(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007140
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
H01Q 17/00 20060101AFI20240111BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20240111BHJP
G01S 7/38 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
H01Q17/00
H01Q15/14 Z
G01S7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108397
(22)【出願日】2022-07-05
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康夫
【テーマコード(参考)】
5J020
5J070
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020BD02
5J020BD04
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA10
5J070AE01
5J070AE20
5J070AF10
5J070AK40
5J070BH01
(57)【要約】
【課題】構造体の形状に制約を加えることなく、かつコストを増大することなく簡易な構成でRCSを低減することができる構造体を提供する。
【解決手段】構造体は、RCSを低減するための構造体であって、構造物の一部である基材と、電波の進行方向に対して前記基材の手前側を前側、前記進行方向の進行側を後側としたときに、前記基材の前記前側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置のみまでの領域、又は前記基材の前記後側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置のみまでの領域に、前記基材の表面又は内部に設けられた電波吸収体と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RCSを低減するための構造体であって、
構造物の一部である基材と、
電波の進行方向に対して前記基材の手前側を前側、前記進行方向の進行側を後側としたときに、
前記基材の前記前側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域、又は前記基材の前記後側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域に、前記基材の表面又は内部に設けられた電波吸収体と、を備える、
構造体。
【請求項2】
反射を防止するべき電波の波長をλとし、
当該電波の入射角をθとし、
前記基材の前記前側のエッジから前記基材の表面に沿って前記電波吸収体が設けられる距離、又は前記基材の前記後側のエッジから前記基材の表面に沿って前記電波吸収体が設けられる距離である前記所定距離をδとするとき、
δ=(2n+1)×λ/4×1/sinθ [nは0以上の整数]の関係式が成立する、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記電波吸収体はメタマテリアル構造を含み、前記メタマテリアル構造はサブ波長サイズの複数の単位セルを有する、
請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
RCSを低減するための構造体であって、
構造物の一部である基材と、
電波の進行方向に対して前記基材の手前側を前側、前記進行方向の進行側を後側としたときに、
前記基材の前記前側のエッジ又は前記後側のエッジから前記基材の表面に沿った鋸歯状の領域に、前記基材の表面又は内部に設けられた電波吸収体を備える、
構造体。
【請求項5】
前記電波吸収体はメタマテリアル構造を含み、前記メタマテリアル構造はサブ波長サイズの複数の単位セルを有する、
請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記基材は導電性であり、
前記メタマテリアル構造は、
前記基材の上部に設けられる誘電体層と、
前記誘電体層の上部に前記誘電体層の表面に沿って規則的に配列される複数の導電性パッチと、
前記基材の一部を含み、
前記導電性パッチのピッチは、前記反射を防止するべき電波の波長の1/10より大きく1/2より小さい、
請求項3に記載の構造体。
【請求項7】
前記メタマテリアル構造は、前記基材と前記複数の導電性パッチの各々とをそれぞれ接続する複数の導電性ピンを含む、
請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
前記導電性パッチは正方形状又は正六角形状に形成されている、
請求項6または7に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRCS(Radar Cross Section:レーダ反射断面積)を低減する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナから放射される到来電波が到来方向に反射させる強さの指標とされるRCSを低減すべく、構造体を構成する面やエッジの角度を調整し、或いはエッジを鋸歯状、即ちセレーションに加工することで、反射波や散乱波が電波の到来方向に帰還しないようにしている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、電波吸収体を構造体に取り付けたり、金属構造体と非金属構造体両方のエッジを鋸歯状、即ちセレーションに加工して金属構造と非金属構造の鋸歯状のエッジ同士接続したりすることで、RCSの低減を行っている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-139498号公報
