(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071472
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/10 20060101AFI20240517BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20240517BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240517BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H01G9/10 E
H01G9/035
H01G9/145
H01G9/15
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045106
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2022503050の分割
【原出願日】2020-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】595122132
【氏名又は名称】サン電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】細木 雅和
(72)【発明者】
【氏名】錦織 大和
(57)【要約】
【課題】長寿命で耐湿性を向上できるコンデンサを提供する。
【解決手段】セパレータ6を介して対向する一対の電極5、7間に所定の液剤を保持したコンデンサ素子3と、コンデンサ素子3を収納する本体ケース2と、本体ケース2を封止するゴム製の封口体4とを備えたコンデンサ1において、封口体4に接してコンデンサ素子3に保持された液剤を封口体4に供給する供給部を有し、液剤が親油性溶媒に脂溶性の封口体劣化抑止剤を溶解されており、前記供給部により封口体4に供給された封口体劣化抑止剤が封口体4の内部に浸透し、封口体4に対して封口体4中の封口体劣化抑止剤の重量比が0.1重量%~25重量%である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して対向する一対の電極間に所定の液剤を保持したコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する本体ケースと、前記本体ケースを封止するゴム製の封口体とを備えたコンデンサにおいて、前記液剤が封口体劣化抑止剤を含み、前記封口体劣化抑止剤が前記コンデンサ素子から供給されて前記封口体の内部に浸透しており、前記封口体の厚さが1.4mm以上7mm以下であることを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
前記封口体劣化抑止剤が前記封口体の成分よりも酸化されやすい化合物であることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記封口体劣化抑止剤の分子量が200~3000であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記液剤が前記親油性溶媒に前記封口体劣化抑止剤及び電解質を溶解した電解液から成ることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項5】
前記電解質が有機アミン塩を含み、前記電解液に前記有機アミン塩を形成する疎水性の有機アミンが含まれることを特徴とする請求項4に記載のコンデンサ。
【請求項6】
前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持し、前記導電性高分子がスルホン酸基を有したドーパントを含むことを特徴とする請求項5に記載のコンデンサ。
【請求項7】
前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持し、前記導電性高分子のドーパントがスルホン酸基の置換基を有することを特徴とする請求項5に記載のコンデンサ。
【請求項8】
前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持し、前記電解液に加水分解性エステル化合物が含まれることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のコンデンサ。
【請求項9】
前記加水分解性エステル化合物がホウ酸エステル化合物から成り、前記電解液中のホウ酸エステル化合物の濃度が0.1重量%~20重量%であることを特徴とする請求項8に記載のコンデンサ。
【請求項10】
前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項11】
前記供給部が前記セパレータにより形成されることを特徴とする請求項1~請求項10のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項12】
前記封口体のコンデンサ素子側の面の中央部が外周部よりも突出することを特徴とする請求項11に記載のコンデンサ。
【請求項13】
前記本体ケースが内面上に突出して前記封口体の外周面を押圧する突出部を有し、前記突出部の頂点が前記封口体の厚み方向の中心よりも前記コンデンサ素子から離れた側に配されることを特徴とする請求項12に記載のコンデンサ。
【請求項14】
前記供給部が前記セパレータと前記封口体とを連結することを特徴とする請求項1~請求項10のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項15】
前記封口体劣化抑止剤が脂溶性ビタミンであることを特徴とする請求項1~請求項14のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項16】
前記脂溶性ビタミンがトコフェロールまたはトコトリエノールであることを特徴とする請求項15に記載のコンデンサ。
【請求項17】
前記親油性溶媒がγ-ブチロラクトンであることを特徴とする請求項1~請求項16のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項18】
前記親油性溶媒が、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンのいずれかに親油基を結合させたものであることを特徴とする請求項1~請求項16のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項19】
前記液剤が、前記親油性溶媒と、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールのいずれかと、両親媒性化合物とを含むことを特徴とする請求項1~請求項16のいずれかに記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封口体により封止されるコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンデンサは特許文献1に開示されている。このコンデンサは本体ケース、コンデンサ素子及び封口体を備えている。本体ケースは金属によって有底筒状に形成され、円筒状の周壁の一端を閉塞して他端に開口部を開口する。
