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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071273
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】合成樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/24 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
B29C41/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182128
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小林 則彦
(72)【発明者】
【氏名】牧 春彦
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 智大
(72)【発明者】
【氏名】田村 和重
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA40
4F205AC05
4F205AG01
4F205AJ08
4F205AR08
4F205AR12
4F205GA07
4F205GB02
4F205GC02
4F205GF24
4F205GN08
4F205GN21
4F205GN24
4F205GN29
4F205GW05
4F205GW26
(57)【要約】
【課題】幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムの製造方法を実現する。
【解決手段】合成樹脂フィルムの製造方法は、ゲルフィルムを、軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えた駆動ロール(43)により、搬送方向(MD方向)に弛緩させる工程を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に生産される合成樹脂フィルムの製造方法であって、
(A)高分子と有機溶剤とを含む組成物を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する工程、
(B)前記ゲルフィルムを前記支持体から引き剥がす工程、
(C)前記(B)工程にて得られたゲルフィルムを、軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えた駆動ロールにより、搬送方向に弛緩させる工程、
(D)前記(C)工程にて弛緩させたゲルフィルムを、搬送方向での弛緩状態を保持しながら、前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程、および
(E)前記(D)工程にて前記両端が固定されたゲルフィルムを、加熱炉内に搬送させる工程、を含む、合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記駆動ロールは、前記低減機構として軸方向の端部に複数のピンを備えている、請求項1に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ピンの高さは、0.5mm~5mmである、請求項2に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記駆動ロールの径は、50mm~300mmである、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記駆動ロールを通過前のゲルフィルムの搬送速度をVa(m/分)、前記(E)工程にて加熱炉内に搬送する速度をVb(m/分)としたとき、x(%)=(Va/Vb)×100-100で表されるオーバーフィード率が1%以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記オーバーフィード率が3%~15%である、請求項5に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記(D)工程は、
(D-1)前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、基板上に複数のピンが固定されたピンシートを用い、前記ゲルフィルムの前記両端に対して一定周期で上方から押さえる押え機構により、前記ゲルフィルムを前記ピンシートに固定する工程を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記押え機構は、
回転カムローラーと、当該回転カムローラーに連結する弛緩用ピンニングロールと、を備え、
前記回転カムローラーの回転に連動して前記弛緩用ピンニングロールが上下動する機構である、請求項7に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記弛緩用ピンニングロールの径が20mm~100mmである、請求項8に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記(D)工程は、
(D-2)前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、基板上に複数のピンが固定されたピンシートを用い、前記ゲルフィルムに対して下方に押圧しながら搬送する押圧用ピンニングロールにより前記ゲルフィルムを前記ピンシートに固定する工程を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記(D)工程は、
(D-3)前記ゲルフィルムの幅方向の両端を把持する複数のクリップを用いて、前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記合成樹脂フィルムの幅は、1500mm以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記高分子は、ポリアミド酸であり、前記合成樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムである、請求項1~3の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続的に生産される合成樹脂フィルムの配向を制御し、等法的な合成樹脂フィルムを製造する試みは、種々行われてきた。一般に、このような合成樹脂フィルムの製造方法は、(i)高分子と有機溶剤を含む組成物を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する工程、(ii)ゲルフィルムを支持体から引き剥がす工程、および(iii)加熱炉内にゲルフィルムを搬送させて焼成する工程を含む。(iii)の工程では、ゲルフィルムの搬送方向(以下、MD方向と称する場合がある)と直交する方向、すなわち幅方向(以下、TD方向と称する場合がある)の両端部を把持して固定した状態で、加熱炉内にゲルフィルムを搬送させる。
