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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071282
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】錠剤の評価方法および評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20240517BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N1/04 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182140
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】長村 崇史
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA40
2G052AB27
2G052AD12
2G052AD15
2G052AD32
2G052AD35
2G052AD52
2G052BA02
2G052BA23
2G052DA05
2G052DA22
2G052DA23
2G052DA33
2G052GA08
2G052HB06
2G052JA08
2G052JA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】打錠障害であるスティッキングまたはバインディング発生のリスクを定量的に評価すること。
【解決手段】錠剤の評価方法は、打錠後の杵の打錠面にレプリカ成形用樹脂を付着させ、前記レプリカ成形用樹脂が硬化することによって成形される樹脂レプリカに前記杵の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態を転写させ、前記樹脂レプリカの表面の第1画像を取得し、前記第1画像から前記杵の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、前記第2画像のうち杵の打錠面の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打錠後の杵の打錠面にレプリカ成形用樹脂を付着させ、前記レプリカ成形用樹脂が硬化することによって成形される樹脂レプリカに前記杵の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態を転写させ、
前記樹脂レプリカの表面の第1画像を取得し、
前記第1画像から前記杵の打錠面の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、
前記第2画像のうち、前記杵の打錠面の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、
前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する、
錠剤の評価方法。
【請求項2】
前記第1部分は、前記杵の打錠面の外周部分である、
請求項1に記載の錠剤の評価方法。
【請求項3】
打錠後の臼内部にレプリカ成形用樹脂を注入し、前記レプリカ成形用樹脂が硬化することによって成形される樹脂レプリカに前記臼内部の医薬組成物の付着状態を転写させ、
前記樹脂レプリカの表面に対して2方向以上の光源から光を照射しながら撮像して前記樹脂レプリカの表面の第1画像を取得し、
前記第1画像から前記臼内部の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、
前記第2画像のうち、臼内部の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、
前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する、
錠剤の評価方法。
【請求項4】
前記第1部分は、前記臼内部の内周部分である、
請求項3に記載の錠剤の評価方法。
【請求項5】
打錠回数毎の医薬組成物の付着率を算出し、
前記打錠回数毎の医薬組成物の付着率に基づいて予測式を生成する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の錠剤の評価方法。
【請求項6】
前記予測式が所定の条件を満たすときに、警告情報を生成する、
請求項5に記載の錠剤の評価方法。
【請求項7】
前記予測式は、線形の近似式であり、
前記所定の条件は、前記近似式の切片又は傾きがあらかじめ設定された閾値を超えることである、
請求項6に記載の錠剤の評価方法。
【請求項8】
打錠後の杵の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態が転写された樹脂レプリカの表面の第1画像を撮像する撮像装置と、
前記第1画像から前記杵の打錠面の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、
前記第2画像のうち杵の打錠面の形状に基づいた第1面積と、前記第2画像のうち医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する解析装置と、を含む、
錠剤の評価装置。
【請求項9】
打錠後の臼内部に付着した医薬組成物の付着状態が転写された樹脂レプリカの表面に対して、2方向以上の光源から光を照射しながら前記樹脂レプリカの前記表面の第1画像を撮像する撮像装置と、
前記第1画像から前記臼内部の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、
前記第2画像のうち臼内部の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、
前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する解析装置と、を含む、
