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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071298
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】細胞回収装置及び細胞回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/12 20060101AFI20240517BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20240517BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C12M1/12
C12M3/06
C12N1/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182163
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】396026710
【氏名又は名称】株式会社オプトニクス精密
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】絹田 精鎮
(72)【発明者】
【氏名】市野沢 義行
(72)【発明者】
【氏名】小林 将士
(72)【発明者】
【氏名】松阪 諭
(72)【発明者】
【氏名】古川 安津子
(72)【発明者】
【氏名】森 倫子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB01
4B029CC01
4B029DG08
4B029HA06
4B065AA01X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065BD18
4B065BD50
(57)【要約】
【課題】フィルタに捕捉された目的細胞を生きたまま、単なる吸引操作で簡単かつ効率的に回収する。
【解決手段】細胞回収装置10は、目的細胞20を捕捉する穴16Aを有し、穴16Aの捕捉壁面16Bが細胞流入側に向かって拡径する断面弧状のフィルタ16と、フィルタ16を保持する筒状のホルダ18と、フィルタ16による目的細胞20の捕捉後にフィルタ16の捕捉壁面16Bの裏側に対向して配置され、ホルダ18の底を構成するボトムカバー14と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的細胞を捕捉する穴を有し、前記穴の捕捉壁面が細胞流入側に向かって拡径する断面弧状のフィルタと、
前記フィルタを保持する筒状のホルダと、
前記フィルタによる前記目的細胞の捕捉後に前記フィルタの前記捕捉壁面の裏側に対向して配置され、前記ホルダの底を構成するボトムカバーと、
を有する細胞回収装置。
【請求項2】
前記フィルタにおける前記捕捉壁面の裏側に前記穴と連通した凹部が形成されている請求項1に記載の細胞回収装置。
【請求項3】
前記フィルタの電鋳金属材料がNi-Pdである請求項1に記載の細胞回収装置。
【請求項4】
目的細胞を捕捉する穴を有し、前記穴の捕捉壁面が細胞流入側に向かって拡径する断面弧状のフィルタが筒状のホルダに取り付けられたフィルタユニットを用いて前記目的細胞を捕捉する工程と、
前記フィルタにおける前記捕捉壁面の裏側にボトムカバーを対向させて、前記フィルタユニットを前記ボトムカバーの上に配置する工程と、
前記フィルタユニットに回収溶液を注入して前記目的細胞を前記回収溶液に浸漬する工程と、
吸引器で前記捕捉壁面側から前記回収溶液と共に前記目的細胞を吸引して回収する工程と、
を有する細胞回収方法。
【請求項5】
前記フィルタにおける前記捕捉壁面の裏側に前記穴と連通した凹部が形成されている請求項4に記載の細胞回収方法。
【請求項6】
前記捕捉壁面の裏側から前記回収溶液を加圧する請求項4に記載の細胞回収方法。
【請求項7】
前記フィルタの電鋳金属材料がNi-Pdである請求項4に記載の細胞回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞回収装置及び細胞回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象とする細胞をフィルタから引き離して培養操作を実施する細胞の培養方法及び培養装置が開示されている(特許文献1参照)。細胞をフィルタから引き離す手段として、超音波振動、電場印加、圧力印加が記載されている。
【0003】
