IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 品川リフラクトリーズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ノズル状耐火物 図1
  • 特開-ノズル状耐火物 図2
  • 特開-ノズル状耐火物 図3
  • 特開-ノズル状耐火物 図4
  • 特開-ノズル状耐火物 図5
  • 特開-ノズル状耐火物 図6
  • 特開-ノズル状耐火物 図7
  • 特開-ノズル状耐火物 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007115
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ノズル状耐火物
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20240111BHJP
   B22D 41/28 20060101ALI20240111BHJP
   B22D 41/50 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
B22D11/10 340Z
B22D11/10 320D
B22D41/28
B22D41/50 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108345
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】濱本 直秀
(72)【発明者】
【氏名】馬場 浩樹
【テーマコード(参考)】
4E004
4E014
【Fターム(参考)】
4E004FA10
4E014DB00
4E014MA04
(57)【要約】
【課題】エッジ亀裂を抑制するとともに、溶融金属の流量制御性を長期間維持する。
【解決手段】上ノズル10、互いに摺動可能な複数のプレートを含むスライドプレートユニット20、および下ノズルが、この順で設けられ、内側に内孔40を有するノズル状耐火物であって、上ノズル10とスライドプレートユニット20との接続部、および、スライドプレートユニット20と下ノズルとの接続部、の少なくとも一方に、目地50が設けられ、目地50の内孔40に接する部分の少なくとも一部である内側領域53における、目地50の平均厚さが、内側領域53以外における目地50の平均厚さより大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上ノズル、互いに摺動可能な複数のプレートを含むスライドプレートユニット、および下ノズルが、この順で設けられ、内側に内孔を有するノズル状耐火物であって、
前記上ノズルと前記スライドプレートユニットとの接続部、および、前記スライドプレートユニットと前記下ノズルとの接続部、の少なくとも一方に、目地が設けられ、
前記目地の前記内孔に接する部分の少なくとも一部である内側領域における、前記目地の平均厚さが、前記内側領域以外における前記目地の平均厚さより大きいノズル状耐火物。
【請求項2】
前記内側領域における前記目地の平均厚さが、前記内側領域以外における前記目地の平均厚さの1.3倍以上3.0倍以下である請求項1に記載のノズル状耐火物。
【請求項3】
前記内側領域の径方向の幅が、前記内孔の直径の0.1倍以上であり、かつ、前記目地の径方向の幅の0.5倍以下である請求項1または2に記載のノズル状耐火物。
【請求項4】
前記プレートとして、前記目地が接している第一プレート、および、当該第一プレートと摺動する第二プレート、が設けられ、
前記内側領域が、前記目地の前記内孔に接する部分のうち、前記内孔を閉鎖する際に前記第二プレートが前記第一プレートに対して相対移動する方向の側の部分に設けられている請求項1または2に記載のノズル状耐火物。
【請求項5】
少なくとも、前記目地が接する前記内孔の中心を原点とし前記相対移動の方向を0°とする極座標系における偏角が-45°以上45°以下の領域に、前記内側領域が設けられている請求項4に記載のノズル状耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル状耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋やタンディッシュなどの容器から溶融金属を流出させる際の流出口として、スライドプレートユニットを備えるノズル状耐火物が汎用される。この種の耐火物では、スライドプレートユニットを構成するプレートをスライドすることによって流路の開度を調整して、溶融金属の流量調整を実現する。スライドプレートユニットの上下には筒状の耐火物が配置され、スライドプレートユニットと隣接する耐火物との間隙には耐火モルタルが充填されたモルタル目地が設けられることが一般的である。
【0003】
