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特開2024-71357高いジャケット水温で動作するように構成された大型2サイクルユニフロー掃気内燃機関及び方法
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  • 特開-高いジャケット水温で動作するように構成された大型2サイクルユニフロー掃気内燃機関及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071357
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】高いジャケット水温で動作するように構成された大型2サイクルユニフロー掃気内燃機関及び方法
(51)【国際特許分類】
   F01P 3/22 20060101AFI20240517BHJP
   F01L 5/06 20060101ALI20240517BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
F01P3/22 E
F01L5/06
F02B25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023191221
(22)【出願日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】PA202270552
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】エランド カーステン
(72)【発明者】
【氏名】スケルトウッド オーレ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高いジャケット水温で動作するように構成された大型2サイクルユニフロー掃気内燃機関及び方法を提供する。
【解決手段】圧力容器又は膨張タンク(77)と水冷回路(70)との間の流体接続部の各々にオリフィスが設けられており、水冷回路(70)内の停滞により冷却ジャケット、シリンダカバー又は排気バルブ内の水が沸騰する不慮の場合に、水冷回路(70)から圧力容器又は膨張タンク(77)への水の流れを制限する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関であって、
シリンダライナと、シリンダライナ内で往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気ガスを導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと;
前記シリンダカバー内の少なくとも1つの冷却経路と;
前記シリンダの一部分を囲む環状冷却室と;
前記シリンダカバーに配される排気出口であって、それぞれ排気弁により制御される排気出口と;
を備え、前記複数の燃焼室は、前記掃気ポートを通じて掃気受けに接続されると共に、前記排気出口を通じて排気受けに接続され、前記機関は更に、
排気流によって駆動されるタービンであってターボ過給システムのタービンを有する排気システムと;
前記ターボ過給システムのコンプレッサであって加圧された掃気空気を前記掃気受けに供給するように構成されるコンプレッサを有する空気取り入れシステムと;
少なくとも1つの一次循環ポンプを有する一次冷却回路であって、前記一次循環ポンプは前記一次冷却回路内に水を循環させるように構成され、前記少なくとも1つの冷却経路と、好ましくは前記環状冷却室とは前記一次冷却回路の一部である、前記一次冷却回路と;
を備えると共に、前記一次冷却回路内の水の膨張と収縮を可能にするために、前記前記一次冷却回路に流体接続部によって接続される圧力容器又は膨張タンクを備え、前記流体接続部が1つ又は複数の管路によって形成され、前記複数の管路の各々は、前記一次冷却回路から前記圧力容器又は前記膨張タンクへの水の流れを絞るためのオリフィスを有することを特徴とする、機関。
【請求項2】
前記オリフィスは、前記流体接続部を形成する1つ以上の管路について、少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、最も好ましくは少なくとも150倍、流体が流れることが可能な断面積を減少させる、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記1つ又は複数の管路は実質的に一定の内径を有し、前記内径は35mmから80mmの間であり、
前記少なくとも1つのオリフィスは、3mmから5mmの間の最小直径を有する、
請求項2に記載の機関。
【請求項4】
前記流体接続部に第1の逆流防止弁を備え、該第1の逆流防止弁は好ましくは圧力容器又は膨張タンクを脱気装置に流体接続する供給管に、前記少なくとも1つのオリフィスの1つと並列に配され、好ましくは前記冷却回路内の水が収縮したときに、圧力容器又は膨張タンクから一次冷却回路へ水が流れることを可能にする、請求項1から3のいずれかに記載の機関。
【請求項5】
前記一次冷却回路内の水の圧力が、好ましくは一次冷却回路内の水の膨張により、しきい値以上に上昇したときに、前記一次冷却回路から前記圧力容器又は前記膨張タンクへ水が流れることを可能にするために、前記流体接続部に圧力設定バルブが設けられ、前記圧力設定バルブは、好ましくは圧力容器又は膨張タンクを脱気装置に流体接続する供給管に、前記少なくとも1つのオリフィスの1つと並列に配置される、請求項1から4のいずれかに記載の機関。
【請求項6】
前記機関は前記流体接続部に第1の制御弁を備え、
前記第1の制御弁は、好ましくは前記圧力容器又は前記膨張タンクを脱気装置に流体接続する供給管に、少なくとも1つのオリフィスの1つと並列に配され、
該第1の制御弁は、好ましくは冷却回路を水で初期充填するために備えられる、
請求項1から5のいずれかに記載の機関。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の機関であって、
・ 機関冷却水入口及び機関冷却水出口と;
・ 前記機関冷却水出口から前記機関冷却水入口へと繋がる一次循環管路と;
・ 前記一次循環管路内に配置され、オリフィスを有する供給管路及びオリフィスを有する第1のベント管によって前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続される脱気装置と;
を備えると共に、好ましくは、前記機関水出口を前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続する第2のベント管を備え、前記第2のベント管はオリフィスを有する、機関。
【請求項8】
前記一次循環管路内において前記脱気装置の上流位置にオリフィスが設けられ、該オリフィスに並列に第2の制御弁が配置される、請求項7に記載の機関。
【請求項9】
前記少なくとも1つの一次循環ポンプは前記脱気装置の上流側に配置される、請求項7又は8に記載の機関。
【請求項10】
前記一次冷却回路内の水を冷却するための冷却器を備え、前記冷却器は、好ましくは、前記循環管路内に配置される冷却制限部と並列に配置され、前記冷却器は、好ましくは、第3の制御弁によって前記一次循環回路に接続され、前記第3の制御弁は、好ましくは制御装置によって制御される、請求項7から9のいずれかに記載の機関。
【請求項11】
前記冷却回路内の水の温度を表す第1の信号を受信する制御装置を備え、前記第1の信号は好ましくは水が機関を出て一次循環管路に入る場所に近い位置の温度を表し、
前記制御装置は、前記一次冷却回路の水の温度を少なくとも100℃、好ましくは120~130℃に制御するように構成される、
請求項1から10のいずれかに記載の機関。
【請求項12】
冷却器を備え、前記冷却器は、前記制御装置によって制御され、前記制御装置の制御下で前記一次冷却回路内の水に選択的な冷却量を適用し、前記一次冷却回路内の水に適用される冷却量を調整することにより、前記一次冷却回路内の水温を少なくとも100℃、好ましくは120~130℃の間の温度に制御するように構成される、請求項11に記載の機関。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の機関であって、
前記機関は、最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷範囲で動作するように構成され、
前記制御装置は、一次冷却回路内の水の温度、好ましくは、水が機関を出て一次循環管路に入る場所付近の位置の温度を、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の全ての機関負荷範囲に対して、100℃を超える温度に制御するように構成される、
