(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071399
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】偏頭痛の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20240517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240517BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20240517BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61P43/00 123
A61P25/06
A61P1/16
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024032087
(22)【出願日】2024-03-04
(62)【分割の表示】P 2021518218の分割
【原出願日】2019-06-07
(31)【優先権主張番号】62/682,656
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520485077
【氏名又は名称】アラーガン ファーマシューティカルズ インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】トラグマン ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】フィネガン ミシェル
(57)【要約】
【課題】偏頭痛を処置するための医薬および方法を提供する。
【解決手段】CGRPアンタゴニスト、好ましくはアトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩を含む、偏頭痛を予防的処置を行うための医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏頭痛を予防的処置する方法であって、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグから選択される、予防有効量のカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP-アンタゴニスト)のアンタゴニストを、それを必要とする患者に投与するステップを含む、方法。
【化1】
【請求項2】
前記予防処置が、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、90%、98%の偏頭痛の消滅をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予防処置が、肝臓酵素の有意な向上をもたらさない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記肝臓酵素が、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)であり、ASTまたはALTのベースライン処置前レベルが、3か月間のアトゲパントまたはウブロゲパントによる処置後、50%、75%、100%または200%を超えて向上しない、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記肝臓酵素がASTであり、ASTの処置前ベースラインレベルが、血清1リットルあたり約5~40単位となる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグによる処置後の前記ASTレベルが、血清1リットルあたり約100または90または75または60または50単位未満である、請求項3~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記肝臓酵素がALTであり、ASTの処置前ベースラインレベルが、血清1リットルあたり約7~56単位である、請求項3または5に記載の方法。
【請求項8】
アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグによる処置後の前記ALTレベルが、血清1リットルあたり約100または90または75または60または50単位未満である、請求項3、5または7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を患っている患者における、偏頭痛を処置する方法であって、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグを前記患者に投与するステップを含む、方法。
【化2】
【請求項10】
アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグを患者に投与するステップを含む、ウブロゲパントまたはアトゲパントによる処置に感受性がある前記患者における、偏頭痛を処置する方法であって:
【化3】
前記患者が、約3か月間、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩による処置後に、偏頭痛または恐らくは偏頭痛がある日数の少なくとも70%の低下を実現する場合に、処置に感受性がある、方法。
【請求項11】
