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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071235
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】光拡散性樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/62 20140101AFI20240517BHJP
   G03B 21/60 20140101ALI20240517BHJP
【FI】
G03B21/62
G03B21/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182071
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 貴之
【テーマコード(参考)】
2H021
【Fターム(参考)】
2H021BA27
2H021BA29
(57)【要約】
【課題】透明性が担保可能なヘイズ値(30%以下)の全領域において、リア輝度を向上させることができる光拡散性樹脂シートを提供することを目的とする。
【解決手段】光拡散性樹脂シート1は、基層2と、基層2の少なくとも一方側に設けられた表面層3とを備える。表面層3は、ポリカーボネート樹脂と、金属酸化物微粒子と、分散剤とを含有する。金属酸化物粒子は、酸化ジルコニウムを少なくとも含み、分散剤は、脂肪酸エステル及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含む。光拡散性樹脂シート1において、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、基層の少なくとも一方側に設けられた表面層とを備えた光拡散性樹脂シートであって、
前記表面層は、ポリカーボネート樹脂と、金属酸化物微粒子と、分散剤とを含有し、
前記金属酸化物微粒子は、酸化ジルコニウムを少なくとも含み、
前記分散剤は、脂肪酸エステル及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含み、
前記基層は、前記ポリカーボネート樹脂を含有し、
ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10以上である
ことを特徴とする光拡散性樹脂シート。
【請求項2】
ヘイズ値が30%以下であり、リア輝度が50[cd/m]以上であることを特徴とする請求項1に記載の光拡散性樹脂シート。
【請求項3】
前記光拡散性樹脂シートは、投影用の透明スクリーンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光拡散性樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、案内板やショールームの窓等に用いられるスクリーンとして、透明性を維持した状態で、商品の広告等の情報を投影して表示するための透明スクリーンが注目を集めている。そして、この透明スクリーンを使用することにより、観察者は、観察者側と反対側の光景を視認することができるとともに、プロジェクターから照射された映像を視認することができる。
【0003】
また、上述の案内板等に用いられる透明スクリーンは、正面のみならず、斜め方向からも見られる場合が多いため、スクリーン面における外観が白濁等しておらず、透視性が高いことが要求される。
【0004】
そこで、このような透明性の高い透明スクリーン用のフィルムが提案されている。より具体的には、例えば、樹脂層と、樹脂層中に少なくとも一部が凝集状態で含まれる無機粒子とを含み、無機粒子の一次粒子が、0.1~50nmのメジアン径を有し、かつ10~500nmの最大粒径を有し、無機粒子の含有量が、樹脂に対して0.015~1.2質量%であり、無機粒子が金属系粒子であり、全光線透過率が70%以上である透明スクリーン用フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含有する透明スクリーン用樹脂組成物を含む透明スクリーン用フィルムであって、無機粒子のZ平均粒子径が400~7000nmであり、熱可塑性樹脂100質量部に対し、無機粒子を0.001~3質量部含有する透明スクリーン用フィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5752834号公報
【特許文献2】国際公開第2019/3626号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、近年、スクリーンの前に立っても映像が遮断されないことや、フロント投影に比べて外光の影響を受けずに画像を視認することが可能であり、映像を投影していないときもスクリーン対面の景観を視認することができるとの理由から、リア側、すなわち、透明スクリーンの光照射側(フロント側)と反対側(リア側)から映像を視認することが可能な透明スクリーンの開発が切望されている。
【0008】