錠剤の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤の評価方法及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤の製造における打錠工程において、打錠機の杵臼と錠剤との相互作用によって錠剤に傷や割れが生じる打錠障害がみられることがある。打錠障害としては、杵に錠剤表面の一部が付着するスティッキング、臼内部と錠剤の摩擦により錠剤の側面に傷が付くバインディングと呼ばれる障害等がある。
【0003】
スティッキングやバインディングなどの打錠障害には、錠剤表面の光沢がなくなる程度の軽微なものから、錠剤表面が削れる重度のものまである。しかし、軽微なものであっても打錠障害が発生すると錠剤の品質及び商品価値が損なわれる。さらに、打錠障害は杵臼の破損の原因になる。
【0004】
大量の錠剤を打錠する製造段階においても打錠障害が生じないようにするために、処方、製造方法、杵臼選定を研究段階で慎重に検討し、打錠障害のリスクを評価しておく必要がある。しかしながら、打錠障害は通常、打錠回数を重ねることで打錠工程後期に杵および臼の表面に少しずつ医薬組成物が付着していくことで生じるため、小スケールでの初期検討段階において、スケールアップ後の打錠障害リスクをあらかじめ正確に予測することは極めて困難であった。また、打錠障害リスクを慎重に検討するためには、医薬組成物が付着しうる杵臼の広範囲を評価することが望ましいが、そのような広範囲を高い精度で評価しうる方法は確立されていない。
【0005】
打錠障害のリスクを評価する方法としては、目視で確認する方法が一般的である。
【0006】
また、目視によらない確認方法として、特許文献1には、色差計で杵の曇り具合を計測し、スティッキングを検出する方法が記載されている。
【0007】
また、臼におけるバインディング評価として、特許文献2には臼内部を樹脂レプリカに転写し、転写後の樹脂レプリカの表面を撮像し、輝度値を用いて評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-107212号公報
【特許文献2】特開2020-018611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
打錠障害のリスクを評価する方法として、一般的な方法である目視による評価は、医薬組成物の付着有り、無しといった定性的な評価はできるものの、定量的な評価ができない。また、特許文献1に記載されている方法の場合、色差を正確に検出できる条件であれば定量的な評価ができるものの、例えば、梨地加工が施された杵を用いる場合には、杵表面が元々細かな凹凸を有するため光が乱反射してしまい、杵におけるスティッキングを定量的に評価することはできない。また、色差計の検出範囲が狭いため、杵臼の評価範囲が限定されてしまい、広範囲を高い精度で評価することは不可能であった。
【0010】
特許文献2では、臼内部の状態を転写した樹脂レプリカを顕微鏡で撮像し、撮像した画像を用いてバインディングの評価を行っている。しかしながら、画像に撮像時の反射光が映り込んでしまうため、実際にバインディングの評価ができる領域は、画像全体に対して一部の領域に限定されてしまい、杵臼の広範囲を高い精度で評価することは不可能であった。
【0011】
本発明は、打錠障害であるスティッキングまたはバインディング発生のリスクを定量的に評価することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態によると、打錠後の杵の打錠面にレプリカ成形用樹脂を付着させ、前記レプリカ成形用樹脂が硬化することによって成形される樹脂レプリカに前記杵の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態を転写させ、前記樹脂レプリカの表面の第1画像を取得し、前記第1画像から前記杵の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、前記第2画像のうち、前記杵の打錠面の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する、錠剤の評価方法が提供される。
【0013】
上記評価方法において、前記第1部分は、前記杵の打錠面の外周部分であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態によると、打錠後の臼内部にレプリカ成形用樹脂を注入し、前記レプリカ成形用樹脂が硬化することによって成形される樹脂レプリカに前記臼内部の医薬組成物の付着状態を転写させ、前記樹脂レプリカの表面に対して2方向以上の光源から光を照射しながら撮像して前記樹脂レプリカの表面の第1画像を取得し、前記第1画像から前記臼内部の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、前記第2画像のうち臼内部の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する、錠剤の評価方法が提供される。
【0015】
上記評価方法において、前記第1部分は、前記臼内部の内周部分であってもよい。
【0016】
上記評価方法において、打錠回数毎の医薬組成物の付着率を算出し、前記打錠回数毎の医薬組成物の付着率に基づいて予測式を生成してもよい。
【0017】
上記評価方法において、前記予測式が所定の条件を満たすときに、警告情報を生成してもよい。
【0018】
