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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007113
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】水素タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20240111BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
F17C11/00 C
C01B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108340
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 篤
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】蜂須賀 徹
(72)【発明者】
【氏名】騎馬 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】野内 宗一
【テーマコード(参考)】
3E172
4G140
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA06
3E172BB03
3E172BB12
3E172BD05
3E172CA01
3E172EA02
3E172EA12
3E172EB02
3E172EB18
3E172FA01
3E172JA08
4G140AA11
(57)【要約】
【課題】水素タンクから水素を放出する際に、長時間に亘って水素の圧力を安定させることができる水素タンクを提供する。
【解決手段】水素タンク1は、水素ガスを貯蔵するための貯蔵空間21を備えたタンク本体2と、水素吸蔵合金を備え、貯蔵空間21に配置された複数の水素吸蔵体3と、水素吸蔵体3における水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段4と、を有している。また、水素放出手段4は、複数の水素吸蔵体3から一部の水素吸蔵体3を選択し、当該水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを貯蔵するための貯蔵空間を備えたタンク本体と、
水素吸蔵合金を備え、前記貯蔵空間に配置された複数の水素吸蔵体と、
前記水素吸蔵体における前記水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段と、を有し、
前記水素放出手段は、複数の前記水素吸蔵体から一部の水素吸蔵体を選択し、当該水素吸蔵体の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成されている、水素タンク。
【請求項2】
前記水素放出手段は、複数の前記水素吸蔵体から一部の水素吸蔵体を選択し、当該水素吸蔵体の温度を上昇させることができるように構成されている、請求項1に記載の水素タンク。
【請求項3】
前記水素放出手段は、伝熱媒体を流通させることによって前記水素吸蔵体の温度を上昇させることができるように構成された伝熱配管を有しており、
前記伝熱配管は、前記各水素吸蔵体に取り付けられた昇温部と、
複数の前記昇温部のうち最も上流に位置する昇温部に接続され、当該昇温部に前記伝熱媒体を導入する導入部と、
複数の前記昇温部を互いに直列に接続する中継部と、
複数の前記昇温部のうち最も下流に位置する昇温部に接続され、前記伝熱配管から前記伝熱媒体を導出する導出部と、を有している、請求項2に記載の水素タンク。
【請求項4】
前記各中継部は経路切替部を有しており、前記導出部は、複数の前記昇温部のうち最も下流に位置する昇温部と、前記各経路切替部とに接続されており、前記経路切替部は、当該経路切替部の上流に位置する前記昇温部と下流に位置する前記昇温部とが連通した状態と、当該経路切替部の上流に位置する前記昇温部と前記導出部とが連通した状態とを切り替え可能に構成されている、請求項3に記載の水素タンク。
【請求項5】
前記各水素吸蔵体における前記水素吸蔵合金は、互いに異なる温度で水素を放出することができるように構成されている、請求項3に記載の水素タンク。
【請求項6】
前記水素放出手段は、伝熱媒体を流通させることによって前記各水素吸蔵体の温度を変更できるように構成された伝熱配管を有しており、
前記伝熱配管は、前記伝熱配管内に伝熱媒体を導入する導入部と、
前記各水素吸蔵体に取り付けられた昇温部と、
前記導入部と複数の前記昇温部とを接続し、前記伝熱媒体を前記各昇温部に分配する分配部と、
前記各昇温部と前記分配部との間に介在し、前記分配部と前記昇温部とが連通した状態と、前記分配部と前記昇温部との間が遮断された状態とを切り替え可能に構成された経路切替部と、
前記昇温部の下流に接続され、前記伝熱配管から前記伝熱媒体を導出する導出部と、を有している、請求項2に記載の水素タンク。
【請求項7】
前記水素放出手段は、複数の水素吸蔵体から一部の水素吸蔵体を選択し、当該水素吸蔵体に電流を流すことができるように構成されている、請求項1に記載の水素タンク。
【請求項8】
前記タンク本体の容積が300m以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水素タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
水素の貯蔵に用いられる水素タンクには、容積当たりの水素の貯蔵量を多くすることが求められる。しかし、気体の水素をそのまま水素タンクに充填する場合、十分な量の水素を水素タンク内に貯蔵するためには水素タンク内の圧力を高める必要がある。
【0003】
そこで、水素タンク内の圧力を高めることなく水素の貯蔵量を増大させるため、水素タンク内に水素吸蔵合金を配置し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる方法が提案されている。例えば特許文献1には、一端側の水素含有ガス供給口と他端側のオフガス排出口とを有する円筒状のタンクと、このタンク内に充填され、水素吸蔵合金を含む充填剤と、この充填剤を加熱及び冷却する温度制御手段とを備える水素吸蔵放出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-80329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素タンクから水素を放出する際には、水素の発生量の制御を容易に行う観点から、水素放出中の水素の圧力の変動を低減し、長時間に亘って水素の圧力を安定させることが望ましい。