ノズル状耐火物では、その内孔を高温の溶融金属が流通するため、外周側と内孔側との間に温度差が生じ、熱応力によって耐火物に亀裂が生じる場合がある。このような亀裂のうち、内孔面と摺動面との峰部(エッジ部)を起点とする亀裂をエッジ亀裂といい、エッジ亀裂は溶融金属の流通方向に沿う耐火物の熱膨張に起因して発生する。エッジ亀裂が発生した部位がスライドプレートユニットの摺動に伴って欠落するおそれがある上、欠落部を起点としてさらなる破損が進行するおそれがあるため、エッジ亀裂の防止について種々の検討がなされている。
【0004】
たとえば特開平11-245019号公報(特許文献1)のプレートれんがでは、スライドプレート摺動面と内孔の境界となるエッジ部に切り欠きを設けることで、内孔中心軸方向の熱膨張によって発生する応力を緩和し、エッジ亀裂の発生が抑制されている。なお、特開平11-57989号公報(特許文献2)にはエッジ部に凹みを設けたプレートれんがが開示されており、ここには特許文献1と同様の技術的思想が見られる。また、特開平2-175068号公報(特許文献3)のスライディングノズルプレートでは、内孔部にリング状の耐火物が配置され、該リングを内嵌する母体をリング材質よりも高熱膨張率の材質で形成することで、内孔部加熱による応力が緩和され、内孔から外周に向けて生じる放射状亀裂の発生が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-245019号公報
【特許文献2】特開平11-57989号公報
【特許文献3】特開平2-175068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および特許文献2の技術では、熱応力の緩和に必要な目地空間が内孔に隣接しているため、その空間に溶鋼が侵入して地金差しが生じる場合がある。これは、スライドプレートのエッジ部が亀裂損傷によって欠落した場合と同様の状態であるため、溶融金属の流量制御性の低下を招き、湯止め不良や漏鋼などのトラブルの原因となりうる。また、特許文献3の技術では、エッジ亀裂の抑制効果を期待できなかった。
【0007】
そこで、エッジ亀裂を抑制するとともに、溶融金属の流量制御性を長期間維持できるノズル状耐火物の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るノズル状耐火物は、上ノズル、互いに摺動可能な複数のプレートを含むスライドプレートユニット、および下ノズルが、この順で設けられ、内側に内孔を有するノズル状耐火物であって、前記上ノズルと前記スライドプレートユニットとの接続部、および、前記スライドプレートユニットと前記下ノズルとの接続部、の少なくとも一方に、目地が設けられ、前記目地の前記内孔に接する部分の少なくとも一部である内側領域における、前記目地の平均厚さが、前記内側領域以外における前記目地の平均厚さより大きいことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、内孔周辺の目地を厚くすることで熱応力を緩和し、これによってエッジ亀裂を抑制できる。また、熱応力を緩和する必要性が小さい部分では目地を薄くして溶鋼および外気の進入を防いであるので、溶融金属の流量制御性を長期間維持できる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係るノズル状耐火物は、一態様として、前記内側領域における前記目地の平均厚さが、前記内側領域以外における前記目地の平均厚さの1.3倍以上3.0倍以下であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、熱応力の緩和とガスシール性とを両立しやすい。
【0013】
本発明に係るノズル状耐火物は、一態様として、前記内側領域の径方向の幅が、前記内孔の直径の0.1倍以上であり、かつ、前記目地の径方向の幅の0.5倍以下であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、熱応力の緩和とガスシール性とを両立しやすい。
【0015】
本発明に係るノズル状耐火物は、一態様として、前記プレートとして、前記目地が接している第一プレート、および、当該第一プレートと摺動する第二プレート、が設けられ、前記内側領域が、前記目地の前記内孔に接する部分のうち、前記内孔を閉鎖する際に前記第二プレートが前記第一プレートに対して相対移動する方向の側の部分に設けられていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、熱応力を緩和する必要性が特に大きい部分に内側領域を設けるので、エッジ亀裂をより確実に抑制しうる。
【0017】
本発明に係るノズル状耐火物は、一態様として、少なくとも、前記目地が接する前記内孔の中心を原点とし前記相対移動の方向を0°とする極座標系における偏角が-45°以上45°以下の領域に、前記内側領域が設けられていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、エッジ亀裂を一層抑制しうる。
【0019】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る連続鋳造用ノズルの縦断面図である。
図2】実施形態に係る連続鋳造用ノズルのモルタル目地の構造を示す縦断面図である。
図3】変形例に係る連続鋳造用ノズルのモルタル目地の構造を示す縦断面図である。