機関。
【請求項14】
前記一次冷却回路は、該一次冷却回路内での水の膨張及び収縮を可能とするために前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続される、請求項1から13のいずれかに記載の機関。
【請求項15】
前記一次冷却回路は、前記機関の内部の第1の部分と、前記機関の外部の第2の部分とを有し、前記第1の部分は前記機関入口から前記機関出口までの領域を有し、前記第1の部分は冷却室を有し、また前記第1の部分は好ましくは、前記シリンダカバー内の少なくとも1つの流路と、好ましくは、前記排気弁のハウジング内の少なくとも1つの流路及び/又はチャンバとを有する、請求項1から14のいずれかに記載の機関。
【請求項16】
前記第2の部分は一次循環管路を有し、該一次循環管路は、少なくとも1つの一次循環ポンプと、該少なくとも1つの一次循環ポンプの上流に脱気装置とを有すると共に、好ましくは前記脱気装置の上流に冷却装置を有する、請求項15に記載の機関。
【請求項17】
前記シリンダライナの少なくとも一部を囲み、前記シリンダライナの径方向外側部分と共に前記環状冷却室を画定する環状のウォータージャケットを備える、請求項1から16のいずれかに記載の機関。
【請求項18】
クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関であって、
シリンダライナと、シリンダライナ内で往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記シリンダカバー内の少なくとも1つの冷却経路と;前記少なくとも1つの燃焼室に掃気ガスを導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナの各々に配置される掃気ポートと;
前記シリンダの一部分を囲む環状冷却室と;
前記シリンダカバーに配される排気出口であって、それぞれ排気弁により制御される排気出口と;
を備え、前記複数の燃焼室は、前記掃気ポートを通じて掃気受けに接続されると共に、前記排気出口を通じて排気受けに接続され、前記機関は更に、
排気流によって駆動されるタービンであってターボ過給システムのタービンを有する排気システムと;
前記ターボ過給システムのコンプレッサであって加圧された掃気空気を前記掃気受けに供給するように構成されるコンプレッサを有する空気取り入れシステムと;
二次循環ポンプを有する二次冷却回路であって、前記二次循環ポンプは前記二次冷却回路内に水を循環させるように構成され、前記少なくとも1つの冷却経路と、好ましくは前記環状冷却室とは前記二次冷却回路の一部である、前記二次冷却回路と;
を備え、
前記二次冷却回路は、一次冷却回路からの水を前記二次冷却回路の水に混合するためのバルブシステムによって、前記一次冷却回路に流体的に接続され、
前記一次冷却回路は、前記一次冷却回路内の水を循環させるための少なくとも1つの一次循環ポンプを有し、
前記装置は更に、前記二次冷却回路の水の温度を表す第1の信号と、前記一次冷却回路の水の温度を表す第2の信号とを受信する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記一次冷却回路の水の温度を95℃未満の温度に制御し、前記二次冷却回路の水の温度を100℃以上の温度、好ましくは120℃と140℃の間の温度に制御するように構成され、前記制御することは、好ましくは、前記バルブシステムを制御することによって、二次冷却回路の水に混合される前記一次冷却回路の水の量を調整することによって行われる、
機関。
【請求項19】
請求項18に記載の機関であって、
前記機関は、最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷範囲で動作するように構成され、
制御装置は、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは中機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、より好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、前記二次冷却回路内の水の温度を100℃を超える温度に制御するように構成される、
機関。
【請求項20】
前記バルブシステムは第4の制御弁を備え、該第4の制御弁は好ましくは制御装置によって制御される三方制御弁であり、前記第4の制御弁は前記一次冷却回路に配置されると共に、戻り管路を介して前記二次冷却回路に流体的に接続され、前記第4の制御弁は、制御可能な量の水流を、前記戻り管路を介して前記二次冷却回路から分岐させるように構成される、請求項18又は19に記載の機関。
【請求項21】
前記二次冷却回路を前記一次冷却回路に接続する供給管を、好ましくは前記第4制御弁の上流に備える、請求項20に記載の機関。
【請求項22】
前記バルブシステムは、前記二次冷却回路に配置される第2の逆流防止弁を備え、該第2の逆流防止弁は好ましくは、前記戻り管路が前記二次冷却回路に接続する位置と、前記供給管が前記二次冷却回路に接続する位置との間に配置される、請求項20又は21に記載の機関。
【請求項23】
前記二次冷却回路内の水を冷却するための冷却器を備える、請求項18から22のいずれかに記載の機関。
【請求項24】
請求項18から23のいずれかに記載の機関であって、
前記一次冷却回路管路に配置され、前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続される脱気装置を備え、
前記脱気装置は、前記一次冷却回路内及び前記二次冷却回路内の水圧を調整し、前記一次冷却回路内及び前記二次冷却回路内での水の膨張及び収縮を可能にし、
前記圧力容器又は膨張タンクは、水温140℃まで、好ましくは130℃までは、前記二次冷却回路内で水が沸騰することを防止するために十分な圧力を維持するように構成されることが好ましい、
機関。
【請求項25】
クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関を運転する方法であって、前記機関が、
シリンダライナと、シリンダライナ内で往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記シリンダカバー内の少なくとも1つの冷却経路と;
前記少なくとも1つの燃焼室に掃気ガスを導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナの各々に配置される掃気ポートと;
前記シリンダの一部分を囲む環状冷却室と;
前記シリンダカバーに配される排気出口であって、それぞれ排気弁により制御される排気出口と;
を備え、前記複数の燃焼室は、前記掃気ポートを通じて掃気受けに接続されると共に、前記排気出口を通じて排気受けに接続され、前記機関は更に、
排気流によって駆動されるタービンであってターボ過給システムのタービンを有する排気システムと;
前記ターボ過給システムのコンプレッサであって加圧された掃気空気を前記掃気受けに供給するように構成されるコンプレッサを有する空気取り入れシステムと;
二次循環ポンプを有する二次冷却回路であって、前記二次循環ポンプは前記二次冷却回路内に水を循環させるように構成され、前記少なくとも1つの冷却経路と、好ましくは前記環状冷却室とは前記二次冷却回路の一部である、前記二次冷却回路と;
を備え、
前記二次冷却回路は、一次冷却回路からの水を前記二次冷却回路の水に混合するためのバルブシステムによって、前記一次冷却回路に流体的に接続され、
前記一次冷却回路は、前記一次冷却回路内の冷却水を循環させるための少なくとも1つの一次循環ポンプを有し、
そして前記方法は、
前記二次冷却回路の水の温度を計測することと;
前記一次冷却回路の水の温度を計測することと;
前記一次冷却回路の水の温度を95℃未満に制御することと;
前記二次冷却回路の水の温度を100℃より高温に、好ましくは120~140℃に制御することと;
を含む、方法。
【請求項26】
前記機関は、最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷範囲で動作するように構成され、
前記方法は、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは中機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、より好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、前記二次冷却回路内の水の温度を100℃を超える温度に制御することを含む、
