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特開2024-71475イオン伝導性固体電解質化合物、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置
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  • 特開-イオン伝導性固体電解質化合物、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071475
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】イオン伝導性固体電解質化合物、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20240517BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240517BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240517BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240517BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20240517BHJP
【FI】
C01B25/45 M
C01B25/45 Z
H01M10/0562
H01M10/054
H01M10/052
H01M12/08 K
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M8/1016
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045254
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2021507894の分割
【原出願日】2019-05-07
(31)【優先権主張番号】10-2018-0095552
(32)【優先日】2018-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】503447036
【氏名又は名称】サムスン エレクトロニクス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】スン-ジュ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェギョム・キム
(57)【要約】
【課題】結晶質酸化物として、「Ax(M2TO8)y」の化学量論式を有するイオン伝導性固体電解質化合物が開示される。
【解決手段】該化学量論式において、Aは、+1価酸化状態を有する陽イオンであり、Mは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、Tは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、x及びyは、0を超える互いに独立した実数であり、xは、3y以下であり、該イオン伝導性固体電解質化合物は、高いイオン伝導度、及び低い電子伝導度を有する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質酸化物として、下記化学式1の化学量論式を有することを特徴とするイオン伝導性固体電解質化合物:
【化1】
前記化学式1で、Aは、+1価酸化状態を有する陽イオンであり、Mは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、Tは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、x及びyは、0を超える互いに独立した実数であり、xは、3y以下である。
【請求項2】
前記Aは、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)及びヒドロニウムイオン(H)からなる群のうちから選択された1以上を含み、
前記Mは、チタンイオン(Ti4+)、ジルコニウムイオン(Zr4+)、ハフニウムイオン(Hf4+)、ニオブイオン(Nb5+)、タンタルイオン(Ta5+)及びアンチモンイオン(Sb5+)からなる群のうちから選択された1以上を含み、
前記Tは、シリコンイオン(Si4+)、ゲルマニウムイオン(Ge4+)、リンイオン(P5+)、ヒ素イオン(As5+)、バナジウムイオン(V5+)、硫黄イオン(S6+)、モリブデンイオン(Mo6+)及びタングステンイオン(W6+)からなる群のうちから選択された1以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項3】
結晶内において、前記Mは、酸素陰イオンによって6配位され、MO八面体単位を形成し、前記Tは、酸素陰イオンによって4配位され、TO四面体単位を形成することを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項4】
前記MO八面体単位が第1平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第1格子層と、
前記MO八面体単位が、前記第1平面と平行な第2平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第2格子層と、
1個の前記MO八面体単位、及びその2個の頂点を共有するように結合された2個の前記TO四面体単位を具備し、前記第1格子層と前記第2格子層との間に配置され、前記第1格子層のMO八面体単位、及び前記第2格子層の前記MO八面体単位と結合する三量体リンク単位を具備する連結層と、を含み、
前記Aは、前記MO八面体単位と前記TO四面体単位との間の空間に配置されることを特徴とする請求項3に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項5】
前記第1格子層及び前記第2格子層それぞれにおいて、8個の前記MO八面体単位が、四角形の4つの頂点及び4辺に対応する位置に配置され、
前記MO八面体単位のうち、前記4つの頂点に対応する位置にそれぞれ配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した4個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第1八面体単位をそれぞれ形成し、
