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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071279
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】物体検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/537 20060101AFI20240517BHJP
   G01S 15/34 20060101ALI20240517BHJP
   G01S 15/931 20200101ALN20240517BHJP
【FI】
G01S7/537
G01S15/34
G01S15/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182137
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】野村 卓也
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB12
5J083AB13
5J083AC11
5J083AC29
5J083AD04
5J083AD13
5J083AF05
5J083BA03
5J083BA10
5J083BE08
5J083BE12
5J083BE53
5J083CA01
5J083CA10
(57)【要約】
【課題】符号の判定精度がよりいっそう向上した物体検知装置を提供すること。
【解決手段】物体検知装置(10)は、送信信号生成部(12)と相関信号生成部(134)と信号判定部(14)とを備える。送信信号生成部は、時間とともに周波数が変化する送信信号を複数種類生成することができ、送信信号の周波数変化態様に基づいて周波数変調された超音波である探査波を送信する送信部(111)に複数種類の送信信号のうちの一つを出力する。相関信号生成部は、参照信号と受信信号との相関を示す相関信号を生成する。相関信号生成部は、複数種類の送信信号に対応して、複数設けられる。信号判定部は、相関信号に基づいて、受信波が探査波の周波数変調態様に対応する周波数変化態様を有しているか否かの判定である信号判定を実行する。信号判定部は、複数の相関信号の比較により、信号判定を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体検知装置(10)であって、
時間とともに周波数が変化する送信信号を複数種類生成することができ、前記送信信号の周波数変化態様に基づいて周波数変調された超音波である探査波を送信する送信部(111)に、複数種類の前記送信信号のうちの一つを出力する、送信信号生成部(12)と、
前記送信信号に対応する参照信号と、受信部(112)が受信した超音波である受信波に応じて出力した受信信号との相関を示す相関信号を生成する、相関信号生成部(134)と、
前記相関信号に基づいて、前記受信波が前記探査波の周波数変調態様に対応する周波数変化態様を有しているか否かの判定である信号判定を実行する、信号判定部(14)と、
を備え、
前記相関信号生成部は、複数種類の前記送信信号に対応して、複数設けられ、
前記信号判定部は、複数の前記相関信号の比較により、前記信号判定を実行する、
物体検知装置。
【請求項2】
複数種類の前記送信信号は、第一送信信号と第二送信信号とを含み、
前記第一送信信号と前記第二送信信号とのうち、一方は周波数が単調増加し、他方は周波数が単調減少し、
前記相関信号生成部は、前記第一送信信号に対応する前記参照信号と前記受信信号との相関を示す前記相関信号と、前記第二送信信号に対応する前記参照信号と前記受信信号との相関を示す前記相関信号とを生成する、
請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記第一送信信号における周波数帯域と、前記第二送信信号における周波数帯域とは、一部が重複し残部が重複しないように設定された、
請求項2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記受信信号を振幅信号に変換する、振幅信号生成部(132)をさらに備え、
前記信号判定部は、前記振幅信号に基づいて設定した時間範囲である符号判定範囲における複数の前記相関信号を比較することで、前記信号判定を実行する、
請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記信号判定部は、前記振幅信号が上昇して所定の振幅閾値に達した時点での前記振幅信号の変化率に基づいて、前記符号判定範囲を設定する、
請求項4に記載の物体検知装置。
【請求項6】
前記振幅信号の判定のための閾値である振幅閾値と、前記相関信号の判定のための閾値である相関閾値とで、異なった値を使用する、
請求項4に記載の物体検知装置。
【請求項7】
前記振幅信号生成部は、前記受信信号を第一フィルタ部(135)によってフィルタ処理した信号に基づいて前記振幅信号を生成し、
前記相関信号生成部は、前記受信信号を第二フィルタ部(136)によってフィルタ処理した信号に基づいて前記相関信号を生成し、
前記第一フィルタ部と前記第二フィルタ部とで、Q値が異なる、
請求項4に記載の物体検知装置。
【請求項8】
前記信号判定部は、前記送信信号の信号長に基づいて、前記符号判定範囲の時間幅を設定する、
請求項4に記載の物体検知装置。
【請求項9】
前記信号判定部は、前記相関信号から前記受信信号の振幅の影響を除した正規化相関信号に基づいて、前記信号判定を実行する、
請求項1~8のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項10】
前記信号判定部は、前記信号判定に用いられる少なくとも前記相関信号を生成するために用いられるフィルタ処理および相関演算で発生するディレイを補正した後、前記信号判定を実行する、
請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項11】
前記送信信号は、線形チャープ信号である、
請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項12】
前記参照信号は、前記送信信号よりも狭い周波数帯域で設定された、
請求項1に記載の物体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された物体検知装置は、送波部と、受波部と、周波数一致度算出部と、振幅ピーク検出部と、距離判定部とを備えている。送波部は、周波数が時間の経過とともに所定のパターンで変化する超音波を、探査波として送信する。受波部は、超音波を受信する。周波数一致度算出部は、受信波の周波数と所定のパターンとの一致度を算出する。振幅ピーク検出部は、受信波の振幅のピークを検出する。具体的には、例えば、振幅ピーク検出部は、受信波の振幅の傾きと所定の傾き閾値とを比較することにより、受信波の振幅のピークを検出する。距離判定部は、周波数一致度算出部が算出した一致度、および、振幅ピーク検出部による振幅のピークの検出結果に基づいて、物体との距離を判定する。
【0003】
探査波に含まれる周波数のパターンが反射波に現れるのは、反射波の振幅がある程度大きくなったときである。したがって、特許文献1に記載された物体検知装置は、周波数の一致度と振幅のピークの検出結果とに基づいて物体との距離を判定することにより、物体の検知精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7000981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の物体検出装置において、符号判定精度、すなわち、今回の受信波が自己の送信した探査波の物体による反射波であるかの判定精度を、可能な限り向上することが求められている。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、符号判定の精度がよりいっそう向上した物体検知装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の物体検知装置(10)は、
時間とともに周波数が変化する送信信号を複数種類生成することができ、前記送信信号の周波数変化態様に基づいて周波数変調された超音波である探査波を送信する送信部(111)に、複数種類の前記送信信号のうちの一つを出力する、送信信号生成部(12)と、
前記送信信号に対応する参照信号と、受信部(112)が受信した超音波である受信波に応じて出力した受信信号との相関を示す相関信号を生成する、相関信号生成部(134)と、
前記相関信号に基づいて、前記受信波が前記探査波の周波数変調態様に対応する周波数変化態様を有しているか否かの判定である符号判定を実行する、信号判定部(14)と、
を備え、
前記相関信号生成部は、複数種類の前記送信信号に対応して、複数設けられ、
前記信号判定部は、複数の前記相関信号の比較により、前記符号判定を実行する。
【0007】
