(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071154
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ランスチップ、測温設備、精錬装置の操業方法及び溶鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/46 20060101AFI20240517BHJP
C21C 5/30 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C21C5/46 101
C21C5/46 A
C21C5/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181953
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小関 新司
(72)【発明者】
【氏名】冨田 誠人
(72)【発明者】
【氏名】島倉 涼輔
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070BE04
4K070BE15
4K070CF02
(57)【要約】
【課題】精錬装置内の溶鉄の温度を連続的に、且つ精度よく測定することができる、ランスチップ、測温設備、精錬装置の操業方法及び溶鋼の製造方法を提供すること。
【解決手段】ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置において、ランスの先端に設けられるランスチップ4であって、溶鉄を撮影して画像データを生成するカメラ42と、カメラ42のレンズの周囲に設けられ、シールガスを噴射する噴射孔43と、を備える、ランスチップ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置において、前記ランスの先端に設けられるランスチップであって、
前記溶鉄を撮影して画像データを生成するカメラと、
前記カメラのレンズの周囲に設けられ、シールガスを噴射する噴射孔と、
を備える、ランスチップ。
【請求項2】
前記噴射孔から噴射される前記シールガスの流量をQ[Nm3/sec]とし、前記噴射孔の総開口面積をS[m2]とした場合に、Q/S≧200を満たす、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項3】
前記噴射孔は、前記カメラのレンズ外周を囲むスリット状の形状である、請求項2に記載のランスチップ。
【請求項4】
前記噴射孔は、前記カメラのレンズを中心とした同心円上に配され、前記カメラのレンズ外周を囲む複数の孔によって構成される、請求項2に記載のランスチップ。
【請求項5】
前記カメラのレンズを中心として前記複数の孔の各中心を通る円の周長をL[m]とし、前記円の外周が前記複数の孔と重畳する長さの総長である淵長さをM[m]とした場合に、M/L≧0.5を満たす、請求項4に記載のランスチップ。
【請求項6】
ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置において、前記精錬装置内の前記溶鉄の温度を測定する、測温設備であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載のランスチップと、
前記カメラで撮影した画像データを温度データに変換する演算装置と、
を備える、測温設備。
【請求項7】
ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置の操業方法であって、
請求項6に記載の測温設備を用いて前記溶鉄の温度管理を行う、精錬装置の操業方法。
【請求項8】
精錬装置にて、ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射して溶鉄の精錬処理を行うことで溶鋼を製造する、溶鋼の製造方法であって、
前記精錬処理を行う際に、請求項6に記載の測温設備を用いて前記溶鉄の温度管理を行う、溶鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランスチップ、測温設備、精錬装置の操業方法及び溶鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉製鋼における吹錬処理等のプロセスでは上吹きランスを使用し、溶鉄に対して酸素ガスを吹き付けることにより溶鉄中の燐や炭素等を酸化(燃焼)させて溶鉄の成分を調整するとともに、溶鉄の温度を次工程処理に最適な温度となるように調整している。この際、処理中の溶鉄温度の計測は、溶鉄の温度調整に対してだけでなく溶鉄の成分調整という観点においても重要である。
【0003】
