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特開2024-71067ウェルアレイフィルター、粒子整列デバイスおよび粒子捕獲方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071067
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ウェルアレイフィルター、粒子整列デバイスおよび粒子捕獲方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/28 20060101AFI20240517BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C12M1/28
C12N1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181802
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大坂 享史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 杏奈
(72)【発明者】
【氏名】仲村 亮正
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC01
4B029HA02
4B029HA06
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065BD50
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】できるだけ多くのウェル内に一つずつ細胞等の粒子を捕捉でき、シングルセル率が高く通液性が良好で、多数の細胞等を整列して安定に捕捉できるウェルアレイフィルター、粒子整列デバイスおよび粒子捕獲方法を提供する。
【解決手段】このウェルアレイフィルター1は、フィルタ本体2に複数のウェル3が形成され、隣接するウェル3同士はウェル隔壁6で仕切られ、ウェル底部4には2以上の貫通孔8が形成され、貫通孔8の開口部最小幅は1μm以上3.5μm以下で、貫通孔の合計開口面積の比率は0.5%以上3.5%以下である。各ウェル底部4の貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、その中心を複数の貫通孔8のいずれの中心に移動させた場合、移動後の最小外接円G2は複数の貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のフィルタ本体を有し、前記フィルタ本体には前記フィルタ本体の上面のウェル形成領域に開口する複数のウェルが形成され、互いに隣接する前記ウェル同士の間はウェル隔壁によりそれぞれ仕切られ、
前記ウェルの下端にはウェル底部がそれぞれ形成され、前記ウェル底部には前記フィルタ本体の下面に達する2以上の貫通孔が形成され、
前記貫通孔の上面開口部の最小幅は1μm以上3.5μm以下であり、
前記ウェル形成領域の面積に対する前記貫通孔の合計開口面積の比率は0.5%以上3.5%以下であり、
前記各ウェル底部に形成されている前記複数の貫通孔の全てを囲む最小外接円を仮定し、この最小外接円の中心を前記複数の貫通孔のいずれの中心に移動させた場合にも、前記最小外接円は前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たすことを特徴とするウェルアレイフィルター。
【請求項2】
前記各ウェル底部に形成されている前記貫通孔は、仮想的な線分上に2個以上形成されているか、仮想的な三角形の頂点位置および前記三角形の辺上もしくは内側に合計3個以上形成されているか、または、仮想的な四角形の頂点位置および前記四角形の辺上もしくは内側に合計4個以上形成されていることを特徴とする請求項1に記載のウェルアレイフィルター。
【請求項3】
前記貫通孔の開口形状は、円形、楕円形、または複数の円形もしくは楕円形が繋がった形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のウェルアレイフィルター。
【請求項4】
前記貫通孔の開口形状は、多角形状または角が丸められた多角形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のウェルアレイフィルター。
【請求項5】
少なくとも前記ウェルの内面には、細胞接着を抑制するポリマーが塗布されていることを特徴とする請求項1または2に記載のウェルアレイフィルター。
【請求項6】
請求項1または2に記載のウェルアレイフィルターと、前記ウェルアレイフィルターを支持するとともに前記ウェルアレイフィルターの前記ウェルの開口部側から前記貫通孔を通じて前記ウェルの底面側へ向けて通じるサンプル流路を有するデバイス本体を備えたことを特徴とする粒子整列デバイス。
【請求項7】
請求項6の粒子整列デバイスの前記サンプル流路に、前記ウェルアレイフィルターおよび前記デバイス本体を溶解または変質させない有機溶媒を含む液体を通液させる工程と、
前記サンプル流路に水溶液を通液させて有機溶媒を含む液体を前記水溶液で置換する工程と、
前記サンプル流路に、前記ウェルで捕捉すべき粒子を含む水溶液を通液させ前記ウェル内に前記粒子を捕獲する工程を有する粒子捕獲方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞やビーズ等の粒子を捕捉するためのウェルアレイフィルター、粒子整列デバイス、および粒子捕獲方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に創薬分野において、細胞解析のターゲッ卜が細胞群レベルから単一細胞レベルへと細分化され、細胞スクリーニングデバイス(粒子整列デバイス)を用いて、ウェルアレイフィルターの微細かつ多数のウェル内に細胞を1つ1つ捕捉したうえ、多数の細胞に対し一斉にスクリーニングテストを行い、目的の特性を有する細胞を選別する手法が使用されている。細胞をスクリーニングする方法としては、例えば、多数のウェル内に捕捉した細胞を、特定の抗体と結合するキャッチャーなどの試薬を分散させた液と接触させ、キャッチャーと結合した分泌物を分泌した細胞を探し出し、ウェルから回収する方法などが採用されている。
【0003】
特許文献1に開示された粒子整列デバイスは、レジストで作製されたウェルアレイフィルターを備え、このウェルアレイフィルターには、底部にそれぞれ一つの貫通孔を有するウェルが多数配列されて形成されている。各ウェルの開口形状は、細胞に類似させて、円形または楕円形とされている。特許文献1の実施例では、ウェルの開口径は100μm、ウェルの深さは30~100μm、貫通孔の開口径は2~5μmとされたウェルアレイフィルターが開示されている。
【0004】
特許文献2に開示された粒子整列デバイスは、シリコンウェハで作製されたウェルアレイフィルターを備え、このウェルアレイフィルターには、エッチングにより多数のウェルが配列されて形成され、各ウェルの底部には、それぞれ一つの貫通孔を形成したSiNx膜が設けられている。各ウェルの開口形状は円形とされている。このウェルアレイフィルターは、シリコンウェハから作製されているので、特許文献2の実施例は、フィルタ本体の厚さが380μm、ウェルの開口径は100μm程度で、ウェル中心間距離は150μm程度とされている。
【0005】
特許文献3に開示された粒子整列デバイスは、細胞を格納するための底部に貫通孔を有するウェル基板と、その細胞からの分泌物を検出するための細胞を格納するための基板の2層からなる分泌アッセイ用のウェルアレイフィルターを備えている。前記ウェル基板は、レジストで作製されている。特許文献3の実施例では、ウェルは円形で開口径は12μmと細胞に近いサイズであるが、ウェル中心間の距離は100μm程度とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第10370630号明細書
【特許文献2】米国特許第9638636号明細書
【特許文献3】特開2019-213566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のようなウェルアレイフィルターでは、細胞やビーズ等を分散媒に分散させたサンプル液体をウェルアレイフィルターに通液した際に、できるだけ多くのウェルに細胞等が捕捉されるとともに、一つのウェル内には一つだけの細胞が格納される、いわゆるシングルセルになるように細胞等が捕捉されることが好ましい。一度の通液で多くのウェルに細胞等を捕捉でき、しかも、シングルセル率が高ければ、ターゲットとなる細胞等を一つ一つ分別して高い確率で捕獲することが可能である。
【0008】
一方、細胞を捕捉した後に培養する場合や、個々のウェルから細胞等をキャピラリーで回収する場合には、ウェルの開口径がある程度大きい方が扱いやすい。開口径が小さいウェルで細胞を培養すると、分裂した細胞がウェルから溢れ出て捕捉し損ねる場合があるうえ、ウェルの開口径がキャピラリーの先端外径より大きい方が、キャピラリーの先端をウェル内に直接挿入でき、細胞等の回収が容易になるためである。
【0009】
しかし、ウェルの開口径を単に大きくすると、ウェルアレイフィルターの単位面積当たりのウェル数は減る。例えば、ウェル間を隔てる壁の幅を一定として、ウェルの開口径が20μmの場合と、50μmの場合を比較すると、単位面積当たりのウェル数は1/4になる。20μmの場合と50μmの場合で、ウェル底部に形成されている一つの貫通孔の開口径を同じにすると、フィルターの面積当たりの貫通孔の面積の比率、すなわち貫通孔の開口率も1/4に低下し、ウェルアレイフィルター全体としての通液性が悪化し、通液作業の効率が低下する。
【0010】
ウェルアレイフィルターの通液性を改善するために、ウェル毎に一つ形成された貫通孔の開口径を大きくすると、細胞等が貫通孔を通り抜けるおそれがある。そこで、各ウェル内の貫通孔の数を増やすことが考えられるが、単に貫通孔の数を増やすだけでは、ウェルの開口径が同じ場合にも、シングルセル率が低下する現象が判明した。
【0011】