【0003】
合成樹脂フィルムは、上記製造方法に由来して、ボーイング現象が生じる。ボーイング現象とは、ゲルフィルムにおいて、加熱炉内での焼成前に、TD方向に沿って引いておいた直線が、熱処理後において弓なりに曲がっている現象のことをいう。当該ボーイング現象を完全に抑制することは難しい。それゆえ、ゲルフィルムに対して、むしろ積極的に分子を配向させることによってボーイング現象を最小限にして、フィルムの全幅において物性を均一化させる試みが行われるようになった。
【0004】
ポリイミドフィルムに対して上記試みを行った技術は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、MD方向に沿ってゲルフィルムを弛緩させた状態でTD方向の両端部を固定して、ゲルフィルムを焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-181986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、幅方向における分子配向度のバラツキが少なく、幅方向における中央部と端部との物性差が少ない合成樹脂フィルムを実現できる。しかし、近年、より高度に幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムの製造方法の開発が待たれる。
【0007】
本発明の一態様は、幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムの製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の構成を有する。
【0009】
(1)連続的に生産される合成樹脂フィルムの製造方法であって、(A)高分子と有機溶剤とを含む組成物を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する工程、(B)前記ゲルフィルムを前記支持体から引き剥がす工程、(C)前記(B)工程にて得られたゲルフィルムを、軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えた駆動ロールにより、搬送方向に弛緩させる工程、(D)前記(C)工程にて弛緩させたゲルフィルムを、搬送方向での弛緩状態を保持しながら、前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程、および(E)前記(D)工程にて前記両端が固定されたゲルフィルムを、加熱炉内に搬送させる工程、を含む、合成樹脂フィルムの製造方法。
【0010】
(2)前記駆動ロールは、前記低減機構として軸方向の端部に複数のピンを備えている、(1)の合成樹脂フィルムの製造方法。
【0011】
(3)前記ピンの高さは、0.5mm~5mmである、(2)の合成樹脂フィルムの製造方法。
【0012】
(4)前記駆動ロールの径は、50mm~300mmである、(1)~(3)の合成樹脂フィルムの製造方法。
【0013】
(5)前記駆動ロールを通過前のゲルフィルムの搬送速度をVa(m/分)、前記(E)工程にて加熱炉内に搬送する速度をVb(m/分)としたとき、x(%)=(Va/Vb)×100-100で表されるオーバーフィード率が1%以上である、(1)~(4)の何れかの合成樹脂フィルムの製造方法。
【0014】
(6)前記オーバーフィード率が3%~15%である、(5)の合成樹脂フィルムの製造方法。
【0015】
(7)前記(D)工程は、(D-1)前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、基板上に複数のピンが固定されたピンシートを用い、前記ゲルフィルムの前記両端に対して一定周期で上方から押さえる押え機構により、前記ゲルフィルムを前記ピンシートに固定する工程を含む、(1)~(6)の何れかの合成樹脂フィルムの製造方法。
【0016】
(8)前記押え機構は、回転カムローラーと、当該回転カムローラーに連結する弛緩用ピンニングロールと、を備え、前記回転カムローラーの回転に連動して前記弛緩用ピンニングロールが上下動する機構である、(7)の合成樹脂フィルムの製造方法。
【0017】
(9)前記弛緩用ピンニングロールの径が20mm~100mmである、(8)の合成樹脂フィルムの製造方法。
【0018】
(10)前記(D)工程は、(D-2)前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、基板上に複数のピンが固定されたピンシートを用い、前記ゲルフィルムに対して下方に押圧しながら搬送する押圧用ピンニングロールにより前記ゲルフィルムを前記ピンシートに固定する工程を含む、(1)~(9)の何れかの合成樹脂フィルムの製造方法。
【0019】
(11)前記(D)工程は、(D-3)前記ゲルフィルムの幅方向の両端を把持する複数のクリップを用いて、前記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程を含む、(1)~(10)の何れかの合成樹脂フィルムの製造方法。
【0020】
(12)前記合成樹脂フィルムの幅は、1500mm以上である、(1)~(11)の何れかの合成樹脂フィルムの製造方法。
【0021】
(13)前記高分子は、ポリアミド酸であり、前記合成樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムである、(1)~(12)の何れかの合成樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムの製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法を実施するための製造装置の具体例の構成を側方から示す概略模式図である。
図2図1に示す製造装置におけるフィルム弛緩搬送部の構成を側方から示す概略模式図である。
図3図1に示す製造装置におけるフィルム弛緩搬送部の構成を上方から示す概略模式図である。
図4】ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段としてクリップを備えた把持装置を上方からみた概略模式図である。
図5】フィルム弛緩搬送部の変形例1の構成を側方から示す概略模式図である。
図6】フィルム弛緩搬送部の変形例1の構成を上方から示す概略模式図である。
図7】フィルム弛緩搬送部の変形例2の構成を側方から示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表わす「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0025】
<本発明の一実施形態の技術的思想>
