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特開2024-7134天然昆布育成装置、及び、天然昆布育成装置を用いて天然昆布を増殖させる方法
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  • 特開-天然昆布育成装置、及び、天然昆布育成装置を用いて天然昆布を増殖させる方法 図1
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  • 特開-天然昆布育成装置、及び、天然昆布育成装置を用いて天然昆布を増殖させる方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007134
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】天然昆布育成装置、及び、天然昆布育成装置を用いて天然昆布を増殖させる方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108381
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】300021002
【氏名又は名称】株式会社森機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】山下 良慈
(72)【発明者】
【氏名】森 光典
【テーマコード(参考)】
2B026
【Fターム(参考)】
2B026AA02
2B026AB02
2B026AC01
2B026FA05
(57)【要約】
【課題】 多大な費用を掛けずに簡単かつ安価な構成で天然昆布の成育を可能とする天然昆布成育装置と、その天然昆布成育装置を用いた天然昆布の増殖方法とを提供する。
【解決手段】 天然昆布成育装置は、樹脂製の付着器と、付着器の下部に一端が取り付けられたロープと、ロープの他端に取り付けられたアンカーウェイトと、ロープの途中に設けられ、天然昆布を餌とするウニがロープを伝って前記付着器に上ることを防止する防止部と、付着器の上部に取り付けられたフロートとを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に設置される天然昆布成育装置であって、
樹脂製の付着器と、
前記付着器の下部に一端が取り付けられたロープと、
前記ロープの他端に取り付けられたアンカーウェイトと、
前記ロープの途中に設けられ、天然昆布を餌とするウニが前記ロープを伝って前記付着器に上ることを防止する防止部と、
前記付着器の上部に取り付けられたフロートと
を備える天然昆布成育装置。
【請求項2】
前記付着器が複数の付着部材を含み、前記複数の付着部材は、海中で上下方向に並ぶように連結されている、請求項1に記載の天然昆布成育装置。
【請求項3】
前記付着器はポリエチレンパイプである、請求項1に記載の天然昆布成育装置。
【請求項4】
前記ロープは、太陽光が届く水深に前記付着器が位置する長さを有する、請求項1に記載の天然昆布成育装置。
【請求項5】
前記ロープは、前記付着器の上下方向中央部分が海面から1.3m~1.7mの深さに位置する長さを有する、請求項4に記載の天然昆布成育装置。
【請求項6】
天然昆布を増殖させる方法であって、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の複数の天然昆布成育装置を、天然昆布の遊走子放出時期に、天然昆布の生息場所及びその周辺海域のいずれか又は両方に設置する第1の設置工程と、
前記天然昆布成育装置の付着器における天然昆布の発芽状態を確認する確認工程と、
前記天然昆布成育装置のうち発芽が確認されなかった天然昆布成育装置がある場合にはそれらを回収し、発芽が確認された天然昆布成育装置を放置して天然昆布を成長させる成長工程と、
発芽が確認された発芽済み天然昆布成育装置において成長した天然昆布が枯れ始める前に、前記発芽済み天然昆布成育装置の一部を天然昆布の非繁殖場所に移設する移設工程と、