本発明者らは、この現象を詳細に分析し、ウェルアレイフィルターとしての通液性を確保しながら、シングルセル率を高めるためには、下記の作用が得られるように貫通孔を形成するとよいことを見いだした。すなわち、(1)いずれか一つのウェル内に細胞等が捕捉された場合に、この細胞等によってそのウェル内の貫通孔のいずれもが開口面積を狭められて合計流量が減少し、二つ目の細胞等を同じウェルに導いてしまうほどの流量はなく、隣接する空のウェルに細胞等が導かれて捕捉されること、(2)ただし、一つのウェル内に一つの細胞等が捕捉された場合に、全ての貫通孔が閉塞されて流量が極端に減少すると、ウェルアレイフィルター全体としての通液性を悪化させてしまう。
【0012】
本発明者らは前記作用を達成するための貫通孔の条件を検討した。その結果、ウェル底部に2以上の貫通孔が形成され、前記貫通孔の上面開口部の最小幅は1μm以上3.5μm以下であり、ウェルアレイフィルターのウェル形成領域の面積に対する前記貫通孔の合計開口面積の比率は0.5%以上3.5%以下であり、同一のウェル内の複数の貫通孔の全てを囲む最小外接円を仮定し、この最小外接円の中心を前記複数の貫通孔のいずれの中心に移動させた場合にも、前記最小外接円は前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たす場合に、前記作用が得られることを見いだした。
【0013】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、できるだけ多くのウェル内に一つずつ細胞等の粒子を捕捉でき、シングルセル率が高く通液性が良好で、多数の細胞等を整列して安定に捕捉できるウェルアレイフィルター、粒子整列デバイスおよび粒子捕獲方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[態様1]本発明に係る態様1のウェルアレイフィルターは、平板状のフィルタ本体を有し、 前記フィルタ本体には前記フィルタ本体の上面のウェル形成領域に開口する複数のウェルが形成され、互いに隣接する前記ウェル同士の間はウェル隔壁によりそれぞれ仕切られ、 前記ウェルの下端にはウェル底部がそれぞれ形成され、前記ウェル底部には前記フィルタ本体の下面に達する2以上の貫通孔が形成され、前記貫通孔の上面開口部の最小幅は1μm以上3.5μm以下であり、前記ウェル形成領域の面積に対する前記貫通孔の合計開口面積の比率は0.5%以上3.5%以下であり、前記各ウェル底部に形成されている前記複数の貫通孔の全てを囲む最小外接円を仮定し、この最小外接円の中心を前記複数の貫通孔のいずれの中心に移動させた場合にも、前記最小外接円は前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たすことを特徴とする。
【0015】
態様1のウェルアレイフィルターによれば、前記貫通孔の最小幅は1μm以上3.5μm以下、前記ウェル形成領域の面積に対する前記貫通孔の合計開口面積の比率は0.5%以上3.5%以下であるから、捕捉すべき細胞またはビーズ等の粒子が貫通孔を通過することを抑制しつつ、ウェルアレイフィルター全体としての流量が確保できる。また、各ウェル底部に形成されている複数の貫通孔が前記位置関係を満たすことにより、ウェル内に前記粒子が一つ捕獲された際に、この粒子が前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる確率が高い。よって、一つ目の粒子が捕獲された後は、そのウェル内の全ての貫通孔を通過する分散媒の流量が適度に低下し、流れに乗って2つ目以降の粒子が同一のウェル内に入ってくることが抑制され、隣接する空のウェルに細胞等が導かれて捕捉される確率が高まる。これにより、多くのウェル内に一つずつ粒子が捕獲される確率が高く、シングルセル率が高く、かつ通液性が低下せずに良好に保たれ、各ウェルでの粒子の単離が安定して行える。
【0016】
[態様2]態様1において、前記各ウェル底部に形成されている前記貫通孔は、仮想的な線分上に2個以上形成されているか、仮想的な三角形の頂点位置および前記三角形の辺上もしくは内側に合計3個以上形成されているか、または、仮想的な四角形の頂点位置および前記四角形の辺上もしくは内側に合計4個以上形成されていてもよい。
この場合、ウェル内に細胞またはビーズ等の粒子が一つ捕獲された際に、この粒子が前記複数の貫通孔の全てに少なくとも部分的に重なる割合が高い。よって、一つ目の粒子が捕獲された後は、そのウェル内の全ての貫通孔を通過する分散媒の流量が適度に低下し、2つ目以降の粒子がウェル内に入ってくることが抑制されるから、各ウェルでの粒子の単離が一層安定して行える。
【0017】
[態様3]態様1または2において、前記貫通孔の開口形状は、円形、楕円形、または複数の円形もしくは楕円形が繋がった形状であってもよい。
この場合、前記貫通孔の開口形状が円形、楕円形、または、複数の円形もしくは楕円形が繋がった形状であることにより、前記貫通孔の上に細胞またはビーズ等の粒子が載った場合に、前記粒子が前記複数の貫通孔の全てに少なくとも部分的に重なる割合が高く、ウェル内に粒子が捕獲される前と後との流量差を大きく確保でき、前記効果を高めることができる。
【0018】
[態様4]態様1~3のいずれか1つにおいて、前記貫通孔の開口形状は、多角形状または角が丸められた多角形状であってもよい。多角形状とは三角形状、四角形状、あるいは5角形状であってもよい。
この場合、前記貫通孔の開口形状が多角形状または角が丸められた多角形状である場合には、前記貫通孔の流路断面積に比して、前記貫通孔の上面開口部の最小幅が小さくなるから、捕捉すべき細胞またはビーズ等の粒子が貫通孔を通過することをさらに抑制することができる。また、ウェルが多角形状であるから自動画像解析の際に粒子とウェルとを識別することが容易である。
【0019】
[態様5]態様1~4のいずれか1つにおいて、少なくとも前記ウェルの内面に細胞接着を抑制するポリマーが塗布されていてもよい。前記ポリマーは例えば、MPCポリマー、PEG、PVA、PMEA、およびこれらの混合物であってもよい。
この場合、前記ウェルの内面に塗布されたポリマーが細胞接着を抑制するから、ウェルからの細胞または粒子の取り出しが容易になる。前記ポリマーを塗布するのは、前記ウェルの内面だけでなく、前記ウェル隔壁の上面、前記貫通孔の内面、および前記フィルタ本体の下面にも前記ポリマーを塗布してもよい。その場合、前記ウェル隔壁の上面に細胞等が付着したり、前記フィルタ本体の下面に細胞等が付着したりする問題を抑制できる。
【0020】
[態様6]態様1~5のいずれか1つにおいて、前記貫通孔の最大内接円直径は4μm以下であってもよい。
この場合、前記貫通孔を細胞またはビーズ等の粒子が通り抜けてしまうことを効果的に抑制することができる。
【0021】
[態様7]態様1~6のいずれか1つにおいて、前記ウェル隔壁と前記ウェル底部は互いに異なる材質で形成され、前記ウェル底部は前記ウェル隔壁よりも強度の高い材質で形成されていてもよい。
この場合、前記ウェル底部は前記ウェル隔壁よりも強度の高い材質で形成されているから、ウェルアレイフィルター全体の強度を高めつつ、前記ウェル壁部の成形時の収縮を緩和してウェルアレイフィルターの反りや歪を低減できる。
【0022】
[態様8]態様1~7のいずれか1つにおいて、前記ウェル隔壁と前記ウェル底部は互いに異なる材質で形成され、前記ウェル底部はそれぞれ前記ウェルの開口部の形状に対応したタイル形状に分割されて隣接する前記ウェル底部の間には間隙が形成され、これら間隙内に前記ウェル隔壁を形成する材料が侵入して固化していてもよい。
この場合、前記ウェル底部がタイル形状に分割されて相互に間隙が形成された状態としたのち、前記ウェル隔壁を形成して前記間隙内に前記ウェル隔壁を形成する材料を侵入固化させることができるため、ウェル底部が一枚板で形成されている場合に比して、固化収縮のためにウェルアレイフィルターに生じる反りや歪を低減できる。
【0023】
[態様9]態様1~8のいずれか1つにおいて、前記ウェル底部の厚さは、1nm以上2μm以下であってもよい。
この場合、前記ウェル底部が薄いために、倒立顕微鏡でウェル内の捕捉物をウェル底部を通して観察しやすい上に、薄い分自家蛍光が小さいために自家蛍光による観察への悪影響も低減できる。
【0024】
[態様10]本発明の態様10に係る粒子整列デバイスは、前記態様1~9のいずれか1つに記載のウェルアレイフィルターと、前記ウェルアレイフィルターを支持するとともに前記ウェルアレイフィルターの前記ウェルの開口部側から前記貫通孔を通じて前記ウェルの底面側へ向けてサンプル流路を有するデバイス本体を備えたものである。
態様10に係る粒子整列デバイスによれば、捕捉すべき細胞またはビーズ等の粒子が貫通孔を通過することを抑制しつつ、ウェルアレイフィルター全体としての流量が確保できる。また、各ウェル底部に形成されている複数の貫通孔が前記位置関係を満たすことにより、ウェル内に前記粒子が一つ捕獲された際に、この粒子が前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる確率が高い。よって、一つ目の粒子が捕獲された後は、そのウェル内の全ての貫通孔を通過する分散媒の流量が適度に低下し、流れに乗って2つ目以降の粒子がウェル内に入ってくることが抑制され、隣接する空のウェルに細胞等が導かれて捕捉される確率が高まる。これにより、多くのウェル内に一つずつ粒子が捕獲される確率が高く、シングルセル率が高くかつ通液性が良好であり、各ウェルでの粒子の単離が安定して行える。
【0025】
[態様11]本発明の態様11に係る粒子捕獲方法は、態様10の粒子整列デバイスの前記サンプル流路に、前記ウェルアレイフィルターおよび前記デバイス本体を溶解または変質させない有機溶媒を含む液体を通液させる工程と、前記サンプル流路に水溶液を通液させて前記有機溶媒を含む液を前記水溶液で置換する工程と、前記水溶液で置換された前記サンプル流路に、前記ウェルで捕捉すべき粒子を含む水溶液を通液させ前記ウェル内に前記粒子を捕獲する工程を有する。前記有機溶媒を含む液体は限定されないが、例えば、エチルアルコールや、30~80%程度のエチルアルコール等の有機溶媒を含む水溶液等の液体、好ましくは70%エチルアルコール水溶液などが使用できる。
態様11に係る粒子捕獲方法によれば、前記有機溶媒を含む液体を前記サンプル流路に通液させ、次いで前記サンプル流路内を水溶液に置換した後に、細胞、細胞の成分や分泌物を付着させたビーズ、または、細胞の成分や分泌物を付着させるためのビーズ等の粒子を含む水溶液を通液させることにより、ウェルアレイフィルターの通液抵抗が低減されるとともに、ウェルに気泡が残留しにくく、各ウェル内に一つずつ前記細胞または前記粒子を捕獲することが容易である。
