(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071189
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】タイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240517BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
B60C19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182011
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛篤
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA02
3D131LA04
3D131LA06
3D131LA24
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】一部のセンサが故障した場合にもタイヤに関する物理情報を継続的に推定することができるタイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法を提供する。
【解決手段】タイヤ物理情報推定システム100のデータ取得部31は、車両に装着された複数のタイヤ10に取り付けられたセンサ20によって計測される物理量のデータを取得する。物理情報推定部33は、タイヤ10の運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤ10ごとに学習済みの演算モデル33aによって当該タイヤ10と他のタイヤ10について推定する。物理情報推定部33は、センサ故障情報取得部32で故障しているとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着された複数のタイヤに取り付けられたセンサによって計測される物理量のデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得したデータを入力し、タイヤの運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤごとに学習済みの演算モデルによって当該タイヤと他のタイヤについて推定する物理情報推定部と、
前記センサが故障しているか否かの情報を取得するセンサ故障情報取得部と、を備え、
前記物理情報推定部は、前記センサ故障情報取得部で故障しているとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤのタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤにおける前記演算モデルに基づいて推定することを特徴とするタイヤ物理情報推定システム。
【請求項2】
前記物理情報推定部は、前記センサ故障情報取得部で故障しているとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤのタイヤ物理情報を、車両の同じ車軸に配置されたタイヤにおける前記演算モデルに基づいて推定することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ物理情報推定システム。
【請求項3】
前記物理情報推定部は、前記センサ故障情報取得部で故障しているとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤのタイヤ物理情報を、車両の左右方向の同じ側に配置されたタイヤにおける前記演算モデルに基づいて推定することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ物理情報推定システム。
【請求項4】
車両に装着された複数のタイヤに取り付けられたセンサによって計測される物理量のデータを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップにより取得したデータを入力し、タイヤの運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤごとに学習済みの演算モデルによって当該タイヤと他のタイヤについて推定する物理情報推定ステップと、
前記センサが故障しているか否かの情報を取得するセンサ故障情報取得ステップと、を備え、
前記物理情報推定ステップは、前記センサ故障情報取得ステップで故障しているとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤのタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤにおける前記演算モデルに基づいて推定することを特徴とするタイヤ物理情報推定方法。
【請求項5】
