(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071119
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】Al脱酸鋼の溶製方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/06 20060101AFI20240517BHJP
C21C 7/072 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C21C7/06
C21C7/072 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181890
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川上 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】島本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓也
(72)【発明者】
【氏名】今村 直也
(72)【発明者】
【氏名】魚田 剛史
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013AA07
4K013BA08
4K013BA14
4K013CA02
4K013CA15
4K013CF13
4K013EA19
4K013FA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高清浄度な溶鋼を、LF工程での処理時間を延長することなく効率的に溶製可能なAl脱酸鋼の溶製方法の提供。
【解決手段】転炉出鋼後にLF処理工程を行い、その後鋳造工程に送られる溶鋼について、LF処理工程後の合金元素が、C:0.04~0.20wt%、Si:0.01~0.15wt%、Mn:0.15~2.13wt%、Al:0.024~0.035wt%、残部:Feを含むものとされたAl脱酸鋼を溶製する方法であって、LF処理工程での取鍋内の不活性ガスに関し、(シールガス流量Q1+攪拌ガス流量Q2)/炉蓋内体積V≧0.26(/min)を満たすものとし、攪拌ガス流量Q2を溶鋼1ton当たり2.67(NL/(min・ton))以下とし、Alを溶鋼に添加する際2回目以降の累積のAl投入量を、溶鋼1tonあたり0.07(kg/ton)以下とし、LF処理工程でのAlの総投入量を所定の式を満たすものとする方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉出鋼後にLF処理工程を行い、その後、下工程である鋳造工程に送られる溶鋼について、前記LF処理工程後の合金元素が以下に示すものとされたAl脱酸鋼を溶製する方法であって、
・C:0.04~0.20wt%
・Si:0.01~0.15wt%
・Mn:0.15~2.13wt%
・Al:0.024~0.035wt%
・残部:少なくともFeを含む
前記LF処理工程での取鍋内の不活性ガスに関し、
(炉蓋内へのシールガス流量Q1+溶鋼の攪拌に用いる攪拌ガス流量Q2)
/取鍋の炉蓋内における体積V ≧ 0.26(/min)
を満たすものとし、
前記不活性ガスによる前記攪拌ガス流量Q2を、溶鋼1ton当たり2.67(NL/(min・ton))以下とし、
Alを前記溶鋼に添加するに際して、2回目以降の累積のAl投入量を、溶鋼1tonあたり0.07(kg/ton)以下とし、
さらに、前記LF処理工程でのAlの総投入量を、式(1)を満たすものとする
ことを特徴とするAl脱酸鋼の溶製方法。
【数1】
ただし、
w
Al:Al合金投入量(kg)
w
Fe:溶鋼量(ton)
N
Al:Al合金純分(-)
t:搬出の目標処理時間(分)
[%C]
ini:処理前C濃度(wt%)
[%Al]
ini:処理前Al濃度(wt%)
[%Al]
uplimit:Al濃度の規格上限(wt%)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LF工程において、効率的で且つ高清浄度なAl脱酸鋼を溶製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度の部品を製造する際に用いられる鋼塊や鋼材は、高い耐疲労特性が要求される。そのため、疲労特性に大きな影響を及ぼす介在物の非常に少ない高清浄鋼(高清浄度鋼)であることが必要となる。高清浄鋼を製造する方法としては、転炉での一次精錬と、転炉から出鋼された溶鋼に対し二次精錬を行うことで、組成調整を実施している。高清浄鋼を製造する技術としては、例えば、特許文献1~5などに開示されているものがある。
【0003】
特許文献1は、不活性ガスや二酸化炭素ガスの使用量の増加を削減しながら、溶鋼への窒素吸収をさらに抑制することを目的としている。具体的には、溶鋼にCaO系フラックスを添加する工程1、取鍋の上方開口部を覆う取鍋蓋を設置し、溶鋼中に攪拌ガスを吹き込むことにより、取鍋蓋の内部への大気の侵入を抑制しながら溶鋼およびCaO系フラックスを攪拌するとともに、溶鋼に酸素ガスを上吹き供給しつつ、酸素ガスと溶鋼との反応により生成した酸化物をCaO系フラックスと混合してカバースラグを形成する工程2、および、酸素ガスの供給を停止し、溶鋼に攪拌ガスを吹き込むことにより脱硫および介在物除去を行う工程3の順序で、Alを含有する溶鋼を処理して極低硫低窒素鋼を溶製する。工程2,3において取鍋蓋の内部に液体の水を供給することとされている。