前記患者が、約3か月間、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩による処置後に、偏頭痛または恐らくは偏頭痛がある日数の少なくとも75%の低下を実現する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、約3か月間、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩による処置後に、偏頭痛または恐らくは偏頭痛がある日数の少なくとも80%の低下を実現する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、約3か月間、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩による処置後に、偏頭痛または恐らくは偏頭痛がある日数の少なくとも90%の低下を実現する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、約3か月間、アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩による処置後に、偏頭痛または恐らくは偏頭痛がある日数の100%の低下を実現する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記処置が予防的である、請求項9~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記予防処置が、1か月あたり、少なくとも0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9または2.0日間となる、1か月あたりの偏頭痛の日数の低下をもたらす、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記患者が、ウブロゲパントまたはアトゲパントによる処置後に、偏頭痛の頻度の低下または重症度の低下を経験する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
偏頭痛または群発頭痛を予防処置する方法であって、それを必要とする患者に、予防有効量のウブロゲパントもしくはアトゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩を投与するステップを含む、方法。
【請求項19】
前記患者が、副鼻腔炎、吐き気、副鼻頭炎、光恐怖症、食欲の変化、認知および集中困難、手足の冷え、下痢または他の腸の変化、興奮および過敏性、倦怠感、頻尿、記憶の変化、虚弱、あくび、伸縮、輝点または光の点灯が見える、失明、黒斑点が見える、チリチリ感、発話問題、失語症、耳鳴、胃停滞、頭部の片側もしくは両側のズキズキとした痛みまたは拍動痛、光、音または匂いに対する極度の過敏性、運動中の疼痛の悪化、および嘔吐、腹痛または胸やけ、食欲喪失、頭のふらつき、眼のかすみおよび失神から選択される偏頭痛の1つまたは複数の症状を患っている、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
偏頭痛の前記1つまたは複数の症状が、ウブロゲパントまたはアトゲパントによる処置後に軽減する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1日あたり約1~1000mgの用量のアトゲパントが投与される、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
1日あたり、約5、10、15、20、25、30、40、50、60、80、100、200、250、300、400または500mgの用量のアトゲパントが投与される、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
1日1回、約10mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
1日1回、約30mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
1日1回、約50mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
1日1回、約60mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
1日1回、約100mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
1日2回、約10mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
1日2回、約30mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
1日2回、約50mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
1日2回、約60mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
1日2回、約100mgの用量のアトゲパントが経口投与される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