車両に装着された一のタイヤに取り付けられたセンサによって計測される物理量のデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部により取得したデータを入力し、タイヤの運動によって生じるタイヤ物理情報を、学習済みの演算モデルによって前記一のタイヤおよび他のタイヤについて推定する物理情報推定部と、
を備えることを特徴とするタイヤ物理情報推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、タイヤおよび車両等において計測される情報を学習型の演算モデルに入力し、タイヤ力等のタイヤ物理情報を推定するシステムの研究が行われている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ物理情報推定システムが記載されている。タイヤ物理情報推定システムは、物理情報推定部およびデータ取得部を備える。物理情報推定部は、タイヤの運動によって生じるタイヤに関する物理情報を推定すべく入力層から出力層に至る学習型の演算モデルを有する。データ取得部は、入力層への入力データを取得する。演算モデルは、入力層から出力層へ向けての途中演算において畳み込み演算を実行して特徴量を抽出する特徴抽出部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ物理情報推定システムでは、タイヤに設けられたセンサによって計測された物理量に基づいてタイヤ物理情報が推定される。従来のタイヤ物理情報推定システムでは、センサが故障や電池切れによって正常に動作しなくなると、誤ったタイヤ物理情報を推定し続けてしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一部のセンサが故障した場合にもタイヤに関する物理情報を継続的に推定することができるタイヤ物理情報推定システムおよびタイヤ物理情報推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はタイヤ物理情報推定システムである。タイヤ物理情報推定システムは、車両に装着された複数のタイヤに取り付けられたセンサによって計測される物理量のデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部により取得したデータを入力し、タイヤの運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤごとに学習済みの演算モデルによって当該タイヤと他のタイヤについて推定する物理情報推定部と、前記センサが故障しているか否かの情報を取得するセンサ故障情報取得部と、を備え、前記物理情報推定部は、前記センサ故障情報取得部で故障しているとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤのタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤにおける前記演算モデルに基づいて推定する。
【0008】
本発明の別の態様はタイヤ物理情報推定方法である。タイヤ物理情報推定方法は、車両に装着された複数のタイヤに取り付けられたセンサによって計測される物理量のデータを取得するデータ取得ステップと、データ取得ステップにより取得したデータを入力し、タイヤの運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤごとに学習済みの演算モデルによって当該タイヤと他のタイヤについて推定する物理情報推定ステップと、前記センサが故障しているか否かの情報を取得するセンサ故障情報取得ステップと、を備え、前記物理情報推定ステップは、前記センサ故障情報取得ステップで故障しているとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤのタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサが取り付けられたタイヤにおける前記演算モデルに基づいて推定する。
【0009】
また本発明の別の態様に係るタイヤ物理情報推定システムは、車両に装着された一のタイヤに取り付けられたセンサによって計測される物理量のデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部により取得したデータを入力し、タイヤの運動によって生じるタイヤ物理情報を、学習済みの演算モデルによって前記一のタイヤおよび他のタイヤについて推定する物理情報推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一部のセンサが故障した場合にもタイヤに関する物理情報を継続的に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るタイヤ物理情報推定システムの概要を説明するための模式図である。
【
図2】タイヤ物理情報推定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】タイヤ物理情報推定装置によるタイヤ物理情報推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】左前輪のタイヤの演算モデルにより算出した左前輪のタイヤのタイヤ力Fyの推定値と測定値との相関図の一例である。