しかし、上記特許文献1~2に記載の透明スクリーン用フィルムにおいては、透明性とリア輝度のバランスが悪いため、透明性が担保可能なヘイズ値(30%以下)の全領域においてリア輝度(上述の「リア側」における輝度)を向上させることが困難であるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、透明性が担保可能なヘイズ値(30%以下)の全領域においてリア輝度を向上させることができる光拡散性樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の光拡散性樹脂シートは、基層と、基層の少なくとも一方側に設けられた表面層とを備えた光拡散性樹脂シートであって、表面層は、ポリカーボネート樹脂と、金属酸化物微粒子と、分散剤とを含有し、金属酸化物微粒子は、酸化ジルコニウムを少なくとも含み、分散剤は、脂肪酸エステル及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含み、基層は、ポリカーボネート樹脂を含有し、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性が担保可能なヘイズ値(30%以下)の全領域においてリア輝度を向上させることができる光拡散性樹脂シートを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る光拡散性樹脂シートを示す断面図である。
図2】本発明の変形例に係る光拡散性樹脂シートを示す断面図である。
図3】実施例におけるリア輝度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の光拡散性樹脂シートについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0014】
本発明の光拡散性樹脂シートは、映像投影システムにおいて、投影用の透明スクリーンとして使用されるものであり、基層と、基層の少なくとも一方側に設けられた表面層との積層体により構成されたシートである。
【0015】
この多層構造を有する光拡散性樹脂シート1としては、例えば、図1に示すように、基層2と、基層2の片面に積層された表面層3との積層体により構成され、基層/表面層の順に積層された2層構造を有する光拡散性樹脂シート1が挙げられる。
【0016】
(表面層)
表面層3としては、ポリカーボネート樹脂と、金属酸化物微粒子と、分散剤とを含有するものが挙げられる。
【0017】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、透明性の高い樹脂であり、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により得られる重合体や、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重合法により得られる重合体が挙げられる。なお、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、上述の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として、ポリヒドロキシ化合物を使用してもよい。また、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0019】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン(テトラクロロビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン(テトラブロモビスフェノールA)等のハロゲンを含むビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン(テトラメチルビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等のビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物;レゾルシノール;ハイドロキノン;4,4-ジヒドロキシジフェニル;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0020】
このうち、ハロゲンを含むビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物やビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物であることが好ましく、ビスフェノールAがより好ましい。なお、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、分岐鎖状のポリカーボネート樹脂を得るためには、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5-クロロイサチンビスフェノール、5,7-ジクロロイサチンビスフェノール、5-ブロモイサチンビスフェノールなどの3価以上のポリヒドロキシ化合物、及びフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニルヘプテン-3、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物を上述の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として使用すればよい。なお、ポリヒドロキシ化合物の使用量としては、例えば、上述の芳香族ジヒドロキシ化合物の0.1~2モル%程度とすることができる。
【0022】