上記評価方法において、前記予測式は、線形の近似式であり、前記所定の条件は、前記近似式の切片又は傾きがあらかじめ設定された閾値を超えることであってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態によると、打錠後の杵の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態が転写された樹脂レプリカの前記表面の第1画像を撮像する撮像装置と、前記第1画像から前記杵の打錠面の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、前記第2画像のうち杵の打錠面の形状に基づいた第1面積と、前記第2画像のうち医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する解析装置と、を含む、錠剤の評価装置が提供される。
【0020】
本発明の一実施形態によると、打錠後の臼内部に付着した医薬組成物の付着状態が転写された樹脂レプリカの表面に対して、2方向以上の光源から光を照射しながら前記樹脂レプリカの前記表面の第1画像を撮像する撮像装置と、前記第1画像から前記臼内部の形状に対応する第1部分の外側の第2部分を除外した第2画像を生成し、前記第2画像のうち臼内部の形状に基づいた第1面積と、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である第2面積と、をそれぞれ算出し、前記第1面積に対する前記第2面積の割合から医薬組成物の付着率を算出する付着率を算出する解析装置と、を含む、錠剤の評価装置が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、打錠障害であるスティッキングまたはバインディング発生のリスクを定量的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】本発明の一実施形態に関する樹脂レプリカの生成方法を示す模式図である。
図1B】本発明の一実施形態に関する樹脂レプリカの生成方法を示す模式図である。
図1C】本発明の一実施形態に関する樹脂レプリカの生成方法を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に関する評価装置の概略構成を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に関する評価装置のハードウェア構成を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に関する解析装置の制御部における機能ブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に関する解析装置の処理を示すフロー図である。
図6A】本発明の一実施形態に関する解析処理における画像の模式図である。
図6B】本発明の一実施形態に関する解析処理における画像の模式図である。
図6C】本発明の一実施形態に関する解析処理における画像の模式図である。
図7】本発明の一実施形態に関する評価方法を示すフロー図である。
図8A】本発明の一実施形態に関する樹脂レプリカの模式図である。
図8B】本発明の一実施形態に関する樹脂レプリカの模式図である。
図9】本発明の一実施形態に関する解析装置の制御部における機能ブロック図である。
図10】本発明の一実施形態に関する評価方法を示すフロー図である。
図11】本発明の実施例1において二値化画像処理された、樹脂レプリカの画像データテーブルである。
図12】本発明の実施例2において二値化画像処理された、樹脂レプリカの画像データテーブルである。
図13】本発明の実施例3において二値化画像処理された樹脂レプリカの画像のデータテーブルである。
図14】本発明の実施例4において各処方の錠剤における打錠回数ごとの臼に対する医薬組成物の付着率を用いて生成された予測式(近似式)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0024】
なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
【0025】
本明細書において、「医薬組成物」は、打錠前の粉末、打錠して錠剤化したものの欠片の他、その他の打錠工程における固体状、粉末状のものを含む。
【0026】
本発明の一実施形態に係る錠剤のスティッキングまたはバインディングの評価方法は、打錠後の杵の打錠面または臼内部に付着した医薬組成物の付着状態(医薬組成物由来の凹凸)を樹脂レプリカ表面に転写し、樹脂レプリカ表面に転写した医薬組成物の付着状態(樹脂レプリカ表面に転写した凹凸)を解析することにより、スティッキングおよびバインディングを評価する評価方法である。なお、本発明の一実施形態に係る錠剤のスティッキングおよびバインディングの評価方法においては、杵の打錠面または臼内部に付着した医薬組成物由来の凹凸と、樹脂レプリカ表面に転写した凹凸とでは、その凹凸形状が逆の関係になる、所謂、レプリカ法を用いる。
【0027】
<第1実施形態>
本実施形態では、錠剤のスティッキングの評価方法及び評価装置について、以下に詳細に説明する。
【0028】
(樹脂レプリカの成形方法)
樹脂レプリカは、打錠機に用いられた杵の打錠面に注入(吐出)されたレプリカ成形用樹脂が時間の経過で硬化することにより、打錠面に付着した医薬組成物の付着状態が転写されたレプリカである。レプリカ成形用樹脂は、天然樹脂でもよいし、合成樹脂でもよい。一実施形態において、レプリカ成形用樹脂には、硬化剤を含む、合成樹脂の一つであるシリコンゴムが用いられる。なお、レプリカ成形用樹脂の色は、種々の色を用いることができる。好ましくは、黒色を用いることができる。
【0029】
図1A~Cを用いて、本実施形態における樹脂レプリカ11の成形方法についてより詳しく説明する。図1Aは、打錠後の杵14にレプリカ成形用樹脂18を付着させていることを示す模式図である。図1Bは、杵14に付着されたレプリカ成形用樹脂18が硬化して、樹脂レプリカ11が成形されることを示す模式図である。図1Cは、杵14から剥離された硬化後の樹脂レプリカ11の表面に杵14の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態が転写されていることを示す模式図である。
【0030】
