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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071145
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】水方式空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20240517BHJP
   F24F 11/84 20180101ALI20240517BHJP
   F24F 140/12 20180101ALN20240517BHJP
【FI】
F24F5/00 101B
F24F5/00 101Z
F24F11/84
F24F140:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181938
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】前羽 誠
【テーマコード(参考)】
3L054
3L260
【Fターム(参考)】
3L054BF08
3L260AA04
3L260AB06
3L260BA41
3L260CB37
3L260EA07
3L260FB25
(57)【要約】
【課題】コストパフォーマンスに優れた水方式空調システムを提供する。
【解決手段】水方式空調システムは、モジュール式等のチラー1とファン式等の空気流式空調ユニット2と放射パネルユニット3とを備えている。チラー1の出口温度と放射パネルユニット3の要求入り口温度との間の乖離を、熱媒体水を空気流式空調ユニット2による昇温によって埋めることができる。従って、汎用性は高いが昇温幅が小さいチラー1を使用しつつ、空気流式空調ユニット2と放射パネルユニット3とを効率よく運転できる。空気流式空調ユニット2の出口温度が放射パネルユニット3の要求入り口温度から外れた場合は、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水を第1バイパス管路11から戻り管路10に還流させたり、第2送り管路9から第2バイパス管路11bを介して戻り管路10に戻したりして、適切に対応できる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体水を生成するチラーと、前記熱媒体水から空気流に熱交換する空気流式空調ユニットと、熱媒体水が通る通水路をパネルに設けた放射パネルユニットと、を備え、
前記チラーの出口と前記空気流式空調ユニットの入り口とは第1送り管路で接続されて、前記空気流式空調ユニットの出口と前記放射パネルユニットの入り口とは第2送り管路で接続され、前記放射パネルユニットの出口と前記チラーの入り口とは戻り管路で接続されている空調システムであって、
前記空気流式空調ユニットを通過した熱媒体水の温度が前記放射パネルユニットで許容される入り口温度から外れた場合の対応手段として、
前記第1送り管路と戻り管路とを繋ぐ第1バイパス管路を設けて、前記放射パネルユニットを通過した熱媒体水の一部又は全部を前記空気流式空調ユニットに還流させることと、
前記第2送り管路と戻り管路とを繋ぐ第2バイパス管路を設けて、前記空気流式空調ユニットを通過した熱媒体水の一部又は全部を前記チラーに還流させることとのうちいずれか一方が行われる、
水方式空調システム。
【請求項2】
熱媒体水を生成するチラーと、前記熱媒体水から空気流に熱交換する空気流式空調ユニットと、熱媒体水が通る通水路をパネルに設けた放射パネルユニットと、を備え、
前記チラーの出口と前記空気流式空調ユニットの入り口とは第1送り管路で接続されて、前記空気流式空調ユニットの出口と前記放射パネルユニットの入り口とは第2送り管路で接続され、前記放射パネルユニットの出口と前記チラーの入り口とは戻り管路で接続されている空調システムであって、
前記チラーは、独立して駆動され得る単位ユニットの複数台が接続されたモジュール方式になっている、
水方式空調システム。
【請求項3】
熱媒体水を生成するチラーと、前記熱媒体水から空気流に熱交換する空気流式空調ユニットと、熱媒体水が通る通水路をパネルに設けた放射パネルユニットと、を備え、
前記チラーの出口と前記空気流式空調ユニットの入り口とは第1送り管路で接続されて、前記空気流式空調ユニットの出口と前記放射パネルユニットの入り口とは第2送り管路で接続され、前記放射パネルユニットの出口と前記チラーの入り口とは戻り管路で接続されている空調システムであって、
前記空気流式空調ユニットは、空調対象エリアのうち単位面積当たりの潜熱負荷が大きいペリメータゾーンに配置されている、
水方式空調システム。