【
図6】右前輪のタイヤの演算モデルにより算出した左前輪のタイヤのタイヤ力Fyの推定値と測定値との相関図の一例である。
【
図7】車両の各タイヤに対応する演算モデルによって算出した全タイヤのタイヤ力Fの推定値と測定値との平均絶対誤差を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに
図1から
図7を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100の概要を説明するための模式図である。タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20、タイヤ物理情報推定装置30およびセンサ故障判定装置40を備える。また、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ物理情報推定装置30で推定したタイヤ力Fやタイヤ10に働く3軸まわりのモーメント等のタイヤ物理情報を、通信ネットワーク91を介して取得して蓄積し、タイヤ物理情報を監視するためのサーバ装置80などを含んでもよい。
【0014】
センサ20は、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ空気圧、並びにタイヤ温度などタイヤ10の物理量を計測しており、計測したデータをタイヤ物理情報推定装置30およびセンサ故障判定装置40へ出力する。
【0015】
タイヤ物理情報推定装置30は、センサ20で計測されたデータに基づいてタイヤ物理情報を推定する。タイヤ物理情報推定装置30は、タイヤ物理情報を推定する演算においてセンサ20で計測されるデータを用いるが、車両加速度等の車両側からの情報を車両制御装置90等から取得し、タイヤ物理情報を推定する演算に用いてもよい。
【0016】
タイヤ物理情報推定装置30は、推定したタイヤ力F、およびタイヤ10に働く3軸まわりのモーメント等のタイヤ物理情報を例えば車両制御装置90へ出力する。車両制御装置90は、タイヤ物理情報推定装置30から入力されたタイヤ物理情報を、例えば制動距離の推定、車両制御への適用、更には車両の安全走行に関する情報の運転者への報知などに用いる。また車両制御装置90は、地図情報や気象情報などを用いて、将来における車両の安全走行に関する情報を提供することもできる。また、タイヤ物理情報推定システム100は、車両制御装置90が車両を自動運転する機能を有する場合には、自動運転における車速制御等に用いるデータとして、推定したタイヤ物理情報を車両制御装置90へ提供する。
【0017】
センサ故障判定装置40は、センサ20で計測されたデータに基づいてセンサ20が故障しているか否かを判定し、判定結果をタイヤ物理情報推定装置30およびサーバ装置80等へ通知する。センサ故障判定装置40は、センサ20で計測されたデータに対して、畳み込み演算を用いた符号化および復号化を行う演算モデルによってセンサ20が故障しているか否かを判定している。またセンサ故障判定装置40は、センサ20の電池切れによって出力データが正常時のデータではない場合にも、センサ20が故障していると判定する。
【0018】
タイヤ物理情報推定装置30は、センサ故障判定装置40からセンサ故障についての判定結果が通知されている。一部のセンサ20に故障が生じると、タイヤ物理情報推定装置30は、センサ故障判定装置40から当該一部のセンサ20が故障しているとの判定結果が入力される。タイヤ物理情報推定装置30は、故障しているセンサ20が取り付けられているタイヤ10におけるタイヤ物理情報を、他の正常動作中のセンサ20によるタイヤ物理情報の推定値によって代替えし、タイヤ物理情報の推定を継続する。
【0019】
図2は、タイヤ物理情報推定装置30の機能構成を示すブロック図である。センサ20は、加速度センサ21、歪ゲージ22、圧力ゲージ23および温度センサ24等を有し、タイヤ10における物理量を計測する。これらのセンサは、タイヤ10の物理量として、タイヤ10の変形や動きに関わる物理量を計測している。
【0020】
加速度センサ21および歪ゲージ22は、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、それぞれタイヤ10に生じる加速度および歪量を計測する。加速度センサ21は、例えばタイヤ10のトレッド、サイド、ビードおよびホイール等に配設されており、タイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。
【0021】
歪ゲージ22は、タイヤ10のトレッド、サイドおよびビード等に配設されており、配設箇所での歪を計測する。また、圧力ゲージ23および温度センサ24は、例えばタイヤ10のエアバルブに配設されており、それぞれタイヤ空気圧およびタイヤ温度を計測する。温度センサ24は、タイヤ10の温度を正確に計測するために、タイヤ10に直接、配設されていてもよい。タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID11等が取り付けられていてもよい。