なお、出願書類の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付される場合がある。しかしながら、かかる参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を、単に示すものにすぎない。よって、本発明は、上記の参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態に係る物体検知装置の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図2A図1に示された送信信号生成部から出力される送信信号の一例を示すグラフである。
図2B図1に示された送信信号生成部から出力される送信信号の他の一例を示すグラフである。
図2C図1に示された送信信号生成部から出力される送信信号のさらに他の一例を示すグラフである。
図3図1に示された相関信号生成部にて用いられる参照信号の一例を示すグラフである。
図4図1に示された信号判定部による符号判定の一例を示すタイムチャートである。
図5図1に示された信号判定部による符号判定の一例を示すフローチャートである。
図6A図4に示された符号判定範囲の決定手法の別例を図6Bとともに示すタイムチャートである。
図6B図4に示された符号判定範囲の決定手法の別例を図6Aとともに示すタイムチャートである。
図7図4に示された符号判定範囲の決定手法の他の別例を示すタイムチャートである。
図8A図4に示された符号判定範囲の決定手法のさらに他の別例を示すタイムチャートである。
図8B図4に示された符号判定範囲の決定手法のさらに他の別例を示すタイムチャートである。
図8C図4に示された符号判定範囲決定手法のさらに他の別例を示すタイムチャートである。
図9図1に示された信号判定部による符号判定手法の別例を示すタイムチャートである。
図10図1に示された信号判定部による符号判定手法の別例を示すフローチャートである。
図11】本発明の第二実施形態に係る物体検知装置の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図12】本発明の第三実施形態に係る物体検知装置の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図13図12に示された信号判定部による符号判定手法の一例を示すタイムチャートである。
図14図12に示された信号判定部による符号判定手法の一例を示すフローチャートである。
図15図12に示された信号判定部による符号判定手法の別例を示すタイムチャートである。
図16図12に示された信号判定部による符号判定手法の別例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例は、実施形態の説明の後にまとめて記載する。
【0010】
(第一実施形態:構成)
図1は、第一実施形態に係る物体検知装置10の概略構成を示す。図1を参照すると、物体検知装置10は、車両等の移動体に搭載されることで、当該移動体の周囲に存在する物体Bを検知するように構成されている。ここで、物体検知装置10の検知対象である物体Bは、物体検知装置10を搭載する移動体の移動の障害となり得る有形物であって、「障害物」や「障害物候補物体」や「物標」とも称され得る。また、物体Bを「検知する」とは、少なくとも物体Bすなわち障害物の存在を検知することをいい、物体Bまでの距離の測定や、物体Bの種別(例えば、歩行者、他車両、建造物、等。)や形状の判定等を行うことも含み得るものとする。例えば、物体Bまでの距離の有効な測定値が取得されていることは、かかる測定値に対応する物体Bの存在を示すこととなり得る。したがって、例えば、物体検知装置10が、物体Bまでの距離を測定して自車両に搭載された不図示の外部装置に出力するものであって、かかる出力には物体Bの存否を直接的に表す情報が含まれない場合であっても、かかる物体検知装置10は、物体Bを「検知する」装置であると云い得る。物体Bの「存否を直接的に表す情報」とは、例えば、物体Bが所定の検知範囲内に存在する場合には「1」や「HI」となる一方で存在しない場合には「0」や「LO」となるような、信号またはデータである。物体Bの種別や形状の判定についても同様であり、これらが有効に判定されていることは、かかる判定結果に対応する物体Bの存在を示すこととなり得る。
【0011】
本実施形態においては、移動体は、車両、具体的には自動車であるものとする。また、物体検知装置10を搭載した車両を、以下「自車両」と称する。物体検知装置10は、自車両の外部空間に超音波である探査波を送信するとともに、かかる外部空間に存在する物体Bによる探査波の反射波を含む受信波を受信することで、かかる反射波を反射した物体Bを検知するように構成されている。「受信波」は、物体Bによる探査波の反射波の他に、ノイズや混信を含み得る。「混信」は、自車両に搭載された物体検知装置10とは異なる他装置から送信された超音波を含み、典型的には、他車両に搭載された同種の装置からの探査波や、かかる探査波の建造物外壁等による反射波である。物体検知装置10は、送受信部11と、送信信号生成部12と、受信信号処理部13と、信号判定部14と、制御部15とを備えている。以下、物体検知装置10における各部の構成について説明する。
【0012】
送受信部11は、探査波の送信および受信波の受信を行うための構成要素であって、送信部111と受信部112とを備えている。送信部111は、送信信号生成部12から入力された送信信号STに対応して周波数変調された超音波である探査波を、自車両の外部空間に送信可能に設けられている。受信部112は、超音波である受信波を受信するとともに、かかる受信波の受信状態(すなわち受信強度や周波数等)に応じた受信信号SDを生成して受信信号処理部13に出力するように構成されている。本実施形態においては、送受信部11は、いわゆる「送受信一体型」の構成を有している。すなわち、送信部111は、超音波の発信機能および受信機能を有する一つのトランスデューサ113と、かかるトランスデューサ113に電気接続された送信回路114とを備えている。また、受信部112は、送信部111と共通の一つのトランスデューサ113と、かかるトランスデューサ113に電気接続された受信回路115とを備えている。トランスデューサ113は、圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子を内蔵し、所定の共振周波数を有する、いわゆる共振型の超音波マイクロフォンとしての構成を有している。
【0013】
送信回路114は、入力された送信信号STに基づいてトランスデューサ113を駆動することで、トランスデューサ113にて超音波帯域の探査波を発信させるように設けられている。具体的には、送信回路114は、トランスデューサ113を駆動するための駆動信号を送信信号STに基づいて生成するための、デジタル/アナログ変換回路やドライバ回路等の回路構成を有している。すなわち、送信回路114は、送信信号生成部12から出力された送信信号STに対してデジタル/アナログ変換等の処理を施し、これにより生成された交流電圧である駆動信号すなわち駆動電圧をトランスデューサ113に印加するように構成されている。受信回路115は、トランスデューサ113における受信波の受信結果に対応する受信信号SDを生成するとともに、生成した受信信号SDを受信信号処理部13に出力するように設けられている。具体的には、受信回路115は、受信波の受信によりトランスデューサ113にて発生した交流電圧である素子発生電圧を受信信号SDに変換するための、増幅回路やアナログ/デジタル変換回路等の回路構成を有している。すなわち、受信回路115は、トランスデューサ113から入力された電圧信号である素子発生電圧に対して、増幅やアナログ/デジタル変換等の信号処理を行うことで、受信波の周波数および振幅に応じた受信信号SDを生成および出力するように構成されている。
【0014】
送信信号生成部12は、時間とともに周波数が変化する送信信号STを生成して送信部111に出力するように設けられている。すなわち、送信信号生成部12は、所定の周波数範囲内の任意の周波数の交流信号(例えばパルス状信号)を周波数可変に生成可能な発信回路等の回路構成を有している。本実施形態においては、送信信号生成部12は、周波数の変化態様が異なる複数種類の送信信号STを生成可能であって、かかる複数種類の送信信号STのうちの一つを送信部111に出力するように構成されている。具体的には、送信信号生成部12は、図2A等に示されているように、周波数が増加する特徴を有するアップ送信信号ST1と、周波数が減少する特徴を有するダウン送信信号ST2とを生成および出力可能に構成されている。図2A等において、横軸tは時間を示し、縦軸fは周波数を示す。アップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2とのうちの一方が「第一送信信号」に相当し、他方が「第二送信信号」に相当する。すなわち、送信信号生成部12が生成および出力可能な送信信号STには、アップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2とが含まれている。本実施形態においては、送信信号生成部12は、アップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2とのいずれか一方を選択的すなわち択一的に生成および出力するように構成されている。以下、説明の簡素化のため、アップ送信信号ST1が「第一送信信号」に相当し、ダウン送信信号ST2が「第二送信信号」に相当するものとする。しかしながら、後述するように、本発明が、かかる態様に限定されるべきものではないことは、云うまでもなく明白である。
