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特開2024-71278演算装置、プログラム、演算システムおよび演算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071278
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】演算装置、プログラム、演算システムおよび演算方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/90 20170101AFI20240517BHJP
   E04F 11/17 20060101ALI20240517BHJP
   G06F 3/0481 20220101ALI20240517BHJP
【FI】
G06T7/90 D
E04F11/17 100Z
G06F3/0481
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182136
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴史
【テーマコード(参考)】
2E301
5E555
5L096
【Fターム(参考)】
2E301DD72
5E555AA28
5E555AA74
5E555BA02
5E555BA05
5E555BA06
5E555BA21
5E555BA83
5E555BB02
5E555BB05
5E555BB06
5E555BB21
5E555BC08
5E555BD01
5E555CA12
5E555CA24
5E555CA42
5E555CB02
5E555CB12
5E555DB53
5E555DC09
5E555DC35
5E555EA14
5E555EA19
5E555EA22
5E555FA00
5L096AA02
5L096AA06
5L096CA02
5L096DA02
5L096GA40
5L096GA51
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】段差部分での躓きおよび踏み外しの予防を十全化する。
【解決手段】推定装置(1)は、第1の箇所(P1)の色を数値で表現する第1の色表現値および第2の箇所(P2)の色を数値で表現する第2の色表現値から、第1の色ベクトル(VE1)および第2の色ベクトル(VE2)を生成するベクトル生成部(3)と、第1の色ベクトル(VE1)および第2の色ベクトル(VE2)に基づいて、段差(H)の視認性に対する評価を示す指標を算出する算出部(4)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さが異なる2つの面を含んで構成される段差を対象として、前記2つの面のうちの下側の面における第1の箇所の色を数値で表現する第1の色表現値、および前記2つの面のうちの上側の面における第2の箇所の色を数値で表現する第2の色表現値から、前記第1の箇所の色ベクトルである第1の色ベクトル、および前記第2の箇所の色ベクトルである第2の色ベクトルを生成する生成部と、
少なくとも前記第1の色ベクトルおよび前記第2の色ベクトルに基づき、前記段差の視認性に対する評価を示す指標を算出する算出部と、を備えた演算装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記第1の色ベクトルと前記第2の色ベクトルとの距離、および前記第1の色ベクトルと前記第2の色ベクトルとの成す角度の少なくとも一方を用いて、前記指標を算出する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記距離と前記角度とを乗じた第1の指標、または前記距離を前記角度で除した第2の指標のいずれか一方を、前記指標として算出する、請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記2つの面および前記2つの面を接続する接続領域における、前記第1の箇所および前記第2の箇所のそれぞれと異なる少なくとも1つ以上の特定箇所について、前記特定箇所の色を数値で表現する第3の色表現値から、前記特定箇所の色ベクトルである第3の色ベクトルを生成し、
前記算出部は、前記第1の色ベクトル、前記第2の色ベクトルおよび少なくとも1つ以上の前記第3の色ベクトルに基づき、前記指標を算出する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記第1の色ベクトルと、前記第2の色ベクトルと、少なくとも1つ以上の前記第3の色ベクトルと、が成す錐体の底面積および立体角を用いて、前記指標を算出する、請求項4に記載の演算装置。
【請求項6】
前記段差の視認性に対する評価として前記算出部が算出した前記指標と、前記段差の視認性に対する評価者による評価結果と、の関係を示すモデルを用いて、
前記段差とは異なる他の段差の視認性に対する評価として前記算出部が算出した指標に基づき、前記他の段差の視認性に対する前記評価者による評価結果を推定する推定部を備えた、請求項1~5のいずれか1項に記載の演算装置。
【請求項7】
請求項1に記載の演算装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記生成部および前記算出部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項1に記載の演算装置と、
前記第1の色表現値および前記第2の色表現値を取得して前記演算装置に送信する取得装置と、を備えた演算システム。
【請求項9】
高さが異なる2つの面を含んで構成される段差を対象として、前記2つの面のうちの下側の面における第1の箇所の色を数値で表現する第1の色表現値、および前記2つの面のうちの上側の面における第2の箇所の色を数値で表現する第2の色表現値から、前記第1の箇所の色ベクトルである第1の色ベクトル、および前記第2の箇所の色ベクトルである第2の色ベクトルを生成する生成ステップと、