【0006】
しかし、特許文献1の水素吸蔵放出装置は、タンク内に充填された水素吸蔵合金の温度を上昇させた際に、水素吸蔵合金に吸蔵された水素が一度に放出されるため、タンクから放出される水素の圧力が急激に上昇しやすい。また、水素吸蔵合金からの水素の放出が進行し、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなると、タンクから放出される水素の圧力が急激に減少しやすい。それ故、特許文献1の水素吸蔵放出装置は、タンクから水素を放出する際の水素の圧力が大きく変動しやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、水素タンクから水素を放出する際に、長時間に亘って水素の圧力を安定させることができる水素タンクを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、水素ガスを貯蔵するための貯蔵空間を備えたタンク本体と、
水素吸蔵合金を備え、前記貯蔵空間に配置された複数の水素吸蔵体と、
前記水素吸蔵体における前記水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段と、を有し、
前記水素放出手段は、複数の前記水素吸蔵体から一部の水素吸蔵体を選択し、当該水素吸蔵体の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成されている、水素タンクにある。
【発明の効果】
【0009】
前記水素タンクは、タンク本体の内部に複数の水素吸蔵体を有するとともに、水素吸蔵体における水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段を有している。また、水素放出手段は、複数の前記水素吸蔵体から一部の水素吸蔵体を選択し、当該水素吸蔵体の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成されている。
【0010】
それ故、前記水素タンクは、水素放出の初期段階において、例えば複数の水素吸蔵体のうち一部の水素吸蔵体から水素を放出させることができる。このように、複数の水素吸蔵体のうち一部の水素吸蔵体から水素を放出させることにより、水素放出の初期段階において水素タンクから放出される水素の圧力の過度な上昇を抑制することができる。また、前記水素タンクは、水素の放出が進行し、前述した一部の水素吸蔵体における水素の残量が少なくなった場合には、例えば他の水素吸蔵体から水素を放出させることができる。これにより、水素タンクから放出される水素の圧力を容易に維持することができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、水素タンクから水素を放出する際に、長時間に亘って放出される水素の圧力を安定させることができる水素タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態1における水素タンクの要部を示す断面図である。
図2図2は、実施形態1における水素タンクの動作のタイムチャートである。
図3図3は、実施形態2における水素タンクの要部を示す断面図である。
図4図4は、実施形態3における水素タンクの要部を示す断面図である。
図5図5は、実施形態3における水素タンクの動作のタイムチャートである。
図6図6は、実施形態4における水素タンクの要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
前記水素タンクに係る実施形態について、図1図2を参照しつつ説明する。図1に示すように、水素タンク1は、水素ガスを貯蔵するための貯蔵空間21を備えたタンク本体2と、水素吸蔵合金を備え、貯蔵空間21に配置された複数の水素吸蔵体3と、水素吸蔵体3における水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段4と、を有している。また、水素放出手段4は、複数の水素吸蔵体3から一部の水素吸蔵体3を選択し、当該水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成されている。
【0014】
水素タンク1におけるタンク本体2は、水素タンク1の外壁を構成しており、水素タンク1の外部から供給される水素及び水素吸蔵体3から放出された水素を貯蔵空間21内に保持することができるように構成されている。
【0015】
タンク本体2は、水素タンク1の外部と貯蔵空間21とを連通させることができるように構成された、少なくとも1つの水素ポート22を有している。水素ポート22は、外部空間と貯蔵空間21とを連通させることにより、水素タンク1の外部から貯蔵空間21への水素の供給及び/または水素タンク1から外部への水素の放出を行うことができるように構成されている。タンク本体2に設けられる水素ポート22の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0016】
例えば本形態のタンク本体2は、図1に示すように2つの水素ポート22(22a、22b)を有しており、これらの水素ポート22のうち一方の水素ポート22aを水素タンク1の外部から貯蔵空間21への水素の供給に用い、他方の水素ポート22bを水素タンク1から外部への水素の放出に用いるように構成されている。なお、タンク本体2に1つの水素ポート22を設ける場合には、当該水素ポート22を水素タンク1の外部から貯蔵空間21への水素の供給と水素タンク1から外部への水素の放出との両方に用いればよい。
【0017】
タンク本体2の形状は特に限定されることはなく、円筒状や球状、箱状などの種々の形態を採用し得る。例えば、本形態のタンク本体2は、図1に示すように円筒状の形状を有している。
【0018】