【0022】
タイヤ物理情報推定装置30は、データ取得部31、センサ故障情報取得部32、物理情報推定部33および通信部34を有する。タイヤ物理情報推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。タイヤ物理情報推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0023】
データ取得部31は、無線通信等によりセンサ20で計測された加速度、歪、空気圧および温度の情報を取得する。通信部34は、センサ故障判定装置40、車両制御装置90およびサーバ装置80等の外部装置との間で有線または無線通信等によって通信する。通信部34は、センサ20で計測されたタイヤ10の物理量、およびタイヤ10について推定したタイヤ物理情報等を通信回線、例えばCAN(コントロールエリアネットワーク)、インターネット等を介して外部装置へ送信する。
【0024】
センサ故障情報取得部32は、通信部34を介してセンサ故障判定装置40からセンサが故障しているか否かの情報を取得し、物理情報推定部33へ出力する。センサ故障情報取得部32は、車両に装着された複数のタイヤ10のそれぞれに取り付けられたセンサ20ごとに、故障しているか否かの情報を取得する。
【0025】
センサ故障判定装置40は、センサ20が断線、短絡、並びに電子部品の損傷および電池切れによる機能障害によって故障し、出力データが正常動作時のデータから外れている場合に、センサ20が故障しているとの情報を出力している。センサ故障判定装置40は、例えば断線および短絡を検出するような故障検知機能を有していてもよい。またセンサ故障判定装置40は、センサ20に供給される電池の電圧をモニターし、電圧低下を検知する機能を有していてもよい。
【0026】
またセンサ故障判定装置40は、センサ20によって計測された物理量のデータに対して、畳み込み演算等を用いたオートエンコーダ型の学習型モデルによって故障検出する機能を有していてもよい。畳み込み演算等を用いたオートエンコーダ型の学習型モデルでは、センサ20によって計測された物理量のデータから特徴量データを生成し、特徴量データから元のデータを再生し、データの再現性に基づいてセンサ20の故障を判定する。
【0027】
物理情報推定部33は、演算モデル33aを有し、データ取得部31からの情報を演算モデル33aに入力し、タイヤ力Fおよびタイヤ10に働く3軸まわりのモーメント等のタイヤ物理情報を推定する。
図2に示すように、タイヤ力Fは、タイヤ10の前後方向の前後力Fx、横方向の横力Fy、および鉛直方向の荷重Fzの3軸方向成分を有する。物理情報推定部33は、これら3軸方向成分のすべてを算出してもよいし、少なくともいずれか1成分の算出または任意の組合せによる2成分の算出を行うようにしてもよい。
【0028】
演算モデル33aは、ニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。
図3は、演算モデル33aの構成を示す模式図である。演算モデル33aは、CNN(Convolutional Neural Network)型であり、その原型であるいわゆるDenseNetで使用された畳み込み演算およびプーリング演算を備える学習型モデルである。
図3では演算モデル33aへの入力データとして3軸方向の加速度データを用い、3軸方向のタイヤ力Fx、FyおよびFzを出力する例を示している。
【0029】
演算モデル33aは、車両に装着されたタイヤ10ごとに設けられている。物理情報推定部33は、例えば車両に前後の車軸があり、車軸の左右に1本ずつタイヤ10が装着されている場合、4本のタイヤ10のそれぞれに対応する4つの演算モデル33aを有している。1本のタイヤ10に対応する1つの演算モデル33aでは、対応するタイヤ10に取り付けられたセンサ20によって計測される物理量のデータを入力とし、当該演算モデル33aによって、他の3本のタイヤ10を含む4本のタイヤ10におけるタイヤ物理情報が推定される。
【0030】
演算モデル33aは、入力層50、Stemブロック51、特徴抽出部52、中間層53、全結合部54および出力層55を備える。入力層50には、1つのタイヤ10におけるセンサ20からデータ取得部31が取得した3軸方向の加速度の時系列データが入力される。加速度データはセンサ20において時系列的に計測されており、一定の時間区間のデータを窓関数によって切り出して入力データとする。入力データは、例えば各軸方向において一定の時間区間に含まれる128個の加速度データとする。
【0031】
タイヤ10で計測される加速度はタイヤ10の1回転ごとに周期性がある。窓関数によって切り出す入力データの時間区間は、例えばタイヤ10の回転周期に相当する時間とし、入力データ自体に周期性を持たせるとよい。尚、窓関数は、タイヤ10の1回転分よりも短い時間区間または長い時間区間における入力データを切り出すようにしてもよく、少なくとも切り出した入力データに周期的な情報が含まれていれば演算モデル33aの学習が可能である。