図1Aに示すように、注入装置16を用いて、レプリカ成形用樹脂18を、杵14の打錠面に注入する(付着させる)。杵14は、打錠後であるため、杵14の打錠面には錠剤のスティッキングによる医薬組成物12が付着している。なお、注入装置16には、例えば、レプリセットなどの市販の注入装置を用いることができる。
【0031】
次に、図1Bに示すように、打錠後の杵14の打錠面に注入されたレプリカ成形用樹脂18は、硬化剤を含むため、時間が経過することにより硬化する(樹脂レプリカ11が成形される)。レプリカ成形用樹脂18は、硬化するとき、杵14の打錠面に付着している医薬組成物12由来の凹凸13が、レプリカ成形用樹脂18の表面に転写される。
【0032】
次に、図1Cに示すように、杵14の打錠面から樹脂レプリカ11を剥離すると、樹脂レプリカ11の表面には、杵14の打錠面に付着している医薬組成物12由来の凹凸13が成形されている(転写される)。樹脂レプリカ11は、基板15上に配置される。
【0033】
(錠剤のスティッキングの評価装置)
図2は、錠剤のスティッキングの評価装置10を示す模式図である。また、図3は、錠剤のスティッキングの評価装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。錠剤のバインディングの評価装置10は、樹脂レプリカ11の表面を撮像する撮像装置20と解析装置30とを含む。撮像装置20と解析装置30とは、配線40を介して接続されている。なお、撮像装置20と解析装置30とは、配線40を用いずに無線で接続されてもよい。
【0034】
撮像装置20は、樹脂レプリカ11の表面を撮像する装置である。撮像装置20は、杵14の打錠面の医薬組成物の付着状態が転写される樹脂レプリカ11の表面を撮像する。この例では、撮像装置20は、照明部202、拡大部204及び撮像部206を有する光学顕微鏡を示す。撮像装置20は、解析装置30とは独立に、制御部、記憶部及び通信部を有してもよい。
【0035】
照明部202は照明装置である。本実施形態では、樹脂レプリカ11の表面に対して2方向以上の光源、例えば二股型のライトまたはリングライトからの光を樹脂レプリカ11に照射してもよい。これにより、より広い領域を均一の明るさで撮像することができる。拡大部204は拡大レンズである。撮像部206は、照明部202が発生させる照明光で照明された樹脂レプリカ11の表面画像を、拡大部204を介して取り込むモジュールである。撮像部206は樹脂レプリカ11の表面画像を電子信号に変換して取り込む撮像素子である。
【0036】
解析装置30は、撮像装置20が撮像した表面画像を解析する装置である。解析装置30は、制御部301、記憶部302、通信部303及びユーザインタフェース304を有する。制御部301、記憶部302、通信部303、ユーザインタフェース304は、配線バス305を用いて接続される。
【0037】
制御部301は、CPU(Central Processing Unit)からなる演算処理装置3011およびメモリ3012を含む。制御部は、メモリ3012または記憶部302に格納されたオペレーティングシステム(OS)及び制御プログラム(アプリケーションソフトウェア)を用いて各部の機能を制御する。なお、アプリケーションソフトウェアとして、例えば、画像解析ソフトウェアである「ImageJ」が用いられる。
【0038】
記憶部302は、制御プログラムで用いられる各種情報を記憶するデータベースとしての機能を有する。記憶部302には、SSD(Solid State Drive)等の半導体メモリのほか、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク等)、光記録媒体、光磁気記録媒体、記憶媒体である記憶可能な素子が用いられる。記憶部302は、撮像装置20が撮像した樹脂レプリカ11の表面画像データを記憶することができる。
【0039】
通信部303は、撮像装置20と通信を行う通信モジュールである。例えば、通信は、有線通信又はBluetooth(登録商標)若しくはWiFi(登録商標)などの無線通信である。この例では、通信部303は、配線40を介した有線通信を利用し、撮像装置20が撮像した樹脂レプリカ11の表面画像データを受信する。なお、通信部303を介さずに、リムーバブルメディアを介して、撮像装置20が撮像した樹脂レプリカ11の表面画像データを解析装置30に移してもよい。
【0040】
ユーザインタフェース304は、ユーザと解析装置30をつなぐためのインタフェースである。この例では、ユーザインタフェース304は、表示部3041(例えば、液晶ディスプレイ)、および操作を受け付ける操作部3042(例えば、キーボード、マウス又はタッチセンサ)を含む。表示部3041は、樹脂レプリカ11の表面画像データを画像として表示する表示装置である。表示部3041は、撮像装置20が撮像した樹脂レプリカ11の表面画像データを、撮像と同時に画像として表示してもよいし、記憶部302に記憶後に読み出して画像として表示してもよい。
【0041】
図4は、制御部301の内部構成を示す機能ブロック図である。図4に示すように、制御部301は、取得部301a、領域除外部301b、面積割合算出部301cを含む。
【0042】
取得部301aは、撮像装置で撮像された画像(第1画像データ)を取得する機能を有する。
【0043】
領域除外部301bは、撮像された樹脂レプリカ11の画像(第1画像データ)のうちあらかじめ設定された領域を除外して、新たな画像(第2画像データ)を生成する機能を有する。ここでいう、あらかじめ設定された領域は、杵の打錠面の形状に対応する部分(外周部分、第1部分)の外側の部分(第2部分)をいう。この例では、領域除外部301bは、杵の直径が画像処理ソフトウェア上でどれだけの長さに該当するか調べることで、画像処理ソフトウェア上の単位での面積値を算出することができる。第1画像データから第2画像データを生成することで、杵の打錠面を広範囲に評価することができる。第2画像データは、好ましくは、杵の打錠面の面積に対して50%以上の面積があり、より好ましくは杵の打錠面の面積に対して80%以上の面積があると良い。