また、p-ブロモフェノール、p-tert-ブチルフェノール、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、及びp-長鎖アルキル置換フェノール等の分子量調節剤を使用してもよい。
【0023】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂の屈折率としては、1.57~1.60であることが好ましい。また、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(25℃におけるメチレンクロライド溶液粘度より測定した粘度平均分子量)は、16,000~38,000であることが好ましく、18,000~35,000であることがより好ましい。
【0024】
<金属酸化物微粒子>
本発明で使用される金属酸化物微粒子は、表面層内で光を異方的に拡散反射させて、光の利用効率を高めるためのものであり、この金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ニオブ、及び酸化アルミニウム等が挙げられる。そして、本発明においては、酸化ジルコニウムを少なくとも含む金属酸化物微粒子を使用する構成としている。
【0025】
この酸化ジルコニウムは、活性が比較的低いため、酸化ジルコニウムを使用することにより、押出成形時におけるポリカーボネート樹脂の分解に起因する黄変や物性低下の発生を抑制することができるとともに、長期使用における耐久性を向上(すなわち、光により活性化した酸化ジルコニウムがポリカーボネート樹脂を分解し、黄変や物性低下を引き起こすことを抑制)することができる。
【0026】
酸化ジルコニウムの平均粒子径は、0.30μm以下である。酸化ジルコニウムの平均粒子径が0.30μm以下であれば、透過視認性を損なうことなく、投影光の散乱効果を十分に得ることができるため、光拡散性樹脂シートに対して鮮明な映像を投影することが可能になる。
【0027】
なお、ここで言う「平均粒子径」とは、50%粒径(D50)を指し、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラック(登録商標)粒度分布測定装置MT3200)等により体積平均粒子径として測定できる。
【0028】
また、表面層3において、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する酸化ジルコニウムの含有量は、1質量部以上5質量部以下である。酸化ジルコニウムの含有量が1質量部未満の場合は、酸化ジルコニウムの含有量が少ないため、リア輝度が低下する場合があり、酸化ジルコニウムの含有量が5質量部より多い場合は、酸化ジルコニウムの含有量が多いため、酸化ジルコニウムが凝集して、透明性が低下する場合があるためである。
【0029】
なお、ここで言う「リア輝度」とは、光拡散性樹脂シート(透明スクリーン)の光照射側(フロント側)と反対側(リア側)における輝度のことを言い、図1の光拡散性樹脂シート1における表面層3側(図中の矢印側)の輝度のことを言う。
【0030】
また、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する酸化ジルコニウムの含有量は、1質量部以上3質量部以下が好ましい。
【0031】
以上より、金属酸化物微粒子として、酸化ジルコニウムを使用することにより、光拡散性樹脂シートの透明性とリア輝度を向上させて、リア側において鮮明な映像を投影することが可能になる。
【0032】
<分散剤>
また、本発明においては、上述の金属酸化物微粒子の分散性を高めてリア輝度を向上させることや、金属酸化物微粒子の表面活性を抑制することにより、押出成形時のポリカーボネート樹脂の黄変や経年使用による劣化を抑制させることを目的として、金属酸化物微粒子の表面処理を行うための分散剤が使用される。この分散剤としては、例えば、カップリング剤や脂肪酸エステルが挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
カップリング剤としては、例えば、フェニルトリメトキシシランや3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ブロックイソシアネートシラン等のシランカップリング剤が使用され、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
また、脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、カプリン酸等の脂肪酸のエステルが使用され、例えばポリグリセリンモノステアレート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンオレート等のポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。なお、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
また、表面層3において、ポリカーボネート樹脂100質量部に対するシランカップリング剤の含有量は、1質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が1質量部より多い場合は、シランカップリング剤の含有量が多いため、余分なシランカップリング剤が樹脂成形時に分解し、白濁、黄変等の悪影響を及ぼすことに加え、コストアップになる場合があるためである。
