(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071147
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ワイヤグリッド偏光素子およびその製造方法ならびに光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240517BHJP
G02B 27/28 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B27/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181940
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】武田 吐夢
【テーマコード(参考)】
2H149
2H199
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA17
2H149AA18
2H149AA20
2H149AA21
2H149AB11
2H149BA04
2H149BA23
2H149BB28
2H149FA43W
2H149FC05
2H199AB13
2H199AB37
2H199AB42
2H199AB61
(57)【要約】
【課題】光学特性を維持しつつ、耐久性を向上させることが可能なワイヤグリッド偏光素子を提供する。
【解決手段】ワイヤグリッド偏光素子10は、透明基板11と、透明基板11の一方の面に、使用帯域の光の波長よりも短いピッチpで配列されており、所定方向に延在している格子状凸部12と、を備え、透明基板11は、使用帯域の光に対して透明であり、格子状凸部12は、透明基板11の側から順に、反射層12aと、誘電体層12bと、吸収層12cと、を有し、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の一方の面に、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列されており、所定方向に延在している格子状凸部と、を備え、
前記透明基板は、前記使用帯域の光に対して透明であり、
前記格子状凸部は、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を有し、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している、ワイヤグリッド偏光素子。
【請求項2】
前記無機構造物は、高撥水性を発現することが可能である、請求項1に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【請求項3】
前記無機構造物は、超撥水性を発現することが可能である、請求項2に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【請求項4】
前記無機構造物は、凹部および/または凸部が表面に形成されている、請求項1に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【請求項5】
前記凹部の形状は、半球状であり、
前記凸部の形状は、半球状である、請求項4に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【請求項6】
前記凹部は、径が2nm以上4nm以下であり、深さが2nm以上4nm以下であり、
前記凸部は、径が2nm以上4nm以下であり、高さが2nm以上4nm以下である、請求項5に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【請求項7】
前記凸部の形状は、フラクタル形状、ピラー形状、ウィスカー形状およびテトラポッド形状からなる群より選択される一種以上である、請求項4に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【請求項8】
透明基板の一方の面に、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を積層して、積層体を形成する工程と、
前記積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列されており、所定方向に延在している格子状凸部を形成する工程と、
前記格子状凸部は、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載のワイヤグリッド偏光素子を備える、光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤグリッド偏光素子、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法および光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光素子は、所定の方向の偏光を吸収し、これと直交する方向の偏光を透過させる光学素子である。液晶表示装置では、原理上、偏光素子が必要となる。特に、透過型液晶プロジェクタのような、光量が大きい光源を使用する液晶表示装置では、偏光素子は、強い輻射線を受けるため、耐久性が必要となるとともに、数cm程度の大きさ、高い消光比および反射率特性の制御が要求される。これらの要求に応えるため、ワイヤグリッド偏光素子が提案されている。