特許文献1に開示されている技術は、MD方向に沿ってゲルフィルムを弛緩させた状態でTD方向の両端部を固定して、ゲルフィルムを焼成することによって、フィルムの全幅方向において物性を均一にする技術である。そして、特許文献1には、MD方向に沿ってゲルフィルムを弛緩させた状態を作り出す方策として、TD方向の両端部を固定する前後の速度の比で表される弛緩率を特定の範囲とすることが開示されている。さらに、ゲルフィルムを弛緩させた状態でフィルムを搬送する弛緩搬送部として、具体的には、搬送ローラーとゴムローラーとによりゲルフィルムをニップするニップ機構が開示されているだけである。このニップ機構は、通過するゲルフィルムの張力をカットして加熱炉へ送り出すので、張力カット手段と呼ばれている。他の張力カット手段としては、サクションロールが挙げられる。
【0026】
張力カット手段としてニップロールを用いた場合、幅方向における分子配向度のバラツキが少なく、幅方向における中央部と端部との物性差が少ない合成樹脂フィルムを実現できる一方で、ニップ圧によってはゲルフィルムにニップ跡が転写される可能性がある。また、張力カット手段としてサクションロールを用いた場合でも、ゲルフィルムへの吸引転写に不都合が生じる、設備が大型化する、生産スペースを有効利用できないといった問題が生じる場合がある。
【0027】
張力カット手段としてニップロールまたはサクションロールの何れかを用いた場合、より高度に幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムの製造する上で、種々の課題が残されている。
【0028】
そこで、本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討を行った結果、張力カット手段として「軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えた駆動ロール」という新規の構造を見出した。そして、本発明者らは、この新規の駆動ロールにより搬送方向での弛緩状態を保持しながら、ゲルフィルムの幅方向の両端を固定することにより、より高度に幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムを製造できることを見出し、本実施形態に係る合成樹脂フィルムの製造方法に至った。
【0029】
すなわち、本実施形態に係る合成樹脂フィルムの製造方法(以下、本製造方法と称する場合がある)は、連続的に生産される合成樹脂フィルムの製造方法であって、
(A)高分子と有機溶剤とを含む組成物を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する工程、
(B)上記ゲルフィルムを上記支持体から引き剥がす工程、
(C)上記(B)工程にて得られたゲルフィルムを、軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えた駆動ロールにより、搬送方向に弛緩させる工程、
(D)上記(C)工程にて弛緩させたゲルフィルムを、搬送方向での弛緩状態を保持しながら、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程、および
(E)上記(D)工程にて上記両端が固定されたゲルフィルムを、加熱炉内に搬送させる工程、を含む。
【0030】
本製造方法により、特許文献1の技術よりも高度に幅方向の物性バラツキが少なく制御された合成樹脂フィルムを製造できる。すなわち、本製造方法によれば、特許文献1の技術よりもさらに確実に分子を配向させた合成樹脂フィルムを製造することができる。特に、本製造方法により製造された合成樹脂フィルムは、幅方向のどの箇所においてもTD方向に分子が配向し、かつ、幅方向において、配向の程度および配向角のバラツキをさらに小さくすることができる。
【0031】
<本製造方法を適用可能な合成樹脂フィルム>
本製造方法において好適に適用できる高分子は、一般的に「ポリマー」と表現される物質である。当該高分子を用いた合成樹脂フィルム、すなわち、本製造方法を適用可能な合成樹脂フィルムとして、例えば、PI(ポリイミドフィルム)、PA(ポリアミドフィルム)、PEN(ポリエチレンナフタレートフィルム)、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、PC(ポリカーボネートフィルム)、PPS(ポリフェニレンサルファイドフィルム)、LCP(液晶ポリマーフィルム)、PET(ポリエチレンテレフタレートフィルム)、PE(ポリエチレンフィルム)、PVA(ポリビニルアルコールフィルム)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレンフィルム)、PVDF(ポリビニリデンフルオライドフイルム)、PVF(ポリビニルフルオライドフィルム)等の合成樹脂フィルムが挙げられる。特に電子・電気用途に好ましく用いられる合成樹脂フィルムとしては、ポリイミドフィルムが好ましい。
【0032】
例えばポリイミドフィルムを製造する場合、ポリイミドフィルムは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を合成し、これをイミド化することにより製造される。それゆえ、ポリイミドフィルムを製造する場合、上記高分子は、ポリアミド酸であることが好ましい。この場合、本製造方法における(A)工程はポリアミド酸と有機溶剤とを含む組成物を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する工程となる。また、ポリイミドフィルムを連続的に製造する場合、テンター炉方式を用いた製造方法が好適に用いられる。このテンター炉方式では、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の有機溶媒溶液からゲルフィルムを連続的に形成し、このゲルフィルムを高温の炉(テンター炉)内に搬送して焼成する。このテンター炉への搬送および焼成時には、ゲルフィルムの搬送方向(MD方向)に直交する方向、すなわち幅方向(TD方向)の両端部を把持して固定する。
【0033】
また、本製造方法によって製造される合成樹脂フィルムの幅は、本製造方法に使用される製造装置の構成等に応じて、適宜設定可能である。ポリイミドフィルムを製造する場合、前記合成樹脂フィルムの幅は、1500mm以上であることが好ましく、2000mm以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、3000mm以下である場合を挙げることができる。
【0034】
以下、本製造方法として、ポリイミドフィルムを製造する場合について主に説明する。なお、本製造方法は、ポリイミドフィルムの製造方法に限定されないことはいうまでもない。
【0035】
<(A)工程>
(A)工程は、高分子としてのポリアミド酸と有機溶剤とを含む組成物(以下、ポリアミド酸溶液と称する場合がある)を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する工程である。
【0036】