タンク本体2の容積は300m以下であることが好ましい。水素タンク1から水素を放出する際の圧力の変動は、タンク本体2の容積が小さいほど大きくなる傾向がある。そのため、タンク本体2の容積を300m以下とすることにより、前述した水素の放出時の圧力変動を抑制する効果をより有益なものとすることができる。また、タンク本体2の容積を300m以下とすることにより、水素タンク1を容易に小型化し、設置場所の制約をより少なくすることができる。
【0019】
また、タンク本体2の内圧の最大値は、ゲージ圧において1MPa(G)以下であることが好ましい。タンク本体2の容積を300m以下とすることに加え、タンク本体2の内圧の最大値を1MPa(G)以下とすることにより、タンク本体2の安全性を高め、タンク本体2のメンテナンスをより簡易化することができる。
【0020】
タンク本体2の貯蔵空間21には、複数の水素吸蔵体3が設けられている。タンク本体2内に設けられる水素吸蔵体3の数、形状及び配置等は特に限定されることはなく、所望する水素の最大貯蔵量や水素タンク1から水素を放出する際の圧力等に応じて適宜設定することができる。例えば、本形態の水素タンク1は、図1に示すように、タンク本体2の貯蔵空間21に3個の水素吸蔵体3(3a、3b、3c)を有している。
【0021】
各水素吸蔵体3は、水素の吸蔵と放出とを可逆的に行うことができる水素吸蔵合金を有している。水素吸蔵合金は、例えば、水素吸蔵体3に設けられた容器に収容されていてもよい。水素タンク1に用いられる水素吸蔵合金は特に限定されることはなく、所望する水素の最大貯蔵量や水素タンク1から水素を放出する際の圧力等に応じて、公知の水素吸蔵合金から適宜選択することができる。また、各水素吸蔵体3に用いられる水素吸蔵合金の種類は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、本形態における3個の水素吸蔵体3は、互いに同一の種類の水素吸蔵合金を有している。
【0022】
水素放出手段4は、複数の水素吸蔵体3から一部の水素吸蔵体3を選択し、当該水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成されている。水素タンク1は、水素放出の初期段階において、複数の水素吸蔵体3から一部の水素吸蔵体3を選択し、当該水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素を放出させることにより、水素吸蔵体3から放出される水素の量を適正な範囲にし、水素タンク1から放出される水素の圧力の過度の上昇を回避することができる。また、前記水素タンク1は、前述した動作を、選択される水素吸蔵体3を変更して繰り返し行うことにより、放出される水素の圧力を長時間に亘って安定させることができる。
【0023】
水素を放出させる際に、水素放出手段4によって選択される水素吸蔵体3の数は、1つ以上、水素吸蔵体3の総数未満であればよい。水素タンク1から放出される水素の圧力の変動をより低減する観点からは、水素放出手段4は、複数の水素吸蔵体3から水素を放出させる水素吸蔵体3を選択する際に、一定の数の水素吸蔵体3を選択するように構成されていることが好ましい。
【0024】
また、水素放出手段4により選択される水素吸蔵体3の順序は特に限定されることはない。例えば、水素放出手段4は、予め定められた順序で複数の水素吸蔵体3から一部の水素吸蔵体3を選択することができるように構成されていてもよく、任意の順序で水素吸蔵体3を選択することができるように構成されていてもよい。例えば、本実施形態の水素放出手段4は、後述する伝熱配管41内を流れる伝熱媒体の流れ方向における上流に位置する水素吸蔵体3から順に水素を放出させることができるように構成されている。
【0025】
水素放出手段4における水素吸蔵合金から水素を放出させる方法は特に限定されることはなく、種々の態様を取り得る。例えば、本形態の水素放出手段4は、複数の前記水素吸蔵体3から一部の水素吸蔵体3を選択し、当該水素吸蔵体3の温度を上昇させることができるように構成されている。この場合、水素放出手段4によって温度を上昇させた水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。このように、水素吸蔵合金から水素を放出させるために熱を用いる場合、例えば、種々のプラントや熱機器等からの廃熱を利用することができるため、水素タンク1から水素を放出させる際の消費エネルギーを低減することができる。
【0026】
本形態の水素放出手段4は、図1に示すように、伝熱媒体を流通させることによって水素吸蔵体3の温度を上昇させることができるように構成された伝熱配管41を有している。伝熱配管41は、各水素吸蔵体3に取り付けられた昇温部412(412a、412b、412c)と、複数の昇温部412のうち最も上流に位置する昇温部412aに接続され、昇温部412に伝熱媒体を導入する導入部411と、複数の昇温部412を互いに直列に接続する中継部413と、複数の昇温部412のうち最も下流に位置する昇温部412cに接続され、伝熱配管41から伝熱媒体を導出する導出部414と、を有している。
【0027】
このように、複数の昇温部412を、中継部413を介して互いに直列に接続することにより、伝熱配管41の各所における伝熱媒体の流量を一定にすることができる。これにより、各昇温部412の温度を効率よく上昇させ、水素吸蔵体3からの水素の放出量を速やかに所望の値まで上昇させることができる。また、この場合には、各昇温部412における伝熱媒体の流量を一定にすることができるため、各昇温部412の温度が所望の温度に到達した後、当該温度を容易に維持することができる。これにより、水素吸蔵体3からの水素の放出量の変動の更なる低減や、後述するような、水素の放出が完了した水素吸蔵体への水素の再吸蔵の更なる抑制等が可能となる。これらの結果、水素タンク1から水素を放出している間の圧力の変動をより低減することができる。
【0028】
また、本形態の水素放出手段4は、伝熱配管41における伝熱媒体の経路を切り替えることにより、複数の水素吸蔵体3のうち一部の水素吸蔵体3を選択し、当該水素吸蔵体3の温度を上昇させることができるように構成されている。
【0029】