【0003】
ワイヤグリッド偏光素子は、透明基板と、透明基板の一方の面に、使用帯域の光の波長よりも短いピッチ(例えば、数十nm以上数百nm以下)で配置されており、所定方向に延在している格子状凸部と、を備える。ワイヤグリッド偏光素子に光が入射すると、格子状凸部の延在方向に平行な電界成分を有するs偏光(TE波(s波))は、透過することができず、格子状凸部の延在方向に垂直な電界成分を有するp偏光(TM波(p波))は、透過する。
【0004】
ワイヤグリッド偏光素子は、多層構造とすることで反射率特性の制御も可能となり、ワイヤグリッド偏光素子の表面で反射された戻り光が装置内で再度反射されて発生するゴースト等による画質の劣化を低減できることから、液晶プロジェクタに適している。
【0005】
一方、照明・ディスプレイ光源は、ランプからLED、そしてレーザーへと進化しており、液晶プロジェクタにおいても、複数の半導体レーザー(LD)を使用することで、高輝度化が図られている。このため、ワイヤグリッド偏光素子の耐久性を向上させることが求められている。
【0006】
特許文献1では、格子状凸部の表面及び格子状凸部の間に形成される溝の底面部の表面に、パーフルオロデシルトリエトキシシラン等のフッ素系シラン化合物を使用して、撥水膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、撥水膜を形成する際に、フッ素系シラン化合物が使用されているため、使用環境による性能劣化が避けられない。このため、ワイヤグリッド偏光素子の光学特性を維持しつつ、耐久性を向上させることが望まれている。
【0009】
本発明は、光学特性を維持しつつ、耐久性を向上させることが可能なワイヤグリッド偏光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)透明基板と、前記透明基板の一方の面に、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列されており、所定方向に延在している格子状凸部と、を備え、前記透明基板は、前記使用帯域の光に対して透明であり、前記格子状凸部は、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を有し、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している、ワイヤグリッド偏光素子。
【0011】
(2)前記無機構造物は、高撥水性を発現することが可能である、(1)に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【0012】
(3)前記無機構造物は、超撥水性を発現することが可能である、(2)に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【0013】
(4)前記無機構造物は、凹部および/または凸部が表面に形成されている、(1)から(3)のいずれか一項に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【0014】
(5)前記凹部の形状は、半球状であり、前記凸部の形状は、半球状である、(4)に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【0015】
(6)前記凹部は、径が2nm以上4nm以下であり、深さが2nm以上4nm以下であり、前記凸部は、径が2nm以上4nm以下であり、高さが2nm以上4nm以下である、(5)に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【0016】
(7)前記凸部の形状は、フラクタル形状、ピラー形状、ウィスカー形状およびテトラポッド形状からなる群より選択される一種以上である、(4)に記載のワイヤグリッド偏光素子。
【0017】
(8)透明基板の一方の面に、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を積層して、積層体を形成する工程と、前記積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列されており、所定方向に延在している格子状凸部を形成する工程と、前記格子状凸部は、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している、ワイヤグリッド偏光素子の製造方法。
【0018】
(9)(1)から(7)のいずれか一項に記載のワイヤグリッド偏光素子を備える、光学機器。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光学特性を維持しつつ、耐久性を向上させることが可能なワイヤグリッド偏光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態のワイヤグリッド偏光素子の一例を示す斜視模式図である。