また、培養容器から細胞が含まれた薬液をピペット内に吸引することが開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
更に、末梢循環腫瘍細胞又は希少細胞の分離に使用される3D Pd・Niフィルタが開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-174710号公報
【特許文献2】特開2021-185749号公報
【特許文献3】特許第5961889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の従来例では、フィルタに捕捉された目的細胞の回収率を高めることが難しかった。上記した特許文献2に記載の従来例では、細胞が含まれた薬液をピペット内に吸引することは開示されているが、目的細胞をフィルタで捕捉することは記載されていない。上記した特許文献3に記載のフィルタを使用して細胞を捕捉した場合、細胞がフィルタの穴の流入側角部に嵌まり込むことが考えられる。この場合、細胞を回収溶液と共に吸引しても、その吸引力だけでは細胞がフィルタから離れ難いため、細胞の回収率を高めることが難しいと考えられる。
【0007】
本発明は、フィルタに捕捉された目的細胞を生きたまま、単なる吸引操作で簡単かつ効率的に回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る細胞回収装置は、目的細胞を捕捉する穴を有し、前記穴の捕捉壁面が細胞流入側に向かって拡径する断面弧状のフィルタと、前記フィルタを保持する筒状のホルダと、前記フィルタによる前記目的細胞の捕捉後に前記フィルタの前記捕捉壁面の裏側に対向して配置され、前記ホルダの底を構成するボトムカバーと、を有する。
【0009】
この細胞回収装置では、ホルダに保持されたフィルタにより、目的細胞を捕捉する。フィルタの捕捉壁面の裏側に対向して、ホルダの底を構成するボトムカバーが配置されるので、フィルタが浸るように回収溶液を注入することで、フィルタに捕捉された目的細胞を捕捉壁面側から回収溶液と共に吸引して回収することができる。フィルタにおいて、目的細胞を捕捉する穴の捕捉壁面が、細胞流入側に向かって拡径する断面弧状であるので、穴の流入側に角部がある場合と比較して、目的細胞が穴の細胞流入側に嵌まり込み難い。このため、捕捉された目的細胞が穴から離れ易い。
【0010】
第2の態様は、第1の態様に係る細胞回収装置において、前記フィルタにおける前記捕捉壁面の裏側に前記穴と連通した凹部が形成されている。
【0011】
この細胞回収装置では、フィルタにおける捕捉壁面の裏側に、目的細胞を捕捉する穴と連通した凹部が形成されているので、回収溶液が凹部から穴に入って捕捉壁面側に通過し易い。このため、捕捉された目的細胞の回収の際に、該目的細胞が穴から離れ易い。
【0012】
第3の態様は、第1の態様に係る細胞回収装置において、前記フィルタの電鋳金属材料がNi-Pdである。
【0013】
この細胞回収装置では、フィルタの電鋳金属材料がNi-Pdであり、毒性のあるニッケルが溶出しないため、細胞障害性が低く、細胞を生きたまま回収し易い。しかも、フィルタについて引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることができる。
【0014】
第4の態様に係る細胞回収方法は、目的細胞を捕捉する穴を有し、前記穴の捕捉壁面が細胞流入側に向かって拡径する断面弧状のフィルタが筒状のホルダに取り付けられたフィルタユニットを用いて前記目的細胞を捕捉する工程と、前記フィルタにおける前記捕捉壁面の裏側にボトムカバーを対向させて、前記フィルタユニットを前記ボトムカバーの上に配置する工程と、前記フィルタユニットに回収溶液を注入して前記目的細胞を前記回収溶液に浸漬する工程と、吸引器で前記捕捉壁面側から前記回収溶液と共に前記目的細胞を吸引して回収する工程と、を有する。
【0015】
この細胞回収方法では、フィルタユニットを用いて目的細胞を捕捉する。目的細胞を捕捉する穴の捕捉壁面は、細胞流入側に向かって拡径する断面弧状である。次に、フィルタにおける捕捉壁面の裏側にボトムカバーを対向させるようにして、フィルタユニットをボトムカバーの上に配置する。次に、フィルタユニットに回収溶液を注入して目的細胞を回収溶液に浸漬する。そして、捕捉壁面側から吸引器で回収溶液と共に目的細胞を吸引して回収する。
【0016】
フィルタにおいて、目的細胞を捕捉する穴の捕捉壁面が、細胞流入側に向かって拡径する断面弧状であるので、穴の流入側に角部がある場合と比較して、目的細胞が穴の細胞流入側に嵌まり込み難い。このため、捕捉された目的細胞が穴から離れ易い。