より具体的には、本形態の伝熱配管41における各中継部413は経路切替部415(415a、415b)を有している。また、導出部414は、複数の昇温部412のうち最も下流に位置する昇温部412cと、各経路切替部415とに接続されている。そして、経路切替部415は、当該経路切替部415の上流に位置する昇温部412と下流に位置する昇温部412とが連通した状態と、当該経路切替部415の上流に位置する昇温部412と導出部414とが連通した状態とを切り替え可能に構成されている。
【0030】
本形態の伝熱配管41は、経路切替部415の接続状態を切り替えるという単純な操作により、複数の昇温部412のうち、伝熱媒体の流れ方向における最も上流の昇温部412aから所望の昇温部412までに伝熱媒体を流通させることができる。これにより、昇温部412によって加熱された水素吸蔵体3のうち、水素が吸蔵された水素吸蔵合金を有する水素吸蔵体3のみから水素を放出させることができる。
【0031】
また、本形態の伝熱配管41における、複数の昇温部412のうち最も下流に位置する昇温部412cと導出部414との間には、逆止弁416が設けられている。逆止弁416は、導出部414から最も下流に位置する昇温部412cへの伝熱媒体の逆流を防止することができるように構成されている。
【0032】
本形態の水素放出手段4の動作をより具体的に説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、伝熱媒体の流れ方向における最も上流に位置する昇温部412を第1昇温部412aといい、最も下流に位置する昇温部412を第3昇温部412cといい、第1昇温部412aと第3昇温部412cとの間に位置する昇温部412を第2昇温部412bという。また、第1昇温部412aと第2昇温部412bとを接続する中継部413を第1中継部413aといい、第2昇温部412bと第3昇温部412cとを接続する中継部413を第2中継部413bという。また、第1中継部413aに設けられた経路切替部415を第1経路切替部415aといい、第2中継部413bに設けられた経路切替部415を第2経路切替部415bという。そして、第1昇温部412aが取り付けられた水素吸蔵体3を第1水素吸蔵体3aといい、第2昇温部412bが取り付けられた水素吸蔵体3を第2水素吸蔵体3bといい、第3昇温部412cが取り付けられた水素吸蔵体3を第3水素吸蔵体3cという。
【0033】
また、図2に示したタイムチャートの最上段のグラフは伝熱配管41内の伝熱媒体の流量を示しており、上から2段目のグラフは第1経路切替部415aの接続状態を示しており、上から3段目のグラフは第2経路切替部415bの接続状態を示しており、最下段のグラフは水素タンク1から放出される水素の圧力を示している。各グラフの横軸は時刻を示す。最下段のグラフにおいては、水素タンク1から放出される水素の圧力が実線で表されており、各水素吸蔵体3から放出される水素の圧力が破線で表されている。
【0034】
本形態の水素タンク1から水素を放出する場合、水素放出手段4は、図2に示すように、まず、第1経路切替部415aを第1昇温部412aと導出部414とが連通した状態にするとともに、第2経路切替部415bを第2昇温部412bと導出部414とが連通した状態とする。その後、水素放出手段4は、導入部411に、水素吸蔵合金が水素を放出する温度以上の温度を有する伝熱媒体を供給する。この状態においては、図1に示すように、導入部411から供給された伝熱媒体が第1昇温部412aに到達する。そして、第1昇温部412aに到達した伝熱媒体が第1水素吸蔵体3aと熱交換し、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金の温度を上昇させる。これにより、図2において記号H1で示すように、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0035】
第1昇温部412aを通過した伝熱媒体は、図1に示すように、第1中継部413a及び第1経路切替部415aを通り、導出部414へ導かれる。一方、第1経路切替部415aが前述した接続状態を維持している間は、伝熱媒体が第2昇温部412b及び第3昇温部412cに到達することはない。それ故、第1経路切替部415aが前述した接続状態を維持している間は、第2水素吸蔵体3b及び第3水素吸蔵体3cの温度が水素吸蔵合金から水素が放出される温度よりも低い温度に維持される。これにより、第2水素吸蔵体3b及び第3水素吸蔵体3cからの水素の放出を抑制することができる。
【0036】
第1水素吸蔵体3aからの水素の放出がある程度の時間継続すると、図2に示すように第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなる。この場合、水素放出手段4は、第1経路切替部415aを第1昇温部412aと第2昇温部412bとが連通した状態に切り替える。この状態においては、図1に示すように、導入部411から供給された伝熱媒体は第1昇温部412a及び第1中継部413aを通り、第2昇温部412bまで到達することができる。
【0037】
第2昇温部412bに到達した水素吸蔵体3は、第2水素吸蔵体3bと熱交換し、第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金の温度を上昇させる。これにより、図2において記号H2で示すように、第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。そして、第2水素吸蔵体3bからの水素の放出を第1水素吸蔵体3aからの水素の放出と並行して行うことにより、第1水素吸蔵体3aからの水素の放出量の減少分を第2水素吸蔵体3bからの水素の放出によって補い、水素タンク1全体として、放出される水素の圧力を安定させることができる。また、第1水素吸蔵体3aからの水素の放出が停止した後は、第2水素吸蔵体3bからの水素の放出によって水素タンク1全体としての水素の圧力が維持される。
【0038】
第2昇温部412bを通過した伝熱媒体は、第2中継部413b及び第2経路切替部415bを通り、導出部414へ導かれる。一方、第1経路切替部415a及び第2経路切替部415bが前述した接続状態を維持している間は、第3昇温部412cに伝熱媒体が到達することはない。それ故、第1経路切替部415a及び第2経路切替部415bが前述した接続状態を維持している間は、第3水素吸蔵体3cの温度は水素吸蔵合金から水素が放出される温度よりも低い温度に維持される。これにより、第3水素吸蔵体3cからの水素の放出を抑制することができる。