【請求項4】
熱媒体水を生成するチラーと、前記熱媒体水から空気流に熱交換する空気流式空調ユニットと、熱媒体水が通る通水路をパネルに設けた放射パネルユニットと、を備え、
前記チラーの出口と前記空気流式空調ユニットの入り口とは第1送り管路で接続されて、前記空気流式空調ユニットの出口と前記放射パネルユニットの入り口とは第2送り管路で接続され、前記放射パネルユニットの出口と前記チラーの入り口とは戻り管路で接続されている空調システムであって、
前記空気流式空調ユニットを通過した熱媒体水の温度が前記放射パネルユニットで許容される入り口温度から外れた場合の対応手段として、
前記第1送り管路と戻り管路とを繋ぐ第1バイパス管路を設けて、前記放射パネルユニットを通過した熱媒体水の一部又は全部を前記空気流式空調ユニットに還流させることと、
前記第2送り管路と戻り管路とを繋ぐ第2バイパス管路を設けて、前記空気流式空調ユニットを通過した熱媒体水の一部又は全部を前記チラーに還流させることとのうちいずれか一方が行われると共に、
前記チラーは、独立して駆動され得る単位ユニットの複数台が接続されたモジュール方式になっており、
かつ、前記空気流式空調ユニットは、空調対象エリアのうち単位面積当たりの潜熱負荷が大きいペリメータゾーンに配置されている、
水方式空調システム。
【請求項5】
前記空気流式空調ユニットにおける熱媒体水の入り口温度の実測値をt1、前記空気流式空調ユニットにおける熱媒体水の出口温度の実測値をt2、前記放射パネルユニットにおける熱媒体水の許容入り口温度域をt3、前記チラーのスペックで規定された前記空気流式空調ユニットの入り口温度の許容値をt4として、
t1がt4から外れてt2がt3よりも低い場合、前記放射パネルユニットを通過した熱媒体水を戻り管路から前記第1送り管路に還流させるように制御される、
請求項1又は4に記載した水方式空調システム。
【請求項6】
t2がt3よりも低い場合、前記チラーの稼働率を低くするか前記チラーでの熱交換を停止することにより、前記空気流式空調ユニットの出口温度を上昇させるように制御される、
請求項5に記載した水方式空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、熱交換媒体として水を使用している空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
伝熱媒体として水を使用した冷暖房システムがあり、このシステムは、騒音が少ない利点や環境負荷が小さい利点などがある。そして、伝熱媒体に水を使用した空調システムには、水が通過するコイル等のエレメントに強制送風又は自然対流の空気流を接触させて調和空気を生成する空気流式空調ユニット方式と、金属製等のプレートに設けた通水路に熱媒体水を通して放射熱で冷暖房する放射パネル方式とがあり、後者の放射パネル方式は騒音が殆どないため、病院や会議室などの静粛性が要求されるエリアに好適である。
【0003】
空気流式空調ユニットと放射パネル方式とは共に熱媒体として水を使用しつつ特徴があるが、特許文献1には、空気流式空調ユニットの例としてファン式空調ユニットと放射パネル式空調ユニットとのうちいずれか一方の方式を選択的に使用する空調システムが開示されている。また、特許文献2には、ファン式空調ユニットと放射パネルユニットとを直列に接続しつつ、ファン式空調ユニットと放射パネルユニットとを温度に応じて選択的に駆動可能とすることが開示されている。いずれの特許文献も、熱源から所望の温度の熱媒体水を得ることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-340373号公報
【特許文献2】特開平10-38324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、水方式空調システムの熱媒体水生成手段としてチラーが多用されているが、冷却水として地下水等の水を使用したチラーは、入り口温度と出口温度との温度差が5~7℃に設定されていることが多いため、チラーで降温された熱媒体水の温度は放射パネルユニットに必要とされる温度域よりも低いことが多い。例えば、チラーでの出口温度は10~15℃になることがあるが、放射パネルユニットの入り口温度は一般に16~18℃程度であるため、この場合は、チラーの出口から排出された熱媒体水を放射パネルユニットにダイレクトに送水できない。
【0006】
この点、特許文献2のようにファン式空調ユニットと放射パネルユニットとを直列に接続すると、ファン式空調ユニットで昇温させた熱媒体水を放射パネルユニットに流入させることができて熱を有効利用できるといえるが、チラーでの熱媒体水の出口温度やファン式空調ユニットでの熱媒体水の出口温度などは一定しないため、ファン式空調ユニットや放射パネルユニットを安定して運転できないおそれがある。