【
図2】
図1のワイヤグリッド偏光素子を示す断面模式図である。
【
図3】
図1の格子状凸部の表面に存在している無機構造物の例を示す断面模式図である。
【
図4】
図1の格子状凸部の表面に存在している無機構造物の他の例を示す断面模式図である。
【
図5】
図1のワイヤグリッド偏光素子の変形例を示す断面模式図である。
【
図6】シミュレーションに使用したワイヤグリッド偏光素子を示す断面模式図である。
【
図7】
図6のワイヤグリッド偏光素子のp偏光およびs偏光の透過率を示すグラフである。
【
図8】
図6のワイヤグリッド偏光素子のp偏光およびs偏光の反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
[ワイヤグリッド偏光素子]
図1および
図2に、本実施形態のワイヤグリッド偏光素子の一例を示す。
【0023】
ワイヤグリッド偏光素子10は、透明基板11と、透明基板11の一方の面に、使用帯域の光の波長よりも短いピッチpで配列されており、Y軸方向に延在している、幅w、高さhの格子状凸部12と、を備える。
【0024】
ここで、
図1および
図2に示すように、格子状凸部12が延在している方向をY軸方向と称する。また、Y軸方向に直交し、透明基板11の主面に沿って、格子状凸部12がピッチpで配列されている方向をX軸方向と称する。さらに、Y軸方向およびX軸方向に直交し、透明基板11の主面に対して垂直な方向をZ軸方向と称する。なお、ワイヤグリッド偏光素子10に入射する光は、透明基板11のどちら側から入射してもよいが、透明基板11の格子状凸部12が配列されている側から、Z軸方向に入射することが好ましい。
【0025】
ワイヤグリッド偏光素子10は、透過、反射、干渉および光学異方性による偏光の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分を有するs偏光(TE波(s波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分を有するp偏光(TM波(p波))を透過させる。したがって、
図1および
図2においては、Y軸方向がワイヤグリッド偏光素子10の吸収軸の方向であり、X軸方向がワイヤグリッド偏光素子10の透過軸の方向である。
【0026】
格子状凸部12は、
図2に示すように、透明基板11の側から順に、透明基板11に形成されている台座部11aと、反射層12aと、誘電体層12bと、吸収層12cと、を有する。格子状凸部12は、透明基板11の一方の面に、一次元格子状に配列されているワイヤグリッド構造を有する。
【0027】
なお、格子状凸部は、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を有していればよく、必要に応じて、上記以外の層が存在していてもよいし、台座部11aを省略してもよい。また、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を形成する順序は、特に限定されない。
【0028】
格子状凸部12は、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している。無機構造物は、例えば、格子状凸部12の頂面のみに存在していてもよいし、格子状凸部12の頂面に加え、格子状凸部12の側面の少なくとも一部に存在していてもよい。これにより、ワイヤグリッド偏光素子10の光学特性が維持されつつ、耐久性が向上する。また、フッ素系シラン化合物を使用して撥水膜を形成しなくてもよいため、地球環境への影響が軽減される。
【0029】
無機構造物は、撥水性を発現することが可能であるが、高撥水性を発現することが可能であることが好ましく、超撥水性を発現することが可能であることがさらに好ましい。
【0030】
本明細書および特許請求の範囲において、撥水性とは、水に対する接触角が90°以上であることを意味し、高撥水性とは、水に対する接触角が110°以上150°未満であることを意味し、超撥水性とは、水に対する接触角が150°以上であることを意味する。なお、例えば、材質1および材質2で構成される複合表面の水に対する接触角θfは、Cassieの式
cosθf=A1cosθ1+A2cosθ2
(式中、θ1およびθ2は、それぞれ材質1および材質2の水に対する接触角であり、A1およびA2は、それぞれ材質1および材質2の面積率であり、A1+A2=1である。)
で表される。
【0031】
無機構造物は、凹部31(
図3(a)参照)および/または凸部32(
図3(b)参照)が表面に形成されている。ここで、無機構造物は、格子状凸部12の表面に形成されている層を構成する材料と同一の材料で構成されていることが好ましい。なお、ワイヤグリッド偏光素子10の光学特性が維持される場合、無機構造物は、格子状凸部12の表面に形成されている層を構成する材料と異なる材料で構成されていてもよい。