【0003】
コンデンサ素子は酸化膜が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回され、本体ケースに収納される。陽極箔と陰極箔との間には導電性高分子及び電解液が保持される。電解液には所定の難揮発性溶媒が含まれている。コンデンサ素子を収納した本体ケースの開口部はゴム製の封口体により封口される。
【0004】
上記コンデンサによると、電解液に難揮発性溶媒が含まれるため、エンジンルーム等の高温環境下における電解液の溶媒の蒸散を抑制するとともに、低温環境下から高温環境下までESRを低くすることができる。
【0005】
また、特許文献2のコンデンサは、陽極箔と陰極箔の間に親水性高分子化合物を保持させている。親水性高分子化合物は水分を保持し、陽極箔に形成した酸化膜の欠陥を水分によって修復することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-228738号公報(第4頁-第9頁、第1図)
【特許文献2】国際公開第2014/050913号(第9頁-第23頁、第2図)
【特許文献3】特開2000-100670号公報(第2頁-第4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるコンデンサによると、150℃のような高温環境下で使用されると、ゴム製の封口体に劣化による微細なクラックが生じる場合がある。封口体は微細なクラックを起点に応力集中等によって更にクラックが広がり、封口として有効なゴムの厚さが薄くなる。有効なゴムの厚さが薄い封口体は水分の透過量が増加するためコンデンサの特性を悪化させる。このため、コンデンサの耐湿性が低い問題があった。
【0008】
また、ゴム等の高分子は空気中等の酸素存在下で熱や光のエネルギーを受けると、ラジカルの生成をきっかけとして連鎖的な酸化反応が起こり、物性低下を生ずると言われている。このため、特許文献3には封口体に酸化反応を抑制するための酸化防止剤(老化防止剤)を混入することが述べられる。
【0009】
しかし、封口体に混入された酸化防止剤は酸化防止作用を果たすにつれて消費され、次第に失われる。コンデンサを高温環境下で使用すると封口体は酸化防止剤の消失に伴って急速に劣化し、封口体の水分の透過量が増加する。このため、150℃のような高温環境下で使用しても、封口体の劣化を抑制して長寿命で耐湿性の高いコンデンサが望まれていた。
【0010】
また、上記特許文献2に開示されるコンデンサも同様に、コンデンサを高温環境下で使用すると封口体の劣化による水分の透過量が増加してコンデンサの特性を悪化させる。
【0011】
本発明は、長寿命で耐湿性を向上できるコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、セパレータを介して対向する一対の電極間に所定の液剤を保持したコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する本体ケースと、前記本体ケースを封止するゴム製の封口体とを備えたコンデンサにおいて、前記液剤が封口体劣化抑止剤を含み、前記封口体劣化抑止剤が前記コンデンサ素子から供給されて前記封口体の内部に浸透しており、前記封口体の厚さが1.4mm以上7mm以下であることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記封口体劣化抑止剤が前記封口体の成分よりも酸化されやすい化合物であることを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記封口体劣化抑止剤の分子量が200~3000であることを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記液剤が前記親油性溶媒に前記封口体劣化抑止剤及び電解質を溶解した電解液から成ることを特徴としている。
【0016】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記電解質が有機アミン塩を含み、前記電解液に前記有機アミン塩を形成する疎水性の有機アミンが含まれることを特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持し、前記導電性高分子がスルホン酸基を有したドーパントを含むことを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持し、前記導電性高分子のドーパントがスルホン酸基の置換基を有することを特徴としている。
【0019】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持し、前記電解液に加水分解性エステル化合物が含まれることを特徴としている。
【0020】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記加水分解性エステル化合物がホウ酸エステル化合物から成り、前記電解液中のホウ酸エステル化合物の濃度が0.1重量%~20重量%であることを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記コンデンサ素子が導電性高分子から成る固体電解質を保持することを特徴としている。
【0022】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記供給部が前記セパレータにより形成されることを特徴としている。
【0023】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記封口体のコンデンサ素子側の面の中央部が外周部よりも突出することを特徴としている。
【0024】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記本体ケースが内面上に突出して前記封口体の外周面を押圧する突出部を有し、前記突出部の頂点が前記封口体の厚み方向の中心よりも前記コンデンサ素子から離れた側に配されることを特徴としている。
【0025】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記供給部が前記セパレータと前記封口体とを連結することを特徴としている。
【0026】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記封口体劣化抑止剤が脂溶性ビタミンであることを特徴としている。
【0027】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記脂溶性ビタミンがトコフェロールまたはトコトリエノールであることを特徴としている。