【特許文献2】特開平4-015195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のように構造体を構成する面やエッジの角度を調整したり、構造体のエッジをセレーションにしたりすることでその形状に制約が加えられる恐れや、セレーションを形成するための構造の複雑化に伴う重量およびコストの増大を招来する恐れがあった。
【0006】
また、誘電性損失材料や磁性損失材料を利用したシート型や塗布型の電波吸収体を構造体の表面全体に取り付けたり塗布したりすることがある。しかし、電波吸収体を構造体の表面全体に取り付ける場合は重量やコストが大きく増大してしまい、電波吸収体を構造体の表面全体に塗布する場合は精密な厚みや電波吸収体の劣化、脱落防止等の管理が要求される。
【0007】
そこで、本開示は、構造体の形状に制約を加えることなく、かつコストを増大することなく簡易な構成でRCSを低減することができる構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の構造体は、RCSを低減するための構造体であって、構造物の一部である基材と、電波の進行方向に対して前記基材の手前側を前側、前記進行方向の進行側を後側としたときに、前記基材の前記前側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域、又は前記基材の前記後側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域に、前記基材の表面又は内部に設けられた電波吸収体と、を備えるものである。
【0009】
本開示に従えば、基材の前側のエッジ又は後側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域であって当該基材の表面又は内部に電波吸収体が設けられる。このように基材の端部のみに電波吸収体を設けることで、構造体の形状に大きな制約を加えることなく、かつコストを増大させることなくRCSを低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、構造体の形状に制約を加えることなく、かつコストを増大することなく簡易な構成でRCSを低減することができる構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る電波吸収体を備える構造体を示す斜視図である。
【
図2】電波吸収体としてメタマテリアル構造の一例であるマッシュルーム構造を備える構造体を示す斜視図である。
【
図4】
図4Aは導電性パッチの形状および配置を示す平面図であり、
図4Bは変形例に係る導電性パッチの形状および配置を示す平面図である。
【
図5】
図5Aは本実施形態のマッシュルーム構造における電波の入射角と反射係数との関係を示す図であり、
図5Bは一般的な電波吸収体における電波の入射角と反射係数との関係を示す図である。
【
図6】
図6Aはδ=λとしてマッシュルーム構造を前側の端部に配置した解析構成部を示す斜視図であり、
図6Bはδ=約λ/4としてマッシュルーム構造を前側の端部に配置した解析構成部を示す斜視図であり、
図6Cは
図6Aおよび
図6Bについての解析結果を示すグラフである。
【
図7】
図7Aはδ=λとしてマッシュルーム構造を後側の端部に配置した解析構成部を示す斜視図であり、
図7Bはδ=約λ/4としてマッシュルーム構造を後側の端部に配置した解析構成部を示す斜視図であり、
図7Cは
図7Aおよび
図7Bについての解析結果を示すグラフである。
【
図8】
図8Aは完全導体の解析構成部を示す斜視図であり、
図8Bはδ=約λ/4としてマッシュルーム構造を前側の端部に配置した解析構成部を示す斜視図であり、
図8Cは
図8Aおよび
図8Bについての解析結果を示すグラフである。
【
図9】
図9Aは完全導体の解析構成部を示す斜視図であり、
図9Bはδ=約λ/4としてマッシュルーム構造を後側の端部に配置した解析構成部を示す斜視図であり、
図9Cは
図9Aおよび
図9Bについての解析結果を示すグラフである。
【
図10】
図10Aは完全導体からなる解析構成部を示す斜視図であり、
図10Bは凹状のセレーション部を有する完全導体の解析構成部を示す斜視図であり、
図10Cは
図10Bのセレーション部にマッシュルーム構造を設けた解析構成部を示す斜視図である。
【
図12】
図12Aは凸状のセレーション部を有する完全導体の解析構成部を示す斜視図であり、
図12Bは
図12Aのセレーション部にマッシュルーム構造を設けた解析構成部を示す斜視図である。
【
図14】
図14Aはマッシュルーム構造の適用の変形例を示す斜視図であり、
図14Bはマッシュルーム構造の適用の変形例をさらに示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態に係る構造体100について図面を参照して説明する。以下に説明する構造体100は本開示の一実施形態に過ぎない。従って、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0013】
(第1実施形態)
図1は本開示の一実施形態に係る電波吸収体50を備える構造体100を示す斜視図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る構造体100は導電性基材1および電波吸収体50を備える。導電性基材1は例えば自動車、建物、飛翔体等の一部を構成する基材として用いられ、金属やCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)等の材料で構成される。導電性基材1は基材に相当する。導電性基材1は所定の厚みを有する構造であり、平板状、曲面状などどのような形状でも良い。電波吸収体50は導電性基材1上に設けられる。詳しくは、電波吸収体50は、