前記MO八面体単位のうち、前記4辺に対応する位置にそれぞれ配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した2個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第2八面体単位をそれぞれ形成することを特徴とする請求項4に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項6】
前記第2格子層は、前記第1格子層に比べ、前記第1平面及び前記第2平面を定義する第1軸及び第2軸に、それぞれ第1間隔及び第2間隔ほどシフトされたことを特徴とする請求項5に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項7】
前記三量体リンク単位の前記MO八面体単位は、前記第1格子層の第1四角形の第1頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位、及び前記第1四角形に対応する前記第2格子層の第2四角形の前記第1頂点と反対になる第2頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位と頂点を共有するように連結され、
前記三量体リンク単位の前記2個のTO四面体単位のうち一つは、前記第1四角形の第2頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位、及び前記第2四角形の前記第2頂点に対応する位置に配置された1個の前記第1八面体単位と頂点を共有するように連結され、
前記三量体リンク単位の前記2個のTO四面体単位のうち残り一つは、前記第1四角形の前記第1頂点に対応する位置に配置された1個の前記第1八面体単位、及び前記第2四角形の前記第1頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位と頂点を共有するように連結されたことを特徴とする請求項5に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項8】
前記第1格子層及び前記第2格子層それぞれは、化学量論的に、[M18/23-に該当する組成を有し、
前記連結層は、化学量論的に、[MT14/2に該当する組成を有することを特徴とする請求項4に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項9】
請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質化合物を製造する製造方法において、
A、M及びTの原料物質を混合して粉砕し、第1原料物質を形成する段階と、
前記第1原料物質を一次熱処理する段階と、
前記一次熱処理された第1原料物質を、湿式ボールミル工程を介して粉砕及び混合し、第2原料物質を形成する段階と、
前記第2原料物質を圧縮成形する段階と、
前記圧縮成形された第2原料物質を焼結する段階と、を含む、イオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項10】
前記Aの原料物質は、Aの炭酸塩化合物または硝酸塩化合物が使用され、
前記Mの原料物質は、Mの酸化物またはハロゲン化物が使用され、
前記Tの原料物質は、Tの酸化物塩化合物が使用されることを特徴とする請求項9に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項11】
前記第1原料物質に対する一次熱処理は、500℃ないし1,000℃の温度で、6時間ないし12時間行われ、
前記第2原料物質に対する焼結は、900℃ないし1,200℃の温度範囲において、12時間ないし48時間行われることを特徴とする請求項9に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項12】
前記イオン伝導性固体電解質化合物は、LiTaPOであり、
リチウム(Li)の原料物質としては、LiCOまたはLiNOが使用され、リン(P)の原料物質としては、(NHHPO、(NH)HPOまたは(NHPOが使用されるか、あるいは前記リチウム及び前記リンの原料物質として、LiPOまたはLiHPOが使用され、
タンタル(Ta)の原料物質としては、Taが使用されることを特徴とする請求項9に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項13】
前記イオン伝導性固体電解質化合物において、Aイオンとして、第1イオンを含む第1イオン伝導性固体電解質化合物において、前記第1イオンを、Aイオンにおいて、他の第2イオンで交換し、第2イオン伝導性固体電解質化合物を製造する段階をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項14】
前記第1イオン伝導性固体電解質化合物であるLiTaPO化合物を、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)を含む酸性水溶液に混合させた後、加熱することにより、前記LiTaPO化合物に含まれたリチウムイオン(Li)を、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)で交換し、前記第2イオン伝導性固体電解質化合物であるHTaPO・2OまたはHTaPO・HOを製造することを特徴とする請求項13に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項15】
前記第1イオン伝導性固体電解質化合物であるLiTaPO化合物を、溶融されたナトリウム塩、またはナトリウム塩が溶解された溶媒に混合させた後で加熱することにより、前記LiTaPO化合物に含まれたリチウムイオン(Li)をナトリウムイオン(Na)で交換し、前記第2イオン伝導性固体電解質化合物であるNaTaPO化合物を製造することを特徴とする請求項13に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項16】
第1電極と、前記第1電極と離隔されるように配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された固体電解質層と、を含む電気化学装置において、
前記固体電解質層は、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物によって形成されたことを特徴とする電気化学装置。
【請求項17】
前記固体電解質層は、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)及びヒドロニウムイオン(H)からなる群のうちから選択された1以上のイオンに対して伝導性を有することを特徴とする請求項16に記載の電気化学装置。
【請求項18】
