(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071363
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】ポリグリセリン系アリル化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/48 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
C08G65/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192876
(22)【出願日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2022181651
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】前川 丈武
(72)【発明者】
【氏名】柿倉 友華
(72)【発明者】
【氏名】門田 慎生
(72)【発明者】
【氏名】谷畑 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】松川 公洋
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA04
4J005AA12
4J005AA21
4J005BD03
(57)【要約】
【課題】ポリグリセリン骨格を有する多様な誘導体の前駆体となりえるポリグリセリン系アリル化合物を提供する。
【解決手段】ポリグリセリン系アリル化合物は、平均重合度が2~100のポリグリセリン骨格を有し、かつ、少なくとも1つのアリル基を有する。アリル基は、例えば、ヒドロシリル化反応やヒドロチオ化反応の適応性が高く、末端に例えば、トリエトキシシラン等の様々な構造を導入することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が2~100のポリグリセリン骨格を有し、かつ、少なくとも1つのアリル基を有することを特徴とするポリグリセリン系アリル化合物。
【請求項2】
下記式(1)の構造で表される請求項1に記載のポリグリセリン系アリル化合物。
【化1】
・・・(1)
(n、p、q、rはそれぞれ繰り返し単位の数を表し、nは2~100の整数、p、q、rはそれぞれ0~50の整数である。AOは炭素数1~4のアルキレンオキサイドを示す。R1は、同一又は互いに異なる官能基であって、水素、又はアリル基を末端に含む反応性官能基の残基であり、少なくとも1つがアリル基を末端に含む反応性官能基の残基である。)
【請求項3】
ポリグリセリン骨格を有する化合物と、アリル基を有する化合物と、を反応させて得られるポリグリセリン系アリル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリグリセリン骨格を有する化合物が、下記式(2)の構造で表される請求項3に記載のポリグリセリン系アリル化合物の製造方法。
【化2】
・・・(2)
(n、p、q、rはそれぞれ繰り返し単位の数を表し、nは2~100の整数、p、q、rはそれぞれ0~50の整数である。AOは炭素数1~4のアルキレンオキサイドを示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリセリン系化合物の前駆体と成り得るポリグリセリン系アリル化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンは、環境や安全を配慮したバイオマス原料として注目されており、化粧品、食品、医薬品に限らず、工業用途にも広く使用されることが期待されている。本件出願人は、長らく、グリセリンの研究開発を進めており、グリセリンから合成されるポリグリセリンを母骨格とした化合物を開発している。ポリグリセリンは、3つの水酸基を有するグリセリンを脱水縮合して得られる多価アルコールであり、一般に、高分子量であっても液状を保ち、親水性に優れる性質を有し、その合成条件により水酸基数を調整でき、様々な化合物の誘導体の原料となり得る。
【0003】
また、アリルエーテルやアリルエステル等のアリル化合物は、ポリマー原料として利用できるほか、一般的に、反応性が高く、多様な反応系に適用することができるので、誘導体の原料としての優位性がある。例えば、特許文献1には、アリルエーテル化合物とヒドロシラン化合物とをルテニウム触媒の存在下でヒドロシリル化させた有機ケイ素化合物の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、アリルオキシ基を有する化合物をポリオキソメタレートアニオンの4級アンモニウム塩を担持する多孔質担体の存在下でエポキシ化させたエポキシ化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-11456号公報
【特許文献2】特開2017-66094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、アリル化合物は、種々の誘導体の原料に適しており、その性能には、アリル基以外の分子構造が、影響を与えることが知られている。そのため、アリル化合物として一般的に知られていない骨格を有する化合物を提供することができれば、新たな物性を有するアリル化合物及びその誘導体を提供することが可能となり、産業上の価値が高いと考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、ポリグリセリン骨格を有する多様な誘導体の前駆体となりえるポリグリセリン系アリル化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均重合度が2~100のポリグリセリン骨格を有し、かつ、少なくとも1つのアリル基を有することを特徴とするポリグリセリン系アリル化合物である。
【発明の効果】
【0008】
上記ポリグリセリン系アリル化合物は、アリル基に対する様々な反応により、末端に様々な構造を導入することができ、ポリグリセリン骨格を有する多様な誘導体の前駆体となりえる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に基づいて本発明を説明する。ここで、本発明の範囲は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で変更された形態も含まれる。なお、範囲を表す「~」は上限と下限を含む。