また、上記有機溶剤は、ポリアミド酸を有効に溶解または分散できるものであれば、特に限定されない。具体的には、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア類;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン類;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチルラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド類;ホスホリルアミド類;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;フェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル類を、上記有機溶剤として好適に用いることができる。なお、ウレア類、スルホキシド/スルホン類、アミド類/ホスホリルアミド類等は非プロトン性溶媒である。
【0037】
これら有機溶媒は、通常単独で用いるが、必要に応じて2種類以上の溶媒を適宜組み合わせて用いることもできる。上記有機溶媒の中でも、特に、DMF、DMAc、NMP等のアミド類をより好ましく用いることができる。これらアミド類はポリアミド酸の溶解性に優れているため、本発明のポリアミド酸溶液の溶媒として好ましく用いられる。
【0038】
ポリアミド酸溶液の調製方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、特開2006-181986号公報、WO2005/082594号等に開示された技術によって、ポリアミド酸溶液を調製することができる。
【0039】
また、本製造方法では、ポリアミド酸を有機溶媒溶液として合成することが好ましい。これにより、合成と溶液調製とを実質的に一段階で行うことができるので、得られたポリアミド酸重合液をそのままポリアミド酸溶液として(A)工程に使用することができる。ポリアミド酸の合成およびイミド化は、従来公知の技術を用いて行うことができる。本製造方法においては、例えば、特開2006-181986号公報、WO2005/082594号等に開示された技術によって、ポリアミド酸を合成し、これをイミド化することができる。
【0040】
(A)工程では、上述のように調製された組成物(ポリアミド酸溶液)を支持体上に連続的に流延・塗布し、ゲルフィルムを形成する。ゲルフィルムとは、高分子と有機溶剤とを含有した組成物を加熱および/または乾燥させることにより、一部の有機溶剤もしくは反応生成物(これらを残存成分と称する場合がある)が残存している高分子樹脂フィルムを意味する。
【0041】
ポリイミドフィルムを製造する場合、上記ゲルフィルムとは、ポリアミド酸溶液を加熱および/または乾燥させることにより、ポリアミド酸の一部イミド化するとともに、有機溶媒や他の成分、反応生成物等が一部残存しているポリアミド酸フィルムを示す。このポリアミド酸フィルムは一部イミド化されている、および/または、残存成分が含まれているため、ゲル状の形態を有しているが、フィルムとしては自己支持性を有している。
【0042】
本製造方法において、上記ゲルフィルム中に含まれる上記残存成分の割合(残存成分率)は、ゲルフィルム中に存在する、完全に乾燥した場合の樹脂成分の総重量に対する残存成分の総重量の割合として算出される。具体的には、ゲルフィルム中の、完全に乾燥した場合の樹脂成分の総重量(樹脂成分量)をWa(単位:g)とし、ゲルフィルム中の残存成分の総重量(残存成分量)をWb(単位:g)とした場合に、残存成分率Rc(単位:重量%)は、次の式(i)によって算出される。
【0043】
Rc=(Wa/Wb)×100 …(i)
本製造方法においては、上記ゲルフィルムの残存成分率は、(E)工程(焼成工程)において、弛緩状態でゲルフィルムを焼成する点を考慮して、特定の範囲内となっていることが好ましい。具体的には、上記残存成分率は、20重量%以上300重量%以下であることが好ましく、30重量%以上200%以下であることがより好ましい。
【0044】
上記残存成分率が上記の範囲内であれば、(E)工程(焼成工程)においてボーイング現象を有効に抑制できるだけでなく、(D)工程で把持したフィルム端部に皺が生じる現象も抑制または回避することが可能となる。その結果、得られるポリイミドフィルムの全幅における等方性をより優れたものとし、ポリイミドフィルムの実用性を向上させることができる。
【0045】
なお、上記式(i)において、樹脂成分量Wa(g)と残存成分量Wb(g)との算出方法は、次の方法にしたがう。すなわち、ゲルフィルムを10mm×10mmの大きさにカットしてサンプルとする。このサンプルの重量Wd(単位:g)を測定した後に、当該サンプルを300℃のオーブン中で20分乾燥して室温まで冷却し、その後の重量(乾燥重量)を測定する。サンプルの乾燥重量を樹脂成分量Waとし、サンプルの重量Wdと樹脂成分量Waとの差分(Wd-Wa)を残存成分量Wbとする。
【0046】
また、上記ゲルフィルムを形成するための上記支持体としては、上記組成物により溶解することが無く、かつ上記組成物に含有される有機溶剤を除去するために要する加熱にも耐え得るものであれば特に限定されない。具体的な支持体としては、金属板を繋ぎ合わせた構成を有するエンドレスベルト、または、金属製のドラム(金属ドラム)を好ましく挙げることができる。支持体がこれらであれば、特にポリアミド酸溶液を乾燥させる上で好適である。
【0047】
エンドレスベルトまたは金属ドラムの構成は、特に限定されず、従来公知のものを採用することができる。例えば、特開2006-181986号公報、WO2005/082594号等に開示されたエンドレスベルトまたは金属ドラムを使用することができる。
【0048】
また、(A)工程において、支持体上で加熱および/または乾燥させる際の加熱乾燥条件は特に限定されるものではなく、上記残存成分率が上記範囲内に入るように適宜設定すればよい。加熱乾燥条件としては、加熱・乾燥方法によるが、加熱(乾燥)温度、加熱(乾燥)時間を挙げることができ、他には、例えば、熱風を吹き付ける乾燥法を採用する場合には、さらに風速や排気速度等を挙げることができる。本発明では、加熱温度は、加熱方法によらず50~200℃の範囲内とすることが好ましく、50~180℃の範囲内とすることが好ましい。また、加熱時間も、加熱方法によらず1~60分の範囲内であることが好ましい。加熱温度および加熱時間が上記範囲内であれば、ゲルフィルムを効率良くかつ確実に作製することができる。
【0049】
<(B)工程>
(B)工程は、上記ゲルフィルムを上記支持体から引き剥がす(剥離する)工程である。ゲルフィルムを支持体から引き剥がす方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
【0050】
<(C)工程>