前記電気化学装置は、ナトリウムイオン電池、ナトリウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム・空気電池、水素燃料電池、陽性子交換膜燃料電池、リチウム系レドックスフロー電池、Li-Hセミ燃料電池及び化学的センサからなる群のうちから選択された一つであることを特徴とする請求項16に記載の電気化学装置。
【請求項19】
前記電気化学装置は、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム・空気電池、リチウム系レドックスフロー電池またはLi-Hセミ燃料電池であり、
前記固体電解質層は、前記化学式1で、Aがリチウムイオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によって形成されたことを特徴とする請求項16に記載の電気化学装置。
【請求項20】
前記電気化学装置は、水素燃料電池または陽性子交換膜燃料電池であり、
前記固体電解質層は、前記化学式1で、Aが水素イオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によって形成されたことを特徴とする請求項16に記載の電気化学装置。
【請求項21】
前記電気化学装置は、ナトリウムイオン電池、ナトリウム金属電池またはナトリウム・空気電池であり、
前記固体電解質層は、前記化学式1で、Aがナトリウムイオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によって形成されたことを特徴とする請求項16に記載の電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性にすぐれる新規な固体電解質化合物、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電が可能な二次リチウムイオンバッテリは、携帯用電子機器から電気自動車用バッテリに至るまで、多様な応用分野で使用される。しかし、商業用リチウムイオンバッテリは、熱安定性が低い可燃性有機液体電解質を使うために、重要な安全問題がある。また、有機電解質中において、リチウムの樹枝状結晶(dendrite)が成長すれば、リチウムイオンバッテリが短絡される問題を有している。
【0003】
そのような有機液体電解質の問題点を解決するために、固体電解質素材に係わる多くの研究がなされている。揮発性がなく熱的で安定した固体電解質に有機液体電解質を代替すれば、安全性を大きく向上させることができる。イオン伝導度が高く、機械的強度にすぐれる固体リチウムイオン電解質は、リチウム・空気電池(Li-air battery)、リチウム系レドックスフロー電池(Li-redox flow battery)、Li-Hセミ燃料電池、化学的センサなどにも適用される。
【0004】
特に、リチウムを含む結晶質酸化物及び硫化物化合物は、固体電解質として広範囲に研究されてきた。一般的な硫化物系固体電解質としては、アルジロダイト(argyrodite)系LiPSI、チオ-LISICON(lithium super ionic conductor)系Li4-xGe1-x、Li10GeP12などがある。それら硫化物系固体電解質は、従来の液体電解質と類似するか、あるいはさらに高いリチウムイオン伝導度を有する。しかし、硫化物系固体電解質化合物は、水分に敏感であるという問題点がある。一方、酸化物系固体電解質化合物は、取り扱い容易性、機械的特性、化学的特性及び熱的安定性に相対的にすぐれる。酸化物系リチウムイオン固体電解質として、ペロブスカイト(perovskite)系Li3xLa2/3-xTiO、NASICON(sodium super ionic conductor)系Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、ガーネット(garnet)系LiLaZr12などが注目すべきリチウムイオン伝導度を示す。それら酸化物系固体電解質は、常温において、1×10-4Scm-1のリチウムイオン伝導度を示し、空気及び水分に安定している。ペロブスカイト構造を有するリチウムイオン伝導体Li3xLa2/3-xTiOは、Liquanらによる研究論文[「High ionic conductivity in lithium lanthanum titanate」 Solid State Commun. 86, 689-693, 1993]に記述され、NASICON構造を有するリチウムイオン伝導体Li1.3Al0.3Ti1.7(POは、Adachiらによる研究論文[「High Li conducting ceramics」 Acc. Chem. Res. 27, 265-270, 2003]に記述された。ガーネット構造を有するリチウムイオン伝導体は、特許文献国際公開第2005/085138号と特許文献国際公開第2009/003695号とを介して報告された。しかし、従来の酸化物系固体電解質化合物は、イオン伝導性が相対的に低く、その改善が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱的及び化学的な安定性にすぐれ、非常に優秀な陽イオン伝導度、及び非常に低い電子伝導度を有するイオン伝導性固体電解質化合物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、イオン伝導性固体電解質化合物の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、イオン伝導性固体電解質化合物からなる電解質層を具備する電気化学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物は、結晶質酸化物として、下記化学式1の化学量論式を有する。
【0009】
【化1】
【0010】
化学式1で、Aは、+1価酸化状態を有する陽イオンであり、Mは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、Tは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、x及びyは、互いに独立した0を超える実数(real number)であり、xは、0を超えて3y以下の実数である。
【0011】