【0026】
[態様12]態様1~11のいずれか1つにおいて、前記最小外接円の中心を前記複数の貫通孔のいずれの中心に移動させた場合にも、前記最小外接円は前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なり、全ての重複部分のうち最も重複面積が小さい重複部分の最大幅は、前記最小外接円の半径の0.7%以上であってもよい。前記最大幅は移動前後の前記最小外接円の中心同士を結ぶ直線に沿う値とする。前記最大幅は前記最小外接円の半径の0.5%以上、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上のいずれかであってもよい。前記貫通孔の形状が円形である場合であって、重複部分の最大幅が前記最小外接円の半径の0.7%である場合には、全ての重複部分のうち最も重複面積が小さい重複部分の重複面積は、前記貫通孔の開口面積の0.025%に該当する。同様に、重複部分の重複面積が、貫通孔の開口面積の0.05%、0.10%、0.25%、0.50%、1.00%である場合、前記最大幅は前記最小外接円の半径の1.12%、1.80%、3.32%、5.20%、8.26%にそれぞれ該当する。貫通孔の形状が円形以外のいかなる形状の場合であっても、全ての重複部分のうち最も重複面積が小さい重複部分の重複面積は、前記貫通孔の開口面積の0.025%、0.05%、0.10%、0.25%、0.50%、または1.00%であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、捕捉すべき細胞またはビーズ等の粒子が貫通孔を通過することを抑制しつつ、ウェルアレイフィルター全体としての流量が確保できるうえ、各ウェル底部に形成されている複数の貫通孔が前記位置関係を満たすことにより、ウェル内に前記粒子が一つ捕獲された際に、この粒子が前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる確率が高い。よって、一つ目の粒子が捕獲された後は、そのウェル内の全ての貫通孔を通過する分散媒の流量が適度に低下し、流れに乗って2つ目以降の粒子がウェル内に入ってくることが抑制され、隣接する空のウェルに細胞等が導かれて捕捉される確率が高まる。これにより、多くのウェル内に一つずつ粒子が捕獲される確率が高く、シングルセル率が高くかつ通液性が良好であり、各ウェルでの粒子の単離が安定して行える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態のウェルアレイフィルターの平面拡大図である。
図2】第1実施形態のウェルアレイフィルターの断面拡大図である。
図3】(a)および(b)は第1実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図、(c)は比較例のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図4】(a)~(c)は、第2実施形態~第4実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図5】(a)~(c)は、第5実施形態~第7実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図6】(a)および(b)は第8実施形態および第9実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図、(c)は他の比較例のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図7】(a)および(b)は第10実施形態および第11実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図、(c)は他の比較例のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図8】(a)~(c)は、他の比較例のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図9】(a)および(b)は第12実施形態および第13実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図、(c)は他の比較例のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図10】(a)および(b)は第14実施形態および第15実施形態のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図、(c)は他の比較例のウェルアレイフィルターのウェルの平面拡大図である。
図11】第16実施形態のウェルアレイフィルターの平面拡大図である。
図12】第17実施形態のウェルアレイフィルターの平面拡大図である。
図13】(a)~(f)は本発明の実施形態のウェルアレイフィルターの製造方法を示す断面拡大図である。
図14】本発明の一実施形態の粒子整列デバイスを示す平面図である。
図15】同実施形態の粒子整列デバイスを示す縦断面図である。
図16】本発明の実施例の成立条件を説明する図である。
図17】本発明の実施例の成立条件を説明する図である。
図18】本発明の実施例の成立条件を説明するグラフである。
図19】本発明の実施例の成立条件を説明する図である。
図20】本発明の実施例の成立条件を説明するグラフである。
図21】本発明の実施例の効果を示す表である。
図22】本発明の実施例の効果を示すグラフである。
図23】本発明の実施例の効果を示す表である。
図24】本発明の実施例の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
[第1実施形態]
図1および図2は、ウェルアレイフィルターの第1実施形態を示す平面拡大図および断面拡大図である。このウェルアレイフィルター1は、一定の厚さで平板状のフィルタ本体2を有し、フィルタ本体2には、フィルタ本体2の上面のウェル形成領域に、開口する多数のウェル3が形成されている。ウェル形成領域とは、フィルタ本体2のフィルタとして使用される領域を示し、フィルタ本体2はウェル形成領域の周囲に、フィルタを支持するための、ウェルが形成されていない支持領域等を有していてもよい。
【0030】
互いに隣接するウェル3同士の間は、ウェル隔壁6によりそれぞれ仕切られている。個々のウェル3の下端には、図2に示すように平板状のウェル底部4がそれぞれ形成され、ウェル3の下端を塞いでいる。ウェル3の開口部は円形や楕円形でもよいが、好ましい実施形態では多角形状もしくは角が丸められた多角形状をなしている。特に、この実施形態では、ウェル3は正六角形状をなし、各ウェル3およびウェル隔壁6は、ハニカム状に配列されている。倒立顕微鏡でウェル3内の細胞C等の粒子をウェル底部4を通して観察できるように、少なくともウェル底部4は透明な材質で形成されている。ウェル隔壁6も透明な材質で形成されていてもよいが、不透明な材質で形成することも可能である。
【0031】
ウェル3の開口部の円相当径は限定はされないが、5μm以上200μm以下にされていることが好ましい。円相当径とは、ウェル3の開口部と面積が等しい円の直径を示す。ウェル3の開口部の円相当径が5μm以上であると、細胞またはビーズ等の粒子を捕捉することが可能となり、200μm以下であると、細胞またはビーズ等の粒子を各ウェル3に一つまたは適切な一定数ずつ、捕捉することが容易になる。ウェル3の開口部の円相当径は、ウェル3で細胞を一つずつ捕捉できるように、より好ましくは10μm以上100μm以下であってもよく、さらに好ましくは15μm以上60μm以下であってもよい。
【0032】
なお、ビーズとは、細胞の成分や分泌物を付着させて分析に供するための、樹脂などからなる粒子である。細胞の特定の分泌物を捕捉・検出するための成分を表面に結合したビーズをウェル3内に生細胞とともに入れて、特定の分泌物を分泌する生細胞を同定する、あるいは、細胞の構成成分を捕捉するための成分を表面に結合したビーズと細胞をウェル3内に入れ、細胞を破壊して内容物をビーズに捕捉し、これをウェル3の外に回収して、ビーズに捕捉された内容物を調べることができる。また、光などの外部刺激で薬剤等を放出するような成分をビーズの表面に結合させて、ウェル3に細胞とビーズを共に入れ、光照射で薬剤を放出して、細胞の薬剤応答を見ることも可能である。また、磁気を帯びたビーズを使用して、ウェルアレイフィルター1の下方に配置された磁石でビーズを吸い寄せて、ウェル3に捕捉する場合もある。
【0033】
ウェル底部4のそれぞれには、フィルタ本体2の下面に達する貫通孔8が複数ずつ形成されている。この実施形態では、貫通孔8の数はウェル3毎に2つであり、図3に示すように、ウェル底部4の中央に、互いの中心間の間隔Wを開けて、ウェル底部4を垂直に貫通して形成されている。本発明では貫通孔8の数は限定されず、3個でも、4個以上であってもよいが、ウェル底部4に貫通孔8を複数形成した場合は、十分な流量を確保した場合にも細胞Cが貫通孔8を通り抜けにくい利点があるとともに、ウェル底部4の中心から外れた位置に少なくとも一部の貫通孔8が形成されるため、細胞Cによって全ての貫通孔8が閉塞されることが少なく、細胞Cが捕捉された後も貫通孔8を通じてウェル3内の液体を適度に流通させることが容易である。
【0034】
貫通孔8の上面開口部の最小幅は1μm以上3.5μm以下にされている。同時に、ウェル形成領域の面積に対する貫通孔8の合計開口面積の比率は、0.5%以上3.5%以下にされている。これにより、捕捉すべき細胞またはビーズ等の粒子が貫通孔を通過することを抑制しつつ、ウェルアレイフィルター全体としての流量は確保できる。
【0035】
貫通孔8の上面開口部の最小幅とは、貫通孔8を平面視した場合に貫通孔8の開口部の幅が最も狭くなっている箇所の幅を意味し、例えば、貫通孔8が円径であれば直径、楕円であれば短径、長方形であれば短辺の長さを意味する。貫通孔8の上面開口部の最小幅はより好ましくは2μm以上3.5μm以下であってもよく、さらに好ましくは2μm以上2.75μm以下であってもよい。
【0036】