前記生成ステップにて生成した少なくとも前記第1の色ベクトルおよび前記第2の色ベクトルに基づき、前記段差の視認性に対する評価を示す指標を算出する算出ステップと、を含む演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差の視認性に関する指標を算出する演算装置、プログラム、演算システムおよび演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2つ以上の床材が重なり合って形成された段、玄関および各種階段等での躓きおよび踏み外しを予防するための技術が研究開発されている。例えば、特許文献1には、踏み面に相当する部分が蹴上げ部に相当する部分と異なる色彩に着色されており、その色差が2以上である階段用長尺床仕上げ材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-193647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された階段用長尺床仕上げ材は、階段の段差部分での躓きおよび踏み外しを予防するための指標が色差のみとなっている。すなわち、特許文献1に開示された階段用長尺床仕上げ材は、段差部分での躓き等の予防のための指標において、照明の種類および配置、段差に生じる影ならびに自然光の各影響が考慮されていない。そのため、段差部分での躓き等を十分に予防できないという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、段差部分での躓き等を予防するための指標として、照明の種類および配置等の影響が考慮されたものを用いることで、段差部分での躓き等の予防を十全化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る演算装置は、高さが異なる2つの面を含んで構成される段差を対象として、前記2つの面のうちの下側の面における第1の箇所の色を数値で表現する第1の色表現値、および前記2つの面のうちの上側の面における第2の箇所の色を数値で表現する第2の色表現値から、前記第1の箇所の色ベクトルである第1の色ベクトル、および前記第2の箇所の色ベクトルである第2の色ベクトルを生成する生成部と、少なくとも前記第1の色ベクトルおよび前記第2の色ベクトルに基づき、前記段差の視認性に対する評価を示す指標を算出する算出部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る演算装置は、前記算出部は、前記第1の色ベクトルと前記第2の色ベクトルとの距離、および前記第1の色ベクトルと前記第2の色ベクトルとの成す角度の少なくとも一方を用いて、前記指標を算出してもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る演算装置は、前記算出部は、前記距離と前記角度とを乗じた第1の指標、または前記距離を前記角度で除した第2の指標のいずれか一方を、前記指標として算出してもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る演算装置は、前記生成部は、前記2つの面および前記2つの面を接続する接続領域における、前記第1の箇所および前記第2の箇所のそれぞれと異なる少なくとも1つ以上の特定箇所について、前記特定箇所の色を数値で表現する第3の色表現値から、前記特定箇所の色ベクトルである第3の色ベクトルを生成し、前記算出部は、前記第1の色ベクトル、前記第2の色ベクトルおよび少なくとも1つ以上の前記第3の色ベクトルに基づき、前記指標を算出してもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る演算装置は、前記算出部は、前記第1の色ベクトルと、前記第2の色ベクトルと、少なくとも1つ以上の前記第3の色ベクトルと、が成す錐体の底面積および立体角を用いて、前記指標を算出してもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る演算装置は、前記段差の視認性に対する評価として前記算出部が算出した前記指標と、前記段差の視認性に対する評価者による評価結果と、の関係を示すモデルを用いて、前記段差とは異なる他の段差の視認性に対する評価として前記算出部が算出した指標に基づき、前記他の段差の視認性に対する前記評価者による評価結果を推定する推定部を備えてもよい。
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る演算システムは、本発明の一態様に係る演算装置と、前記第1の色表現値および前記第2の色表現値を取得して前記演算装置に送信する取得装置と、を備える。
【0013】
前記の課題を解決するために、発明の一態様に係る演算方法は、高さが異なる2つの面を含んで構成される段差を対象として、前記2つの面のうちの下側の面における第1の箇所の色を数値で表現する第1の色表現値、および前記2つの面のうちの上側の面における第2の箇所の色を数値で表現する第2の色表現値から、前記第1の箇所の色ベクトルである第1の色ベクトル、および前記第2の箇所の色ベクトルである第2の色ベクトルを生成する生成ステップと、前記生成ステップにて生成した少なくとも前記第1の色ベクトルおよび前記第2の色ベクトルに基づき、前記段差の視認性に対する評価を示す指標を算出する算出ステップと、を含む。
【0014】
本発明の各態様に係る演算装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記演算装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記演算装置をコンピュータにて実現させる前記演算装置のプログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、第1の色ベクトルおよび第2の色ベクトルに基づいて算出された、段差の視認性に対する評価を示す指標を用いることで、段差部分での躓きおよび踏み外しの予防を十全化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態および第2実施形態に係る推定システムの機能的構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る推定システムの推定対象となる段の一例を示す図である。