【0007】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、固有のスペックを持つチラーやファン式空調ユニット、放射パネルユニットを連繋させて、経済性に優れた水方式空調システムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、
「熱媒体水を生成するチラーと、前記熱媒体水から空気流に熱交換する空気流式空調ユニットと、熱媒体水が通る通水路をパネルに設けた放射パネルユニットと、を備え、
前記チラーの出口と前記空気流式空調ユニットの入り口とは第1送り管路で接続されて、前記空気流式空調ユニットの出口と前記放射パネルユニットの入り口とは第2送り管路で接続され、前記放射パネルユニットの出口と前記チラーの入り口とは戻り管路で接続されている」
という基本構成になっている。
【0009】
そして、請求項1の発明は、上記基本構成において、
「前記空気流式空調ユニットを通過した熱媒体水の温度が前記放射パネルユニットで許容される入り口温度から外れた場合の対応手段として、
前記第1送り管路と戻り管路とを繋ぐ第1バイパス管路を設けて、前記放射パネルユニットを通過した熱媒体水の一部又は全部を前記空気流式空調ユニットに還流させることと、
前記第2送り管路と戻り管路とを繋ぐ第2バイパス管路を設けて、前記空気流式空調ユニットを通過した熱媒体水の一部又は全部を前記チラーに還流させることとのうちいずれか一方が行われる」
という構成が付加されている。
【0010】
請求項2の発明は、上記基本構成において、
「前記チラーは、独立して駆動され得る単位ユニットの複数台が接続されたモジュール方式になっている」
という構成が付加されている。
【0011】
請求項3の発明は、上記基本構成において、
「前記空気流式空調ユニットは、空調対象エリアのうち単位面積当たりの潜熱負荷が大きいペリメータゾーンに配置されている」
という構成が付加されている。
【0012】
請求項3において、1つの部屋を空調対象エリアとして、例えば窓際をペリメータゾーンとして、この部位にファン式等の空気流式空調ユニットを配置することも可能である。或いは、例えば個室が多数あるフロアーの全体を空調対象エリアとして、玄関や受け付け、廊下のような開放性が高いゾーンをペリメータゾーンとして、これにファン式等の空気流式空調ユニットを配置する一方、各個室はインテリアゾーンとして放射パネルユニットを配置することが可能である。
【0013】
更に請求項4の発明は、上記基本構成において、請求項1~3の特徴部分の全てを備えている。
【0014】
請求項5の発明は制御の態様を具体化したもので、請求項1又は4において、冷房時の制御態様として、
「前記空気流式空調ユニットにおける熱媒体水の入り口温度の実測値をt1、前記空気流式空調ユニットにおける熱媒体水の出口温度の実測値をt2、前記放射パネルユニットにおける熱媒体水の許容入り口温度域をt3、前記チラーのスペックで規定された前記空気流式空調ユニットの入り口温度の許容値をt4として、
t1がt4から外れてt2がt3よりも低い場合、前記放射パネルユニットを通過した熱媒体水を戻り管路から前記第1送り管路に還流させるように制御される」
という構成になっている。
【0015】
請求項6の発明も制御の態様を具体化したものであり、請求項5の冷房時制御において、
「t2がt3よりも低い場合、前記チラーの稼働率を低くするか前記チラーでの熱交換を停止することにより、前記空気流式空調ユニットの出口温度を上昇させるように制御される」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0016】
本願各発明では、ファン式等の空気流式空調ユニットと放射パネルユニットとが直列に接続されているため、放射パネルユニットには空気流式空調ユニットによって昇温した熱媒体水が流入する。このため、空気流式空調ユニットを有効利用してランニングコストを抑制できる。特に冷房時に有益である。
【0017】
そして、空気流式空調ユニットの出口温度が前記放射パネルユニットの許容入り口温度から外れた場合の対応手段として、請求項1のようにバイパス管路を設けると、請求項5のように制御して、放射パネルユニットからの熱媒体水の還流や、空気流式空調ユニットからの熱媒体水の戻しを行うことにより、チラーのスペックが固定的で制御できる温度範囲が限定されていても、放射パネルが過剰に冷却されたり加温されたりすることを防止できる。
【0018】