一実施例において、Aは、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)及びヒドロニウムイオン(H)からなる群のうちから選択された1以上を含み、Mは、チタンイオン(Ti4+)、ジルコニウムイオン(Zr4+)、ハフニウムイオン(Hf4+)、ニオブイオン(Nb5+)、タンタルイオン(Ta5+)及びアンチモンイオン(Sb5+)からなる群のうちから選択された1以上を含み、Tは、シリコンイオン(Si4+)、ゲルマニウムイオン(Ge4+)、リンイオン(P5+)、ヒ素イオン(As5+)、バナジウムイオン(V5+)、硫黄イオン(S6+)、モリブデンイオン(Mo6+)及びタングステンイオン(W6+)からなる群のうちから選択された1以上を含んでもよい。一実施例において、Tは、ゲルマニウムイオン(Ge4+)、リンイオン(P5+)、ヒ素イオン(As5+)及びバナジウムイオン(V5+)からなる群のうちから選択された1以上を含んでもよい。
【0012】
一実施例において、結晶内において、Mは、酸素陰イオンによって6配位され、MO八面体単位を形成し、Tは、酸素陰イオンによって4配位され、TO四面体単位を形成することができる。
【0013】
一実施例において、イオン伝導性固体電解質化合物は、MO八面体単位が第1平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第1格子層と、MO八面体単位が、第1平面と平行な第2平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第2格子層と、1個のMO八面体単位、及びその2個の頂点を共有するように結合された2個のTO四面体単位を具備し、第1格子層と第2格子層との間に配置され、第1格子層のMO八面体単位、及び第2格子層のMO八面体単位と結合する三量体リンク単位を具備する連結層と、を含み、Aは、MO八面体単位とTO四面体単位との間の空間にも配置される。
【0014】
一実施例において、第1格子層及び第2格子層それぞれにおいて、8個のMO八面体単位が、四角形の4つの頂点及び4辺に対応する位置に配置され、MO八面体単位のうち、4つの頂点に対応する位置にそれぞれ配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した4個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第1八面体単位をそれぞれ形成し、MO八面体単位のうち、4辺に対応する位置にそれぞれ配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した2個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第2八面体単位をそれぞれ形成することができる。
【0015】
一実施例において、第2格子層は、第1格子層に比べ、第1平面及び第2平面を定義する第1軸及び第2軸に、それぞれ第1間隔及び第2間隔ほどシフトされてもいる。
【0016】
一実施例において、三量体リンク単位のMO八面体単位は、第1格子層の第1四角形の第1頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の第2八面体単位、及び第1四角形に対応する第2格子層の第2四角形の第1頂点と反対になる第2頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の第2八面体単位と頂点を共有するように連結され、三量体リンク単位の2個のTO四面体単位のうち一つは、第1四角形の第2頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の第2八面体単位、及び第2四角形の第2頂点に対応する位置に配置された1個の第1八面体単位と頂点を共有するように連結され、三量体リンク単位の2個のTO四面体単位のうち残り一つは、第1四角形の第1頂点に対応する位置に配置された1個の第1八面体単位、及び第2四角形の第1頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の第2八面体単位と頂点を共有するようにも連結される。
【0017】
一実施例において、第1格子層及び第2格子層それぞれは、化学量論的に、[M18/23-に該当する組成を有し、連結層は、化学量論的に、[MT14/2に該当する組成を有することができる。
【0018】
本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物を製造する製造方法は、A、M及びTの原料物質を混合して粉砕し、第1原料物質を形成する段階と、第1原料物質を一次熱処理する段階と、一次熱処理された第1原料物質を、湿式ボールミル工程を介して粉砕及び混合し、第2原料物質を形成する段階と、第2原料物質を圧縮成形する段階と、圧縮成形された第2原料物質を焼結する段階と、を含む。
【0019】
一実施例において、Aの原料物質は、Aの炭酸塩化合物または硝酸塩化合物が使用され、Mの原料物質は、Mの酸化物またはハロゲン化物が使用され、Tの原料物質は、Tの酸化物塩化合物が使用されうる。
【0020】
一実施例において、第1原料物質に対する一次熱処理は、500℃ないし1,000℃の温度で、6時間ないし12時間行われ、第2原料物質に対する焼結は、900℃ないし1,200℃の温度範囲において、12時間ないし48時間行われもする。
【0021】
一実施例において、イオン伝導性固体電解質化合物は、LiTaPOである場合、リチウム(Li)の原料物質としては、LiCOまたはLiNOが使用され、リン(P)の原料物質としては、(NHHPO、(NH)HPOまたは(NHPOが使用されるか、あるいはリチウム及びリンの原料物質として、LiPOまたはLiHPOが使用され、タンタル(Ta)の原料物質としては、Taが使用されうる。
【0022】
本発明の実施例による電気化学装置は、第1電極と、第1電極と離隔されるように配置された第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置された固体電解質層と、を含み、固体電解質層は、本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物によっても形成される。
【0023】
一実施例において、固体電解質層は、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)及びヒドロニウムイオン(H)からなる群のうちから選択された1以上のイオンに対して伝導性を有することができる。
【0024】