【0032】
Stemブロック51は、入力データの特徴を維持しつつ入力データ数のサイズを低減化する。Stemブロック51では、例えば畳み込み演算やプーリング演算等を実行している。
【0033】
特徴抽出部52は、Denseブロック52a、畳み込み演算52bおよびプーリング演算52cを複数回(
図3ではn回と表記している)繰り返して特徴量を抽出し、中間層53の各ノードへ伝達する。
図3に示す特徴抽出部52の例では、入力されたデータについてDenseブロック52aで適切なフィルタ長の畳み込み演算を実行し、後続の畳み込み演算52bおよびプーリング演算52cを実行する。
【0034】
Denseブロック52aでの畳み込み演算は、適宜1から5程度の長さのフィルタを用い、時系列的に並んだ入力データにフィルタを移動させながら、乗算して加算する。畳み込み演算は、時系列の入力データにおける連続するフィルタ長分のデータ(例えばA1,A2,A3)に、フィルタ内の各値(f1,f2,f3)をそれぞれ乗算し、乗算して得られた値を加算し、A1×f1+A2×f2+A3×f3とする。尚、入力データの端に「0(ゼロ)」のデータを付加するゼロパティングを行って、畳み込み演算を実行するようにしてもよい。また、畳み込み演算におけるフィルタの移動量は、通常、1入力データとされるが、演算モデル33aを小さくするために、適宜変更することが可能である。
【0035】
畳み込み演算52bは、フィルタ長が1の畳み込み演算を実行する。プーリング演算52cは、畳み込み演算52b後のデータに対して、平均値プーリング演算を実行する。プーリング演算52cは、例えば時系列的に並んだ2つの値の平均値を求めている。特徴抽出部52は、Denseブロック52a、畳み込み演算52bおよびプーリング演算52cによる演算を複数回繰り返し、結果として64個のデータを中間層53へ出力する。
【0036】
全結合部54は、中間層53の各ノードからのデータを複数の階層で全結合し、タイヤ力Fx、FyおよびFzを出力層55の各ノードへ出力する。全結合部54は、重みづけを用いた線形演算等を実行する全結合のパスによる演算を実行するが、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。
【0037】
出力層55の各ノードには、3軸方向のタイヤ力のほか、タイヤ10に働く3軸まわりのモーメント等のタイヤ物理情報を出力してもよい。出力層55は、3軸方向のタイヤ力、およびタイヤ10に働く3軸まわりのモーメント等のタイヤ物理情報のうち、1種類または任意の組み合わせによる複数の種類のタイヤ物理情報を出力するようにしてもよい。
【0038】
全結合部54および出力層55は、車両に装着されたタイヤ10の本数分設けられている。
図3に示す例では、車両の左前輪(FL)、右前輪(FR)、左後輪(RL)および右後輪(RR)に対応する全結合部54および出力層55が設けられている。
【0039】
演算モデル33aは、実際の車両にその車両に応じた仕様のタイヤ10を装着し、該車両を試験走行させて演算モデル33aの学習を実行することができる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0040】
物理情報推定部33は、センサ故障情報取得部32からセンサ故障の情報が入力されると、故障しているセンサ20が取り付けられているタイヤ10に対応する演算モデル33aによるタイヤ物理情報の推定を停止する。物理情報推定部33は、例えば、右前輪に対応するセンサ20が故障すると、右前輪のタイヤ10に対応する演算モデル33aによるタイヤ物理情報の推定を停止する。物理情報推定部33は、右前輪のタイヤ10で発生するタイヤ物理情報を、左前輪等の他のタイヤ10に対応する演算モデル33aによって推定する。
【0041】
物理情報推定部33は、故障しているセンサ20に対応するタイヤ10におけるタイヤ物理情報を、車両に装着された他のタイヤ10の演算モデル33aのいずれかを用いて推定する。物理情報推定部33は、故障しているセンサ20に対応するタイヤ10におけるタイヤ物理情報を、車両の同じ車軸に配置されたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定してもよい。物理情報推定部33は、故障しているセンサ20に対応するタイヤ10におけるタイヤ物理情報を、車両の左右方向の同じ側に配置されたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定してもよい。
【0042】
次にタイヤ物理情報推定システム100の動作を説明する。
図4は、タイヤ物理情報推定装置30によるタイヤ物理情報推定処理の手順を示すフローチャートである。タイヤ物理情報推定装置30は、センサ20で計測されたタイヤ10における加速度、歪、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などの物理量の時系列データを、データ取得部31によって取得する(S1)。センサ故障情報取得部32は、センサ故障判定装置40からセンサ20の故障についての情報を取得する(S2)。
