(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071174
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】車両用シート構造
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
B60N2/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181987
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】川田 晃
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD04
(57)【要約】
【課題】従来の車両用シート構造では、乗員が着席した際、尻部の下側に違和感を与える場合があり、座り心地を高めるうえでの改善が必要であった。
【解決手段】車両のシート1に着席した乗員Mのサブマリン現象を防ぐためのシートメンバ2を備えた車両用シート構造であって、シートメンバ2が、その上部に、シート1の着座面における乗員の大腿部の接触範囲に対して、クッション材5を介して相対向する下肢受面8を有する構造とし、乗員Mのサブマリン現象の防止機能を確保したうえで、通常時の座り心地の向上を実現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに着席した乗員のサブマリン現象を防ぐためのシートメンバを備えた車両用シート構造であって、
前記シートメンバが、その上部に、前記シートの着座面における乗員の大腿部の接触範囲に対して、クッション材を介して相対向する下肢受面を有することを特徴とする車両用シート構造。
【請求項2】
前記シートメンバが、車両前後方向に沿う断面において、車両前方向に開放された空処を有する断面形状を成していると共に、前記空処の上部壁の車両前方端部が自由端であることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート構造。
【請求項3】
前記シートメンバが、前記乗員の着座範囲の両側に、前記空処を車両幅方向に区画するリブを有することを特徴とする請求項2に記載の車両用シート構造。
【請求項4】
前記シートが、左側席、中央席及び右側席を有し、
前記シートメンバが、前記左側席から前記右側席に至る範囲に配置してあると共に、前記中央席に対応する範囲を上方に変位させた段差形状を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート構造。
【請求項5】
前記シートメンバが、前記車両のフロアパネルに固定されるロアメンバと、前記ロアメンバの上部にボルトで固定されるアッパメンバとを有し、
前記アッパメンバが、前記下肢受面を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート構造に関し、とくに、車両のシートに着席した乗員のサブマリン現象を防ぐためのシートメンバを備えた車両用シート構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、上記したような車両用シート構造としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の車両用シート構造は、枠フレームとパネルフレームとを備え、パネルフレームが、下段尻受け部前方に高段部を有し、サブマリン現象を防止する形状を成している。サブマリン現象とは、シートベルトを装着した乗員の尻部が、衝突等の緊急時において、潜り込みながら前方に滑り出す現象である。そして、上記の車両用シート構造は、パネルフレームが、その裏面において、下段尻受け部に連続する湾曲状後傾斜面との間に、棒材からなる補剛部材を一体的に架設して固定した構造にすることにより、乗員のサブマリン現象を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の車両用シート構造では、尻受け部前方から下方にかけて傾斜面を形成したものであるため、乗員が着席した際、尻部の下側に違和感を与える場合があり、座り心地を高めるうえでの改善が必要であった。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたものであり、乗員のサブマリン現象の防止機能を確保したうえで、通常時の座り心地の向上を実現することができる車両用シート構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる車両用シート構造は、車両のシートに着席した乗員のサブマリン現象を防ぐためのシートメンバを備えた車両用シート構造である。この車両用シート構造は、シートメンバが、その上部に、シートの着座面における乗員の大腿部の接触範囲に対して、クッション材を介して相対向する下肢受面を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係わる車両用シート構造は、乗員の大腿部の接触範囲に対してクッション材を介して相対向する下肢受面を有するシートメンバを採用したことにより、乗員が着席した際、尻部の下側に違和感を与えることがなく、また、シートメンバ自体が違和感を与えることもなく、安定した着席姿勢を維持し得る。そして、車両用シート構造は、衝突等の緊急時には、前方移動する乗員の尻部をシートメンバで受けて、乗員のサブマリン現象を防止する。
【0008】
このようにして、上記の車両用シート構造は、乗員のサブマリン現象の防止機能を確保したうえで、通常時の座り心地の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両用シート構造の一実施形態を示す断面説明図である。
【
図4】衝突等の緊急時の状態を示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
図1に示す車両用シート構造は、車両のシート1に着席した乗員Mのサブマリン現象を防ぐためのシートメンバ2を備えている。
図1では、乗員Mが着席していない状態のシート1と、乗員Mの尻部から膝部に至る部分(点線)を示している。
【0011】
上記のシート1は、後席に配置されるもので、車両のフロアパネル3に固定してあり、背もたれ4を有する。このシート1は、クッション材5を表皮材6で包んだ構造を有し、乗員Mの大腿部の下側となる位置、すなわち