図3】第1の色ベクトルおよび第2の色ベクトルの一例を示す図である。
図4】撮像装置と撮像対象との位置関係の一例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る推定方法の一例を示すフローチャートである。
図6】第1のデータベースの一例を示す図である。
図8】第2のデータベースの一例を示す図である。
図7】第1の指標と実際の主観評価との関係を示す第1のグラフである。
図9】第2の指標と実際の主観評価との関係を示す第2のグラフである。
図10】本発明の第2実施形態に係る推定システムの推定対象となる段の一例を示す図である。
図11】第1の色ベクトル、第2の色ベクトルおよび第3の色ベクトルの一例を示す図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る推定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態および第2実施形態について、図1図12を参照しつつ詳細に説明する。第1実施形態および第2実施形態では、本発明の一態様に係る演算装置の対象となる段として、2つの床材が重なり合って形成された段を例に挙げて説明する。なお、玄関の段、各種階段を構成する段等も、前述の演算装置の対象となる段として想定される。
【0018】
〔第1実施形態〕
<推定システムの構成>
図1図4を参照して、本発明の第1実施形態に係る推定システム100の構成について説明する。推定システム100は、主観評価を推定するためのシステムである。推定システム100が推定する主観評価は、推定対象となる段STの段差Hの視認性に対する評価者による評価結果である。本明細書における「評価者」は、段STを目視することにより、段差Hの視認性に対する主観的な評価を下す者である。本実施形態では、評価者は撮像画像に撮像された段STを目視するものとするが、段STを直接目視してもよい。
【0019】
図2に示すように、段差Hは、段STにおける高さが異なる2つの面を含んで構成される。具体的には、段差Hは、2つの面のうちの下側の面SF1と、2つの面のうちの上側の面SF2との高低差となる。
【0020】
図1に示すように、推定システム100は、情報処理装置10、サーバ20および撮像装置30で構成されている。
【0021】
(情報処理装置)
情報処理装置10は、各種情報の処理を実行可能な装置である。本実施形態では、情報処理装置10として、据え置き型のパーソナルコンピュータを例に挙げて説明する。情報処理装置10は、例えばタブレット端末であってもよいし、スマートフォンであってもよい。
【0022】
情報処理装置10は、入力部11、表示部12、記憶部13、通信部14および制御部15を備えている。入力部11は、各種操作を受け付けるインターフェースであり、本実施形態ではキーボードおよびマウスが入力部11となる。表示部12は、各種情報を表示する出力部であり、本実施形態ではモニタが表示部12となる。なお、情報処理装置10がタブレット端末またはスマートフォンの場合、情報処理装置10は入力部11と表示部12とが一体化したタッチパネルを備えていてもよい。
【0023】
記憶部13は、情報処理装置10が使用する各種情報を記憶する。記憶部13としては、例えばRAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクが挙げられる。通信部14は、情報処理装置10がサーバ20および撮像装置30のそれぞれと各種情報の送受信を行うための部である。
【0024】
制御部15は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)であり、情報処理装置10の各部を統括して制御する。また、制御部15は、情報処理装置10が具備する各種機能を実現するための処理を実行する。制御部15は、推定装置1(演算装置)を備えている。
【0025】
(推定装置)
推定装置1は、前述の主観評価を推定する装置であり、情報処理装置10内において制御部15の外部に備えられてもよい。推定装置1は、解析部2、ベクトル生成部3(生成部)、算出部4、モデル生成部5および推定部6を備えている。
【0026】
解析部2は、段STが撮像された撮像画像を解析して、第1の色表現値および第2の色表現値を特定する。解析部2による撮像画像の解析手法としては、RGB等色関数またはXYZ等色関数を用いる手法等の公知の手法が挙げられ、様々な手法を採用できる。
【0027】
第1の色表現値は、第1の箇所P1の色を数値で表現するパラメータである。第2の色表現値は、第2の箇所P2の色を数値で表現するパラメータである。図2に示すように、第1の箇所P1は下側の面SF1上の任意の箇所であり、第2の箇所P2は上側の面SF2上の任意の箇所である。評価者は、入力部11に入力操作すること等により、第1の箇所P1および第2の箇所P2を所定の面上において自由に設定できる。
【0028】
本実施形態では、解析部2は、第1の色表現値および第2の色表現値のそれぞれを加法混色法のRGB値で特定する。なお、解析部2は、第1の色表現値および第2の色表現値のそれぞれを例えば減法混色法のCMYK値で特定してもよい。あるいは、解析部2は、XYZ表色系、L*u*v*表色系、L*a*b*表色系等のいずれかの色表現値で、第1の色表現値および第2の色表現値のそれぞれを特定してもよい。
【0029】
ベクトル生成部3は、段差Hを対象として、第1の色表現値から図3に示すような第1の色ベクトルVE1を生成する。また、ベクトル生成部3は、段差Hを対象として、第2の色表現値から図3に示すような第2の色ベクトルVE2を生成する。第1の色ベクトルVE1は第1の箇所P1の色ベクトルであり、第2の色ベクトルVE2は第2の箇所P2の色ベクトルである。ベクトル生成部3による色ベクトルの生成手法としては、原点(0,0,0)を始点とし、第1の色表現値および第2の色表現値(本実施形態ではともにRGB値)を終点とする手法等の公知の手法が挙げられ、様々な手法を採用できる。