【0044】
面積割合算出部301cは、領域除外部301bにより生成された樹脂レプリカ11の画像(第2画像データ)の面積(第1面積)と、第2画像のうち医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値以上である領域の面積(第2面積)と、をそれぞれ算出し、第1面積に対する第2面積の割合を算出する機能を有する。
【0045】
医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値は、樹脂レプリカ11の画像を二値化し、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分けるための閾値である。杵14の打錠面に医薬組成物の付着状態(医薬組成物由来の凹凸)が樹脂レプリカ11に転写されている。このため、樹脂レプリカ11の表面は医薬組成物由来の凹凸を有する。この医薬組成物由来の凹凸領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値が閾値として設定されると、面積割合算出部301cは、閾値に基づいて、第1面積と第2面積とをそれぞれ算出する。さらに、面積割合算出部301cは、第1面積に対する第2面積の割合を算出する。閾値は、予め一定値が定められていてもよいし、樹脂レプリカ11を撮像するごとに自動又は手動で定められてもよい。
【0046】
(錠剤のスティッキングの評価方法)
次に、本実施形態における錠剤のスティッキングの評価方法について説明する。
【0047】
図5は、本実施形態に関する錠剤のスティッキングの評価方法を示すフロー図である。図6A乃至図6Cは、本発明の実施形態に関する画像の模式図である。
【0048】
まず、撮像装置20は、杵14の打錠面に付着した医薬組成物の付着状態が表面に転写された樹脂レプリカ11の表面を撮像する(ステップS105)。解析装置30は、図6Aに示すように、撮像装置20で撮像された樹脂レプリカ11の表面画像(第1画像データ100a)を、通信配線40を介して取得する(ステップS110)。なお、樹脂レプリカ11の表面画像は、リムーバブルメディアを介して、解析装置30に移されてもよい。樹脂レプリカ11の表面画像は、記憶部302に記憶される。
【0049】
次に、解析装置30は、取得した樹脂レプリカ11の表面画像のうちあらかじめ設定された領域を除外する処理を行う(ステップS120)。本実施形態では、あらかじめ設定された領域は、杵の形状に対応して設定され、杵14の打錠面に相当する部分以外の部分が該当する。より具体的には、あらかじめ設定された領域は、図6Bに示すように、取得した樹脂レプリカの画像のうち周辺領域100bである。この結果として、解析装置30は、杵の打錠面に特定された画像(第2画像データ100c)を生成することができる。
【0050】
次に、解析装置30は、生成された樹脂レプリカ11の第2画像データ100cに対して、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値を閾値として設定することにより、樹脂レプリカ11の第2画像データを二値化する。輝度値は、予め一定値が定められていてもよいし、樹脂レプリカ11を撮像するごとに自動又は手動で定められてもよい。
【0051】
ここで、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値(閾値)は、大津展之、「判別および最小2乗規準に基づく自動しきい値選定法」、電子情報通信学会論文誌D、Vol.J63-D、No.4、pp.349-356、1989年4月に記載の大津の二値化アルゴリズムによって決定されるが、これに限られるものではない。閾値を決定する際に用いられるアルゴリズムであれば大津の二値化アルゴリズム以外でもよく、また、画像を確認しながら手動で閾値を設定してもよい。
【0052】
解析装置30は、上述した二値化処理にしたがって、樹脂レプリカ11の表面画像のうち杵の打錠面の形状に基づいた面積(第1面積)と、樹脂レプリカ11の表面画像のうち医薬組成物が付着する領域であると判定された領域(第2面積)と、をそれぞれ算出する。この場合の第1面積は、第2画像データ100cにおける杵の打錠面(円形)に該当する面積である。解析装置30は、第1面積に対する第2面積の割合に基づいて、杵14における医薬組成物の付着率を算出する(ステップS130)。以上により、本実施形態における評価方法は終了となる。
【0053】
本実施形態を用いることにより、打錠面における医薬組成物の付着率を数値化することができる。したがって、打錠障害であるスティッキング発生のリスクを定量的に評価することができる。また、本実施形態を用いることにより、杵の外周部の外側部分を除外した状態でスティッキングの評価ができる。つまり、打錠面を広範囲に評価することができるため、杵の形状に依らず、スティッキング発生のリスクを高い精度で評価することができる。
【0054】
<第2実施形態>
第1実施形態では、錠剤のスティッキングを評価するための方法について説明したが、本実施形態では錠剤のバインディングを評価するための方法について説明する。なお、第1実施形態と重複する構成については、適宜説明を省略する。
【0055】
錠剤のバインディングの評価方法を、図7を用いて説明する。はじめに、錠剤のバインディング評価用の樹脂レプリカを成形する(ステップS201)。本実施形態では、打錠後の臼内部にレプリカ成形用樹脂を注入し、硬化させる。レプリカ成形用樹脂が硬化した(樹脂レプリカが成形された)後、臼から樹脂レプリカを引き出すと、樹脂レプリカの表面には、図8Aに示すように、臼内部(臼内側)の表面に付着した医薬組成物の付着状態が転写される。
【0056】
次に、図8Bに示すように、樹脂レプリカの表面全部を観察することができるように、円柱の中心軸を通る平面で樹脂レプリカを二等分する(ステップS203)。二等分された樹脂レプリカのそれぞれには、医薬組成物の付着状態が転写されている。
【0057】