【0028】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記親油性溶媒がγ-ブチロラクトンであることを特徴としている。
【0029】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記親油性溶媒が、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンのいずれかに親油基を結合させたものであることを特徴としている。
【0030】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記液剤が、前記親油性溶媒と、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールのいずれかと、両親媒性化合物とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、コンデンサ素子が親油性溶媒に脂溶性の封口体劣化抑止剤を溶解した液剤を保持し、供給部によりコンデンサ素子から供給される液剤が封口体内部に浸透している。これにより、封口体の劣化による水分透過量の増加を長期的に抑止することができる。このため、長寿命で耐湿性の高いコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るコンデンサを上方から見た斜視図
【
図2】本発明の第1実施形態に係るコンデンサを下方から見た斜視図
【
図3】本発明の第1実施形態に係るコンデンサを示す正面断面図
【
図4】本発明の第1実施形態に係るコンデンサのコンデンサ素子を示す斜視図
【
図6】本発明の第2実施形態に係るコンデンサを示す正面断面図
【
図9】本発明の第2実施形態に係るコンデンサの素子収納工程を示す正面断面図
【
図10】本発明の第2実施形態に係るコンデンサの素子収納工程を示す平面図
【
図11】本発明の第2実施形態に係るコンデンサの封口体取付け工程を示す正面断面図
【
図12】本発明の第3実施形態のコンデンサの高温高湿負荷試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態>
以下に図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1及び
図2は第1実施形態のコンデンサ1を上方から見た斜視図及び下方から見た斜視図を示している。コンデンサ1は電解コンデンサから成り、座板15上に装着される。座板15は合成樹脂により形成され、コンデンサ1を保持する。座板15には一対の貫通孔15a、15bが設けられる。
【0034】
コンデンサ1はリード端子8、9を有し、座板15の貫通孔15a、15bに挿通されたリード端子8、9が外側に折曲される。これにより、コンデンサ1は本体ケース2の上面を自動機により保持して回路基板上に配され、リード端子8、9を回路基板のランドに半田付けして実装される。
【0035】
図3はコンデンサ1の正面断面図を示している。コンデンサ1は本体ケース2、コンデンサ素子3及び封口体4を備えている。本体ケース2はアルミニウム等の金属により断面円形の有底筒状に形成され、一端を端壁部2aにより塞がれて他端に開口部2bを開口する。本体ケース2内にコンデンサ素子3が収納され、開口部2bが封口体4により封止される。
【0036】
図4はコンデンサ素子3の斜視図を示している。コンデンサ素子3は長尺の帯状に形成された陽極箔5、陰極箔7及びセパレータ6を有している。セパレータ6を介して陽極箔5及び陰極箔7を円筒状に巻回してコンデンサ素子3が形成される。これにより、陽極箔5及び陰極箔7はセパレータ6を介して対向する一対の電極を形成する。
【0037】
帯状の陽極箔5、陰極箔7及びセパレータ6は巻回方向(長手方向)に細長く、巻回方向に対して直交する方向(短手方向)の幅が巻回方向の長さよりも短い。陽極箔5または陰極箔7の終端はテープ12によって固定される。陽極箔5にはリード端子8が接続され、陰極箔7にはリード端子9が接続される。
【0038】
セパレータ6の短手方向(軸方向)の幅は陽極箔5及び陰極箔7の短手方向の幅よりも大きく形成される。これにより、セパレータ6は陽極箔5及び陰極箔7に対して上方(端壁部2a側)及び下方(開口部2b側)に突出し、陽極箔5と陰極箔7との短絡が防止される。
【0039】
陽極箔5及び陰極箔7はアルミニウムを主成分とし、エッチング処理により拡面されている。陽極箔5は化成によって表面に誘電体酸化皮膜が形成されている。陰極箔7の表面は自然酸化皮膜が形成されていてもよく、化成による誘電体酸化皮膜が形成されていてもよい。
【0040】
セパレータ6はセルロース、ポリエチレンテレフタレート、アラミド等の繊維を抄いたものが使われる。高温下(例えば、150℃)での安定性を維持するため、セパレータ6は合成繊維を含むと好ましい。
【0041】
また、コンデンサ素子3の陽極箔5と陰極箔7との間には電解液が保持される。電解液にコンデンサ素子3を所定時間浸漬することにより、電解液がセパレータ6に浸透して陽極箔5と陰極箔7との間に保持される。電解液は実質上の陰極として機能する。また、電解液によって陽極箔5及び陰極箔7の酸化膜の欠陥を修復することができる。
【0042】
電解液は親油性溶媒に電解質及び封口体劣化抑止剤を溶解した液剤から成っている。親油性溶媒としてγ-ブチロラクトンを用いることができる。親油性溶媒としてポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンのいずれかに親油基を結合させたものを用いてもよい。封口体4への封口体劣化抑止剤の浸透をよくするため、親油性溶媒がγ-ブチロラクトンを含むと好ましい。
【0043】
また、電解液の溶媒は親油性溶媒と併用して、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。この時、必要に応じて両親媒性化合物を添加してもよい。両親媒性化合物として、ポリエチレングリコール誘導体、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等を用いることができる。
【0044】
電解質は溶媒に溶解することによってイオンに解離して電気伝導性を発揮し、ホウ酸化合物またはカルボン酸化合物の有機アミン塩等が用いられる。ホウ酸化合物として、ボロジシュウ酸エステル、ボロジグリコール酸エステル、ボロジサリチル酸エステル等を用いることができる。カルボン酸化合物として、フタル酸、フマル酸、アジピン酸、マレイン酸等を用いることができる。
【0045】
有機アミン塩を形成する有機アミンとして、三級の有機アミン、四級の有機アミン等の疎水性の有機アミンを用いることができる。電解液に含まれる有機アミンを疎水性の有機アミンとすることにより、コンデンサ1の耐湿性を向上することができる。
【0046】