【0004】
特許文献2は、特に取鍋の上縁部と取鍋蓋との間に隙間が発生して密閉性が低下した場合にあっても、吸窒抑制効果を十分に得ることを目的としている。具体的には、Alを含有する溶鋼に、大気圧下で、取鍋内溶鋼にCaO系フラックスを添加し、大気圧下で、取鍋開口部を覆い、酸素ガス上吹きランス挿入孔,溶鋼攪拌用のランス挿入孔,合金添加孔の少なくとも一つを備えた取鍋蓋を設置し、取鍋内溶鋼中に攪拌ガスを吹き込んで、取鍋蓋の内側への大気の侵入を抑制しつつ溶鋼及びCaO系フラックスを攪拌するとともに、溶鋼に酸素ガスを上吹きしつつ生成した酸化物をCaO系フラックスと混合してカバースラグを形成した後に、酸素ガスの供給を停止し、大気圧下の取鍋内溶鋼中に攪拌ガスを吹き込んで脱硫及び介在物除去を行って極低硫低窒素鋼を溶製する。酸素ガス上吹き時に不活性ガス又は二酸化炭素ガスを上吹き酸素ガスの周囲に随伴させて溶鋼に吹き付けることとされている。
【0005】
特許文献3は、Alキルド鋼溶製用の高Al2O3含有耐火物からなる取鍋を用いても、高い生産性で低Al鋼を溶製可能にすることを目的としている。具体的には、質量%で、C:0.03-1.2%、Si:0.03-0.8%、Mn:0.1-2.5%、P:0.01%以下、S:0.150%以下、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.1%以下、Ca:0.0020%以下、O:0.0050%以下およびN:0.001-0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる低Al鋼の溶製方法であって、取鍋がAl2O3を55質量%以上含有する耐火物からなり、前記取鍋の鋼浴部の面積A[m2]と前記取鍋に収容される溶鋼の体積V[m3]の比A/Vが2.5[m2/m3]以下を満足し、溶鋼の攪拌時の攪拌エネルギーKが0.3[MJ/t]以下を満足、または、溶鋼のガス攪拌および溶鋼の環流操作に伴う攪拌動力密度εLが130[W/t]以下を満足するものとされている。
【0006】
特許文献4は、溶鋼の精錬方法において、低融点介在物を起因とする連続鋳造時のノズル詰まりや、圧延鋼板での表面欠陥を防止することを目的としている。具体的には、取鍋中の溶鋼を大気圧雰囲気においてArガス攪拌を行いつつ精錬する簡易取鍋精錬法を用いて、Al脱酸またはAl-Si脱酸した溶鋼中に希土類元素(REM)を添加し、溶鋼に供給するREM添加量は溶鋼質量に対して5~20ppmの範囲内であり、REM添加時期は簡易取鍋精錬法での最終成分調整後であって、かつ添加から処理終了までの時間が均一混合時間以下の時期に行い、介在物組成を質量比で、CaO%=1~25%、Al2O3%=8~95%、REM酸化物%=3~90%とすることにより、形成される介在物を高融点化して無害化することとされている。
【0007】
特許文献5は、取鍋精錬によって鋼中のアルミナ系介在物を経済的に効率よく無害化処
理することを目的としている。具体的には、取鍋内の溶鋼を、湯面上のスラグと共に攪拌して処理する際に、アーク加熱とガス攪拌を併用し、該溶鋼中のAl濃度が0.005質量%以上の状態で、スラグ中の(MgO)濃度と溶鋼攪拌時間が下記式(1)の関係を満たす条件で処理することとされている。
【0008】
y≧-0.11×x+8……(1)
式(1)中、yは処理終了時の取鍋内スラグ中の(MgO)濃度(質量%)、xは攪拌時間(分)を表わす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-016843号公報
【特許文献2】特開2014-148737号公報
【特許文献3】特開2012-172218号公報
【特許文献4】特開2010-236030号公報
【特許文献5】特開2003-286515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さて、LF(Ladle Furnace)工程において、スラグ中に多くの低級酸化物(T.Fe+MnO)が含有されていると、溶鋼の搬出~鋳造工程の間において低級酸化物と溶鋼中のAlが反応し、Al2O3が生成される。その結果、溶鋼の清浄度が悪化した状態で鋳造工程に移される。そのため、溶鋼を搬出する段階で、低級酸化物を低減する必要がある。
【0011】
LF工程において、低級酸化物を低減するためには、(i)大気酸化を抑制すること、(ii) 溶鋼中のAl濃度を高め、脱酸を強化し、低級酸化物を還元することが必要である。
【0012】
(i)については、取鍋内雰囲気の酸素分圧を低減することと、プルーム径(雰囲気ガス/溶鋼間の接触面積)を小さくする必要がある。
【0013】
(ii)については、溶鋼中のAl濃度を高めるほど低級酸化物を低減することができるが、その一方で、溶鋼中のAl濃度を高めすぎると、成分規格内に収める(成分脱線を防止する)ためにLF工程での処理時間を延長し、溶鋼中のAl濃度を下げる必要が生じる。