【0015】
例えば、図2Aに示されているように、アップ送信信号ST1およびダウン送信信号ST2は、周波数が曲線的且つ連続的に変化する信号として設定され得る。この場合、アップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2とは、周波数の変化態様が図中上下反転した関係に設定されている。すなわち、アップ送信信号ST1における周波数の時間経過に伴う上昇態様と、ダウン送信信号ST2における周波数の時間経過に伴う低下態様とは、一致するように設定されている。具体的には、アップ送信信号ST1は、時間とともに所定の下限周波数fdから所定の上限周波数fuに向かって周波数が増加するとともに、周波数増加量が時間とともに増加するように設定されている。一方、ダウン送信信号ST2は、時間とともに上限周波数fuから下限周波数fdに向かって周波数が減少するとともに、周波数減少量が時間とともに増加するように設定されている。そして、開始時点すなわちt=0の時点からの経過時間が同じである場合に、アップ送信信号ST1の傾きすなわち単位時間あたりの周波数増加量と、ダウン送信信号ST2の傾きすなわち単位時間あたりの周波数減少量とは、同一となるように設定されている。図2Aに示されている中心周波数fcは、下限周波数fdと上限周波数fuとの中間値すなわち平均値であって、典型的には共振周波数である。アップ送信信号ST1の波形と、ダウン送信信号ST2の波形とは、中心周波数fcにて交点を有するように設定されている。
【0016】
あるいは、例えば、図2Bに示されているように、アップ送信信号ST1およびダウン送信信号ST2は、周波数が直線的に変化する、いわゆる線形チャープ信号として設定され得る。この場合、アップ送信信号ST1は、時間とともに下限周波数fdから上限周波数fuに向かって周波数が直線的に増加するように設定されている。一方、ダウン送信信号ST2は、時間とともに上限周波数fuから下限周波数fdに向かって周波数が直線的に減少するように設定されている。そして、アップ送信信号ST1の傾きすなわち単位時間あたりの周波数増加量と、ダウン送信信号ST2の傾きすなわち単位時間あたりの周波数減少量とは、絶対値が同一で符号すなわち正負が逆となるように設定されている。このように、図2Bの例においても、図2Aの例と同様に、アップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2とは、周波数の変化態様が図中上下反転した関係に設定されている。また、アップ送信信号ST1の波形と、ダウン送信信号ST2の波形とは、中心周波数fcにて交点を有するように設定されている。
【0017】
ここで、図2Aおよび図2Bに示されている送信信号STの例においては、アップ送信信号ST1における周波数帯域(すなわちfd~fu)と、ダウン送信信号ST2における周波数帯域とは、一致するように設定されている。これに対し、例えば、図2Cに示されているように、アップ送信信号ST1およびダウン送信信号ST2は、いわゆるシフトチャープ信号として設定され得る。この場合、アップ送信信号ST1における周波数帯域と、ダウン送信信号ST2における周波数帯域とは、一部が重複し残部が重複しないように設定されている。具体的には、図2Cの例では、アップ送信信号ST1は、時間とともに下限周波数fdから上側中間周波数fmuに向かって周波数が直線的に増加するように設定されている。上側中間周波数fmuは、上限周波数fuと中心周波数fcとの間の周波数である。一方、ダウン送信信号ST2は、時間とともに上限周波数fuから下側中間周波数fmdに向かって周波数が直線的に減少するように設定されている。下側中間周波数fmdは、下限周波数fdと中心周波数fcとの間の周波数である。上側中間周波数fmuと下側中間周波数fmdとは、両者の中間値すなわち平均値が中心周波数fcとなるように設定され得る。そして、重複する周波数帯域部分は、中心周波数fc付近(すなわちfmd~fmu)に設けられている。
【0018】
再び図1を参照すると、受信信号処理部13は、受信回路115から出力された受信信号SDに対してフィルタ処理等の各種の信号処理を実行することで振幅信号SAおよび相関信号を生成して信号判定部14に出力するように構成されている。受信信号処理部13は、プログラムの実行により所定の機能を奏するCPU等を備えた車載マイクロコンピュータ、および/または、フィルタ処理等の所定の処理機能を奏するように構成されたハードウエア回路としての構成を有している。具体的には、受信信号処理部13は、フィルタ部131と、振幅信号生成部132と、参照信号出力部133と、相関信号生成部134とを備えている。
【0019】
フィルタ部131は、受信信号SDに対してフィルタ処理(例えばバンドパスフィルタ処理)を実行して、フィルタ処理後の受信信号SDであるフィルタ処理後信号SFを振幅信号生成部132および相関信号生成部134に出力するように構成されている。振幅信号生成部132は、フィルタ処理後信号SFを振幅信号SAに変換するように設けられている。「振幅信号SA」は、交流信号である受信信号SDすなわちフィルタ処理後信号SFにおける振幅の大きさ(例えば振幅の包絡線)を示す信号である。具体的には、振幅信号生成部132は、フィルタ処理後信号SFに基づいて、包絡検波等の周知の手法を用いて、振幅信号SAを生成して信号判定部14に出力するように構成されている。なお、直交検波後のI,Q信号(すなわち複素信号)の場合はローパスフィルタをかけることで、元信号にバンドパスフィルタをかけたのと同じ効果が得られる。
【0020】
参照信号出力部133は、相関信号生成部134における相関演算に用いる参照信号を相関信号生成部134に出力するように設けられている。「相関演算」とは、二つの信号の相関すなわち類似度、換言すれば、上記特許文献1における「一致度」に相当するものを算出することをいい、演算結果である相関信号は、値が大きければ相関すなわち類似度が高いことを示すものである。参照信号は、相関演算のために、受信信号SDすなわちフィルタ処理後信号SFにおける周波数特性と対照するための基準信号であって、送信信号STの周波数特性に対応する周波数特性を有している。すなわち、参照信号出力部133は、送信信号生成部12から出力された送信信号STに基づいて、相関信号生成部134に出力する参照信号を決定するように構成されている。具体的には、参照信号出力部133は、アップ送信信号ST1すなわち第一送信信号に対応して第一参照信号SR1を出力するとともに、ダウン送信信号ST2すなわち第二送信信号に対応して第二参照信号SR2を出力するようになっている。
【0021】
ここで、マイク特性すなわち送受信部11の周波数特性により送信信号ST=受信信号SDとはならないことを考慮し、本実施形態においては、図3に示されているように、参照信号は、送信信号STよりも狭い周波数帯域で設定されている。より詳細には、図3は、アップ送信信号ST1およびダウン送信信号ST2がともに線形チャープ信号である場合の、送信信号STと参照信号との対応関係を示す。図3において、左側の送信信号STは図2Bと同一であり、右側のSRは参照信号を示す。図3に示されているように、第一参照信号SR1は、アップ送信信号ST1における周波数特性の一部、具体的には中心周波数fcを中心としてアップ送信信号ST1における周波数帯域の略半分に対応する周波数帯域に設定されている。また、第一参照信号SR1は、アップ送信信号ST1における傾きすなわち単位時間あたりの周波数変化量と同一の傾きを有している。同様に、第二参照信号SR2は、ダウン送信信号ST2における周波数特性の一部、具体的には中心周波数fcを中心としてダウン送信信号ST2における周波数帯域の略半分に対応する周波数帯域に設定されている。また、第二参照信号SR2は、ダウン送信信号ST2における傾きと同一の傾きを有している。
【0022】
再び図1を参照すると、相関信号生成部134は、送信信号STに対応する参照信号とフィルタ処理後信号SFとの相関すなわち周波数特性の類似度を示す相関信号を生成するように設けられている。具体的には、相関信号生成部134は、フィルタ処理後信号SFに基づいて、周知の手法を用いて、相関信号を生成して信号判定部14に出力するように構成されている。相関信号生成部134は、受信信号SDすなわちフィルタ処理後信号SFと参照信号との相関処理演算のための相関フィルタ(例えばマッチドフィルタ)としての構成を有している。相関信号の生成、すなわち、相関算出の手法としては、例えば、複素受信信号を参照信号に基づいてベクトル回転し、加算する手法、等がある(例えば、特開2022-124824号公報等参照)。マッチドフィルタ等の相関フィルタは、本願の出願時点において既に周知技術となっている(例えば、特開2008-256568号公報等参照。)。よって、相関信号生成部134の構成、および、これによる相関信号算出手法のこれ以上の詳細については、説明を省略する。