図4】変形例に係る連続鋳造用ノズルのモルタル目地の配置を示す図である。
図5】実施例2および8のモルタル目地の構造を示す縦断面図である。
図6】実施例3および9のモルタル目地の構造を示す縦断面図である。
図7】実施例4のモルタル目地の構造を示す縦断面図である。
図8】比較例のモルタル目地の構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るノズル状耐火物の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係るノズル状耐火物を、取鍋(不図示)から出湯した溶鋼をタンディッシュ(不図示)に注ぐための連続鋳造用ノズル1(図1)に適用した例について説明する。
【0022】
〔連続鋳造用ノズルの基本構成〕
本実施形態に係る連続鋳造用ノズル1は、上ノズル10、スライドプレートユニット20、および下ノズル30を、上からこの順で備える(図1)。なお、本書における「上下方向」は、特記しない限り、図1における上下方向を表す。また、本書における「水平方向」は、特記しない限り、図1における左右方向を表す。
【0023】
上ノズル10、スライドプレートユニット20、および下ノズル30を構成する各単位部材の内側には貫通孔が設けられており、これらの貫通孔が連なって内孔40を形成している。スライドプレートユニット20は、上ノズル10に接続されている固定盤21(プレートの一例である。)と、下ノズル30に接続されている摺動盤22(プレートの一例である。)と、を含む。上ノズル10とスライドプレートユニット20(固定盤21)との接続部、および、スライドプレートユニット20(摺動盤22)と下ノズル30との接続部には、モルタル目地50(51、52)(目地の例である。)が設けられている。
【0024】
連続鋳造用ノズル1は、取鍋の下側に設けられている。そのため、取鍋から出湯した溶鋼は重力によって下方に移動し、連続鋳造用ノズル1(内孔40)を経てタンディッシュに注がれる。詳細は後述するが、連続鋳造用ノズル1では、スライドプレートユニット20を構成する摺動盤22を摺動させることによって溶鋼の流通を制御できるスライドゲート装置が形成されている。なお本実施形態では摺動盤22が下ノズル30と接続されているので、スライドゲート装置を開閉操作する際には、摺動盤22と下ノズル30とが一体に動く。
【0025】
上ノズル10、スライドプレートユニット20、および下ノズル30は、いずれも耐火物製である。ここで用いられる耐火物としては、連続鋳造用ノズルに従来適用されている緻密質耐火物を使用できる。当該緻密質耐火物としては、当分野において通常用いられる緻密質耐火物を使用でき、その基材としては、アルミナ質、ムライト質、スピネル質、マグネシア質、ジルコニア質等の耐火物として一般に使用される酸化物系材質およびそれら酸化物と炭素等の非酸化物とを組み合わせた材質などの諸材質を例示できる。
【0026】
モルタル目地50(51、52)は、連続鋳造設備において従来適用されているモルタル材料によって構成される。かかるモルタル材料としては、たとえば熱硬化性耐火モルタルを使用できる。
【0027】
上ノズル10は、取鍋の下側に接続された筒状体であり、上ノズル10の下端部に凸部11が設けられている。また、固定盤21は、板状の部材の一部に貫通孔が設けられた形状を有し、固定盤21の上面に凹部23が設けられている。そして、凸部11と凹部23とが嵌合する態様で上ノズル10と固定盤21とが接続されている。なお、凸部11と凹部23との間にモルタル目地51が形成されている。
【0028】
下ノズル30は、スライドプレートユニット20の下側に接続された筒状体であり、下ノズル30の上端部に凹部31が設けられている。また、摺動盤22は、板状の部材の一部に貫通孔が設けられた形状を有し、摺動盤22の下面に凸部24が設けられている。そして、凸部24と凹部31とが嵌合する態様で摺動盤22と下ノズル30とが接続されている。なお、凸部24と凹部31との間にモルタル目地52が形成されている。
【0029】
モルタル目地51は、凸部11および凹部23の形状に沿う形状を有している(図2)。モルタル目地51のうち、内孔40に接する部分に内側領域53が設けられている。本実施形態では、内孔40の全周にわたって内側領域53が設けられている。なお、区別のため、モルタル目地51のうちの内側領域53以外の領域を通常領域54と呼ぶ。
【0030】
モルタル目地52は、凸部24および凹部31の形状に沿う形状を有している。内孔40に接する部分に内側領域が設けられることは、モルタル目地51と同様である。なお、モルタル目地52によってもたらされる作用効果、およびモルタル目地52の好ましい態様について、モルタル目地51と同様である。ただし、モルタル目地52における内側領域の平均厚さおよび幅に係る寸法条件は、モルタル目地51における内側領域の平均厚さおよび幅に係る寸法条件と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