【0039】
また、第1昇温部412aには第2水素吸蔵体3bから水素が放出されている間も引き続き伝熱媒体が流れているため、第1水素吸蔵体3aの温度は、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金から水素が完全に放出された後においても維持されている。これにより、第2水素吸蔵体3bから放出された水素が第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金に再び吸蔵されることを抑制することができる。
【0040】
第2水素吸蔵体3bからの水素の放出がある程度の時間継続すると、第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなる。この場合、水素放出手段4は、第2経路切替部415bを第2昇温部412bと第3昇温部412cとが連通した状態に切り替える。これにより、図1に示すように、導入部411から供給された伝熱媒体を第3昇温部412cまで到達させ、図2において記号H3で示すように、第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0041】
そして、第3水素吸蔵体3cからの水素の放出を第2水素吸蔵体3bからの水素の放出と並行して行うことにより、第2水素吸蔵体3bからの水素の放出量の減少分を第3水素吸蔵体3cからの水素の放出によって補い、水素タンク102全体として、放出される水素の圧力を安定させることができる。また、第2水素吸蔵体3bからの水素の放出が停止した後は、第3水素吸蔵体3cからの水素の放出によって水素タンク102全体としての水素の圧力が維持される。
【0042】
また、第1昇温部412a及び第2昇温部412bには、第3水素吸蔵体3cから水素が放出されている間も引き続き伝熱媒体が流れている。そのため、第1水素吸蔵体3a及び第2水素吸蔵体3bの温度は、これらの水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素が完全に放出された後においても維持されている。これにより、第3水素吸蔵体3cから放出された水素が第1水素吸蔵体3a及び第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金に再び吸蔵されることを抑制することができる。
【0043】
以上のように、本形態の水素タンク102は、経路切替部415の接続状態を切り替えることによって、水素放出の初期段階において第1水素吸蔵体3aのみから水素を放出させることができる。それ故、水素放出の初期段階において、水素吸蔵体3から貯蔵空間21に放出される水素の量が過度に多くなることを回避し、水素の圧力の急上昇を抑制することができる。また、本形態の水素タンク102は、経路切替部415の接続状態を切り替えることによって、第1水素吸蔵体3a、第2水素吸蔵体3b及び第3水素吸蔵体3cから順次水素を放出させることができる。そのため、水素タンク102から放出される水素の圧力を長時間に亘って安定させることができる。
【0044】
なお、本形態の水素タンク102において水素吸蔵体3に水素を吸蔵させる際には、例えば、伝熱配管41への伝熱媒体の供給を停止し、水素吸蔵体3を冷却した状態でタンク本体2内に水素を供給すればよい。この場合、伝熱配管41に低温の伝熱媒体を供給し、各水素吸蔵体3を積極的に冷却することも可能である。
【0045】
また、前述した水素放出手段4の動作は、例えば、電子回路を備えた制御装置によって実現することができる。水素放出手段4における経路切替部415の接続状態を切り替えるタイミングは、所望する水素の圧力の変動幅に応じて適宜設定すればよい。また、水素タンク102から放出される水素の圧力は、圧力計などによって計測することができる。圧力計は、タンク本体2に設けられていてもよく、水素タンク102と水素が供給される外部装置との間に設けられていてもよい。
【0046】
(実施形態2)
本形態においては、伝熱配管41及び水素吸蔵体3の構成の他の態様を示す。なお、本形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0047】
本形態の水素タンク102は、図3に示すように、貯蔵空間21を備えたタンク本体2と、貯蔵空間21に配置された水素吸蔵体3と、水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段402と、を有している。本形態のタンク本体2及び水素吸蔵体3の構成は、実施形態1におけるタンク本体2及び水素吸蔵体3と同様である。
【0048】
本形態の水素放出手段402は、伝熱媒体を流通させることによって水素吸蔵体3の温度を上昇させることができるように構成された伝熱配管41を有している。また、伝熱配管41は、伝熱配管41内に伝熱媒体を導入する導入部411と、各水素吸蔵体3に取り付けられた昇温部412(412a、412b、412c)と、導入部411と複数の昇温部412とを接続し、伝熱媒体を各昇温部412に分配する分配部417と、各昇温部412と分配部417との間に介在し、分配部417と昇温部412とが連通した状態と、分配部417と昇温部412との間が遮断された状態とを切り替え可能に構成された経路切替部415(415c、415d、415e)と、昇温部412の下流に接続され、伝熱配管41から伝熱媒体を導出する導出部414と、を有している。
【0049】
すなわち、本形態の伝熱配管41における複数の昇温部412は分配部417を介して互いに並列に接続されている。そして、伝熱配管41は、経路切替部415の接続状態を切り替えることによって、複数の水素吸蔵体3から任意に選択した水素吸蔵体3を加熱することができるように構成されている。
【0050】
また、本形態の伝熱配管41における複数の昇温部412のうち、最も上流に位置する昇温部412aを除いた昇温部412b、412cと導出部414との間には、逆止弁416(416b、416c)が設けられている。逆止弁416b、416cは、導出部414から、これらの逆止弁416b、416cに接続された昇温部412b、412cへの伝熱媒体の逆流を防止することができるように構成されている。
【0051】