【0030】
算出部4は、少なくとも第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2に基づき、段差Hの視認性に対する評価を示す指標を算出する。本実施形態では、算出部4は、第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2に基づいて第1の指標または第2の指標のいずれか一方を指標として算出する。第1の指標は、図3に示す第1の色ベクトルVE1と第2の色ベクトルVE2との距離DIと、同じく図3に示す第1の色ベクトルVE1と第2の色ベクトルVE2との成す角度θと、を乗じて得られる指標である。第2の指標は、距離DIを角度θで除して得られる指標である。
【0031】
モデル生成部5は、段差Hの視認性に対する評価として算出部4が算出した指標と、主観評価との関係を示すモデル(図8および図9参照)を生成する。本実施形態では、モデル生成部5は、所定の種類数の段ST(図6および図7参照)のそれぞれに対応する、算出部4が算出した指標と実際の主観評価とのセットを用いて、モデルを生成する。
【0032】
「実際の主観評価」は、評価者が撮像画像に撮像された段STを目視したときの、段差Hの視認性に対する評価者による評価結果である。「所定の種類数」は、少なくとも実際の主観評価に近似すると言い得る評価精度の主観評価をモデルから得るのに必要な、段STの種類数である。ここで、段STの種類は、段STを構成する2つの床材における色、材質等の違いによって決まる。
【0033】
推定部6は、モデル生成部5によるモデル生成の対象となる段STの段差Hとは異なる、他の段差Hの視認性に対する評価として算出部4が算出した指標に基づき、他の段差Hの視認性に対する主観評価を推定する。ここで、「他の段差H」は、推定システム100の推定対象となる段STの段差Hのことを指す。つまり、推定部6が推定する主観評価が、推定システム100が推定する主観評価となる。
【0034】
(サーバ)
サーバ20は、情報処理装置10との間で送受信可能な通信装置である。サーバ20は、情報処理装置10と無線接続されていてもよいし、有線接続されていてもよい。図1に示すように、サーバ20は、記憶部21、通信部22および制御部23を備えている。
【0035】
記憶部21は、サーバ20が使用する各種情報を記憶する。また、記憶部21は、後述のデータベースDBを記憶する。通信部22は、サーバ20が情報処理装置10および撮像装置30との間で各種情報の送受信を行うための部である。制御部23は、サーバ20の各部を総括して制御する。また、制御部23は、サーバ20が具備する各種機能を実現するための処理を実行する。
【0036】
(撮像装置)
撮像装置30は、モデル生成部5によるモデル生成の対象となる段ST、および推定システム100の推定対象となる段STのそれぞれを撮像して、撮像画像を生成する装置である。本実施形態では、撮像装置30は、デジタルカメラであり、図4に示すように三脚に取り付けられて使用される。具体的には、下側の面SF1から撮像装置30の重心までの高さが1500mmとなり、かつ、接続面SF3から撮像装置30の重心までの水平方向の最短距離が1500mmとなるように、撮像装置30が三脚に取り付けられる。
【0037】
図2および図4に示すように、接続面SF3は、下側の面SF1と上側の面SF2(2つの面)とを接続する面である。段STを構成する2つの床材のうち、上側の床材における接続面SF3を含む側の端部が、段STの段差部分となる。
【0038】
ここで、段STが例えば非常階段の一段であれば、下側の面SF1と上側の面SF2とを接続する部分が開口している場合がある。このような場合、下側の面SF1と上側の面SF2とを接続するのは接続面SF3ではなく、開口部を有する部分から成る接続領域ということになる。
【0039】
なお、撮像装置30の段STに対する相対的位置は、本実施形態の例に限定されない。段STの色、大きさ、形状に応じて相対的位置を変更してもよいし、撮像装置30の種類、性能に応じて相対的位置を変更してもよい。また、撮像装置30は、カメラを内蔵したタブレット端末またはスマートフォンであってもよい。
【0040】
(変形例)
推定システム100の構成については、本実施形態の例以外にも様々な構成を採用し得る。例えば、推定装置1を構成する各部の一部または全部が、サーバ20または不図示の他の情報処理装置に備えられてもよい。推定装置1を構成する各部のすべてがサーバ20に備えられる場合、推定システム100はサーバ20と撮像装置30とで構成されてもよい。あるいは、データベースDBが記憶部13に記憶されてもよく、この場合、推定システム100は情報処理装置10と撮像装置30とで構成されてもよい。
【0041】
また例えば、解析部2が撮像装置30に備えられてもよい。解析部2を備えた撮像装置30は、第1の色表現値および第2の色表現値を取得して推定装置1に送信する取得装置として機能する。あるいは、撮像装置30に換えて、例えば色センサを推定システム100の構成要素としてもよい。この場合、色センサが前述の取得装置として機能することから、解析部2は不要となる。
【0042】
また例えば、推定システム100は、指標の算出までを実行し、モデルの生成および主観評価の推定を実行しなくてもよい。この場合、モデル生成部5および推定部6が不要になるとともに、推定システム100が、指標を算出するための演算システムとして機能する。
【0043】
<推定システムの主要処理>
図5図9を参照して、推定システム100の主要処理について説明する。まず、図5に示すフローチャートのステップS(以下、「S」と略記)11では、撮像装置30が、モデル生成部5によるモデル生成の対象となる段STを撮像して撮像画像を生成する。撮像装置30は、生成した撮像画像を、通信部22を介して情報処理装置10に送信する。