内側領域53は、比較的大きな熱応力が問題になりやすい内側(内孔40に接する部分)に設けられており、内孔40が延びる方向(図1における上下方向)に沿う耐火物の熱膨張を吸収する役割を果たす。モルタル目地50(51、52)を構成する耐火モルタルは、上ノズル10、スライドプレートユニット20、および下ノズル30を構成する耐火物に比べて弾性を有するので、耐火物の熱膨張によってモルタル目地50(51、52)を上下方向に圧縮する応力が発生しても、モルタル目地50(51、52)が弾性変形して当該応力を緩和できるのである。この作用の発現を期待する上では、モルタル目地50(51、52)が厚い方が有利である。
【0032】
一方、モルタル目地50(51、52)を構成する耐火モルタルは、内孔40を流通する溶鋼の進入(地金差し)、および、連続鋳造用ノズル1の外側からの外気の進入、を防ぐ作用については、上ノズル10、スライドプレートユニット20、および下ノズル30を構成する耐火物に比べて劣る。そのため、溶鋼および外気の進入を防ぐ上では、モルタル目地50(51、52)が薄い方が有利である。
【0033】
本実施形態に係る連続鋳造用ノズル1では、熱応力が問題になりやすい部分、すなわち内側領域53において局所的にモルタル目地50(51、52)を厚く設け、この部分の上下から加わる熱応力を緩和できるようにしてある。一方、熱応力が問題になりにくい部分、すなわち通常領域54では、モルタル目地50(51、52)を薄く設け、溶鋼および外気の進入を防いでいる。このように、各部位において必要とされる機能に応じた厚さでモルタル目地51を設けることで、熱応力の緩和によるエッジ亀裂の抑制と、溶鋼および外気の進入の防止による長寿命化と、を両立している。
【0034】
内側領域53におけるモルタル目地50(51、52)の平均厚さは、通常領域54におけるモルタル目地50(51、52)の平均厚さより大きい。より詳細には、内側領域53におけるモルタル目地50(51、52)の平均厚さが、内側領域以外における前記モルタル目地の平均厚さの1.3倍以上3.0倍以下であることが好ましい。当該比率が1.3倍以上であると、内孔40の周辺に生じる熱応力を緩和する効果が特に発現しやすい。また、当該比率が3.0倍以下であると、モルタル目地50(51、52)のガスシール性を十分な水準で確保しやすい。加えて、溶鋼とモルタル材料との接触面積を抑制できるため、目地の溶損を抑制しやすい。
【0035】
内側領域53の径方向の幅W1は、内孔40の直径Dの0.1倍以上であることが好ましい。幅W1が直径Dの0.1倍以上であると、内孔40の周辺に生じる熱応力を緩和する効果が特に発現しやすい。なお、内側領域53の径方向の幅W1は、内側領域53の内孔40側の端部から、モルタル目地50(51、52)の厚さが通常領域54における厚さと同一になる位置までの、内孔40の径方向に沿う幅をいう。
【0036】
また、内側領域53の径方向の幅W1は、モルタル目地50(51、52)全体の径方向の幅Wの0.5倍以下であることが好ましい。幅W1が幅Wの0.5倍以下であると、モルタル目地51のガスシール性を十分な水準で確保しやすい。なお、換言すれば、モルタル目地50(51、52)の幅の半分を限度として内側領域53を設けることが好ましいといえる。
【0037】
なお、内側領域53の平均厚さおよび幅W1に係る好適な寸法条件は、たとえば、凹部23のうちの内側領域53に対応する部分に、上記の条件を満たすように切り欠きを設ける、などの方法により実現されうる。
【0038】
〔変形例〕
次に、スライドプレートユニット20の変形例を示す。上記の実施形態では、内孔40の全周にわたって内側領域53が設けられている構成を例示したが、内側領域が内孔の一部のみに面して設けられていてもよい。図3に示した変形例に係るスライドプレートユニット20Aでは、モルタル目地55のうち、図中の左側にのみ内側領域56が設けられており、図中の右側ではモルタル目地55の厚さが均一になっている。この変形は、固定盤25の形状が上記の実施形態(固定盤21)と異なること、より詳細には凹部26の形状が上記の実施形態(凹部23)と異なること、により実現されている。なお、摺動盤22の構成は、上記の実施形態と同一である。
【0039】
ここで、モルタル目地55が接している固定盤25(第一プレートの一例である。)に対して、これと摺動する摺動盤22(第二プレートの一例である。)が、内孔40を閉鎖する際に相対移動する方向S1の側の部分に、内側領域56が設けられている。図4は、変形例における固定盤25、摺動盤22、およびモルタル目地55の内側領域56、の位置関係を、上方から下方に見通す視点で示した模式図である。内側領域56は、モルタル目地51が接する内孔40の中心Oを原点とし、内孔40を閉鎖する際の摺動盤22の相対移動の方向S1を0°とする極座標系において、偏角θが±45°の範囲に設けられている。
【0040】
摺動盤22を方向Sに移動させて内孔40を部分的に閉鎖すると、上記極座標系における偏角0°を中心とする領域において、固定盤25の下面27が内孔40に露出する(図3)。そのためこの領域では、固定盤25が内周面28のみならず下面27においても溶鋼と接触する。したがって固定盤25のこの領域では、他の部分に比べて溶鋼から受ける熱量が大きく、熱応力が特に問題となりやすい。そのため、この領域において内側領域56を設ける必要性が特に大きい。
