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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071253
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】工作機械の剛性評価装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20240517BHJP
   B23Q 15/18 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
B23Q15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182098
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アビド ムハマド アリ ラザ
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB09
3C001TB01
3C001TB09
3C001TC09
3C029EE01
(57)【要約】
【課題】評価精度を維持しつつ評価に要する時間を低減することができる工作機械の剛性評価装置を提供する。
【解決手段】固定された部材であるベッドと該ベッドに対して相対的に移動可能に設けられた移動体とを含む工作機械の剛性評価装置100であって、剛性評価装置100は、ベッドにおける熱応力の時間的変化に基づく熱的変位を取得する熱的変位取得部101と、移動体の位置状態に応じて変動するベッドにかかる荷重の位置に基づくベッドの機械的変位を取得する機械的変位取得部102と、熱的変位取得部101により取得された熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間を抽出して、熱的変位最大時間における熱的変位と機械的変位との連成解析を行う連成解析部103と、熱的変位最大時間における連成解析の結果に基づいて、ベッド10の剛性評価を行う剛性評価部104と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された部材であるベッドと該ベッドに対して相対的に移動可能に設けられた移動体とを含む工作機械の剛性評価装置であって、
上記ベッドにおける熱応力の時間的変化に基づく熱的変位を取得する熱的変位取得部と、
上記移動体の位置状態に応じて変動する上記ベッドにかかる荷重の位置に基づく上記ベッドの機械的変位を取得する機械的変位取得部と、
上記熱的変位取得部により取得された上記熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間を抽出して、該熱的変位最大時間における上記熱的変位と上記機械的変位との連成解析を行う連成解析部と、
上記熱的変位最大時間における上記連成解析の結果に基づいて、上記ベッドの剛性評価を行う剛性評価部と、
を有する、工作機械の剛性評価装置。
【請求項2】
上記熱的変位取得部は、上記ベッドにおいて非定常熱解析を行って上記熱的変位を取得する、請求項1に記載の工作機械の剛性評価装置。
【請求項3】
上記熱的変位取得部は、上記ベッドに設けられた上記移動体を移動可能に支持する案内部の上記熱的変位を取得し、
上記機械的変位取得部は、上記案内部の上記機械的変位を取得する、請求項1又は2に記載の工作機械の剛性評価装置。
【請求項4】
上記移動体は、上記工作機械における加工対象である工作物を保持するテーブルと、上記工作物を加工するための工具を保持するコラムとの少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の工作機械の剛性評価装置。
【請求項5】
上記剛性評価部の評価結果に基づいて、上記ベッドの形状についてのトポロジー最適化処理を行って、上記ベッドの最適化形状を決定する最適化処理部をさらに含む、請求項1又は2に記載の工作機械の剛性評価装置。
【請求項6】
上記最適化処理部は、上記トポロジー最適化処理における目的変数として、上記ベッドにおける熱的変位と機械的変位とを含む複合的変位の最小化と上記ベッドの質量の最小化の少なくとも一つが設定される、請求項5に記載の工作機械の剛性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の剛性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械における加工精度を向上するために、工作機械の設計諸元の最適化を図ることが行われている。例えば、特許文献1に開示の構成では、工作機械のベッドの設計諸元を説明変数とし、当該ベッドの熱的変位や、ベッド上に設けられた工作物を保持するテーブルや砥石台を構成するコラムの移動(位置変位)に基づくベッドの変形量を示す機械的変位などを目的変数とし、当該説明変数及び目的変数の対応関係を機械学習して作成した複数の学習済みモデルを用いて、設計諸元の最適値を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-97220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の構成では、工作機械の熱的変位と機械的変位との相乗効果の発生の可能性を考慮して、熱的変位は対象温度範囲の中で複数の解析温度を設定するとともに、機械的変位についてもベッドに対するコラム・テーブルの相対位置を複数設定している。