(C)工程は、上記(B)工程にて得られたゲルフィルムを、軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えた駆動ロールにより、MD方向に弛緩させる工程である。(C)工程にて、上記駆動ロールは、駆動モータを備えている。当該駆動モータによる駆動により、駆動ロールは回転し、MD方向へゲルフィルムを搬送する。本製造方法においては、上記駆動ロールは、ゲルフィルムの搬送と共に、ゲルフィルムをMD方向に弛緩させるために使用される。上記駆動ロールは、その軸方向の端部にフィルム張力の低減機構を備えている。当該低減機構は、フィルム張力を低減できれば、駆動ロールの軸方向において、両端部に設けられていても、何れか一方の端部に設けられていてもよい。フィルム張力を確実に低減する観点では、上記低減機構は、駆動ロールの軸方向において、両端部に設けられていることが好ましい。
【0051】
また、駆動ロールにおいて、上記低減機構は、軸方向の端部に設けられている。駆動ロールの軸方向の端部は、ゲルフィルムにおいて、最終製品の品質に影響しない幅方向の端部に対応する。それゆえ、本製造方法によれば、駆動ロールの低減機構によってフィルム端部に低減機構による転写が生じても、製造される合成樹脂フィルムの品質は維持される。
【0052】
上記駆動ロールに備えられた低減機構は、フィルム張力を低減できる機構であれば、特に限定されない。好ましくは、上記駆動ロールは、上記低減機構として軸方向の端部に複数のピンを備えている。上記駆動ロールの構成については、後述する。
【0053】
上記低減機構が上記複数のピンである場合、駆動ロールは、複数のピンにゲルフィルムが突き刺さった状態で、MD方向へ回転することになる。このため、ゲルフィルムは、駆動ロールを起点として、上流側と下流側との間で張力の差が生じる。具体的には、駆動ロールを起点として、ゲルフィルムの下流側の張力は、ゲルフィルムの上流側の張力よりも小さくなり、張力カットされる。それゆえ、ゲルフィルムは、上記駆動ロールにより、フィルム張力が低減された状態で下流側へ搬送される。
【0054】
そして、駆動ロールにより張力カットされたゲルフィルムは、MD方向に弛緩した状態で搬送される。このように工程(C)にて弛緩させたゲルフィルムは、搬送方向(MD方向)において、実質的に無張力であることが好ましい。換言すれば、ゲルフィルムは、上記駆動ロールを起点として、下流側が実質的に無張力であることが好ましい。ここでいう「実質的に無張力」とは、ゲルフィルムの自重による張力以外に、機械的なハンドリングによる引っ張り張力がMD方向にかからないことを意味する。「実質的に無張力」の状態は張力が0kg/mの状態を含む。より具体的には、「実質的に無張力」は、0kg/m~5kg/m、好ましくは0kg/m~3kg/mである。
【0055】
上記MD方向に弛緩した状態は、上記駆動ロールによりMD方向にゲルフィルムが弛んでいればよいが、駆動ロールにおいて、MD方向のオーバーフィード率を特定範囲に設定することが好ましい。具体的には、MD方向のオーバーフィード率は、1%以上であることが好ましい。なお、上記オーバーフィード率x(%)は、上記駆動ロールを通過前のゲルフィルムの搬送速度をVa(m/分)、前記(E)工程にて加熱炉内に搬送する速度をVb(m/分)としたとき、x(%)=(Va/Vb)×100-100で表される。上記オーバーフィード率が1%未満である場合、ゲルフィルムがMD方向に収縮する範囲内であるため、好ましくない。
【0056】
上記オーバーフィード率は、特に好ましくは、3%~15%であり、さらに好ましくは、3%~10%である。オーバーフィード率が上記数値範囲外である場合、製品となる合成樹脂フィルムにシワなどの外観不良が生じるため好ましくない。オーバーフィード率が上記数値範囲内であれば、さらに、ゲルフィルムをMD方向に弛緩した状態で搬送することができるので好ましい。
【0057】
上記ゲルフィルムにおいて、上記数値範囲のオーバーフィード率のMD方向の弛緩状態を作り出す方法は、特に限定されないが、通常は、ゲルフィルムの搬送速度を制御する方法を好適に用いることができる。例えば、上記駆動ロールを通過前の搬送速度Vaを一定とし、前記(E)工程にて加熱炉内に搬送する搬送速度Vbを低速に変化させることによって、上記数値範囲のオーバーフィード率の弛緩状態にすることができる。この方法では、例えば、上記駆動ロールを通過前のゲルフィルムの搬送速度を一定とし、上記(D)工程にて幅方向の両端が固定されたゲルフィルムの搬送速度を低速としている。
【0058】
また、上記駆動ロールの性質および材料は、上記低減機構の構成等に応じたものであり、特に限定されない。上記駆動ロールは、摩擦係数および抱き角が次の式(1)を満たすように構成されていることが好ましい。これにより、より確実に、駆動ロールによりゲルフィルムを実質的に無張力にできる。
0<Thi/Tlow≦exp(α×μ) (1)
式(1)において、Thi:駆動ロールの上流側のゲルフィルムの張力、Tlow:駆動ロールの下流側のゲルフィルムの張力、α:抱き角(ラジアン)、μ:駆動ロールとウェブ(ゲルフィルム)との静止摩擦係数を表す。
【0059】
上記式(1)を満たす上で、駆動ロールの静止摩擦係数μは、0.02~0.8であることが好ましく、0.1~0.5であることがさらに好ましい。さらに、駆動ロールの材料は、上記溶剤に耐性があるものであれば特に限定されず、SUS(ステンレス鋼)、金属、樹脂などが挙げられ、これらのうち、好ましくは、SUS(ステンレス鋼)である。
【0060】
<(D)工程>
(D)工程は、上記(C)工程にて弛緩させたゲルフィルムを、搬送方向での弛緩状態を保持しながら、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程である。このとき、幅方向の両端を固定されたゲルフィルムは、MD方向での弛緩状態を保持している。
【0061】
上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、特に限定されないが、例えば、複数の針状物を好適に用いることができる。これら複数の針状物は、その尖端の位置が揃った状態で同一方向からゲルフィルムの各端部を突き刺すことにより、当該ゲルフィルムの弛緩状態を保持しながら両端部を固定する。
【0062】
上記複数の針状物の具体的な構成は特に限定されるものではないが、図2および図3に示すように、基板22上に複数のピン21が固定されたピンシート20を用いることが好ましい。
【0063】
ピンシート20では、これら複数のピン21における尖端側とは反対側の端部が基板22に固定されている。このようなピンシート20であれば、複数のピン21をまとめて一つの部材として用いることができるので、固定化手段としての取扱性に優れるとともに、(D)工程の煩雑化も回避することができる。(D)工程では、図2に示すように、このピンシート20におけるピン21の固定面をゲルフィルム10の一方の表面に対向させて、当該ピン21をゲルフィルム10に貫通させる。これにより、ゲルフィルム10の端部は、MD方向に弛緩した状態で有効に固定化される。一方、TD方向は、図中の奥行き方向(図面に対して垂直方向)となるので、この状態で、端部を固定化すれば、TD方向にはゲルフィルム10を張った状態に維持することができる。
【0064】