前記移設工程において移設されなかった前記発芽済み天然昆布成育装置において成長した天然昆布の遊走子放出時期に、その場所及び周辺海域のいずれか又は両方に、複数の新たな天然昆布成育装置を設置する第2の設置工程と、
天然昆布の一部を収穫する第1の収穫工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記移設工程の後に、前記発芽済み天然昆布成育装置を移設した前記非繁殖場所及びその周辺海域のいずれか又は両方に、新たな複数の前記天然昆布成育装置を設置する第3の設置工程と、
前記非繁殖場所において天然昆布の一部を収穫する第2の収穫工程と
をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記移設工程は、前記発芽済み天然昆布成育装置の前記一部のうちのさらに一部分、及び/又は、前記発芽済み天然昆布成育装置の前記一部とは別の一部分を、養殖昆布成育施設に移設する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第1及び第2の設置工程並びに前記移設工程において、太陽光が届く水深に天然昆布成育装置の付着器が位置するように、前記天然昆布成育装置及び前記発芽済み天然昆布成育装置を設置することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び第2の設置工程及び前記移設工程において、前記付着器の上下方向中央部分が海面から1.3m~1.7mの深さに位置するように、前記天然昆布成育装置及び前記発芽済み天然昆布成育装置を設置することを含む、請求項9に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然昆布の成育に関し、より具体的には、天然昆布を発芽及び成長させることが可能で、容易に移設、移動することができる天然昆布の成育装置と、その装置を用いて天然昆布の成育場所を拡大することによって天然昆布を増殖させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然昆布が減少し、それが昆布漁獲量に影響を与えている。天然昆布の減少の原因として、ウニによる食害、海水温の上昇、人工物(港湾整備)による環境変化、栄養塩の減少などが挙げられている。昆布漁獲量の安定化のために養殖昆布の生産が普及しているが、養殖昆布も天然昆布を母藻とするため、天然昆布の減少は、養殖昆布の生産にも影響を与える。
【0003】
天然昆布の減少に最も影響する要因は、ウニによる食害である。海水温の高い場所でウニが大量に発生すると、ウニによる摂餌活動が盛んになり、本来は低水温期に発芽する昆布の若芽を全て食べ尽くしてしまい、これにより1年目の昆布が激減する。そうすると、炭酸カルシウムの骨格を持ち石のように硬くなる無節サンゴモ(無節石灰藻)が、昆布の付着していない岩や石の表面に繁殖して覆い尽くし、昆布の遊走子の着生を阻害して、更に昆布の繁殖を妨げることになる。
【0004】
天然昆布を再生又は増殖させる方法は、いくつか提案されている。
例えば、特許文献1(実開昭58-59454号公報)は、天然昆布の胞子(遊走子)をセラミックブロック製の人工昆布礁に着生させて成育させる技術である。この技術は、昆布礁の形状が、ウニの食害を防止できるどころかウニにとって最適な餌場を提供するものである。また、人工昆布礁を設置した場所が適切ではない場合や昆布の成育ができなくなった場合でも、移設や廃棄が容易ではない。
【0005】
特許文献2(特開2005-110612号公報)は、人工種苗を付着させた木灰セラミックスを暖簾式に海中にぶら下げて昆布を成育する技術である。この技術は、ウニによる食害を防止することはできるが、天然昆布の増殖には寄与しない。すなわち、2年目まで昆布が成育して遊走子を放出し、放出された遊走子が海底の石などに付着して順調に発芽したとしても、そこにウニが繁殖していれば、食害を防止することはできない。また、この装置を設置した場所が適切な場所ではないことが判明しても、移設は容易ではない。さらに、木灰セラミックスの昆布が寿命で枯れたとしても、木灰セラミックスの暖簾を回収し、清掃を行い、新たに人工種苗を付着させて海中に戻すことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭58-59454号公報