【0032】
凹部31は、径が2nm以上4nm以下であり、深さが2nm以上4nm以下であることが好ましい。凹部31の径および深さが2nm以上であると、無機構造物が超撥水性を発現しやすくなり、凹部31の径および深さが4nm以下であると、ワイヤグリッド偏光素子10の光学特性を維持しやすくなる。
【0033】
凸部32は、径が2nm以上4nm以下であり、高さが2nm以上4nm以下であることが好ましい。凸部32の径および高さが2nm以上であると、無機構造物が超撥水性を発現しやすくなり、凸部32の径および高さが4nm以下であると、ワイヤグリッド偏光素子10の光学特性を維持しやすくなる。
【0034】
凹部31が表面に形成されている無機構造物は、例えば、無機ナノ粒子を表面に配置した状態で無機材料を成膜した後、無機ナノ粒子を選択的にエッチングすることにより、形成される。一方、凸部32が表面に形成されている無機構造物は、例えば、無機ナノ粒子を表面に配置した状態で無機材料を成膜した後、必要に応じて、無機材料を選択的にエッチングすることにより、形成される。なお、凹部31または凸部32が表面に形成されている無機構造物を形成する際に、無機ナノ粒子を表面に配置した状態で無機材料を成膜する代わりに、無機ナノ粒子を含む無機材料を成膜してもよい。
【0035】
凹部31および凸部32の形状は、半球状であるが、特に限定されない。例えば、凸部32の形状は、フラクタル形状(
図4(a)参照)、ピラー形状(
図4(b)参照)、ウィスカー形状(
図4(c)参照)、テトラポッド形状(
図4(d)参照)等であってもよい。また、凹部31および凸部32の形状として、複数の形状が混在していてもよい。
【0036】
ピラー形状またはウィスカー形状の凸部が表面に形成されている無機構造物は、例えば、無機材料の表面をプラズマ処理したり、熱処理したりすることにより、無機材料から析出させたり、異常成長させたりすることで、形成される。また、テトラポッド形状の凸部が表面に形成されている無機構造物は、例えば、針状の結晶体を表面に堆積させた後、無機材料を成膜することにより、形成される。
【0037】
透明基板11の格子状凸部12が配列されている側から入射した光は、吸収層12cおよび誘電体層12bを通過する際に、一部が吸収されて減衰する。吸収層12cおよび誘電体層12bを透過した光のうち、p偏光(TM波(p波))は、高い透過率で反射層12aを透過する。一方、吸収層12cおよび誘電体層12bを透過した光のうち、s偏光(TE波(s波))は、反射層12aで反射される。反射層12aで反射されたs偏光は、誘電体層12bおよび吸収層12cを通過する際に、一部が吸収されるが、一部が反射して反射層12aに戻る。また、反射層12aで反射されたs偏光は、誘電体層12bおよび吸収層12cを通過する際に干渉して減衰する。以上のように、s偏光が選択的に減衰されることにより、ワイヤグリッド偏光素子10は、所望の偏光特性を得ることができる。
【0038】
ここで、高さhは、透明基板11の主面に垂直なZ軸方向の寸法を意味する。また、幅wは、ワイヤグリッド偏光素子10をY軸方向から見たときに、高さhに直交するX軸方向の寸法を意味する。さらに、ピッチpは、ワイヤグリッド偏光素子10をY軸方向から見たときに、格子状凸部12のX軸方向の繰り返し間隔である。
【0039】
ピッチpは、使用帯域の光の波長よりも短ければ、特に限定されないが、ワイヤグリッド偏光素子10の作製の容易性および安定性の観点から、例えば、100nm以上200nm以下であることが好ましい。ピッチpは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所のピッチpを測定し、その算術平均値をピッチpとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0040】
(透明基板)
透明基板11を構成する材料としては、使用帯域の光に対して透明であれば、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
本明細書および特許請求の範囲において、「使用帯域の光に対して透明である」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光素子としての機能を保持することが可能な光の透過率であることを意味する。使用帯域の光としては、例えば、波長が380nm以上810nm以下程度である可視光等が挙げられる。
【0042】
透明基板11を構成する材料としては、例えば、ガラス、水晶、石英、サファイア等の屈折率が1.1以上2.2以下である材料等を用いることができる。これらの中でも、コストおよび透光率の観点から、石英およびガラスが好ましく、石英(屈折率1.46)およびソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)が特に好ましい。また、熱伝導性の観点から、水晶およびサファイアが好ましい。これにより、透明基板11の耐久性が向上し、発熱量が大きいプロジェクタの光学エンジン用の偏光素子として用いることができる。
【0043】