【0041】
一方、その他の領域においては、モルタル目地55の厚さを特に調整せずとも、熱応力が許容範囲に収まる場合がある。そのためその他の領域では、外気吸引の抑制を優先して、モルタル目地55を厚くする措置を行っていない。
【0042】
なお、簡単のため摺動盤22の構成を上記の実施形態と同一として説明したが、摺動盤と下ノズルとの間のモルタル目地についても、内側領域を部分的にのみ設ける措置を適用できる。ただし、摺動盤と下ノズルとの間のモルタル目地については、内孔を閉鎖するときの固定盤の相対移動の方向S2(図3)を極座標系の0°として取り扱うべきであり、したがって内側領域を設ける必要性が大きい箇所が上記変形例のモルタル目地55とは左右反転して現れることに注意されたい。
【0043】
上ノズルとスライドプレートユニットとの間のモルタル目地、および、スライドプレートユニットと下ノズルとの間のモルタル目地、のいずれについても、上記の変形例のように、モルタル目地が接している第一プレートに対して、これと摺動する第二プレートが、内孔を閉鎖する際に相対移動する方向の側に、内側領域が設けられていることが好ましい。また、少なくとも、当該相対移動の方向を0°とする極座標系における偏角が-45°以上45°以下の領域に、内側領域が設けられていることがさらに好ましい。
【0044】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係るノズル状耐火物のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0045】
上記の実施形態では、スライドプレートユニット20が固定盤21と摺動盤22との組合せである構成を例として説明した。しかし本発明に係るノズル状耐火物において、スライドプレートユニットを構成するプレートの枚数は、二枚以上の任意の枚数でありうる。たとえば、上から順に、固定盤、シール盤、および摺動盤の三枚のプレートを有するスライドプレートユニットを備えるノズル状耐火物としても、本発明を実施しうる。
【0046】
上記の実施形態では、上ノズル10と固定盤21との間のモルタル目地51、および、摺動盤22と下ノズル30との間のモルタル目地52、の双方に内側領域を設けた構成を例として説明した。しかし、本発明に係るノズル状耐火物において、上ノズルとスライドプレートユニットとの接続部、および、スライドプレートユニットと下ノズルとの接続部、の少なくとも一方に、内側領域を有する目地が設けられていれば足り、その双方に設けられていることを必ずしも要さない。
【0047】
上記の実施形態では、凹部23の一部に切り欠きを設けて内側領域53を形成した構成を例として説明した。しかし、本発明に係るノズル状耐火物において、内側領域を形成する方法は上記の例に限定されず、目地に接する上ノズルおよびスライドプレートユニット(またはスライドプレートユニットおよび下ノズル)の一方または双方に、切り欠きを設ければよい。
【0048】
上記の実施形態では、内側領域53においてモルタル目地51の厚さが均一である構成を例として説明した。しかし、内側領域の領域内において、目地の厚さが均一でなくてもよい。なお、通常領域の領域内においても、目地の厚さは均一であってもよいし、均一でなくてもよい。
【0049】
本発明における目地は、モルタル目地に限定されず、当分野において目地材として通常使用されている材料を用いた目地でありうる。かかる材料としては、耐火性セラミック繊維などが例示される。なお、モルタル目地を用いる場合であっても、その施工方法は限定されず、ノズル状耐火物を組み立てる際にノズルとスライドプレートユニットの接続部にモルタルを塗布してもよいし、あらかじめパッキン状の形状にしたモルタルを当該接続部に設置してもよい。
【0050】
上記の実施形態では、上ノズル10の凸部11と固定盤21の凹部23とが嵌合し、下ノズル30の凹部31と摺動盤22の凸部24とが嵌合している構成を例として説明した。しかし、本発明に係るノズル状耐火物において、上ノズルまたは下ノズルと、スライドプレートユニットと、の接続部分の形状は特に限定されない。たとえば、ノズルが凸でスライドプレートユニットが凹とする嵌合形状(上ノズル10の凸部11と固定盤21の凹部23との嵌合がその一例である。)、ノズルが凹でスライドプレートユニットが凸とする嵌合形状(下ノズル30の凹部31と摺動盤22の凸部24との嵌合がその一例である。)、ノズルおよびスライドプレートユニットの双方が平坦である構造、などが例示される。
【0051】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0052】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0053】
〔ノズル状耐火物〕