そのため、工作機械の熱的変位と機械的変位との複合的な変位は、解析温度・相対位置の組み合わせとなることから、組み合わせが多くなって膨大な演算量が必要となり、所要時間が長くなっていた。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、評価精度を維持しつつ評価に要する時間を低減することができる工作機械の剛性評価装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、固定された部材であるベッドと該ベッドに対して相対的に移動可能に設けられた移動体とを含む工作機械の剛性評価装置であって、
上記ベッドにおける熱応力の時間的変化に基づく熱的変位を取得する熱的変位取得部と、
上記移動体の位置状態に応じて変動する上記ベッドにかかる荷重の位置に基づく上記ベッドの機械的変位を取得する機械的変位取得部と、
上記熱的変位取得部により取得された上記熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間を抽出して、該熱的変位最大時間における上記熱的変位と上記機械的変位との連成解析を行う連成解析部と、
上記熱的変位最大時間における上記連成解析の結果に基づいて、上記ベッドの剛性評価を行う剛性評価部と、
を有する、工作機械の剛性評価装置にある。
【発明の効果】
【0007】
本願発明者らは工作機械のベッドのように質量が比較的大きい部材では、熱的変位は機械的変位に比べて十分に小さいことから、熱的変位が機械的変位に与える影響は極めて小さく、熱的変位と機械的変位との相乗効果は無視できる程度に小さいことを見出した。そのため、上記一態様では、熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間におけるベッドの熱的変位とベッドの機械的変位との連成解析を行って、熱的変位最大時間における連成解析の結果に基づいて工作機械のベッドの剛性評価をすることにより、熱的変位最大時間以外の時間の熱的変位を考慮する必要がないため、評価精度を維持しつつ連成解析の所要時間を大幅に低減することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、評価精度を維持しつつ評価に要する時間を低減することができる工作機械の剛性評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1における、工作機械の斜視図。
図2】実施形態1における、(a)第1状態の工作機械の上面図、(b)第2状態の工作機械の上面図、(c)第3状態の工作機械の上面図、(d)第4状態の工作機械の上面図、(e)第5状態の工作機械の上面図。
図3】実施形態1における、工作機械の剛性評価装置の機能ブロック図。
図4】実施形態1における、最適化処理及び剛性評価のフロー図。
図5】実施形態1における、(a)温度変化のシミュレーション例を示す図、(b)第1状態における熱応力の発生状態の例を示すコンター図。
図6】実施形態1における、(a)ベッド形状の最適化前の複合的変位を示す図、(b)ベッド形状の最適化後の複合的変位を示す図。
図7】実施形態1における、(a)ベッド形状の最適化前の複合的変位を示す図、(b)ベッド形状の最適化後の複合的変位を示す他の図。
図8】従来構成における温度変化のシミュレーション例を示す図。
図9】本実施形態と従来構成とにおける剛性評価の所要時間を比較するための図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
上記工作機械1の剛性評価装置100に係る実施形態1について、図1図9を参照して説明する。
【0011】
1.工作機械1
図1に示すように、工作機械1は、汎用的な工作機械とすることができ、本実施形態1では、マシニングセンタを適用する。マシニングセンタは、工具交換可能に構成されており、装着された工具に応じた加工が可能である。また、本形態においては、工作機械1としてのマシニングセンタは、横形マシニングセンタを基本構成とする。ただし、立形マシニングセンタなど、他の構成を適用することもできる。
【0012】
図1に示すように、工作機械1は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸、Z軸)を駆動軸として有する。工作機械1は工作機械本体として、ベッド10、工具保持装置20及び工作物保持装置30を備え、さらに支持部40を有する。
【0013】
ベッド10は支持部40を介して設置面上に固定された部材であって、図1に示すように、工具保持装置20が載置される工具側ベッド10aと、工作物保持装置30が載置される工作物側ベッド10bとを含む。工具側ベッド10a及び工作物側ベッド10bの形状は限定されないが、それぞれの外径は略直方体となっており、必要な剛性が確保される範囲で軽量化を図るために一部が肉抜きされている。