なお、透明基板11を構成する材料として、水晶、サファイア等の光学活性を有する結晶を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行な方向または垂直な方向に格子状凸部12または52を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)の屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0044】
透明基板11の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上3mm以下である。なお、透明基板11の厚みの測定方法としては、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡法等が挙げられる。
【0045】
このとき、複数の基板を貼り合わせて一体化したものを、透明基板11として使用してもよい。また、透明基板11の主面の形状としては、特に限定されないが、例えば、矩形状等が挙げられる。なお、透明基板11は、フレキシブル基板であってもよい。
【0046】
なお、台座部11aは、例えば、透明基板11をエッチングすることにより、形成される。
【0047】
(反射層)
反射層12aは、透明基板11の一方の面に、ピッチpで配列されており、Y軸方向に延在している。反射層12aは、偏光子としての機能を有し、反射層12aの延在方向に平行な方向の電界成分を有するs偏光(TE波(s波))を減衰させ、反射層12aの延在方向に直交する方向の電界成分を有するp偏光(TM波(p波))を透過させる。
【0048】
反射層12aを構成する材料としては、使用帯域の光を反射する材料であれば、特に限定されないが、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te、Nd等の金属、これらの1種以上の金属を含む合金等が挙げられる。これらの中でも、AlまたはAl合金が好ましい。
【0049】
なお、反射層12aは、例えば、着色剤等により表面の反射率が高い金属膜以外の無機膜や樹脂膜であってもよい。
【0050】
反射層12aの厚みは、特に限定されないが、例えば、100nm以上300nm以下である。なお、反射層12aの厚みの測定方法としては、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡法等が挙げられる。
【0051】
反射層12aの形成方法としては、特に限定されないが、例えば、蒸着法、スパッタ法等が挙げられる。
【0052】
なお、反射層12aは、構成する材料が異なる2層以上の積層体であってもよい。
【0053】
(誘電体層)
誘電体層12bは、反射層12a上に形成されている。すなわち、誘電体層12bは、ピッチpで配列されており、Y軸方向に延在している。
【0054】
誘電体層12bの厚みは、吸収層12cで反射したs偏光に対して、吸収層12cを透過して反射層12aで反射したs偏光の位相が半波長ずれる範囲となるように設定される。具体的には、誘電体層12bの厚みは、s偏光の位相を調整して干渉効果を高めることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、1nm以上500nm以下の範囲で適宜設定される。なお、誘電体層12bの厚みの測定方法としては、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡法等が挙げられる。
【0055】
誘電体層12bを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Nb酸化物、Ta酸化物、Hf酸化物等が挙げられる。
【0056】
誘電体層12bの屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。反射層12aの光学特性は、誘電体層12bの屈折率の影響を受けるため、誘電体層12bを構成する材料を選択することで、ワイヤグリッド偏光素子10の光学特性を制御することができる。また、誘電体層12bの厚みおよび屈折率を適宜調整することにより、反射層12aで反射したs偏光が、吸収層12cを透過する際に、一部を反射させて反射層12aに戻すことができ、吸収層12cを通過したs偏光を干渉により減衰させることができる。このようにして、s偏光を選択的に減衰させることにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0057】
誘電体層12bの形成方法としては、特に限定されないが、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等が挙げられる。
【0058】
なお、誘電体層12bは、構成する材料が異なる2層以上の積層体であってもよい。
【0059】
(吸収層)
吸収層12cは、誘電体層12b上に形成されている。すなわち、吸収層12cは、ピッチpで配列されており、Y軸方向に延在している。
【0060】