図1に示すように導電性基材1の前側の端部Tfおよび後側の端部Trにそれぞれ設けられる。前側の端部Tfは、電波の進行方向に対して導電性基材1の手前側を前側、当該進行方向の奥側を後側としたときの前側における端部であり、後側の端部Trは上記後側における端部である。以下、前側の端部Tfが位置する方を前方と呼び、後側の端部Trが位置する方を後方と呼ぶことがある。但し、電波吸収体50を導電性基材1の前側の端部Tfおよび後側の端部Trのうち何れか一方のみに設けてもよい。
【0015】
本実施形態において、端部Tfは導電性基材1の前側のエッジed1から当該導電性基材1の表面に沿って所定距離δだけ離れた位置までの領域を指す。同様に、端部Trは導電性基材1の後側のエッジed2から当該導電性基材1の表面に沿って所定距離δだけ離れた位置までの領域を指す。当該所定距離は奥行きとも表現できる。
【0016】
本実施形態において、エッジed1,ed2は、例えば、後述の
図14等の凸形状又は凹形状も含む飛翔体等の構造物における基材と基材とのつなぎ目、飛翔体等の構造物の最も外側で他の基材と接続されていない部分、および、基材の折れ目等を含む。
【0017】
電波吸収体50は、導電性基材1の表面に設けてもよいし、当該導電性基材1の内部に設けてもよいし、導電性基材1の表面及び内部の両方に設けてもよい。
【0018】
このように、電波吸収体50を導電性基材1の端部Tf及び端部Trのみに適用することによって、導電性機材1自身にRCS低減のための複雑な形状を採用することなく、また、従来のように電波吸収体を導電性基材の全面に設けることなく、RCSを低減することが可能となる。
【0019】
ここで、上述の通り、電波吸収体50はエッジed1,ed2から所定距離δまでの領域に設けられる。この場合、入射波の波長をλとし、入射角をθとするとき、所定距離δは下記式1を充足するように決定されることが望ましい。なお、入射角θは、入射波の入射方向に係る線と導電性基材1の表面に対する垂直線とが成す角度である。
【0020】
(数1)
δ=(2n+1)×λ/4×1/sinθ [n=0,1,2,・・(nは0以上の整数)]
【0021】
電波吸収体50を設ける領域に関して、上記関係式によりδを決定することによる効果は次の通りである。電波吸収体50の奥行きを電波の進行方向に対して特定の距離、即ち上述の距離δとすることで、電波吸収体50と基材との境界を含む電波吸収体50の前方と後方で生じる散乱波を、RCSを低減させたい方向で相殺し合うように干渉させることができる。これによって、より効果的に散乱波を抑制することができる。
【0022】
また、RCS低減効果を最大としたい入射角に対して、上記した所定距離δについての関係式を充足するように前側の端部Tfに係る所定距離δおよび後側の端部Trに係る所定距離δを設定することで、より効果的にRCSを低減することができる。例えば、電波の入射角が大きくなる領域で端部におけるRCSが小さくなるように要求される場合、入射角を90°として、上述の所定距離δについての関係式を用いて所定距離δを特定することで、より効果的にRCSを低減することができる。
【0023】
上記関係式においてnを小さくすれば電波吸収体50の奥行きが小さくなるため、当該電波吸収体50の適用面積も狭くなり、それ故入射角が小さい領域での反射波の抑制効果が小さくなる。しかしながら、入射角の変化に対して少ない次数、すなわちローブの数の少ない反射特性となるため、入射角の変化に対する反射特性の変動を小さく抑えることができる。一方、nを大きくすれば電波吸収体50の奥行きが大きくなるため、当該電波吸収体50の適用面積も広くなり、それ故入射角が小さい領域での反射波の抑制効果は大きくなる。しかしながら、入射角の変化に対して次数の大きい、すなわちローブの数の多い反射特性となるため、入射角の変化に対する反射特性の変動が大きくなる。
【0024】
上記した算出式におけるnは、前側の端部Tfと後側の端部Trで同一に設定してもよいし、nを異なるように設定してもよい。上記した算出式におけるθは、前側の端部Tfと後側の端部Trで同一に設定してもよいし、θを異なるように設定してもよいが、θを同一にする方がRCS低減効果は高い。ただし、反射すべき電波の前側の端部部の入射角θを90°とする場合には、前側の端部Tfと後側の端部Trのθを同一にしなくてもRCSの低減効果が奏される。また、前側の端部Tfの電波吸収体50はTE波とTM波の両偏波の電波を吸収するため、後側の端部Trに到達するTM波の入射電界も抑制される。特に反射すべき電波の導電性基材1への入射角θを90°とする場合、電波は後側の端部Trに直接照射されないため、電波吸収体50を前側の端部Tfにのみ設け、TM波を吸収することによってもRCSの低減効果が奏される。この場合、電波吸収体50を後側の端部Trにも設けてよいが、後側の端部Trに係る距離δを前側の端部Tfに係る距離δに合わせなくてもよい。
【0025】
電波吸収体50は、例えば、塗布又は貼り付け型の公知の電波吸収体、又は、公知のメタマテリアル構造である。
【0026】
電波吸収体50として塗布又は貼り付け型の電波吸収体を採用する場合、当該電波吸収体は、例えばカーボン等の誘電性損失材料もしくはフェライト等の磁性損失材料をポリエチレン/ポリプロプレン等のプラスチック系材料でシート型に成形、又はシリコンやポリウレタン等の塗料に混合して導電性基材1上に塗布して形成される。電波吸収体50は、吸収する電波の周波数の波長に応じた形状および厚みに成形される。
【0027】
電波吸収体50としてメタマテリアル構造を採用する場合、例えば、後述のマッシュルーム構造およびMIM(Metal-Insulator-Metal)構造を採用することができる。
【0028】
上述したように、電波吸収体50としては塗布又は貼り付け型の公知の電波吸収体、又は、公知のメタマテリアル構造を用いることができるが、より効果的にRCSを低減させるためには、メタマテリアル構造を採用する方が望ましい。以下では、メタマテリアル構造の例としてマッシュルーム構造10を採用した態様およびその効果について説明する。