請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記二次冷却回路の水の温度を制御することは、バルブシステムを制御することによって、前記二次冷却回路の水に混合される前記一次冷却回路からの水の量を調整することを含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記一次冷却回路及び前記二次冷却回路の圧力を少なくとも5bargに維持することを含む、請求項25から27のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型2ストローク内燃機関に関し、特に、高いジャケット水温で動作するように構成された、燃料(ガス燃料又は液体燃料)で動作するクロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関、及びこの種の機関を高いジャケット水温で運転する方法に関する。
【背景】
【0002】
クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関は、例えば大型船舶の推進システムや、発電プラントの原動機として用いられる。この大型2ストロークディーゼル機関のサイズは巨大である。サイズが巨大であることだけが理由ではないが、この大型2ストロークディーゼル機関は、他の内燃機関とは異なる構造を有する。例えば、排気弁の重量は400kgに達することもあり、ピストンの直径も100cmに達することがある。運転中における燃焼室の最大圧力は、典型的には数百barにもなる。このような高い圧力レベルとピストンサイズから生まれる力は莫大なものである。
【0003】
大型2ストロークターボ内燃機関は、液体燃料(例:燃料油、船舶用ディーゼル、重油、エタノール、ジメチルエーテル(DME))又はガス燃料(例えばアンモニアやメタン、天然ガス(LNG)、石油ガス(LPG)、メタノール又はエタン)で運転される。
【0004】
ガス燃料で動作するエンジンは、オットーサイクルに従って動作してもよい。オットーサイクルでは、ガス燃料は、シリンダライナの長手方向中央付近又はシリンダカバーに配される燃料弁から導入される。このタイプのエンジンにおいて、ガス燃料は、ピストンの(下死点から上死点への)上昇ストロークの途中であって、排気弁が閉じるかなり前に、シリンダ内に導入される。エンジンは、燃焼室内においてガス燃料と掃気空気との混合物を圧縮し、圧縮された混合気を上死点(TDC)又はその付近で、(例えば液体燃料噴射のような)点火手段によってタイミングを計って点火する。
【0005】
液体燃料で運転されるエンジンや、高圧噴射のガス燃料で運転されるエンジンは、ピストンがTDCに近い位置、つまり燃焼室内の圧縮圧力が最大又はそれに近いときに、気体又は液体の燃料を噴射する。つまりこれらのエンジンは、ディーゼルサイクル、すなわち圧縮着火で運転される。
【0006】
2ストロークターボ過給式内燃機関の燃料効率は、カルノーの定理によって制限される(https://en.wikipedia.org/wiki/Carnot%27s_theorem_(thermodynamics))。そして、絶対温度を高くして運転すれば、燃費が向上する。既知の2ストロークターボ過給式内燃機関では、シリンダライナ、シリンダカバー、排気弁は、約80~90℃に保たれたジャケット水で冷却されている。これによって、シリンダライナ、シリンダカバー、排気弁の温度が制限され、間接的に燃焼室内の最高絶対温度が制限されている。既知のエンジンのジャケット水の温度を単純に上げることは不可能である。なぜなら、既知のジャケット水冷却システムはそのような高温に対応できる構造ではなく、ジャケット水が沸騰する危険性があるからである。ジャケット水が沸騰してジャケット水システムから急速に押し出され、ジャケット水冷却システムにジャケット水がなくなると、機関は強制冷却能力を失ったままになってしまう。
【0007】
特開2015132191号公報は、請求項1の前文に従う大型2ストローク内燃機関を開示している。
【摘要】
【0008】
上述の課題を解決するか又は少なくとも緩和する、エンジン及び方法を提供することが目的の一つである。
【0009】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や明細書、図面から明らかになるだろう。
【0010】
第1の捉え方によれば、次のような、クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関が提供される。この機関は、
シリンダライナと、シリンダライナ内で往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気ガスを導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと;
前記シリンダカバー内の少なくとも1つの冷却経路と;
前記シリンダの一部分を囲む環状冷却室と;
前記シリンダカバーに配される排気出口であって、それぞれ排気弁により制御される排気出口と;
を備え、前記複数の燃焼室は、前記掃気ポートを通じて掃気受けに接続されると共に、前記排気出口を通じて排気受けに接続され、前記機関は更に、
排気流によって駆動されるタービンであってターボ過給システムのタービンを有する排気システムと;
前記ターボ過給システムのコンプレッサであって加圧された掃気空気を前記掃気受けに供給するように構成されるコンプレッサを有する空気取り入れシステムと;
少なくとも1つの一次循環ポンプを有する一次冷却回路であって、前記一次循環ポンプは前記一次冷却回路内に水を循環させるように構成され、前記少なくとも1つの冷却経路と、好ましくは前記環状冷却室とは前記一次冷却回路の一部である、前記一次冷却回路と;
前記一次冷却回路内の水の圧力を調整するため、及び、前記一次冷却回路内の水の膨張と収縮を可能にするために、前記前記一次冷却回路に流体接続部によって接続される圧力容器又は膨張タンクと;
を備え、前記流体接続部が1つ又は複数の管路によって形成され、前記複数の管路の各々は、前記一次冷却回路から前記圧力容器又は前記膨張タンクへの水の流れを絞るためのオリフィスを有することを特徴とする。
【0011】
圧力容器又は膨張タンクと一次冷却回路との間の流体接続部にオリフィスを設けることにより、一次冷却回路内で水が流れなくなり冷却室内の水が意図せずに沸騰した場合、一次冷却回路から圧力容器又は膨張タンクへの水の流れが絞られる。この絞り効果は、冷却室内の温度が受動的な冷却により低下するのに十分なくらいに、一次冷却回路から圧力容器又は膨張タンクへの水の排出を遅くする。(ただし、一次冷却回路内の水が意図せずに流れなくなっている場合には機関負荷を低下させるか、機関を停止することを仮定する。)従って、一次冷却回路の水が空になることが回避され、一次冷却回路の循環能力が再確立したときに、通常の機関運転を速やかに再開することが可能となる。
【0012】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記オリフィスは、前記流体接続部を形成する1つ以上の管路について、少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、最も好ましくは少なくとも150倍、流体が流れることが可能な断面積を減少させる。
【0013】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記オリフィスは、流体が流れることが可能な断面積を75~250分の1に減少させる。
【0014】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記1つ又は複数の管路は実質的に一定の内径を有し、前記内径は35mmから80mmの間である。そして前記少なくとも1つのオリフィスは、3mmから5mmの間の最小直径を有する。
【0015】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記流体接続部に、好ましくは圧力容器又は膨張タンクを脱気装置に流体接続する供給管に、第1の逆流防止弁を備え、前記第1の逆流防止弁は、前記少なくとも1つのオリフィスの1つと並列に配され、好ましくは前記冷却回路内の水が収縮したときに、圧力容器又は膨張タンクから一次冷却回路へ水が流れることを可能にする。