溶鉄の温度は精錬反応の反応熱によって時々刻々と変化し、溶鉄温度の変化に応じて反応速度や生じる反応の種類が変化する。また、近年では、溶鋼の製造過程において、スクラップの利用が加速しているが、常温でスクラップを投入すると溶鉄の温度が低下するため、溶鉄の温度管理は重要性を増している。
【0004】
溶鉄温度の計測技術として、特許文献1には、CCDカメラを設置した炉内観察用プローブをサブランス先端に設け、サブランスを炉内に挿入して転炉内の温度を測定する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、メインランスの先端部とは反対の端部にCCDカメラを設け、ランス外部上方からガス噴射を行う穴を通じて溶鉄を撮影することで、溶鉄の温度を計測する技術が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、メインランスの噴射ノズル口近傍に、酸素ジェットの噴射を阻害しない程度に小さい単芯光ファイバーを設置し、単芯光ファイバーに接続する単色温度計により温度計測を行う技術が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、ランスチップ下部中央に設置したカメラで溶鋼の画像を撮影し、画像を温度データに変換することで温度管理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-88221号公報
【特許文献2】特開2006-126062号公報
【特許文献3】特開昭62-226025号公報
【特許文献4】国際公開第2021/149490号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶鉄温度の計測結果から、吹錬中の溶鉄の温度管理を行う場合には、溶鉄の温度を連続的に測定する必要がある。特に、転炉で溶鋼を製造する場合には、終点温度の的中精度を高めるため、吹錬工程の後半に少なくとも数分間の温度変化を連続的に把握する必要がある。
【0010】
特許文献1に開示された技術では、サブランスは間欠的に炉内状態を計測する装置であるため、温度変化を連続的に把握できず、終点温度の的中精度を高めることが困難であるという課題がある。
【0011】
また、特許文献2に開示された装置では、測定対象から10m以上離れた位置にカメラが設置されていることにより視野が狭くなる。このため、転炉内の溶鉄表面のどの位置を観察しているのかが分かりにくくなることから、測定精度に問題があった。
【0012】
さらに、特許文献3に開示された技術では、装置から得られるのは温度に関するデータのみであり、測温位置を直接観察できない。このため、測定された温度が溶鉄の温度ではなくスラグの温度である可能性もあり、溶鉄の温度を精度よく測定できないという課題があった。
【0013】
さらに、特許文献4に開示された測定方法では、溶鋼に対してランスからガスを吹きつけると溶鋼の飛散(スプラッシュ)が発生し、スプラッシュがカメラレンズに付着し、頻繁にカメラが使用不可になるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、精錬装置内の溶鉄の温度を連続的に、且つ精度よく測定することができる、ランスチップ、測温設備、精錬装置の操業方法及び溶鋼の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の一態様によれば、ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置において、上記ランスの先端に設けられるランスチップであって、上記溶鉄を撮影して画像データを生成するカメラと、上記カメラのレンズの周囲に設けられ、シールガスを噴射する噴射孔と、を備える、ランスチップが提供される。
【0016】
(2)上記(1)のランスチップにおいて、上記噴射孔から噴射される上記シールガスの流量をQ[Nm3/sec]とし、上記噴射孔の総開口面積をS[m2]とした場合に、Q/S≧200を満たす。
【0017】
(3)上記(2)のランスチップにおいて、上記噴射孔は、上記カメラのレンズ外周を囲むスリット状の形状である。
【0018】
(4)上記(2)のランスチップにおいて、上記噴射孔は、上記カメラのレンズを中心とした同心円上に配され、上記カメラのレンズ外周を囲む複数の孔によって構成される。
【0019】
(5)上記(4)のランスチップにおいて、上記カメラのレンズを中心として上記複数の孔の各中心を通る円の周長をL[m]とし、上記円の外周が上記複数の孔と重畳する長さの総長である淵長さをM[m]とした場合に、M/L≧0.5を満たす。
【0020】