図2は本開示の一実施形態に係るメタマテリアル構造の一例であるマッシュルーム構造10を備える構造体100を示す斜視図である。また、
図3Aは
図2のマッシュルーム構造10を示す斜視図であり、
図3Bは
図3Aのマッシュルーム構造10を示す側面図である。
【0029】
マッシュルーム構造10はその共振特性により到来電波を閉じ込め吸収し、当該マッシュルーム構造10の面からの反射波および散乱波を抑制する。
図3Aおよび
図3Bに示すように、マッシュルーム構造10は、所定の厚みを有する損失性の誘電体層2と、複数の導電性ピン3と、当該導電性ピン3の各々に対応して設けられる複数の導電性パッチ4とを備えている。マッシュルーム構造10は誘電体層2の一部と導電性ピン3と導電性パッチ4とを含む単位セル10sを複数有する。単位セル10sのサイズ、すなわち隣り合う導電性パッチ4のピッチは反射を防止するべき電波のサブ波長サイズである。単位セル10sのサイズは当該電波の波長の1/10より大きく1/2より小さく設計するのが好ましく、当該電波の波長の1/10より大きく1/2より小さく設計するのがより好ましい。複数の導電性パッチ4は、たとえば銅、金、銀又はアルミ等の金属良導体である。誘電体層2は導電性基材1上に設けられる。誘電体層2を例えば樹脂にカーボン等を含ませたFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)で構成することができ、その場合にはCFRP等で構成される導電性基材1と同時形成が可能となる。導電性ピン3は導電性基材1上に規則的に立設される。導電性パッチ4は板状に形成されて導電性ピン3の外側端に設けられる。これにより、導電性ピン3によって導電性基材1と導電性パッチ4とが電気的に接続される。
【0030】
このような導電性パッチ4は、
図4Aに示すように平面視で例えば正方形状に形成することができる。そして、各導電性パッチ4は正方格子状に規則的に配置される。或いは、
図4Bに示すように平面視で例えば正六角形状に形成された導電性パッチ40を採用してもよい。この場合、各導電性パッチ40は六方格子状に規則的に配置される。なお、
図4A,4Bでは図示を簡略化したが、隣り合う一方の導電性パッチ4又は導電性パッチ40と他方の導電性パッチ4又は導電性パッチ40とは互いに間隔を空けて配置される。以降、導電性パッチ4,40を区別しない場合は、単に導電性パッチ4と呼称する。
【0031】
マッシュルーム構造10において、導電性パッチ4は入射する電波の誘電体層2の接線方向の電界成分、即ち主にTE波(Transverse Electromagnetic Wave)の電界成分に対して共振することで、反射波および散乱波を抑制する機能を果たす。また、導電性ピン3は、誘電体層2がピンで満たされた薄板として振舞うように作用し、誘電体層2の垂直方向の電界成分、即ち主にTM波(Transverse Magnetic Wave)の電界成分に対して実効的な誘電率が負となるような共鳴を生じさせる。これにより、誘電体層2を伝搬するTM波が減衰される。この導電性パッチ4の共振周波数と導電性ピン3の共鳴周波数とを僅かにずらすことにより共振帯域を広げることができる。そのため、同一入射角に対してはより広い周波数帯域における吸収が期待できる。また、同一周波数に対してはより広い入射角、即ち接線方向の広い波数領域における吸収が期待できる。すなわち、到来電波の入射角依存性やTE波やTM波依存性の小さい広帯域な吸収特性を得ることができ、それゆえメタマテリアル構造の電波吸収体は、塗布又は貼り付け型の公知の電波吸収体よりもRCSを大きく低減することが可能となる。
【0032】
一般的に、インピーダンスη0を有する空気から特定のインピーダンスZinpを有する境界に電波が入射する場合、その反射率Rは下記数式2で表され、入射角θおよびTE波、TM波に依存する。ここで、Zinp
TEはTE波に対するインピーダンスであり、Zinp
TMはTM波に対するインピーダンスであり、RTEはTE波に対する反射率であり、RTMはTM波に対する反射率である。
【0033】
【0034】
塗布又は貼り付け型の電波吸収体のような一層構造の層構造の場合、そのインピーダンスZinpは下記数式3で表され、その特性は入射角θ、誘電体層2の比誘電率εr、誘電体層2の比透磁率μr、および当該誘電体層2の厚みdにより特徴付けられる。なお、数式3においてk0は真空中の波数である。
【0035】
【0036】
一方、マッシュルーム構造のような導電性パッチ4による各インピーダンスは下記数式4でそれぞれ表される。各インピーダンスの特性は入射角θ、誘電体層2の比誘電率εr、当該誘電体層2の厚みd、および導電性パッチ4の周期サイズD、導電性パッチ4間の間隔wに基づく下記数式5で表されるグリッド変数αによって特徴付けられる。ここで、数式4においてμ0は真空の透磁率であり、βは誘電体層2の伝搬定数の垂直成分であり、keffは誘電体層2の表面の実効的な波数である。また、数式5における周期サイズDは導電性パッチ4の寸法と上記間隔wとの合算値である。なお、マッシュルーム構造における誘電体層2の比透磁率μrは約1であるため、数式4及び数式5ではμrを省略して表示している。
【0037】
【0038】
【0039】
マッシュルーム構造では、垂直方向の電界成分に対しては、導電性ピン3の共鳴により垂直方向の見かけの誘電率εnおよび伝搬定数βTMがそれぞれ下記数式6および数式7に示されるように、導電性ピン3の半径r0で特徴付けられる下記数式8で表される波数kpを介して変化させられる。これに伴い、上記数式4に示されるTM波に対するインピーダンスZinp
TMの周波数特性が変化する。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
図5Aは電波吸収特性の解析結果を示し、本実施形態のマッシュルーム構造10における電波の入射角と反射係数との関係を示す図であり、
図5Bは電波吸収特性の解析結果を示し、メタマテリアル構造ではない一般的な一層構造の電波吸収体における電波の入射角と反射係数との関係を示す図である。
【0044】