従って、汎用性が高いチラーを使用しつつ、空気流式空調ユニットによる空調と放射パネルユニットによる空調とを適切に使用できる。冷却手段として地下水や水道水を使用した水冷式チラーの場合は降温できる温度域が固定的であることが多いため、特に好適である。
【0019】
請求項2のようにモジュール方式のチラーを使用すると、例えば請求項6のようにして、空気流式空調ユニットや放射パネルユニットでの放熱量に応じて使用する単位ユニットの稼働率等を制御することにより、チラー全体として効率良く運転しつつ、熱媒体水の温度管理を最適化できる。
【0020】
請求項3のように空気流式空調ユニットをペリメータゾーンに配置すると、空気流式空調ユニットでの熱媒体水の昇温や降温を促進できるため、外部エネルギを使用せずに放射パネルユニットに適切な温度の熱媒体水を送る効果を助長できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態を示す図で、(A)は構造を示すブロック図、(B)は基準運転モードのブロック図、(C)は過剰冷却抑止モードのブロック図である。
図2】第2実施形態のブロック図である。
図3】第3実施形態のブロック図である。
図4】第4実施形態のブロック図である。
図5】第5実施形態のブロック図である。
図6】第6実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1).第1実施形態
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。水方式空調システムは、複数台の単位ユニット1a~1eを備えたモジュールチラー1と、通水エレメントとファンとを内蔵したファン式空調ユニット2と、アルミ等の金属パネルに通水路(例えばパイプ)を設けたパネルの群を備えた放射パネルユニット3と、除湿機4とを備えている。ファン式空調ユニット2は空気流式空調ユニットの一例である。
【0023】
ファン式空調ユニット2としては、コイル状の熱交換パイプ(エレメント)を備えたタイプや、多数本の直線状パイプを備えたタイプなど、各種のものを使用できる。空気流式空調ユニットとしては、自然対流を熱交換エレメントに接触させて室内の空気に熱交換する非送風方式も採用できる。除湿機4としては、乾燥剤を内蔵したデシカントタイプが好適であるが、冷却除湿方式も使用できる。
【0024】
モジュールチラー1は熱源ユニットの一例であり、各単位ユニット1a~1eの出口管が接続されたアウトレットヘッダー5と、各単位ユニット1a~1eの入り口管が接続されたインレットヘッダー6とを有しており、アウトレットヘッダー5とファン式空調ユニット2の入り口とが第1送り管路7で接続されて、第1送り管路7に送水用のポンプ8が介挿されている。
【0025】
ファン式空調ユニット2の出口と放射パネルユニット3の入り口とは第2送り管路9によって接続され、放射パネルユニット3の出口とモジュールチラー1のインレットヘッダー6とが戻り管路10によって接続されている。従って、熱媒体水は、モジュールチラー1、ファン式空調ユニット2、放射パネルユニット3、モジュールチラー1と循環し、ファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3とによって空調が成される。
【0026】
本実施形態の水方式空調システムは、例えば、高層・中層・低層の建物に設置される。モジュールチラー1を屋上に設置して、各フロアーにファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3とが配置されることが多いといえる。従って、ヘッダー5,6に複数本の第1送り管路7と戻り管路10とが接続されたり、主送り管及び主戻り管から第1送り管路7や戻り管路10が分岐したりする態様が多いといえる。
【0027】
ファン式空調ユニット2及び放射パネルユニット3の数や配置態様は、床面積などに応じて適宜選択される。単位ユニット1a~1eは稼働していないものも有り得るが、ヘッダー5,6が存在するため、稼働状況に関係なく送受水できる。
【0028】
図示は省略しているが、各単位ユニット1a~1eは、熱媒体水を溜める水タンクと、水タンク内の熱媒体水を循環させる循環ポンプと、タンクから汲み上げられた熱媒体水が通る熱交換エレメントと、熱交換エレメントに接触する熱交換媒体とを備えており、熱交換媒体をヒートポンプ回路等によって循環させることにより、熱交換媒体と熱媒体水との間で熱交換されて、熱媒体水は冷房又は暖房に供される。熱交換媒体として地下水を使用して、非循環式とすることも可能である。
【0029】
(2).循環管路