【0044】
次に、S12では、通信部14を介して撮像画像を受信した解析部2が、撮像画像を解析して第1の色表現値および第2の色表現値を特定する。そして、解析部2は、特定した第1の色表現値および第2の色表現値のそれぞれをベクトル生成部3に送信する。次に、S13では、ベクトル生成部3が、第1の色表現値から第1の色ベクトルVE1を生成するとともに第2の色表現値から第2の色ベクトルVE2を生成する(生成ステップ)。
【0045】
次に、S14では、算出部4が、距離DIおよび角度θを算出した上で第1の指標または第2の指標のいずれか一方を算出する(算出ステップ)。具体的には、算出部4は、距離DIと所定の基準値とを比較し、距離DIが所定の基準値以上であれば第1の指標を算出する。一方、距離DIが所定の基準値未満であれば、算出部4は第2の指標を算出する。所定の基準値は、評価者が任意に設定可能な値であり、記憶部13等に予め記憶されていてもよいし評価者が入力部11を介して値を入力してもよい。なお、「所定の基準値」の決定方法としては様々な方法を採用できる。例えば、一対比較法による評価により少なくとも有意な差がみられた距離を、「所定の基準値」としてもよい。
【0046】
算出部4は、算出した距離DIおよび角度θを、通信部14を介してサーバ20に送信する。また、算出部4は、算出した第1の指標または第2の指標のいずれか一方を、通信部14を介してサーバ20に送信する。通信部22を介してこれらの各データを受信したサーバ20は、受信した各データをデータベースDBに登録する。
【0047】
なお、算出部4は、第1の指標および第2の指標の両方を算出した上で、第1の指標の内容と第2の指標の内容とを総合考慮した総合指標を生成してもよい。また、算出部4は、距離DIのみを用いて指標を算出するものであってもよいし、角度θのみを用いて指標を算出するものであってもよい。さらには、算出部4は、算出した指標を「Aランク~Eランク」、「◎、○、△、×」、「良好、普通、不明瞭」等で表してもよい。つまり、算出部4によって算出される指標は、少なくとも第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2に基づくものあればどのようなものであってもよい。
【0048】
次に、S15では、算出部4が、第1の指標または第2の指標のいずれか一方の算出を終えた段STが所定の種類数に達したか否かを判定する。所定の種類数に達した場合(S15でYES)、推定システム100はS16の処理に進む。一方、所定の種類数に達していない場合(S15でNO)、推定システム100は再びS11以降の各処理を実行する。
【0049】
次に、S16では、モデル生成部5がモデルを生成する。具体的には、モデル生成部5は、所定の種類数の段STのそれぞれに対応する、算出部4が算出した指標と実際の主観評価とのセット(以下、「モデル生成用データセット」と称する)を、データベースDBから読み出す。
【0050】
ここで、算出部4が第1の指標を算出した場合、データベースDBは図6に示す第1の第1のデータベースDB1のようになる。一方、算出部4が第2の指標を算出した場合、データベースDBは図7に示す第2のデータベースDB2のようになる。
【0051】
本実施形態では、第1のデータベースDB1および第2のデータベースDB2は、ともにデータテーブル形式であり、段STの種類のレコード毎に、実際の主観評価、距離DI、角度θおよび指標がフィールドに格納されている。段STの種類のフィールドに格納されている「ア」から「キ」までの文字は、床材の種類を表す。具体的には、紙面向かって左側の文字が下側の面SF1を含む床材の種類を表し、紙面向かって右側の文字が上側の面SF2を含む床材の種類を表す。床材の種類は、数字、記号、ID等で表されてもよい。
【0052】
また本実施形態では、第1のデータベースDB1および第2のデータベースDB2に登録されている実際の主観評価は、「1.0」から「5.0」までの数値で表され、「0.1」の単位で評価の高低に差が付いている。
【0053】
実際の主観評価は次のようにして算出される。まず、評価者による入力部11への操作により、表示部12がすべての種類の段ST毎の撮像画像を表示する。表示部12は、所定の種類数の段ST毎の撮像画像を一括表示してもよいし、個別あるいは一部毎に表示してもよい。次に、複数人(人数は任意に変更可)の評価者のそれぞれが、表示部12に表示された撮像画像を目視して「段差Hの気付き易さ」を「1(最も気付き難い)」から「5(最も気付き易い)」までの5段階で評価する。最後に、複数人の評価者による各5段階評価を評価者の人数で除した平均値(少数第二位を四捨五入)を、実際の主観評価とする。
【0054】
前述の平均値の換わりに、例えばシェッフェの一対比較法によって得られる主効果を実際の主観評価としてもよい。また、算出部4が算出する指標と同様、実際の主観評価も「Aランク~Eランク」、「◎、○、△、×」、「良好、普通、不明瞭」等で表してもよい。
【0055】
なお、図6および図7に示す段STの種類数(9種類)はあくまで一例である。また、図6および図7に示す実際の主観評価、距離DI、角度θおよび指標の各値は、撮像装置30が本実施形態のように設置された場合(図4参照)に得られた値であり、撮像装置30の設置態様に応じて異なった値となり得る。
【0056】
推定システム100の主要処理が実行される前の段階では、第1のデータベースDB1または第2のデータベースDB2には、実際の主観評価しか登録されていない。つまり、実際の主観評価の算出は、主要処理の実行前に予め行われる。そして、主要処理の開始後、S11~S15の各処理が所定回数実行されることで、第1のデータベースDB1または第2のデータベースDB2のいずれか一方に、段STの種類毎の距離I、角度θおよび指標が順次登録される。
【0057】