【0023】
本実施形態においては、相関信号生成部134は、送信信号生成部12が生成および出力可能な複数種類の送信信号STに対応して、複数設けられている。すなわち、相関信号生成部134は、送信信号生成部12がN種類の送信信号STを生成および出力可能な構成を有している場合に、N個の相関フィルタを備えている。具体的には、送信信号生成部12がアップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2との二種類の送信信号STから一つを択一的に出力することに対応して、相関信号生成部134は、相関フィルタとしての第一相関信号生成部134aおよび第二相関信号生成部134bを有している。第一相関信号生成部134aは、アップ送信信号ST1に対応して設けられている。第二相関信号生成部134bは、ダウン送信信号ST2に対応して設けられている。これに対応して、参照信号出力部133は、第一参照信号SR1を第一相関信号生成部134aに出力するとともに、第二参照信号SR2を第二相関信号生成部134bに出力するようになっている。そして、第一相関信号生成部134aは、第一参照信号SR1とフィルタ処理後信号SFとの相関を示す第一相関信号SC1を生成して信号判定部14に出力するように構成されている。同様に、第二相関信号生成部134bは、第二参照信号SR2とフィルタ処理後信号SFとの相関を示す第二相関信号SC2を生成して信号判定部14に出力するように構成されている。
【0024】
信号判定部14は、相関信号生成部134が生成および出力した相関信号に基づいて、符号判定を実行するように設けられている。「符号判定」は、今回受信した受信波が、今回(すなわち当該受信波の受信の直前に)送信した探査波の周波数変調態様に対応する周波数変化態様を有しているか否かの判定である。換言すれば、符号判定は、物体検知装置10における受信部112にて今回受信した受信波が、当該物体検知装置10における送信部111から送信された探査波の物体Bによる反射波であるか否かの判定である。かかる判定がYESの場合、すなわち、物体検知装置10における受信部112にて今回受信した受信波が当該物体検知装置10における送信部111から送信された探査波の物体Bによる反射波である場合、当該受信波を、以下「正規波」と称する。これに対し、かかる判定がNOである場合を、以下「混信」と称する。信号判定部14は、プログラムの実行により所定の機能を奏するCPU等を備えた車載マイクロコンピュータ、および/または、所定の機能を奏するように構成されたハードウエア回路としての構成を有している。
【0025】
本実施形態においては、信号判定部14は、複数の相関信号の比較により、符号判定を実行するように構成されている。具体的には、信号判定部14は、送信信号生成部12が第一送信信号としてのアップ送信信号ST1を出力した場合、第一相関信号SC1が第二相関信号SC2よりも高い相関を示せば正規波であると判定する一方、低い相関を示せば混信であると判定するようになっている。
【0026】
より詳細には、信号判定部14は、振幅信号SAに基づいて設定された時間範囲である符号判定範囲における複数の相関信号を比較することで、符号判定を実行するように構成されている。具体的には、信号判定部14は、振幅信号SAに基づいて、符号判定範囲の始点および時間幅のうちの、少なくとも始点を決定するようになっている。そして、信号判定部14は、決定した符号判定範囲にて検出した、第一相関信号SC1の最大値と第二相関信号SC2の最大値との比較結果に基づいて、正規波であるか混信であるかを判定するようになっている。すなわち、信号判定部14は、送信信号STがアップ送信信号ST1である場合に、第一相関信号SC1の最大値の方が大きければ受信波が正規波であると判定する一方、第二相関信号SC2の最大値の方が大きければ混信であると判定するようになっている。同様に、信号判定部14は、送信信号STがダウン送信信号ST2である場合に、第二相関信号SC2の最大値の方が大きければ受信波が正規波であると判定する一方、第一相関信号SC1の最大値の方が大きければ混信であると判定するようになっている。
【0027】
制御部15は、物体検知装置10の全体の動作を制御するように設けられている。制御部15は、プログラムの実行により所定の機能を奏するCPU等を備えた車載マイクロコンピュータ、および/または、所定の機能を奏するように構成されたハードウエア回路としての構成を有している。また、制御部15は、自車両に搭載された不図示の外部装置と情報通信可能に電気接続されている。かかる外部装置は、例えば、物体検知装置10による物体検知結果を利用して自車両の運転制御を実行する電子制御装置(すなわち例えば自動運転ECU等)である。ECUはElectronic Control Unitの略である。制御部15は、符号すなわち送信部111に出力する送信信号STを設定すなわち選択するための設定信号や、探査波の送信の開始および停止を制御するための送信指示信号を、送信信号生成部12に出力するようになっている。また、制御部15は、信号判定部14から符号判定結果を受領するようになっている。そして、制御部15は、受領した符号判定結果に基づいて物体Bの検知結果に対応する検知信号を生成するとともに、かかる検知信号を上記の外部装置に向けて出力するようになっている。
【0028】
(第一実施形態:動作概要)
以下、本実施形態の構成の動作概要について、かかる構成により奏される効果とともに、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、本実施形態に係る物体検知装置10の装置構成と、これにより実行される物体検知方法やコンピュータプログラムとを総称して、単に「本実施形態」と称することがある。
【0029】
制御部15は、所定の物体検知条件が成立すると、設定信号および送信指示信号を送信信号生成部12に出力する。「所定の物体検知条件」は、例えば、自車両の運転状態(すなわちシフトポジションや車速等)を含む。すると、送信信号生成部12は、設定信号に基づいて、生成可能な複数種類の送信信号STのうちの一つを生成して、送信部111に出力する。送信部111は、入力された送信信号STの周波数変化態様に基づいて周波数変調された超音波である探査波を、自車両の外部空間に向けて送信する。探査波は、送信信号STに基づいて、周波数変調により符号化される。
【0030】
受信部112は、超音波である受信波を受信すると、かかる受信波の振幅および周波数に応じた信号である受信信号SDを生成して受信信号処理部13に出力する。受信信号処理部13において、フィルタ部131は、受信信号SDに対してフィルタ処理を実行して、フィルタ処理後信号SFを生成する。生成されたフィルタ処理後信号SFは、振幅信号生成部132および相関信号生成部134に入力される。振幅信号生成部132は、フィルタ処理後信号SFを振幅信号SAに変換して、かかる振幅信号SAを信号判定部14に出力する。相関信号生成部134は、参照信号出力部133から出力された参照信号とフィルタ処理後信号SFとの相関を示す相関信号を生成して信号判定部14に出力する。
【0031】
信号判定部14は、受信信号処理部13によって生成された振幅信号SAおよび相関信号に基づいて、符号判定を実行する。具体的には、信号判定部14は、振幅信号SAに基づいて、符号判定範囲を設定する。「符号判定範囲」とは、時間とともに値が変動する振幅信号SAや相関信号において、符号判定に用いる時間範囲、具体的には、符号判定に用いる値を検出あるいは抽出する時間範囲である。例えば、信号判定部14は、図4に示されているように、振幅信号SAが立ち上がって振幅閾値THAに達した時点tAを始点とする所定の時間幅Wを、符号判定範囲として設定する。本具体例においては、振幅閾値THAは、時間経過に応じて可変に設定されている。すなわち、振幅閾値THAは、低値にて一定に保持されてから高値に上昇して高値にて所定期間保持された後に低下する特性を有している。そして、信号判定部14は、設定した符号判定範囲における相関信号に基づいて、符号判定を実行する。
【0032】
ここで、例えば、符号判定範囲が反射波の中心から大きくずれてしまうと、符号判定を誤る可能性がある。かかる不具合は、典型的には、反射波の振幅が非常に大きくて振幅が飽和した場合や、複数の反射波により振幅信号波形が乱れた場合等に発生する。そこで、本実施形態においては、送信信号生成部12は、複数種類の送信信号STのうちの一つを選択的に出力するように設けられている。また、相関信号生成部134は、複数種類の送信信号STに対応して、複数設けられている。そして、信号判定部14は、相関信号生成部134が生成した複数の相関信号の比較により、符号判定を実行する。
【0033】