【0010】
本発明は、平均重合度が2~100のポリグリセリン骨格を有し、少なくとも1つのアリル基を有するポリグリセリン系アリル化合物である。本発明に係るポリグリセリンの平均重合度は、下限においては2以上、好ましくは4以上であり、上限においては100以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。ここで、平均重合度は、末端分析法による水酸基価から、下記式(3)及び下記式(4)から算出される。式(4)中
の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離水酸基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編集、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2013年度版」に準じて算出される。
分子量=74n+18 ・・・(3)
水酸基価=56110(n+2)/分子量・・・(4)
【0011】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物は、ポリグリセリン骨格を有するアリルエーテルやアリルエステル等が挙げられるが、好ましくは、ポリグリセリン又はポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物の水酸基に、アリル基を有する化合物を反応させた下記式(1)の構造で表される化合物である。
【0012】
【化1】
・・・(1)
(n、p、q、rはそれぞれ繰り返し単位の数を表し、nは2~100の整数、p、q、rはそれぞれ0~50の整数である。AOは、炭素数1~4のアルキレンオキサイドを示す。R1は、同一又は互いに異なる官能基であって、水素、又はアリル基を末端に含む反応性官能基の残基であり、少なくとも1つがアリル基を末端に含む反応性官能基の残基である。)
【0013】
AOとしては、例えば、エチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)が挙げられ、好ましくはエチレンオキサイド(EO)である。式(1)記載のp、q、rはいずれもポリグリセリンの水酸基1つに対するアルキレンオキサイドの平均付加数を表しており、それぞれ0~50が好ましく、より好ましくは1~20である。また、p、q、rの和(p+q+r)は、1~130であることが好ましく、5~120であることがより好ましい。
【0014】
また、本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物の製造方法は、ポリグリセリン骨格を有する化合物と、アリル基を有する化合物とを反応させて得るものである。ポリグリセリン骨格を有する化合物としては、例えばポリグリセリン、ポリアルキレンオキサイド付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、下記式(2)の構造で表されるポリグリセリンもしくはポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0015】
【化2】
・・・(2)
(n、p、q、rはそれぞれ繰り返し単位の数を表し、nは2~100の整数、p、q、rはそれぞれ0~50の整数である。AOは炭素数1~4のアルキレンオキサイドを示す。)
【0016】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物の原料であるポリグリセリンは、グリセリン同士を脱水縮合した化合物であり、その平均重合度は下限においては2以上、好ましくは4以上であり、上限においては100以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下である。
【0017】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物の原料であるポリグリセリンアルキレンオキサイド付加物は、ポリグリセリンの母骨格を構成するグリセリンの個数に応じた、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリン等に対して、エチレンオキサイド(EO)やプロピレンオキサイド(PO)等のアルキレンオキサイドを付加した化合物である。その具体例としては、例えば、ジグリセリンのEO4モル付加物、ジグリセリンのEO13モル付加物、ジグリセリンのEO20モル付加物、ジグリセリンのEO30モル付加物、ジグリセリンのPO9モル付加物、ジグリセリンのPO14モル付加物、ジグリセリンのPO24モル付加物、テトラグリセリンのEO12モル付加物、テトラグリセリンのEO60モル付加物、テトラグリセリンのEO120モル付加物、デカグリセリンのEO24モル付加物、デカグリセリンのEO60モル付加物、又はデカグリセリンのEO120モル付加物等が挙げられる。
【0018】
アルキレンオキサイドとしては、好ましくは、EOである。式(1)記載のp、q、rはいずれもポリグリセリンの水酸基1つに対するアルキレンオキサイドの平均付加数を表しており、それぞれ0~50が好ましく、より好ましくは1~20である。また、p、q、rの和(p+q+r)は、1~130であることが好ましく、5~120であることがより好ましい。
【0019】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物の原料であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応によって得られるものであり、本発明においては脂肪酸と結合していない水酸基が1つ以上残存する必要がある。構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、通常炭素数8~24の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸及び/又は分枝脂肪酸が用いられる。上記脂肪酸は混合物であってもよく、前記脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、ベヘン酸、及びその縮合物等が挙げられる。
【0020】