(6)本発明の一態様によれば、ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置において、上記精錬装置内の上記溶鉄の温度を測定する、測温設備であって、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載のランスチップと、上記カメラで撮影した画像データを温度データに変換する演算装置と、を備える、測温設備が提供される。
【0021】
(7)本発明の一態様によれば、ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射することで溶鉄の精錬処理を行う精錬装置の操業方法であって、上記(6)に記載の測温設備を用いて上記溶鉄の温度管理を行う、精錬装置の操業方法が提供される。
【0022】
(8)本発明の一態様によれば、精錬装置にて、ランスから酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガスを噴射して溶鉄の精錬処理を行うことで溶鋼を製造する、溶鋼の製造方法であって、上記精錬処理を行う際に、上記(6)に記載の測温設備を用いて上記溶鉄の温度管理を行う、溶鋼の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、精錬装置内の溶鉄の温度を連続的に、且つ精度よく測定することができる、ランスチップ、測温設備、精錬装置の操業方法及び溶鋼の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態における精錬装置を示す模式図である。
【
図2】ランスチップを示す模式図であり、(A)は断面図であり、(B)は底面図である。
【
図3】変形例におけるランスチップを示す底面図である。
【
図4】変形例におけるランスチップの噴射孔を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0026】
図1には、本発明の一実施形態における、精錬装置1の模式図を示す。本実施形態において、精錬装置1は、溶銑を吹錬処理することで溶鋼を製造する転炉型精錬炉である。精錬装置1は、炉体2と、ランス3と、演算装置5と、を備える。ランス3の先端には、酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガス8を噴射するためのランスチップ4が設けられる。
【0027】
精錬装置1における吹錬処理では、炉体2内に溶銑が注ぎ込まれた後、炉体2の上部からランス3が挿入される。次いで、ランス3の先端に設けられたランスチップ4から溶銑に向けて吹錬ガス8が噴射されることで溶銑が酸化精錬処理される。この際、炉体2内の溶銑には、各種副原料が必要に応じて添加され、副原料中のCaO等の造滓成分や溶銑成分の酸化等によって溶銑の浴面にスラグ7が生成される。吹錬処理では、炭素濃度の高い溶銑が酸化されることで、炭素濃度の低い溶鋼が製造される。なお、溶銑及び溶鋼をまとめて溶鉄6ともいう。なお、ランス3には、冷却水を流すための不図示の冷却経路が内部に形成され、この冷却経路を流れる冷却水によって吹錬処理中のランス3が冷却される。
【0028】
ランスチップ4は、
図2に示すように、複数の主孔41と、カメラ42と、噴射孔43とを備える。
【0029】
複数の主孔41は、ランス3の内部を通って供給される酸素を含む吹錬ガスが噴射され
る孔であり、ランスチップ4の底面に同心円状に等間隔に離間して設けられる。
図2に示す例では、一例として、ランスチップ4には4つの主孔41が設けられる。
【0030】
カメラ42は、ランスチップ4の下部中央に設けられる。また、カメラ42は、レンズがランスチップ4の底面の中心に位置し、炉体2内の溶鉄6を連続的に撮影可能なようにレンズが下方を向いて設けられる。カメラ42は、炉体2内の溶鉄6を連続的に撮影可能なものであれば特に限定されない。カメラ42による撮影結果(画像データ)は、演算装置5に送信される。画像データの送信方法は、有線方式でも無線方式でもよい。
【0031】
噴射孔43は、カメラ42のレンズの周囲に設けられ、シールガスが噴射される孔である。シールガスは、特に限定されないが、例えば、吹錬ガスや不活性ガス等であってもよい。シールガスとして吹錬ガスを用いる場合には、吹錬ガスを主孔41へと供給する経路から分岐させた、噴射孔43へと接続される吹錬ガスの供給経路をランスチップ4内に設けることで簡易に実現することができる。また、不活性ガス等の吹錬ガス以外のガスを用いる場合には、ランス3の内部に吹錬ガスとは別系統の供給経路を設けることで実現することができる。
【0032】
噴射孔43は、カメラ42のレンズを覆ってシールガスを噴射可能なように設けられることが好ましい。また、噴射孔43は、
図2に示すような転炉に設けられる多孔型のランス3(主孔41が複数のランス)においては、