【0036】
なお、ポリカーボネート樹脂100質量部に対するシランカップリング剤の含有量は、0.005質量部以上0.1質量部以下であることが好ましい。
【0037】
また、表面層3において、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する脂肪酸エステルの含有量は、10質量部以下である。脂肪酸エステルの含有量が10質量部より多い場合は、脂肪酸エステルの含有量が多いため、余分な脂肪酸エステルにより、樹脂成形時に樹脂の溶融粘度が低下して成形不良を起こしたり、白濁、黄変等の悪影響を及ぼしたりすることに加え、コストアップになる場合があるためである。
【0038】
なお、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する脂肪酸エステルの含有量は、0.5質量部以上1質量部以下であることが好ましい。
【0039】
<その他の成分>
表面層3には、上述のポリカーボネート樹脂、金属酸化物微粒子、及び分散剤以外の他の成分が含有されていてもよい。
【0040】
他の成分としては、例えば、耐候剤(紫外線吸収剤)、酸化防止剤、蛍光増白剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、熱安定剤、流動性改良剤、難燃剤、凝集防止剤等が挙げられる。
【0041】
(基層)
基層2は、上述の表面層3を支持するための層であり、この基層2を使用することにより、光拡散性樹脂シート1の強度や剛性を向上させることができる。
【0042】
基層2としては、光拡散性樹脂シート1の透過視認性を損なわないように、透明性の高い樹脂により形成することが好ましく、このような樹脂としては、例えば、上述のポリカーボネート樹脂が挙げられ、他の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、例えば、耐候剤(紫外線吸収剤)、酸化防止剤、蛍光増白剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、熱安定剤、流動性改良剤、難燃剤、凝集防止剤等が挙げられる。
【0043】
(製造方法)
例えば、図1に示す、基層/表面層の順に積層された2層構造を有する光拡散性樹脂シート1を製造する場合、まず、基層形成用の樹脂材料と、表面層形成用の樹脂材料とを用意する。
【0044】
次に、Tダイを備える共押出機を用い、基層形成用の樹脂材料および表面層形成用の樹脂材料を所定の温度で同時に押し出して成形することにより、基層2と、基層2の片面に積層された表面層3との積層体により構成された本発明の多層構造を有する光拡散性樹脂シート1が製造される。なお、公知のカレンダー法やインフレーション法により、本発明の光拡散性樹脂シートを製造してもよい。
【0045】
そして、本発明の光拡散性樹脂シートにおいては、ヘイズ値が30%以下となるため、透明性を向上させることが可能になる。
【0046】
なお、ここで言う「ヘイズ値」とは、透明性の指標であり、後述の実施例において記載した方法で求めることができる。
【0047】
また、本発明の光拡散性樹脂シートにおいては、リア輝度が50[cd/m]以上となる。従って、光拡散性樹脂シート(透明スクリーン)の光照射側(フロント側)と反対側(リア側)における輝度が向上するため、光拡散性樹脂シートにおいて鮮明な映像を投影することが可能になる。
【0048】
なお、「リア輝度」は、後述の実施例において記載した方法で求めることができる。
【0049】
また、本発明の光拡散性樹脂シートにおいては、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比(すなわち、リア輝度[cd/m]/ヘイズ値[%])の値が10以上である。ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比が10以上であれば、上述の透明性が担保可能なヘイズ値(30%以下)の全領域においてリア輝度を向上させることができるため、光拡散性樹脂シートにおいて鮮明な映像を投影することが可能になる。
【0050】
また、本発明の光拡散性樹脂シートにおいては、全光線透過率が70%以上となる。従って、透過視認性が向上し、光拡散性樹脂シート(透明スクリーン)の光照射側(フロント側)と反対側(リア側)において、光拡散性樹脂シートを通じて明瞭に映像を視認することが可能になる。
【0051】
なお、ここで言う「全光線透過率」とは、試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合のことをいい、後述の実施例において記載した方法で求めることができる。
【0052】
また、本発明の光拡散性樹脂シートにおいては、透明性が要求される光拡散性樹脂シートの着色を抑制するとの観点から、黄色度が6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
【0053】
なお、ここで言う「黄色度」とは、分光光度計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製、商品名:UH4150)を用いて、JIS K7373:2006に準拠して測定されたものをいう。
【0054】
また、本発明における光拡散性樹脂シート1の厚みは、0.01~110mmが好ましく、0.1~20mmがより好ましい。
【0055】