第1送り管路7のうちポンプ8よりも上流側の部位にバイパス管路11の一端が接続されており、バイパス管路11の他端は、三方弁12を介して戻り管路10の途中部に接続されている。三方弁12は、2つの出口ポートへの流出量を無段階で調節可能である。従って、一方の出口ポートのうち片方のみに水が流れる状態と、他方の出口ポートのみに水が流れる状態と、両方の出口ポートに任意の比率で水を流す状態との3つの態様を選択できる。
【0030】
また、熱媒体水の温度を測定するために、モジュールチラー1のインレットヘッダー6には第1温度センサー13を設け、モジュールチラー1のアウトレットヘッダー5には第2温度センサー14を設け、ファン式空調ユニット2の入り口部には第3温度センサー15を設け、ファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3との間には第4温度センサー16を設け、放射パネルユニット3の出口部に第5温度センサー17を設けている。また、空調温度を検知するための、放射パネルユニット3のパネル温度を検知する第6温度センサー18も設けている。
【0031】
空調対象エリア19を点線で表示している。空調対象エリア19は、単位面積当たりの潜熱負荷が相対的に大きいペリメータゾーン20と、単位面積当たりの潜熱負荷が相対的に小さいインテリアゾーン21とからなっており、ファン式空調ユニット2は、ペリメータゾーン20の上方の第1天井裏空間22に配置されて、放射パネルユニット3は、インテリアゾーン21の上方の第2天井裏空間23に配置されている。なお、放射パネルユニット3をペリメータゾーン20の一部に配置することも可能である。
【0032】
本実施形態では、除湿機4は第2天井裏空間23に配置している。既述のとおり除湿機4は吸湿剤を備えたデシカントタイプであり、吸湿剤の吸湿による除湿と、吸湿剤の加熱乾燥とが行われるが、冷却除湿タイプも使用できる。
【0033】
すなわち、まず、第1吸湿剤による除湿時には、大気取り込みダクト4aを介して吸引された外気が除湿されて、乾燥した空気は第2天井裏空間23と室内とに放散されて、湿潤した空気は大気放出ダクト4bを介して室外に排出される。乾燥した空気は、室内にはダクトを介して供給される。
【0034】
次に、第1吸湿剤の吸水量が限度になると、大気空気の通路が第2吸湿剤に移行して、第2吸湿剤によって乾燥した空気が第2天井裏空間23と室内とに放散されると共に、第1吸湿剤は、室内から通気路4cを介して吸引された湿潤空気と共に加熱によって乾燥される。このようにして、吸湿剤による吸湿と乾燥とを交互に行いつつ、乾燥した空気が第2天井裏空間23と室内とに放散していく(以上は冷房時のシステムの場合である。)。
【0035】
なお、室内の空気は、第2天井裏空間23に自然通気されて、第2天井裏空間23から除湿機4に流入するようになっているが、室内に開口した通気ダクトを除湿機4に接続してもよい。除湿機4は、室内のインテリアゾーン21又はペリメータゾーン20に設置してもよい。
【0036】
(3).制御態様
本実施形態のモジュールチラー1は、効率の点から、インレットヘッダー6とアウトレットヘッダー5との熱媒体水の温度差が例えば5~7℃になるように設定されている。他方、ファン式空調ユニット2については、熱媒体水は入り口と出口との温度差が約5℃になるように設定されている。更に、放射パネルユニット3については、熱媒体水の流速やパイプの長さ等の要件から、入り口と出口との温度差が約2℃になっている。
【0037】
そこで、例えば、放射パネルユニット3のスペックで規定される許容入り口温度(要求入り口温度)が16℃で出口温度が18℃になっている冷房モードの場合、モジュールチラー1において6℃降温してモジュールチラー1の出口温度(ファン式空調ユニット2の入り口温度)が12℃であったとすると、熱媒体水の温度差に関してモジュールチラー1のスペックとファン式空調ユニット2のスペックと放射パネルユニット3のスペックとを全て満たしているため、図1(B)に示すように、三方弁12は戻り管路10のみに通水する状態になっていて、熱媒体水は、全量がモジュールチラー1とファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3とを循環し、冷凍サイクルが実行されている。
【0038】
従って、降温幅のスペックが限定されているモジュールチラー1を使用しつつ、室内の空調温度を要求された値に維持して的確な温度環境を人に提供できる。ファン式空調ユニット2及び放射パネルユニット3に必要な水量がモジュールチラー1のフル能力よりも少ない場合は、単位ユニット1a~1eのうちの一部の稼働を停止したり、各単位ユニット1a~1eは運転しつつ稼働率を低下させたり、複数の単位ユニット1a~1eを順番に稼働させたりすることにより、必要な熱量の熱媒体水は供給しつつモジュールチラー1の運転エネルギー(電気料金)を最小に抑制できる。