【0016】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、一次冷却回路内の水の圧力が、(好ましくは一次冷却回路内の水の膨張により、)しきい値以上に上昇したときに、一次冷却回路から圧力容器又は膨張タンクへの水の流れを可能にするために、前記流体接続部に圧力設定バルブが設けられる。前記圧力設定バルブは、好ましくは圧力容器又は膨張タンクを脱気装置に流体接続する供給管に、前記少なくとも1つのオリフィスの1つと並列に配置される。
【0017】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は前記流体接続部に第1の制御弁を備え、前記第1の制御弁は、好ましくは圧力容器又は膨張タンクを脱気装置に流体接続する供給管に、少なくとも1つのオリフィスの1つと並列に配され、好ましくは冷却回路を水で初期充填するために備えられる。
【0018】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、
・ 機関冷却水入口及び機関冷却水出口と;
・ 前記機関冷却水出口から前記機関冷却水入口へと繋がる循環管路と;
・ 前記循環管路内に配置され、オリフィスを有する供給管路及びオリフィスを有する第1のベント管によって前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続される脱気装置と;
を備えると共に、好ましくは、前記機関水出口を前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続する第2のベント管を備え、前記第2のベント管はオリフィスを有する。
【0019】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記循環管路内において前記脱気装置の上流位置にオリフィスが設けられ、該オリフィスに並列に第2の制御弁が配置される。
【0020】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記少なくとも1つの一次循環ポンプは前記脱気装置の上流側に配置される。
【0021】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記一次冷却回路内の水を冷却するための冷却器を備え、前記冷却器は、好ましくは、前記循環管路内に配置される冷却制限部と並列に配置され、前記冷却器は、好ましくは、第3の制御弁によって前記循環回路に接続され、前記第3の制御弁は、好ましくは、制御装置によって制御される。
【0022】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記冷却回路内の水の温度(好ましくは、水が機関を出て循環管路に入る場所に近い位置の温度)を表す第1の信号を受信する制御装置を備え、前記制御装置は、前記一次冷却回路の水の温度を少なくとも100℃、好ましくは120~130℃に制御するように構成される。
【0023】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は冷却器を備え、前記冷却器は、前記制御装置によって制御され、前記制御装置の制御下で前記一次冷却回路内の水に選択的な冷却量を適用し、前記一次冷却回路内の水に適用される冷却量を調整することにより、前記一次冷却回路内の水温を少なくとも100℃、好ましくは120~130℃の間の温度に制御するように構成される。
【0024】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷範囲で動作するように構成され、前記制御装置は、一次冷却回路内の水の温度、好ましくは、水が機関を出て循環管路に入る場所付近の位置の温度を、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の全ての機関負荷範囲に対して、100℃を超える温度に制御するように構成される。
【0025】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記一次冷却回路の圧力が少なくとも3bargで動作するように構成される。
【0026】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記二次冷却回路は、前記一次冷却回路の水の圧力を調整し、前記一次冷却回路の水の膨張と収縮を可能にするために、前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続されている。
【0027】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記一次冷却回路は、前記機関の内部の第1の部分と、前記機関の外部の第2の部分とを有し、前記第1の部分は前記機関入口から前記機関出口までの領域を有し、前記第1の部分は冷却室を有し、また前記第1の部分は好ましくは、前記シリンダカバー内の少なくとも1つの流路と、好ましくは、前記排気弁のハウジング内の少なくとも1つの流路及び/又はチャンバとを有する。
【0028】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記第2の部分は循環管路を有し、該循環管路は、少なくとも1つの一次循環ポンプと、該少なくとも1つの一次循環ポンプの上流に脱気装置とを有すると共に、好ましくは前記脱気装置の上流に冷却装置を有する。
【0029】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、前記シリンダライナの少なくとも一部を囲み、前記シリンダライナの径方向外側部分と共に環状冷却室を画定する環状のウォータージャケットを備える。
【0030】
第2の捉え方によれば、次のような、クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関が提供される。この機関は、
シリンダライナと、シリンダライナ内で往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記シリンダカバー内の少なくとも1つの冷却経路と;
前記少なくとも1つの燃焼室に掃気ガスを導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナの各々に配置される掃気ポートと;
前記シリンダの一部分を囲む環状冷却室と;
前記シリンダカバーに配される排気出口であって、それぞれ排気弁により制御される排気出口と;
を備え、前記複数の燃焼室は、前記掃気ポートを通じて掃気受けに接続されると共に、前記排気出口を通じて排気受けに接続され、前記機関は更に、
排気流によって駆動されるタービンであってターボ過給システムのタービンを有する排気システムと;
前記ターボ過給システムのコンプレッサであって加圧された掃気空気を前記掃気受けに供給するように構成されるコンプレッサを有する空気取り入れシステムと;
二次循環ポンプを有する二次冷却回路であって、前記二次循環ポンプは前記二次冷却回路内に水を循環させるように構成され、前記少なくとも1つの冷却経路と、好ましくは前記環状冷却室とは前記二次冷却回路の一部である、前記二次冷却回路と;
を備え、
前記二次冷却回路は、一次冷却回路からの水を前記二次冷却回路の水に混合するためのバルブシステムによって、前記一次冷却回路に流体的に接続され、
前記一次冷却回路は、前記一次冷却回路内の水を循環させるための少なくとも1つの一次循環ポンプを有し、
前記装置は更に、前記二次冷却回路の水の温度を表す第1の信号と、前記一次冷却回路の水の温度を表す第2の信号とを受信する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記一次冷却回路の水の温度を95℃未満の温度に制御し、前記二次冷却回路の水の温度を100℃以上の温度、好ましくは120℃と140℃の間の温度に制御するように構成され、前記制御することは、好ましくは、前記バルブシステムを制御することによって、二次冷却回路の水に混合される前記一次冷却回路の水の量を調整することによって行われる。
【0031】
前記シリンダの環状冷却室を含む二次冷却システムを設け、該二次冷却システムを100℃を超える温度で作動させることにより、カルノーの定理を参照して上で説明したように、機関の燃料効率を高めることができる。一方、一次冷却システムは、通常80~90℃の温度で動作する先行技術の一次冷却システムと同じか同様の方法で構成することができる。従って、二次冷却システム及び関連部品のみが、より高い温度での運転に適していればよい。
【0032】
前記第2の捉え方の実施形態の一例において、前記機関は、最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷範囲で動作するように構成され、