【0017】
第5の態様は、第4の態様に係る細胞回収方法において、前記フィルタにおける前記捕捉壁面の裏側に前記穴と連通した凹部が形成されている。
【0018】
この細胞回収方法では、フィルタにおける捕捉壁面の裏側に、目的細胞を捕捉する穴と連通した凹部が形成されているので、回収溶液が凹部から穴に入って捕捉壁面側に通過し易い。このため、捕捉された目的細胞の回収の際に、該目的細胞が穴からより離れ易い。
【0019】
第6の態様は、第4の態様に係る細胞回収方法において、前記捕捉壁面の裏側から前記回収溶液を加圧する。
【0020】
この細胞回収方法では、捕捉壁面の裏側から回収溶液を加圧することで、回収溶液が穴を通じて捕捉壁面側に流れる。これにより、穴に捕捉された目的細胞が穴からより一層離れ易くなる。
【0021】
第7の態様は、第4の態様に係る細胞回収方法において、前記フィルタの電鋳金属材料がNi-Pdである。
【0022】
この細胞回収方法では、フィルタの電鋳金属材料がNi-Pdであり、毒性のあるニッケルが溶出しないため、細胞障害性が低く、細胞を生きたまま回収し易い。しかも、フィルタについて引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フィルタに捕捉された目的細胞を生きたまま、単なる吸引操作で簡単かつ効率的に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る細胞回収装置において、ホルダに保持されたフィルタ(フィルタユニット)により目的細胞を捕捉した状態を示す断面図である。
図2】(A)、(B)は、目的細胞がフィルタの穴に捕捉された状態を示す拡大断面図である。
図3】フィルタユニットをボトムカバーの上に配置した状態を示す断面図である。
図4】フィルタユニットに回収溶液を注入し、目的細胞を回収溶液に浸漬した状態を示す断面図である。
図5】捕捉壁面の裏側から回収溶液を加圧している状態を示す断面図である。
図6】吸引器で捕捉壁面側から回収溶液と共に目的細胞を吸引して回収している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一又は同様の構成要素であることを意味する。なお、以下に説明する実施形態において重複する説明及び符号については、省略する場合がある。また、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0026】
[細胞回収装置]
図1図3において、本実施形態に係る細胞回収装置10は、フィルタユニット12と、ボトムカバー14とを有している。フィルタユニット12は、フィルタ16がホルダ18に取り付けられて構成されている。
【0027】
図2(A)において、フィルタ16は、例えば電鋳金属で構成され、目的細胞20を捕捉する穴16Aを有している。穴16Aの捕捉壁面16Bは、細胞流入側に向かって拡径する断面弧状とされている。フィルタ16における捕捉壁面16Bの裏側には、穴16Aと連通した凹部16Cが形成されている。なお、凹部16Cは必ずしも形成されていなくてもよい(図2(B))。図2(A)における凹部16Cの部分を削ることで、図2(B)のフィルタ16を得ることができる。
【0028】
フィルタ16の電鋳金属材料は、例えばNi-Pd(ニッケル・パラジウム)合金である。この合金の配合は、Pdが80%、Niが20%である。フィルタ16の穴16Aの最小径(細胞流出側の直径)は、例えば5~20μmである。
【0029】
ホルダ18は、フィルタ16を保持する部材であり、筒状に構成されている。具体的には、ホルダ18は、外側部材22と、外側部材22の内側に嵌め込まれる内側部材24とを有して構成されている。外側部材22の内側部材24の中心部は、その軸方向にそれぞれ貫通している。外側部材22と内側部材24によりフィルタ16の外縁を挟持することで、フィルタ16がホルダ18に保持されている。外側部材22と内側部材24による挟持力を持続的に生じさせるために、図示しないねじ機構等を用いてもよい。
【0030】
フィルタユニット12に対し、矢印A方向に濾過対象の例えば体液を流すと、フィルタ16が血液細胞等の体液細胞のほとんどを通過させ(矢印B方向)、末梢循環腫瘍細胞(CTC)や希少細胞等の比較的大きな目的細胞20を捕捉できるようになっている。
【0031】
図3において、ボトムカバー14は、フィルタ16による目的細胞20の捕捉後にフィルタ16の捕捉壁面16Bの裏側に対向して配置され、ホルダ18の底を構成する部材である。具体的には、ボトムカバー14は、例えばホルダ18の細胞流出側の開口(外側部材22の開口)を塞ぐことが可能な蓋体である。