1日あたり約1~1000mgの用量のウブロゲパントが投与される、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
1日あたり約5、10、25、50、100、200または400mgの用量のウブロゲパントが投与される、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記CGRPアンタゴニストが、アトゲパント、または薬学的に許容されるその塩、エステルもしくはプロドラッグである、請求項1~32のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、偏頭痛を処置するための医薬および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏頭痛は、非常に高い頻度で見られる、重症で障害をもたらす神経学的状態であり、有効な処置に対する満たされていない大きなニーズがある(Holland, P.R. & Goadsby, P.J. Neurotherapeutics (2018))。偏頭痛は、患者および社会に対して大きな負荷となる。
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、カルシトニンメッセンジャーRNAの組織特異的代替プロセシングによって生じる37個の天然アミノ酸ペプチドであり、中枢神経系および末梢神経系に広範に分布している。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は、偏頭痛の病態生理学において、重要な役割を果たすと考えられている、強力な血管拡張性神経伝達物質である。CGRP標的の最初のヒトでの臨床的検証は、オルセゲパントを含むIV製剤は、偏頭痛の急性処置に有効であること、およびその機構は、経口用製剤でのテルカゲパント(CGRPアンタゴニスト)を使用した検討によって確認されたという報告により、2003年にBoehringer Ingelheimによって提示された。最初に臨床試験が行われたCGRPアンタゴニストであるオルセゲパントは、ジペプチド主鎖に基づいており、高分子量を有し、経口により生体利用可能ではない。オルセゲパントの成功後に、MK-3207およびテルカゲパントを含めた、いくつかの経口により作用するCGRPアンタゴニストが臨床試験へと進められた。CGRPアンタゴニストの一部は、一部の患者において、肝臓のトランスアミナーゼレベルの向上をもたらした。肝臓酵素レベルの向上が、MK-3207およびテルカゲパントに観察された。肝臓酵素レベルを顕著に向上させないCGRPアンタゴニストを開発することは有利になると思われる。
【発明の概要】
【0003】
一部の実施形態では、本出願は、予防有効量のアトゲパントもしくはウブロゲパント(ubrogepnt)、または薬学的に許容されるそれらの塩を投与することによる偏頭痛を処置する予防的方法を提供する。一部の実施形態では、アトゲパントまたはウブロゲパントによる予防処置は、肝臓酵素のレベルに有意に影響を及ぼさない。一部の実施形態は、それを必要とする患者に、有効量のウブロゲパントもしくはアトゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグを投与するステップを含む、偏頭痛を処置または低減する方法であって、該処置が、肝臓の酵素レベルに有意に影響を及ぼすことなく、1か月あたりの偏頭痛の日数の有意な低下を実現する方法を提供する。
【化1】
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】プラセボ、または10(QD)、30(QD)、60(QD)、30(BID)もしくは60(BID)用量のアトゲパントにより1か月間、2か月間または3か月間の処置を行った後の、偏頭痛または恐らくは偏頭痛の起きた日数が少なくとも75%低下したことを報告した患者の百分率を示すグラフである。
【
図2】プラセボ、または10(QD)、30(QD)、60(QD)、30(BID)もしくは60(BID)用量のアトゲパントにより1か月間、2か月間または3か月間の処置を行った後の、偏頭痛または恐らくは偏頭痛の起きた日数が100%低下したことを報告した患者の百分率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本出願は、それを必要とする患者のための偏頭痛の処置方法を提供する。本出願は、予防有効量のアトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩を投与することによる、偏頭痛を患っている患者の予防処置を提供する。
【化2】
【0006】
予防処置は、偏頭痛による発作の頻度および強度を低下させることができる。一部の実施形態では、予防的方法は、頭痛を含めた偏頭痛の発作に関連する症状からの完全な解放をもたらすことができる。一部の実施形態では、アトゲパントまたはウブロゲパントの投与により、症状がほとんどなくなるか、または強度の低下した症状をもたらし得る。一部の実施形態では、偏頭痛の非頭痛症状が、低減するかまたは消滅する。本発明の予防的方法は、偏頭痛の発作の間に患者によって経験された症状の全範囲を対象とし、単なる、偏頭痛の発作に伴う頭痛の予防ではない。