【0039】
そして、ファン式空調ユニット2が臨んでいるペリメータゾーン20は単位面積当たりの潜熱負荷が大きいため、ファン式空調ユニット2での受熱量は大きくて昇温の程度も高くなっている。このため、モジュールチラー1から送られた熱媒体水の温度を的確に昇温させて、放射パネルユニット3の要求入り口温度である16~18℃の範囲に昇温させることが可能になる。
【0040】
他方、外気の影響等によってファン式空調ユニット2の出口温度(或いは放射パネルユニット3の入り口温度)の実測値が放射パネルユニット3の要求入り口温度(例えば16℃)よりも低い場合は、図1(C)に表示しているように、三方弁12は、戻り管路10の上流部とバイパス管路11とのみを連通させて、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水がモジュールチラー1に戻らずにバイパス管路11に流れる状態か、又は、戻り管路10の上流側及び下流側の両方とバイパス管路11とを連通させて、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水のうち一部はバイパス管路11に流れて残りはモジュールチラー1に戻る状態に切り替えられる。
【0041】
すると、放射パネルユニット3によって昇温した熱媒体水の全部又は一部がファン式空調ユニット2に還流して、熱媒体水の全部又は一部が、ファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3とを循環する。このため、熱媒体水を放射パネルユニット3に必要な温度に速やかに昇温できる。その結果、使用者に快適な空調環境を提供できる。熱媒体水の還流量(還流割合)は、放射パネルユニット3が要求している熱量によって決定される。
【0042】
熱媒体水の全量がファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3とを循環している状態では、モジュールチラー1は運転を停止させることができる。ファン式空調ユニット2の入り口温度(第3温度センサー15の実測値)が放射パネルユニット3の要求温度よりも高くなったら、モジュールチラー1の運転を再開すると共に、三方弁12を、戻り管路10を連通させて熱媒体水が通過する冷凍サイクル状態に切り替える(熱媒体水がモジュールチラー1に徐々に戻るように三方弁12を制御して、モジュールチラー1の稼働率を徐々に高めていくことも可能である。)。
【0043】
ファン式空調ユニット2の出口温度が放射パネルユニット3の要求入り口温度よりも低い場合、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水をバイパス管路11から戻り管路10に還流させることに代えて、複数台の単位ユニット1a~1eのうち一部のみを稼働して降温の程度を低くしたり、熱交換を全体的に停止して単に循環させたりすることにより、ファン式空調ユニット2に対する入り口温度を上昇させることも可能である。
【0044】
第1実施形態ではポンプ8を第1送り管路7に配置しているが、ポンプ8を戻り管路10に配置し、戻り管路10のうちポンプ8よりも下流側の部位と第1送り管路7とをバイパス管路11で接続し、戻り管路10とバイパス管路11との接続部に三方弁12を介在させることも可能である(この場合は、第1送り管路7のうちバイパス管路11との接続部よりも上流側の部位に、チラー1への逆流を防止する逆止弁を設けるのが好ましい。)。この場合、熱媒体水をチラー1から若干の圧力で圧送することも可能である。
【0045】
(4).第2,3実施形態
図2,3に示す第2,3実施形態では、戻り管路10の中途部と第2送り管路9とがバイパス管路11によって接続されており、図2の第2実施形態では、戻り管路10とバイパス管路11との接続部に三方弁12を介在させて、図3の第3実施形態では、バイパス管路11と第2送り管路9との接続部に三方弁12を介在させている。
【0046】
この第2,3実施形態では、放射パネルユニット3の潜熱負荷に応じて、放射パネルユニット3への通水量を制御できる。すなわち、まず、ファン式空調ユニット2の出口温度が放射パネルユニット3の要求入り口温度に納まっていて放射パネルユニット3に負荷が存在しているノーマルモードでは、三方弁12は矢印25で示すように第2送り管路9のみに通水させる状態になっており、熱媒体水は、モジュールチラー1、ファン式空調ユニット2、放射パネルユニット3を経由してモジールチラー1に循環する。
【0047】
他方、放射パネルユニット3に負荷が存在しない場合(冷房する必要がない場合)は、三方弁12が、矢印26で示すように、熱媒体水が第2送り管路9からバイパス管路11に流れる状態に切り替わって、熱媒体水はバイパス管路11から戻り管路10に戻される。従って、運転コストを抑制できる。