貫通孔8の合計開口面積とは、ウェル形成領域内に形成されている全ての貫通孔8の開口面積(=流路断面積)の合計値である。貫通孔8の合計開口面積の比率が0.50%以上であると、貫通孔8を通過する流液抵抗が適度に小さくなるため、ピペットの操作でウェルアレイフィルター1に通液することが容易である。貫通孔8の合計開口面積の比率が3.5%以下であると、ピペットの操作でウェルアレイフィルター1に通液する際に、液体サンプルが流れすぎることがなく、操作性に優れる。前記貫通孔8の合計開口面積の比率は、より好ましくは0.75%以上3.20%以下であってもよい。
【0037】
本実施形態では、図3(a)および(b)に示すように、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を複数の貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。例えば、図3(a)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。図示していないが、最小外接円G1の中心を他方の貫通孔8の中心C1に移動させた場合にも、中心C2を有する右側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が同形状の重複部分Jを以て重複する。
【0038】
図3(b)に示す実施例は、貫通孔8の中心C1-C2間の距離を一定に保ち、図3(a)の場合よりも貫通孔8の直径Dを小さくした場合において、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで接している。
図3(c)に示す比較例は、図3(b)よりさらに貫通孔8の直径Dを小さくした場合であり、貫通孔8の直径Dが小さいため、中心C1を有する貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複せずに離れている。よって、本発明に必要な関係を満たさない。
【0039】
図3のように、2つの貫通孔8が円形かつ互いに同径である場合には、貫通孔8の直径Dと、貫通孔8の中心間距離Wが次式を満たす場合に、前記関係を満たし、重複部分Jが生じる。
D>W/2
図3(a)および(b)のように、貫通孔8の直径Dと貫通孔8の中心間距離Wが前記式を満たすことにより、ウェル3内に細胞C等の粒子が一つ捕獲された際に、この細胞C等の粒子が複数の貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる確率が高い。よって、一つ目の細胞C等の粒子が捕獲された後は、そのウェル3内の全ての貫通孔8を通過する分散媒の流量が適度に低下し、流れに乗って2つ目以降の細胞C等の粒子がウェル3内に入ってくることが抑制され、隣接する空のウェル3に細胞C等の粒子が導かれて捕捉される確率が高まる。これにより、多くのウェル3内に一つずつ細胞C等の粒子が捕獲される確率が高くなる。
【0040】
全ての重複部分Jのうち最も重複面積が小さい重複部分Jの最大幅は、最小外接円G1の半径の0.7%以上であってもよい。最大幅は移動前後の最小外接円G1,G2の中心C1,C2同士を結ぶ直線に沿う値とする。最大幅は最小外接円G1の半径の0.5%以上、1%以上、2%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上のいずれかであってもよい。貫通孔8の形状が図3のように円形である場合であって、重複部分Jの最大幅が最小外接円G1の半径の0.7%である場合には、全ての重複部分Jのうち最も重複面積が小さい重複部分Jの重複面積は、貫通孔8の開口面積の0.025%に該当する。同様に、重複部分Jの重複面積が、貫通孔8の開口面積の0.05%、0.10%、0.25%、0.50%、1.00%である場合、最も重複面積が小さい重複部分Jの最大幅は最小外接円G1の半径の1.12%、1.80%、3.32%、5.20%、8.26%にそれぞれ該当する。貫通孔8の形状が円形以外のいかなる形状の場合であっても、全ての重複部分Jのうち最も重複面積が小さい重複部分Jの重複面積は、貫通孔8の開口面積の0.025%、0.05%、0.10%、0.25%、0.50%、または1.00%であってもよい。以下の実施形態の全てにこの段落の記述を援用する。
【0041】
一方、図3(c)に示す比較例では、貫通孔8の直径Dと貫通孔8の中心間距離Wが式(1)を満たさず、中心C1を有する貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複していないため、ウェル3内に細胞C等の粒子が一つ捕獲された際に、この細胞C等の粒子が何れか一方の貫通孔8に対し重ならない確率が高い。よって、一つ目の細胞C等の粒子が捕獲された後も、細胞C等の粒子と重なっていない貫通孔8を通過する分散媒の流量が依然として多く、流れに乗って2つ目以降の細胞C等の粒子がウェル3内に入って可能性が高い。これにより、シングルセル率が低下する。
【0042】
最小外接円G1の直径は限定はされないが、3μm以上30μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましい。隣り合う貫通孔8を隔てる部分の最小幅は限定されないが、0.5μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上3μm以下が、貫通孔8を小さい最小外接円G1の内側に収めるために、特に好ましい。
【0043】
ウェル隔壁6の水平方向の最大厚さB(図1参照)は限定されないが、1μm以上20μm以下であることが好ましい。最大厚さBが1μm以上であることにより、ウェル隔壁6の強度を適切にすることができ、例えばピペットをウェル隔壁6の上面に当てて細胞Cを吸う場合などに、ウェル隔壁6が崩れてしまうことを防止できる。また、最大厚さBが20μm以下であることにより、ウェル隔壁6の上に細胞やビーズ等の捕捉すべき粒子が留まってしまうことが抑制でき、ウェル3の密度も高めることができる。また、ピペットを当てたときにウェル隔壁6に適度な可撓性をもたらすことができ、ピペットの先端の破損を抑制することができる。ウェル隔壁6の最大厚さBは、好ましくは2μm以上20μm以下であってもよく、さらに好ましくは2μm以上12μm以下であってもよい。
【0044】
ウェル形成領域の面積に対する、ウェル3の合計開口面積の比率は限定されないが、40%以上とされていることが好ましい。この比率が40%以上であると、ウェルアレイフィルター1に供給される細胞等の粒子のうち、ウェル3内に捕捉される粒子の割合、すなわち粒子捕捉率を十分に高めることができる。ウェル形成領域の面積に対するウェル3の合計開口面積の比率は、好ましくは40%以上95%以下であってもよく、さらに好ましくは40%以上75%以下であってもよい。前記比率が高いということは、ウェル隔壁6が薄いということに繋がる。
【0045】
ウェル3の深さとウェル隔壁6の水平方向の最大厚さBとの比は限定されないが、ウェル3の深さはウェル隔壁6の厚さBの2倍以上であることが好ましい。ウェル3の深さがウェル隔壁6の厚さBの2倍以上であると、ウェル3内に捕捉された細胞C等の粒子が、液体の流れの乱れ等によりウェル3外に抜け出てしまうことが抑制できるから、いったん捕捉された粒子は安定的にウェル3内に保持することができる。より好ましくはウェル3の深さがウェル隔壁6の厚さBの2倍以上40倍以下であってもよく、さらに好ましくは2倍以上15倍以下であってもよい。
【0046】
貫通孔8の平面視形状は、この実施形態では円であるが、本発明は円に限定されず、楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形、角の丸められた多角形、長方形、星形、スリット、鉄アレイ形状、H型、その他不定形などいかなる形状であってもよい。変形例については後述する。
【0047】
ウェル3の平面視形状は本発明では限定されず、円形または楕円形であってもよいが、多角形状または角を丸められた多角形状であれば、自動画像解析の際に粒子とウェル3とを識別することが容易である。多角形状の中でも、三角形状、四角形状、または図示のように六角形状のいずれかであることが好ましい。三角形状、四角形状、または六角形状であると、同一形状のウェル3を規則的に配列してウェル3の配列密度を高めることが可能である。中でも、正三角形状、正四角形状、または正六角形状であると、幾何学的に単純な配列で、ウェル3の配列密度を高めることが可能であるから好ましい。変形例については後述する。
【0048】
ウェル隔壁6とウェル底部4は、互いに同じ材質で形成されていてもよいが、好ましくは、互いに異なる材質で形成され、ウェル底部4はウェル隔壁6よりも強度の高い材質で形成されていてもよい。この場合、ウェルアレイフィルター1全体の強度を高めつつ、ウェル底部4の成形時の収縮を緩和してウェルアレイフィルター1の反りや歪を低減できる。ウェルアレイフィルター1に反りが無いことは、ウェル3に捕捉された粒子を倒立顕微鏡で観察する際に観察範囲全面に焦点を合わせるために重要である。
【0049】
ウェル隔壁6とウェル底部4の材質は限定されないが、その微細構造を実現するために各種フォトレジストで形成されていてもよく、フォトレジストの種類や組成を変える、および/または露光条件を変えることにより、ウェル底部4はウェル隔壁6よりも強度の高い材質で形成することが好ましい。ウェル隔壁6とウェル底部4をフォトレジストで形成する場合、例えば、ウェル隔壁6を形成する隔壁レジスト6A(図13参照)を多官能エポキシ量が相対的に少ないフォトレジストで形成し、ウェル底部4を形成する底部レジスト4A(図13参照)を多官能エポキシ量が相対的に多いフォトレジストで形成し、ウェル底部4の材質の強度をウェル隔壁6の材質の強度よりも高めることが可能である。この場合、ウェル隔壁6の材質の自家蛍光が相対的に弱く、ウェル底部4の材質の自家蛍光が相対的に強くなりはするが、ウェル底部4の厚さは小さいため、倒立顕微鏡による観察に悪影響を与えることはない。
【0050】