本形態の水素放出手段402の動作の一例をより具体的に説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、図3における最も左方に位置する昇温部412を第1昇温部412aといい、最も右方に位置する昇温部412を第3昇温部412cといい、第1昇温部412aと第3昇温部412cとの間に位置する昇温部412を第2昇温部412bという。また、第1昇温部412aと分配部417との間に設けられた経路切替部415を第1経路切替部415cといい、第2昇温部412bと分配部417との間に設けられた経路切替部415を第2経路切替部415dといい、第3昇温部412cと分配部417との間に設けられた経路切替部415を第3経路切替部415eという。そして、第1昇温部412aが取り付けられた水素吸蔵体3を第1水素吸蔵体3aといい、第2昇温部412bが取り付けられた水素吸蔵体3を第2水素吸蔵体3bといい、第3昇温部412cが取り付けられた水素吸蔵体3を第3水素吸蔵体3cという。
【0052】
本形態の水素タンク102から水素を放出する場合、水素放出手段402は、まず、第1経路切替部415cを第1昇温部412aと分配部417とが連通した状態にするとともに、第2経路切替部415d及び第3経路切替部415eを、第2昇温部412b及び第3昇温部412cと分配部417との間が遮断された状態とする。その後、水素放出手段402は、導入部411に、水素吸蔵合金から水素が放出する温度以上の温度を有する伝熱媒体を供給する。これにより、第1昇温部412aに伝熱媒体を到達させ、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0053】
第1昇温部412aを通過した伝熱媒体は、導出部414へ導かれる。また、各経路切替部415が前述した接続状態を維持している間は、伝熱媒体が第2昇温部412b及び第3昇温部412cに到達することはない。それ故、各経路切替部415が前述した接続状態を維持している間は、第2水素吸蔵体3b及び第3水素吸蔵体3cの温度が水素を放出するよりも低い温度に維持される。これにより、第2水素吸蔵体3b及び第3水素吸蔵体3cからの水素の放出を抑制することができる。
【0054】
第1水素吸蔵体3aからの水素の放出がある程度の時間継続し、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなった場合、水素放出手段402は、第2経路切替部415dを第2昇温部412bと分配部417とが連通した状態に切り替える。これにより、伝熱媒体を第1昇温部412a及び第2昇温部412bの両方に到達させ、第2水素吸蔵体3bから水素を放出させることができる。
【0055】
第1昇温部412a及び第2昇温部412bを通過した伝熱媒体は、それぞれ導出部414へ導かれる。一方、各経路切替部415が前述した接続状態を維持している間は、伝熱媒体が第3昇温部412cに到達することはない。それ故、各経路切替部415が前述した接続状態を維持している間は、第3水素吸蔵体3cの温度が水素吸蔵合金から水素が放出される温度よりも低い温度に維持される。これにより、第3水素吸蔵体3cからの水素の放出を抑制することができる。
【0056】
また、第1昇温部412aには第2水素吸蔵体3bから水素が放出されている間も引き続き伝熱媒体が流れている。そのため、第1水素吸蔵体3aの温度は、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金から水素が完全に放出された後においても維持されている。これにより、第2水素吸蔵体3bから放出された水素が第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金に再び吸蔵されることを抑制することができる。
【0057】
第2水素吸蔵体3bからの水素の放出がある程度の時間継続し、第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなった場合、水素放出手段402は、第3経路切替部415eを第3昇温部412cと分配部417とが連通した状態に切り替える。これにより、伝熱媒体を第3昇温部412cに到達させ、第3水素吸蔵体3cから水素を放出させることができる。
【0058】
また、第1昇温部412a及び第2昇温部412bには、第3水素吸蔵体3cから水素が放出されている間も引き続き伝熱媒体が流れている。そのため、第1水素吸蔵体3a及び第2水素吸蔵体3bの温度は、これらの水素吸蔵体3の水素吸蔵合金から水素が完全に放出された後においても維持されている。これにより、第3水素吸蔵体3cから放出された水素が第1水素吸蔵体3a及び第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金に再び吸蔵されることを抑制することができる。
【0059】
以上のように、本形態の水素放出手段402は、経路切替部415の接続状態を切り替えるという単純な操作により、複数の昇温部412のうち所望の昇温部412に伝熱媒体を流通させることができる。これにより、昇温部412によって加熱された水素吸蔵体3のうち、水素が吸蔵された水素吸蔵合金を有する水素吸蔵体3のみから水素を放出させることができる。その結果、水素放出の初期段階において、水素の圧力の急上昇を抑制するとともに、水素タンク102から放出される水素の圧力を長時間に亘って安定させることができる。
【0060】
(実施形態3)
本形態においては、伝熱媒体の経路を切り替えずに複数の水素吸蔵体303のうち一部の水素吸蔵体303から水素を放出させることができるように構成された水素タンク103の例を説明する。本形態の水素タンク103は、図4に示すように、貯蔵空間21を備えたタンク本体2と、貯蔵空間21に配置された複数の水素吸蔵体303(303a、303b、303c)と、水素吸蔵体303における水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段403と、を有している。本形態のタンク本体2の構成は、実施形態1におけるタンク本体2と同様である。
【0061】