次に、撮像装置20は、樹脂レプリカの撮像処理を行う(ステップS205)。本実施形態では、樹脂レプリカを撮像するときに2方向以上の光源(二股型のライト)を用いて樹脂レプリカに光を照射する。これにより、臼の形状(半円筒状)により場所によって撮像した画像に光の筋が入ることが抑制され、樹脂レプリカの形状の影響を受けずに広い領域を均一の明るさで撮像することができる。また、撮像装置20は、樹脂レプリカの面積よりも広めに撮像することが望ましい。これにより樹脂レプリカの広範囲を評価対象とすることができる。
【0058】
次に、解析装置30は、撮像装置20で撮像した樹脂レプリカ11の表面画像(第1画像データ)を、通信配線40を介して取得する(ステップS210)。解析装置30は、取得した樹脂レプリカ11の表面画像のうちあらかじめ設定された領域を除外する処理を行う(ステップS220)。本実施形態では、あらかじめ設定された領域は、臼内部に対応する部分(内周部分、第1部分)の外側部分(第2部分)が該当する。これにより、第1画像データのうち特定された部分(第2画像データ)を生成することができる。第1画像データから第2画像データを生成することで、臼内部を広範囲に評価することができる。第2画像データは、好ましくは、臼内部の面積に対して50%以上の面積があり、より好ましくは臼内部の面積に対して80%以上の面積があると良い。なお、第2部分には臼に対応する部分の一部が含まれてもよい。
【0059】
次に、解析装置30は、生成された樹脂レプリカ11の第2画像データに対して、医薬組成物が付着する領域とそれ以外の領域とを分ける境界の輝度値を閾値として設定することにより、樹脂レプリカ11の第2画像データを二値化する。
【0060】
解析装置30は、上述した二値化処理にしたがって、樹脂レプリカ11の表面画像の面積(第1面積)と、樹脂レプリカ11の表面画像のうち、医薬組成物が付着する領域であると判定された領域(第2面積)と、をそれぞれ算出する(ステップS230)。解析装置30は、第1面積に対する第2面積の割合に基づいて、臼内部における医薬組成物の付着率を算出する。以上により、本実施形態における解析処理は終了となる。
【0061】
本実施形態を用いることにより、杵の場合と同様に、臼内部に付着する医薬組成物の付着率を数値化することができる。したがって、打錠障害であるスティッキングのみならず、バインディング発生のリスクを定量的に評価することができる。
【0062】
<第3実施形態>
本実施形態では、第2実施形態で算出された医薬組成物の付着率を用いて、予測式(近似式)を算出し、バインディング発生リスクを評価する例について説明する。
【0063】
図9は、制御部301Aの内部構成を示す機能ブロック図である。図9に示すように、制御部301Aは、取得部301a、領域除外部301b、および面積割合算出部301cに加えて、予測式生成部301dおよび警告情報生成部301eを含む。
【0064】
予測式生成部301dは、打錠回数毎の臼内部の医薬組成物の付着率に基づいて演算処理を行い、予測式を生成する機能を有する。警告情報生成部301eは、予測式が所定の条件を満たすときに、警告情報を生成する機能を有する。
【0065】
図10は、予測式の生成フロー図である。まず、解析装置30は、同じ杵および臼を用いて錠剤を打錠した時の打錠回数毎の臼における医薬組成物の付着率を算出する(ステップS310)。医薬組成物の付着率の算出は、第2実施形態と同様である。次に、打錠回数ごとの医薬組成物の付着率を用いて予測式(近似式)を生成する(ステップS320)。この場合、予測式は、線形の近似式が用いられる。本実施形態では、2種類以上の打錠回数における医薬組成物の付着率データを有することにより、予測式を生成することができる。
【0066】
解析装置30は、生成された予測式から判定処理を行う(ステップS330,S340)。この場合、解析装置30は、近似式の傾きの値および切片の値が所定条件を満たすか(所定の閾値以上であるか)を判定する。近似式の傾きの値が第1閾値未満であること(ステップS330;No)、および近似式の切片の値が第2閾値未満である場合(ステップS340;No)、この評価フローは、終了となる。
【0067】
一方、近似式の傾きの値が第1閾値以上である(ステップS330;Yes)、または近似式の切片の値が第2閾値以上である場合(ステップS340;Yes)、解析装置30は、警告情報を生成する(ステップS350)。警告情報は、文字情報、画像情報、音声情報、および光情報のうち少なくとも一つの情報を用いて生成される。
【0068】
解析装置30は、生成された警告情報を表示部3041に表示する(ステップS360)。
【0069】
本実施形態を用いることにより、予測式が生成され、長時間打錠時の医薬組成物の付着率を予測できる。また、予測式から取得した情報(近似式の傾きおよび切片の値)に基づいて、錠剤のバインディングの発生リスクを定量的に評価できるとともに、錠剤のバインディングの発生リスクが高い場合には、ユーザに警告することができる。これにより、錠剤開発の検討段階において、予測式を生成することにより、実生産時のバインディングリスクを正確に把握することできる。なお、スティッキングリスクについても同様の方法で正確に把握することができる。
【0070】
(変形例)
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、各実施形態の組み合わせ若しくは設計変更を行ったもの、又は、処理の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0071】
本発明の第1実施形態では、領域除外部301bは、杵の直径が画像処理ソフトウェア上でどれだけの長さに該当するか調べることで、画像処理ソフトウェア上の単位での面積値を算出することができる例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、除外する面積を固定するであるとか、撮像枠(端部)からの距離、色の程度、杵の直径、輝度差などを用いて算出してもよい。