具体的には、図4に示されている例においては、振幅信号SAは、混信に対応する副振幅ピークPA1と、正規波に対応する主振幅ピークPA2とを有しているものとする。この場合、第一相関信号SC1は、副振幅ピークPA1に対応する第一副相関ピークPC11と、主振幅ピークPA2に対応する第一主相関ピークPC12とを有している。第一副相関ピークPC11は、相関閾値THCを超えないピークである。第一主相関ピークPC12は、相関閾値THCを超えるピークである。一方、第二相関信号SC2は、副振幅ピークPA1に対応する第二副相関ピークPC21と、主振幅ピークPA2に対応する第二主相関ピークPC22とを有している。第二副相関ピークPC21は、相関閾値THCを超えるピークである。第二主相関ピークPC22は、相関閾値THCを超えないピークである。この点、図4に示されているように、符号判定範囲は、第一副相関ピークPC11や第二副相関ピークPC21は含まない一方、第一主相関ピークPC12や第二主相関ピークPC22は含むように設定される。そして、設定された符号判定範囲においては、第一主相関ピークPC12が相関閾値THCを超える一方、第二主相関ピークPC22は相関閾値THCを超えない。すなわち、第一主相関ピークPC12>第二主相関ピークPC22である。そこで、この場合、信号判定部14は、第一主相関ピークPC12に対応する主振幅ピークPA2が正規波に対応する反射波によるものであると判定する。換言すれば、この場合、信号判定部14は、主振幅ピークPA2に対応する受信波が正規波であると判定する。
【0034】
図5は、上記の判定態様に対応するフローチャートを示す。かかる動作例においては、送信信号STは、第一送信信号すなわちアップ送信信号ST1であるものとする。また、図5のフローチャートにおいて、「S」は「ステップ」の略記である。後述する他のフローチャートにおいても同様である。
【0035】
図5を参照すると、まず、ステップ501にて、信号判定部14は、振幅信号SAの立ち上がり(すなわち図4に示されているtA)を検出する。次に、ステップ502にて、信号判定部14は、ステップ501にて検出した振幅信号SAの立ち上がりを基準として、符号判定範囲を設定する。続いて、ステップ503にて、信号判定部14は、ステップ502にて設定した符号判定範囲にて、相関信号のピークを検出する。具体的には、信号判定部14は、第一相関信号SC1におけるピークであるピーク1と、第二相関信号SC2におけるピークであるピーク2とを、符号判定範囲にて検出する。そして、ステップ504にて、信号判定部14は、ステップ503にて検出した複数の相関信号のピークを比較する。具体的には、信号判定部14は、ピーク1とピーク2との大小を比較する。ピーク1>ピーク2である場合(すなわちステップ504=YES)、信号判定部14は、ステップ505の処理を実行する。ステップ505にて、信号判定部14は、今回の受信波に含まれる符号は自符号であること、すなわち、今回の受信波は正規波であることを判定する。「自符号」とは、実際に送信された探査波に含まれる、符号すなわち周波数変調態様である。具体的には、例えば、アップ送信信号ST1の符号を「1」とし、ダウン送信信号ST2の符号を「0」とすると、今回実際に送信した探査波に対応する送信信号STがアップ送信信号ST1である場合、自符号は「1」である。一方、ピーク1<ピーク2である場合(すなわちステップ504=NO)、信号判定部14は、ステップ506の処理を実行する。ステップ506にて、信号判定部14は、今回の受信波に含まれる符号は自符号ではないこと、すなわち、今回の受信波は混信であることを判定する。
【0036】
このように、本実施形態においては、複数の送信信号ST(すなわち第一送信信号および第二送信信号)にそれぞれ対応する複数の相関信号(すなわち第一相関信号SC1および第二相関信号SC2)の比較により、符号判定を実行する。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上する。また、振幅信号SAの立ち上がりを基準に符号判定を実行することで、路面反射等の振幅が小さい受信波に起因する誤判定が良好に抑制され得る。さらに、図2Cに示されているような、いわゆるシフトチャープを用いることで、符号判定の精度がよりいっそう向上する。
【0037】
ところで、共振型の超音波マイクロフォンであるトランスデューサ113のマイク特性すなわち送受信部11の周波数特性によれば、送信信号ST=受信信号SDとはならない。すなわち、例えば、駆動信号の周波数が共振周波数から離れるほど、探査波における周波数の追従性が低下する。よって、送信信号STの周波数特性と、実際に発信される探査波における周波数特性との間には、偏差が生じる。よって、探査波の反射波に起因して発生する受信信号SDにおける周波数特性と、送信信号STの周波数特性との間にも、偏差が生じる。このため、送信信号STの周波数帯域は、マイク周波数帯域よりも広く設定され得る。「マイク周波数帯域」は、共振周波数における送受信部11の利得を0dbとしたときの、0~-3dBとなる周波数範囲である。この点、図3に示されているように、参照信号を補正して送信信号STよりも狭い周波数帯域で設定することで、符号判定の精度がよりいっそう向上する。
【0038】
また、フィルタ処理や相関演算においては、ディレイが発生する。すなわち、図4を参照すると、振幅信号SAの波形と、第一相関信号SC1の波形と、第二相関信号SC2の波形との間には、通常、時間軸に沿ったズレが生じ得る。そこで、信号判定部14は、符号判定に用いられる少なくとも相関信号を生成するために用いられるフィルタ処理および相関演算で発生するディレイを補正した後、符号判定を実行する。図4は、かかる補正によりディレイが補償された状態の波形同士の関係を示している。かかる補正は、例えば、実験や計算機シミュレーションを用いた適合試験によって得られた適合補正値を用いて行われ得る。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0039】
(第一実施形態:変形例1)
以下、上記第一実施形態に対して適用され得る一変形例について説明する。なお、以下の本変形例の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と本変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の本変形例の説明において、上記第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述の他の変形例や第二実施形態や第三実施形態等についても同様である。
【0040】
ステップ503におけるピーク検出において、相関閾値THC以上となるピークのみを検出してもよい。また、かかるピーク検出において、ピークがない場合は、符号判定範囲内における最大値が用いられる。この場合、検出する最大値は、相関閾値THC以上となる値のみであってもよい。ここで、振幅信号SAと相関信号とは、それぞれ、挙動が異なる。そこで、信号判定部14は、振幅信号SAの判定のための閾値である振幅閾値THAと、相関信号の判定のための閾値である相関閾値THCとで、異なった値を使用してもよい。具体的には、例えば、振幅閾値THAは、時間とともに変化するように設定され得る。これに対し、相関閾値THCは、時間とともに変化しない一定値として設定され得る。このように、振幅閾値THAと相関閾値THCとで、時間経過に伴う変化態様を変えることで、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0041】
また、送信信号STの信号長は、装置の仕様やシーン等に応じて変更され得る。そこで、本変形例においては、信号判定部14は、送信信号STの信号長すなわちパルス数に基づいて、符号判定範囲の時間幅Wを設定する。具体的には、図6Aは、信号長が長い場合(例えば64パルス)を示す。一方、図6Bは、信号長が短い場合(例えば16パルス)を示す。図6Aおよび図6Bを参照すると、符号判定範囲の時間幅Wは、信号長が短い場合よりも長い場合の方が広く(すなわち長く)設定される。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。なお、時間幅Wは、信号長が長い場合と短い場合との二段階、すなわち、信号長が所定値よりも長い場合の値と所定値以下の場合の値との選択により設定されてもよい。あるいは、時間幅Wは、信号長の長さに応じて複数段階で設定されてもよい。
【0042】
(第一実施形態:変形例3)
以下、他の変形例について、図1および図7を参照しつつ説明する。本変形例においては、符号判定範囲の始点は、振幅信号SAが立ち上がって振幅閾値THAに達した時点tAに対してシフトすなわち補正された時点tMに設定され得る。シフト量(すなわち補正量)であるΔt=tA-tMは、例えば、上記のディレイを考慮して、実験や計算機シミュレーションを用いた適合試験によって取得され得る。あるいは、Δtは、例えば、車速等の運転条件に応じて可変に設定され得る。あるいは、Δtは、例えば、後述するように、振幅信号SAが上昇して所定の振幅閾値THAに達した時点tAでの振幅信号SAの変化率(すなわち接線の傾き)に基づいて設定され得る。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0043】
(第一実施形態:変形例4)