ピンシート20の具体的な材質は特に限定されるものではなく、ゲルフィルム10の端部を把持した状態で、加熱(焼成)しても耐久するような材質であればよい。一般的には、各種金属を挙げることができるが特に限定されるものではない。金属の場合、ピン(針状物)21の尖端をより鋭利な状態とすることができるため、ゲルフィルム10に突き刺した状態でも、ゲルフィルム10の形状を崩すことなく弛緩状態を有効に保持できるため好ましい。
【0065】
ピンシート20におけるピン(針状物)21の密度も特に限定されるものではなく、ゲルフィルム10の弛緩状態を有効に保持できるように、一定間隔でゲルフィルム10を刺し通すことができるような密度であればよい。
【0066】
(D)工程では、上述したピンシートを用いて、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する方法は、MD方向での弛緩状態を保持しながら、上記ゲルフィルムを固定できれば、特に限定されない。
【0067】
例えば、上記ゲルフィルムの幅方向の両端に対して一定周期で下方から押さえる押え機構により、上記ゲルフィルムを上記ピンシートに固定してもよい。すなわち、上記(D)工程は、(D-1)上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、基板上に複数のピンが固定されたピンシートを用い、上記ゲルフィルムの上記両端に対して一定周期で上方から押さえる押え機構により、上記ゲルフィルムを上記ピンシートに固定する工程を含んでいてもよい。
【0068】
(D-1)工程では、上記押え機構により押さえられることにより、上記ゲルフィルムの幅方向の両端は、一定周期で上記ピンシートに固定されることになる。上記ピンシートはMD方向に移動しているので、上記ゲルフィルムは、より一層MD方向に弛緩して、上記ピンシートに固定される。上記押え機構は、上記ゲルフィルムの幅方向の両端に対して一定周期で上方から押さえることが可能な機構であれば、特に限定されないが、例えば、後述する図5に示す押え機構50が挙げられる。
【0069】
また、(D)工程では、上記ゲルフィルムに対して下方に押圧する押圧用ピンニングロールにより上記ゲルフィルムを上記ピンシートに固定してもよい。上記(D)工程は、(D-2)上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段として、基板上に複数のピンが固定されたピンシートを用い、上記ゲルフィルムに対して下方に押圧しながら搬送する押圧用ピンニングロールにより上記ゲルフィルムを上記ピンシートに固定する工程を含んでいてもよい。
【0070】
(D-2)工程では、上記ゲルフィルムの上記端部には、押圧用ピンニングロールによる押圧によって、下方のピンシートが下面から突き刺さる。その結果、ゲルフィルムは、ピンシートにおける複数のピン間で弛みが生じる。それゆえ、上記ゲルフィルムは、より一層MD方向に弛緩して、上記ピンシートに固定される。上記押圧用ピンニングロールは、上記ゲルフィルムに対して下方に押圧できるものであれば、特に限定されないが、例えば、後述する図2図3等に示す押圧用ピンニングロール45が挙げられる。
【0071】
また、(D)工程において、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する手段は、上述したピンシートに限定されない。例えば、当該手段は、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を把持する複数のクリップであってもよい。すなわち、上記(D)工程は、(D-3)上記ゲルフィルムの幅方向の両端を把持する複数のクリップを用いて、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定する工程を含んでいてもよい。上記クリップを用いても、上記(C)工程にて弛緩させたゲルフィルムを、搬送方向での弛緩状態を保持しながら、上記ゲルフィルムの幅方向の両端を固定することが可能である。
【0072】
上記クリップは、合成樹脂フィルムの製造分野において使用される従来公知のクリップを採用することがきる。例えば、上記クリップは、後述する図4に示す構成が挙げられる。
【0073】
<(E)工程>
(E)工程は、上記(D)工程にて上記両端が固定されたゲルフィルムを、加熱炉内に搬送させる工程である。本製造方法では、ゲルフィルムは、上記(D)工程にて幅方向の両端が固定された後、(E)工程にて加熱炉に搬送され、焼成される。(E)工程は、ゲルフィルムを、加熱炉内部で焼成する工程である。この工程では、MD方向がゲルフィルムを弛緩した状態で、ゲルフィルムを加熱して、焼成することになる。
【0074】
(E)工程にて使用される加熱炉は、特に限定されず、ゲルフィルムを有効に加熱して、合成樹脂フィルムに焼成できる加熱炉であればよい。当該加熱炉として、例えば、例えば、特開2006-181986号公報に開示された加熱炉を採用することができる。
【0075】
また、(E)工程での、加熱炉による焼成温度は、特に限定されず、合成樹脂フィルムの焼成に際して設定される従来公知の焼成温度を採用することができる。例えば、特開2006-181986号公報、WO2005/082594号等に開示された焼成温度にてゲルフィルムを焼成することができる。
【0076】
<製造装置の具体例>
本製造方法を実施するための製造装置(以下、本製造装置と称する場合がある)について具体的に説明する。図1は、本製造装置の具体例の構成を側方から示す概略模式図である。
【0077】
図1に示すように、製造装置100は、(A)工程から(E)工程までを連続的に行い、最終的に得られた合成樹脂フィルムを巻き取る構成となっている。具体的には、製造装置100は、溶液キャストダイス31、金属ドラム32、ゲルフィルム剥離部33、フィルム弛緩搬送部34、段階式焼成炉35、およびフィルム巻取部36を備えている。なお、図1では、太点線によりゲルフィルム10を示し、太実線により弛緩状態で固定されたゲルフィルム10を示し、細線により合成樹脂フィルム30を示している。
【0078】
溶液キャストダイス31は、ポリアミド酸溶液を金属ドラム32上にキャストするものである。溶液キャストダイス31は、円筒状の金属ドラム32の回転軸に沿って配置されるスリットを有している。溶液キャストダイス31では、当該スリットから当該金属ドラム32の表面にポリアミド酸溶液を吐出することで、ポリアミド酸溶液を流延・塗布するようになっている。溶液キャストダイス31の具体的な構造、材質、スリットのサイズ等は特に限定されるものではなく、製造しようとするゲルフィルム10の種類や構造、形状、あるいはゲルフィルム10の特徴等に応じて適切な構成のダイスを選択することができる。
【0079】
金属ドラム32は、前述した支持体であり、この表面にポリアミド酸溶液を流延・塗布して加熱することにより、ゲルフィルム10を形成する。図1に示す構成では、金属ドラム32となっているが、上記(A)工程で説明したようにエンドレスベルトとなっていてもよい。なお、金属ドラム32すなわち支持体の詳細については、(A)工程にて説明したため省略する。
【0080】