【0043】
物理情報推定部33は、データ取得部31において取得されたデータから一定の時間区間の入力データを抽出する(S3)。タイヤ物理情報の推定においては、少なくとも1軸分(例えば周方向)の加速度データが入力データとして必要である。また、タイヤ物理情報の推定において、例えばタイヤ10の周方向および軸方向の2軸分の加速度データを入力データとしても良いし、3軸分の加速度データを入力データとしても良い。更に、タイヤ10における歪、タイヤ空気圧およびタイヤ温度のうち少なくとも1つ以上の時系列データを入力データに含むようにしても良い。
【0044】
物理情報推定部33は、ステップS3で抽出した入力データを演算モデル33aに入力して、タイヤ力Fおよびタイヤ10に働く3軸まわりのモーメント等のタイヤ物理情報を算出する(S4)。物理情報推定部33は、センサ故障情報取得部32により取得した情報に基づき、センサ20が故障しているか否かを判定し(S5)、故障していないと判定した場合(S5:No)、処理を終了する。
【0045】
ステップS5においてセンサ20が故障していると判定した場合(S5:Yes)、物理情報推定部33は、センサ20が故障しているタイヤ10のタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサ20が装着されたタイヤ10における演算モデル33aによって算出したタイヤ物理情報で代替えし(S6)、処理を終了する。
【0046】
図5は、左前輪のタイヤ10の演算モデル33aにより算出した左前輪のタイヤ10のタイヤ力Fyの推定値と測定値との相関図の一例である。
図6は、右前輪のタイヤ10の演算モデル33aにより算出した左前輪のタイヤ10のタイヤ力Fyの推定値と測定値との相関図の一例である。
図5に示したタイヤ力Fyの推定値と測定値との相関は、
図6に示したタイヤ力Fyの推定値と測定値との相関と概ね同等な分布となっている。これらの相関図の例から、左前輪のタイヤ10においてセンサ20が故障した場合に、左前輪のタイヤ10におけるタイヤ力Fyの推定値を、右前輪のタイヤ10の演算モデル33aにより算出した左前輪のタイヤ10のタイヤ力Fyの推定値で代替え可能であることがわかる。
【0047】
図7は、車両の各タイヤに対応する演算モデルによって算出した全タイヤのタイヤ力Fの推定値と測定値との平均絶対誤差を示す図表である。
図7において、車両には左前輪(FL)、右前輪(FR)、左後輪(RL)および右後輪(RR)の4本のタイヤ10が装着されており、各タイヤに対応する演算モデルを、演算モデルFL、演算モデルFR等と表記している。
【0048】
例えば演算モデルFLでは、左前輪(FL)のタイヤ10に取り付けられたセンサ20で測定した物理量のデータが入力され、左前輪、右前輪、左後輪および右後輪のタイヤ力Fを推定する。演算モデルFLによる推定値と測定値との平均絶対誤差は、左前輪のタイヤ力Fx、FyおよびFzについて、それぞれ255.34、151.08および175.59のように算出されている。
【0049】
右前輪に対応する演算モデルFRによる推定値と測定値との平均絶対誤差は、左前輪のタイヤ力Fx、FyおよびFzについて、それぞれ252.58、155.07および174.18のように算出されており、演算モデルFLと同等な値となっている。センサ故障によって一のタイヤ10における演算モデルが正しくタイヤ物理情報を推定できない場合であっても、他のタイヤ10における演算モデルに基づいて推定するタイヤ物理情報によって代替えすることが可能であることがわかる。
【0050】
タイヤ物理情報推定システム100は、センサ故障情報取得部32で故障しているとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定することで、一部のセンサ20が故障した場合にもタイヤ10に関するタイヤ物理情報を継続的に推定することができる。
【0051】
物理情報推定部33は、故障したセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、車両の同じ車軸に配置されたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定してもよい。タイヤ物理情報推定システム100は、同じ車軸に配置されたタイヤ10における演算モデル33aによる推定値を用いることにより、車両の操舵等の影響が同等となり、タイヤ物理情報の推定精度を高めることができる。
【0052】
物理情報推定部33は、故障したセンサが取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、車両の左右方向の同じ側に配置されたタイヤ10における演算モデルに基づいて推定してもよい。タイヤ物理情報推定システム100は、車両の左右方向の同じ側に配置されたタイヤ10における演算モデル33aに基づく推定値を用いることにより、車両の走行中に通過する路面の影響が概ね同等となり、タイヤ物理情報の推定精度を高めることができる。