このような有機アミンとして、脂肪族アミン(トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアミルアミン、トリヘキシルアミン等)、複素環式アミン(ピリジン、イミダゾール等)、芳香族アミン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0047】
封口体劣化抑止剤は親油性溶媒に溶解して封口体4に浸透する化合物であり、後述するようにコンデンサ素子3から封口体4に供給される。封口体4に供給された封口体劣化抑止剤は封口体4の分子間の隙間を介して封口体4の内部に浸透する。簡便的には、封口体劣化抑止剤は10%の濃度で親油性溶媒に溶解した溶液に封口体4を1週間浸漬して表面の溶液をふき取った後の重量が、親油性溶媒のみに浸漬した封口体4よりも増加する化合物を用いることができる。
【0048】
封口体劣化抑止剤として、分子内にイソプレン骨格(イソプレン骨格の主鎖が単結合または二重結合の場合及び環状構造の場合を含む)を有した脂溶性ビタミン等のテルペノイド、不飽和脂肪酸、分子内に不飽和脂肪酸基を含むポリグリセリンエステル、飽和脂肪酸、またはこれらの誘導体を用いることができる。
【0049】
脂溶性ビタミンの例として、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等が挙げられる。ビタミンAはカロテノイド骨格を有する化合物であり、レチノール、β-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチン、アスタキサンチン等が挙げられる。ビタミンDにはビタミンD2、ビタミンD3等が挙げられる。ビタミンEにはトコフェロール(α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール)やトコトリエノール(α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール)等が挙げられる。ビタミンKにはビタミンK1、ビタミンK2、メナキノン7等が挙げられる。
【0050】
これらの脂溶性ビタミンは分子内にイソプレン骨格を有するテルペノイドであり、ゴム製の封口体4との親和性が強い。このため、封口体4への浸透性と保持性が良くなるため封口体劣化抑止剤として脂溶性ビタミンを用いると好ましい。脂溶性ビタミンのイソプレンユニットは2以上が好ましく、3以上がより好ましい。ビタミンA、ビタミンEは酸化防止効果が強いためより好ましい。
【0051】
また、ポリグリセリンエステルとして、例えばオレイン酸を脂肪酸基としたテトラグリセリントリエステル等を挙げることができる。
【0052】
電解液には必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤として、耐電圧向上剤(ポリアルキレングリコール等)、糖、グリセリン、ポリグリセリン、これらの誘導体、リン酸エステル、ガス吸収剤、親水性の酸化防止剤等が挙げられる。親水性の酸化防止剤は封口体4に浸透しにくいため、コンデンサ素子3内に長期間保持されてコンデンサ素子3の酸化を抑制することができる。
【0053】
図3において、封口体4は絶縁体の弾性材料の成形品により円板状に形成され、一対の貫通孔4a、4bを有している。コンデンサ素子3のリード端子8、9は圧入によって貫通孔4a、4bに挿通される。封口体4として、ブチルゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を用いることができる。これらのいずれかを含む複合材料によるゴムであってもよい。
【0054】
ブチルゴムは耐熱老化性、耐薬品性、耐候性等の環境抵抗性や電気絶縁特性が高く、気体の透過性が低いためより望ましい。
【0055】
本体ケース2の開口部2bに封口体4を配した状態で、本体ケース2には外周面を押圧する絞り加工が施される。これにより、本体ケース2には内面側に突出する突出部13が形成される。突出部13によって封口体4の外周面が内周方向に圧縮され、本体ケース2の内周面に密着する。また、封口体4の圧縮により貫通孔4a、4bの内面がリード端子8、9に密着する。これにより、本体ケース2の開口部2bが封口体4により封止され、コンデンサ素子3に保持された電解液が本体ケース2外に漏れ出さないようにしている。
【0056】
また、本体ケース2の開口端は封口体4の外面(コンデンサ素子3とは反対側の面)側に折り返された折り返し部14を形成する。折り返し部14及び突出部13によって封口体4が本体ケース2外に抜け出ることを防止している。
【0057】
図5は
図3のH部詳細図を示している。陽極箔5及び陰極箔7に対して封口体4側に突出するセパレータ6の少なくとも一部は、封口体4の上面(コンデンサ素子3側の面)に沿わせた状態で複数点または面で接触する。
【0058】
セパレータ6の短手方向の幅は陽極箔5及び陰極箔7の幅よりも0.3mm~2.0mm大きくすることが好ましい。0.3mm以上とすることでセパレータ6が撓み、陽極箔5及び陰極箔7に応力をかけない状態でセパレータ6の下端部を封口体4の上面に確実に接触させることができる。また、セパレータ6の短手方向の幅が陽極箔5及び陰極箔7の幅に対して2.0mmよりも大きいと、コンデンサ1のサイズが大きくなる。
【0059】
封口体4にはコンデンサ素子3に保持された電解液がセパレータ6を介して継続的に供給される。即ち、セパレータ6は封口体4に接して電解液をコンデンサ素子3から封口体4に供給する供給部を構成する。
【0060】
この時、前述の
図3に示すように、突出部13の頂点13aが封口体4の厚み方向の中心4c(厚みをtとして下端からt/2の位置)よりもコンデンサ素子3から離れた側に配される。このため、封口体4の外周面が図中、下方から押圧され、封口体4の上面(コンデンサ素子3側)が上に凸に湾曲して中央部が外周部よりもコンデンサ素子3側に突出する。これにより、セパレータ6が封口体4に沿った状態で複数点または面で封口体4に確実に接触して電解液を供給することができる。
【0061】
封口体4を形成するゴムは水分や酸素の存在下で高温(例えば、150℃)で成分の一部が酸化や熱分解し、それによって収縮してクラックが発生する。封口体4にクラックが発生すると、ゴムの有効な厚さを薄くして封口性能を悪化させる。本実施形態の電解液に含まれる封口体劣化抑止剤はセパレータ6を介して封口体4に供給され、封口体4の分子間の隙間を介して封口体4の内部に浸透する。このため、酸素や水分の透過を少なくして封口体4の劣化を抑制するとともに、水分の侵入による陽極箔5及び陰極箔7の水和劣化を防止することができる。従って、耐湿性の高いコンデンサ1を得ることができる。
【0062】
封口体劣化抑止剤の分子量は3000以下であると浸透性がよいため好ましく、2000以下であると更に好ましい。また封口体劣化抑止剤の分子量は200以上であると封口体4の保持性がよいため好ましく、250以上であるとより好ましく、300以上であると更に好ましい。このような分子量域の封口体劣化抑止剤を用いることで、封口体4への浸透性をよくし、封口体劣化抑止の効果を長期間維持することができる。
