速度(例えば、aball)とを含む。
【0092】
複数のセグメントに関するパラメータは、各セグメントの質量(例えば、mi)、加速度(例えば、agi)、角速度(例えば、ωi)、角加速度(例えば、ωi・)および慣性モーメント(例えば、Ii)と、各セグメントの近位の関節から遠位の関節までのベクトル(例えば、Li)と、各セグメントの近位の関節から当該セグメントの質量中心位置までのベクトル(例えば、Lgi)とを含む。セグメントの加速度、角速度ならびに角加速度と、セグメントの近位の関節から遠位の関節までのベクトルと、各セグメントの近位の関節から当該セグメントの質量中心位置までのベクトルとは、時系列の3次元位置情報に基づいて算出される。各セグメントの質量および慣性モーメントは、被験者5の体重等から推定される。
【0093】
関節角度算出部254は、身体部位の位置情報に基づいて、投球動作時における被験者5の複数の関節(例えば、MP関節、手関節、肘関節、および肩関節)の角度を算出する。
【0094】
関節トルク算出部256は、被験者5が投げるボール2および被験者5の手指に関する運動方程式(例えば、式(1)~(3))と、身体部位の位置情報と、各セグメントに関するパラメータとに基づいて、投球動作時において各セグメントの近位の関節(例えば、MP関節、手関節、肘関節、および肩関節)に作用するトルクを算出する。具体的には、式(4)~(7)で示されるMP関節トルクT3、手関節トルクT2、肘関節トルクT1、および肩関節トルクT0を算出する。
【0095】
パターン算出部258は、時系列の各関節角度と、時系列の各関節トルクとに基づいて、投球動作時における被験者5の関節間協調パターンを算出する。具体的には、パターン算出部258は、時系列の各関節角度と時系列の各関節トルクとを含む観測行列(例えば、式(8))に対して、特異値分解を施すことにより左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを算出する。パターン算出部258は、左特異ベクトルを列方向に並べた行列(例えば、vj(t))を示す時間パターンと、右特異ベクトルを列方向に並べた行列(例えば、zj
T(θ-,M-))を示す空間パターンとを、関節間協調パターンとして算出する。
【0096】
類似度算出部260は、算出された関節間協調パターンと、1以上の基準パターンの各々との類似度を算出する。具体的には、類似度算出部260は、式(11)で示すようなコサイン類似度を用いて当該類似度を算出する。1以上の基準パターンの各々は、ボール回転数と相関性を有する投球動作タイプと関連付けられている。例えば、第1基準パターンは、ボール回転数が「高い」傾向のある肩内旋トルクタイプの関節間協調パターン(時間パターンおよび空間パターン)である。第2基準パターンは、ボール回転数が「普通」である傾向のある肘伸展トルクタイプの関節間協調パターンである。第3基準パターンは、ボール回転数が「低い」傾向のある肩水平内転トルクタイプの関節間協調パターンである。
【0097】
他の局面では、類似度算出部260は、複数の被験者の各々について、当該被験者の関節間協調パターンと当該被験者とは別の被験者の関節間協調パターンとの類似度を算出する。類似度算出部260は、算出された各類似度に基づいて、複数の被験者を複数のグループに分類してもよい。例えば、類似度算出部260は、類似度の絶対値が0.5以上の被験者同士を同一グループに分類する。ある被験者が複数のグループに分類された場合、類似度算出部260は、当該複数のグループのうちの平均類似度が高いグループに当該被験者を分類する。
【0098】
出力制御部262は、算出された関節間協調パターンと、ボール回転数と関連付けられた1以上の基準パターンとの類似度に基づいて、被験者5の投球動作に対するフィードバック情報を出力する。例えば、第1基準パターンはボール回転数「高い」に関連付けられた関節間協調パターンであり、第2基準パターンはボール回転数「普通」に関連付けられた関節間協調パターンであり、第3基準パターンはボール回転数「低い」に関連付けられた関節間協調パターンである。
【0099】