吸収層12cの厚みは、特に限定されないが、例えば、5nm以上50nm以下である。なお、吸収層12cの厚みの測定方法としては、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡法等が挙げられる。
【0061】
吸収層12cを構成する材料としては、使用帯域の光を吸収する、すなわち、消衰係数が0ではない材料であれば、特に限定されないが、金属、合金、半導体等が挙げられる。金属としては、例えば、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等が挙げられる。合金としては、例えば、これらの金属のうち、1種以上の金属を含む合金等が挙げられる。また、半導体としては、例えば、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β-FeSi2、MgSi2、NiSi2、BaSi2、CrSi2、CoSi2、TaSi等)等が挙げられる。これにより、ワイヤグリッド偏光素子10は、可視光域に対して高い消光比が得られる。これらの中でも、吸収層12cは、FeまたはTaを含むとともに、Siを含むことが好ましい。
【0062】
吸収層12cを構成する材料として、半導体を用いる場合には、光吸収に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、半導体のバンドギャップエネルギーが使用帯域の光のエネルギー以下である必要がある。例えば、使用帯域が可視光域である場合、波長が400nm以上である光を吸収する、即ち、バンドギャップエネルギーが3.1eV以下である半導体を使用する必要がある。
【0063】
吸収層12cの形成方法としては、特に限定されないが、例えば、蒸着法、スパッタ法等が挙げられる。
【0064】
なお、吸収層12cは、構成する材料が異なる2層以上の積層体であってもよい。
【0065】
(反射防止層)
なお、ワイヤグリッド偏光素子10は、透明基板11の他方の面に、反射防止層をさらに備えていてもよい。
【0066】
反射防止層は、透明基板11上に形成されており、誘電体層12bを構成する材料と同様の材料で構成されている2層以上の多層膜である。例えば、屈折率の異なる低屈折率層と高屈折率層とが、交互に積層している反射防止層を形成することで、界面反射された光を干渉により減衰させることができる。
【0067】
反射防止層の厚みは、特に限定されないが、例えば、1nm以上500nm以下である。なお、反射防止層の厚みの測定方法としては、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡法等が挙げられる。
【0068】
反射防止層は、誘電体層12bと同様の方法により、高密度膜として形成することができるが、反射防止層の密度の観点から、反射防止層の形成方法として、イオンビームアシストされたIAD法(Ion-beam Assisted Deposition)やIBS法(Ion Beam Sputtering)を用いることが望ましい。
【0069】
(保護膜)
ワイヤグリッド偏光素子10は、保護膜により表面の少なくとも一部が覆われていてもよい。この場合、保護膜の表面の少なくとも一部に超撥水を発現することが可能な無機構造物が存在していてもよい。また、無機構造物の表面の少なくとも一部を保護膜で覆うことで超撥水を発現してもよい。ここで、保護膜を構成する材料は、誘電体層12bを構成する材料と同一である。これにより、ワイヤグリッド偏光素子10の耐久性が向上する。
【0070】
保護膜の形成方法としては、誘電体層12bあるいは反射防止層と同様の方法が挙げられる。
【0071】
なお、保護膜は、誘電体層12bと同様に、構成する材料が異なる2層以上の積層体であってもよい。
【0072】
(ワイヤグリッド偏光素子の製造方法)
ワイヤグリッド偏光素子10の製造方法は、透明基板11の一方の面に、透明基板11の側から順に、反射層と、誘電体層と、吸収層と、を積層して、積層体を形成する工程と、積層体を選択的にエッチングすることにより、表面の少なくとも一部に撥水性を発現することが可能な無機構造物が存在している格子状凸部12を形成する工程と、を含む。このとき、表面の少なくとも一部に無機構造物が存在している層が形成されている積層体を選択的にエッチングすることにより、格子状凸部12を形成してもよい。また、表面に無機構造物が存在していない積層体を選択的にエッチングし、格子状凸部の前駆体を形成した後、格子状凸部の前駆体の表面の少なくとも一部に無機構造物が存在している層を形成することにより、格子状凸部12を形成してもよい。
【0073】
積層体を選択的にエッチングする際には、まず、積層体上に、例えば、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等により、レジストを用いて、一次元格子状のマスクパターンを形成する。次に、積層体のマスクパターンが形成されていない領域をエッチングする。
【0074】
エッチング方法としては、特に限定されないが、例えば、エッチング対象に対応するエッチングガスを用いるドライエッチング法等が挙げられる。
【0075】