また、例えば、基層/表面層の順に積層された2層構造を有する光拡散性樹脂シート1の場合、表面層3の厚みは特に限定されないが、1~500μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
【0056】
また、例えば、基層/表面層の順に積層された2層構造を有する光拡散性樹脂シート1の場合、加工性と低コストの観点から、光拡散性樹脂シート1全体に対する表面層3の比率は0.01~50%が好ましく、0.05~40%がより好ましい。
【0057】
また、本発明の光拡散性樹脂シート1の形状は限定されず、平板であってもよいし、曲面形状等の非平面形状であってもよい。また、光拡散性樹脂シート1の表面形状も限定されず、平滑な表面であっても、梨地形状やマット形状等の凹凸を有する表面であってもよい。表面への凹凸の付与方法も特に限定されず、例えば、表面形状付与層を積層し、一定時間経過後に上記表面形状付与層を光拡散性樹脂シートから剥離する方法や光拡散性樹脂シートの製造時に、形状付与金型を用いて光拡散性樹脂シートの表面に凹凸を付与する方法等が挙げられる。
【0058】
<他の形態>
また、基層/表面層の順に積層された2層構造を有する光拡散性樹脂シート(二種二層の光拡散性樹脂シート)を例に挙げて説明したが、本発明の多層構造を有する光拡散性樹脂シートは、基層の少なくとも一方側に表面層が設けられていればよく、例えば、図2に示すように、表面層3/基層2/表面層3の順に積層された3層構造を有する光拡散性樹脂シート(二種三層の光拡散性樹脂シート)11であってもよい。
【実施例0059】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0060】
光拡散性樹脂シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ポリカーボネート樹脂1:屈折率:1.58、MVR:8.0cm/10分(住化ポリカーボネート(株)製、商品名:SDポリカ 300-8)
(2)ポリカーボネート樹脂2:屈折率:1.58、MVR:8.0cm/10分(帝人(株)製、商品名:パンライト L-1250WQ)
(3)酸化ジルコニウム1:平均粒子径:0.29μm、一次粒子径:10~15nm、比表面積:90m/g(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:UEP-100)
(4)酸化ジルコニウム2:平均粒子径:0.15μm、一次粒子径:10~15nm、比表面積:22m/g(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:UEP)
(5)酸化ジルコニウム3:平均粒子径:1.83μm、一次粒子径:10~15nm、比表面積:24m/g(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:EP)
(6)酸化ジルコニウム4:平均粒子径:13μm、一次粒子径:10~15nm、比表面積:5m/g(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:DK-3CH)
(7)分散剤1:ポリグリセリン脂肪酸エステル:融点:51~55℃、(理研ビタミン(株)製、商品名:リケマール AZ-01)
(8)分散剤2:フェニルトリメトキシシラン:沸点:218℃、(信越化学工業(株)製、商品名:KBM-103)
(9)添加剤:紫外線吸収剤((株)ADEKA製、商品名:アデカスタブ LA-31)
【0061】
(実施例1)
<光拡散性樹脂シートの作製>
まず、表1に示す各材料をブレンドして、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の樹脂材料を用意した。次に、この樹脂材料を、二種二層の共押出機を用いて、Tダイスにより、ダイス温度が150℃~300℃、ポリシングロール温度が100℃~250℃の条件で押出すことにより、表1の厚みを有する二種二層の光拡散性樹脂シート(基層/表面層の順に積層された2層構造を有する光拡散性樹脂シート)を得た。
【0062】
<全光線透過率、及びヘイズ値の測定>
作製した光拡散性樹脂シートから50mm角の試験片を切り出し、ヘーズメーター(日本電色工業(株)製、商品名:NDH-5000)を使用して、得られた試験片の全光線透過率、及びヘイズ値を、JIS-K7136:2000に準拠して測定した。以上の結果を表1に示す。
【0063】
<リア輝度の測定>
まず、作製した光拡散性樹脂シートから200mm×300mmの試験片を切り出し、当該試験片20と、プロジェクター(ベンキュージャパン(株)製、商品名:TW526)10と、色彩輝度計((株)トプコンテクノハウス製、商品名:BM-7)30とを図3に示す位置に配置した。
【0064】
なお、図3に示す、プロジェクター10と試験片20との距離Aを100cm、試験片20と色彩輝度計30との直線距離Bを60cm、試験片20と色彩輝度計30との距離(色彩輝度計30の位置に試験片20と平行な直線40を引いた時の試験片20と平行線40間の距離)Cを30cm、試験片20と色彩輝度計30とのなす角度(色彩輝度計30における光の入射面と試験片20とのなす角度)θを30°とした。
【0065】