図1中で左側となる車両前方寄りの位置に、シートメンバ1の収容空間7を有する。
【0012】
シートメンバ2は、その上部に、シート1の着座面(上面)における乗員Mの大腿部の接触範囲に対して、クッション材5を介して相対向する下肢受面8を有する。図示例の下肢受面8は、車両前方向に上り勾配を有する傾斜面であって、シート1の着座面に対してほぼ平行であり、シート1に着席した乗員Mの大腿部と概ね平行である。なお、乗員Mは、当然個人差があるが、例えば、成人の平均的な体型を考慮することができる。
【0013】
また、シートメンバ2は、
図2にも示すように、車両前後方向に沿う断面において、車両前方向に開放された空処9を有する断面形状を成していると共に、空処9の上部壁22Cの車両前方端部が自由端10になっている。
【0014】
この実施形態のシートメンバ2は、フロアパネル3に固定されるロアメンバ21と、ロアメンバ21の上部に配置するアッパメンバ22とを備えている。ロアメンバ21及びアッパメンバ22は、その材料が限定されるものではないが、代表的には、金属製の板状部材をプレス成形したものである。
【0015】
ロアメンバ21は、フロアパネル3に溶接等で固定してある。アッパメンバ22は、上述した下肢受面8、空処9及び自由端10を有し、複数のボルト11によってロアメンバ21の上側に固定してある。
【0016】
より具体的には、アッパメンバ22は、ロアメンバ21の上面に当接するベース22Aと、ベース22Aの車両後方側(
図2中で右側)の端部から立ち上がる竪壁部22Bと、竪壁部22Bの上端部から車両前方向に延出する上壁部22Cを有している。上壁部22Cは、車両後方側の下肢受面8と、下肢受面8の車両前方側に連続する水平壁22Dと、自由端10とを有する。これにより、アッパメンバ22は、ベース22Aと、竪壁部22Bと、上壁部22Cとの間で、車両前方向に開放された空処9を形成している。
【0017】
また、この実施形態の車両用シート構造は、
図3に示すように、シート1が、左側席(領域L)、中央席(領域C)及び右側席(領域R)を有している。これに対して、シートメンバ2は、車両幅方向にわたる長尺状を成し、左側席Lから右側席Rに至る範囲に配置してある。
【0018】
さらに、この実施形態のシートメンバ2は、中央席Cに対応する範囲を上方に変位させた段差形状を有している。このとき、図示例のシートメンバ2は、とくに、アッパメンバ22における中央席Cに対応する範囲が、上壁部22Cのみを有し、左右席L,Rの間に同上壁部22Cを架設した形態になっている。したがって、アッパメンバ22の中央席Cに対応する範囲は、空処9が車両前後方向に開放されており、例えば、ケーブル類の配設経路などに用いられる。
【0019】
さらに、シートメンバ2におけるアッパメンバ22は、乗員Mの着座範囲の両側、すなわち、左側席L、中央席C及び右側席Rの夫々の両側に、空処9を車両幅方向に区画するリブ12を有している。この実施形態のアッパメンバ22は、車両幅方向の両端部が開放されており、その両端部を閉じるようにリブ12が設けてある。
【0020】
上記構成を備えた車両用シート構造は、乗員Mの大腿部の接触範囲に対してクッション材5を介して相対向する下肢受面8を有するシートメンバ2を採用したことにより、乗員Mが着席した際、尻部の下側に違和感を与えることがなく、また、シートメンバ2自体が違和感を与えることもなく、安定した着席姿勢を維持し得る。
【0021】
そして、車両用シート構造は、衝突等の緊急時には、
図4に示すように、前方移動する乗員Mの尻部をシートメンバ2で受けて、乗員Mのサブマリン現象を防止する。
図4には、通常時のシート1に着席している乗員Mを点線で示し、前方に移動した乗員Mを仮想線で示しており、実際には、乗員Mとシートメンバ2との間には圧縮されたクッション材5が介在するので、乗員Mとシートメンバ2が接触することはない。
【0022】
このようにして、上記の車両用シート構造は、乗員Mのサブマリン現象の防止機能を確保したうえで、通常時の座り心地の向上を実現することができる。
【0023】
また、上記の車両用シート構造は、シートメンバ2が、車両前方向に開放された空処9を有し、空処9の上部壁22Cの車両前方端部が自由端10であるから、上壁部22Cの弾力性によるクッション性が得られる。これにより、上記の車両用シート構造は、乗員Mが着席する際、瞬間的に大きな荷重が加わったとしても、上壁部22Cが撓むことにより衝撃を吸収することができる。しかも、シート1は、クッション材5による上側のソフトクッション性と、上壁部22Sによる下側のハードクッション性とを備えた二層構造になり、乗員Mの座り心地のさらなる向上を実現することができる。
【0024】
さらに、上の車両用シート構造は、シートメンバ2が、乗員Mの着座範囲L,C,Rの両側にリブ12を有するので、上記のクッション性に加えてシートメンバ2の剛性を確保することができ、サブマリン現象の防止機能のさらなる向上を実現する。
【0025】
さらに、上記の車両用シート構造は、シートメンバ2が、左側席Lから右側席Rに至る範囲に配置してあり、中央席Cに対応する範囲を上方に変位させた段差形状を有することから、左右の席L,Rと同様に、中央席Cの座り心地を向上させて、後席全体の良好な座り心地を均一に確保することができる。
【0026】
さらに、上記の車両用シート構造は、シートメンバ2が、フロアパネル3に固定されるロアメンバ21と、下肢受面8を有し且つロアメンバ21の上部にボルト11で固定されるアッパメンバ22とを有するので、ロアメンバ21に対してアッパメンバ22を脱着することが可能になる。これにより、車両用シート構造は、例えば、燃料ポンプのメンテナンス等の作業を行う際に、アッパメンバ22を取り外して作業空間を確保することができ、メンテナンス性の向上に貢献し得る。
【0027】
本発明に係わる車両用シート構造は、その構成が上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能であり、車両の前席に適用することも当然可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 シート
2 シートメンバ
3 フロアパネル
5 クッション材
8 下肢受面
9 空処
10 自由端
11 ボルト
12 リブ
21 ロアメンバ
22 アッパメンバ
22C 上部壁
C 中央席
L 左側席
M 乗員
R 右側席