【0014】
このように、低級酸化物を低減して、LF工程での処理時間を延長することなく効率的に、高清浄度な溶鋼を溶製することが求められる。
【0015】
特許文献1は、2回目以降の累積のAl投入量を規定しておらず、初期の脱酸が不十分な場合には低級酸化物を低減させることができない。また、溶鋼を攪拌するために用いられる攪拌ガス流量が多く、大気酸化による低級酸化物の生成を抑制することができない。
【0016】
特許文献2は、2回目以降の累積のAl投入量を規定しておらず、初期の脱酸が不十分な場合には低級酸化物を低減させることができない。また、溶鋼を攪拌するために用いられる攪拌ガス流量が多く、大気酸化による低級酸化物の生成を抑制することができない。
【0017】
特許文献3は、炉蓋内へのシールガス流量を規定しておらず、そのシールガス流量が不十分な場合には、大気酸化により低級酸化物が生成されてしまう。なお、本発明は、低Al鋼を対象としており、転炉出鋼中に製品規格成分に応じたAl合金の添加を行わない。すなわち、特許文献3は、本発明と技術が異なる。
【0018】
特許文献4は、炉蓋内へのシールガス流量を規定しておらず、そのシールガス流量が不十分な場合には、大気酸化により低級酸化物が生成されてしまう。また、Al投入量や投入回数を規定しておらず、初期の脱酸が不十分な場合には低級酸化物を低減させることができない。
【0019】
特許文献5は、アルミキルド鋼の清浄化処理方法の技術であるが、介在物組成の制御を目的としており、処理時間の延長の有無と低級酸化物の清浄化についての記載はされていない。すなわち、特許文献5は、本発明と技術が異なる。
【0020】
また近年では、鋼材の高付加価値化や環境に対する配慮等に伴い、ユーザーからの品質要求も高まってきている。このような状況の中で、LF工程での処理時間を延長することなく、高清浄度な溶鋼を効率的に溶製することが求められている。
【0021】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、高清浄度な溶鋼を、LF工程での処理時間を延
長することなく効率的に溶製することができるAl脱酸鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
【0023】
本発明にかかるAl脱酸鋼の溶製方法は、転炉出鋼後にLF処理工程を行い、その後、下工程である鋳造工程に送られる溶鋼について、前記LF処理工程後の合金元素が以下に示すものとされたAl脱酸鋼を溶製する方法であって、
・C:0.04~0.20wt%
・Si:0.01~0.15wt%
・Mn:0.15~2.13wt%
・Al:0.024~0.035wt%
・残部:少なくともFeを含む
前記LF処理工程での取鍋内の不活性ガスに関し、以下に示す式を満たすものとし、
(炉蓋内へのシールガス流量Q1+溶鋼の攪拌に用いる攪拌ガス流量Q2)
/取鍋の炉蓋内における体積V ≧ 0.26(/min)
前記不活性ガスによる前記攪拌ガス流量Q2を、溶鋼1ton当たり2.67(NL/(min・ton))以下とし、Alを前記溶鋼に添加するに際して、2回目以降の累積のAl投入量を、溶鋼1tonあたり0.07(kg/ton)以下とし、さらに、前記LF処理工程でのAlの総投入量を、式(1)を満たすものとすることを特徴とする。
【0024】
【0025】
ただし、
wAl:Al合金投入量(kg)
wFe:溶鋼量(ton)
NAl:Al合金純分(-)
t:搬出の目標処理時間(分)
[%C]ini:処理前C濃度(wt%)
[%Al]ini:処理前Al濃度(wt%)
[%Al]uplimit:Al濃度の規格上限(wt%)
【発明の効果】
【0026】
本発明のAl脱酸鋼の溶製方法によれば、高清浄度な溶鋼を、LF工程での処理時間を延長することなく効率的に溶製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】取鍋の炉蓋内でのシールの状況を模式的に示した図である。
【
図2】炉蓋内でのシールの状況を示す比((Q1+Q2)/V)と、低級酸化物(T.Fe+MnO)の関係を示した図である。
【
図3】取鍋内での攪拌ガスによる影響を模式的に示した図である。
【
図4】溶鋼1ton当たりの攪拌ガス流量(Q2/W
Fe)と、低級酸化物(T.Fe+MnO)の関係を示した図である。
【
図5】取鍋内での溶鋼中のAlと低級酸化物の反応を模式的に示した図である。
【
図6】Al投入のフローを示した図である(Al投入回数が3回の場合を示す)。
【
図7】溶鋼1ton当たりの微調Al投入量(W
Al-tweak/W
Fe)と、低級酸化物(T.Fe+MnO)の関係を示した図である。
【
図8】式(1)の範囲内でのAl投入量による、溶鋼中のAl濃度の推移をイメージしたものを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明にかかるAl脱酸鋼の溶製方法の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
【0029】