【0033】
制御装置は、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは中機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、より好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、前記二次冷却回路内の水の温度を100℃を超える温度に制御するように構成される。
【0034】
前記第2の捉え方の実施形態の一例において、前記バルブシステムは第4の制御弁を備え、該第4の制御弁は好ましくは制御装置によって制御される三方制御弁であり、前記第4の制御弁は前記一次冷却回路に配置されると共に、戻り管路を介して前記二次冷却回路に流体的に接続され、前記第4の制御弁は、制御可能な量の水流を、前記戻り管路を介して前記二次冷却回路から分岐させるように構成される。
【0035】
前記第2の捉え方の実施形態の一例において、前記機関は、前記二次冷却回路を前記一次冷却回路に接続する供給管を、好ましくは前記第4制御弁の上流に備える。
【0036】
前記第2の捉え方の実施形態の一例において、前記バルブシステムは、前記二次冷却回路に配置される第2の逆流防止弁を備え、該第2の逆流防止弁は好ましくは、前記戻り管路が前記二次冷却回路に接続する位置と、前記供給管が前記二次冷却回路に接続する位置との間に配置される。
【0037】
前記第2の捉え方の実施形態の一例において、前記機関は、前記二次冷却回路内の水を冷却するための冷却器を備える。
【0038】
前記第2の捉え方の実施形態の一例において、前記機関は前記一次冷却回路管路に配置され、前記圧力容器又は前記膨張タンクに接続される脱気装置を備え、該脱気装置は、前記一次冷却回路内及び前記二次冷却回路内の水圧を調整し、前記一次冷却回路内及び前記二次冷却回路内での水の膨張及び収縮を可能にする。
【0039】
前記圧力容器又は膨張タンクは、水温140℃まで、好ましくは130℃までは、前記二次冷却回路内で水が沸騰することを防止するために十分な圧力を維持するように構成されることが好ましい。
【0040】
第3の捉え方によれば、クロスヘッド式大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関を動作させる次のような方法が提供される。ただし前記機関は、
シリンダライナと、シリンダライナ内で往復するように構成されるピストンと、シリンダカバーとによってそれぞれ画定される複数の燃焼室と;
前記シリンダカバー内の少なくとも1つの冷却経路と;
前記少なくとも1つの燃焼室に掃気ガスを導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナの各々に配置される掃気ポートと;
前記シリンダの一部分を囲む環状冷却室と;
前記シリンダカバーに配される排気出口であって、それぞれ排気弁により制御される排気出口と;
を備え、前記複数の燃焼室は、前記掃気ポートを通じて掃気受けに接続されると共に、前記排気出口を通じて排気受けに接続され、前記機関は更に、
排気流によって駆動されるタービンであってターボ過給システムのタービンを有する排気システムと;
前記ターボ過給システムのコンプレッサであって加圧された掃気空気を前記掃気受けに供給するように構成されるコンプレッサを有する空気取り入れシステムと;
二次循環ポンプを有する二次冷却回路であって、前記二次循環ポンプは前記二次冷却回路内に水を循環させるように構成され、前記少なくとも1つの冷却経路と、好ましくは前記環状冷却室とは前記二次冷却回路の一部である、前記二次冷却回路と;
を備え、
前記二次冷却回路は、一次冷却回路からの水を前記二次冷却回路の水に混合するためのバルブシステムによって、前記一次冷却回路に流体的に接続され、
前記一次冷却回路は、前記一次冷却回路内の冷却水を循環させるための少なくとも1つの一次循環ポンプを有する。
そして前記方法は、
前記二次冷却回路の水の温度を計測することと;
前記一次冷却回路の水の温度を計測することと;
前記一次冷却回路の水の温度を95℃未満に制御することと;
前記二次冷却回路の水の温度を100℃より高温に、好ましくは120~140℃に制御することと;
を含む。
【0041】
前記第3の捉え方の実装形態の一例において、前記機関は、最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷範囲で動作するように構成され、
【0042】
前記方法は、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは中機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、より好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の機関負荷に対して、前記二次冷却回路内の水の温度を100℃を超える温度に制御することを含む。
【0043】
前記第3の捉え方の実装形態の一例において、前記二次冷却回路の水の温度を制御することは、バルブシステムを制御することによって、前記二次冷却回路の水に混合される前記一次冷却回路からの水の量を調整することを含む。
【0044】
前記第3の捉え方の実装形態の一例において、前記方法は、前記一次冷却回路及び前記二次冷却回路の圧力を少なくとも5bargに維持することを含む。
【0045】
これらの側面及び他の側面は、以下に説明される実施例により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な捉え方や実施形態、実装例を詳細に説明する。
図1】大型2ストロークディーゼル機関の概観図である。
図2図1の大型2ストローク機関を別の角度から見た概観図である。
図3図1及び図2の大型2ストローク機関の略図表現である。
図4図1から図3の機関の第1の実施形態の略図表現である。
図5図1から図3の機関の第2の実施形態の略図表現である。
図6図1から図3の機関の第3の実施形態の略図表現である。
【詳細説明】
【0047】
以下の詳細説明では、実施例のクロスヘッド式大型低速2ストロークターボ過給式内燃機関を参照して、内燃機関が説明される。図1図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関の実施例を描いている。このエンジンは、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。図1図2は、それぞれ異なる角度から見た概観図である。図3は、ある実施形態に従う図1,2のターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気系及び排気系と共に略図により表現したものである。この実施例において、機関は直列に6本のシリンダを有する。ターボ過給式大型低速2ストローク内燃機関は、直列に配された4本から14本のシリンダを有することがある。これらのシリンダはエンジンフレーム11に担持されるシリンダライナを有する。またこのような機関は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための据え付け型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば1、000~110、000kWの範囲でありうる。
【0048】
この実施例における機関は、2ストロークユニフロー掃気機関であり、シリンダライナ1の下部領域に掃気ポート18が設けられる。シリンダライナ1の上部のシリンダカバー22には中央排気弁4が配される。掃気ガスは、ピストンが掃気ポート18より下にある時に、掃気受け2から各シリンダライナ1の掃気ポート18へと導かれる。
【0049】
機関が予混合機関(オットー原理に基づく機関)として運転される場合、ガス燃料(例えばメタノール、石油ガス又はLPG、メタン、天然ガス(LNG)、エタン)は、電子制御部100の制御下でガス導入弁50'から導入される。これは、ピストン10の(BDCからTDCへの)上昇ストロークの間であって、ピストンが燃料弁(ガス導入弁)50'を通過する前に行われる。ガス又は液体の燃料(例えば燃料油)は、ピストン10がTDC又はその近傍にあるときに、高圧(好ましくは300bar以上)で燃料弁50から燃焼室に噴射される。ガス燃料は、ガス燃料供給システム30'により供給され、比較的低い圧力で燃焼室に導入される。この圧力は30bar未満、好ましくは25bar、より好ましくは20bar未満である。燃料弁50を通して噴射するための燃料を含む流れは、燃料システム30によって供給される。燃料弁50を通して噴射を行うための高圧は、燃料システム30(コモンレール)又は燃料弁50で発生させることができる。燃料導入弁50'は、好ましくはシリンダライナの円周上に等間隔に分布するように配される。また好ましくは、シリンダライナの長手方向の中央付近に配される。ガス燃料の導入は、圧縮圧力が比較的低い時に行われる。つまり、ピストンがTDCに達するときの圧縮圧力に比べればずっと低いときに行われるので、比較的低い圧力で導入することが可能となる。