【0032】
なお、ボトムカバー14を、回収溶液26を貯留可能な容器として構成し、フィルタユニット12(ホルダ18)を容器内に載置し、容器に回収溶液26に注いで、フィルタ16に捕捉された目的細胞20を回収溶液26に浸漬するようにしてもよい。回収溶液26は、例えば生理食塩水(PBS)、培養液、ソリューション、セルバンカーである。
【0033】
[細胞回収方法]
【0034】
図1から図6において、本実施形態に係る細胞回収方法は、
目的細胞20を捕捉する穴16Aを有し、穴16Aの捕捉壁面16Bが細胞流入側に向かって拡径する断面弧状のフィルタ16が筒状のホルダ18に取り付けられたフィルタユニット12を用いて目的細胞20を捕捉する工程と、
フィルタ16における捕捉壁面16Bの裏側にボトムカバー14を対向させて、フィルタユニット12をボトムカバー14の上に配置する工程と、
フィルタユニット12に回収溶液26を注入して目的細胞20を回収溶液26に浸漬する工程と、
吸引器28で捕捉壁面16B側から回収溶液26と共に目的細胞20を吸引して回収する工程と、
を有する。
【0035】
吸引器28としては、シリンジ、ピペット等を用いることができる。目的細胞20を回収溶液26に浸漬した後、捕捉壁面16Bの裏側から回収溶液26を加圧してもよい。
【0036】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1から図6において、本実施形態に係る細胞回収装置10を用いて細胞を回収することができる。まず、図1図2において、フィルタユニット12を用いて、体液から目的細胞20を捕捉する。目的細胞20を捕捉する穴16Aの捕捉壁面16Bは、細胞流入側に向かって拡径する断面弧状である。
【0037】
次に、図3に示されるように、フィルタ16における捕捉壁面16Bの裏側にボトムカバー14を対向させるようにして、フィルタユニット12をボトムカバー14の上に配置する。
【0038】
次に、図4に示されるように、フィルタユニット12に回収溶液26を注入して目的細胞20を回収溶液26に浸漬する。回収溶液26はフィルタ16を通過するので、ボトムカバー14とフィルタ16の間の空間は、回収溶液26で満たされる。
【0039】
この段階で、図5に示されるように、捕捉壁面16Bの裏側から回収溶液26を矢印C方法に加圧してもよい。加圧手段は任意である。例えば、捕捉壁面16Bの裏側の回収溶液26に対して圧力を付与するための経路と、シリンジ等の圧力付与手段を用いてもよいし、またフィルタユニット12を少し持ち上げた状態から下方に押し下げてもよい。
【0040】
そして、図6に示されるように、捕捉壁面16B側から吸引器28で回収溶液26と共に目的細胞20を吸引して回収する。
【0041】
本実施形態では、フィルタ16において、目的細胞20を捕捉する穴16Aの捕捉壁面16Bが、細胞流入側に向かって拡径する断面弧状であるので、穴16Aの流入側に角部がある場合と比較して、目的細胞20が穴16Aの細胞流入側に嵌まり込み難い。このため、捕捉された目的細胞20が穴16Aから離れ易い。
【0042】
また、フィルタ16における捕捉壁面16Bの裏側に、目的細胞20を捕捉する穴16Aと連通した凹部16Cが形成されているので、回収溶液26が凹部16Cから穴16Aに入って捕捉壁面16B側に通過し易い。このため、捕捉された目的細胞20の回収の際に、該目的細胞20が穴16Aからより離れ易い。
【0043】
更に、捕捉壁面16Bの裏側から回収溶液26を加圧した場合、回収溶液26が穴16Aを通じて捕捉壁面16B側に流れる。これにより、穴16Aに捕捉された目的細胞20が穴16Aからより一層離れ易くなる。
【0044】
また、フィルタ16の電鋳金属材料がNi-Pdであり、毒性のあるニッケルが溶出しないため、細胞障害性が低く、細胞を生きたまま回収し易い。しかも、フィルタ16について引張強さ等の機械的特性を確保しつつ、耐食性を向上させることができる。
【0045】
このように、本実施形態によれば、フィルタ16に捕捉された目的細胞20を生きたまま、単なる吸引操作で簡単かつ効率的に回収できる。
【0046】
(試験例1)
図2(A)に示されるフィルタを用いて、目的細胞の回収効率を確認する試験を行った。手順と条件は次の通りである。
【0047】
フィルタユニットを濾過デバイスにセットし、容量10mLのシリンジを用いて、PBS-EDTA:5mLを濾過デバイスの上部から押し出す。濾過デバイス内に空気が入らないようにPBS-EDTAを満たした状態で保持する。