本発明ではウェル底部4とウェル隔壁6の形成方法は限定されないが、ウェルアレイフィルター1の応力を緩和するために、好ましくは、ウェル隔壁6とウェル底部4は互いに別々に形成され、ウェル底部4はそれぞれウェル3の開口部の形状に対応したタイル形状に分割され、隣接するウェル底部4の間には間隙が形成され、これら間隙内にウェル隔壁6を形成する材料が侵入して固化している構造とされてもよい。具体的な製造方法の一例を後述する。このようなタイル状にウェル底部4が分割されて、ウェル隔壁6がウェル底部4の間隙に侵入する構造でウェルアレイフィルター1を形成することにより、ウェル底部4の固化収縮のためにウェルアレイフィルター1に反りや歪が生じることを一層抑制できる。
【0051】
本発明では必須ではないが、ウェル3の内面の少なくとも一部に、細胞接着を抑制するポリマーが予め塗布されていてもよい。この場合、ウェル3の内面に塗布されたポリマーが細胞Cの接着を抑制するから、ウェル3からの細胞Cまたは粒子の取り出しが容易になる。この種のポリマーとしては、例えば、MPCポリマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー)、PEG(ポリエチレングリコール)、PVA(ポリビニルアルコール)、PMEA(ポリ(2-メトキシエチルアクリレート))、およびこれらの混合物が採用できる。ポリマーの塗布位置はウェル3の内面だけでなく、ウェル隔壁6の上面、貫通孔8の内面、フィルタ本体2の下面にも前記ポリマーを塗布してもよい。その場合、ウェル隔壁6の上面に細胞等が付着したり、フィルタ本体2の下面に細胞等が付着したりする問題を抑制できる。
【0052】
本発明では限定されないが、ウェル底部4の厚さは1nm以上2μm以下であってもよい。この場合、ウェル底部4が十分に薄いために、倒立顕微鏡でウェル3内の細胞C等の粒子の捕捉物をウェル底部4を通して観察しやすい上に、ウェル底部4が薄い分、ウェル底部4の自家蛍光が小さく抑えられ、自家蛍光による観察への悪影響も低減できる。ウェル底部4の厚さはより好ましくは100nm以上2μm以下であってもよく、さらに好ましくは500nm以上1.5μm以下であってもよい。
【0053】
前記構成からなるウェルアレイフィルター1によれば、貫通孔8の最小幅およびウェル形成領域の面積に対する貫通孔8の合計開口面積の比率が適切であるから、捕捉すべき細胞C等の粒子が貫通孔8を通過することを抑制しつつ、ウェルアレイフィルター1全体としての流量が確保できる。また、各ウェル底部4に形成されている複数の貫通孔8が前記位置関係(式(1))を満たすことにより、ウェル3内に細胞C等の粒子が一つ捕獲された際に、この粒子が複数の貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる確率が高い。
【0054】
よって、図2に示すように、一つ目の粒子が捕獲された後は、そのウェル3内の全ての貫通孔8を通過する分散媒の流量が適度に低下し、流れに乗って2つ目以降の粒子が同じウェル3内に入ってくることが抑制され、むしろ、隣接する空のウェル3に細胞C等が導かれて捕捉される確率が高まる。これにより、多くのウェル3内に一つずつ粒子が捕獲される確率が高く、すなわち捕獲率およびシングルセル率がいずれも高く、かつ通液性が良好であり、各ウェルでの粒子の単離が効率よく安定して行えるという優れた効果を奏する。
【0055】
また、この実施形態では、ウェル3間のウェル隔壁6が十分に薄いため、ウェル隔壁6上に細胞やビーズ等の粒子が残留しにくいうえ、開口径の適切な設定により複数の粒子が一つのウェル3の中に進入する率も減らすことができ、開口径に比して十分に深さのあるウェル3で粒子を安定的に捕捉できる。また、ウェル3が多角形状であるから自動画像解析の際に粒子とウェル3とを識別することが容易であり、さらに高密度にウェル3を配置できるため多数の粒子を一度にスクリーニングできる利点を有する。
【0056】
[ウェルアレイフィルターの第2実施形態]
図4は、ウェルアレイフィルター1の各ウェル底部4の貫通孔8の数が二つである場合に貫通孔8の形状の変形例を示す。
図4(a)は第2実施形態であり、貫通孔8が矩形状をなし、互いの2辺がそれぞれ同一線上に並ぶように平行に配置されている。矩形の角は丸みを帯びているが、丸みを帯びていなくてもよい。最小外接円G1は各貫通孔8の外側の2頂点を通過して各貫通孔8に外接している。貫通孔8の中心C1,C2は、貫通孔8が互いに向かい合う方向に延びる最小外接円G1の直径Sと、貫通孔8の開口縁が交差する2点の中心と定義する。他の実施形態においても同様である。
【0057】
第2実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図4(a)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる上、貫通孔8が矩形状であるから、円である場合に比して開口面積の割に最大内接円の径が小さく、細胞C等が通り抜ける可能性が低下する。第2実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0058】
[ウェルアレイフィルターの第3実施形態]
図4(b)は第3実施形態であり、貫通孔8が楕円形状または長円形状をなし、互いの短径(長径でもよい)がそれぞれ同一線上に並ぶように配置されている。最小外接円G1は各貫通孔8の外側の1点を通過して各貫通孔8に外接している。貫通孔8の中心C1,C2は、貫通孔8が互いに向かい合う方向に延びる最小外接円G1の直径Sと、貫通孔8の開口縁が交差する2点の中心である。
【0059】
第3実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図4(b)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる上、貫通孔8が楕円形であるから、円である場合に比して開口面積の割に最大内接円の径が小さく、細胞C等が通り抜ける可能性が低下する。第3実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0060】
[ウェルアレイフィルターの第4実施形態]
図4(c)は第4実施形態であり、貫通孔8が三角形状、好ましくは二等辺三角形をなし、互いの底辺を平行に対向させて配置されている。三角形の角は丸みを帯びているが、丸みを帯びていなくてもよい。最小外接円G1は各貫通孔8の外側の頂点を通過して各貫通孔8に外接している。貫通孔8の中心C1,C2は、貫通孔8が互いに向かい合う方向に延びる最小外接円G1の直径Sと、貫通孔8の開口縁が交差する2点の中心である。
【0061】
第4実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図4(c)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる上、貫通孔8が三角形であるから、円である場合に比して開口面積の割に最大内接円の径が小さく、細胞C等が通り抜ける可能性が低下する。また、三角形の底辺を向かい合わせて配置しているので、重複部分Jの面積が大きくしやすく、細胞C等が載った時の流路閉塞率を高めることができる。第4実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0062】
[ウェルアレイフィルターの第5実施形態]
図5は、ウェルアレイフィルター1の各ウェル底部4の貫通孔8の数が二つである場合に貫通孔8の形状を細長くした変形例を示す。
図5(a)は第5実施形態であり、貫通孔8が細長い矩形状をなし、互いの2つの短辺がそれぞれ同一線上に並ぶように平行に配置されている。矩形の角は丸みを帯びているが、丸みを帯びていなくてもよい。最小外接円G1は各貫通孔8の外側の2頂点を通過して各貫通孔8に外接している。貫通孔8の中心C1,C2は、貫通孔8が互いに向かい合う方向に延びる最小外接円G1の直径Sと、貫通孔8の開口縁が交差する2点の中心である。
【0063】
第5実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図5(a)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる上、貫通孔8が細長い矩形状であるから、円である場合に比して開口面積の割に最大内接円の径が小さく、細胞C等が通り抜ける可能性が低下する。また、矩形状の長辺を向かい合わせて配置しているので、重複部分Jの面積が大きくしやすく、細胞C等が載った時の流路閉塞率を高めることができる。第5実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0064】
[ウェルアレイフィルターの第6実施形態]
図5(b)は第6実施形態であり、貫通孔8が半円状をなし、互いの弦を平行に向かい合わせて配置されている。半円の角は丸みを帯びているが、丸みを帯びていなくてもよい。最小外接円G1は各貫通孔8の外側の頂点を通過して各貫通孔8に外接している。貫通孔8の中心C1,C2は、貫通孔8が互いに向かい合う方向に延びる最小外接円G1の直径Sと、貫通孔8の開口縁が交差する2点の中心である。
【0065】
第6実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図5(b)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる上、貫通孔8が半円状であるから、円である場合に比して開口面積の割に最大内接円の径が小さく、細胞C等が通り抜ける可能性が低下する。また、半円の弦を向かい合わせて配置しているので、重複部分Jの面積が大きくしやすく、細胞C等が載った時の流路閉塞率を高めることができる。第6実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0066】
[ウェルアレイフィルターの第7実施形態]
図5(c)は第7実施形態であり、貫通孔8が半円状をなし、互いの弦を平行に向かい合わせて配置され、弦は円弧状に形成されて、いわゆるバナナ形状をなしている。半円の角は丸みを帯びているが、丸みを帯びていなくてもよい。最小外接円G1は各貫通孔8の外側の頂点を通過して各貫通孔8に外接している。貫通孔8の中心C1,C2は、貫通孔8が互いに向かい合う方向に延びる最小外接円G1の直径Sと、貫通孔8の開口縁が交差する2点の中心である。
【0067】