【特許文献2】特開2005-110612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多大な費用を掛けずに簡単かつ安価な構成で天然昆布の成育を可能とする天然昆布成育装置と、その天然昆布成育装置を用いた天然昆布の増殖方法とを提供することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、海中に設置される天然昆布成育装置を提供する。天然昆布成育装置は、樹脂製の付着器と、付着器の下部に一端が取り付けられたロープと、ロープの他端に取り付けられたアンカーウェイトと、ロープの途中に設けられ、天然昆布を餌とするウニがロープを伝って前記付着器に上ることを防止する防止部と、付着器の上部に取り付けられたフロートとを備える。
【0009】
付着器は、海中で上下方向に並ぶように連結された複数の付着部材を含むものとすることもできる。付着器は、ポリエチレンパイプであることが好ましい。
【0010】
ロープは、太陽光が届く水深に付着器が位置する長さを有することが好ましく、付着器の上下方向中央部分が海面から1.3m~1.7mの深さに位置する長さを有することがより好ましい。
【0011】
本発明は、さらに、天然昆布を増殖させる方法を提供する。この方法は、上記の複数の天然昆布成育装置を、天然昆布の遊走子放出時期に、天然昆布の生息場所及びその周辺海域のいずれか又は両方に設置する第1の設置工程を含む。方法は、さらに、天然昆布成育装置の付着器における天然昆布の発芽状態を確認する確認工程と、天然昆布成育装置のうち発芽が確認されなかった天然昆布成育装置がある場合にはそれらを回収し、発芽が確認された天然昆布成育装置を放置して天然昆布を成長させる成長工程を含む。方法は、さらに、発芽が確認された発芽済み天然昆布成育装置において成長した天然昆布が枯れ始める前に、発芽済み天然昆布成育装置の一部を天然昆布の非繁殖場所に移設する移設工程と、移設工程において移設されなかった前記発芽済み天然昆布成育装置において成長した天然昆布の遊走子放出時期に、その場所及び周辺海域のいずれか又は両方に、新たな複数の天然昆布成育装置を設置する第2の設置工程とを含む。天然昆布の一部は、第1の収穫工程において収穫される。
【0012】
方法は、移設工程の後に、発芽済み天然昆布成育装置を移設した非繁殖場所及びその周辺海域のいずれか又は両方に、新たな複数の天然昆布成育装置を設置する第3の設置工程と、非繁殖場所及びその周辺海域のいずれか又は両方において天然昆布の一部を収穫する第2の収穫工程とをさらに含むことが好ましい。移設工程は、発芽済み天然昆布成育装置の一部のうちのさらに一部分、及び/又は、発芽済み天然昆布成育装置の一部とは別の一部分を、養殖昆布成育施設に移設する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成の天然昆布成育装置を用いることによって、多大な費用をかけることなく、天然昆布の成育に適した場所への装置の設置や必要性に応じた移設が容易であり、使用後には簡単に回収して海洋汚染や廃プラスチックの流出を防ぐことができる。また、本発明によれば、本来は天然昆布が繁殖しない場所(例えば、砂地など)でも、天然昆布を繁殖させることができるため、天然昆布の増殖が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による天然昆布成育装置の概念図である。
図2】本発明の別の実施形態による天然昆布育成装置の概念図である。
図3】本発明の一実施形態による天然昆布成育装置を用いて天然昆布を増殖させる工程を示すフロー図である。
図4】本発明の一実施形態による天然昆布育成装置を用いて2年目の天然昆布養殖を行う施設の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
(天然昆布成育装置)