【実施例0072】
以上の錠剤のスティッキングおよびバインディングの評価方法に関する実施例について、以下で詳しく説明する。
【0073】
(試験製剤1)
表1は、実施例1で測定を行う試験製剤に関する処方の条件を示す表である。処方Aの錠剤は、原薬としてロサルタンカリウム:30重量%と、賦形剤として乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S):69.8重量%と、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム:0.2重量%とを混合して得た医薬組成物を、打錠して製造された錠剤である。処方Bの錠剤は、原薬としてロサルタンカリウム:30重量%と、賦形剤として乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S):69.5重量%と、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム:0.5重量%とを混合して得た医薬組成物を、打錠して製造された錠剤である。打錠機はロータリー打錠機VIRGO(菊水製作所製)を用いた。また、杵は表面処理の異なる4種類の杵1~4(杵1:窒化クロム結晶性膜処理、杵2:窒化クロム非晶質性膜処理、杵3:粗い梨地処理、杵4:鏡面仕上げ処理)を用いて、打錠数は100回/杵で製造した。
【表1】
【0074】
製剤処方中の滑沢剤の不足がスティッキングの原因の一つであることから、処方Aより滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム)を増量した処方Bにおいてスティッキングの発生が抑制されることが予想される。
【0075】
製造後の杵の打錠面を目視し、スティッキングの有無を確認した(表2)。
【表2】
【0076】
処方Aと、処方Bを比較すると、杵1と杵3では差が見られなかった。一方、杵2と杵4では処方Aでは医薬組成物の軽度の付着(スティッキング)が確認され、処方Bではスティッキングが見られなかった。このことから、当初の予想通り、滑沢剤を増量するとスティッキングの発生が抑制されていた。ただし、杵によっては目視では判断がつかず、スティッキングのリスクを評価することが出来なかった。
【0077】
(実施例1)
実施例1では、本発明により、処方の違いに由来するスティッキング発生のリスクを適切に評価できるかを確認した。打錠後の打錠面に、ディスペンシングガン(Struers社製)とディスペンシングノズル(Struers社製)を用いて液体速硬性硬化樹脂(Struers社製、レプリセットF-5)を付着させた。付着後、液体速硬性硬化樹脂が杵の打錠面で固まるまで5分間静置させ、樹脂レプリカを作成した。樹脂レプリカが杵の打錠面で固まった後、杵の打錠面から取出し、樹脂レプリカを光学顕微鏡で撮影し、撮影した画像を、有線通信を介して解析装置(コンピュータ)で取得した。取得した画像に対して、画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて樹脂レプリカ以外の画像を除外したのちに二値化処理を行った。樹脂レプリカの面積のうち、二値化処理によって閾値以上の輝度値を有すると判定された領域(医薬組成物が付着した領域)の面積を算出し、樹脂レプリカの面積に対する医薬組成物が付着した面積の割合から医薬組成物の付着率を算出した。また、樹脂レプリカの画像上の面積に対する評価を行う領域の面積の割合は100%であった。
【0078】
図11は、二値化画像処理された、樹脂レプリカの画像データである。また、表3は、二値化画像処理で検出された、上杵および下杵の医薬組成物の付着率の平均値を示す表である。
【表3】
【0079】
表3に示す通り、全ての杵において、処方Aより滑沢剤を増量した処方Bでスティッキングが抑制されていた。このことより、打錠回数が100回と、小スケールで実施されるスティッキングの初期検討において、従来の目視評価では見逃してしまうスティッキングのリスクを厳密に評価することができた。
【0080】
(試験製剤2)
表4は、実施例2で測定を行う試験製剤に関する処方の条件を示す表である。処方Cの錠剤は、処方Aのロサルタンカリウムに変えて、フルボキサミンマレイン酸塩を添加、混合して得た医薬組成物を、打錠して製造された錠剤である。試験製剤2の製造に用いる杵、臼、および打錠条件は試験製剤1を製造した条件と同じである。
【表4】
【0081】
製造後の杵の打錠面を目視し、スティッキングの有無を確認した(表5)。
【表5】
【0082】
処方Aにおいては杵3が最もスティッキングのリスクが低い杵であることは分かるが、処方Cにおいては杵2と杵4の結果が同様であるため、目視では最適な杵を選択することはできない。
【0083】
(実施例2)
実施例2では、本発明により、原薬の違いに由来するスティッキング発生のリスクを適切に評価できるかを確認した。実施例1と同様の方法で、医薬組成物の付着率を算出した。図12は、二値化画像処理された、樹脂レプリカの画像データである。表6は、実施例2において、二値化画像処理で検出された、上杵および下杵の医薬組成物の付着率の平均値を示す表である。
【表6】
【0084】
表6が示す通り、処方Aにおいては、杵3が最もスティッキングが抑制されており、処方Cにおいては、杵2が最もスティッキングが抑制されていた。このことより、打錠回数が100回と、小スケールで実施されるスティッキングの初期検討において、従来の目視評価では実行出来なかった原薬に応じた最適な杵の選択ができる。
【0085】
(試験製剤3)