第1のデータベースDB1からモデル生成用データセットを読み出した場合、モデル生成部5は、図8に示すような、算出部4が算出した第1の指標と実際の主観評価との関係を示す第1のグラフを生成する。一方、第2のデータベースDB2からモデル生成用データセットを読み出した場合、モデル生成部5は、図9に示すような、算出部4が算出した第2の指標と実際の主観評価との関係を示す第2のグラフを生成する。
【0058】
第1のグラフには第1の基準値K1が設定され、第2のグラフには第2の基準値K2が設定される。第1の基準値K1および第2の基準値K2は、ともに、実際の主観評価が「気付き易い段差H」であることを表す場合の下限値である。
【0059】
第1の基準値K1および第2の基準値K2は、評価者による入力部11からの数値入力により、段STの種類、評価者の年齢および視力等に応じて任意に設定されてもよい。あるいは、第1の基準値K1および第2の基準値K2は、記憶部13等に予め記憶されていてもよい。この場合、評価者が任意に設定した値が記憶されてもよいし、すべての種類の段STにおける実際の主観評価の平均値が記憶されてもよい。
【0060】
第1のグラフまたは第2のグラフのいずれか一方を生成したモデル生成部5は、生成したグラフを解析することにより、算出部4が算出した指標と実際の主観評価との間に存在する一定の関係性を特定する。
【0061】
図8に示すような第1のグラフを生成した場合、モデル生成部5は、図中の破線で囲まれた領域内において、算出部4が算出した第1の指標と実際の主観評価との関係を一次関数(正の傾き;図中の一点鎖線)で近似できることを特定する。そして、モデル生成部5は、前述の一次関数で表される近似式を、算出部4が算出した第1の指標と実際の主観評価との関係を示す第1のモデルMD1とする。
【0062】
一方、図9に示すような第2のグラフを生成した場合、モデル生成部5は、図中の破線で囲まれた領域内において、算出部4が算出した第2の指標と実際の主観評価との関係を一次関数(負の傾き;図中の一点鎖線)で近似できることを特定する。そして、モデル生成部5は、前述の一次関数で表される近似式を、算出部4が算出した第2の指標と実際の主観評価との関係を示す第2のモデルMD2とする。
【0063】
モデル生成部5は、生成した第1のモデルMD1または第2のモデルMD2のいずれか一方を推定部6に送信する。
【0064】
なお、推定装置1が、算出部4が算出した指標と実際の主観評価との関係を示すモデルを生成しなくてもよい。例えば、モデル生成部5がサーバ20に備わっていてもよい。また、モデルが推定システム100の主要処理の実行前に別装置で生成されており、記憶部13等に予め記憶されていてもよい。この場合、モデル生成部5およびS12~S16の各処理は不要となる。
【0065】
あるいは、モデル生成部5等が生成するモデルは、本実施形態のような一次関数で表される近似式でなくてもよい。モデル生成部5等は、例えば、推定システム100の推定対象となる段STの段差Hの視認性に対する評価としての指標を入力データとし、主観評価を出力データとする学習済みモデルを、近似式の換わりに生成してもよい。この学習済みモデルは、例えば、教師データを用いた公知の機械学習によって構築される。教師データは、所定の種類数の段ST(図6および図7参照)のそれぞれに対応する、例題データとしての算出部4が算出した指標と、正解データとしての実際の主観評価と、のデータセットで構成される。
【0066】
次に、S17では、撮像装置30が、推定システム100の推定対象となる段STを撮像して撮像画像を生成する。撮像装置30は、生成した撮像画像を、通信部22を介して情報処理装置10に送信する。次に、S18では、通信部14を介して撮像画像を受信した推定装置1が、推定システム100の推定対象となる段STの段差Hの視認性に対する評価としての指標を算出する。この指標を算出する処理の内容は、S12~S14の各処理の内容と同じである。S18の処理の終了後、算出部4は、算出した指標を推定部6に送信する。
【0067】
次に、S19では、推定部6が、第1のモデルMD1または第2のモデルMD2のいずれか一方を用いて主観評価を推定する。具体的には、推定部6は、第1のモデルMD1または第2のモデルMD2としての近似式に指標を代入して得られた数値を、主観評価と見做す。S19の処理が終了することにより、推定システム100の主要処理がすべて終了する。なお、制御部15は、第1のグラフ、第2のグラフおよび推定部6が推定した主観評価等を表示部12に表示させてもよい。
【0068】
<小括>
推定システム100によれば、算出部4が、照明の種類および配置、段差Hに生じる影ならびに自然光の各影響が表れ易い第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2に基づいて、指標を算出する。したがって、色差等を指標とする場合に比べて、実際の主観評価に近い内容を示す指標を得ることができる。これにより、算出部4の算出対象となった段STの利用者が指標を参考にすることで、段STにおける段差部分での躓きおよび踏み外しの予防を十全化できる。
【0069】
また、推定システム100によれば、算出部4が距離DIおよび角度θの少なくとも一方を用いて指標を算出する。距離DIおよび角度θは照明の種類および配置等の影響が表れ易いことから、実際の主観評価により近い内容を示す指標を得ることができ、ひいては段STにおける段差部分での躓き等の予防をより十全化できる。
【0070】
また、推定システム100によれば、算出部4が第1の指標または第2の指標のいずれか一方を指標として算出する。ここで、所定の種類数の段STが総じて距離DIが短い場合、距離DIのみを指標としたのでは段STの種類毎の指標に内容の差が出難くなる。このような場合、第1の指標を指標とすることで内容の差が出易くなり、段差Hの視認性に対する評価について、段STの種類毎の違いが明確になる。
【0071】
一方、所定の種類数の段STが総じて距離DIが長い場合、段STの種類によっては角度θが他の種類の段STと大きく異なる。このような場合、第2の指標を指標とすることで、距離DIのみを指標とした場合よりも段STの種類毎の指標に内容の差が出易くなる。これにより、段差Hの視認性に対する評価について、段STの種類毎の違いが明確になる。