【0014】
工具側ベッド10aの上面には、Z軸方向に延在する一対のレール状の第1案内部11が形成されている。また、工作物側ベッド10bの上面には、X軸方向に延在する一対のレール状の第2案内部12が形成されている。
【0015】
工具保持装置20は、工具側ベッド10a上に設けられ、コラム21、サドル22、工具主軸装置23を主に備える。コラム21は、ベッド10に対して相対移動する移動体(第1の移動体)を構成している。本実施形態では、コラム21は、図2(a)~(c)に示すように、第2案内部12を介してZ軸方向へ移動可能に構成されている。コラム21の上下方向に延びる面(図1の左面)には、Y軸ガイドレール21aが成されている。なお、サドル22はY軸ガイドレール21aを介してY軸方向へ移動可能に構成されている。工具主軸装置23は工具Tを保持するものであって、サドル22に設けられると共に、サドル22と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置23には、工具を回転させる回転モータ(図示せず)が備えられている。
【0016】
工作物保持装置30は、工作物側ベッド10b上に設けられ、テーブル31と図示しない工作物主軸装置を主に備える。テーブル31は、ベッド10に対して相対移動する移動体(第2の移動体)を構成している。本実施形態では、テーブル31は、図2(a)、(d)及び(e)に示すように第2案内部12を介してX軸方向へ移動可能に構成されている。なお、図示しない工作物主軸装置は、テーブル31上に設けられ、工作物を回転可能に保持する。
【0017】
2.工作機械1の剛性評価装置100
次に、工作機械1の剛性評価装置100について説明する。剛性評価装置100は、所定の情報を記憶する記憶装置と所定のプログラムを実行するコンピュータとにより構成される。そして、図3に示すように、工作機械1の剛性評価装置100は、熱的変位取得部101、機械的変位取得部102、連成解析部103、剛性評価部104、最適化処理部105を含む。
【0018】
2-1.熱的変位取得部101
熱的変位取得部101は、ベッド10における熱応力の時間的変化に基づく熱的変位を取得する。熱応力の時間的変化は、任意の方法で検出することができ、本実施形態では、熱的変位取得部101において、所定期間にわたってベッド10を予めプログラムされた温度状態にして非定常熱解析を行うことによりベッド10における熱応力の時間的変化を検出する。そして、検出された熱応力の時間的変化に基づく熱的変位として、熱応力検出部位の各時間における熱応力の値を算出することができる。
【0019】
熱応力の時間的変化を検出する部位は、ベッド10の一部又は全部とすることができ、本実施形態ではベッド10の一部を構成する第1案内部11及び第2案内部12の熱応力の時間的変化を検出する。そして、本実施形態では、熱的変位として、第1案内部11及び第2案内部12において検出された熱応力の各時間における熱応力の平均値を算出する。
【0020】
2-2.機械的変位取得部102
機械的変位取得部102は、移動体の位置状態に応じて変動するベッド10にかかる荷重の位置に基づくベッド10の機械的変位を取得する。本実施形態では、上述の通り、移動体は、第1の移動体であるコラム21と第2の移動体であるテーブル31とを含む。なお、当該移動体の数はこれに限定されず、第1及び第2の移動体とともに第3の移動体や第4の移動体を備えていてもよいし、第1の移動体のみ又は第2の移動体のみを備えることとしてもよい。
【0021】
機械的変位取得部102において、移動体の位置状態は複数設定される。本実施形態では、第1の移動体であるコラム21は、図2(a)~(c)に示すように、Z軸方向における符号0で示す範囲を移動範囲とする。そして、移動体の位置状態について、第1状態は、図2(a)に示すように、第1の移動体であるコラム21が工具側ベッド10a上の第1案内部11において、Z軸方向における工作物側ベッド10bから最も離れた位置Z1に位置する状態である。第2状態は、図2(b)に示すように、第1の移動体であるコラム21が工具側ベッド10a上の第1案内部11において、Z軸方向における工作物側ベッド10bから最も離れた位置と工作物側ベッド10bに最も近い位置との中央位置Z2に位置する状態である。第3状態は、図2(c)に示すように、第1の移動体であるコラム21が工具側ベッド10a上の第1案内部11において、Z軸方向における工作物側ベッド10bに最も近い位置Z3に位置する状態である。なお、第1~第3状態では、第2の移動体であるテーブル31は、工作物側ベッド10b上の第2案内部12において、X軸方向における中央位置X2に位置して移動しない状態としている。
【0022】
また、移動体の位置状態について、第4状態は、図2(d)に示すように、第2の移動体であるテーブル31が工作物側ベッド10b上の第2案内部12において、X軸方向における一方の端部の位置X1に位置する状態である。第5状態は、図2(e)に示すように、第2の移動体であるテーブル31が工作物側ベッド10b上の第2案内部12において、X軸方向における他方の端部の位置X3に位置する状態である。なお、第4及び第5状態では、第1の移動体であるコラム21は、工具側ベッド10aにおいて工作物側ベッド10bから最も離れた位置Z1に位置して移動しない状態としている。