ゲルフィルム剥離部33は、金属ドラム32からゲルフィルム10を剥離するものである。その構成は特に限定されるものではなく、公知の構成を用いることができる。図1に示す例では、金属ドラム32の表面に当接する剥離ロールが用いられている。なお、溶液キャストダイス31、金属ドラム32(支持体)、ゲルフィルム剥離部33、並びに図示しない加熱部により、ゲルフィルム形成部が構成される。
【0081】
フィルム弛緩搬送部34は、上記ゲルフィルム形成部と複数のロール37(図中2個)を介してつながっており、剥離されたゲルフィルム10を弛緩状態となるようにTD方向の両端部を固定化し、段階式焼成炉35に搬送するものである。フィルム弛緩搬送部34の構成については、後述する。
【0082】
段階式焼成炉35は、ピンニングされることでMD方向に波打った状態(弛緩状態)で維持されたゲルフィルム10を焼成するものであり、前記(E)工程で説明した構成の加熱炉を好適に用いることができる。なお、ゲルフィルム10の搬送は、テンターチェイン等を用いればよい。このように、本実施形態では、ピンによりゲルフィルム10の両端部を固定化するので、製造装置100(特に、段階式焼成炉およびその前後の構成をまとめた装置)はピン式テンター装置と称してもよい。
【0083】
フィルム巻取部36は、段階式焼成炉35で焼成された合成樹脂フィルム30を巻き取るものである。フィルム巻取部36の具体的な構成は、特に限定されるものではなく、公知の構成を適宜採用することができる。例えば、図1に示すフィルム巻取部36は、複数のロール61(図中3個)で合成樹脂フィルム30に皺が生じないように張った状態を維持しながら、巻取ロール62で巻き取る構成となっている。
【0084】
なお、製造装置100には、溶液キャストダイス31、金属ドラム32、ゲルフィルム剥離部33、フィルム弛緩搬送部34、段階式焼成炉35、フィルム巻取部36以外の構成が適宜備えられていてもよいし、必要に応じて一部の構成は備えられていなくてもよい。
【0085】
<フィルム弛緩搬送部34の構成>
図2は、フィルム弛緩搬送部34の構成を側方から示す概略模式図である。図3は、フィルム弛緩搬送部34の構成を上方から示す概略模式図である。図2および図3に示すフィルム弛緩搬送部34を備えた製造装置は、主に、上記(D)工程が上記(D-2)工程を含む製造方法に使用される。
【0086】
図2および図3に示すように、フィルム弛緩搬送部34は、オーバーフィードローラー41と、搬送ローラー部42と、押圧用ピンニングロール45と、を備えている。搬送ローラー部42は、駆動ロール43と、当該駆動ロール43を駆動する駆動モータ44と、を備えている。
【0087】
オーバーフィードローラー41、搬送ローラー部42、押圧用ピンニングロール45は、ゲルフィルム10の搬送方向(MD方向)に沿ってこの順に配置されている。ゲルフィルム10の搬送速度は、オーバーフィードローラー41および搬送ローラー部42により制御される。押圧用ピンニングロール45は、ゲルフィルム10の上面を押圧する。また、図3に示すように、押圧用ピンニングロール45は、ゲルフィルム10の幅方向の2つの端部それぞれに対応して、2つ設けられている。
【0088】
また、ゲルフィルム10の下面側には、ピンシート20が配置されている。ピンシート20は、基板22と、当該基板22上に固定された複数のピン21と、を備えている。ピンシート20は、ゲルフィルム10の下面と基板22のピン21側の面とが対向するように配置されている。また、図2に示すように、ピンシート20は、MD方向に沿って搬送されるようになっている。具体的には、ピンシート20を搬送する搬送機構25は、ロールR1およびR2を備えている。ロールR1およびR2は、ピンシート20が、内周側がMD方向に、外周側がMD方向の逆方向となるように周回するように構成されている。
【0089】
搬送ローラー部42は、駆動ロール43の駆動を制御することにより、駆動ロール43を通過前のゲルフィルム10の搬送速度Vaを制御する。駆動ロール43は、軸方向の端部に複数のピン43aを備えている。
【0090】
ピン43aは、ゲルフィルム10の張力を低減する低減機構に相当する。ゲルフィルム10の搬送においては、駆動ロール43は、複数のピン43aにゲルフィルム10が突き刺さった状態で、MD方向へ回転することになる。このため、ゲルフィルム10は、駆動ロール43を起点として、上流側の張力Thiと下流側の張力Tlowとの間で差が生じる。具体的には、下流側の張力Tlowは、上流側の張力Thiよりも小さくなり、張力カットされる。それゆえ、ゲルフィルム10は、駆動ロール43により、フィルム張力が低減された状態で下流側へ搬送される。そして、駆動ロールにより張力カットされたゲルフィルム10は、MD方向に弛緩した状態で搬送される。
【0091】
駆動ロール43において、ピン43aの高さは、ゲルフィルム10をMD方向に弛緩できれば、特に限定されないが、好ましくは0.5mm~5mm、より好ましくは1mm~3mmである。また、駆動ロール43の径は、ゲルフィルム10をMD方向に弛緩できれば、特に限定されないが、好ましくは50mm~300mm、より好ましくは120mm~200mmである。
【0092】
また、ピンシート20に固定された後のゲルフィルム10の搬送速度Vbは、ピンシート20の周回速度(移動速度)を制御することにより、制御される。製造装置100では、ゲルフィルム10の搬送速度Vaは、ゲルフィルム10の搬送速度Vbよりも速い。これにより、ゲルフィルム10は、ピンシート20に対して、過剰に供給される。過剰に供給されたゲルフィルム10の両端部には、押圧用ピンニングロール45による上方からの押圧によって、ピンシート20が下方から突き刺さる。それゆえ、ピンシート20により固定されたゲルフィルム10は、複数のピン21間で弛みが生じる。さらに、ゲルフィルム10は、ピンシート20のピン21に完全に突き刺さる(ピンニングされる)ので、ゲルフィルム10がピンシート20から外れることが防止される。したがって、ゲルフィルム10は、ピンシート20によって、MD方向の弛緩状態を保持しながら、幅方向(TD方向)の両端部が固定されることになる。
【0093】
このようにピンシート20によって両端部が固定されたゲルフィルム10は、段階式焼成炉35へ搬送され、段階式焼成炉35内で焼成されて合成樹脂フィルム30となる。得られた合成樹脂フィルム30は、より高度に幅方向の物性バラツキが少なく制御されたものとなる。より具体的には、合成樹脂フィルム30は、幅方向のどの箇所においても分子がTD方向に配向し、幅方向の分子配向の程度および配向角のバラツキがさらに小さくなる。
【0094】
<クリップ>
ゲルフィルム10の幅方向の両端を固定する手段は、ピンシート20に限定されない。当該手段は、ゲルフィルム10の幅方向の両端を把持する複数のクリップであってもよい。図4は、ゲルフィルム10の幅方向の両端を固定する手段としてクリップを備えた把持装置を上方からみた概略模式図である。
【0095】
図4に示すように、把持装置は、テンターチェイン23と、クリップ24と、を備えている。図4に示す構成であっても、クリップ24により、ゲルフィルム10の幅方向の両端部を固定することが可能である。