また、アリル基を有する化合物としては、例えば、塩化アリル、臭化アリル、ヨウ化アリル等のアリルハライド、アリルアルコール、アリルアミン、アクリル酸アリル、アリルイソチオシアネート等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリグリセリン系アリル化合物の合成方法は特に限定されず、一般的なアリルエーテル化合物およびアリルエステル化合物の合成方法を用いることができる。アリルエーテル化合物の合成法としては、例えば、アルコール類の水酸基とハロゲン元素を含むアリルハライドからエーテルを合成するWilliamsonエーテル合成が知られている。また、金属触媒のもとでアリルアルコールとアルコール類を反応させる方法がある。また、アリルエステル化合物の合成法としては、例えば、アリルアルコールとカルボン酸ハロゲン化物の反応、アリルアルコールとカルボン酸の脱水エステル化反応、アリルアルコールと種々のアルキルエステルのエステル交換反応等が知られている。
【0022】
本発明のポリグリセリン系アリル化合物としては、特にポリグリセリンアリルエーテル又はポリグリセリンアルキレンオキサイドアリルエーテルが好ましく、その反応スキームは以下のように表される。
【0023】
【化3】
(n、p、q、rはそれぞれ繰り返し単位の数を表し、nは2~100の整数、p、q、rはそれぞれ0~50の整数を示す。)
【0024】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物は、ヒドロシリル化反応やヒドロチオ化反応等の付加反応、エポキシ化反応や転位反応により、その末端に、アルコキシシラン、シリコーン、エポキシ等、様々な構造を導入することができ、樹脂、コーティング膜、シリコーンゴム、無機ガラス、化粧料等に、ポリグリセリン、ポリグリセリン(ポリ)オキシアルキレン付加物が有する機能を付与することができる。
【0025】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物は、その末端のアリル基と、反応性官能基を有するアルコキシシランとを反応させて、ポリグリセリン系アルコキシシランの生成に好適に用いられる。反応性官能基を有するアルコキシシランは、例えば、ビニル基、アリル基、イソシアネート基、チオール基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ヒドロシリル基等を有しているアルコキシシランであり、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
本発明に係るポリグリセリン系アリル化合物は、側鎖や末端にヒドロシリル基を有する反応性シリコーンとヒドロシリル化反応させることで、ポリグリセリン-シリコーングラフト体や架橋体を得ることができ、得られたポリグリセリン-シリコーングラフト体や架橋体は、例えば、界面活性剤、分散剤、表面改質剤として有用である。
【実施例0027】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらによって何らの限定を受けるものではない。
【0028】
[実施例1]テトラグリセリンのEO12モル付加物のアリルエーテル(A1)
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、テトラグリセリンのEO12モル付加物100質量部、50%水酸化ナトリウム水溶液167質量部、臭化テトラブチルアンモニウム22質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ臭化アリル253質量部を滴下し、40℃で加熱しながら22時間撹拌した。メタノールを加えて反応を停止させた後、トルエンにて抽出し、分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、吸引ろ過した後、溶媒を減圧留去することでテトラグリセリンのEO12モル付加物のアリルエーテル(A1)106質量部を得た。
【0029】
[実施例2]テトラグリセリンのEO12モル付加物のアリルエーテル(A2)
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、テトラグリセリンのEO12モル付加物100質量部、50%水酸化ナトリウム水溶液167質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ臭化アリル253質量部を滴下し、40℃で加温しながら22時間撹拌した。メタノールを加えて反応を停止させた後、トルエンにて抽出し、分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、吸引ろ過した後、溶媒を減圧留去することでテトラグリセリンのEO12モル付加物のアリルエーテル(A2)112質量部を得た。
【0030】
[実施例3]テトラグリセリンのEO12モル付加物のアリルエーテル(A3)
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、テトラグリセリンのEO12モル付加物100質量部、50%水酸化ナトリウム水溶液167質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ塩化アリル163質量部を滴下し、40℃で加温しながら22時間撹拌した。メタノールを加えて反応を停止させた後、トルエンにて抽出し、分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、吸引ろ過した後、溶媒を減圧留去することでテトラグリセリンのEO12モル付加物のアリルエーテル(A3)117質量部を得た。
【0031】
[実施例4]デカグリセリンのEO24モル付加物のアリルエーテル(A4)
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、デカグリセリンのEO24モル付加物100質量部、48%水酸化ナトリウム水溶液169質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ塩化アリル156質量部を滴下し、40℃で加温しながら22時間撹拌した。メタノールを加えて反応を停止させた後、トルエンにて抽出し、分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、吸引ろ過した後、溶媒を減圧留去することでデカグリセリンのEO24モル付加物のアリルエーテル(A4)86質量部を得た。
【0032】