図5Aは誘電体層の厚みdを2mmとしたマッシュルーム構造10の電波反射特性であり、誘電体層の比誘電率ε
rを3.6-1.2jとし、比透磁率μ
rを1とし、周波数を10GHzとして上記数式2および数式4~8から得ている。
図5Bは電波の伝搬損失を大きくするための磁性体を含む厚さ約1mmの電波吸収体の電波反射特性であり、比誘電率を20-0.3jとし、比透磁率を2-2jとし、入射波の周波数を10GHzとして上記数式2および数式3から得ている。
図5Aおよび
図5Bにおいて、横軸は入射角θ(deg)を示し、縦軸は反射係数(dB)で表される。
図5Aおよび
図5Bにおいて、実線はTM波の解析結果を示し、破線はTE波の解析結果を示す。
【0045】
図5Aのマッシュルーム構造10の反射特性は、導電性パッチ4の共振周波数と導電性ピン3による共鳴周波数を僅かにずらすことにより、TE波においては磁性体を用いていないにも関わらず
図5Bの電波吸収体の反射特性と比較して、大きな入射角に対する反射特性が改善されている。つまりマッシュルーム構造10の方がTE波の反射係数を小さくすることができる。一方、
図5AのTM波については、ブルースター角(Brewster's angle)が生じる特定の入射角度、すなわち
図5A,
図5Bにおける50°付近において、
図5Bに比べて急峻な反射係数の減少は見られないものの、TE波とほぼ同様な均質な反射特性を確認することができる。これらの反射特性の改善によって、マッシュルーム構造10はより大きな入射角で入射するTE波およびTM波を持つ電波に対しても、反射波および散乱波を均質に抑制できる良好な手段になると言える。
【0046】
電波吸収体50をマッシュルーム構造10とする場合の効果は次の通りである。端部TfではTE波の入射電界に対して端部に沿う誘電電流が大きくなるため、大きな散乱波が生じる。また、端部Trでは、端部が直接見える比較的浅い入射角においては前側の端部と同様に端部に沿うTE波の入射電界に対して大きな散乱波が生じ、入射角が深くなるに従い、TM波の入射電界が端部Trに繋がる反射面を伝搬し当該端部Trに到達することで大きな散乱波が生じる。そこで、マッシュルーム構造10を前側の端部Tfおよび後側の端部Trに適用することで、TE波の入射電界による端部Tf,Trにおける誘導電流を抑制することができる。また、端部Trに対しては反射面を伝搬するTM波の伝搬を抑制することができるので、端部Tfおよび端部Trにおける双方の散乱波を抑制することができる。
【0047】
このように、電波吸収体50としてマッシュルーム構造10を採用することで、入射角依存性、TE波及びTM波依存性の小さい広帯域な吸収特性を得ることができるため、塗布又は貼り付け型の公知の電波吸収体を採用するよりもRCSの低減効果が大きくなる。
【0048】
以下、第1実施形態における実施例について説明する。実施例において、上述のマッシュルーム構造10を含んだ解析モデルによるRCSの低減効果について解析を行った。
【0049】
<第1実施例>
本実施例では、本実施形態のマッシュルーム構造10を設ける領域の所定距離δを種々設定してRCSの低減効果を確認すべく解析を行った。入射した電波の波長をλ、導電性パッチ4の周期サイズDをλ/5とした。
【0050】
図6Aはδをλとしてマッシュルーム構造10を前側の端部に配置した解析構成部10Cを示す斜視図であり、
図6Bはδを約λ/4としてマッシュルーム構造10を前側の端部に配置した解析構成部10Dを示す斜視図であり、
図6Cは解析構成部10Cと解析構成部10Dに対して、入射角を変えながら電波を入射した場合の解析結果を示すグラフである。また、
図7Aはδをλとしてマッシュルーム構造10を後側の端部に配置した解析構成部10Eを示す斜視図であり、
図7Bはδを約λ/4としてマッシュルーム構造10を後側の端部に配置した解析構成部10Fを示す斜視図であり、
図7Cは解析構成部10Eと解析構成部10Fに対して、入射角を変えながら電波を入射した場合の解析結果を示すグラフである。
【0051】
図8Aは完全導体の解析構成部1Aを示す斜視図であり、
図8Bはδを約λ/4としてマッシュルーム構造10を前側の端部に配置した解析構成部10Gを示す斜視図であり、
図8Cは解析構成部1Aと解析構成部10Gに対して、入射角を変えながら電波を入射した場合の解析結果を示すグラフである。また、
図9Aは完全導体の解析構成部1Aを示す斜視図であり、
図9Bはδを約λ/4としてマッシュルーム構造10を後側の端部に配置した解析構成部10Hを示す斜視図であり、
図9Cは解析構成部1Aと解析構成部10Hに対して、入射角を変えながら電波を入射した場合の解析結果を示すグラフである。
図6C,
図7C、
図8C、
図9Cにおいて、横軸は電波の入射角θを示し、縦軸はRCSの値(dB)を示す。
【0052】
図6Cに示すように、前側の端部から強い散乱波を生じさせるTE波については、入射角55°から90°付近において、マッシュルーム構造10の適用面積の小さい解析構成部10DによるRCSの方が、適用面積の大きい解析構成部10CによるRCSよりも小さくなることが確認できる。
【0053】
また、
図7Cに示すように、後側の端部から散乱波を生じさせるTM波については、約75°付近までの入射角が大きくなる範囲において、解析構成部10FによるRCSの方が解析構成部10EによるRCSよりも総じて小さいことが確認できる。
【0054】
さらに、
図8Cに示すように、TE波について入射角が約35°以上、特に水平入射である入射角90°付近においてRCSの低減効果を確認することができる。また、
図9Cに示すように、TM波について全体的なRCSの低減効果を確認することができる。以上のことから、数式1に従って奥行きである所定距離δを決定することで、所定距離δが僅かだとしても、RCSを効果的に低減できることがわかる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、導電性基材1の前側の端部Tf又は後側の端部Trから当該導電性基材1の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域であって当該導電性基材1の表面又は内部に電波吸収体50が設けられる。このように導電性基材1の端部Tf,Trのみに電波吸収体50を設けることで、構造体100の形状に大きな制約を加えることなく、かつコストを増大させることなくRCSを低減することができる。