【0096】
<フィルム弛緩搬送部34の変形例1>
図2および図3に示すフィルム弛緩搬送部34の変形例1について説明する。図5は、変形例1のフィルム弛緩搬送部34Aの構成を側方から示す概略模式図である。図6は、変形例1のフィルム弛緩搬送部34Aの構成を上方から示す概略模式図である。図5および図6に示すフィルム弛緩搬送部34Aを備えた製造装置は、主に、上記(D)工程が上記(D-1)工程を含む製造方法に使用される。
【0097】
図5および図6に示すように、フィルム弛緩搬送部34Aは、押え機構50を備えた点が、図2および図3に示す構成と異なる。押え機構50は、搬送ローラー部42と押圧用ピンニングロール45との間に配されている。押え機構50は、ゲルフィルム10の幅方向の両端に対して一定周期で下方から押さえるように構成されている。また、図6に示すように、押え機構50は、ゲルフィルム10の幅方向の2つの端部それぞれに対応して、2つ設けられている。
【0098】
押え機構50により、ゲルフィルム10をピンシート20に固定することにより、ゲルフィルム10は、複数のピン21間で弛みが生じる。したがって、ゲルフィルム10は、ピンシート20によって、MD方向の弛緩状態を保持しながら、幅方向(TD方向)の両端部が固定されることになる。
【0099】
図5および図6に示すように、押え機構50は、弛緩用ピンニングリング51と、連結シャフト52と、回転カムローラー53と、当該回転カムローラー53を駆動する駆動モータ54と、ガイドレール55と、を備えている。回転カムローラー53は、弛緩用ピンニングリング51の上に配置されている。そして、連結シャフト52は、連結部53aを介して回転カムローラー53と回転可能に連結している。連結部53aは、回転カムローラー53の下端部に配されている。また、連結シャフト52の下端は、弛緩用ピンニングリング51と連結している。弛緩用ピンニングリング51は、連結シャフト52を介して、回転カムローラー53に連結している。
【0100】
押え機構50は、回転カムローラー53の回転に連動して、弛緩用ピンニングリング51を上下動する機構である。具体的には、駆動モータ54により回転カムローラー53が回転すると、連結部53aは、回転カムローラー53の円周方向に回る。そして、連結シャフト52は、回転カムローラー53の回転に連動して、円周運動する。そして、ガイドレール55により、当該連結シャフト52の円周運動が上下運動に矯正される。そして、この連結シャフト52の上下運動に連動して、弛緩用ピンニングリング51が上下動する。弛緩用ピンニングリング51は、回転カムローラー53の回転周期に合わせて、一定周期で、ゲルフィルム10を上方から押さえる。これにより、ゲルフィルム10は、曲面状に弛んだ状態でピンシート20に固定される。それゆえ、押え機構50によって、ゲルフィルム10は、MD方向の弛緩状態を保持しながら、幅方向(TD方向)の両端部が固定されることになる。
【0101】
ゲルフィルム10のMD方向の弛緩状態を保持する観点では、弛緩用ピンニングリング51の径は、20mm~100mmであることが好ましく、20mm~30mmであることがより好ましい。
【0102】
押え機構50によってピンシート20にて曲面状にピンニングされた後、ゲルフィルム10は、下流の押圧用ピンニングロール45によって曲面状の弛み部分が押圧される。これにより、ゲルフィルム10は、MD方向の弛緩状態を保持しながら、幅方向(TD方向)の両端部が固定される。
【0103】
<フィルム弛緩搬送部34の変形例2>
フィルム弛緩搬送部34Aの変形例2について説明する。図7は、変形例2のフィルム弛緩搬送部34Bの構成を側方から示す概略模式図である。図7に示すように、図7に示すフィルム弛緩搬送部34Bは、押え機構50Aの構成が、図5および図6に示すフィルム弛緩搬送部34Aと異なる。押え機構50Aは、ゲルフィルム10の幅方向の2つの端部それぞれに対応して、2つ設けられている(不図示)。
【0104】
押え機構50Aは、弛緩用ピンニングリング56と、駆動回転モータ57と、連結チェイン58と、を備えている。駆動回転モータ57は、弛緩用ピンニングリング56の上に配置されている。
【0105】
また、弛緩用ピンニングリング56は、ピンシート20上に接触しないように配置されている。すなわち、平面視(例えば図6と同じ方向から見た平面視)において、弛緩用ピンニングリング56は、ピンシート20の真上ではなく、ピンシート20を避けて配されている。平面視において、弛緩用ピンニングリング56は、ピンシート20に対して、mm単位(1mm~2mmの範囲)で離間して接触しないように配されている。弛緩用ピンニングリング56は、複数の棘部56aと、軸部56bと、を有している。棘部56aは、弛緩用ピンニングリング56の円周面に形成されている。また、弛緩用ピンニングリング56は、軸部56bを軸として回転するようになっている。
【0106】
連結チェイン58は、弛緩用ピンニングリング56の軸部56bと駆動回転モータ57との間を連結する部材である。連結チェイン58は、駆動回転モータ57の回転駆動に連動して、弛緩用ピンニングリング56の軸部56bと駆動回転モータ57との間を周回するように構成されている。
【0107】
押え機構50Aでは、上記連結チェイン58の上記周回運動に連動して、弛緩用ピンニングリング56が駆動回転モータ57と同じ方向に回転運動する。弛緩用ピンニングリング56がMD方向に回転すると、ゲルフィルム10は、棘部56aに引っ掛かりながらMD方向へ移動することになる。ゲルフィルム10は、ピンシート20に対して、MD方向に余分に移動して固定されることになる。それゆえ、ゲルフィルム10は、複数のピン21間で弛みが生じる。したがって、ゲルフィルム10は、ピンシート20によって、MD方向の弛緩状態を保持しながら、幅方向(TD方向)の両端部が固定されることになる。
【0108】
押え機構50Aによってピンニングされた後、ゲルフィルム10は、下流の押圧用ピンニングロール45によって押圧される。これにより、ゲルフィルム10は、一層、MD方向の弛緩状態を保持しながら、幅方向(TD方向)の両端部が固定される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、ローラーによる合成樹脂フィルムの製造全般に利用することができる。特に、ポリイミドフィルムを製造する場合、本発明は、ポリイミドフィルムを製造する分野に利用することができるだけでなく、さらには、これを用いたフレキシブルプリント基板、TAB、あるいは高密度記録媒体やその利用分野等、各種電子部品の製造に関わる分野に広くするにも応用することが可能である。
【符号の説明】
【0110】
10 ゲルフィルム
20 ピンシート
21 ピン
24 クリップ
30 合成樹脂フィルム
35 段階式焼成炉
43 駆動ロール
45 押圧用ピンニングロール
50、50A 押え機構
51、56 弛緩用ピンニングリング
53 回転カムローラー
100 製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7