【0050】
機関が圧縮着火機関(ディーゼル原理)として運転される場合、ガス導入弁50'はなく、(気体又は液体の)燃料は、ピストン10がTDC又はその近傍にあるときに、燃料弁50を通して高圧で噴射される。
【0051】
シリンダライナ1内のピストン10は、ガス燃料と掃気ガスの混合気を圧縮し(TDCでの燃料噴射のみによる動作の場合は掃気ガスを圧縮し)する。そしてTDC又はその付近で、好ましくシリンダカバー22に配置される燃料弁50からの高圧の燃料の噴射により、着火が引き起こされる。TDC又はその付近で液体燃料噴射のみの場合は、圧縮により着火が引き起こされる。燃焼が生じ、排気ガスが生成される。
【0052】
排気弁4が開かれると、燃焼ガス(排気ガス)は、シリンダ1に付随する燃焼ガスダクトを通って燃焼ガス受け3に流入し、第1の排気管19へと流出する。第1の排気管19には、排気ガス中の亜酸化窒素(NOx)を還元するための選択触媒反応器33が設けられている。
【0053】
タービン6は、シャフトを介してコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ9には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮された掃気空気を、掃気受け2に繋がる掃気管13へと送り込む。掃気管13の掃気空気は、掃気空気を冷却するためのインタークーラー14を通過する。
【0054】
インタークーラー14の上流(図示されている)又は下流(図示せず)のいずれかで、排気再循環管35は掃気管13に接続される。再循環された排気ガスはこの位置で掃気空気と混合され、掃気ガスが形成される。掃気ガスは掃気受け2へと流れていく。以下で更に詳しく説明するように、制御部100(電子制御ユニット)は、掃気ガス中の掃気空気と排気ガスとの比率を調整するように構成される。
【0055】
冷却された掃気空気又は掃気ガスは、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、ターボ過給器5のコンプレッサ7が掃気受け2のために十分な圧力を提供できない場合、すなわち機関が低負荷又は部分負荷である場合に、掃気流を圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサ7が、十分に圧縮された掃気空気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止弁15によってバイパスされる。機関は、ターボ過給システムを形成する複数のターボ過給機5を備えることができる。
【0056】
制御部100(電子制御ユニット)は、制御部の機能を果たすためのプロセッサ及び他のハードウェアからなる複数の相互接続された電子ユニットで構成されてもよい。制御部40は、概して機関の動作を制御し、例えばガス燃料導入(量とタイミング)、液体燃料噴射(量とタイミング)、排気弁4の開閉(タイミングとリフト量)、再循環排気ガス比を制御し、また、各種の冷却器やポンプ等の機器の動作制御も行う。ここで制御部100には、機関の運転状態を知らせるセンサからの各種信号が入力されるようになっている。これらの信号には、それぞれ機関負荷、機関回転数、ブロワ回転数、掃気温度、様々な場所の排気ガス温度、様々な場所の排気ガス温度を表す信号が含まれてもよい。また、掃気系の圧力、燃焼室内の圧力、排気系の圧力、(存在する場合は)排気再循環系における圧力を示す信号が含まれてもよい。機関は好ましくは、燃焼室毎に、排気弁タイミングの個別制御を可能とする可変タイミング排気弁作動システムを備える。制御部100は、燃料弁50、液体燃料導入弁50'、排気弁アクチュエータ、角度位置センサ、圧力センサに、信号線又は無線接続を介して接続されている。角度位置センサは、クランクシャフトの角度を検出しクランクシャフトの位置を表す信号を生成する。圧力センサは、好ましくはシリンダカバー22内に、代替的にはシリンダライナ1内に配され、燃焼室内の圧力を表す信号を生成する。
【0057】
エンジンのサイズに応じて、シリンダライナ1は様々な大きさに作られる。典型的な大きさとしては、シリンダボアの直径が250mmから1000mmであり、それに対応する全長が1000mmから4500mmである。
【0058】
シリンダライナ1はシリンダフレーム23に載置され、シリンダライナ1の上にはシリンダカバー22が設置される。シリンダライナ1とシリンダカバー22とは、その間からガスの漏出が生じないようにされている。シリンダカバー22を冷却するために、少なくとも1つの冷却経路がシリンダカバー22内に設けられている。各シリンダカバー22の少なくとも1つの冷却経路は、以下で詳細に説明する水冷システム60,70に流体的に接続されている。ピストン10は、下死点(BDC)と上死点(TDC)の間を往復するように構成されている。ピストン10のこれら2つの死点位置は、クランクシャフト8の回転角度で180度離れている。シリンダライナ1には、周方向に分散配置された複数のシリンダ潤滑孔が設けられる。これらのシリンダ潤滑孔はシリンダ潤滑ラインに接続されている。シリンダ潤滑ラインは、ピストン10がシリンダ潤滑孔25を通過するときにシリンダ潤滑油を供給する。続いてピストン10の(図示されていない)ピストンリングが、シリンダライナの走行面(内面)全体にシリンダ潤滑油を行き渡らせる。図示されていないが、シリンダライナにはジャケットが設けられており、ジャケットとシリンダライナとの間の空間にはジャケット冷却水が循環している。
【0059】
シリンダカバー22には、典型的には1気筒あたり複数の、好ましくは3つ又は4つの液体燃料弁50が取り付けられ、加圧された燃料の供給源(図示せず)に接続されている。液体燃料弁50は、好ましくは、排気弁4の周囲、特に、シリンダカバー22の中央出口(開口部)の周囲に、円周方向において等間隔に配置される。中央部の外形は排気弁4によって制御される。燃料の噴射タイミング及び噴射量は、制御部100によって制御される。燃料弁50は、機関が予混合モードで運転されている場合、少量の点火液(パイロット)を噴射するためにのみ使用される。機関が圧縮着火モードで運転されている場合には、実際に使用されている機関負荷で機関を運転するために必要な量の液体燃料が液体燃料弁50から噴射される。シリンダカバー22には、前室(プリチャンバ)が設けられていてもよい(図示されていない)。また、液体燃料弁50の先端部、典型的には1つ又は複数のノズル穴を有するノズルが設けられた先端部が、パイロットオイル(点火液)が前室に注入され霧化するように配置されている。前室は確実な点火を支援する。
【0060】
燃料導入弁50'は、そのノズルがシリンダライナ1の内面と実質的に面一となり、燃料弁50'の後端がシリンダライナ1の外壁から突出した状態で、シリンダライナ1(またはシリンダカバー22)に設置されている。典型的には1つ又は2つ、多くても3つか4つの燃料弁50'が、各シリンダライナ1に設けられる。これらはシリンダライナ1の円周域に(好ましくは等間隔に)配置される。本実施例において、燃料導入弁50'は、シリンダライナ1の長手方向のちょうど中央部に配されている。燃料導入弁50'は、ガス燃料(例えばメタノール、LPG、LNG、エタン又はアンモニア)の加圧供給源30'に接続されている。すなわち燃料導入弁50'に供給されるときに、燃料は気体相である。ガス燃料は、ピストン10のBDCからTDCへのストロークの間に導入されるので、ガス燃料の供給源の圧力は、シリンダライナ1内に存在する圧力より高ければよい。燃料導入弁50'に送られるガス燃料にとって、典型的には20bar未満の圧力で十分である。燃料導入弁50'は制御部100に接続される。制御部40は、燃料導入弁50'の開閉タイミング及び開弁時間を決定する。
【0061】
実施形態によっては、点火用の液体燃料は、重油、船舶用ディーゼル油、重油、エタノール、又はジメチルエーテル(DME)である。
【0062】