表7は、実施例3で測定を行う試験製剤に関する処方の条件を示す表である。処方Dの錠剤は、原薬としてラロキシフェン塩酸塩:25重量%と、賦形剤として乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S):67.4重量%と、結合剤としてポリビニルピロリドン:7.5重量%と、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム:0.1重量%とを混合して得た粉末を、打錠して製造された錠剤である。処方Eの錠剤は、処方Dの錠剤のうち、乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S):67.3重量%と、ステアリン酸マグネシウム:0.2重量%として混合して得た粉末を、打錠して製造された錠剤である。処方Fの錠剤は、処方Dの錠剤のうち、乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S):67.2重量%と、ステアリン酸マグネシウム:0.3重量%として混合して得た粉末を、打錠して製造された錠剤である。処方Gの錠剤は、処方Dの錠剤のうち、乳糖水和物(ダイラクトーズ(登録商標)S):67.0重量%と、ステアリン酸マグネシウム:0.5重量%として混合して得た粉末を、打錠して製造された錠剤である。打錠機はロータリー打錠機VIRGO(菊水製作所製)を用いた。また、杵は一つの杵(φ8.0mmの平面杵)を用いて、打錠数は30回/杵と60回/杵で2回製造した。
【表7】
【0086】
製剤処方中の滑沢剤の不足による医薬組成物の臼内部への付着がバインディングの原因の一つであることから、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム)を増量した処方Gにおいてバインディングの発生が最も抑制されることが予想され、滑沢剤が最も多い処方Gにおいてバインディングのリスクが最も低いことが予想される。
【0087】
製造後の臼内部に付着した医薬組成物を目視し、バインディングリスクの評価を行った(表8)。
【表8】
【0088】
予想の通り、滑沢剤が最も多い処方Gにおいて、目視では臼内部に医薬組成物の付着を認めず、バインディングのリスクが最も低いことが分かった。しかしながら、打錠回数30回の処方Eと処方F、また、打錠回数60回の処方Dと処方Eは同様の結果を示しており、小スケールで実施されるバインディングリスクの初期評価が十分に実施できているとは言い難い。
【0089】
(実施例3)
実施例3では、本発明により、処方の違いに由来するバインディング発生のリスクを適切に評価できるかを確認した。打錠後の臼内部に、ディスペンシングガン(Struers社製)とディスペンシングノズル(Struers社製)を用いて液体速硬性硬化樹脂(Struers社製、レプリセットF-5)を注入した。注入後、液体速硬性硬化樹脂が臼内部で固まるまで5分間静置させ、樹脂レプリカを成形した。樹脂レプリカが臼内部で固まった後、臼から取出し、円柱の中心軸を通る平面で二等分し、樹脂レプリカを光学顕微鏡で二股型のライトで照射しながら撮像し、撮像した画像を、有線通信を介して解析装置(コンピュータ)で取得した。取得した画像のうち評価を行う領域以外の画像を除外したのち画像処理ソフトウェア「ImageJ」で解析した。画像の二値化は、大津のアルゴリズムに従い閾値を設定し、画像処理ソフトウェア「ImageJ」のシステムで二値化した。評価を行う領域の面積のうち、二値化処理によって閾値以上の輝度値を有すると判定された領域(医薬組成物が付着した領域)の面積を算出した。また、樹脂レプリカの画像上の面積に対する評価を行う領域の面積の割合は80%であった。
【0090】
図13は、二値化画像処理された、樹脂レプリカの画像データである。表9は、二値化画像処理で検出された、評価を行う領域における医薬組成物の付着率を示す表である。
【表9】
【0091】
表9が示す通り、打錠回数が30回、60回のいずれにおいても、滑沢剤の添加増量に応じて医薬組成物の付着率が低下していた。このことより、小スケールで実施されるスティッキングの初期検討において、従来の目視評価では実行出来なかった定量的なバインディングリスクの評価ができることが確認された。また、実施例3では樹脂レプリカを撮像する際、二股型のライトで照射しながら撮像することで、撮像時の反射光の映り込みを防ぎ、臼内部の広範囲を評価することができる。
【0092】
(実施例4)
実施例4では、本発明により、医薬組成物の付着率から予測式を生成することができるかを確認した。試験製剤3の処方、打錠条件で、打錠回数30回、60回に加えて、処方E、処方F、処方Gについては打錠回数100回の臼内部を実施例3と同様の方法で医薬組成物の付着率を算出した(表10)。
【表10】
【0093】
図14は、各処方の錠剤における打錠回数ごとの医薬組成物の付着率を用いて生成された予測式(近似式)のグラフである。図14に示すように、処方Eは予測式の傾きが最も大きく、また、処方Dは予測式の切片が最も大きい。予測式の傾き、及び切片が大きいと、当然のことながら打錠回数が多いときの予測される粉末付着率は高い値となるため、数万回と打錠する実生産スケールにおいては処方D、処方Eのバインディングリスクが高いことが予測される。したがって、本発明の一実施形態を用いることにより、予測式から取得した情報(近似式の傾きおよび切片の値)に基づいて、錠剤のバインディングの発生リスクを定量的に評価できるとともに、錠剤のバインディングの発生リスクが高い場合には、ユーザに警告することができる。
【符号の説明】
【0094】
10・・・評価装置,11・・・樹脂レプリカ,12・・・医薬組成物,13・・・凹凸,14・・・杵,15・・・基板,16・・・注入装置,18・・・レプリカ成形用樹脂,20・・・撮像装置,30・・・解析装置,40・・・通信配線,202・・・照明部,204・・・拡大部,206・・・撮像部,301・・・制御部,301a・・・取得部,301b・・・領域除外部,301c・・・面積割合算出部,301d・・・予測式生成部,301e・・・警告情報生成部,302・・・記憶部,303・・・通信部,304・・・ユーザインタフェース,305・・・配線バス,3011・・・演算処理装置,3012・・・メモリ,3041・・・表示部,3042・・・操作部
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14