【0048】
放射パネルユニット3の負荷に応じて三方弁12の開度を調節することも可能である。すなわち、ファン式空調ユニット2を通過した熱媒体水を、放射パネルユニット3に向かう流れとバイパス管路11に向かう流れとに分量させつつ、通水割合を放射パネルユニット3の負荷に応じて調節することが可能である。
【0049】
図2,3の実施形態において、図2に一点鎖線で示すように、戻り管路10又は第2送り管路9に補助ポンプ27を設けると、矢印28で示すように、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水をバイパス管路11から放射パネルユニット3に戻すことができる。この場合は、2つのポンプ8,27を駆動すると、ファン式空調ユニット2を機能させつつ放射パネルユニット3に熱媒体水を循環させることができるため、現実的である。
【0050】
また、図2,3の実施形態において、ポンプ8を戻り管路10のうちバイパス管路11との接続部よりも上流側の部位に設けること(すなわち、補助ポンプ27を主たるポンプ8に置き換えること)も可能である。この場合は、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水の一部又は全部を矢印26で示すようにバイパス管路11に戻して、熱媒体水の一部又は全部を放射パネルユニット3に循環させることができる。ポンプ8を、第2送り管路9のうちバイパス管路11との接続部よりも下流側の部位に設けた場合も同様である。
【0051】
これらの場合は、第2送り管路9のうちバイパス管路11との接続部よりも上流側の部位に、熱媒体水がファン式空調ユニット2に逆流することを防止する逆止弁を設けることが好ましい。但し、チラー1からポンプによって熱媒体水が圧送されている場合は、ファン式空調ユニット2への熱媒体水の逆流はないので、逆止弁は不要である。
【0052】
ファン式空調ユニット2を通過した熱媒体水が放射パネルユニット3に流れずに戻り管路10に戻されている状態でモジュールチラー1に余裕がある場合は、モジュールチラー1の稼働率を上げてファン式空調ユニット2への送水量を増加させることにより、ファン式空調ユニット2の出口温度を低下させることができる。
【0053】
図4に示す第4実施形態は第1実施形態と第3実施形態とを組合せたものであり、第1送り管路7と戻り管路10とは第1バイパス管路11aで接続されて、第1バイパス管路11aと戻り管路10との接続部に第1三方弁12aを介在させると共に、第2送り管路9と戻り管路10とは第2バイパス管路11bで接続して、第2バイパス管路11bと第2送り管路9との接続部に第2三方弁12bを介在させている。従って、第1実施形態の制御と第2,3実施形態の制御との両方を行える。
【0054】
また、この実施形態では、第1三方弁12aを熱媒体水が戻り管路10から第1バイパス管路11aに流れる状態に切り換えて、第2三方弁12bを熱媒体水が第2送り管路9から戻り管路10に流れる状態に切り換えることにより、熱媒体水がファン式空調ユニット2を循環する状態を生成できる(この状態ではモジュールチラー1は稼働していない。)。従って、ファン式空調ユニット2を利用して熱媒体水を早期昇温できる。
【0055】
いずれの態様においても、放射パネルユニット3の稼働と除湿機4の稼働とは関連しており、放射パネルユニット3に結露が生じないように除湿機4が駆動される。除湿機4の駆動の制御は、放射パネルユニット3の温度や駆動のON・OFFなどに基づいて行われるが、通常は、空調状態では除湿機4はONの状態に意地されている。
【0056】
図4の実施形態においても、ポンプ8を戻り管路10のうち第1バイパス管路11aよりも上流側の部位に配置したり、第2送り管路9のうち第2バイパス管路11bとの接続部よりも下流側の部位に配置したりすることが可能である。これらの場合も、放射パネルユニット3を通過した熱媒体水を、ファン式空調ユニット2に戻したり、放射パネルユニット3に戻したりすることができる。
【0057】
(5).第5,6実施形態
図5,6では、ファン式空調ユニット2と放射パネルユニット3との配置態様の例を示している。このうち図5に示す第5実施形態は、1つの部屋を空調エリアとしており、窓際の部分をペリメータゾーン20と成して、ペリメータゾーン20にファン式空調ユニット2を配置し、インテリアゾーン21には複数の放射パネルユニット3を直列に配置している。バイパス管路11と三方弁12とを備えているが、第2~4実施形態の態様も採用できる(第6実施形態も同様である。)。本例でも、ペリメータゾーン20の一部に放射パネルユニット3を配置することは可能である。