【0048】
1.スパイク検体
血液2mL+PBS-EDTA 2mL+H1975(肺がん細胞株) 300個
【0049】
2.濾過
このスパイク検体を15mLチューブに入れて静かに混和し、10mLシリンジに全量を入れる。
フィルタユニットと血液の入ったシリンジをつなぎ、シリンジポンプにセットし、50mL/hでスパイク検体をフィルタに通す。
【0050】
3.洗浄
血液のシリンジは廃棄し、PBS-EDTA 10mLを入れた10mLシリンジと濾過デバイスをつなぎ、シリンジポンプにセットし、50mL/hでバッファーをフィルタに通す。
【0051】
4.染色
抗体溶液2mL(PBS-EDTA 2mLに以下の抗体を希釈)を調製
Hoechst33342 2μL ( x1/1000)
EpCAM-PE 10μL ( x1/200)
CD45-FITC. 40μL ( x1/50)
この溶液を10mLシリンジに入れ、シリンジポンプにセットし、50mL/hでフィルタに通す(30min、室温光を避けて静置)。
【0052】
5.洗浄
抗体のシリンジは廃棄し、PBS-EDTA 10mLをシリンジポンプにセット、50mL/hでフィルタに通す。
【0053】
6.回収
フィルタユニットを濾過デバイスから外し、ボトムカバーに載せる。これを30mm dishに載せてフィルタ上に培地(10%FBS-RPMI1640)150μLでピペッティング( Gilson D200 tip,先端外径0.9mm)し、回収して1.5mLチューブに入れる。
これを遠心濃縮し、96well plateの1 wellに入れ、倒立顕微鏡でスキャンする。
Hoechst(+),Hoechst(+)EpCAM(+)CD45(-)細胞をカウントする。
7.回収後のフィルタ
回収後のフィルタは、実体顕微鏡でスキャンする。
Hoechst(+),Hoechst(+)EpCAM(+)CD45(-)細胞をカウントする。
【0054】
結果を表1に示す。この結果によれば、目的細胞をPBS(生理食塩水)と一緒に吸引するだけで、目的細胞を平均回収率97.3%で回収することが立証できた。
【0055】
【表1】
【0056】
(試験例2)
図2(B)に示されるフィルタ16を用いて、目的細胞の回収効率を確認する試験を行った。このフィルタは、図2(A)において、S凹部16Cを省略したものである。
【0057】
捕捉直後のピペッティングによる回収率をスパイクテストで確認した。特に説明のない項目は、試験例1の項目と同様である。
【0058】
1.スパイク検体
2.濾過
3.洗浄
【0059】
4.染色
30min,RT
【0060】
抗体溶液2mL(PBS-EDTA 2mLに以下の抗体を希釈)を調製
Hoechst33342 x1/1000
EpCAM-PE x1/100
CD45-FITC. x1/50
【0061】
5.洗浄
6.回収
培地150μL x3回 ピペッティングで回収する。遠心濃縮後 96well plateの1 wellに入れ、倒立顕微鏡でスキャンする。
Hoechst(+),Hoechst(+) EpCAM(+) CD45(-) 細胞をカウントする。
【0062】
7.回収後のフィルタ
回収後のフィルタを実体顕微鏡でスキャンする。
Hoechst(+),Hoechst(+) EpCAM(+) CD45(-) 細胞をカウントする。
使用抗体
EpCAM-PE, clone 9C4
BioLegend 324206x1/100使用
CD45-FITC, clone J33
Beckman Coulter A07782x1/50 使用
Hoechst33342,10mg/mL
Invitrogen H3570x1/1000 使用
【0063】
結果を表2に示す。この結果によれば、目的細胞をPBS(生理食塩水)と一緒に吸引するだけで、目的細胞を平均回収率76.7%で回収することができた。試験例1の平均回収率は97.3%であり、試験例2よりも高いが、これは試験例1のフィルタの厚さが凹部を有することで比較的大きくなっていることから、形状が安定していることによるものと考えられる。
【0064】
【表2】
【0065】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の実施形態は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
10 細胞回収装置
12 フィルタユニット
14 ボトムカバー
16 フィルタ
16A 穴
16B 細胞捕捉面
16C 凹部
18 ホルダ
20 目的細胞
26 回収溶液
28 吸引器
図1
図2
図3
図4
図5
図6