偏頭痛の予防的処置に関する兆候は、米国神経学会(American Academy of Neurology)により公開されている(最新版:Pharmacologic Treatment for Episodic Migraine Prevention in Adults, American Academy of Neurology, 2012を参照されたい)。予防処置は、一般に、1か月あたり2回以上の偏頭痛の発作を患う患者に対して提案される。予防処置はまた、一層強力なまたは障害にさえなる偏頭痛の発作をそれほど高い頻度で経験していない患者にも使用され得る。
【0007】
一部の実施形態では、患者は、副鼻腔炎、吐き気、副鼻頭炎、光恐怖症、食欲の変化、認知および集中困難、手足の冷え、下痢または他の腸の変化、興奮および過敏性、倦怠感、頻尿、記憶の変化、虚弱、あくび、伸縮、輝点または光の点灯が見える、失明、黒斑点が見える、チリチリ感、発話問題、失語症、耳鳴、胃停滞、頭部の片側もしくは両側のズキズキとした痛みまたは拍動痛、光、音または匂いに対する極度の過敏性、運動中の疼痛の悪化、および嘔吐、腹痛または胸やけ、食欲喪失、頭のふらつき、眼のかすみおよび失神から選択される偏頭痛のうちの1つまたは複数の症状を患っている。一部の実施形態で、予防有効量のアトゲパントまたはウブロゲパントの投与により、症状の頻度または強度の低下という改善がもたらされる。
一実施形態では、本発明は、それを必要とする患者に、治療有効量のアトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩を定期的に投与するステップを含む、偏頭痛の予防処置法を提供する。
一部の実施形態では、CGRPアンタゴニストは、アトゲパントである。一部の実施形態では、1日1回、2回または3回、約5~約500mgとなる経口用量のアトゲパントが投与される。一部の実施形態では、1日1回、約10mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日1回、約30mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日1回、約50mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日1回、約100mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日2回、約10mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日2回、約30mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日2回、約50mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。一部の実施形態では、1日2回、約100mgとなる用量のアトゲパントが、経口投与される。
【0008】
一部の実施形態では、CGRPアンタゴニストは、ウブロゲパントである。一部の実施形態では、1日1回、2回または3回、約5~約500mgとなる経口用量のウブロゲパントが投与される。一部の実施形態では、1日1回、2回または3回、約25mgとなる経口用量のウブロゲパントが投与される。一部の実施形態では、1日1回、2回または3回、約50mgとなる経口用量のウブロゲパントが投与される。一部の実施形態では、1日1回、2回または3回、約100mgとなる経口用量のウブロゲパントが投与される。一部の実施形態では、1日1回、2回または3回、約200mgとなる経口用量のウブロゲパントが投与される。
一実施形態では、1日あたり約1~1000mgの用量のウブロゲパントが投与される。一実施形態では、1日あたり約5、10、25、50、100、200または400mgの用量のウブロゲパントが投与される。
一部の実施形態では、CGRPアンタゴニストは、経口的、舌下、経皮的、皮下、静脈内または経筋肉に投与され得る。
【0009】
一部の実施形態では、アトゲパントまたはウブロゲパントによる予防処置は、肝臓酵素、特にアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)のレベルに有意に影響を及ぼさない。例えば、約3か月間のアトゲパントまたはウブロゲパントによる処置後、ASTまたはALTのベースライン処置前レベルは、50%、75%、100%または200%を超えて増加しない。ベースラインALTレベルは、確立された方法に基づいて、血清中の1リットルあたりの単位として測定され得る(Neuschwander-Tetri, B.A. et. al., Arch Intern Med. 2004 Mar 24; 168(6): 663-666; Kasarala, G. et. al., Clinical Liver Disease, 8, (1) July 2016)。Neuschwander-Tetriは、健全なALTは、男性の場合、血清1リットルあたり最大で30単位(U/L)、女性の場合、19U/Lとなるべきであると述べている。一部の実施形態では、約3か月間のアトゲパントまたはウブロゲパントによる予防処置により、ALTレベルは、男性の場合、30U/L、および女性の場合、19U/Lの健全なレベルより高くならない。一実施形態では、本出願は、ALTまたはASTレベルが向上している患者における偏頭痛を処置する方法を提供する。例えば、ALTまたはASTレベルの高い患者(男性の場合、30U/L、女性の場合、19U/Lを超える)における偏頭痛は、アトゲパントまたはウブロゲパントによって処置され得る。一実施形態では、本出願は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を有する患者における偏頭痛を処置する方法を提供する。