【0058】
ファン式空調ユニット2は2台を直列に配置しているが、1台又は3台以上を配置してもよい。複数台を配置する場合、並列に配置してもよい。ファン式空調ユニット2や放射パネルユニット3の数や配置態様は、部屋の面積等に応じて適宜選択できる。符号29は窓、符号30は廊下、符号31は出入り口を示している。
【0059】
実施形態では、1台のモジュールチラー1で多数の空調エリア19を空調している。このため、第1送り管路7は共通送り管路32から分岐して、戻り管路10は共通戻り管路33から分岐している。ポンプ8は個々の空調エリア19に対応して設けているが、共通送り管路32の基端部のみに設けてもよい(その方が現実的である。)。
【0060】
ポンプ8を共通送り管路32に設けた場合、個別の空調エリア19の運転・運転停止の切り替え手段としては、第1三方弁12を利用できる。すなわち、空調しない場合は、第1三方弁12を、熱媒体水がいずれの方向にも流れない状態に切り替えたらよい。
【0061】
図6に示す第6実施形態では、1つのフロアーに玄関部34と廊下35と多数の小部屋36とが配置されている建物において、玄関部34と廊下35とをペリメータゾーン20と成してその天井部に複数台のファン式空調ユニット2を配置し、各小部屋36はインテリアゾーン21と成してそれぞれ放射パネルユニット3を配置している。符号37は入り口である。玄関部34に受け付けを設けることができる。
【0062】
ファン式空調ユニット2は、玄関部34では複数台を並列に接続して、廊下35では複数台を直列に配置しているが、全体を直列に配置したり、全体を並列に配置したりすることも可能である。各放射パネルユニット3は、第2送り管路9と戻り管路10とに並列配置されている。
【0063】
玄関部34と廊下35はオープンスペースになっており、人の移動も多い。このため、単位面積当たりの潜熱負荷は大きくてファン式空調ユニット2を流れる熱媒体水との熱交換量は多い。このため、モジュールチラー1から送られた熱媒体水の温度が低くても、放射パネルユニット3の要求温度の範囲に速やかに昇温させることができる。
【0064】
各小部屋36の放射パネルユニット3は個別にON・OFFできる。従って、空調エリア19の全体としての必要な熱量が変化し得るが、この変化に対しては、モジュールチラー1が最も効率的な運転で対応できる。
【0065】
図1に一点鎖線で示すように、モジュールチラー1のアウトレットヘッダー5とインレットヘッダー6とをバイパス管路40で接続し、バイパス管路40に流量制御弁41を設けることにより、放射パネルユニット3からアウトレットヘッダー5に戻った水の全体又は一部をインレットヘッダー6に戻すことも可能である。
【0066】
この場合、モジュールチラー1を運転せずに水を循環させることも可能であるが、モジュールチラー1の一部のユニットを稼働させて、アウトレットヘッダー5の出口温度が適切な値になるように、放射パネルユニット3から戻った水とモジュールチラー1で降温した水とを混合させるのが好ましいと云える。
【0067】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、熱媒体水の流れ方向の切り替え手段としては、三方弁を使用することに代えて、複数の二方弁を使用することも可能である。逆止弁を併用することも可能である。各種の弁と流量調節弁とを組み合わせることも可能である。
【0068】
ペリメータゾーンとインテリアゾーンとの関係については、例えば、1つのフロアー全体をペリメータゾーンと成してここにファン式空調ユニットを配置して、他のフロアーをインテリアゾーンと成してここに放射パネルユニットを配置するといったことも可能である。チラーは必ずしもモジュール式である必要はなく、単一構造品も使用できる。モジュールチラーは大型ものが多いので、どちらを使用するかは床面積等に応じて決めたらよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本願発明は、水方式空調システムに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 熱源ユニットの一例としてのモジュールチラー
2 空気流式空調ユニットの一例としてのファン式空調ユニット
3 放射パネルユニット
4 除湿機
5,6 ヘッダー
7 第1送り管路
8 ポンプ
9 第2送り管路
10 戻り管路
11,11a,11b バイパス管路
12,12a,12b 三方弁
13~18 温度センサ
19 空調エリア
20 ペリメータゾーン
21 インテリアゾーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6