以下、さらに他の変形例について、図1図8A図8B、および図8Cを参照しつつ説明する。本変形例においては、信号判定部14は、振幅信号SAが上昇して所定の振幅閾値THAに達した時点tAでの振幅信号SAの変化率dAに基づいて、符号判定範囲を設定する。具体的には、図8Aは、変化率dAが大きい場合を示す。一方、図8Bおよび図8Cは、変化率dAが小さい場合を示す。図8Aおよび図8Bに示されているように、符号判定範囲の時間幅Wは、変化率dAが小さい場合よりも大きい場合の方が広く(すなわち長く)設定され得る。なお、時間幅Wは、変化率dAが大きい場合と小さい場合との二段階で設定されてもよいし、複数段階で設定されてもよい。あるいは、図8Aおよび図8Cに示されているように、変化率dAが小さい場合、符号判定範囲が、時間軸における「手前側」すなわち時間を遡る側にシフトされ得る。時間幅Wの変化と時間シフトとは、いずれか一方のみが用いられ得る他、併用もされ得る。このように、変化率dAに基づいて符号判定範囲の時間幅Wやタイミングを設定することで、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0044】
(第一実施形態:変形例5)
以下、さらに他の変形例について、図1図9、および図10を参照しつつ説明する。なお、図9における相関信号のタイムチャートには、参考までに、振幅信号SAが点線で併記されている。本変形例においては、信号判定部14は、相関信号が上昇して相関閾値THCに達した時点に基づいて、符号判定範囲を設定する。具体的には、送信信号STがアップ送信信号ST1すなわち第一送信信号である場合、信号判定部14は、図9に示されているように、第一主相関ピークPC12の立ち上がり部分にて相関閾値THCに達した時点tC1を検出する。また、信号判定部14は、かかる時点tC1を始点とする所定の時間幅Wを、符号判定範囲として設定する。そして、信号判定部14は、設定した符号判定範囲における相関信号に基づいて、符号判定を実行する。具体的には、信号判定部14は、設定した符号判定範囲における第一主相関ピークPC12と第二主相関ピークPC22との比較や、第一主相関ピークPC12が相関閾値THC以上か否かにより、符号判定を行う。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0045】
図10は、上記の判定態様に対応するフローチャートを示す。図10を参照すると、まず、ステップ1001にて、信号判定部14は、相関信号の立ち上がり(すなわち図9に示されているtC1)を検出する。次に、ステップ1002にて、信号判定部14は、ステップ1001にて検出した相関信号の立ち上がりを基準として、符号判定範囲を設定する。続いて、ステップ1003にて、信号判定部14は、ステップ1002にて設定した符号判定範囲にて、相関信号のピークを検出する。ステップ1003におけるピーク検出は、図5におけるステップ503と同様である。ステップ1004~ステップ1006の処理内容は、それぞれ、図5におけるステップ504~ステップ506の処理内容と同様である。
【0046】
(第二実施形態)
図1に示されたフィルタ部131におけるQ値は、相関を求める場合は低い方が好ましいが、振幅信号SAを生成する場合は高い方が好ましい。このため、振幅信号SAの生成用と、相関信号すなわち第一相関信号SC1および第二相関信号SC2の生成用とで、異なるフィルタQ値を用いることが好適である。図11は、かかる観点から上記第一実施形態を変容した、第二実施形態に係る物体検知装置10の概略構成を示す。図11を参照すると、物体検知装置10は、第一フィルタ部135と第二フィルタ部136とを備えている。すなわち、本実施形態は、上記第一実施形態におけるフィルタ部131を、振幅信号SAの生成用と相関信号の生成用とに分けた構成に相当する。そして、第一フィルタ部135と第二フィルタ部136とで、Q値が異なる。すなわち、第一フィルタ部135の方が、第二フィルタ部136よりも、Q値が高く設定されている。
【0047】
本実施形態においては、第一フィルタ部135は、受信信号SDに対してフィルタ処理を実行して、フィルタ処理後の受信信号SDである第一フィルタ処理後信号SF1を振幅信号生成部132に出力するように設けられている。第二フィルタ部136は、受信信号SDに対してフィルタ処理を実行して、フィルタ処理後の受信信号SDである第二フィルタ処理後信号SF2を相関信号生成部134に出力するように設けられている。
【0048】
かかる構成においては、振幅信号生成部132は、Q値の高い第一フィルタ部135によって受信信号SDをフィルタ処理して得られた第一フィルタ処理後信号SF1に基づいて、振幅信号SAを生成する。一方、相関信号生成部134は、Q値の低い第二フィルタ部136によって受信信号SDをフィルタ処理して得られた第二フィルタ処理後信号SF2に基づいて、相関信号すなわち第一相関信号SC1および第二相関信号SC2を生成する。このように、本実施形態においては、可及的に簡略な装置構成により、振幅信号SAの生成用と相関信号の生成用とで、異なるフィルタQ値を用いることが可能となる。したがって、本実施形態によれば、符号判定の精度がよりいっそう向上し得る。
【0049】
(第三実施形態)
図12は、第三実施形態に係る物体検知装置10の概略構成を示す。本実施形態においては、信号判定部14は、第一フィルタ部135から出力された第一フィルタ処理後信号SF1を振幅が一定となるように正規化した信号に対し参照信号との相関を算出した正規化相関信号に基づいて、符号判定を実行するようになっている。すなわち、受信信号処理部13は、いわゆる正規化相関処理を実行する正規化相関信号生成部137を備えている。正規化相関信号は、相関信号から受信信号SDの振幅の影響を除した(すなわち低減した)信号である。具体的には、送信信号生成部12がアップ送信信号ST1とダウン送信信号ST2との二種類の送信信号STを生成および出力可能なことに対応して、正規化相関信号生成部137は、第一正規化相関信号生成部137aと第二正規化相関信号生成部137bとを有している。第一正規化相関信号生成部137aは、アップ送信信号ST1すなわち第一相関信号生成部134aに対応して設けられている。第一正規化相関信号生成部137aは、第二フィルタ処理後信号SF2を正規化した信号に対し第一参照信号SR1との相関を算出した第一正規化相関信号SN1を生成して信号判定部14に出力するように構成されている。第二正規化相関信号生成部137bは、ダウン送信信号ST2すなわち第二相関信号生成部134bに対応して設けられている。第二正規化相関信号生成部137bは、第二フィルタ処理後信号SF2を正規化した信号に対し第二参照信号SR2との相関を算出した第二正規化相関信号SN2を生成して信号判定部14に出力するように構成されている。
【0050】
ここで、相関演算や正規化演算によるディレイの発生を可及的に抑制するため、本実施形態においては、第一正規化相関信号生成部137aは、第一相関信号生成部134aと並列的に設けられている。すなわち、第一正規化相関信号生成部137aは、第一参照信号SR1と第二フィルタ処理後信号SF2とを入力として第二フィルタ処理後信号SF2の振幅を正規化した後に相関演算を行い、演算結果である第一正規化相関信号SN1を信号判定部14に出力するように構成されている。換言すれば、受信信号処理部13は、第一相関信号生成部134aにおける相関信号生成と、第一正規化相関信号生成部137aにおける正規化相関信号生成とを、並列的に実行可能な構成を有している。同様に、第二正規化相関信号生成部137bは、第二相関信号生成部134bと並列的に設けられている。
【0051】
図13および図14は、上記第一実施形態と同様に、振幅信号SAの立ち上がりを基準とした符号判定範囲にて符号判定を行う動作例を示す。図13において、第一正規化相関信号SN1は、第一フィルタ部135から出力された第二フィルタ処理後信号SF2を振幅が一定となるように正規化した後に第一参照信号SR1との相関演算を行ったものである。同様に、第二正規化相関信号SN2は、第二フィルタ処理後信号SF2を正規化した後に第二参照信号SR2との相関演算を行ったものである。本動作例においては、信号判定部14は、図13に示されているように、振幅信号SAが立ち上がって振幅閾値THAに達した時点tAを始点とする所定の時間幅Wを、符号判定範囲として設定する。そして、信号判定部14は、設定した符号判定範囲における相関信号およびこれを正規化した正規化相関信号に基づいて、符号判定を実行する。具体的には、信号判定部14は、符号判定範囲内にて相関信号のピークを検出して大小比較を行うとともに正規化相関信号を確認し、正規化相関信号が所定の正規化閾値THN以上であれば符号を確定する。
【0052】
相関信号の振幅は、受信信号SDと参照信号の相関の高さだけでなく、受信信号SDの振幅によっても変化し、受信信号SDの振幅が大きいほど相関信号の振幅も大きくなる。このため非常に大きな振幅の反射波を受信した時に相関信号の振幅が大きくなり、閾値を超え誤判定が発生することがあったが、受信信号SDの振幅の影響を除した相関信号を用いることで判定精度が向上する。
【0053】
(第三実施形態の変形1)