清浄度を要求される鋼材(高清浄鋼)は、転炉での一次精錬工程と、取鍋精錬工程(LF工程)での二次精錬工程から成る製鋼工程を経て溶製される。
図1に示すように、LF工程では、取鍋1上部側に配備されたランス2、または、底部に設けられたポーラス耐火物からのガス撹拌による成分調整、電極加熱による温度調整を実施している。
【0030】
取鍋1は、転炉から出鋼された溶鋼3を装入するための容器である。取鍋1は、外側に鉄製の容器(鉄皮)を備え、溶鋼3と接触する内側には耐火物が施工されている。また、取鍋1上部の炉蓋4からは、シールガスが炉内に吹き込まれている。
【0031】
ランス2は、内部にガス配管を通した棒状の耐火物であり、先端には溶鋼3にガスを吐出する吐出孔が設けられている。つまり、LF工程では、取鍋1内の溶鋼3にランス2を浸漬させて、吐出孔から不活性(Ar,N2)ガスを吹き込むことで、溶鋼3の撹拌を行う。
【0032】
さて、LF(Ladle Furnace)工程において、スラグ5中に多くの低級酸化物(T.Fe+MnO)が含有されていると、溶鋼3の搬出~鋳造工程の間において低級酸化物と溶鋼3中のAlが反応し、Al2O3が生成される。その結果、溶鋼3の清浄度が悪化した状態で鋳造工程に移される。そのため、溶鋼3を搬出する段階で、低級酸化物を低減する必要がある。
【0033】
LF工程において、低級酸化物を低減するためには、(i)大気酸化を抑制すること、(ii) 溶鋼3中のAl濃度を高め、脱酸を強化し、低級酸化物を還元することが必要である。
【0034】
(i)については、取鍋1内雰囲気の酸素分圧を低減することと、プルーム径(雰囲気ガス/溶鋼3間の接触面積)を小さくする必要がある。
【0035】
(ii)については、溶鋼3中のAl濃度を高めるほど低級酸化物を低減することができるが、その一方で、溶鋼3中のAl濃度を高めすぎると、成分規格内に収める(成分脱線を防止する)ためにLF工程での処理時間を延長し、溶鋼3中のAl濃度を下げる必要が生じる。
【0036】
このように、低級酸化物を低減して、LF工程での処理時間を延長することなく効率的に、高清浄度な溶鋼3を溶製することが求められる。
【0037】
そこで、本発明では、(i)シールガス流量および攪拌ガス流量を規定することで、大気酸化を抑制し、(ii)Al投入量を規定することによって、LF工程での処理時間を延長することなく、スラグ5中の低級酸化物を低減することを可能とした。
【0038】
本実施形態では、転炉出鋼後にLF処理工程を行い、その後、下工程である鋳造工程(または連続鋳造工程)へと進む場合を対象としている。また、本実施形態では、LF直送材のみを対象とし、RH処理工程は経由しない。なお、本発明は、転炉出鋼中~LF搬入間の窒素ピックアップを抑制するため、転炉出鋼中に製品規格成分に応じたAl合金の添加を行っていない。
【0039】
本実施形態では、LF処理工程後に溶鋼3を取鍋1から搬出する段階において、LF処理工程後の溶鋼3中の合金元素を以下の成分範囲とする。また、本実施形態では、Al脱酸鋼を対象とする。
【0040】
・C:0.04~0.20wt%
・Si:0.01~0.15wt%
・Mn:0.15~2.13wt%
・Al:0.024~0.035wt%
・残部:Fe及び不可避的不純物
まず、LF処理工程での取鍋1内の不活性ガスに関し、下式を満たすものとする。
【0041】
(炉蓋4内へのシールガス流量Q1+溶鋼3の攪拌に用いる攪拌ガス流量Q2)
/取鍋1の炉蓋4内における体積V ≧ 0.26(/min)
図1に、取鍋1の炉蓋4内でのシールの状況を模式的に示す。
【0042】
図1に示すように、炉蓋4内雰囲気での酸素分圧が高いと、下式に示すように、大気酸化により低級酸化物(T.Fe+MnO)が生成する。
【0043】
1/2O2(g)+Fe,Mn=(FeO,MnO)
このことから、炉蓋4内雰囲気での酸素分圧を低減し、大気酸化を抑制するため、炉蓋4内の不活性ガス(Ar,N2)によるシールガス流量を増加させるようにする。本実施形態では、低級酸化物が低減されたことを評価するにあたり、LF処理工程後のT.Fe+MnO≦1.00wt%(評価(1))とした。また、脱線防止のための処理時間延長の有無を、評価(2)とした。
【0044】
図2に、炉蓋4内でのシールの状況を示す比((Q1+Q2)/V)と、低級酸化物(T.Fe+MnO)の関係を示す。
【0045】
図2に示すように、本実施形態では、後ほど示す表2のNo.1~3と、評価(1)(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たしたNo.12~15を比較し、「(シールガス流量Q1+攪拌ガス流量Q2)/取鍋1の炉蓋4内における体積V」の比を≧0.26(/min)と規定した。
【0046】
不活性ガス(Ar,N2)による攪拌ガス流量Q2を、溶鋼1ton当たり、2.67(NL/(min・ton)) 以下とする。
【0047】
図3に、取鍋1内での攪拌ガスによる影響を模式的に示す。
【0048】
図3に示すように、不活性ガス(Ar,N
2)による攪拌ガス流量Q2が多くなりすぎると、溶鋼3のプルーム径が大きくなり、雰囲気ガス/溶鋼3間の接触面積が増加し、大気酸化を生じやすくなる。このように、大気酸化による低級酸化物(T.Fe+MnO)の生成を抑制するため、攪拌ガス流量Q2に関して上限を設定する。