第7実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を貫通孔8のいずれの中心C1、C2に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図5(c)は、最小外接円G1の中心を一方の貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる上、貫通孔8がバナナ形状であるから、円である場合に比して開口面積の割に最大内接円の径が小さく、細胞C等が通り抜ける可能性が低下する。また、バナナ形状の凹辺を向かい合わせて配置しているので、重複部分Jの面積が大きくしやすく、細胞C等が載った時の流路閉塞率を高めることができ、細胞Cを載置できる面積も大きくなる。第7実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0068】
[ウェルアレイフィルターの第8実施形態]
図6は、ウェル底部4の中央に合計3つの円形の貫通孔8を形成した場合を示している。
図6(a)は第8実施形態であり、この例では、ウェル底部4の中央に合計3つの円形の貫通孔8が形成されている。貫通孔8は正三角形の頂点位置にそれぞれ形成されていてもよいが、正三角形以外の二等辺三角形、直角三角形、不等辺三角形の頂点にそれぞれ形成されていてもよい。三角形に配列した場合は、三角形の内側、好ましくは重心位置にウェル底部4の中心が位置することが好ましい。第8実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0069】
第8実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を3つの貫通孔8のいずれの中心に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図6(a)は、最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、中心C1を有する右側の2つの貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる。また、3つの貫通孔8の中央に、細胞Cを載置するための比較的大きい面積を確保できる利点を有する。
【0070】
第8実施形態の貫通孔8の直径Dを小さくしていくと、図6(b)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する右側の2つの貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで接するようになり、さらに小さくすると、図6(c)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する右側の2つの貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複しなくなる。したがって、図6(c)は比較例となる。
【0071】
[ウェルアレイフィルターの第9実施形態]
図7は、ウェル底部4の中央に合計4つの貫通孔8が形成されている場合を示している。
図7(a)は第9実施形態であり、ウェル底部4の中央に合計4つの貫通孔8が形成されている。各貫通孔8は正方形の頂点位置にそれぞれ形成されていてもよいが、正方形以外の長方形、台形、不等辺四角形の頂点にそれぞれ形成されていてもよい。四角形に配列した場合は、四角形の内側、好ましくは重心位置にウェル底部4の中心が位置することが好ましい。また、3つの貫通孔8を三角形の頂点位置に配列し、三角形の内側もしくは3辺のいずれかの上に、4つ目の貫通孔8を配置してもよい。この場合、三角形は正三角形でもよいが、正三角形以外の二等辺三角形、直角三角形、不等辺三角形であってもよい。三角形に配列した場合は、三角形の内側、好ましくは重心位置にウェル底部4の中心が位置することが好ましい。第9実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0072】
第9実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を4つの貫通孔8のいずれの中心に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図7(a)は、最小外接円G1の中心を右にある貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、左側の3つの貫通孔8と、移動後の最小外接円G2がそれぞれ重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる。また、3つの貫通孔8の中央に、細胞Cを載置するための比較的大きい面積を確保できる利点を有する。
【0073】
第9実施形態の貫通孔8の直径Dを小さくしていくと、図7(b)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する右側の2つの貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで接する。さらに小さくすると、図7(c)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複しなくなる。したがって、図7(c)は比較例となる。
【0074】
[ウェルアレイフィルターの他の比較例]
図8は、ウェル底部4の中央に合計7つの貫通孔8が形成された例である。
図8(a)~(c)では、いずれも6つの貫通孔8が正六角形の頂点位置にそれぞれ形成され、7つ目の貫通孔8が正六角形の中央に形成されている。この配列であると、貫通孔8の開口径が共通である限り、図8のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2を重複させることができない。したがって、図8(a)~(c)はいずれも比較例となる。
【0075】
[ウェルアレイフィルターの第10実施形態]
図9は、ウェルアレイフィルター1の第10実施形態を示し、この例では、ウェル底部4の中央に、二つの円形の貫通孔8をスリット8Aでつないだ平面形状(鉄アレイ形状)の貫通孔8が形成されている。このような形状を有する貫通孔8の場合、貫通孔8の最大内接円直径が4μm以下である場合にも、スリット8Aの分、貫通孔8の開口面積(流路断面積)を大きく確保することができ、細胞やビーズ等の粒子が貫通孔8Aを通り抜けることを阻止しつつ、貫通孔8Aの流量を大きくすることができる。この場合、ウェル底部4の中心が貫通孔8A上に位置することが好ましい。第10実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0076】
第10実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を各貫通孔8のいずれの中心に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図9(a)は、最小外接円G1の中心を右側にある貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0077】
第10実施形態の貫通孔8の直径Dを小さくしていくと、図9(b)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する右側の2つの貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで接する。さらに小さくすると、図9(c)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複しなくなる。したがって、図9(c)は比較例となる。
【0078】
[ウェルアレイフィルターの第11実施形態]
図10(a)および(b)は、ウェルアレイフィルター1の第11実施形態を示し、この例では、ウェル底部4の中央に、中心から放射状に延びる3本のスリット8Aと、スリット8Aの末端に形成された貫通孔8が形成されている。このようなスリット8Aでつなげられた貫通孔8の場合には、最大内接円直径が小さくても、スリット8Aの分、開口面積(流路断面積)を大きく確保することができる。この場合、ウェル底部4の中心が放射状のスリット8Aの中心に位置することが好ましい。第11実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。
【0079】
第11実施形態においても、各ウェル底部4に形成されている貫通孔8の全てを囲む最小外接円G1を仮定し、この最小外接円G1の中心を各貫通孔8のいずれの中心に移動させた場合にも、移動後の最小外接円G2は貫通孔8の全てに対し少なくとも部分的に重なる位置関係を満たしている。図10(a)および(b)は、最小外接円G1の中心を右側にある貫通孔8の中心C2に移動させた場合を示し、左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複部分Jで重複している。これにより、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0080】
第11実施形態の貫通孔8の直径Dをさらに小さくしていくと、図10(c)のように最小外接円G1の中心を一つの貫通孔8の中心C2に移動させた場合に、中心C1を有する左側の貫通孔8と、移動後の最小外接円G2が重複しなくなる。したがって、図10(c)は比較例となる。
【0081】
[ウェルアレイフィルターの第12実施形態]
図11は、ウェルアレイフィルター1の第12実施形態を示し、この例では、ウェル隔壁6が正方眼形状に形成され、ウェル底部4はそれぞれ正方形に形成されていることを特徴とする。ウェル隔壁6は正方眼形状に限定されず、斜方眼形状であっても、直方眼形状であってもよいが、個々のウェル3の形状は互いに同一であることが好ましい。ウェル3を一列ごとに互い違いに配列してもよい。貫通孔8は、第1~第11実施形態のいずれかと同様でよい。第12実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。この第12実施形態においても、第1~第11実施形態のそれぞれと同様の効果が得られる。
【0082】
[ウェルアレイフィルターの第13実施形態]