【0023】
2-3.連成解析部103
連成解析部103は、熱的変位取得部101により取得された熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間を抽出して、熱的変位最大時間における熱的変位と機械的変位取得部102により機械的変位との連成解析を行う。当該連成解析は、連成熱多負荷構造最適化解析(the coupled thermal multiload structural optimization analysis)により行うことができる。なお、ベッド10に熱応力の時間的変化が発生していない初期状態、すなわち熱的変位の取得開始時の多負荷構造最適化解析の解析結果と、熱的変位最大時間における連成熱多負荷構造最適化解析の結果とを比較することで、熱応力による影響がどの程度であるか算出することができる。
【0024】
工作機械1におけるベッド10は質量が十分に大きい部材であるため、ベッド10における熱的変位はベッド10における機械的変位に比べて極めて小さい。したがって、機械的変位と熱的変位との相乗効果は無視できる程度に小さいため、熱的変位最大時間は、ベッド10における機械的変位、すなわち、移動体の位置状態にかかわらず、算出することができる。
【0025】
2-4.剛性評価部104
剛性評価部104は、連成解析部103による熱的変位最大時間における連成解析の結果に基づいて、ベッド10の剛性評価を行う。剛性の評価は、連成解析部103による熱的変位最大時間における連成解析の結果における変位量が大きいものほど剛性が低く、当該変位量が小さいものほど剛性が高いと評価することができる。剛性評価の対象は、ベッド10の一部または全部とすることができ、本実施形態では、ベッド10の案内部11、12の剛性を評価対象としている。
【0026】
2-5.最適化処理部105
最適化処理部105は、剛性評価部104の評価結果に基づいて、ベッド10の形状についてのトポロジー最適化処理を行って、ベッド10の最適化形状を決定する。トポロジー最適化処理における目的変数及び制約条件は適宜設定することができ、例えば、目的変数として、ベッド10の一部または全部の変位及び質量の少なくとも一つの最小化を含むものとすることができる。複数位置の変位に基づいてベッド10のコンプライアンス(剛性の逆数)を導出し、当該コンプライアンスを目的変数に含むこととしてもよい。また、トポロジー最適化処理における制約条件はベッド10の一部または全部の質量を含むことができ、また、これに替えて、制約条件はなしとしてもよい。
【0027】
3.ベッド10の形状最適化と剛性評価
次に、ベッド10の形状最適化と剛性評価について、図4のフロー図を参照して説明する。まず、図4に示すステップS1において、案内部11、12を含むベッド10の初期形状を設定する。本実施形態では、図1に示すベッド10の形状を設定する。
【0028】
次いで、ステップS2において、最適化処理部105において、トポロジー最適化処理における目的変数及び制約条件を設定する。本実施形態では、目的変数としてベッドの変位及び質量の最小化を設定し、制約条件はなしとする。
【0029】
その後、熱的変位取得部101において、非定常熱解析によりベッド10の案内部11、12における熱的変位を取得する。本実施形態では、図5(a)に示すように、ベッド10の環境温度を20℃から8時間かけて16℃に変化させて16℃を2時間維持することで、ベッド10の案内部11、12における熱的変位のシミュレーションを行った。例えば、第1状態におけるベッド10の案内部11、12における熱的変位のシミュレーションの開始時刻t=0での熱応力は図5(b)に示すように取得できる。
【0030】
そして、ステップS4において、連成解析部103により、熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間を抽出する。本実施形態では、図5(a)に示すように、熱的変位取得部101において非定常熱解析により取得された熱的変位は経過時間tが10時間のときに熱的変位が最大値を示したことに基づき、連成解析部103は熱的変位最大時間として、t=10を抽出する。
【0031】
その後、ステップS5において、機械的変位取得部102により、熱的変位最大時間t=10における機械的変位を取得する。本実施形態では、図2(a)~(e)に示す第1~第5状態においてそれぞれの機械的変位を取得する。
【0032】
次いで、ステップS6において、連成解析部103により、熱的変位最大時間t=10における熱的変位と機械的変位との連成熱多負荷構造最適化解析を実行する。t=10での第1~第5状態におけるそれぞれの連成熱多負荷構造最適化解析の解析結果として、熱的変位と機械的変位とを含む複合的変位を、図6(a)及び図7(a)に示した。また、本実施形態では、熱的変位の取得開始時t=0、すなわち、熱応力の時間的変化の影響のない時間における機械的変位についての多負荷構造最適化解析を実行し、その解析結果として、t=0での複合的変位を図6(a)及び図7(a)に示した。
【0033】