正規化相関信号は、相関信号を振幅信号SAで除算した信号であってもよい。この場合、第一正規化相関信号SN1は、第一相関信号SC1を振幅信号SAで除算し、正規化したものである。すなわち、SN1=SC1/SAである。同様に、第二正規化相関信号SN2は、第二相関信号SC2を振幅信号SAで除算し、正規化したものである。正規化処理により、受信信号SDの振幅に因らない信号を得ることができる。
【0054】
(第三実施形態の変形2)
正規化相関信号は、相関信号の最大値を用いて相関信号を正規化した信号であってもよい。この場合、第一正規化相関信号SN1は、第一相関信号SC1における最大値を「1」として、これを正規化したものである。すなわち、SN1=SC1/SC1(MAX)である。同様に、第二正規化相関信号SN2は、第二相関信号SC2における最大値を「1」として、これを正規化したものである。正規化処理により、受信信号SDの振幅が大きい場合でも相関信号の最大値を1とした信号を得ることができる。なお、正規化の手法については、特開2022-124824号等にも記載されているように、本願の出願時点において、既に公知あるいは周知となっている。このため、正規化の手法についてのこれ以上の詳細については、説明を省略する。
【0055】
図14は、上記の符号判定態様に対応するフローチャートを示す。図14に示されたステップ1401~ステップ1403の処理内容は、それぞれ、図5に示されたステップ501~ステップ503の処理内容と同様である。ステップ1404にて、信号判定部14は、正規化相関信号生成部137から正規化相関信号を取得する。続いて、ステップ1405にて、信号判定部14は、図5に示されたステップ504と同様に、ステップ1403にて検出した複数の相関信号のピークを比較する。具体的には、信号判定部14は、ピーク1とピーク2との大小を比較する。ピーク1>ピーク2である場合(すなわちステップ1405=YES)、信号判定部14は、ステップ1406の処理を実行する。ステップ1406にて、信号判定部14は、ピーク1に対応する正規化相関信号が正規化閾値THN以上であるか、すなわち、図13における第一主相関ピークPC12を正規化した値が正規化閾値THN以上であるかを判定する。正規化相関信号が正規化閾値THN以上である場合(すなわちステップ1406=YES)、信号判定部14は、ステップ1407の処理を実行する。ステップ1407にて、信号判定部14は、今回の受信波に含まれる符号は自符号であること、すなわち、今回の受信波は正規波であることを判定する。これに対し、ピーク1<ピーク2である場合(すなわちステップ1405=NO)や、正規化相関信号が正規化閾値THN未満である場合(すなわちステップ1406=NO)、信号判定部14は、ステップ1408の処理を実行する。ステップ1408にて、信号判定部14は、今回の受信波は混信であることを判定する。
【0056】
図15および図16は、相関信号の立ち上がりを基準とした符号判定範囲にて符号判定を行う動作例を示す。具体的には、本動作例においては、送信信号STがアップ送信信号ST1すなわち第一送信信号である場合、信号判定部14は、図15に示されているように、第一主相関ピークPC12の立ち上がり部分にて相関閾値THCに達した時点tC1を検出する。また、信号判定部14は、検出した時点tC1を始点とする所定の時間幅Wを、符号判定範囲として設定する。そして、信号判定部14は、設定した符号判定範囲における相関信号および正規化相関信号に基づいて、符号判定を実行する。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0057】
図16は、上記の符号判定態様に対応するフローチャートを示す。図16を参照すると、まず、ステップ1601にて、信号判定部14は、相関信号の立ち上がり(すなわち図15に示されているtC1)を検出する。次に、ステップ1602にて、信号判定部14は、ステップ1601にて検出した相関信号の立ち上がりを基準として、符号判定範囲を設定する。すなわち、ステップ1601およびステップ1602の処理内容は、それぞれ、図10に示されたステップ1001およびステップ1002の処理内容と同様である。また、ステップ1603~1608の処理内容は、それぞれ、図14に示されたステップ1403~1408の処理内容と同様である。
【0058】
ステップ1403やステップ1603におけるピーク検出において、相関閾値THC以上のピークのみを検出してもよい。また、かかるピーク検出において、ピークがない場合は、符号判定範囲内における最大値が用いられる。この場合、検出する最大値は、相関閾値THC以上の値のみであってもよい。ここで、振幅信号SAと相関信号と正規化相関信号とは、それぞれ、挙動が異なる。そこで、信号判定部14は、振幅信号SAの判定のための閾値である振幅閾値THAと、相関信号の判定のための閾値である相関閾値THCと、正規化相関信号の判定のための閾値である正規化閾値THNとで、異なった値を使用してもよい。具体的には、例えば、図13に示されているように、振幅閾値THAは、時間とともに変化するように設定され得る。これに対し、相関閾値THCおよび正規化閾値THNは、時間とともに変化しない一定値として設定され得る。また、図13図15において、正規化閾値THNは、第一主相関ピークPC12の高さに対する相関閾値THCの高さの比とは異なる値に設定され得る。これにより、符号判定の精度がよりいっそう向上され得る。
【0059】
例えば、他社のソナーを搭載した他車両である対向車が自車両に対向した場合、かかる対向車から送信された超音波を受信波として自車両における物体検知装置10の受信部112で受信すると、受信波における振幅が非常に大きくなる。すると、自符号ではない誤った符号側の相関信号が大きくなることで、誤判定が発生してしまう可能性がある。この点、本実施形態によれば、正規化相関信号を用いることで、誤判定の発生を良好に抑制することが可能となる。
【0060】
(他の変形例)
本発明は、上記の各実施形態や各変形例の記載に限定されるものではない。すなわち、上記の各実施形態や各変形例に対しても、さらなる変更が加えられ得る。
【0061】
本発明は、上記の各実施形態や各変形例の記載のような装置構成に限定されない。具体的には、例えば、物体検知装置10は、車載構成(すなわち車両に搭載される構成)に限定されない。よって、例えば、物体検知装置10は、船舶等の水上航行体や、飛行機等の飛行体にも搭載され得る。
【0062】
送受信部11は、単一のトランスデューサ113によって超音波を送受信可能な、いわゆる「送受信一体型」の構成に限定されない。すなわち、例えば、送信回路114に電気接続された送信用のトランスデューサ113と、受信回路115に電気接続された受信用のトランスデューサ113とが、個別に設けられていてもよい。
【0063】
上記の通り、物体検知装置10における演算や判定を行う部分の全部または一部は、CPU、ROM、RAM、不揮発メモリ、インタフェース、等を備えた車載マイクロコンピュータとして構成され得る。「不揮発メモリ」は、電源投入中には記憶内容を書き換え可能である一方で電源遮断中には記憶内容を保持する機能を有するメモリであって、フラッシュメモリやハードディスク等がこれに含まれる。あるいは、かかる部分の全部または一部は、上記のような動作を可能に構成されたハードウエア回路(例えばASICやFPGA)を備えた構成であってもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略である。FPGAはField Programmable Gate Arrayの略である。
【0064】
このように、上記の各機能構成および方法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および方法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および方法は、一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、上記の各機能構成および方法は、これを実現するための手順を含むコンピュータプログラム、あるいは、当該プログラムを記憶した非遷移的実体的記憶媒体としても表現可能である。非遷移的実体的記憶媒体は、例えば、ROM、RAM、不揮発メモリ、DVD、CD-ROM、等が該当する。プログラムは、V2X通信を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。V2XはVehicle to Xの略である。あるいは、かかるプログラムは、車両等の移動体の製造工場、整備工場、販売店、等に設けられた端末機器を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。
【0065】
送信信号生成部12と受信信号処理部13とは、同一の基板に設けられることでモジュールとして一体化され得る。受信信号処理部13と信号判定部14とについても同様である。信号判定部14と制御部15とについても同様である。よって、例えば、送信信号生成部12と受信信号処理部13と信号判定部14と制御部15とを同一基板にてモジュールとして一体化し、フィルタ部131等の特定の信号処理部をハードウエア回路として実装するとともに残部を少なくとも一つのCPUあるいはMPUにより実現してもよい。