【0063】
また、分子量が異なる2種以上の封口体劣化抑止剤を用いて、封口体4への浸透性や持続性を調整することもできる。
【0064】
また、電解液中の封口体劣化抑止剤の量と封口体4への浸透量のバランスを適正に調整するため、封口体劣化抑止剤の溶解度パラメータ(SP値)は、親油性溶媒のSP値と封口体4のSP値との間であると好ましい。また、封口体劣化抑止剤が封口体4に長期間保持されるように、封口体劣化抑止剤の沸点が親油性溶媒の沸点よりも高い方が好ましい。
【0065】
また、封口体劣化抑止剤は150℃以下の温度領域で封口体4の成分よりも酸化されやすい化合物が好ましい。一般に酸化防止剤と称される化合物以外でも封口体4の成分よりも酸化されやすければ封口体劣化抑止剤として用いることができる。このような化合物として、酸化防止効果がある化合物や、分子内に二重結合を含む化合物が好ましく選択される。更に、封口体劣化抑止剤が発生したラジカルを安定化させる効果や消失させる効果を有すると封口体劣化抑止効果が強くなるためより好ましい。
【0066】
これにより、酸素が封口体4内部に透過してきても、封口体4の成分よりも先に封口体劣化抑止剤が酸化され、封口体4に対して酸化防止作用を持つことになる。この時、封口体4の酸化や熱分解が起こったとしても、封口体劣化抑止剤が封口体4の分子間の隙間に侵入するため封口体4が収縮しにくい。このため、封口体4のクラックの発生を抑制することができる。
【0067】
また、封口体劣化抑止剤により封口体4を透過する酸素や水分が少ないため、電解液中の封口体劣化抑止剤は酸化等の劣化が少ない状態でコンデンサ素子3に長期間保持される。そして、酸化や分解によって封口体4内の封口体劣化抑止剤が消費されても、封口体4には常にコンデンサ素子3から封口体劣化抑止剤が供給される。このため、封口体4の劣化を長期にわたって抑制することができる。
【0068】
封口体劣化抑止剤は封口体4の外部表面まで到達していなくても封口体4の劣化を抑制する効果があるが、封口体4の外部表面まで到達しているとより望ましい。これにより、クラックが発生しやすい封口体4の外部表面においても封口体4の劣化を抑制することができ、酸素や水分の侵入をより抑制することができる。
【0069】
この時、封口体劣化抑止剤が封口体4の外部表面で油膜を形成した状態でもよく、空気中の酸素と接触による酸化反応により固化された被覆部を形成してもよい。被膜部により酸素と水分の浸透を更に抑制することができる。また、シリコーンゴムやフッ素ゴムはブチルゴムよりも気密性が低いが、被覆部を設けることにより気密性を高くすることができる。
【0070】
電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度は1重量%~90重量%にすると好ましい。電解液中の封口体劣化抑止剤が1重量%よりも少ないと、封口体4の酸化抑制効果を長期的に継続できない。また、電解液中の封口体劣化抑止剤が90重量%を超えると電解液の粘度が高くなる。
【0071】
このため、コンデンサ素子3に電解液を保持させる時間及びコンデンサ素子3から封口体4に電解液が供給される時間が長くなり、コンデンサ1の工数が大きくなる。電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度を3重量%~80重量%にするとより酸化抑制効果を発揮して工数を削減できるため更に好ましい。
【0072】
また、封口体4に対して封口体4中の封口体劣化抑止剤の重量比は0.1重量%~25重量%であるとよい。封口体4に対して封口体4中の封口体劣化抑止剤の重量比が0.1重量%よりも低いと、封口体4の分子の隙間を十分埋めることができず、水分の透過を抑制する効果が得られない。
【0073】
封口体4に対して封口体4中の封口体劣化抑止剤の重量比が25重量%よりも高いと、封口体4の軟化または形状変化が生じるおそれがある。これにより、封口体4の封口性能が悪くなり、水分の透過を抑制することができない。封口体劣化抑止剤の浸透後の封口体4の硬さ(デュロメータ硬さ)が封口体4のいずれかの面において70以上であると封口性能を高く維持できるためより好ましい。
【0074】
封口体4の厚さは電解液の蒸散速度、水分の透過量、封口体劣化抑止剤の浸透性に関連する。電解液の蒸散、水分の透過量を低く維持するため、封口体4の厚さは1.4mm以上が好ましい。また、封口体劣化抑止剤を封口体4の全体に浸透させてクラックの発生を抑制するために、封口体4の厚さは7mm以下が好ましい。
【0075】
封口体4のコンデンサ素子3側の面積は、封口体4に沿ってセパレータ6が接触する面積に対して2倍以下が好ましく、1.8倍以下がより好ましい。これにより、封口体4のコンデンサ素子3側表面の略全面に封口体劣化抑止剤が十分に浸透させることができ、長寿命で耐湿性の高いコンデンサ1が得られる。封口体4のコンデンサ素子3側の表面に凹凸を設けて、封口体4とセパレータ6(供給部)との接触面積を増やしてもよい。
【0076】
封口体4のコンデンサ素子3側の略全面に浸透した封口体劣化抑止剤は、以下の方法で確認することができる。まず、表面の電解液を拭き取った封口体4を例えば、厚さ1mm、外周から径方向に1mmの幅で切断して粉砕する。次に粉砕された試料を有機溶媒で抽出した溶液を液体クロマトグラフ-質量分析法(LC-MS)やガスクロマトグラフ-質量分析法(GC-MS)等を用いて分析する。これにより、封口体劣化抑止剤を検出することができる。
【0077】
コンデンサ1は素子形成工程、素子収納工程、封口体取付け工程、成形工程、修復工程を順に行って製造される。素子形成工程ではリード端子8を設けた陽極箔5とリード端子9を設けた陰極箔7とがセパレータ6を介して巻回され、電解液に所定時間浸漬してコンデンサ素子3が形成される。
【0078】
素子収納工程ではコンデンサ素子3が本体ケース2内に開口部2bから挿入して収納される。封口体取付け工程ではコンデンサ素子3を収納した本体ケース2に開口部2b側から封口体4を挿入して取り付ける。コンデンサ素子3のリード端子8、9は圧入により封口体4の貫通孔4a、4bに挿通される。
【0079】
成形工程では絞り加工によって本体ケース2の内面側に突出する突出部13が形成され、開口端を折り返された折り返し部14が形成される。
【0080】
修復工程では陽極箔5及び陰極箔7に形成されている酸化膜の修復作業が行われる。修復作業は例えば、125℃の高温環境でリード端子8、9間にコンデンサの定格電圧を30分加えることにより行われる。この時の高温環境によって、封口体劣化抑止剤の封口体4内部への浸透が促進される。
【0081】
本実施形態によると、コンデンサ素子3が親油性溶媒に脂溶性の封口体劣化抑止剤を溶解した電解液(液剤)を保持し、セパレータ6(供給部)によりコンデンサ素子3から供給される液剤が封口体4の内部に浸透している。これにより、封口体4の劣化による水分透過量の増加を長期的に抑止することができる。このため、長寿命で耐湿性の高いコンデンサ1を提供することができる。
【0082】