図2(B)の底面視において円形の点線で示す、主孔41よりも内側(つまり、ランス3の中央側)の領域に設けられることが好ましい。
【0033】
ランスチップ4の主孔41から噴射される吹錬ガスは、超音速で噴射されるため、溶鉄6との界面において激しいスプラッシュが発生する。そして、飛散したスプラッシュがカメラ42のレンズに付着するとカメラ42が使用不能になる。本実施形態では、カメラ42のレンズの周囲からシールガスを噴射することで、スプラッシュがレンズに付着する前にシールガスの衝突圧によりスプラッシュを弾き飛ばすことで、スプラッシュのレンズへの付着を防止することができる。さらに、スプラッシュがカメラ42のレンズに向かう経路に交わるようシールガスの流路を設定するとより効果的である。
【0034】
また、噴射孔43は、噴射孔43から噴射されるシールガスの流量をQ[Nm3/sec]とし、噴射孔43の総開口面積をS[m2]とした場合に、Q/S≧200を満たすことが好ましい。スプラッシュは液体であるため、密度の小さい気体でスプラッシュを弾き飛ばすためには高い流速が必要である。スプラッシュがレンズに向かう際の飛散速度は、操業条件に依存して変わるものの、一般的な操業条件においては、シールガスの流速としては約200m/sec以上を確保(つまり、Q/S≧200を確保)しておくことが好ましい。
【0035】
さらに、スプラッシュは様々な方向からレンズに向かって飛散するため、噴射孔43の配置は重要である。
図2に示す例では、噴射孔43は、カメラ42のレンズ外周を隙間なく囲む全周スリットである。なお、噴射孔43を真下に向けた場合においても、噴射孔43から噴射されるシールガスの噴流同士が引き付けあう性質によって、シールガスは中心(レンズ真下)に寄りながら合体して流れる。このため、シールガスは、カメラ42のレンズの真下から飛んできたスプラッシュを弾き飛ばすことにも長けている。
【0036】
演算装置5は、コンピュータ等で構成され、カメラ42から取得した画像データを温度データに変換することで、溶鉄6の温度を算出する。なお、ランスチップ4と演算装置5とをまとめて、測温設備ともいう。つまり、本実施形態に係る測温設備は、精錬装置1において、精錬装置1内の溶鉄6の温度を測定するものであり、ランスチップ4と、カメラ42で撮影した画像データを温度データに変換する演算装置5と、を備える。なお、演算装置5は、温度データから溶鉄6の温度を決定することができる。この場合、例えば、温度データから最大となる温度や、画像データの特定位置の温度を溶鉄6の温度とし決定してもよい。
【0037】
本実施形態によれば、測温用のカメラ42にスプラッシュが付着することなく、溶鉄6の温度を連続的に測定することができる。また、カメラ42で撮影された画像データから溶鉄6の温度を求めることにより、溶鉄6の温度を精度よく測定することができる。これにより、溶鉄6の細かい温度管理を行うことが可能となり、精錬効率を向上させることができる。さらに、本実施形態によれば、特許文献1のようにサブランスを用いる方法に比べて、連続的に測定ができることに加えて、測定の度に測定用のプローブを交換する必要がないため、ランニングコストを低くすることができる。さらに、ランス3は、吹錬処理を行う際には、内部に流れる冷却水によって冷却されるため、カメラ42の加熱による損傷を防止することができる。
【0038】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0039】
例えば、上記実施形態では、噴射孔42が全周スリットであるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、噴射孔42は、
図3に示すような、カメラ42のレンズ外周を囲む複数の孔430であってもよい。
図3に示す例では、孔430は円形である。なお、説明を簡略にするため、
図3には、ランスチップ40の主孔41の内側の領域(
図2(B)における円形の点線領域)のみを示す。複数の孔430は、各円の中心がカメラ42のレンズを中心とした同心円状に等間隔に離間して配される。また、複数の孔430は、
図4に示すように、カメラ42のレンズを中心として複数の孔430の各中心を通る円(同心円)の周長をL[m]とし、この同心円の外周が複数の孔430と重畳する長さの総長である淵長さをM[m]とした場合に、M/L≧0.5を満たすことが好ましい。なお、淵長さMは、
図4に示すように、重畳する長さをm
1[m]~m
12[m]とすると、各長さの和(m
1+m
2+・・・+m
11+m
12)として示される。また、
図2において、同心円の半径はr[m]である。
【0040】