【0066】
フィルタ部131は、受信信号SDに対し、周知のFIRフィルタやIIRフィルタを用いてフィルタ処理するようになっていてもよい。または、受信信号SDを直交検波、離散フーリエ変換、FFT等にて周波数成分(すなわち複素ベクトル)に変換した後にフィルタ処理してもよい。複素ベクトルに変換してフィルタ処理した場合は、後段の振幅信号生成部132、相関信号生成部134、正規化相関信号生成部137も複素ベクトルにて種々の処理を行う。周波数成分の複素ベクトルにて処理を行うことでハードウエア回路の規模を縮小することができ、あるいはCPU、MPUでの計算量を減らすことができる。
【0067】
相関信号生成部134は、参照信号を内蔵していてもよい。すなわち、参照信号出力部133は、省略され得る。また、相関信号生成部134は、送信信号STの種類と同数設けられる。このため、例えば、送信信号生成部12が生成および出力可能な送信信号STが四種類の場合、相関信号生成部134は、四つ設けられ得る。但し、相関信号生成部134を複数設けるということは、必ずしも、複数個の相関信号生成部134を個別且つ並列に設けることを意味しない。すなわち、例えば、共通の一つの相関信号生成部134に対して参照信号の入力を切り換えることで、複数の相関信号生成部134を時分割で実現することが可能となる。換言すれば、図1等において、第一相関信号生成部134aと第二相関信号生成部134bとは、一体化され得る。図12における正規化相関信号生成部137についても同様である。
【0068】
正規化相関信号生成部137は、図1に示された構成にも適用され得る。すなわち、正規化相関信号生成部137は、フィルタ部131の出力であるフィルタ処理後信号SFを入力としてもよい。また、図12を参照すると、正規化相関信号生成部137は、相関信号生成部134が生成した相関信号を正規化するように設けられていてもよい。すなわち、第一正規化相関信号生成部137aは、第一相関信号生成部134aから出力された第一相関信号SC1を入力として、これを正規化するように設けられていてもよい。同様に、第二正規化相関信号生成部137bは、第二相関信号生成部134bから出力された第二相関信号SC2を正規化するように設けられていてもよい。
【0069】
本発明は、上記の各実施形態や各変形例の記載のような動作態様に限定されない。具体的には、例えば、送信信号STにおける周波数変化態様は、図2A等に示されているような単調増加や単調減少には限定されず、ステップ状等であってもよい。また、アップ送信信号ST1は、全体として周波数が増加する特徴を有していればよく、初期において中心周波数fcあるいはその近辺の開始周波数から周波数が一旦短時間減少する部分を有していてもよい。ダウン送信信号ST2についても同様である。また、図2Cに示されたシフトチャープ信号は、図2Aに示されているような曲線状の周波数変化態様に変容され得る。また、図2Cに示されたシフトチャープ信号において、アップ送信信号ST1の周波数帯域をfmd~fuとする一方でダウン送信信号ST2の周波数帯域をfmu~fdとしてもよい。さらに、1回の探査波の送信に際して、複数の符号を配列した複数ビットの符号列を設定することが可能である。すなわち、例えば、第一送信信号の符号を「1」とし、第二送信信号の符号を「0」とすると、探査波には、「1010」や「1101」のような符号が付与され得る。このような場合に対しても、本発明は、好適に適用され得る。
【0070】
各種の判定処理において、「…以上」と「…を超える」とは置換可能である。同様に、「…未満」と「…以下」とは置換可能である。また、「検出」「検知」「測定」「算出」「取得」等の、共通あるいは類似の意味を有する用語は、技術的に矛盾しない限り、互いに置換可能である。すなわち、例えば、或る特性値を「取得する」とは、同値を「算出する」ことと、同値を入力されることとを含み得る。
【0071】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0072】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、一つの実施形態の全部または一部と、他の一つの実施形態の全部または一部とが、技術的に矛盾しない範囲内において、互いに組み合わされ得る。また、複数の変形例が、互いに組み合わされ得る。さらに、上記実施形態の全部または一部と、変形例の全部または一部とが、互いに組み合わされ得る。
【0073】
(本開示に含まれる観点)
本開示には、少なくとも、以下の各観点が含まれる。
[第1の観点]
物体検知装置(10)であって、
時間とともに周波数が変化する送信信号を複数種類生成することができ、前記送信信号の周波数変化態様に基づいて周波数変調された超音波である探査波を送信する送信部(111)に、複数種類の前記送信信号のうちの一つを出力する、送信信号生成部(12)と、
前記送信信号に対応する参照信号と、受信部(112)が受信した超音波である受信波に応じて出力した受信信号との相関を示す相関信号を生成する、相関信号生成部(134)と、
前記相関信号に基づいて、前記受信波が前記探査波の周波数変調態様に対応する周波数変化態様を有しているか否かの判定である信号判定を実行する、信号判定部(14)と、
を備え、
前記相関信号生成部は、複数種類の前記送信信号に対応して、複数設けられ、
前記信号判定部は、複数の前記相関信号の比較により、前記信号判定を実行する、
物体検知装置。
[第2の観点]
複数種類の前記送信信号は、第一送信信号と第二送信信号とを含み、
前記第一送信信号と前記第二送信信号とのうち、一方は周波数が単調増加し、他方は周波数が単調減少し、
前記相関信号生成部は、前記第一送信信号に対応する前記参照信号と前記受信信号との相関を示す前記相関信号と、前記第二送信信号に対応する前記参照信号と前記受信信号との相関を示す前記相関信号とを生成する、
第1の観点に記載の物体検知装置。
[第3の観点]
前記第一送信信号における周波数帯域と、前記第二送信信号における周波数帯域とは、一部が重複し残部が重複しないように設定された、
第2の観点に記載の物体検知装置。
[第4の観点]
前記受信信号を振幅信号に変換する、振幅信号生成部(132)をさらに備え、
前記信号判定部は、前記振幅信号に基づいて設定した時間範囲である符号判定範囲における複数の前記相関信号を比較することで、前記信号判定を実行する、
第1~3の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
[第5の観点]
前記信号判定部は、前記振幅信号が上昇して所定の振幅閾値に達した時点での前記振幅信号の変化率に基づいて、前記符号判定範囲を設定する、
第4の観点に記載の物体検知装置。
[第6の観点]
前記振幅信号の判定のための閾値である振幅閾値と、前記相関信号の判定のための閾値である相関閾値とで、異なった値を使用する、
第4または5の観点に記載の物体検知装置。
[第7の観点]
前記振幅信号生成部は、前記受信信号を第一フィルタ部(135)によってフィルタ処理した信号に基づいて前記振幅信号を生成し、
前記相関信号生成部は、前記受信信号を第二フィルタ部(136)によってフィルタ処理した信号に基づいて前記相関信号を生成し、
前記第一フィルタ部と前記第二フィルタ部とで、Q値が異なる、
第4~6の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
[第8の観点]
前記信号判定部は、前記送信信号の信号長に基づいて、前記符号判定範囲の時間幅を設定する、
第4~7の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
[第9の観点]
前記信号判定部は、前記相関信号から前記受信信号の振幅の影響を除した正規化相関信号に基づいて、前記信号判定を実行する、
第1~8の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
[第10の観点]
前記信号判定部は、前記信号判定に用いられる少なくとも前記相関信号を生成するために用いられるフィルタ処理および相関演算で発生するディレイを補正した後、前記信号判定を実行する、
第1~9の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
[第11の観点]
前記送信信号は、線形チャープ信号である、
第1~10の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
[第12の観点]
前記参照信号は、前記送信信号よりも狭い周波数帯域で設定された、
第1~11の観点のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【符号の説明】
【0074】
10 物体検知装置
111 送信部
112 受信部
12 送信信号生成部
134 相関信号生成部
134a 第一相関信号生成部
134b 第二相関信号生成部
135 第一フィルタ部
136 第二フィルタ部
14 信号判定部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16