具体的には、出力制御部262は、算出された各類似度のうち最も高い類似度に対応する基準パターンに関連付けられた投球動作タイプを、フィードバック情報として出力する。これにより、被験者5の投球動作タイプが、ボール回転数が高い投球動作タイプに属するのか、低いボール回転数が高い投球動作タイプに属するのかを被験者5に対してフィードバックすることができる。そのため、被験者5(あるいは指導者)は、ボール回転数を上げる(または下げる)ために、どのような投球フォームを目指すべきかを判断できる。
【0100】
他の局面では、出力制御部262は、算出された関節間協調パターンをさらに出力してもよい。これにより、被験者5は、自身の投球動作において、どの関節トルクの貢献が大きいのかを判断できる。
【0101】
さらに、他の局面では、出力制御部262は、算出された関節間協調パターンに基づいて最も貢献が大きい関節を示す情報をさらに出力する。具体的には、出力制御部262は、絶対値が最も大きい空間パターンに対応する関節を示す情報を出力する。例えば、
図11の例では、最も大きい空間パターンは「肩関節内旋トルク」であるため、出力制御部262は、「肩関節」を示す情報を出力する。
【0102】
さらに他の局面では、出力制御部262は、複数の被験者の各々が属するグループを示す情報を出力する。これにより、被験者5は、自身の投球動作と類似している(すなわち、同一グループに属する)他の被験者と、自身の投球動作と類似していない(すなわち、異なるグループに属する)他の被験者とを判断できる。そのため、例えば、被験者5が他の被験者と比較してボール回転数が低い場合、ボール回転数を上げるためには被験者5の投球動作を改善すべきなのか、それとも、それ以外の点を改善すべきなのかを判断することができる。
【0103】
<利点>
本実施の形態によると、被験者5の投球動作が、ボール回転数に関連付けられた複数の投球動作タイプのうちのどの投球動作タイプに属するのかが被験者5にフィードバックされる。したがって、被験者5(あるいは指導者)は、ボール回転数を制御(例えば、上げるまたは下げる)ためにどのような投球動作を目指すべきかを判断できる。
【0104】
<その他の実施の形態>
(1)上述した実施の形態では、ボールの球質としてボール回転数に着目した構成について説明したが、ボールの球質としてボール速度について着目した構成であってもよい。
【0105】
図17は、各被験者の球速と投球動作タイプとの関係を示す図である。
図17を参照すると、第2グループに属する肘伸展トルクタイプの被験者Dが全被験者7名の中で最も球速が高い投手であり、当該タイプの被験者Cが2番目に球速が高い投手であることがわかる。また、第1グループに属する肩内旋トルクタイプの被験者A,Bと、第3グループに属する肩水平内転トルクタイプの被験者E,F,Gとの球速は概ね同じであることがわかる。
【0106】
例えば、肘伸展トルクタイプの関節間協調パターン(例えば、第2基準パターン)は、ボールの球速が「高い」傾向のあるパターンである。肩内旋トルクタイプおよび肩水平内転トルクタイプの関節間協調パターン(例えば、第1および第3基準パターン)は、ボールの球速が「普通」である傾向のあるパターンである。
【0107】
そのため、被験者5の投球動作が、ボールの球速に関連付けられた複数の投球動作タイプのうちのどの投球動作タイプに属するのかが被験者5にフィードバックされる。したがって、被験者5(あるいは指導者)は、ボールの球速を制御(例えば、上げるまたは下げる)ためにどのような投球動作を目指すべきかを判断できる。
【0108】
(2)コンピュータを機能させて、上述の実施の形態で説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0109】
(3)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
2 ボール、5 被験者、10 解析装置、20 センサ機器、30 カメラ、104,204 メモリ、106 入力装置、108 ディスプレイ、110 入出力インターフェイス、205 加速度センサ、206 角速度センサ、208 地磁気センサ、212 蓄電池、250 位置情報取得部、252 パラメータ取得部、254 関節角度算出部、256 関節トルク算出部、258 パターン算出部、260 類似度算出部、262 出力制御部、1000 解析システム。