そして、試験片20に対して、プロジェクター10を用いて白色の画像を投影(試験片20の位置で照度5000ルクスの白色の画像を投影)し、試験片20のリア側(すなわち、試験片20の光照射側(プロジェクター10側)と反対側(色彩輝度計30側))から、色彩輝度計30を用いて、得られた試験片のリア輝度[cd/m]を測定した。また、ヘイズ値に対するリア輝度の比(すなわち、リア輝度[cd/m]/ヘイズ値[%])の値を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0066】
<黄色度の測定>
作製した光拡散性樹脂シートから50mm角の試験片を切り出し、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、商品名:UH4150)を用いて、得られた試験片の黄色度をJIS K 7373:2006に準拠して測定した。以上の結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2~9、比較例1~7)
樹脂成分の組成を、表1~表3に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、表1~表3に示す厚みを有する実施例2~9及び比較例1~7の光拡散性樹脂シートを作製した。
【0068】
なお、実施例4~5、比較例4においては、表1、表3に示す樹脂材料を、二種三層の共押出機を用いて、Tダイスにより、ダイス温度が150℃~300℃、ポリシングロール温度が100℃~250℃の条件で押出すことにより、表1、表3の厚みを有する二種三層の光拡散性樹脂シート(表面層/基層/表面層の順に積層された3層構造を有する光拡散性樹脂シート)を得た。
【0069】
また、比較例5においては、表3に示す樹脂材料を、単層の押出機を用いて、Tダイスにより、ダイス温度が150℃~300℃、ポリシングロール温度が100℃~250℃の条件で押出すことにより、表3の厚みを有する単層の光拡散性樹脂シート(表面層に相当する層のみを有する単層構造の光拡散性樹脂シート)を得た。
【0070】
そして、上述の実施例1と同様にして、全光線透過率、及びヘイズ値の測定、リア輝度の測定、及び黄色度の測定を行うとともに、ヘイズ値に対するリア輝度の比の値を算出した。以上の結果を表1~表3に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表1~2に示すように、実施例1~9の光拡散性樹脂シートにおいては、表面層が、酸化ジルコニウムを含み、分散剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比(すなわち、リア輝度[cd/m]/ヘイズ値[%])の値が10以上であるため、透明性が担保可能なヘイズ値(30%以下)の全領域においてリア輝度を向上させて、リア側において鮮明な映像を投影することができることが分かる。
【0075】
また、全光線透過量が70%以上となり、リア側において、光拡散性樹脂シートを通じて明瞭に映像を視認することができることが分かる。また、ヘイズ値が30%以下となり、透明性に優れていることが分かる。また、リア輝度が50[cd/m]以上となり、リア側において鮮明な映像を投影することができることが分かる。
【0076】
一方、表3に示すように、比較例1の光拡散性樹脂シートにおいては、酸化ジルコニウムの添加量が多いため、透明性が低下して、ヘイズ値が大きくなるため、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10未満となっており、ヘイズ値に対してリア輝度を十分に向上させることができないことが分かる。また、ヘイズ値が30%よりも大きくなっており、透明性に乏しいことが分かる。
【0077】
また、比較例2,5の光拡散性樹脂シートにおいては、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する酸化ジルコニウムの含有量が1質量部未満であるため、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10未満となっており、ヘイズ値に対してリア輝度を十分に向上させることができず、リア輝度が50[cd/m]未満となり、リア側において鮮明な映像を投影することが困難であることが分かる。
【0078】
また、比較例3~4の光拡散性樹脂シートにおいては、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する酸化ジルコニウムの含有量が1質量部未満であり、更に、分散剤を含有していないため、酸化ジルコニウムの分散性が低下して、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10未満となっており、ヘイズ値に対してリア輝度を十分に向上させることができず、リア輝度が50[cd/m]未満となり、リア側において鮮明な映像を投影することが困難であることが分かる。
【0079】
また、比較例6~7の光拡散性樹脂シートにおいては、酸化ジルコニウムの平均粒子径が0.3μmよりも大きいため、透過視認性が低下して、ヘイズ値が大きくなるため、ヘイズ値[%]に対するリア輝度[cd/m]の比の値が10未満となり、ヘイズ値に対してリア輝度を十分に向上させることができないことが分かる。また、ヘイズ値が30%よりも大きくなっており、透明性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、光拡散性樹脂シートに適している。
【符号の説明】
【0081】
1 光拡散性樹脂シート
2 基層
3 表面層
11 光拡散性樹脂シート
図1
図2
図3