【0010】
一部の実施形態では、ASTの処置前のベースラインレベルは、血清1リットルあたり約5~40単位であり、約3か月間のアトゲパントまたはウブロゲパントによる処置後のASTのレベルは、血清1リットルあたり、約100または90または75または60または50単位未満となる。
一部の実施形態では、ALTの処置前のベースラインレベルおよびASTの処置前のベースラインレベルは、血清1リットルあたり約7~56単位であり、約3か月間のアトゲパントまたはウブロゲパントによる処置後のALTのレベルは、血清1リットルあたり、約100または90または75または60または50単位未満となる。
【0011】
一部の実施形態では、ウブロゲパントもしくはアトゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグは、ウブロゲパントもしくはアトゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグによる処置に感受性があると特定された患者に投与される。一過性偏頭痛を患っている患者が、1か月間、2か月間または3か月間のアトゲパント(例えば、10mg(QDまたはBID)、30mg(QDまたはBID)または60mg(QDまたはBID))またはウブロゲパント(例えば、25mg(QDまたはBID)、50mg(QDまたはBID)または1000mg(QDまたはBID))による処置の後に、偏頭痛または恐らくは偏頭痛の起きた日数が、70%、好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%またはより好ましくは100%の低下を実現した場合に、この患者は、ウブロゲパントもしくはアトゲパントまたは薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグによる処置に感受性があると見なされ得る。
【0012】
本明細書で使用する場合、以下に説明されている語または用語は、以下の定義を有する:
「約」または「およそ」は、本明細書で使用する場合、当業者によって決定された特定の値に対して許容される誤差範囲内にあることであって、その値が測定または決定された方法(すなわち、測定システムの限界)に一部依存して誤差範囲内にあることを意味する。例えば、「約」は、当分野において、1回の実施あたり1または1より大きな標準偏差内にあることを意味することができる。具体的な値が、本出願および特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、「約」という用語は、特定の値に対する許容される誤差範囲内にあることを意味する。
「投与」または「投与すること」は、対象に医薬組成物を与える(すなわち、投与する)ステップ、または代替として、対象が医薬組成物を受けるステップを意味する。本明細書に開示されている医薬組成物は、様々な方法によって局所投与され得る。例えば、筋肉内、皮内、皮下投与、鞘内投与、腹腔内投与、局所(経皮)、点滴およびインプラント(例えば、ポリマー製インプラントまたはミニ浸透圧ポンプなどの緩徐放出デバイスのインプラント)がすべて、適切な投与経路となり得る。
【0013】
「緩和すること」は、疼痛、頭痛、あるいは状態もしくは障害の任意の症状または原因の発生の低下を意味する。したがって、緩和することには、ある程度の低下、有意な低下、ほぼ完全な低下および完全な低下が含まれる。
カルシトニン遺伝子関連ペプチドに対する略称である「CGRP」は、本明細書で使用する場合、任意のカルシトニン遺伝子関連ペプチドおよびアナログ、カルシトニン、アミリン、アドレノメデュリンおよびそれらのアナログを含めた、カルシトニンファミリーの任意のメンバーを包含する。
「CGRPアンタゴニスト」は、以下の特徴:(a)CGRPまたはCGRP-Rに結合して、その結合により、CGRP活性の低下または阻害をもたらすこと、(b)CGRPがその受容体に結合するのを遮断すること、(c)CGRP受容体活性化を遮断することまたは低下させること、(d)CGRP生物活性、またはCGRPシグナル伝達機能により媒介される下流の経路を阻害すること、(e)CGRPのクリアランスを増大させること、および(f)CGRP合成、産生もしくは放出を阻害する、または低減することのいずれか1つまたは複数を示す任意の分子を指す。CGRPアンタゴニストには、以下に限定されないが、CGRPへの抗体、CGRP-Rへの抗体、CGRPを拮抗する低分子、およびCGRP-Rを拮抗する低分子が含まれる。
用語「予防的」とは、疾患もしくは障害の発病、再発または拡散、あるいは疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状の予防を指す。一実施形態では、予防される疾患または障害に関連するこのような症状は、当業者に公知なものである。ある種の実施形態では、この用語は、特に本明細書に提示されている疾患または障害のリスクにある患者に、症状の発病前に、他の追加的な活性化合物を伴うまたはこれを伴わない、本明細書において提供されている化合物による処置またはその投与を指す。この用語は、特定の疾患の症状の阻害または低下を包含する。頻度の高い偏頭痛の場合、予防処置は、偏頭痛の頻度を低下させるために、やはりまた偏頭痛の重症度および期間、ならびに関連症状が発生した場合のそれらの症状を低下させるために使用される。