図1は、本発明の一実施形態による天然昆布成育装置1(以下、装置1という)の概念図である。装置1は、簡単かつ安価な構成であるため、多大な費用を掛けずに天然昆布の成育が可能である。また、装置1は、天然昆布の成育に適した場所への設置、必要性に応じた移設や移動が容易であり、使用後には簡単に回収して海洋汚染や廃プラスチックの流出を防ぐことができる。装置1の設置、移設、移動及び回収は、既存の昆布作業船で容易に行うことができる。
【0017】
装置1は、遊走子が付着し、天然昆布が成長するための基材となる付着器2を有する。付着器2は、天然昆布の遊走子が定着することができ、取り扱いが容易で、安価かつ長期間の耐久性があり、洗浄することによって再利用可能なものであることが好ましい。付着器2の材料として、例えば、ポリエチレン、硬質塩化ビニールなどの樹脂を用いることができ、ポリエチレンを用いることがより好ましい。付着器2の形状は、パイプ形状、平板形状、棒形状などとすることができるが、パイプ形状であることがより好ましい。すなわち、付着器2は、ポリエチレン製のパイプが最も好ましい。
【0018】
付着器2として最も好ましいポリエチレンパイプの場合、その長さ及び直径は、天然昆布の付着力が十分に得られる程度の表面積が得られる程度であれば、限定されるものではない。ポリエチレンパイプの付着器2は、例えば、長さが40cm程度、直径が10cm程度のものを用いることができる。
【0019】
付着器2の下部2aには、ロープ3の一端が取り付けられる。ロープ3の材料は、十分な強度が得られるものであれば、限定されるものではない。ロープ3を下部2aに取り付ける方法は、特に限定されるものではないが、単に付着器2に設けた孔などにロープ3を結ぶだけでは、時化の際に装置1が大きく揺れたときにロープ3が切断されるおそれがある。そのため、図1(b)に示されるように、下部2aの対向する壁面のそれぞれに孔を開け、2つの孔を通して内部の径方向に棒状部材2cを渡し、その棒状部材2cにロープ3を結びつけることによって、ロープ3を付着器2に取り付けることが好ましい。
【0020】
ロープ3の長さは、装置1を設置する場所の水深に合わせて適宜調整される。例えば、長さの異なる複数のロープ3を準備しておき、設置場所の水深に応じて適切な長さのロープ3を用いることができる。ロープ3の長さは、太陽光が届く水深に付着器2が位置する長さであることが好ましく、付着器2の上下方向中央部分が海面から1.3~1.7mの深さに位置する長さであることがより好ましい。
【0021】
ロープ3の他端には、装置1が流されないようにするためのアンカーウェイト4が取り付けられる。アンカーウェイト4の種類は、特に限定されるものではなく、例えばコンクリートウェイトや玉石などを、設置場所の状況に応じて適宜選択することができる。アンカーウェイト4として玉石を用いれば、万が一時化で流出した場合でも、環境に悪影響を与える可能性が低いことに加えて、玉石自体に天然昆布が付着する可能性もあるため、天然昆布の成育に寄与する。アンカーウェイト4の重量は、装置1の可搬性や取り扱いの容易性と、付着器2に付着して成長する天然昆布が受ける潮流や時化の時の波の影響とを考慮して、決定される。
【0022】
ロープ3には、ウニの食害を防止する目的で、ロープ3を伝ってウニが付着器2まで上らないように、ウニ防止部5を設ける。ウニ防止部5として、限定されるものではないが、中央にロープ3を貫通させた平板状の装置、いわゆる鼠返しのような機能を有するものを用いることができる。ウニ防止部5の材料として、特に限定されるものではなく、例えば、樹脂、木、金属などを適宜用いることができる。ウニ防止部5をロープ3に取り付ける位置は、特に限定されるものでなく、例えば、ロープ3の中央部分に取り付けることができる。ウニ防止部5の大きさは、ウニがロープ3を伝って付着器2の方向に向かうことを効果的に防止することができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0023】
付着器2の上部2bには、直接、又は短いロープを介して、フロート6が取り付けられる。フロート6は、ロープ3を伸ばし、付着器2を海中に浮かせるために取り付けられる。装置1においては、付着器2も、そこに付着した天然昆布自体も浮力を発生させるため、フロート6は小型のものでよい。このフロート6から別のロープを延長し、より小型で色の鮮やかな標識用のフロート7を付けることによって、装置1の設置場所を容易に発見することができる。