実施例および比較例の各例において、図1に即した形状のノズル状耐火物を作成した。ただし、いずれの例においても内孔の直径を90mmとし、上ノズルとスライドプレートユニットとの間のモルタル目地の形状を各例について変更した。各例におけるモルタル目地の形状については後述する。なお、上ノズル、スライドプレートユニット、および下ノズルを構成する耐火物、ならびにモルタル目地を構成するモルタル材料の条件について、上記の実施形態の通りである。また、スライドプレートユニットと下ノズルとの間のモルタル目地は、いずれの例においても一定の厚さとした。
【0054】
〔評価方法〕
実施例および比較例の各例のノズル状耐火物を、取鍋の下部に取り付けられるスライドバルブ装置として、それぞれ使用した。各例について、取鍋に満たされた溶鋼をすべて排出するまでの使用を一回と数えて複数回の使用を実施し、損傷が見られ使用不可と判断されるまでの使用回数を数えた。
【0055】
〔各例の形状〕
(実施例1)
モルタル目地の形状を、図2に示す形状(モルタル目地51)とした。本例では、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さを4.0mmとし、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さを2.0mmとした。すなわち、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さは、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さの2.0倍だった。なお、本例においては、内側領域の全域においてモルタル目地の厚さを均一(4.0mm)とした。また、内側領域の径方向の幅を15mmとし、モルタル目地全体の径方向の幅を50mmとした。すなわち、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.17倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.30倍だった。
【0056】
(実施例2)
モルタル目地の形状を、図5に示す形状(モルタル目地51A)とした。実施例2は、上ノズルとスライドプレートユニットとの双方に切り欠きを設けてある点で、実施例1と異なる。本例では、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さを5.0mmとし、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さを2.0mmとした。すなわち、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さは、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さの2.5倍だった。なお、本例においては、内側領域の全域においてモルタル目地の厚さを均一(5.0mm)とした。また、内側領域の径方向の幅を15mmとし、モルタル目地全体の径方向の幅を50mmとした。すなわち、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.17倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.30倍だった。
【0057】
(実施例3)
モルタル目地の形状を、図6に示す形状(モルタル目地51B)とした。実施例3は、スライドプレートユニットに二段階の切り欠きを設けてある点で、実施例1と異なる。本例では、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さを4.8mmとし、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さを2.0mmとした。すなわち、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さは、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さの2.4倍だった。また、内側領域の径方向の幅を20mmとし、モルタル目地全体の径方向の幅を50mmとした。すなわち、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.22倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.40倍だった。なお、本例では、内側領域が二つの区域に区分される。内孔に直接に接している領域は、径方向の幅が10mmであり、モルタル目地の厚さが6.0mmである。これに続く領域は、径方向の幅が10mmであり、モルタル目地の厚さが3.5mmである。
【0058】
(実施例4)