本形態の水素放出手段403は、伝熱媒体を流通させることによって水素吸蔵体303の温度を上昇させることができるように構成された伝熱配管42を有している。伝熱配管42は、各水素吸蔵体303に取り付けられた昇温部422(422a、422b、422c)と、複数の昇温部422のうち最も上流に位置する昇温部422aに接続され、昇温部422に伝熱媒体を導入する導入部421と、複数の昇温部422を互いに直列に接続する中継部423(423a、423b)と、複数の昇温部422のうち最も下流に位置する昇温部422cに接続され、伝熱配管42から伝熱媒体を導出する導出部424と、を有している。一方、本形態の伝熱配管42は、実施形態1の伝熱配管41のような経路切替部415を有していない。
【0062】
本形態の水素吸蔵体303は、伝熱配管42の各昇温部422に取り付けられている。そして、各水素吸蔵体303における水素吸蔵合金は、互いに異なる温度で水素を放出することができるように構成されている。このように、各水素吸蔵体303に、水素を放出する温度の異なる水素吸蔵合金を設けることにより、伝熱媒体の温度に基づいて水素が放出される水素吸蔵体303を選択することができる。
【0063】
より具体的には、本形態の伝熱配管42は、伝熱媒体の流れ方向における最も上流に位置する第1昇温部422aと、最も下流に位置する第3昇温部422cと、第1昇温部422aと第3昇温部422cとの間に位置する第2昇温部422bとの3つの昇温部422を有している。第1昇温部422aと第2昇温部422bとの間は第1中継部423aによって接続されており、第2昇温部422bと第3昇温部422cとの間は第2中継部423bによって接続されている。
【0064】
また、各昇温部422に取り付けられた水素吸蔵体303のうち、第1昇温部422aが取り付けられた水素吸蔵体303を第1水素吸蔵体303aといい、第2昇温部422bが取り付けられた水素吸蔵体303を第2水素吸蔵体303bといい、第3昇温部422cが取り付けられた水素吸蔵体303を第3水素吸蔵体303cという。第1水素吸蔵体303aの水素吸蔵合金は、3つの水素吸蔵体303の水素吸蔵合金のうち最も低い温度Tで水素を放出することができるように構成されている。第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金は、3つの水素吸蔵体303の水素吸蔵合金のうち最も高い温度Tで水素を放出することができるように構成されている。そして、第2水素吸蔵体303bの水素吸蔵合金は、温度Tよりも高く、温度Tよりも低い温度Tで水素を放出することができるように構成されている。
【0065】
本形態の水素タンク103の動作を、図5を参照しつつより具体的に説明する。なお、図5に示したタイムチャートの上段のグラフは伝熱配管41内の伝熱媒体の流量を示しており、中段のグラフは伝熱配管41内に供給される伝熱媒体の温度を示しており、下段のグラフは水素タンク1から放出される水素の圧力を示している。各グラフの横軸は時刻を示す。最下段のグラフにおいては、水素タンク1から放出される水素の圧力が実線で表されており、各水素吸蔵体3から放出される水素の圧力が破線で表されている。
【0066】
本形態の水素タンク103から水素を放出する場合、水素放出手段403は、図5に示すように、まず、第1水素吸蔵体303aの水素吸蔵合金の水素放出温度T以上、第2水素吸蔵体303bの水素吸蔵合金の水素放出温度T未満の温度を有する伝熱媒体を導入部421に供給する。導入部421から供給された伝熱媒体は、各昇温部422に到達し、各水素吸蔵体303の温度を上昇させる。
【0067】
このようにして加熱された3つの水素吸蔵体303の温度は、T以上T未満の温度となる。そのため、図5において記号H1で示すように、水素吸蔵合金の水素放出温度T以上の温度に加熱された第1水素吸蔵体303aから水素を放出させることができる。一方、第2水素吸蔵体303b及び第3水素吸蔵体303cの温度は、これらの水素吸蔵体303の水素吸蔵合金の水素放出温度T及びTよりも低い。そのため、伝熱媒体の温度をT以上T未満とすることにより、第2水素吸蔵体303b及び第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金からの水素の放出を抑制することができる。
【0068】
第1水素吸蔵体303aからの水素の放出がある程度の時間継続すると、図5に示すように第1水素吸蔵体303aの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなる。この場合、水素放出手段403は、伝熱媒体の温度を第2水素吸蔵体303bの水素吸蔵合金の水素放出温度T以上、第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金の水素放出温度T未満の温度に上昇させる。
【0069】
このようにして加熱された3つの水素吸蔵体303の温度は、T以上T未満の温度となる。そのため、図5において記号H2で示すように、水素吸蔵合金の水素放出温度T以上の温度に加熱された第2水素吸蔵体303bの水素吸蔵合金からも水素を放出させることができる。
【0070】
この際、第3水素吸蔵体303cの温度は、水素吸蔵合金の水素放出温度Tよりも低くなる。従って、伝熱媒体の温度をT以上T未満とすることにより、第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金からの水素の放出を抑制することができる。また、第1水素吸蔵体303aの温度もT以上T未満の温度となる。そのため、伝熱媒体の温度をT以上T未満とすることにより、第2水素吸蔵体303bから放出された水素が第1水素吸蔵体303aの水素吸蔵合金に再び吸蔵されることを抑制することができる。
【0071】
第2水素吸蔵体303bからの水素の放出がある程度の時間継続すると、図5に示すように第2水素吸蔵体303bの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなる。この場合、水素放出手段403は、伝熱媒体の温度を第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金の水素放出温度T以上の温度に上昇させる。
【0072】
このようにして加熱された3つの水素吸蔵体303の温度は、T以上の温度となる。そのため、図5において記号H3で示すように、水素放出温度T以上の温度に加熱された第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。この際、第1水素吸蔵体303a及び第2水素吸蔵体303bの温度もT以上となるため、第3水素吸蔵体303cの水素吸蔵合金から放出された水素が第1水素吸蔵体303a及び第2水素吸蔵体303bの水素吸蔵合金に吸蔵されることはない。