また、封口体4の重量に対して封口体4中の封口体劣化抑止剤の重量比を0.1重量%~25重量%にしている。これにより、封口体4の分子の隙間を十分埋めることができるとともに封口体4の軟化及び形状変化を防止できる。このため、封口体4の水分の透過を確実に抑制し、コンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0083】
また、封口体劣化抑止剤が封口体4の成分よりも酸化されやすい化合物であると、酸素が封口体4内部に侵入しても、封口体4の成分よりも先に封口体劣化抑止剤が酸化される。このため、封口体4の酸化による劣化をより防止することができ、コンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0084】
また、封口体劣化抑止剤の分子量が200~3000であると、封口体劣化抑止剤が封口体4に対して浸透しやすく、保持性がよいため封口体4内部に所望量の封口体劣化抑止剤を保持することができる。従って、コンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0085】
また、コンデンサ素子3に保持される液剤が親油性溶媒に封口体劣化抑止剤及び電解質を溶解した電解液から成るので、長寿命で耐湿性の高い電解コンデンサを容易に実現することができる。
【0086】
また、親油性溶媒に溶解した電解質が有機アミン塩を含み、電解液に有機アミン塩を形成する疎水性の有機アミンが含まれるので、コンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0087】
また、封口体4に接するセパレータ6により、コンデンサ素子3に保持された液剤(電解液)を封口体4に供給する供給部を容易に実現することができる。
【0088】
また、封口体4のコンデンサ素子3側の面の中央部が外周部よりも突出するので、セパレータ6をより確実に封口体4に接触させることができる。
【0089】
また、本体ケース2の内面上に突出する突出部13の頂点13aが封口体4の厚み方向の中心4cよりもコンデンサ素子3から離れた側に配される。これにより、コンデンサ素子3側の面の中央部が外周部よりも突出した封口体4を容易に形成することができる。
【0090】
また、トコフェロール、トコトリエノール等の脂溶性ビタミンにより、封口体4の酸化による劣化を防止する脂溶性の封口体劣化抑止剤を容易に実現することができる。
【0091】
また、親油性溶媒がγ-ブチロラクトンであると、封口体劣化抑止剤が溶解した液剤を容易に実現することができる。
【0092】
また、親油性溶媒が、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンのいずれかに親油基を結合させたものであると、封口体劣化抑止剤が溶解した液剤を容易に実現することができる。
【0093】
また、液剤が親油性溶媒と、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールのいずれかと、両親媒性化合物とを含むと、封口体劣化抑止剤が溶解した液剤を容易に実現することができる。
【0094】
本実施形態において、陽極箔5をタンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属により形成してもよい。
【0095】
<第2実施形態>
次に、
図6は第2実施形態のコンデンサ1の正面断面図を示している。説明の便宜上、前述の
図1~
図5に示す第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付している。本実施形態は封口体4に液剤を供給する供給部の構成が第1実施形態と異なり、その他の部分は第1実施形態と同様である。
【0096】
コンデンサ1は本体ケース2、コンデンサ素子3、封口体4及び給液シート10を備えている。本体ケース2、コンデンサ素子3及び封口体4は第1実施形態と同様に形成される。
【0097】
給液シート10は例えばセルロース繊維をシート状に抄き上げて帯状に形成され、本体ケース2の内面とコンデンサ素子3の外面との間に配される。給液シート10には吸収部10a及び接触部10bが設けられる。吸収部10aは端壁部2aに面して配され、コンデンサ素子3のセパレータ6に接触して封口体劣化抑止剤を含む電解液を吸収する。接触部10bは封口体4に接触し、セパレータ6から吸収した電解液を封口体4に供給する。即ち、給液シート10は封口体4に接してセパレータ6と封口体4とを連結し、電解液をコンデンサ素子3から封口体4に供給する供給部を構成する。
【0098】
給液シート10は端壁部2aに面した吸収部10aから両側部を折曲して本体ケース2の内周面2cに沿って軸方向に延びる。軸方向に延びた給液シート10はコンデンサ素子3よりも封口体4側に突出し、径方向に折曲して封口体4に面して配される。これにより、給液シート10の両端部に接触部10bが形成される。
【0099】
図7、
図8は
図6のJ部詳細図及びK部詳細図を示している。陽極箔5及び陰極箔7に対して端壁部2a側に突出するセパレータ6の少なくとも一部は、複数点または面で吸収部10aに接触する。また、給液シート10の両端部を径方向に折曲した接触部10bは、複数点または面で封口体4に接触する。
【0100】
吸収部10aを介してセパレータ6から吸収される電解液は接触部10bを介して封口体4に継続的に供給される。電解液は封口体4の内部の分子間隙間を介して封口体4の内部に浸透する。このため、電解液に含まれる封口体劣化抑止剤によって封口体4の酸化による劣化を長期的に抑制することができる。
【0101】
また、給液シート10は電解液を含んで膨潤した状態となっている。このため、本体ケース2内のコンデンサ素子3の可動範囲が小さくなり、コンデンサ素子3に対する耐振性を向上することができる。
【0102】
尚、端壁部2aに面した吸収部10aを給液シート10の一端に設け、他端に接触部10bを設けてもよい。本実施形態に示すように給液シート10をU字状に形成し、中央部に吸収部10aを設けて両端部に接触部10bを設けると封口体劣化抑止剤を確実に封口体4に供給できるためより望ましい。
【0103】
コンデンサ1は素子形成工程、素子収納工程、封口体取付け工程、成形工程、修復工程を順に行って製造される。素子形成工程、成形工程及び修復工程は上記と同様である。
【0104】
図9、
図10は素子収納工程を示す正面断面図及び平面図である。素子収納工程では本体ケース2の開口部2b上に帯状の給液シート10の長手方向の中央部が載置される。給液シート10の短手方向の幅は本体ケース2の内径と同じまたは内径よりも若干小さく形成される。そして、給液シート10上からコンデンサ素子3が本体ケース2内に挿入され、給液シート10が本体ケース2内に押し込まれる。
【0105】
これにより、本体ケース2の内面と本体ケース2内に収納されたコンデンサ素子3の外面との間に給液シート10がU字状に配される。給液シート10の長手方向の中央部により、端壁部2aに面してセパレータ6(