【0056】
また、本実施形態では、数式1を用いて電波吸収体50が設けられる所定距離δを設定することで、前側の端部Tf又は後側の端部Trで生じる散乱波をRCSを低減させたい方向で相殺し合うように干渉させることができる。これにより、より効果的に散乱波を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、電波吸収体50としてマッシュルーム構造10を採用することで、端部Tfおよび端部Trにおける双方の散乱波を抑制し、より効果的にRCSを低減することができる。マッシュルーム構造10は導電性基材1と同時成形することができる。
【0058】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、前側の端部および後側の端部における各電波吸収体50の前側と後側で生じる散乱波を相互に相殺するように干渉させることで入射波の到来方向に戻る散乱波を抑制させた。しかし、この方法では特定の方位からの電波の入射に対するRCSの低減効果しか期待できない恐れがある。そこで、第2実施形態においては、構造体100の前側のエッジed1又は後側のエッジed2から基材の表面に沿った鋸歯状、つまりセレーション状の領域に、導電性基材1の内部又は表面に電波吸収体50が設けられる。すなわち、電波吸収体50が設けられた導電性基材1と、電波吸収体50が設けられていない導電性基材1との後記の境界55の形状が、鋸歯状、つまりセレーション状になるように、電波吸収体50が設けられる。鋸歯状の領域とは、三角形状の鋸歯要素が、1つ又は複数個連続して形成される領域である。鋸歯状は、導電性基材1のエッジからの奥行方向の距離が、当該導電性基材1のエッジの幅方向に対応して線形的に増減を繰り返す形状である。鋸歯状は、導電性基材1からの距離が当該導電性基材1のエッジの幅方向に対応して周期的又は非周期的に変化する形状であると共に、エッジ上に無い鋸歯要素の頂点に対して対称的又は非対称的に変化する形状であっても良い。つまり、エッジ上に無い鋸歯要素の頂点の位置はエッジの幅方向又は前後方向(奥行方向)に任意に設定でき、エッジ上にある2つの頂点の位置はエッジの幅方向に任意に設定できる。例えば、鋸歯状の領域が2以上の鋸歯要素を持つ場合、各鋸歯要素は同じ形状であっても良いし、エッジからエッジ上に無い頂点までの前後方向(奥行方向)の距離が各鋸歯要素で異なっていても良いし、鋸歯要素のエッジ上にある2つの頂点同士の距離が各鋸歯要素で異なっていても良いし、鋸歯要素の三角形状自体が鋸歯要素同士で異なっていても良い。このように、鋸歯状を適用する構造体の目的および構造(辺の長さおよび曲面の有無等)に応じて、電波吸収体50の奥行および幅方向の長さを例えば徐々に小さく又は大きくした非周期形状を採用しても良い。
【0059】
電波吸収体50の奥行き、つまり電波吸収体50の前端から後端までの距離、及び幅方向の長さは任意であり、目的や構造体100の構造に応じて適宜設計できる。第2実施形態の電波吸収体50の材料や、波吸収体50がマッシュルーム構造である場合の効果は第1実施形態と同様である。本実施形態では、例えば四角平板形状等の原形状の導電性基材1の上に公知の電波吸収体50を周期形状に塗布、又はマッシュルーム構造10等のメタマテリアル構造が周期形状となるように導電性基材1と同時成形させる。これにより、導電性基材1の原形状を変更することなく、境界で生じる散乱波の抑制を図る。なお、本実施形態において、周期形状に沿った形状を有するマッシュルーム構造10を一例とする電波吸収体50が第2電波吸収体に相当する。
【0060】
以下では、電波吸収体50としてマッシュルーム構造10を採用した第2実施形態の例を示す。
図10Aは比較例としての完全導体からなる解析構成部11Aを示す斜視図であり、
図10Bはセレーション部13Aを有する完全導体の解析構成部12Aを示す斜視図であり、
図10Cは境界55がセレーション形状のマッシュルーム構造10Iを設けた解析構成部30Aを示す斜視図である。
図10Bのセレーション部13Aは切り欠き状、つまり解析構成部12Aが凹状になるように形成されており、その凹部の角度である開き角を60°とした。また、セレーション部13Aの奥行き、つまり前端から後端までの距離の最大値を5λとし、その最大幅を3λとした。マッシュルーム構造10Iは、解析構成部30Aが平面視で全体的に矩形状となるように、
図10Bのセレーション部13A(切り欠き部分)と同様な形状となるように三角形状に形成される。
図10Cが本実施形態の一例である。
図10Cでは前側の端部Tfにマッシュルーム構造10Iを成形したが、後側の端部Trに成形しても良いし、両側の端部に形成しても良い。
【0061】
また、
図12Aはセレーション部15Aを有する完全導体の解析構成部14Aを示す斜視図であり、
図12Bは
図12Aのセレーション部15Aに加えてマッシュルーム構造10Jを設けた解析構成部31Aを示す斜視図である。
図12Aのセレーション部15Aは前側に凸状、つまり解析構成部14Aが凸状なるように形成されており、その凸部の角度を60°とした。また、セレーション部15Aの奥行きである前端から後端までの距離の最大値を5λとし、その最大幅を3λとした。マッシュルーム構造10Jは、解析構成部31Aが平面視で全体的に矩形状となるように、隣接構造との境界55が
図12Aのセレーション部15Aのエッジと同様な形状となるように、セレーション部15Aの幅方向両側にそれぞれ三角形状に形成される。
図12Bが本実施形態の別の例である。
図12Bでは前側の端部Tfにマッシュルーム構造10Jを成形したが、後側の端部Trに成形しても良いし、両側の端部に形成しても良い。
【0062】