図12は、ウェルアレイフィルター1の第13実施形態を示し、この例では、ウェル隔壁6が正三角形を交互に逆向きに並べた、いわゆるトラス形状に形成され、ウェル底部4はそれぞれ正三角形に形成されていることを特徴とする。ウェル隔壁6は正三角形状に限定されず、二等辺三角形状であっても、直角三角形形状であっても、不等辺三角形状であってもよいが、個々のウェル3の形状は互いに同一であることが好ましい。貫通孔8は、第1~第11実施形態のいずれかと同様でよい。第13実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様でよく、前述の説明を援用する。この第13実施形態においても、第1~第12実施形態のそれぞれと同様の効果が得られる。
【0083】
[ウェルアレイフィルターの製造方法の一実施形態]
図13(a)~(f)は、ウェルアレイフィルター1の製造方法の一例を示す断面図である。まず、図13(a)に示すように、Siウェーハ等からなる基板10上に、レジスト溶媒および現像液に溶解しない犠牲膜12を形成する。犠牲膜12は例えばスチレン系エラストマー、デキストリン、またはデキストラン等から形成することができる。
【0084】
次に、図13(b)に示すように、犠牲膜12上に、ネガ型の底部レジスト4Aを、ウェル底部4として必要な一定の厚さに形成する。底部レジスト4Aを所定のパターンで光リソグラフィーにより露光し、さらに現像を行って、図13(c)に示すように、貫通孔8を有するウェル底部4が、多角形のタイル状をなして、互いに間隙14を空けて配列された状態とする。間隙14の幅はウェル隔壁6の厚さよりも若干小さい程度とされる。また、ウェル底部4同士の間隙14は、部分的に細いブリッジで架橋された状態としてもよい。その場合、ブリッジによりウェル底部4同士の配列が乱れないように位置決めできる。
【0085】
次に、図13(d)に示すように、ウェル底部4を覆う隔壁レジスト6Aをウェル隔壁6として必要な厚さに形成する。この時、例えば、隔壁レジスト6Aを多官能エポキシ量が相対的に少ないフォトレジストで形成し、底部レジスト4Aを多官能エポキシ量が相対的に多いフォトレジストで形成し、ウェル底部4の材質の強度をウェル隔壁6の材質の強度よりも相対的に高めることが好ましい。この場合、副次効果として、ウェル隔壁6の材質の自家蛍光が相対的に弱く、ウェル底部4の材質の自家蛍光が相対的に強くなりはするが、ウェル底部4の厚さは小さいため、倒立顕微鏡による観察に悪影響を与えることはない。隔壁レジスト6Aに所定のパターンで光リソグラフィーにより露光し、さらに現像を行って、図13(e)に示すように、ウェル隔壁6を形成する。これにより、間隙14の内部には隔壁レジスト6Aが侵入し、露光により間隙14内で不溶化され、ウェル底部4同士を連結する。
【0086】
次に、ウェル底部4およびウェル隔壁6の全体を例えば180℃に加熱し、レジストをさらに熱硬化させたのち、レジストを変質させない溶媒で犠牲膜12を溶解し、基板10をウェル底部4から剥離して、前記第1~第13実施形態に示すようなウェルアレイフィルター1が完成する。
【0087】
前記製造方法によれば、形状精度の高いウェル3を有するウェルアレイフィルター1が効率よく製造できる。また、この製造方法によれば、ウェル底部4がタイル形状に分割されて相互に間隙14が形成された状態としたのち、ウェル隔壁6を形成して間隙14内にウェル隔壁6を形成する材料を侵入固化させるため、ウェル底部4の固化収縮のためにウェルアレイフィルター1に生じる反りや歪を低減できる。
【0088】
[粒子整列デバイスの実施形態]
図14および図15は、本発明に係る粒子整列デバイスの一実施形態40を示す平面図および縦断面図である。この粒子整列デバイス40は、長方形状の底板部42と、底板部42の中央部に形成された壁部44とを有する。壁部44は、底板部42から起立する四角い枠状の周壁部と、この周壁部の内側に起立して互いに平行に形成された2枚の隔壁を有し、周壁部の内側が隔壁により、第1室46、第2室48、および第3室50に区画されている。第1室46の底部には円筒状の開口部52が形成され、第3室50の底部にも円筒状の開口部54が形成されている。
【0089】
第2室48の底は開いており、図15に示すように、ウェルアレイフィルター1が底板部42から僅かな流路56を空けて壁部44の下端に固定されている。第1室46の底部と底板部42の間、第3室50の底部と底板部42の間もそれぞれ一定の間隙が空けられ、流路56を形成している。これにより、第2室48内に細胞Cやビーズ等の粒子を含む液体サンプルを入れ、開口部52または開口部54から液体を流出させることにより、ウェルアレイフィルター1のウェル3内に細胞Cやビーズ等の粒子を捕捉することが可能である。すなわち、第2室48、ウェルアレイフィルター1、貫通孔8を経て、流路56へと到るサンプル流路が形成される。また、開口部52または開口部54から液体の試薬を入れて第2室48内の細胞Cやビーズ等の粒子と反応させることもできる。
【0090】
[粒子捕獲方法の実施形態]
本発明に係る粒子捕獲方法の一実施形態は、粒子整列デバイス40のウェルアレイフィルター1を通じるサンプル流路、すなわち、ウェル3の開口部側から貫通孔8を通じてウェル3の底面側へ通じるサンプル流路に、ウェルアレイフィルター1およびデバイス本体40を溶解または変質させない有機溶媒を含む液体を通液させる工程と、前記サンプル流路に水溶液を通液させて前記有機溶媒を含む液体を前記水溶液で置換する工程と、前記サンプル流路に、ウェル3で捕捉すべき粒子を含む水溶液を通液させ、ウェル3内に粒子を捕獲する工程とを有する。
【0091】
具体的には、粒子整列デバイス40の第2室48にエチルアルコール等の水溶性かつ低界面張力の有機溶媒、あるいは、30~80%程度のエチルアルコール等の有機溶媒を含む水溶液等の液体を供給し、ウェルアレイフィルター1に有機溶媒を含む液体を通液させる。前記液体としては、例えば70%エチルアルコール水溶液なども好適に使用できる。これにより、貫通孔8にも有機溶媒が満たされる。次に、リン酸緩衝液 (PBS)などの緩衝液等の水溶液を第2室48に加え、開口部52および/または開口部54から有機溶媒を含む液体を吸引する。これを数回繰り返して、第2室48、貫通孔8、および流路56の内部の有機溶媒を含む液体をリン酸緩衝液の水溶液で置換する。
【0092】
次に、リン酸緩衝液等に細胞Cおよび/またはビーズ等の粒子を分散させたサンプル液体を第2室48に供給し、開口部52および/または開口部54からリン酸緩衝液を吸引することにより、細胞Cおよび/またはビーズは各ウェル3に一つずつもしくはほぼ一定の個数ずつ捕捉される。
【0093】
次に、ターゲットとする細胞Cまたは細胞分泌物が付着したビーズと結合する試薬を第2室48または開口部52,54から加え、ターゲットをマーキングした後、倒立顕微鏡でターゲットを特定し、ピペットやキャピラリー等でウェル3からターゲットとなる細胞Cまたはビーズを補集する。
【0094】
以上の粒子捕獲方法によれば、ウェルアレイフィルター1を通じるサンプル流路に有機溶媒を含む液体を通液させ、さらに水溶液で置換した後に、細胞、細胞の成分や分泌物を付着させたビーズ、または、細胞の成分や分泌物を付着させるためのビーズ等の粒子を含む水溶液を通液させることにより、通液抵抗が減少するとともに、ウェル3に気泡が残留しにくくなり、各ウェル3内に一つずつもしくは所定数ずつ細胞Cまたはビーズ等の粒子を捕獲することが容易となる。したがって、第1実施形態~第13実施形態のウェルアレイフィルター1の効果と相まって、多数の粒子のスクリーニングが効率よく安定して行える利点を有する。
【0095】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態のみに限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲内で、構成要件の追加、削除、および変更が可能である。
【実施例0096】
次に、本発明の実施例を説明する。
[実験1]
図16に示すように、二つの同一矩形状の貫通孔8を、互いの2辺をそれぞれ直線上に配置した場合の本発明の実施例としての成立条件を求めた。貫通孔8の離間量をa(μm)、矩形状の貫通孔8の横辺の長さをb(μm)、縦辺の長さをc(μm)、左側の貫通孔8の左上頂点から右側の貫通孔8の右下頂点までの距離の1/2をR(μm)、一方の貫通孔8の中心から他方の貫通孔8までの長さをr(μm)とした。距離R(μm)は、最小外接円の半径となる。長さr(μm)は最小外接円の中心を左側の貫通孔8の中心に移動させた後に移動後の最小外接円が右側の貫通孔8に接するための接触最小半径である。
【0097】
最小外接円の半径R(μm)は、離間量a(μm)、横辺の長さb(μm)、縦辺の長さc(μm)を用いて下記のように求められる。
【数1】
【0098】
接触最小半径r(μm)は、離間量a(μm)、横辺の長さb(μm)を用いて下記のように求められる。
【数2】
【0099】
したがって、R>rを満たすように、貫通孔8の離間量をa(μm)、矩形状の貫通孔8の横辺の長さをb(μm)、縦辺の長さをc(μm)を設定すれば、本発明の実施例の条件を満たすことになる。実施例の条件を満たす場合(実施例)と、満たさない場合(比較例)の具体例を示すと以下の通りである。
【0100】
[満たす場合の例]
貫通孔8の離間量a:1.00(μm)、矩形状の貫通孔8の横辺の長さb:2.50(μm)、縦辺の長さc:6.02(μm)、最小外接円の直径2R:8.50(μm)
[満たさない場合の例]
貫通孔8の離間量a:3.00(μm)、矩形状の貫通孔8の横辺の長さb:2.50(μm)、縦辺の長さc:2.87(μm)、最小外接円の直径2R:8.50(μm)
【0101】
[実験2]
図17に示すように、正三角形の頂点位置に円形の貫通孔8の中心がくるように3つの同一の貫通孔8を配置した場合の本発明の実施例としての成立条件を求めた。貫通孔8の中心間の離間量をa(μm)、貫通孔8の直径をr(μm)、最小外接円の半径をA(μm)、一方の貫通孔8の中心から他方の貫通孔8に接するまでの長さをB(μm)とした。長さB(μm)は最小外接円の中心を左下の貫通孔8の中心に移動させた後に移動後の最小外接円が上側の貫通孔8に接するための接触最小半径である。
【0102】
最小外接円の半径A(μm)は下式で表される。
【数3】
接触最小半径B(μm)は下式で表される。
【数4】
したがって、重複部分Jの幅は、下式で表される。
【数5】
【0103】