モルタル目地の形状を、図7に示す形状(モルタル目地51C)とした。実施例4は、スライドプレートユニットに傾斜を有する切り欠きを設けてある点で、実施例1と異なる。本例では、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さを3.5mmとし、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さを2.0mmとした。すなわち、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さは、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さの1.8倍だった。また、内側領域の径方向の幅を20mmとし、モルタル目地全体の径方向の幅を50mmとした。すなわち、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.22倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.40倍だった。なお、本例では、内側領域におけるモルタル目地の厚さが、内孔に直接に接している部分から外側に向かうに従って漸減しており、内孔に直接に接している部分では5.0mmであり、内側領域の外側の端部では2.0mmである。
【0059】
(実施例5)
モルタル目地の形状を、図3および図4に示す形状(モルタル目地55)とした。ただしθを60°とした。本例では、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さを4.0mmとし、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さを2.0mmとした。すなわち、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さは、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さの2.0倍だった。なお、本例においては、内側領域の全域においてモルタル目地の厚さを均一(4.0mm)とした。また、内側領域の径方向の幅を15mmとし、モルタル目地全体の径方向の幅を50mmとした。すなわち、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.17倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.30倍だった。
【0060】
(実施例6)
θを45°とした他は、実施例5と同様とした。
【0061】
(実施例7)
内側領域の径方向の幅を5.0mmとした他は、実施例1と同様とした。本例では、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.056倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.10倍だった。
【0062】
(実施例8)
内側領域の径方向の幅を28mmとした他は、実施例1と同様とした。本例では、内側領域の径方向の幅は、内孔の直径の0.31倍であり、モルタル目地全体の径方向の幅の0.56倍だった。
【0063】
(実施例9)
内側領域におけるモルタル目地の厚さを2.5mmとした他は、実施例1と同様とした。本例では、内側領域におけるモルタル目地の平均厚さは、通常領域におけるモルタル目地の平均厚さの1.3倍だった。
【0064】
(実施例10)
θを30°とした他は、実施例5と同様とした。
【0065】
(比較例)
モルタル目地の形状を、図8に示す形状(モルタル目地51D)とした。この例ではモルタル目地に内側領域を設けず、モルタル目地の厚さを均一に2.0mmとした。
【0066】
〔評価結果〕
実施例および比較例の各例についての寸法条件、および各例の使用回数を表1に示す。なお、実施例5(θ=60°)、実施例6(θ=45°)、および比較例5(θ=30°)との比較のため、他の例についてθを180°として表1に示している。
【0067】
表1:実施例および比較例
【表1】
【0068】
表1に示すように、いずれの実施例においても、比較例に比べて使用回数が伸びた。なお、実施例1~6および8では使用回数の伸びが特に顕著だった。ただし実施例8は、実施例1~6に比べるとわずかに鋼の品質の低下が見られた。これは、実施例8では実施例1~6に比べて外気の吸引量が多かったためだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、たとえば連続鋳造または造塊に用いられるノズルとして利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 :連続鋳造用ノズル
10 :上ノズル
11 :凸部
20 :スライドプレートユニット
21 :固定盤
22 :摺動盤
23 :凹部
24 :凸部
30 :下ノズル
31 :凹部
40 :内孔
50 :モルタル目地
51 :モルタル目地
52 :モルタル目地
53 :内側領域
54 :通常領域
20A :スライドプレートユニット(変形例)
25 :固定盤(変形例)
26 :凹部(変形例)
27 :下面(変形例)
28 :内周面(変形例)
55 :モルタル目地(変形例)
56 :内側領域(変形例)
S :固定盤に対する摺動盤の相対移動の方向
S2 :摺動盤に対する固定盤の相対移動の方向
O :内孔の中心
θ :偏角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8