【0024】
図2は、本発明の別の実施形態による天然昆布成育装置の概念図である。なお、図2においては、ウニ防止部5が省略されている。図2(a)は、図1の付着器2を横向きにして取り付けた形態の装置1Aである。装置1Aは、ポリエチレンパイプを横向きにした付着器2Aを有する。この実施形態では、ロープ3には付着器2Aの端部が取り付けられるが、ロープ3を付着器2Aの長さ方向中央部分に取り付けることもできる。装置1Aを用いれば、天然昆布の繁殖水深が深い場所で遊走子をより確実に付着器に付着させることができる。また、図2(b)は、図1の付着器2を複数、横向きにして取り付けた形態の装置1Bである。装置1Bは、ポリエチレンパイプを横向きにした複数の付着部材2Bを含む付着器2Bを有する。この実施形態では、複数の付着部材2Bは、いずれも長さ方向中央部分がロープ3に取り付けられているが、付着器2Bの端部をロープ3に取り付けることもできる。装置1Bを用いれば、潮流の早い場所でもパイプ抵抗を低減させることができるため、アンカーウェイトの重量を必要以上に大きくする必要がない。
【0025】
(天然昆布成育装置を用いた天然昆布増殖方法)
次に、装置1を用いて天然昆布を増殖させる方法を説明する。図3は、天然昆布を増殖させる工程を示すフロー図である。
【0026】
最初に、装置1を設置する場所を選定する(図3の工程31)。天然昆布は激減しているものの、昆布漁師であれば、経験上、天然昆布の生息場所はおおよそ把握している。また、2年目の天然昆布が遊走子を放出する時期も分かっている。したがって、2年目の天然昆布の遊走子放出の時期に、2年目の天然昆布が生息している場所及び/又はその周辺海域の適切な場所に、装置1を設置する(工程32)。海流は潮の干満や海底の地形によって予測不能であるため、海流を考慮して遊走子が流れ着きそうな場所にわたって、複数の装置1を設置することが好ましい。装置1を設置する時期(すなわち、2年目の天然昆布から遊走子が放出される時期)は、概ね9月頃である。天然昆布から放出された遊走子は、装置1の付着器2に付着する。
【0027】
装置1が設置される場所は、満潮時に水深が3m程度となる比較的浅い場所が好ましい。これは、この水深が、波の影響を適度に受けやすく、かつ、透明度が低くなった場合でも十分な太陽光を得ることができる水深であることが理由である。波の影響を適度に受けることによって、付着力の強い天然昆布と弱い天然昆布とを自然に選別することにもつながる。また、こうした場所は、波によって天然昆布を餌とするウニが流されやすく、食害を防止しやすいという利点もある。
【0028】
装置1は、このような場所において、好ましくは、太陽光が十分に届く水深に装置1の付着器2が位置するように設置され、より好ましくは、装置1の付着器2の上下方向中央部分が海面から1.3m~1.7mの深さに位置するように設置される。
【0029】
付着器2に付着した遊走子は、発芽して配偶体になる。この時期は、概ね、その年の11月頃であり、この時点で装置1における発芽状態を確認する(工程33)。付着器2における発芽が確認された装置1(発芽済み装置)は、原則としてそのまま放置して、配偶体を成長させる。発芽が確認されなかった装置1は、放置しておくと付着器2に雑海草や無節サンゴモなどが繁殖するため、速やかに回収することが好ましい(工程34)。あるいは、万が一、すべての装置1において発芽が確認されなかった場合、その場所は天然昆布の成育に適した場所ではない可能性が高いため、装置1を容易に回収して他の場所に移設することができる。
【0030】
発芽状況を確認し、天然昆布が過密状態になる可能性がある場合は、そのままでは栄養分が不足するおそれがある。このような状況の場合は、装置1の一部を間引き、他の場所に移設することが好ましい。また、例えば北海道において流氷が接岸する期間には、流氷による装置1の損傷を防止するために、水深の深い場所に容易に移動させることもできる。装置1は、1つ1つの構造が簡単であり、他の場所への移設が容易である。
【0031】