[実施例5]テトラグリセリンのEO60モル付加物のアリルエーテル(A5)
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、テトラグリセリンのEO60モル付加物100質量部、48%水酸化ナトリウム水溶液51質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ塩化アリル47質量部を滴下し、40℃で加温しながら22時間撹拌した。メタノールを加えて反応を停止させた後、トルエンにて抽出し、分液洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、吸引ろ過した後、溶媒を減圧留去することでテトラグリセリンのEO60モル付加物のアリルエーテル(A5)50質量部を得た。
【0033】
[参考例1]ポリグリセリン系アルコキシシラン:ヒドロシリル化反応
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、上記実施例1で得られたアリルエーテル(A1)100質量部、トルエン190質量部を仕込み、室温で混合した。そこへトリエトキシシラン89質量部、Karstedt´s触媒のトルエン溶液(触媒濃度:5質量%)1.1質量部を加え、室温で1時間、40℃で加温しながら5時間撹拌した。その後、溶媒を減圧留去することでポリグリセリン系アルコキシシラン化合物173質量部を得た。
【0034】
[参考例2]ポリグリセリン系アルコキシシラン:ヒドロチオ化反応
撹拌機を備えた反応容器に、上記実施例1で得られたアリルエーテル(A1)100質量部、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン130質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ光ラジカル発生剤としてベンゾフェノンと1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの混合溶液(重量比:1対1)0.2質量部を加え、紫外線(波長365nm)を照射しながら室温で1.5時間撹拌し、ポリグリセリン系アルコキシシラン化合物230質量部を得た。
【0035】
本実施例のアリルエーテルをヒドロシリル化又はヒドロチオ化して得られたポリグリセリン系アルコキシシラン化合物は、例えば、ウレタン化して得られるものに比べて、粘度が低く、希釈効果、ハンドリング性に優れている。また、ゲル化時間が長いことから、それを用いたコーティング液の貯蔵安定性にも優れる。さらに、上記のヒドロシリル化反応やヒドロチオ化反応によって生成されたポリグリセリン系アルコキシシラン化合物を硬化させて得られた硬化物は、防曇性を示すことに加え、折り曲げに対し、割れやクラックがなく、柔軟性に優れており、例えば、フレキシブルガラス、コーティング材料に好適に使用することができる。
【0036】
[参考例3]ポリグリセリン系グリシジルエーテルの合成:エポキシ化反応
撹拌機を備えた反応容器に、上記実施例1で得られたアリルエーテル(A1)100質量部、クロロホルム1000質量部を仕込み、室温で混合した。そこへm-クロロ過安息香酸344質量部を加え、室温で5日間撹拌した。10質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて反応を停止させた後、有機層を分液洗浄し、溶媒を減圧留去することでポリグリセリン系グリシジルエーテル化合物87質量部を得た。
【0037】
上記のエポキシ化反応によって生成されたポリグリセリン系グリシジルエーテル化合物は、粘度が低く、希釈効果、ハンドリング性に優れている。また、エピクロルヒドリンを使用しないため、加水分解性塩素化合物が含まれず、半導体封止材やプリント回路基板、レジストインキ等の電子部品、接着剤、アンダーフィル材料等で好適に使用することができる。
【0038】
[参考例4]ポリグリセリン系プロペニルエーテルの合成:転位反応
撹拌機を備えた反応容器に、上記実施例1で得られたアリルエーテル(A1)100質量部、水酸化カリウム10質量部を仕込み、160℃で加温しながら5時間撹拌した。そこへ水を加えて分液洗浄し、残存した水分を減圧留去することでポリグリセリン系プロペニルエーテル化合物80質量部を得た。
【0039】
上記の転位反応によって生成されたポリグリセリン系プロペニルエーテル化合物は、例えば、工業的には、紫外線・電子線などの活性エネルギー線、または、熱により架橋硬化させる方法で、フォトレジスト材料、印刷インキ材料、コーティング材、感光性刷版、接着剤等に好適に使用することができる。
【0040】
[参考例5]ポリグリセリン-シリコーングラフト体:ヒドロシリル化反応
温度計、撹拌機を備えた反応容器に、上記実施例1で得られたアリルエーテル(A1)100質量部、トルエン369質量部を仕込み、室温で混合した。そこへ、片末端ハイドロジェンシリコーン(分子量:1000)272質量部、Karstedt´s触媒のトルエン溶液(触媒濃度:1質量%)26質量部を加え、60℃で加温しながら2時間撹拌した。その後、溶媒を減圧留去することでポリグリセリン-シリコーングラフト体328質量部を得た。
【0041】
上記のヒドロシリル化反応によって生成されたポリグリセリン-シリコーングラフト体は、界面活性剤、分散剤、表面改質剤として有用である。特に、アリル基を有するポリグリセリン-シリコーングラフト体は、付加反応型シリコーン樹脂と反応することから、反応性界面活性剤、反応性分散剤、反応性表面改質剤として使用することができる。
【0042】
上記のように、本実施例のアリル化合物は、ヒドロシリル化反応、ヒドロチオ化反応、エポキシ化反応及び転位反応といった様々な反応系に対しても適応性が高く、ポリグリセリン骨格を有する多様な誘導体の前駆体に適している。
【0043】
また、本実施例のアリル化合物は、ポリグリセリン骨格を有している。ポリグセリン骨格を有するポリエーテルポリオールは、重合により3次元網目構造を形成するので、様々なプラスチック材料のマトリックス樹脂となりえる。また、本実施例のアリルエーテルを誘導化して得られた生成物は、親水性が高いので、コンポジットのマトリックス樹脂として使用した場合、分子オーダーで親水性部位を導入することができる。更に、本実施例のアリルエーテルを誘導化して得られた生成物は、上述したように、柔軟性に優れており、複数種のモノマーで構成される複合材料に適応されるとき、ソフトセグメントとしての作
用を発現する。