【0053】
上述の実施形態において、演算モデル33aはCNN型DenceNetモデルを用いたが、いわゆるLeNetモデル、ResNetモデル、MobileNetモデルやPeleelNetモデルなどのモデル構造を用いてもよい。また演算モデル33a中にResidual Blockなどのモジュール構造を取り入れてモデルを構築してもよい。
【0054】
次に実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100およびタイヤ物理情報推定方法の特徴について説明する。
実施形態に係るタイヤ物理情報推定システム100は、データ取得部31、物理情報推定部33およびセンサ故障情報取得部32を備える。データ取得部31は、車両に装着された複数のタイヤ10に取り付けられたセンサ20によって計測される物理量のデータを取得する。物理情報推定部33は、データ取得部31により取得したデータを入力し、タイヤ10の運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤ10ごとに学習済みの演算モデル33aによって当該タイヤ10と他のタイヤ10について推定する。センサ故障情報取得部32は、センサ20が故障しているか否かの情報を取得する。物理情報推定部33は、センサ故障情報取得部32で故障しているとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定する。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、一部のセンサ20が故障した場合にもタイヤ10に関するタイヤ物理情報を継続的に推定することができる。
【0055】
また物理情報推定部33は、センサ故障情報取得部32で故障しているとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、車両の同じ車軸に配置されたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定する。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ物理情報の推定において操舵等の影響が同等な推定値を用いることで、タイヤ物理情報の推定精度を高めることができる。
【0056】
また物理情報推定部33は、センサ故障情報取得部32で故障しているとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、車両の左右方向の同じ側に配置されたタイヤ10における演算モデル33aに基づいて推定する。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、タイヤ物理情報の推定において車両の走行中に通過する路面の影響が概ね同等な推定値を用いることで、タイヤ物理情報の推定精度を高めることができる。
【0057】
タイヤ物理情報推定方法は、データ取得ステップ、物理情報推定ステップおよびセンサ故障情報取得ステップを備える。データ取得ステップは、車両に装着された複数のタイヤ10に取り付けられたセンサ20によって計測される物理量のデータを取得する。物理情報推定ステップは、データ取得ステップにより取得したデータを入力し、タイヤ10の運動によって生じるタイヤ物理情報を、タイヤ10ごとに学習済みの演算モデル33aによって当該タイヤ10と他のタイヤ10について推定する。センサ故障情報取得ステップは、センサ20が故障しているか否かの情報を取得する。物理情報推定ステップは、センサ故障情報取得ステップで故障しているとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10のタイヤ物理情報を、故障していないとの情報が取得されたセンサ20が取り付けられたタイヤ10における演算モデルに基づいて推定する。このタイヤ物理情報推定方法によれば、一部のセンサ20が故障した場合にもタイヤ10に関するタイヤ物理情報を継続的に推定することができる。
【0058】
またタイヤ物理情報推定システムは、データ取得部31および物理情報推定部33を備える。データ取得部31は、車両に装着された一のタイヤ10に取り付けられたセンサ20によって計測される物理量のデータを取得する。物理情報推定部33は、データ取得部31により取得したデータを入力し、タイヤ10の運動によって生じるタイヤ物理情報を、学習済みの演算モデル33aによって前記一のタイヤ10および他のタイヤ10について推定する。これにより、タイヤ物理情報推定システム100は、センサ20が取り付けられたタイヤ10に対応する演算モデル33aによって他のタイヤ10のタイヤ物理情報の推定が可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0060】
10 タイヤ、 20 センサ、 31 データ取得部、
32 センサ故障情報取得部、 33 物理情報推定部、 33a 演算モデル、
100 タイヤ物理情報推定システム。