発芽が確認され、そのまま放置された装置1では、幼胞子体の状態で越冬した後、翌年の春頃に1年目の天然昆布が成長する。天然昆布は、夏ごろまで成長し、その後は葉状部先端から枯れ始める。枯れ始める前(概ね9月ころ)に、装置1の一部を回収し、通常は天然昆布が繁殖していない非繁殖場所、例えば砂地の海域に移設(工程35)する。装置1の一部が移設された場所及び周辺海域において、翌年の9月頃における2年目の天然昆布の遊走子放出の時期に、新たな複数の装置1を配置する(工程36)ことによって、遊走子放出に備えることができる。このように、装置1の一部を、天然昆布の非繁殖場所に移設し、さらにそこに新たな装置1を配置することによって、その場所を新たな天然昆布の繁殖地として、天然昆布を増殖させることができる。同様の工程を繰り返して海中昆布林を作り、本来は海藻が生育しない広大な砂地に天然昆布の繁殖地を出現させることも可能である。砂地の海域は、ウニが身を隠す場所がなく、ウニの生息に適さないので、食害を防ぐこともできる。
【0032】
発芽が確認された装置1のうち、非繁殖場所に移設しない装置1は、そのまま放置される(工程35)。放置された装置1には、1年目の天然昆布が成長し、そのまま葉状部先端が枯れた後、翌年の春、残った根元から2年目の天然昆布が成長する。2年目の天然昆布がさらに成長し、遊走子を放出する時期(すなわち、9月頃)になったときに、その場所及び/又は周辺海域に、複数の新たな装置1を設置する(工程37)。新たな装置1の付着器2には、遊走子が付着する。すなわち、この時期には、2年目の天然昆布が成育している複数の装置1と、遊走子が付着した新たな装置1とが混在している。
【0033】
2年目の天然昆布の一部は、遊走子の放出前に収穫される(工程38)。工程36において移設された場所においても、同様に天然昆布の一部を収穫することができる。天然昆布の収穫は、2年目の天然昆布が成育している装置1の一部において行われる。天然昆布を収穫しない残りの装置1の天然昆布は、遊走子放出用としてそのまま残され、遊走子放出後、天然昆布は廃棄される。天然昆布が収穫された付着器2には新たな天然昆布は育たないので、装置1は回収されることが好ましい。また、遊走子放出用の天然昆布が成育している装置1も、遊走子の放出後に回収されることが望ましい。上述のように、装置1は、1つ1つの構造が簡単であり、回収が容易である。回収された装置1は、乾燥、清掃、及び補修等を行った後、再利用することができる。
【0034】
別の実施形態においては、発芽が確認され、そのまま放置された装置1について、成長した天然昆布(1年目)が枯れ始める前に、従来の養殖昆布成育施設に移設することもできる。図4は、発芽が確認された複数の装置1からアンカーウェイト4を取り外した装置1’を、従来の養殖昆布成育施設10に設置した概念図である。なお、装置1の目印フロート7は、図4には示されていないが、目印フロート7は、そのまま取り付けてあっても取り外してもよい。
【0035】
上述の説明において、発芽が確認された装置1のうちの一部を天然昆布の非繁殖場所に移設すること(工程35)について説明したが、複数の装置1’を従来の養殖昆布成育施設に設置することもできる(工程39)。装置1’は、発芽が確認された装置1の一部のうちのさらに一部分(すなわち、工程35で移設された装置のうちの一部分)であっても、当該一部とは別の一部分(すなわち、工程34で発芽が確認された装置のうちの一部分)であっても、それらの両方であってもよい。いずれの場合でも、装置1からアンカーウェイト4を取り外し、ロープ3の他端を養殖昆布成育施設10のロープ30に取り付けることによって、装置1’を従来の養殖昆布成育施設に設置することができる。養殖昆布は、本来、1年物の促成昆布であるが、同じ施設に発芽が確認された後の装置1を移設することによって、促成昆布の養殖期間で2年物の養殖昆布を生産することができる。
【符号の説明】
【0036】
1、1A、1B 天然昆布成育装置
2、2A 付着器
2B 付着部材
3 ロープ
4 アンカーウェイト
5 ウニ防止部
6 フロート
7 目印フロート

10 養殖昆布成育施設
1’ ウェイトを取り外した天然昆布成育装置
30 ロープ
40 アンカー
60 フロート


図1
図2
図3
図4