【0072】
また、推定システム100によれば、推定対象となる段STの段差Hについて、算出部4が指標をモデルに適用するだけで主観評価を推定できる。これにより、評価者が実際に段差Hの視認性を評価しなくても、実際の主観評価に近い内容の推定結果を簡単に得ることができる。
【0073】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、第1実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0074】
<推定システムの構成>
図1図10および図11を参照して、本発明の第2実施形態に係る推定システム200の構成について説明する。図1に示すように、推定システム200は、推定装置1に換えて推定装置1aを備えている点において、本発明の第1実施形態に係る推定システム100と異なる。推定装置1aは、解析部2に換えて解析部2aを備え、ベクトル生成部3に換えてベクトル生成部3aを備え、算出部4に換えて算出部4aを備えている点において、本発明の第1実施形態に係る推定装置1と異なる。
【0075】
解析部2aは、段STが撮像された撮像画像を解析して、第1の色表現値、第2の色表現値および第3の色表現値を特定する。第3の色表現値は、第3の箇所P3の色を数値で表現するパラメータである。
【0076】
本実施形態では、図10に示すように、第3の箇所P3は接続面SF3上の任意の箇所である。但し、第3の箇所P3は、下側の面SF1における第1の箇所P1と異なる箇所であってもよいし、上側の面SF2における第2の箇所P2と異なる箇所であってもよい。あるいは、第3の箇所P3は、下側の面SF1と接続面SF3との境界であってもよいし、上側の面SF2と接続面SF3との境界であってもよい。つまり、第3の箇所P3は、段STの表面(2つの面および2つの面を接続する接続領域)における第1の箇所P1および第2の箇所P2のそれぞれと異なる箇所であれば、どの箇所であってもよい。また、解析部2aは、前述の三箇所の各色表現値に加えて、段STの表面における少なくとも1つ以上の特定箇所の色表現値を、第3の色表現値として特定してもよい。
【0077】
ベクトル生成部3aは、第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2に加えて、さらに、第3の箇所P3の第3の色表現値から図11に示す第3の色ベクトルVE3を生成する。なお、解析部2aが2つ以上の第3の色表現値を特定する場合、ベクトル生成部3は2つ以上の第3の色ベクトルVE3を生成する。つまり、ベクトル生成部3aは、段STの表面における、第1の箇所P1および第2の箇所P2のそれぞれと異なる少なくとも1つ以上の特定箇所について、該特定箇所の色を数値で表現する第3の色表現値から第3の色ベクトルVE3を生成するものであればよい。
【0078】
算出部4aは、第1の色ベクトルVE1、第2の色ベクトルVE2および第3の色ベクトルVE3に基づいて指標を算出する。本実施形態では、算出部4aは、指標として第3の指標または第4の指標のいずれか一方を算出する。
【0079】
第3の指標は、図11に示す底面積BAと、同じく図11に示す立体角Ωとを乗じて得られる指標である。底面積BAは、第1の色ベクトルVE1と、第2の色ベクトルVE2と、第3の色ベクトルVE3と、が成す錐体の底面積である。立体角Ωは、前述の錐体が成す立体角である。立体角Ωは、底面積BAの形状が全球体のときに最大値4π[sr]となる。第4の指標は、底面積BAを立体角Ωで除して得られる指標である。
【0080】
なお、算出部4aは、第3の指標および第4の指標の両方を算出した上で、第3の指標の内容と第4の指標の内容とを総合考慮した総合指標を生成してもよい。また、算出部4aは、第1の色ベクトルVE1、第2の色ベクトルVE2、および2つ以上の第3の色ベクトルVE3を用いて底面積BAおよび立体角Ωを算出してもよい。
【0081】
また、算出部4aは、底面積BAのみを用いて指標を算出するものであってもよいし、立体角Ωのみを用いて指標を算出するものであってもよい。さらには、算出部4aは、算出した指標を「Aランク~Eランク」、「◎、○、△、×」、「良好、普通、不明瞭」等で表してもよい。つまり、算出部4によって算出される指標は、第1の色ベクトルVE1、第2の色ベクトルVE2および少なくとも1つ以上の第3の色ベクトルVE3に基づくものあればどのようなものであってもよい。
【0082】
<推定システムの主要処理>
図12を参照して、推定システム200の主要処理について説明する。まず、図12に示すフローチャートのS21では、撮像装置30が、図5に示すフローチャートのS11の処理と同様の処理を実行する。
【0083】
次に、S22では、通信部14を介して撮像画像を受信した解析部2aが、撮像画像を解析して第1の色表現値、第2の色表現値および第3の色表現値を特定する。そして、解析部2aは、特定した前述の3つの色表現値をベクトル生成部3aに送信する。次に、S23では、ベクトル生成部3aが、第1の色表現値から第1の色ベクトルVE1を生成し、第2の色表現値から第2の色ベクトルVE2を生成し、第3の色表現値から第3の色ベクトルVE3を生成する。
【0084】
次に、S24では、算出部4aが、底面積BAおよび立体角Ωを算出した上で第3の指標または第4の指標のいずれか一方を算出する。具体的には、算出部4aは、底面積BAと所定の基準値とを比較し、底面積BAが所定の基準値以上であれば第3の指標を算出する。一方、底面積BAが所定の基準値未満であれば、算出部4aは第4の指標を算出する。
【0085】
算出部4aは、算出した底面積BAおよび立体角Ωを、通信部14を介してサーバ20に送信する。また、算出部4aは、算出した第3の指標または第4の指標のいずれか一方を、通信部14を介してサーバ20に送信する。通信部22を介してこれらの各データを受信したサーバ20は、受信した各データを不図示のデータベースに登録する。
【0086】