なお、ワイヤグリッド偏光素子10の製造方法は、透明基板11の他方の面に、反射防止層を形成する工程をさらに含んでいてもよい。また、ワイヤグリッド偏光素子10の製造方法は、保護膜で表面の少なくとも一部を覆う工程をさらに含んでいてもよい。
【0076】
図5に、ワイヤグリッド偏光素子10の変形例を示す。
【0077】
ワイヤグリッド偏光素子50は、透明基板11の一方の面に下地層51が形成されており、格子状凸部52を備える以外は、ワイヤグリッド偏光素子10と同様である。ここで、格子状凸部52は、透明基板11の側から順に、下地層51に形成されている台座部51aと、吸収層12cと、誘電体層12bと、反射層12aと、誘電体層12bと、吸収層12cと、誘電体層12bと、を有する。ここで、格子状凸部52の頂面を構成する誘電体層12bは、保護膜として機能する。ワイヤグリッド偏光素子50は、格子状凸部52が形成されていない側から入射した光についても、格子状凸部52が形成されている側から入射した光と同様の偏光特性を得ることができる。
【0078】
(下地層)
下地層51を構成する材料は、誘電体層12bを構成する材料と同一である。これにより、吸収層12cとの接着性が向上する。
【0079】
下地層51の形成方法としては、誘電体層12b、反射防止層あるいは保護膜と同様の方法が挙げられる。
【0080】
なお、下地層51は、誘電体層12bと同様に、構成する材料が異なる2層以上の積層体であってもよい。
【0081】
また、台座部51aは、例えば、下地層51をエッチングすることにより、形成される。
【0082】
(シミュレーション)
ワイヤグリッド偏光素子60(
図6参照)の光学特性が、無機構造物63が存在しても、維持されることをシミュレーションにより検証した。ここで、透明基板11は、透明ガラス基板イーグルXG(コーニング製)であり、下地層51は、厚み85nmのSiO
2膜であり、台座部51aは、厚みが20nmである。また、反射層12aは、厚み270nmのAl膜であり、誘電体層12bは、厚み5nmのSiO
2膜であり、吸収層12cは、厚み25nmのFeSi膜であり、保護膜61は、厚み15nmのSiO
2膜である。さらに、格子状凸部62は、幅(w)が35nmであり、高さ(h)が335nmであり、ピッチ(p)が141nmであり、保護膜61の頂面および側面、吸収層12cの側面ならびに誘電体層12bの側面に無機構造物63が存在している。また、無機構造物63の表面に形成されている凹部63aは、半球状であり、直径がφ[nm]であり、深さがφ[nm]である。一方、無機構造物63の表面に形成されている凸部63bは、半球状であり、直径がφ[nm]であり、深さがφ[nm]である。このとき、凹部63aおよび凸部63bは、隣接して形成されており、隣接して形成されている凹部63aおよび凸部63b同士の間隔が0.3~1.5nmである。
【0083】
図7(a)および(b)に、それぞれワイヤグリッド偏光素子60のp偏光およびs偏光の透過率(TpおよびTs)を示す。また、
図8(a)および(b)に、それぞれワイヤグリッド偏光素子60のp偏光およびs偏光の反射率(RpおよびRs)を示す。なお、φ=0は、格子状凸部62の表面に無機構造物63(凹部63aおよび凸部63b)が存在していないことを意味する。
【0084】
図7および
図8から、保護膜61の頂面に無機構造物63(凹部63aおよび凸部63b;φ=2、4)が存在しても、ワイヤグリッド偏光素子60の光学特性(p偏光およびs偏光の透過率特性ならびにp偏光およびs偏光の反射率特性)が維持されていることがわかる。
【0085】
[光学機器]
本実施形態の光学機器は、本実施形態のワイヤグリッド偏光素子を備える。
【0086】
本実施形態の光学機器としては、特に限定されないが、例えば、液晶ディスプレイ、サイネージ等の表示機器、液晶プロジェクタ、空間演出照明等の投影機器、ヘッドアップディスプレイ、ヘッドライト等の車載機器、ヘッドマウントディスプレイ、スマートグラス等のVR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)機器、各種の光センサー等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態のワイヤグリッド偏光素子の耐久性を考慮すると、液晶プロジェクタが好ましい。
【0087】
本実施形態の光学機器が複数の偏光素子を備える場合、複数の偏光素子の少なくとも1つが本実施形態のワイヤグリッド偏光素子であればよい。例えば、本実施形態の光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側および出射側に配置される偏光素子の少なくとも一方が本実施形態のワイヤグリッド偏光素子であればよい。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0089】
10、50、60 ワイヤグリッド偏光素子
11 透明基板
11a 台座部
12、52、62 格子状凸部
12a 反射層
12b 誘電体層
12c 吸収層
31、63a 凹部
32、63b 凸部
51 下地層
61 保護膜
63 無機構造物