その後、ステップS7において、剛性評価部104によりベッド10における案内部11、12の剛性を評価する。本実施形態では、図6(a)及び図7(a)に示す複合的変位の変化量が大きいものほど剛性が低いと評価し、複合的変位の変化量が小さいものほど剛性が高いと評価する。
【0034】
そして、ステップS8において、最適化処理部105により、ベッド10における複合的変位及びベッド10の質量を最小化できたか否かを判定する。最小化できていないと判定された場合は、ステップS8のNoに進み、ステップS9において、ベッド10の形状を変更した後、ステップS5に戻って以降のステップを再度実施する。一方、ステップS8において、最小化できたと判定された場合は、ステップS8のYesに進む。そして、ステップS10において、最適化処理部105によりベッド10の最適化形状を決定し、当該フローを終了する。なお、最適化形状におけるベッド10の複合的変位は、図6(b)及び図7(b)に示される。そして、当該フローでは、上述のステップS3~ステップS7において、ベッドの剛性の評価を行う剛性評価フローが実施されることとなる。
【0035】
4.確認試験
確認試験として、図4に示す本実施形態における剛性評価フローによる剛性評価の所要時間と、従来の剛性評価の所要時間との比較を行った。従来の剛性評価では、図2(a)~(e)に示す第1~第5状態において、図8に示すように熱的変位の時間的変化の測定開始から2時間おきに熱的変位の取得を行って剛性評価を行う。
【0036】
図9に示すように、従来の剛性評価の所要時間は30時間であり、本実施形態における剛性評価の所要時間は9時間となった。すなわち、本実施形態における剛性評価では、従来に比べて所要時間を約70%削減できることが確認できた。
【0037】
5.作用効果
本実施形態における工作機械1のベッド10のように質量が比較的大きい部材では、熱的変位は機械的変位に比べて十分に小さいことから、熱的変位が機械的変位に与える影響は極めて小さく、熱的変位と機械的変位との相乗効果は無視できる程度に小さい。そのため、本実施形態によれば、熱的変位が最大値を示す熱的変位最大時間におけるベッド10の熱的変位とベッド10の機械的変位との連成解析を行って、熱的変位最大時間における連成解析の結果に基づいて工作機械1のベッド10の剛性評価をすることにより、熱的変位最大時間以外の時間の熱的変位を考慮する必要がないため、評価精度を維持しつつ連成解析の所要時間を大幅に低減することができる。
【0038】
また、本実施形態では、熱的変位取得部101は、ベッド10において非定常熱解析を行って熱的変位を取得する。これにより、熱的変位をより高精度に取得することができ、評価精度の向上を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態では、熱的変位取得部101は、ベッド10に設けられた移動体としてのコラム21及びテーブル31を移動可能に支持する案内部11、12の熱的変位を取得し、機械的変位取得部102は、案内部11、12の機械的変位を取得する。これにより、移動体としてのコラム21及びテーブル31の荷重が直接かかって機械的変位の影響が顕著に表れる部位の剛性評価を行うことができる。
【0040】
また、本実施形態では、ベッド10に設けられた移動体は、工作機械1における加工対象である工作物を保持するテーブル31と、工作物を加工するための工具Tを保持するコラム21との少なくとも一方を含む。移動体としてこれらの少なくとも一方の構成を採用することにより、移動体の位置状態の変化による機械的変位をより正確に取得することができる。
【0041】
また、本実施形態では、剛性評価部104の評価結果に基づいて、ベッド10の形状についてのトポロジー最適化処理を行って、ベッド10の最適化形状を決定する最適化処理部105をさらに含む。これにより、ベッド10の最適化形状を決定することができる。
【0042】
また、本実施形態では、最適化処理部105は、トポロジー最適化処理における目的変数として、ベッド10における熱的変位と機械的変位とを含む複合的変位の最小化とベッド10の質量の最小化の少なくとも一つが設定される。
【0043】
以上のごとく、本実施態様によれば、評価精度を維持しつつ演算量を低減することができる工作機械1の剛性評価装置100を提供することができる。
【0044】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。工作機械1として、実施形態1に示すものに限定されず、例えば、工作機械1として、マシニングセンタ、立型研削盤、円筒研削盤、平面研削盤、センター研削盤、内径研削盤などを採用することができ、これらの工作機械のベッドを剛性評価することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 工作機械
10 ベッド
10a 工具側ベッド
10b 工作物側ベッド
11 第1案内部
12 第2案内部
21 コラム(第1の移動体)
31 テーブル(第2の移動体)
100 剛性評価装置
101 熱的変位取得部
102 機械的変位取得部
103 連成解析部
104 剛性評価部
105 最適化処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9