図7参照)に接触した吸収部10aが形成される。また、給液シート10の長手方向の両端部は本体ケース2に収納されたコンデンサ素子3よりも開口部2b側(封口体4側)に突出する(
図12参照)。
【0106】
図12は封口体取付け工程を示す正面断面図である。封口体取付け工程ではコンデンサ素子3を収納した本体ケース2に開口部2b側から封口体4を挿入して取り付ける。コンデンサ素子3のリード端子8、9は圧入により封口体4の貫通孔4a、4bに挿通される。この時、給液シート10の長手方向の両端部は封口体4に押されて径方向に折曲され、封口体4の内面(コンデンサ素子3側の面)に接触した接触部10bが形成される。
【0107】
本実施形態によると、コンデンサ素子3が親油性溶媒に脂溶性の封口体劣化抑止剤を溶解した電解液(液剤)を保持し、給液シート10(供給部)によりコンデンサ素子3から供給される液剤が封口体4の内部に浸透している。これにより、封口体4の劣化による水分透過量の増加を長期的に抑止することができる。このため、長寿命で耐湿性の高いコンデンサ1を提供することができる。
【0108】
また、封口体4に接してセパレータ6と封口体4とを連結する給液シート10により、コンデンサ素子3に保持された液剤(電解液)を封口体4に供給する供給部を容易に実現することができる。
【0109】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態は第1実施形態のコンデンサ1に対し、コンデンサ素子3が電解液に加えて固体電解質(不図示)を保持する。これにより、コンデンサ1はハイブリッドタイプの電解コンデンサを構成する。その他の部分は第1実施形態と同様である。
【0110】
固体電解質は導電性高分子により構成される。導電性高分子によってコンデンサ1のESRを低くすることができる。導電性高分子はピロール、チオフェン、アニリンまたはこれらの誘導体のポリマーである。また、導電性高分子はポリスチレンスルホン酸等のスルホン酸基を有したドーパントをドーピングされている。導電性高分子のドーパントがスルホン酸基の置換基を有して分子内で自己ドープされていてもよい。
【0111】
コンデンサ素子3は導電性高分子の分散液または水溶液に所定時間浸漬した後に乾燥される。これにより、導電性高分子から成る固体電解質層を陽極箔5と陰極箔7との間に保持することができる。
【0112】
分散液中または水溶液中のスルホン酸基の一部は導電性高分子のドーパントとして機能している。それ以外のスルホン酸基によって、導電性高分子は水に分散または溶解している。スルホン酸基は強酸性でアルミニウムを溶解するため、分散または溶解しているスルホン酸基の例えば70%以上はアルカリ性化合物で中和されている。この時、コンデンサ素子3に対する導電性高分子の浸透性を悪化させないため、スルホン酸基の中和度は等電点(100%)よりも低くなっている。このため、ドーパントとして機能しておらず、中和もされていないフリーのスルホン酸基が分散液中または水溶液中に存在する。
【0113】
スルホン酸基を中和しているアルカリ性化合物は疎水性の有機アミン化合物から成っている。これにより、導電性高分子の疎水性を向上することができ、導電性高分子の吸湿によるコンデンサ1の特性劣化を抑制してコンデンサ1の耐湿性を向上することができる。疎水性の有機アミン化合物として、常温において塩となっていない状態で親油性溶媒に溶解するような有機アミンが好ましい。
【0114】
ドーパントのスルホン酸基は中和していないフリーの状態では非常に吸湿しやすい。このため、電解液に疎水性の有機アミンを含むことにより、乾燥して固体電解質として形成された後のスルホン酸基が疎水性の有機アミンにより中和されて疎水性の有機アミン塩を形成する。親油性溶媒とそれに溶解する有機アミンを含む電解液は、導電性高分子と接触することでドーパントのスルホン酸基を速やかに中和することができる。
【0115】
この場合、スルホン酸基を中和している有機アミンの一部は電解液の溶質由来の有機アミンとなる。ドーパントに中和している有機アミン及び電解液中の有機アミンの両方を疎水性の有機アミンとすることで、コンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0116】
電解液は上記と同様に親油性溶媒に封口体劣化抑止剤及び電解質を溶解した液剤から成り、固体電解質層の少なくとも一部を覆っている。電解質にはホウ酸化合物またはカルボン酸化合物の有機アミン塩等が用いられる。ホウ酸化合物を含むと、ハイブリッドタイプのコンデンサ1が長寿命となるため好ましい。
【0117】
電解質の有機アミン塩を形成する有機アミンとして、上記したように疎水性の有機アミンを含むと好ましい。この時、電解液中の有機アミンはドーパントのスルホン酸基に中和している有機アミンと同一でもよく、異なっていてもよい。また、複数種の有機アミンを併用してもよい。
【0118】
疎水性の有機アミンを使用することで、封口体4、電解液及び導電性高分子の親水性が低くなる。このため、高温環境下(例えば150℃)のコンデンサ1の耐湿性を維持することができる。尚、電解液に含まれる有機アミンは親水性の有機アミンを含まない方が好ましい。これにより、ドーパントのスルホン酸基に中和しているアミンが置換しても、コンデンサ1の耐湿性を維持できる。
【0119】
また、固体電解質は電解液により膨潤状態となるため、固体電解質を挟む陽極箔5及び陰極箔7に対する固体電解質の密着度が高くなる。これにより、コンデンサ1のESRを低下させることができる。
【0120】
また、電解液には加水分解性エステル化合物を含んでもよい。加水分解性エステル化合物として、ホウ酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、リン酸エステル化合物を用いることができる。加水分解性エステル化合物は水分の存在下で加水分解する。ホウ酸エステル化合物はホウ酸とアルコール、またはホウ酸とカルボン酸に加水分解する。カルボン酸エステル化合物はカルボン酸とアルコールに加水分解する。リン酸エステル化合物はリン酸とアルコールに加水分解する。この反応は弱酸性の電解液中で促進される。コンデンサ1内の水分が加水分解性エステル化合物の加水分解により消費されるため、電解液中の余分な水分を減らしてコンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0121】
カルボン酸エステルとして、フタル酸エステル、マレイン酸エステル、アジピン酸エステル等が挙げられる。カルボン酸エステル化合物は加水分解で生じたカルボン酸が電解液の電解質となり得る。
【0122】
ホウ酸エステル化合物として、ボロジシュウ酸エステル、ボロジグリコール酸エステル、ボロジサリチル酸エステル等が挙げられる。ホウ酸エステル化合物は電解液の電解質を兼ねることができる。
【0123】
電解液がホウ酸エステル化合物を含む場合は、電解液に対してホウ酸エステル化合物の濃度が0.1重量%~20重量%であると好ましい。電解液に対してホウ酸エステル化合物の濃度が0.1重量%よりも低いと水分を一定に保つ作用が不足する。電解液に対してホウ酸エステル化合物の濃度が20重量%を超えると、加水分解で生じた生成物がセパレータ6の繊維、陽極箔5または陰極箔7の表面に析出してコンデンサ1の特性が劣化する。