【0049】
図4に、溶鋼1ton当たりの攪拌ガス流量(Q2/W
Fe)と、低級酸化物(T.Fe+MnO)の関係を示す。
【0050】
図4に示すように、本実施形態では、後ほど示す表2のNo.4~6と、評価(1)(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たしたNo.12~15を比較し、攪拌ガス流量Q2を溶鋼1ton当たり≦2.67(NL/(min・ton))と規定した。
【0051】
Alを溶鋼3に添加するに際して、2回目以降の累積のAl投入量を、溶鋼1tonあたり、0.07(kg/ton) 以下とする。
【0052】
図5に、取鍋1内での溶鋼3中のAlと低級酸化物の反応の模式図を示す。
【0053】
図6に、Al投入のフロー図を示す(Al投入回数が3回の場合を示す)。
【0054】
図5に示すように、低級酸化物を低減するには、溶鋼3中のAl濃度を高め、脱酸を強化し、低級酸化物(T.Fe+MnO)と溶鋼3中のAlを下式(A)に示すように、反応させる必要がある。
【0055】
3(FeO,MnO)+2Al→(Al2O3)+3Fe,3Mn ・・・(A)
また、式(A)の反応を促進させるためと、反応時間を確保するために、初期の脱酸を強化する必要がある。
【0056】
そこで、
図6に示すように、合金粗調整時(1回目)のAl投入量を多くするため、2回目(合金微調整)以降の累積のAl投入量に上限を設定する。また、合金粗調整時のAl投入量を多くすることで、生成したAl
2O
3介在物の浮上分離時間を確保することも期待できる。
【0057】
図7に、溶鋼1ton当たりの微調Al投入量(W
Al-tweak/W
Fe)と、低級酸化物(T.Fe+MnO)の関係を示す。
【0058】
図7に示すように、本実施形態では、後ほど示す表2のNo.7~10と、評価(1)(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たしたNo.12~15を比較し、2回目以降の累積のAl投入量を溶鋼1tonあたり≦0.07(kg/ton)と規定した。
【0059】
さらに、LF処理工程でのAlの総投入量を、式(1)を満たすものとする。
【0060】
【0061】
ただし、
wAl:Al合金投入量(kg)
wFe:溶鋼量(ton)
NAl:Al合金純分(-)
t:搬出の目標処理時間(分)
[%C]ini:処理前C濃度(wt%)
[%Al]ini:処理前Al濃度(wt%)
[%Al]uplimit:Al濃度の規格上限(wt%)
式(1)の左辺:「搬出Al≧0.024(wt%)」となるようなAl投入量と規定することで、脱酸を強化し、式(A)に示す低級酸化物(T.Fe+MnO)との反応を促進させることができる。
【0062】
式(1)の右辺:「[%Al]uplimit-0.0006」とすることで、Alの成分脱線を防止する(成分規格内に収める)ために行う処理時間を延長するという事態を防ぐことができる。
<式(1)の導出について>
Alの歩留に対し、「処理前[C]濃度」と「処理時間」とで線形回帰を行い、下式(B)を得た。この式(B)を変形することにより、任意に設定される目標の溶鋼中[Al]濃度に対するAl投入量の式(下式(C))を得た。
【0063】
Al歩留(%)=84.01[%C]ini-0.06617t+16.01 ・・・(B)
=(1000×wFe×([%Al]-[%Al]ini))/(NAl×wAl)
【0064】
【0065】
図8に、式(1)の範囲内でのAl投入量による、溶鋼3中のAl濃度の推移をイメージした図を示す。
【0066】
図8に示すように、式(1)の範囲内となるようにAl投入量を決めた場合、処理時間を延長することなく脱酸が強化され、低級酸化物(T.Fe+MnO)との反応が促進する。一方で、式(1)の右辺よりも多くAlを投入した場合、処理時間を延長することとなった。また、式(1)の左辺よりも少なくAlを投入した場合、脱酸不足となった。
[実施例]
以下に、本発明のAl脱酸鋼の溶製方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
【0067】
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
【0068】
表1に、本実施例における実施条件を示す。
【0069】
【0070】
表2に、本発明のAl脱酸鋼の溶製方法に従って実施した実施例、および、本発明と比較するために実施した比較例を示す。
【0071】
【0072】
表2に示すように、比較例1は、(Q1+Q2)/V=0.16(/min)tとなり、(Q1+Q2)/V≧0.26(/min)を満たさない。WAl-tweak/WFe=0.19kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の左辺=309.8となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=3.80wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、炉蓋2内のシール不足、初期の脱酸不足、処理中の脱酸不足などがある。総合評価として、清浄度不足となり不良となった。