【0014】
化合物の「予防有効量」は、疾患もしくは障害を予防する、またはその再発を予防するのに十分な量のことである。予防有効量の化合物は、疾患の予防において予防的利益を実現することができる治療剤の量を意味する。用語「予防有効量」は、予防を総合的に改善する、または別の予防剤の予防的有効性を増強する量を包含することができる。
「有効量」は、生物学的活性成分に該当する場合、対象において、一般に所望の変化量を行うために十分な成分の量を意味する。例えば、所望の効果が、自己免疫障害の症状の低下である場合、成分の有効量とは、有意な毒性をもたらすことなく、自己免疫障害の症状の少なくとも大きな低下を引き起こす量である。
「筋肉内」または「経筋肉」は、筋肉中または筋肉内部(CGRPアンタゴニストの筋肉への投与または注射と同様)を意味する。
「局所投与」は、動物の身体表面もしくはその内部のある部位またはその近傍に医薬品を直接投与することであって、例えば、筋肉内注射、または経皮もしくは皮下注射、または局所投与などにより、動物の身体の部位に医薬品の生物学的作用が望まれる、医薬品を直接投与することを意味する。局所投与は、静脈内投与または経口投与などの全身性の投与経路を除外する。局所投与は、医薬剤が患者の皮膚に施用される局所投与のタイプの1つである。
【0015】
「患者」は、医療的ケアまたは獣医学的ケアを受けるヒトまたは非ヒト対象を意味する。したがって、本明細書において開示されている組成物は、例えば哺乳動物などの任意の動物の処置に使用することができる。
「末梢に投与すること」または「末梢投与」とは、真皮下、皮内、経皮または皮下投与を意味するが、筋肉内投与は除外する。「末梢の」は、真皮の位置を意味し、内臓部位を除外する。
「医薬組成物」は、例えば、CGRPアンタゴニストなどの活性医薬成分、および例えば、安定剤または賦形剤などの少なくとも1種の追加成分を含む組成物を意味する。したがって、医薬組成物は、ヒト患者などの対象への診断投与または治療投与に好適な製剤である。本医薬組成物は、例えば、凍結乾燥状態もしくは減圧乾燥状態にあることができ、凍結乾燥もしくは減圧乾燥された医薬組成物の再構成後に形成される溶液とすることができ、または再構成を必要としない溶液もしくは固体として存在することができる。
【0016】
「薬理学的に許容される賦形剤」は、「薬理学的賦形剤」または「賦形剤」と同義であり、哺乳動物に投与されると、長期のまたは恒久的な有害作用を実質的に有していない任意の賦形剤を指し、例えば、安定化剤、充填剤、クリオプロテクタント(cryo-protectant)、リオプロテクタント(lyo-protectant)、添加剤、ビヒクル、担体、希釈剤または補助剤などの化合物を包含する。賦形剤は、一般に、活性成分と混合されるか、または活性成分を希釈もしくは包み込むことが可能となり、固体、半固体または液状作用剤とすることができる。薬理学的に許容される賦形剤の非限定例には、例えば、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems (Howard C. Ansel et al., eds., Lippincott Williams & Wilkins Publishers, 7th ed. 1999); Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Alfonso R. Gennaro ed., Lippincott, Williams & Wilkins, 20th ed. 2000); Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics (Joel G. Hardman et al., eds., McGraw-Hill Professional, 10th ed. 2001);および Handbook of Pharmaceutical Excipients (Raymond C. Rowe et al., APhA Publications, 4th edition 2003)に見出すことができ、これらの各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0017】
医薬組成物の組成成分は、単一組成(すなわち、任意の必要な再構成流体を除くすべての組成成分が、医薬組成物の最初の配合時に存在する)で、または2構成成分系、例えば、医薬組成物の最初の配合時に存在していない成分を例えば含有することができる再構成用ビヒクルにより再構成される真空乾燥組成物として含まれ得る。2構成成分系は、この2構成成分系の第1の構成成分を用いて、長期保管に十分に適合しない成分の組み込みを可能にするという有益性を含めた、いくつかの有益性をもたらすことができる。医薬組成物はまた、ベンジルアルコール、安息香酸、フェノール、パラベンおよびソルビン酸などの保存剤を含むことができる。医薬組成物は、例えば、表面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤;結合剤;滑沢剤;保存剤;ゼラチンなどの生理的分解性組成物;水性ビヒクルおよび溶媒;油性ビヒクルおよび溶媒;懸濁化剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩;増粘剤;充填剤;抗酸化剤;安定化剤;ならびに薬学的に許容されるポリマー物質または疎水性物質、ならびに当分野で公知であり、例えば、参照により本明細書に組み込まれているGenaro, ed., 1985, Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa.に記載されている他の成分などの賦形剤を含むことができる。