【0124】
次に、本実施形態のコンデンサ1の耐久試験を行った。試験を行った本実施形態のコンデンサ1の電解液は親油性溶媒としてγ-ブチロラクトンを用いて電解質としてボロジサリチル酸トリエチルアミンを用い、封口体劣化抑止剤としてα-トコフェロールを用いている。電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度は10重量%である。また、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用いたポリエチレンジオキシチオフェンの導電性高分子分散液に直径9.0mmのコンデンサ素子3を浸漬し、引き上げた後に乾燥して固体電解質層を形成した。封口体4はブチルゴムにより形成し、直径を9.2mm、厚みを2.7mmにしている。
【0125】
また、比較例として、本実施形態の試料のコンデンサ1の電解液から封口体劣化抑止剤を省いたコンデンサを用いた。
【0126】
各20個の本実施形態及び比較例のコンデンサ1を150℃の高温環境下で2000時間放置した。その結果、比較例では5個のコンデンサの封口体4に厚みの約1/3の深さのクラックが発生した。これに対して、本実施形態の全てのコンデンサ1の封口体4には目視で確認できるようなクラックが発生しなかった。
【0127】
次に、本実施形態の20個のコンデンサ1及び上記試験でクラックが発生した比較例の5個のコンデンサについて、高温高湿負荷試験を行った。高温高湿負荷試験は温度85℃、相対湿度85%の環境下で定格電圧を印加し、1000時間毎にESRを測定した。
図12はその結果を示し、縦軸はESR(単位:mΩ)であり、横軸は経過時間(単位:時間)である。図中、Aは本実施形態のコンデンサ1であり、Bは比較例のコンデンサである。
【0128】
その結果、比較例では2000時間経過でESRが急激に増加したが、本実施形態のコンデンサ1は6000時間まで低いESRを示した。これにより、本実施形態のコンデンサ1が長期的に耐湿性が高く安定した特性を発揮することができる。
【0129】
本実施形態によると、第1実施形態と同様に、セパレータ6(供給部)によりコンデンサ素子3から供給される電解液(液剤)が封口体4の内部に浸透している。これにより、封口体4の劣化による水分透過量の増加を長期的に抑止することができる。このため、長寿命で耐湿性の高いコンデンサ1を提供することができる。
【0130】
また、導電性高分子がスルホン酸基を有したドーパントを含み、電解液に疎水性の有機アミンが含まれるので、スルホン酸が疎水性の有機アミンにより中和される。従って、導電性高分子の吸湿によるコンデンサ1の特性劣化を抑制し、コンデンサ1の耐湿性を向上することができる。
【0131】
また、導電性高分子のドーパントがスルホン酸基の置換基を有し、電解液に疎水性の有機アミンが含まれるので、スルホン酸が疎水性の有機アミンにより中和される。従って、導電性高分子の吸湿によるコンデンサ1の特性劣化を抑制し、コンデンサ1の耐湿性を向上することができる。
【0132】
また、電解液に加水分解性エステル化合物が含まれるので、加水分解性エステル化合物の加水分解により電解液中の余分な水分を減らしてコンデンサ1の耐湿性をより向上することができる。
【0133】
また、電解液中のホウ酸エステル化合物の濃度を0.1重量%~20重量%にすると、コンデンサ1中の水分を一定に保つとともに、加水分解の析出物によるコンデンサ1の特性劣化を防止することができる。
【0134】
本実施形態において、第2実施形態と同様に給液シート10により電解液を封口体4に供給してもよい。
【0135】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態は第1実施形態のコンデンサ1に対し、コンデンサ素子3が電解液に替えて固体電解質(不図示)及び所定の液剤を保持する。その他の部分は第1実施形態と同様である。
【0136】
コンデンサ素子3に保持される固体電解質は第3実施形態と同様の導電性高分子により形成される。
【0137】
また、陽極箔5と陰極箔7との間には親油性溶媒に封口体劣化抑止剤を溶解した液剤が保持される。親油性溶媒及び封口体劣化抑止剤は第1実施形態の電解液に含まれる親油性溶媒及び脂溶性の封口体劣化抑止剤を用いることができる。
【0138】
コンデンサ素子3に保持される液剤はセパレータ6を介して封口体4に供給され、封口体4の内部に浸透している。これにより、封口体4の劣化を防止することができる。このため、コンデンサ素子3に保持される液剤はコンデンサ1の耐湿性を向上する機能を有した機能性液体を構成する。
【0139】
また、機能性液体に耐圧向上剤または導電性向上剤を含んでもよい。耐圧向上剤としてポリアルキレングリコール等を用いることができる。導電性向上剤として糖、グリセリン等の水酸基を含む化合物を用いることができる。
【0140】
また、固体電解質は機能性液体により膨潤状態となるため、固体電解質を挟む陽極箔5及び陰極箔7に対する固体電解質の密着度が高くなる。これにより、コンデンサ1のESRを低下させることができる。従って、機能性液体はコンデンサ1のESRを低下させる機能も有している。
【0141】
尚、機能性液体がコンデンサ1の他の特性を高める機能を有してもよい。
【0142】
本実施形態によると、第1実施形態と同様に、コンデンサ素子3が親油性溶媒に脂溶性の封口体劣化抑止剤を溶解した機能性液体(液剤)を保持し、セパレータ6(供給部)によりコンデンサ素子3から供給される液剤が封口体4の内部に浸透している。これにより、封口体4の劣化による水分透過量の増加を長期的に抑止することができる。このため、長寿命で耐湿性の高いコンデンサ1を提供することができる。
【0143】
本実施形態において、第2実施形態と同様に給液シート10により機能性液体を封口体4に供給してもよい。
【0144】
第1~第4実施形態において、電気二重層コンデンサ等の他のコンデンサにおいても同様に、コンデンサ素子から供給される液剤を封口体4の内部に浸透させてもよい。また、コンデンサ素子3の電極(陽極箔5及び陰極箔7)がセパレータ6を介して対向して巻回されるが、セパレータを介して対向する一対の電極が平坦でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は、電解コンデンサ等のコンデンサ及びコンデンサを回路に実装した自動車、電子機器等に利用することができる。
【符号の説明】
【0146】
1 コンデンサ
2 本体ケース
2a 端壁部
2b 開口部
2c 内周面
3 コンデンサ素子
4 封口体
4a、4b 貫通孔
5 陽極箔
6 セパレータ
7 陰極箔
8、9 リード端子
10 給液シート
10、11 貫通孔
10a 吸収部
10b 接触部
12 テープ
13 突出部
13a 頂点
14 折り返し部
15 座板
15a、15b 貫通孔