以上のように本実施形態によれば、
図10Cおよび
図12Bのように例えばマッシュルーム構造10を一例とする電波吸収体50とセレーション形状とを組み合わせることによって、構造境界で生じる全般的な散乱波を到来方向から逸らすことができる。それによって、第1実施形態よりもRCSの低減効果をさらに向上することができる。このように、前側の端部および後側の端部に対して、TE/TM波による誘導電流および表面伝搬波を抑制し得るマッシュルーム構造10を形成することに加え、その構造境界を周期的な形状とすることによって、反射波と散乱波の抑制および当該反射波と散乱波の方向制御が可能となり、より効果的にRCSを低減することができる。
【0063】
<第2実施例>
以下、第2実施形態における実施例について説明する。
図11は
図10A、
図10Bおよび
図10Cの解析構成部のRCSについて解析を行った結果を示すグラフである。また、
図13は
図10Aの解析構成部のRCSおよび
図12A、
図12Bの解析構成部のRCSについて解析を行った結果を示すグラフである。
図11,
図13において、横軸は電波の入射角θを示し、縦軸はRCSの値(dB)を示す。なお、
図10C,
図12Bの解析構造部は前側の端部Tfにマッシュルーム構造10が形成されているため、
図11および
図13では前側の端部Tfにおける散乱波が大きく寄与するTE波に対してRCSを解析している。
【0064】
図11に示すように、
図10Cの解析構成部30Aについて、約50°付近の一部の入射角で
図10Bの解析構成部12AよりもRCSが大きくなる傾向がある。しかしながら、解析構成部30Aは、それ以外の全ての入射角において、
図10A、
図10Bの解析構成部11A,12AよりもRCSが同等かそれ以下に抑制されることが確認できる。
【0065】
また、
図13に示すように、
図12Bの解析構成部31Aは、全ての入射角において
図10Aの解析構成部11AよりもRCSが低い。
図12Aの解析構成部14Aと比較すると、約30°~70°付近の一部の入射角でRCSが大きくなる傾向がある。しかしながら、解析構成部31Aは、それ以外の全ての入射角において、
図12Aの解析構成部14AよりもRCSが同等かそれ以下に抑制されることが確認できる。これらのことから、前側の端部Tfおよび後側の端部Trに対してマッシュルーム構造10を組み込むことに加え、その構造境界を周期的な形状、例えばセレーション形状とすることにより、RCSをより効果的に低減できることがわかる。
【0066】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様にコストを増大することなく簡易な構成でRCSを低減することができる。また、電波吸収体50と周期的な形状とを組み合わせて設けることによって、構造境界で生じる全般的な散乱波を到来方向から逸らすことができる。そのため、第1実施形態よりもRCSの低減効果をさらに向上できることが期待される。
【0067】
(他の実施形態)
上述の実施形態の他にも、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で次のような種々の変形が可能である。
【0068】
自動車等に搭載されるレーダー・アンテナ等の電波センサの近傍における構造体やETC(Electronic Toll Collection System)ゲートのような、電波を利用する通信機器の近傍における建物(構造体)等の構造体に本開示を適用することで、これらの構造体からの反射波が電波利用機器(レーダー・センサやWifi、Bluetooth機能を有する通信機器等)に受信されないようにする目的で本開示を適用してもよい。或いは、電波干渉(EMI:Electro-Magnetic Interference)を抑制する目的とした構造体に本開示を適用してもよく、本開示は汎用的に適用され得るものである。
【0069】
また、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせても良い。
【0070】
また、マッシュルーム構造10に対する隣接構造における形状(マッシュルーム構造10と前記隣接構造との境界の形状)を、例えばエッジアライメント形状としてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、電波吸収体50が最外層となるように導電性基材1に設けたが、これに限定されるものではなく、電波吸収体50を保護する表面保護層を設けることで当該電波吸収体50を最外層として構成しなくてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、メタマテリアル構造の一例としてマッシュルーム構造10を採用した。しかし、メタマテリアル構造はマッシュルーム構造10に限定されるものではない。到来電波を閉じ込め吸収し反射波および散乱波を抑制し得るものであれば、メタマテリアル構造はマッシュルーム構造10に限定されるものではなく、例えばMIM(Metal-Insulator- Metal)構造等であってもよい。このMIM構造は、導電性基材と、当該導電性基材上に設けられる誘電体層と、当該誘電体層の上部に誘電体層の表面に沿って規則的に配列される複数の導電性パッチとを備える。
【0073】
また、上記解析結果から、電波吸収体50の一例であるマッシュルーム構造10を前側の端部のみに適用した場合でもTE波に対してはRCSの低減効果があり、当該マッシュルーム構造10を後側の端部のみに適用した場合でもTM波に対してはRCSの低減効果があることがわかった。そのため、入射角θが90°以外の場合でも、電波吸収体50は前側の端部又は後側の端部のどちらか一方にのみ設けられていてもよい。
【0074】
また、一方の導電性基材と他方の導電性基材が鋭角をもつように、一方の導電性基材のエッジと他方の導電性基材のエッジとが連結された構造体の外側表面、又は内側表面に電波吸収体50を設けてもよい。この場合、一方の導電性基材と他方の導電性基材とが連結している後記のエッジ56,57も、第1実施形態又は第2実施形態におけるエッジed1,ed2に相当する。