「等張化剤」は、等張性をもたらすために、製剤に含まれている低分子量の賦形剤を意味する。トレハロースまたはスクロースなどの二糖、ソルビトールまたはマンニトールなどのポリアルコール、グルコースなどの単糖、および塩化ナトリウムなどの塩が、等張化剤として働くことができる。
【0018】
「多糖」は、2つ超の糖分子モノマーからなるポリマーを意味する。これらのモノマーは、同一とすることができ、または異なることができる。
「安定剤」は、賦形剤を含むことができ、タンパク質分子および非タンパク質分子を含むことができる。
「治療製剤」は、製剤が使用されて、例えば、末梢筋肉の過活性(すなわち、痙直)を特徴とする障害または疾患などの障害または疾患を処置し、これにより上記の障害または疾患を緩和することができることを意味する。
「処置すること」は、例えば、副鼻腔炎、吐き気、副鼻頭炎、光恐怖症、食欲の変化、認知および集中困難、手足の冷え、下痢または他の腸の変化、興奮および過敏性、倦怠感、頻尿、記憶の変化、虚弱、あくび、伸縮、輝点または光の点灯が見える、失明、黒斑点が見える、チリチリ感、発話問題、失語症、耳鳴、胃停滞、頭部の片側もしくは両側のズキズキとした痛みまたは拍動痛、光、音または匂いに対する極度の過敏性、運動中の疼痛の悪化、および嘔吐、腹痛または胸やけ、食欲喪失、頭のふらつき、眼のかすみまたは失神などの状態または障害の少なくとも1つの症状を、一時的にまたは恒久的に緩和すること(または消滅させること)を意味する。
【実施例0019】
以下の非限定例は、本開示の範囲内の状態を処置するための考えられる症例シナリオおよび特定の方法を当業者に提供するものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
複数の機関において、偏頭痛を予防するため、アトゲパントの多回用量および用量レジメンの有効性、安全性および耐容性を評価するために、無作為化した二重盲検のプラセボを対照とする、並行群検討を設計した。患者は、1~6の処置群:プラセボ、アトゲパント10mg QD、アトゲパント30mg QD、アトゲパント30mg BID、アトゲパント60mg QDおよびアトゲパント60mg BIDに無作為化(2:1:2:1:2:1)した。
この検討は、4週間のスクリーニングおよびベースライン期間および12週間の二重盲検処置期間からなり、この後に、4週間の安全性経過観察期間を続けた。全検討期間は20週間である。
【0020】
無作為化するため、適格患者は、年齢が18~75歳(これらを含む)でなければならず、少なくとも1年間、頭痛障害の診断基準、第3版、ベータ版の国際分類に従う診断に一致する前兆があるまたは前兆のない、偏頭痛歴を有しており、28日間のベースライン期間に、偏頭痛/恐らくは偏頭痛による頭痛を4~14日間、および<15の頭痛日数を経験している。臨床的に深刻な、血液、内分泌、心血管、脳血管、肺、腎臓、肝臓、胃腸管または神経の疾患を有した患者は、この検討から除外した。
【0021】
合計が834名の患者を、二重盲検処置(ITT集団)に無作為化し、825名の患者は、少なくとも1用量分の二重盲検IP(安全性集団)を服用した。合計で795名の処置患者は、記録日誌データの評価可能ベースライン期間、および記録日誌データの少なくとも1回のベースライン後4週間の評価可能間隔(週1~4、5~8または9~12)を受けた。一次効力変数は、12週間の処置期間にわたる、1か月あたりの偏頭痛/恐らくは偏頭痛の頭痛の平均日数でのベースラインからの変化量とした。二次効力変数は、12週間の処置期間にわたる、1か月あたりの頭痛平均日数でのベースラインからの変化量、12週間の処置期間にわたる、1か月あたりの偏頭痛/恐らくは偏頭痛の頭痛の平均日数の少なくとも50%の低下を有する患者の割合、および12週間の処置期間にわたる、1か月あたりの急性投薬使用の平均日数のベースラインからの変化量とした。
【0022】
本検討からの結果が、以下の表に表されている:
【表1】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
前記肝臓酵素が、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)であり、ASTまたはALTのベースライン処置前レベルが、3か月間のアトゲパントまたはウブロゲパントによる処置後、50%、75%、100%または200%を超えて上昇しない、請求項3に記載の医薬組成物。
アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグによる処置後の前記ASTレベルが、血清1リットルあたり約100または90または75または60または50単位未満である、請求項3~5のいずれかに記載の医薬組成物。
アトゲパントもしくはウブロゲパント、または薬学的に許容されるそれらの塩、エステルもしくはプロドラッグによる処置後の前記ALTレベルが、血清1リットルあたり約100または90または75または60または50単位未満である、請求項3または7のいずれかに記載の医薬組成物。