この不図示のデータベースは、算出部4aが第3の指標を算出した場合であれば、段STの種類のレコード毎に、実際の主観評価、底面積BA、立体角Ωおよび第3の指標がフィールドに格納された構成となる。一方、算出部4aが第4の指標を算出した場合であれば、前述のデータベースは、段STの種類のレコード毎に、実際の主観評価、底面積BA、立体角Ωおよび第4の指標がフィールドに格納された構成となる。
【0087】
次に、S25では、算出部4aが、第3の指標または第4の指標のいずれか一方の算出を終えた段STが所定の種類数に達したか否かを判定する。所定の種類数に達した場合(S25でYES)、推定システム200はS26の処理に進む。一方、所定の種類数に達していない場合(S25でNO)、推定システム200は再びS21以降の各処理を実行する。
【0088】
次に、S26では、モデル生成部5が、前述した不図示のデータベースを参照してモデルを生成する。具体的には、モデル生成部5は、前述のデータベースを参照して、算出部4が算出した第3の指標または第4の指標と、実際の主観評価との関係を示すグラフ(不図示)を生成する。そして、モデル生成部5は、生成したグラフを解析し、算出部4が算出した第3の指標または第4の指標と実際の主観評価との間に存在する一定の関係性を特定することにより、n次間数(n:1以上の自然数)で表される近似式等のモデルを生成する。モデル生成部5は、生成したモデルを推定部6に送信する。
【0089】
次に、S27では、撮像装置30が、図5に示すフローチャートのS17の処理と同様の処理を実行する。次に、S28では、通信部14を介して撮像画像を受信した推定装置1aが、推定システム200の推定対象となる段STの段差Hの視認性に対する評価としての指標を算出する。この指標を算出する処理の内容は、S22~S24の各処理の内容と同じである。
【0090】
次に、S29では、推定部6が、不図示のモデルに指標を代入して得られた数値を主観評価と見做すことにより、主観評価を推定する。S29の処理が終了することにより、推定システム200の主要処理がすべて終了する。
【0091】
<小括>
推定システム200によれば、算出部4aが、第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2のみならず、少なくとも1つ以上の第3の色ベクトルVE3に基づいて指標を算出する。したがって、第1の色ベクトルVE1および第2の色ベクトルVE2に基づいて指標を算出する場合に比べて、実際の主観評価により近い内容を示す指標を得ることができる。これにより、算出部4aの算出対象となった段STの利用者が指標を参考にすることで、段STにおける段差部分での躓き等の予防をより十全化できる。
【0092】
また、推定システム200によれば、算出部4aが底面積BAおよび立体角Ωを用いて指標を算出する。ここで、底面積BAおよび立体角Ωは、照明の種類および配置、段差Hに生じる影ならびに自然光の各影響が距離DIおよび角度θよりも表れ易い。したがって、距離DIおよび角度θを用いて指標を算出する場合に比べて、実際の主観評価により近い内容を示す指標を得ることができる。
【0093】
〔推定システムが推定した主観評価の利用例〕
推定システム100および200が推定した各主観評価(推定結果)は、様々な場面での利用が想定される。例えば、床材メーカのホームページ、ECサイトにおいて製品のカラーバリエーション、カラーシミュレーション等を表示する際に、製品毎の推定結果を併せて表示することが想定される。また例えば、段STを所定の照明機器で照らした場合における段差Hの見え方をシミュレートするシミュレーションソフトにおいて、推定結果の表示制御を可能とすることが想定される。
【0094】
また例えば、BIM(Building Information Modeling)、建築設計CAD等を用いた建築デザインのシミュレーション結果を表示する際に、シミュレーションの対象となった段STに関する推定結果を併せて表示することが想定される。また例えば、床材メーカの製品開発において床材のカラーバリエーション展開を検討する際、あるいは照明機器メーカの製品開発において照明光のカラーバリエーション展開を検討する際に、推定結果を参考にすることが想定される。さらには、照明機器に内蔵された調光制御装置が、推定システム100または200から受信した推定結果に基づいて調光することが想定される。
【0095】
〔ソフトウェアによる実現例〕
推定装置1および1a(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0096】
この場合、前記装置は、前記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前記プログラムを実行することにより、前記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0097】
前記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して前記装置に供給されてもよい。
【0098】
また、前記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより前記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0099】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
1、1a 推定装置(演算装置)
3、3a ベクトル生成部(生成部)
4、4a 算出部
6 推定部
30 撮像装置(取得装置)
100、200 推定システム(演算システム)
BA 底面積
DI 距離
H 段差
MD1 第1のモデル(モデル)
MD2 第2のモデル(モデル)
P1 第1の箇所
P2 第2の箇所
P3 第3の箇所(特定箇所)
SF1 下側の面
SF2 上側の面
SF3 接続面(接続領域)
VE1 第1の色ベクトル
VE2 第2の色ベクトル
VE3 第3の色ベクトル
θ 角度
Ω 立体角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12