ガス運転モードは、機関の幾つかの運転モードのうちの1つでありうる。他のモードには、機関の動作に必要な燃料のすべてが液体燃料弁50を通じて液体形態で供給される、液体燃料運転モードが含まれることができる。ガス燃料運転モードにおいて、機関は、BDCからTDCまでのピストンストローク中に比較的低い圧力で導入されるガス燃料を主燃料として運転される。すなわち、機関に供給されるエネルギーの主要部分はそのようなガス燃料により供給される。一方、ガス燃料に比較すると、液体燃料は少量しか用いられず、機関に供給されるエネルギー量に比較的小さな寄与しかしない。液体燃料の目的は所定のタイミングで点火することにある。すなわち液体燃料は点火液として機能する。
【0063】
このように、本実施形態の機関は、液体燃料のみで運転されるモードと、ほぼガス燃料のみで運転されるモードとを有する、二元燃料機関とすることができる。
【0064】
本実施形態では、機関は、オットー原理に従って動作する予混合機関として示されている。しかし機関が(ディーゼル原理に従って動作する)圧縮着火機関である実施形態も存在する。その場合、(気体又は液体の)燃料は、ピストン10がTDC又はその付近にあるときに高圧で噴射される。
【0065】
機関は、燃焼室に燃料(液体燃料及び/又は気体燃料)を供給し、燃焼室内で燃料を燃焼させ、それによって排気ガス流を発生させることにより、運転される。図示されていない或る実施形態では、排気ガス(又は、再循環ガスが燃焼室から直接取り出される実施形態では燃焼ガス)の流れの第1の部分が再循環され、排気ガスの流れの別の(第2の)部分が排気ガスとして排気される。
【0066】
ターボ過給機5のタービン6の下流で、排気ガスは第2の排気管28に入る。排気管28は排気ガスをボイラー20(エコノマイザとも呼ばれる)に導く。ボイラー20は通常、蒸気を発生するように構成されている。この蒸気は、例えば機関が搭載された船舶内で様々な目的に使用される。ボイラー20の下流には第2の排気管路28が続き、大気に通じている。
【0067】
シリンダライナ1は、環状冷却室23を画定するジャケット21を備える。環状冷却室23は、好ましくは、シリンダライナ1において熱的に最も負荷の高い、シリンダライナ1の上部に配置される。環状冷却室23は、以下で更に詳しく説明する水冷システム60,70に流体的に接続されている。通常、シリンダカバー22と排気弁4のハウジングには、水冷システムから冷却水を受け入れるための流路とチャンバ(室)が設けられている。
【0068】
図4は、水冷システムを備える機関の第1実施形態を図式化したものである。この実施形態では、水冷システムは、一次冷却回路70及び二次冷却回路60を備える。一次冷却回路70は、機関運転中に水で満たされる一次循環管路73を備える。一次循環管路73は一次循環ポンプ72を有し、一次循環ポンプ72は一次循環管路73内の水を循環させる役割を果たす。一次循環ポンプ72は、冗長性のために2台以上設けられている。各一次循環ポンプ72の下流には、それぞれ逆流防止弁が設けられている。逆流防止弁の上流側には、第1の温度センサ75が設けられている。一次循環ポンプ72の上流側には、水中に溜まった空気、ガス、又は蒸気を除去し、閉じ込められた気泡を除去するための脱気装置(脱気容器)78が配置されている。脱気装置78は、供給ライン及びベントラインを介して圧力容器74又は膨張タンク77に接続されている。圧力容器74又は膨張タンク77の機能は、水を貯蔵し、水冷システムに圧力を供給し、水冷システム内で水温の変化に伴う水の膨張と収縮を可能にすることである。
【0069】
典型的には、脱気装置78の上流に冷却システムが設けられる。冷却システムは冷却器79を備えるが、この冷却器79は、例えば機関が船舶に設置されている場合には、海水と熱交換する熱交換器であってもよい。冷却器79は、別の冷却媒体と熱交換する熱交換器であってもよい。冷却器79は、第3の制御弁71、例えば三方制御弁によって一次循環管路73に流体的に接続される。また冷却器79は、オリフィスと並列に配置される。このオリフィスは、図4には描かれていないが、図5及び図6ではオリフィス83として描かれている。オリフィスは、冷却器79による流れ制限とほぼ等しく流れを制限する。これは、水流のうち冷却器79をバイパスする部分に対する冷却器79を通る部分の量が変化しても、それが流れの状態に実質的な影響を与えないようにするためである。すなわち、一次循環ポンプ72が経験する抵抗に実質的な影響を与えないようにするためである。第3制御弁71は制御装置100の制御下にあり、冷却器79を通過する水と冷却器79を迂回する水との比率を調整し、それにより、一次冷却回路70内の水の温度を制御するための冷却能力を調整する。制御装置100は、第1の温度センサ75からの冷却水の温度を表す信号を受信しており、制御装置100は、一次冷却回路70内の水の温度を例えば80~90℃、好ましくは95℃以下の温度に調整するように構成されており、目標温度は85℃である。一次循環管路73は、機関水入口41及び機関水出口42によって(例えばフランジを用いて)機関に結合されている。
【0070】
一次循環管路73において、一次循環ポンプ72及びそれらに関連する逆流防止弁の下流には、第4の制御弁56が配置される。第4の制御弁56は例えば三方弁である。第4の制御弁56は、好ましくは、一次循環管路73において機関入口41と機関出口42との間を結ぶ部分に配置される。第4の制御弁56は、二次循環回路60の2次循環管路63に接続する戻り管路82に接続している。二次循環管路63は二次逆流防止弁57を有する。戻り管路82は二次逆流防止弁57の上流で二次循環管路60に接続する。供給管81は、第4の制御弁56の上流で一次循環管路73に接続し、二次逆流防止弁57の下流の位置で二次循環管路63に接続する。
【0071】
圧力容器74・膨張タンク77は、一次循環ポンプ72と共に、一次及び二次冷却回路60,70内の水温が140℃まで、好ましくは130℃までは、一次及び二次冷却回路60,70内での水の沸騰を防止するのに十分な圧力を維持するように構成される。すなわち、一次冷却回路内の水の圧力を少なくとも3barg、好ましくは少なくとも4barg、最も好ましくは少なくとも5bargに維持するように構成されている。
【0072】
第4の制御弁56は制御装置100の制御下にあり、通過する水のうち二次循環管路63に供給される水と、二次循環管路63を迂回する水との間の比率を調整し、それにより、二次冷却回路60内の水温のために二次循環管路63の水と混合される一次循環管路73の水の量を調整する。制御装置100は、第2の温度センサ65から二次循環管路63の冷却水の温度を表す信号を受信しており、制御装置100は、二次冷却回路60の水の温度を例えば100℃を超える温度、好ましくは120~140℃の温度に調整するように構成 されている。二次循環ポンプ62は二次循環管路63内で水が循環することを可能とする。必要なときに二次循環ポンプ62をバイパスできるように、二次循環ポンプ62をバイパスするための設備が設けられている。
【0073】
第4の制御弁56は、好ましくは、制御装置100によって制御される三方制御弁である。第4の制御弁56は一次冷却回路70に配置され、供給管82を介して二次冷却回路60に流体的に接続される。また第4の制御弁56は、制御可能な量の水流を、供給管82を通じて二次冷却回路60に分岐させ、それによって、二次冷却回路60から一次冷却回路70へ同量の水流を分岐させるように構成される。
【0074】
冷却回路60は、すべてのシリンダライナ1の環状冷却室23を通過し、シリンダカバー22を通過し、実施形態によっては排気弁4のハウジングも通過するので、すべてのシリンダライナ1、シリンダカバー22、実施形態によっては排気弁4のハウジングは、高い温度で作動させられる。つまり、冷却室内の温度で80~90℃の冷却水で作動する公知の大型2ストローク内燃機関と比較して高い温度で作動させられる。このため燃費が改善される。
【0075】
図4において破線で示した矩形は、実際の機関の一部とみなされるすべてのコンポーネントを示し、残りのコンポーネントは水冷システムの一部、つまり補助的なシステムと考えることができる。
【0076】
図5は、機関の第2実施形態を示す。この実施形態において、既に説明又は図示した構成や特徴と同様の構成及び特徴については、以前に使用したものと同じ符号を付している。この実施形態の機関及びその動作は先の実施形態とほぼ同じであり、従って、先の実施形態との相違点のみを詳細に説明する。
【0077】
この実施形態は、機関水入口41及び機関水出口42によって機関に接続する一次冷却回路70を有する。一次冷却回路の一部は、機関内、特に冷却室23を通り、実施形態によっては、シリンダカバー22や、排気弁4のハウジングも通り、これらの要素を冷却する。この実施形態では、膨張タンク77が静圧を確保し、一次冷却回路70内の水の温度変動による水の膨張及び収縮を許容するためのリザーバを形成する役割を果たす。