【0075】
図14Aで示す構造体は、一方の導電性基材20と他方の導電性基材21が鋭角をもつように、一方の導電性基材のエッジと他方の導電性基材のエッジとが連結された構造体である。例えば、
図14Aに示すように、連結されたエッジ56が前側のエッジed1である場合、連結されたエッジ56から表面に沿って、一方の導電性基材20と他方の導電性基材21の外側表面に、例えばマッシュルーム構造10などの電波吸収体50をセレーション状に塗布、貼付、又は成形しても良い。この場合、導電性基材20、21において幅方向の最外端部における奥行きが最大になるように、幅方向両側にそれぞれマッシュルーム構造10を塗布、貼付、又は成形してもよい。
【0076】
図14Bの構造体は、一方の導電性基材22と他方の導電性基材23が鋭角をもつように、一方の導電性基材のエッジと他方の導電性基材のエッジとが連結された構造体である。
図14Bに示すように、連結されたエッジ57と反対側のエッジが前側のエッジed1である場合、前側のエッジed1から表面に沿って、一方の導電性基材22と他方の導電性基材23の内表面側に、例えばマッシュルーム構造10などの電波吸収体50をセレーション状に塗布、貼付、又は成形しても良い。この場合、導電性基材22、23において、幅方向の最外端部における奥行きが最大になるように、幅方向両側にそれぞれマッシュルーム構造10を塗布、貼付、又は成形してもよい。
【0077】
本開示の構造体は、RCSを低減するための構造体であって、構造物の一部である基材と、電波の進行方向に対して前記基材の手前側を前側、前記進行方向の進行側を後側としたときに、前記基材の前記前側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域、又は前記基材の前記後側のエッジから前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域に、前記基材の表面又は内部に設けられた電波吸収体と、を備えるものである。
【0078】
本開示に従えば、基材の前側のエッジ又は後側のエッジ部から前記基材の表面に沿って所定距離離れた位置までの領域であって当該基材の表面又は内部に電波吸収体が設けられる。このように基材の端部のみに電波吸収体を設けることで、構造体の形状に大きな制約を加えることなく、かつコストを増大させることなくRCSを低減することができる。
【0079】
上記開示において、反射を防止するべき電波の波長をλとし、当該電波の入射角をθとし、前記基材の前記前側のエッジから前記基材の表面に沿って前記電波吸収体が設けられる距離、又は前記基材の前記後側のエッジから前記基材の表面に沿って前記電波吸収体が設けられる距離である前記所定距離をδとするとき、δ=(2n+1)×λ/4×1/sinθ [nは0以上の整数]の関係式が成立してもよい。
【0080】
上記開示に従えば、電波吸収体の奥行きを電波の進行方向に対して所定距離δとすることで、電波吸収体の前側と後側で生じる散乱波をRCSを低減させたい方向で相殺し合うように干渉させることができる。これにより、より効果的に散乱波を抑制することができる。
【0081】
上記開示において、前記電波吸収体はメタマテリアル構造を含み、前記メタマテリアル構造はサブ波長サイズの複数の単位セルを有してもよい。また、上記開示において、前記第2電波吸収体はメタマテリアル構造を含み、前記メタマテリアル構造はサブ波長サイズの複数の単位セルを有してもよい。
【0082】
上記開示に従えば、メタマテリアル構造を入射する電波の波長よりも小さな構造にすることにより当該電波の屈折を制御でき、もって散乱波の抑制効果を大きくすることができる。
【0083】
本開示の構造体は、RCSを低減するための構造体であって、構造物の一部である基材と、電波の進行方向に対して前記基材の手前側を前側、前記進行方向の進行側を後側としたときに、前記基材の前記前側のエッジ又は前記後側のエッジから前記基材の表面に沿った鋸歯状の領域に、前記基材の表面又は内部に設けられた電波吸収体を備えるものである。
【0084】
本開示に従えば、構造体の形状に大きな制約を加えることなく、かつコストを増大させることなく、構造境界で生じる全般的な散乱波を到来方向から逸らすことができる。それによって、RCSの低減効果をさらに向上することができる。
【0085】
上記開示において、前記基材は導電性であり、前記メタマテリアル構造は、前記基材の上部に設けられる誘電体層と、前記誘電体層の上部に前記誘電体層の表面に沿って規則的に配列される複数の導電性パッチと、前記基材の一部を含み、前記導電性パッチのピッチは、前記反射を防止するべき電波の波長の1/10より大きく1/2より小さくてもよい。
【0086】
上記開示に従えば、入射する電波の屈折を制御でき、もって散乱波の抑制効果をさらに大きくすることができる。
【0087】
上記開示において、前記メタマテリアル構造は、前記基材と前記複数の導電性パッチの各々とをそれぞれ接続する複数の導電性ピンを含んでもよい。
【0088】
上記開示に従えば、導電性パッチは誘電体層に入射する電波の接線方向の電界成分(主にTE波の電界成分)に対して共振することで、反射波および散乱波を抑制する機能を果たす。また、導電性ピンはTE波に対して垂直方向の電界成分(主にTM波の電界成分)に対して実効的な誘電率が負となるような共鳴を生じさせる。これにより、誘電体層を伝搬するTM波が減衰される。
【0089】
上記開示において、前記導電性パッチは正方形状又は正六角形状に形成されていてもよい。
【0090】
上記開示に従えば、複数の導電性パッチを密に配置することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 導電性基材
2 誘電体層
3 導電性ピン
4 導電性パッチ
10 マッシュルーム構造
10s 単位セル
13A,15A セレーション部
20,21,22,23 基材
100 構造体
ed1,ed2 エッジ
Tf,Tr 端部