【0073】
比較例2は、(Q1+Q2)/V=0.17(/min)tとなり、(Q1+Q2)/V≧0.26(/min)を満たさない。WAl-tweak/WFe=0.14kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の左辺=212.6となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.45wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、炉蓋2内のシール不足、初期の脱酸不足、処理中の脱酸不足などがある。総合評価として、清浄度不足となり不良となった。
【0074】
比較例3(Q1+Q2)/V=0.17(/min)tとなり、(Q1+Q2)/V≧0.26(/min)を満たさない。WAl-tweak/WFe=0.11kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の左辺=303.4となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=3.52wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、炉蓋2内のシール不足、初期の脱酸不足、処理中の脱酸不足などがある。総合評価として、清浄度不足となり不良となった。
【0075】
比較例4は、Q2/WFe=3.03NL/(min・ton)となり、Q2/WFe≦2.67NL/(min・ton)を満たさない。WAl-tweak/WFe=0.17kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の右辺=275.6となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=2.25wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、攪拌流量の過剰、初期の脱酸不足などがある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0076】
比較例5は、Q2/WFe=2.70NL/(min・ton)となり、Q2/WFe≦2.67NL/(min・ton)を満たさない。式(1)の右辺=318.6となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.18wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、攪拌流量の過剰がある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0077】
比較例6は、Q2/WFe=2.98NL/(min・ton)となり、Q2/WFe≦2.67NL/(min・ton)を満たさない。式(1)の右辺=331.0となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.04wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、攪拌流量の過剰がある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0078】
比較例7は、WAl-tweak/WFe=0.24kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の右辺=339.1となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.60wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、初期の脱酸不足がある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0079】
比較例8は、WAl-tweak/WFe=0.15kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の右辺=346.8となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.52wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、初期の脱酸不足がある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0080】
比較例9は、WAl-tweak/WFe=0.15kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たさない。式(1)の右辺=427.6となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=2.26wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、初期の脱酸不足がある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0081】