図18は、貫通孔8の直径rを2.25,2.50、2.75、3.00μmにそれぞれ変更し、貫通孔8の中心間の離間量a(μm)を変化させた場合のA-Bの値、すなわち左下の貫通孔8の中心に移動させた後に最小外接円が上側の貫通孔8に重複する幅(μm)を示している。
【0104】
図18のA-B値がマイナスになることは、左下の貫通孔8の中心に移動させた後に最小外接円が上側の貫通孔8に重複しないことを示し、図中「NG」とした。図18のA-B値がプラスになることは、左下の貫通孔8の中心に移動させた後に最小外接円が上側の貫通孔8に重複することを示し、図中「OK」とした。図18に示すように、例えば、貫通孔8の直径r(μm)を2.25とした場合は離間量a(μm)=3.00μm以上5.32μm未満の場合に本発明の実施例となり、離間量a(μm)=5.32以上の場合は本発明の要件を満たさず比較例となった。
【0105】
[実験3]
図19に示すように、4つの同一円形の貫通孔8を、長方形の頂点位置に配置した場合の実施例の成立条件を求めた。貫通孔8の中心の図中左右方向の離間量をa(μm)、貫通孔8の中心の上下方向の離間量をb(μm)、貫通孔8の直径をr(μm)、全ての貫通孔8に接する最小外接円の半径をA(μm)、右下の貫通孔8の中心から左上の貫通孔8に接するまでの距離をB(μm)とした。距離B(μm)は最小外接円の中心を右下の貫通孔8の中心に移動させた後に移動後の最小外接円が左上の貫通孔8に接するための接触最小半径である。
【0106】
最小外接円の半径をA(μm)は、左右方向の離間量をa(μm)、上下方向の離間量をb(μm)、貫通孔8の直径をr(μm)を用いて下記のように求められる。
【数6】
【0107】
右下の貫通孔8の中心から左上の貫通孔8に接するまでの距離をB(μm)は、下式で示される。
【数7】
【0108】
A>Bとなれば、本発明の条件を満たすから、下式が求められた。図19の配置であれば、この式を満たせば、本発明の効果が得られる。
【数8】
【0109】
図20は、貫通孔8の直径r(μm)を1.50、1.75、2.00、2.25、2.50、2.75、3.00、3.25、3.50μmに設定した場合のそれぞれについて、貫通孔8の中心の左右方向の離間量a(μm)と、貫通孔8の中心の上下方向の離間量b(μm)を変化させた場合に、本発明の実施例の成立条件を満たす「OK」範囲を示している。図20に示すように、貫通孔8を長方形の頂点位置に配置した場合にも、本発明の実施例の成立条件は容易に判定できることがわかった。図19の配列において、実施例の条件を満たす場合(実施例)と、満たさない場合(比較例)の例を示すと以下の通りであった。
【0110】
[満たす場合の例]
貫通孔8の中心の左右方向の離間量a:4.35μm、貫通孔8の中心の上下方向の離間量b:4.35μm、貫通孔8の直径r:3.35μm、全ての貫通孔8に接する最小外接円の直径(2A):9.50μm
[満たさない場合の例]
貫通孔8の中心の左右方向の離間量a:4.42μm、貫通孔8の中心の上下方向の離間量b:4.54μm、貫通孔8の直径r:3.16μm、全ての貫通孔8に接する最小外接円の直径(2A):9.50μm
【0111】
また、図19のように矩形状の貫通孔8の4つを縦横辺を同一線上に揃えて配置した場合に実施例の条件を満たす場合(実施例)と、満たさない場合(比較例)の具体例を示すと以下の通りであった。
【0112】
[満たす場合の例]
矩形状の貫通孔8の横辺の長さ:2.50μm、貫通孔8の縦辺の長さ:3.25μm、貫通孔8の左右方向の離間量:1.00μm、貫通孔8の上下方向の離間量:1.00μm、全ての貫通孔8に接する最小外接円の直径:9.50μm
[満たさない場合の例]
矩形状の貫通孔8の横辺の長さ:2.00μm、貫通孔8の縦辺の長さ:2.51μm、貫通孔8の左右方向の離間量:1.00μm、貫通孔8の上下方向の離間量:3.05μm、全ての貫通孔8に接する最小外接円の直径:9.50μm
【0113】
[実験4]
種々の個数、形状、サイズの貫通孔8を、ウェル底部4に形成したウェルアレイフィルター1を実際に作成し、粒子整列デバイス40にセットし、細胞Cを分散させたサンプル液体を通液した後のシングルセル率と、エタノールの通液性とを調べた。
図13およびウェルアレイフィルターの製造方法の一実施形態で説明した方法により、実施例1~6および比較例のウェルアレイフィルターを実際に製造した。ウェル3の開口部は正六角形とし、平行な二辺間の開口径は50μmとした。隔壁レジスト6Aは多官能エポキシ量が相対的にネガ型の少ないフォトレジストで形成し、底部レジスト4Aは多官能エポキシ量が相対的に多いネガ型のフォトレジストで形成した。
【0114】
図21は、製造された実施例1~6および比較例のウェルアレイフィルターの貫通孔8のSEM像(走査型電子顕微鏡写真)と、個々の貫通孔8の平面視形状と、ウェル3毎の貫通孔8の個数と、貫通孔8の配置状態と、貫通孔8の短径(μm)および長径(μm)と、貫通孔8の中心間距離(μm)と、最小外接円をいずれの貫通孔8の中心に移動したとしても必ず全ての貫通孔8と移動後の最小外接円が重複するか否か(貫通孔重なり)を示した。貫通孔重なりは、○が重複し、×が重複しなかったことを示した。
【0115】
図21に示すように、実施例1~6は全て、最小外接円をいずれの貫通孔8の中心に移動したとしても必ず全ての貫通孔8と移動後の最小外接円が重複した。一方、貫通孔8を正六角形の頂点位置に配列した実施例は、最小外接円を外側の貫通孔8の中心に移動すると反対側の貫通孔8と最小外接円が重複しなかった。
【0116】
次に、実施例1~6および比較例のウェルアレイフィルターを、ウェル形成領域:17mm×17mm)として粒子整列デバイス40に装着し、エチルアルコールの通液後、リン酸緩衝液 (PBS)を3回通液した。次に、所定の細胞を所定の播種細胞数だけ分散させたリン酸緩衝液1mlを第2室48に入れて、ウェルアレイフィルターに通液した。細胞としては、PBMC(末梢血単核細胞)を使用した。ウェルアレイフィルター中のウェル数は90000で、ウェル数に対しておよそ15~90%の数の細胞を入れた。
【0117】
次に、DAPI水溶液でウェル3内の細胞を染色し、倒立型蛍光顕微鏡で底板部42を通してウェル3内の細胞を観察し、顕微鏡の視野内で、全ウェル中で細胞Cが1以上捕捉されているウェル数A、細胞Cが一つだけ捕捉されているウェル数Bを計測し、B/Aをシングルセル率とした。ウェル数に対する細胞占有率(%)は、ウェルアレイフィルター中の全ウェル数に対する播種細胞数の比率(播種細胞数/全ウェル数)である。その結果を図22に示す。
【0118】
図22中の「ポアソン分布」の数値は、播種細胞数とウェル数の比率から統計的に計算されたウェル数に対する細胞占有率(%)と、シングルセル率(%)を示す。
【0119】
図22に示すように、実施例1~6のウェルアレイフィルターでは、統計的な確率計算で求められたポアソン分布のシングルセル率(%)よりも、高いシングルセル率(%)が得られた。これは、ウェル3に一つ目の細胞が捕捉された後は、2つ目の細胞が入りにくくなるとともに、隣接する他のウェル3に細胞が流れたことを示し、ウェル3の形状や貫通孔8の設定が適切であることを示していた。貫通孔8の中心間距離はが4.00μmの実施例1,3,5がシングルセル率が高かった。比較例シングルセル率(%)は、ポアソン分布の場合と同程度に過ぎず、本発明の効果が証明できた。
【0120】
[実験5]
実施例1~6および比較例のウェルアレイフィルターを用いて、エチルアルコールの通液時間の測定を行った。各ウェルアレイフィルターを粒子整列デバイス40に装着し、ウェルアレイフィルターのウェル形成領域は17mm×17mmの正方形とした。第2室48にエチルアルコールを0.5ml注入し、ウェルアレイフィルターを通過して流路56にエチルアルコールの全量が流れ込むまでの通液時間(秒)を測定した。また、貫通孔8の合計開口面積がウェル形成領域に占める割合、開口率(%)も求めた。これらの結果を図23および図24に示す。
【0121】
実施例1~6はいずれも、エチルアルコールの通液時間が99秒以下で、実用上の許容範囲であった。比較例は貫通孔8が7つあるため開口率(%)が高かったが、実施例1,2,4は比較例と比べても通液時間は遜色がなかった。実用上、エチルアルコールの通液時間が60秒以下であるとより使用しやすいため、貫通孔8の開口率は0.5%以上が望ましいことがわかった。ウェル3が六角形で平行な2辺間の開口径が10μm、ウェル隔壁6の厚さ2μmで、直径2μmの円形の貫通孔を設けた場合には、貫通孔8の開口率が3%になる。したがって、開口率は0.5~3%の範囲が望ましいことがわかった。図21~24に示す結果から、高いシングルセル率と通液性が両立するのは、実施例1,2,5であり、特に、実施例1,5が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、捕捉すべき細胞またはビーズ等の粒子が貫通孔を通過することを抑制しつつ、ウェルアレイフィルター全体としての流量が確保できるうえ、各ウェル底部に形成されている複数の貫通孔が前記位置関係を満たすことにより、ウェル内に前記粒子が一つ捕獲された際に、この粒子が前記複数の貫通孔の全てに対し少なくとも部分的に重なる確率が高い。よって、一つ目の粒子が捕獲された後は、そのウェル内の全ての貫通孔を通過する分散媒の流量が適度に低下し、流れに乗って2つ目以降の粒子がウェル内に入ってくることが抑制され、隣接する空のウェルに細胞等が導かれて捕捉される確率が高まる。これにより、多くのウェル内に一つずつ粒子が捕獲される確率が高く、シングルセル率が高くかつ通液性が良好であり、各ウェルでの粒子の単離が安定して行える。したがって、産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 ウェルアレイフィルター
2 フィルタ本体
3 ウェル
4 ウェル底部
4A 底部レジスト
6 ウェル隔壁
6A 隔壁レジスト
8 貫通孔
10 基板
12 犠牲膜
14 間隙
40 粒子整列デバイス
41 デバイス本体
42 底板部
44 壁部
46 第1室
48 第2室
50 第3室
52 開口部
54 開口部
56 流路
A 開口径
B 隔壁厚さ
C 細胞
P ピペット
W 離間幅
D 直径
G1 最小外接円
G2 移動後の最小外接円
J 重複部分
図1
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