【0073】
以上のように、本形態の水素タンク103は、水素放出の初期段階において、伝熱媒体の温度を適切な範囲に設定することによって、第1水素吸蔵体303aのみから水素を放出させることができる。それ故、水素放出の初期段階において、水素タンク103内に生じる水素の量が過度に多くなることを回避し、水素の圧力の急上昇を抑制することができる。また、本形態の水素タンク103は、伝熱媒体の温度を上昇させることによって、第1水素吸蔵体303a、第2水素吸蔵体303b及び第3水素吸蔵体303cから順次水素を放出させることができる。そのため、水素タンク103から放出される水素の圧力を長時間に亘って安定させることができる。
【0074】
(実施形態4)
本形態においては、熱以外の方法で水素を放出することができるように構成された水素放出手段404の例を説明する。本形態の水素タンク104は、図6に示すように、貯蔵空間21を備えたタンク本体2と、貯蔵空間21に配置された水素吸蔵体3と、水素吸蔵体3における水素吸蔵合金から水素を放出させることができるように構成された水素放出手段404と、を有している。本形態のタンク本体2及び水素吸蔵体3の構成は、実施形態1におけるタンク本体2及び水素吸蔵体3と同様である。
【0075】
本形態の水素放出手段404は、各水素吸蔵体3に電流を流すことができるように構成されている。より具体的には、本形態の水素放出手段404は、各水素吸蔵体3に取り付けられた一対の電極43と、これらの電極43間に電位差を形成するための電源部44とを有している。水素放出手段404は、一対の電極43間に電位差を形成し、水素が吸蔵された状態の水素吸蔵合金に電流を流すことによって水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。
【0076】
本形態の水素放出手段404の動作の一例をより具体的に説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、図6における最も左方に位置する水素吸蔵体3を第1水素吸蔵体3aといい、最も右方に位置する水素吸蔵体3を第3水素吸蔵体3cといい、第1水素吸蔵体3aと第3水素吸蔵体3cとの間に位置する水素吸蔵体3を第2水素吸蔵体3bという。また、第1水素吸蔵体3aに取り付けられた電極43を第1電極43aといい、第2水素吸蔵体3bに取り付けられた電極43を第2電極43bといい、第3水素吸蔵体3cに取り付けられた電極43を第3電極43cという。
【0077】
本形態の水素タンク104から水素を放出する場合、水素放出手段404は、まず、電源部44を制御して第1電極43aのみに電位差を形成し、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金に電流を流す。これにより、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。この際、第2電極43b及び第3電極43cには電位差が形成されていないため、第2水素吸蔵体3b及び第3水素吸蔵体3cからの水素の放出が抑制される。
【0078】
第1水素吸蔵体3aからの水素の放出がある程度の時間継続し、第1水素吸蔵体3aの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなった場合、水素放出手段404は、第1電極43a及び第2電極43bに電位差を形成する。これにより、第2水素吸蔵体3bから水素を放出させることができる。また、水素放出手段404は、第1水素吸蔵体3aからの水素の放出が完了した後においても第1電極43aの電位差を維持している。これにより、第2水素吸蔵体3bから放出された水素が第1水素吸蔵体3aに再び吸蔵されることを抑制できる。
【0079】
第2水素吸蔵体3bからの水素の放出がある程度の時間継続し、第2水素吸蔵体3bの水素吸蔵合金に吸蔵されている水素の残量が少なくなった場合、水素放出手段404は、第1電極43a及び第2電極43bに加え、第3電極43cにも電位差を形成する。これにより、第3水素吸蔵体3cから水素を放出させることができる。また、水素放出手段404は、第2水素吸蔵体3bからの水素の放出が完了した後においても第1電極43a及び第2電極43bの電位差を維持している。これにより、第3水素吸蔵体3cから放出された水素が第1水素吸蔵体3a及び第2水素吸蔵体3bに再び吸蔵されることを抑制できる。
【0080】
以上のように、本形態の水素放出手段404は、第1電極43a~第3電極43cのうち所望の電極43に電位差を形成することにより、所望の水素吸蔵体3に電流を流し、水素吸蔵合金から水素を放出させることができる。その結果、水素放出の初期段階において、水素の圧力の急上昇を抑制するとともに、水素タンク104から放出される水素の圧力を長時間に亘って安定させることができる。
【0081】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0082】
例えば、実施形態1及び実施形態2においては、伝熱配管41の中継部413、導出部414、経路切替部415、逆止弁416及び分配部417がタンク本体2の内部に設けられている例を示したが、伝熱配管41における昇温部412以外の部分はタンク本体2の外部に設けられていてもよい。同様に、実施形態3においては、伝熱配管42の中継部423がタンク本体2の内部に設けられている例を示したが、伝熱配管41における昇温部422以外の部分はタンク本体2の外部に設けられていてもよい。伝熱配管41における経路切替部415及び逆止弁416等のバルブをタンク本体2の外部に設けることにより、メンテナンスをより容易に行うことが可能となる。また、この場合には、水素タンク1、102の安全性をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
1、102、103、104 水素タンク
2 タンク本体
21 貯蔵空間
3、303 水素吸蔵体
4、402、403、404 水素放出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6