図3に示すように、噴射孔43を複数の孔430からなる多孔形状とする場合、噴射されたシールガスは径方向に広がりながら進行するため、孔430同士の間に隙間が空いていても孔430から離れた位置ではシールガスの噴流間の隙間は埋まる。ただし、孔430同士の間隔があまりに広いと噴流同士の隙間が埋まらなくなる可能性があるため、M/L≧0.5を満たすことで、シールガスの噴流間の隙間を確実に埋めることができる。
【0041】
上記実施形態のように噴射孔43が全周スリットの場合、熱変形によって全周の隙間の間隔を一定に保つことが困難なことがある。このような場合には、噴射孔43を
図3に示すような多孔形状とすることにより、シールガスの噴流の隙間が空かないようにすることができる。なお、
図3に示す例では、孔430は円形であるとしたが、孔430の形状は他の形状であってもよい。また、噴射孔43は、カメラ42のレンズの全周ではなく、レンズの外周に部分的に形成される部分スリットであってもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、精錬装置1は溶銑から溶鋼を製造する転炉型精錬炉であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。精錬装置1は、ランス3からのガス上吹きと溶鉄6の温度管理とが必要となる装置であればよく、例えば、RH等の真空脱ガス装置や電気炉等であってもよい。また、転炉型精錬炉においても、溶銑の脱珪や脱燐といった予備処理を目的とする場合においても適用することができる。
【0043】
さらに、本発明は、精錬装置1の操業方法及び溶鋼の製造方法においても適用することができる。本発明の一態様に係る精錬装置1の操業方法は、ランス3から酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガス8を噴射することで溶鉄6の精錬処理を行う精錬装置の操業方法であって、上記実施形態又は他の変形例に記載の測温設備を用いて溶鉄6の温度管理を行う。また、本発明の一態様に係る溶鋼の製造方法は、精錬装置1にて、ランス3から酸素を含む吹錬用のガスである吹錬ガス8を噴射して溶鉄6の精錬処理を行うことで溶鋼を製造する、溶鋼の製造方法であって、精錬処理を行う際に、上記の測温設備を用いて溶鉄6の温度管理を行う。
【実施例0044】
次に、本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、精錬装置1を転炉型精錬炉とし、転炉型精錬炉のランス3の先端にあるランスチップ4に測温用のカメラ42を取り付け、溶鉄6の温度を連続的に測定した。また、工程的に利用することを考えると、少なくとも5日以上の期間、連続測温できる必要があり、50日以上の期間、連続測温できることが好ましく、半年以上(183日以上)の期間、連続測温できることがより好ましい。このため、連続測温成功日数が5日以上の場合を合格とし、連続測温成功日数が5日未満の結果を不可(不合格)、連続測温成功日数が5日以上50日未満の結果を可、連続測温成功日数が50日以上183日未満の場合を良、及び連続測温成功日数が183日以上の場合を優として評価した。
【0045】
まず、
図2に示すように、シールガスの噴射孔43の形状を全周スリットにして実験を行った。そして、シールガスを投入しない場合(水準1)、カメラ42のレンズにスプラッシュが大量に付着したために1日で測温不可となった。次に、噴射孔43からシールガスを噴出させて実験を行った。表1に示すように、シールガスの流速を増加するにつれて連続測温成功日数が延び、流速200m/sec以上では半年以上の連続測温に成功した。
【0046】
【0047】
次いで、シールガスの噴射孔43を
図3に示すような複数な孔430からなる多孔形状に変えて実験を行った。多孔形状の場合には全周スリットよりもシールガス噴流間の隙間が多くて不利であるため、200m/sec以上の流速が必要になる。このため、200m/sec以上の流速で実験を行った。さらに、多孔形状の場合には、前述した同心円の周長Lに対する淵長さMの割合M/Lがパラメータとなっているため、M/Lの値を0.1~0.8の間で変更した(M/L=1は全周スリット)。
【0048】
実験結果を表2に示す。M/Lを大きくするにつれて連続測温成功日数が延び、M/Lが0.5以上の水準において半年以上の連続測温に成功した。M/Lを0.5にして流速を遅くした場合(水準14,15)、連続測温成功日数が183日未満となったことから、多孔形状においても吐出流速が200m/sec以上を確保することがより好ましいことがわかった。
【0049】
【0050】
以上の結果から、ランスチップ4にカメラ42を取り付ける測温方法において、シールガスでスプラッシュ付着を防止することにより安定した連続測温が可能であることがわかった。連続測温データを利用することにより、溶鉄の温度を細かく把握することが可能となり、次工程に適した温度に調整する等の温度管理を行うことで生産性向上へとつながることが確認できた。