【0078】
膨張タンク77は、一次循環ポンプ72と共に、一次冷却回路70内の水温が140℃まで、好ましくは130℃までは、一次冷却回路70内での水の沸騰を防止するのに十分な圧力を維持するように構成される。すなわち、一次冷却回路内の水の圧力を少なくとも3barg、好ましくは少なくとも4barg、最も好ましくは少なくとも5bargに維持するように構成されている。
【0079】
膨張タンク77には、水の再供給のために供給管89が接続される。また膨張タンク77には、膨張タンク77内の水面上の空気を大気と連通させ、膨張タンク内の圧力を一定に保つための通気口90が設けられている。実施形態によっては、膨張タンク77内の水位を監視するためにレベルセンサーが設けられている。従って、通常の運転中、膨張タンク77は常に水で部分的に満たされている。
【0080】
脱気装置の上流側には、冷却器79に関連する第3制御弁71及びオリフィス83が配置される。第3制御弁71は制御装置100の制御下で作動する。
【0081】
一次冷却回路は、十分なレベルの冗長性を提供するために、2つ以上の循環ポンプで動作し得ることが理解されるべきである。この実施形態では、3つの一次循環ポンプ72が示されている。膨張タンク77には、第1のベント管85によって脱気容器78が接続されている。脱気容器78は、一次冷却回路72内の水から除去された空気、ガス、又は蒸気が、大気に逃げるのを可能にする。脱気容器78はまた、供給管84によっても膨張タンク77に接続されている。供給管84は、一次循環管路73と膨張タンク77との間で、水圧を伝え、ある量の水をやりとりするための主要な流体接続を形成する。第2のベント管87が、機関水出口42を膨張タンク77に直接接続している。従って、この実施形態では、膨張タンク77を一次循環管路73に接続する3つの管路84、85、87が存在する。これら3つの管路84,85,87の各々には、一次循環管路73から膨張タンク77への水の流れを調節するためのオリフィス87,88,93が設けられている。一次循環管路73内の水が停滞すると、循環管路73のうち機関内にある部分(特に冷却室23内の部分やシリンダカバー22を通る部分)において、水が沸騰する発生する可能性がある。特に、機関が高負荷又は最大負荷で運転されてシリンダライナ1及びシリンダカバー22が比較的高温になっている場合に、水が沸騰するが発生する可能性があるので、オリフィス87,88,93によって、一次循環管路73から膨張タンク77への水量を絞ることができる。このような状況では、沸騰水が、一次循環管路73から膨張タンク77へ(場合によっては膨張タンク77から大気中へと)すべての水を排出しない方が有利である。これは、オリフィス87、88、93の絞り効果によって達成される。オリフィス87、88、93は、膨張タンク77に向かう水の流れを遅くし、それによって、シリンダライナ1(及びシリンダカバー22と、排気弁4のハウジング)が受動的に冷却するのに十分な時間を与え、一次循環管路73内の水のほとんど又はすべてが一次循環管路73内に保持されるようにする。供給管84、第1ベント管85、及び第2ベント管87を形成する配管は、通常、実質的に一定の内径を有し、典型的には35~80mmの内径を有する。オリフィスは、好ましくは3~5mmの間の最小直径を有する。好ましくは、オリフィス87,88,93は、配管84,85,87に対して、少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、最も好ましくは少なくとも150倍、流体が流れることが可能な断面積を減少させる。
【0082】
実施形態によっては、第1の逆流防止弁91が供給管84内にオリフィス93と並列に配置され、水の収縮時に膨張タンク77から循環管路73への水の迅速な充填を保証する。
【0083】
実施形態によっては、圧力設定弁92が、オリフィス93と並列に供給管84に配置される。一次冷却回路70内の水の圧力が、(好ましくは一次冷却回路70内の水の膨張により、)閾値より高くなったときに、水が一次冷却管路73から圧力容器74又は膨張タンク77に流れることを可能にする。この閾値は、圧力設定弁の開弁圧により設定される圧力閾値である。
【0084】
実施形態によっては、第1の制御弁94が、冷却回路70への水の初期充填のために、オリフィス93と並列に供給管84内に配置される。
【0085】
実施形態によっては、制御装置は、冷却回路内の水の温度を表す第1の信号を受信するようにされる。この第1の信号は、好ましくは、水が機関を出て一次循環管路に入る場所に近い位置の温度を表す。そして制御装置100は、一次冷却回路70内の水の温度を少なくとも100℃、好ましくは120~130℃の間の温度に制御するように構成されている。冷却器79は、制御装置100によって制御され、制御装置100の制御下で一次冷却回路70内の水に選択的な冷却量を適用する。冷却器79は、一次冷却回路70内の水に適用される冷却量を調整することにより、一次冷却回路70内の水の温度を少なくとも100℃、好ましくは120~130℃の間の温度に制御するように構成される。
【0086】
機関は、最小機関負荷と最大機関負荷(最大連続定格)の間の負荷範囲で動作するように構成される。制御装置100は、水が機関を出て一次循環管路73に入る場所に近い、一次冷却回路70の位置の水の温度を、少なくとも最大機関負荷に対して、好ましくは最小機関負荷と最大機関負荷との間の全ての機関負荷範囲に対して、100℃を超える温度に制御するように構成される。
【0087】
図5の実施形態は、膨張タンク77を使用して開示されているが、この実施形態は、圧力容器74を使用しても同様に機能する。図5の実施形態は、単一の冷却回路70(一次冷却回路60)を使用して開示されているが、この実施形態は、図4を参照して開示されたように、一次冷却回路70と二次冷却回路60の組み合わせを使用しても、同様に機能する。
【0088】
図6は、機関の第3実施形態を示す。この実施形態において、既に説明又は図示した構成や特徴と同様の構成及び特徴については、以前に使用したものと同じ符号を付している。この実施形態の機関及びその動作は先の実施形態とほぼ同じであり、従って、先の実施形態との相違点のみを詳細に説明する。
【0089】
第3の実施形態は、圧力を収容し、一次循環管路73内の水の膨張及び収縮に対応するために圧力容器74が使用されることを除いて、第2の実施形態と基本的に同一である。更に、供給管84にはオリフィス93が設けられておらず、その代わりに、一次循環管路73の、機関水出口42の下流側にオリフィス98が配置されている。一次循環ポンプ72と機関水入口41との間の戻し弁は、例えば、循環ポンプ72が故障したり、循環ポンプ72を駆動する電気モーターの電力が供給されなかったりして、水の停滞が生じている状況において、機関入口から一次循環ポンプ72に向かって水が流れることを防止する。従って、一次循環管路73内の水の停滞があるそのような状況では、例えば環状冷却室23内の水は、機関水出口42を通ってのみ流出することができる。しかし、オリフィス98は、環状冷却室23及びシリンダカバー22から圧力容器74への流れを絞る。しかし、通常運転中は、オリフィス98は一次循環管路73内の水の循環を制限すべきではない。そのため、実施形態によっては、第2の制御弁97がオリフィス98と並列に配置される。第2の制御弁97は、通常は開いており、例えば、一次循環管路73内の水が停滞したときに自動的に閉じる。実施形態によっては、第2の制御弁は、一次循環管路73内の流れの不足に応じて、油圧装置又は流体機械的装置によって、自動的に閉じるように構成されることができる。実施形態によっては、信号、例えば一次循環ポンプ72が作動していないことを示す信号や、一次循環管路内の水の停滞を表す別の信号に応じて、電子的装置によって、自動的に閉じるようにこうせいされることができる。
【0090】
図6の実施形態は、圧力容器74を使用して開示されているが、この実施形態は、膨張タンク77を使用しても同様に機能することが理解されよう。図6の実施形態は、単一の冷却回路70(一次冷却回路60)を使用して開示されているが、この実施形態は、図4を参照して開示されたように、一次冷却回路70と二次冷却回路60の組み合わせを使用しても、同様に機能する。
【0091】
発明の様々な捉え方や実装形態が、いくつかの実施例と共に説明されてきた。上記の実施形態は、様々な方法で組み合わせることができる。また、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のプロセッサや制御装置、その他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】