比較例10は、WAl-tweak/WFe=0.27kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満た
さない。式(1)の右辺=345.8となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.07wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、初期の脱酸不足がある。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、清浄度不足、処理時間の延長により不良となった。
【0082】
比較例11は、式(1)の左辺=303.9となり、式(1)の範囲外となり満たさない。LF処理工程後のT.Fe+MnO=1.55wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たさない。理由としては、処理中の脱酸不足がある。総合評価として、清浄度不足により不良となった。
【0083】
比較例12は、式(1)の右辺=352.2となり、式(1)の範囲外となり満たさない。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、処理時間の延長により不良となった。
【0084】
比較例13は、式(1)の右辺=323.0となり、式(1)の範囲外となり満たさない。また、脱線防止のための処理延長を行ったため、評価(2)も満たしていない。総合評価として、処理時間の延長により不良となった。
【0085】
実施例14は、(Q1+Q2)/V=0.26(/min)tとなり、(Q1+Q2)/V≧0.26(/min)を満たす。Q2/WFe=2.48NL/(min・ton)となり、Q2/WFe≦2.67NL/(min・ton)を満たす。WAl-tweak/WFe=0.00kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たす。式(1)の左辺=301.1となり、式(1)の右辺=391.4となり、式(1)の範囲内を満たす。LF処理工程後のT.Fe+MnO=0.54wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たしている。また、脱線防止のための処理延長はしていないため、評価(2)も満たしている。総合評価として、良好な結果が得られた。
【0086】
実施例15は、(Q1+Q2)/V=0.26(/min)tとなり、(Q1+Q2)/V≧0.26(/min)を満たす。Q2/WFe=2.67NL/(min・ton)となり、Q2/WFe≦2.67NL/(min・ton)を満たす。WAl-tweak/WFe=0.07kg/tonとなり、WAl-tweak/WFe≦0.07kg/tonを満たす。式(1)の左辺=287.3となり、式(1)の右辺=293.4となり、式(1)の範囲内を満たす。LF処理工程後のT.Fe+MnO=0.92wt%となり、評価(1):(T.Fe+MnO≦1.00wt%)を満たしている。また、脱線防止のための処理延長はしていないため、評価(2)も満たしている。総合評価として、良好な結果が得られた。
【0087】
本発明のAl脱酸鋼の溶製方法は、転炉出鋼後にLF処理工程を行い、その後、下工程である鋳造工程に送られる溶鋼3について、LF処理工程後の合金元素が以下に示すものとされたAl脱酸鋼を溶製する方法であって、
・C:0.04~0.20wt%
・Si:0.01~0.15wt%
・Mn:0.15~2.13wt%
・Al:0.024~0.035wt%
・残部:少なくともFeを含む
LF処理工程での取鍋1内の不活性ガスに関し、以下に示す式を満たすものとし、
(炉蓋4内へのシールガス流量Q1+溶鋼3の攪拌に用いる攪拌ガス流量Q2)
/取鍋1の炉蓋4内における体積V ≧ 0.26(/min)
不活性ガスによる攪拌ガス流量Q2を、溶鋼1ton当たり、2.67(NL/(min・ton))以下とし、
Alを溶鋼3に添加するに際して、2回目以降の累積のAl投入量を、溶鋼1tonあたり、0.07(kg/ton)以下とし、
さらに、LF処理工程でのAlの総投入量を、式(1)を満たすものとする。
【0088】
【0089】
ただし、
wAl:Al合金投入量(kg)
wFe:溶鋼量(ton)
NAl:Al合金純分(-)
t:搬出の目標処理時間(分)
[%C]ini:処理前C濃度(wt%)
[%Al]ini:処理前Al濃度(wt%)
[%Al]uplimit:Al濃度の規格上限(wt%)
本発明のAl脱酸鋼の溶製方法によれば、高清浄度な溶鋼3を、LF工程での処理時間を延長することなく効率的に溶製することができる。
【0090】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0091】
1 取鍋
2 ランス
3 溶鋼
4 炉蓋
5 スラグ