一実施例において、電気化学装置は、ナトリウムイオン電池、リチウムイオン電池、リチウム・空気電池(Li-air battery)、水素燃料電池、陽性子交換膜燃料電池、リチウム系レドックスフロー電池(Li-redox flow battery)、Li-Hセミ燃料電池及び化学的センサからなる群のうちから選択された一つでもある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物は、従来に公開されていない新たな三次元骨格構造を有しており、優先的な方向なしに、リチウムイオン、ナトリウムイオン、水素イオン及びヒドロニウムイオンのような陽イオンの三次元伝導が可能であり、熱的及び化学的な安定性にすぐれる。その結果、本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物は、液体電解質が有する安定性問題を解決することができ、非常にすぐれた陽イオン伝導度、及び非常に低い電子伝導度を有する。そのようなイオン伝導性固体電解質化合物は、リチウム・空気電池(Li-air battery)、リチウム系レドックスフロー電池(Li-redox flow battery)、Li-Hセミ燃料電池、化学的センサなどに、イオン伝導性電解質物質としても適用される。また、本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物は、製造方法が単純であり、原料物質の価格が低廉であり、量産のような商業的適用に非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の結晶構造について説明するための図面である。
図1B】本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の結晶構造について説明するための図面である。
図2】本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法について説明するためのフローチャートである。
図3】本発明の実施例による電気化学装置について説明するための断面図である。
図4A】実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対して測定された温度によるイオン伝導性を示すグラフである。
図4B】実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対して測定された温度によるイオン伝導性を示すグラフである。
図5】実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対するX線回折グラフ(λ=1.5418Å)である。
図6】実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対して測定された交流インピーダンスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明する。本発明は、多様な変更を加えることができ、さまざまな形態を有することができるが、特定実施例を図面に例示し、本文において詳細に説明する。しかし、それらは、本発明を特定の開示形態について限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物または代替物を含むものであると理解されなければならない。各図面について説明しながら、類似した参照符号は、類似した構成要素に使用した。
【0028】
本出願で使用した用語は、ただ、特定実施例についての説明に使用されたものであり、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上、明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本出願において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴、段階、動作、構成要素、部分品、またはそれらの組み合わせが存在するということを指定するものであり、1またはそれ以上の他の特徴や段階、動作、構成要素、部分品、またはそれらの組み合わせの存在または付加の可能性を事前に排除するものではないと理解されなければならない。
【0029】
取り立てて定義されない限り、技術的であったり科学的であったりする用語を含み、ここで使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野において当業者によって一般的に理解されるところと同一な意味を有している。一般的に使用される既定義のような用語は、関連技術の文脈上有する意味と一致する意味を有すると解釈されなければならず、本出願において明白に定義しない限り、理想的であったり、過度に形式的であったりする意味に解釈されるものではない。
【0030】
図1A及び図1Bは、本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の結晶構造について説明するための図面である。
【0031】
図1A及び図1Bを参照すれば、本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物は、結晶質酸化物として、下記化学式1の化学量論式を有することができ、高いイオン伝導度を有することができる。
【0032】
【化2】
【0033】
化学式1で、「A」は、+1価酸化状態を有する陽イオンでもあり、「M」は、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンでもあり、「T」は、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンでもある。そして、x及びyは、互いに独立した0を超える実数(real number)であり、xは、0を超えて3y以下の実数でもある。例えば、x及びyは、いずれも1でもある。
【0034】
一実施例において、Aは、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)及びヒドロニウムイオン(H)などから選択された1以上を含んでもよく、Mは、チタンイオン(Ti4+)、ジルコニウムイオン(Zr4+)、ハフニウムイオン(Hf4+)、ニオブイオン(Nb5+)、タンタルイオン(Ta5+)、アンチモンイオン(Sb5+)などから選択された1以上を含んでもよく、Tは、シリコンイオン(Si4+)、ゲルマニウムイオン(Ge4+)、リンイオン(P5+)、ヒ素イオン(As5+)、バナジウムイオン(V5+)、硫黄イオン(S6+)、モリブデンイオン(Mo6+)、タングステンイオン(W6+)などから選択された1以上を含んでもよい。一例としてTは、ゲルマニウムイオン(Ge4+)、リンイオン(P5+)、ヒ素イオン(As5+)、バナジウムイオン(V5+)から選択された1以上を含んでもよい。
【0035】
本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物において、Mは、酸素陰イオンによって6配位され、MO八面体単位を形成することができ、Tは、酸素陰イオンによって4配位され、TO四面体単位を形成することができる。そして、MO八面体単位のうち一部は、2個のTO四面体単位と頂点を共有するように結合され、三量体リンク単位を形成することができる。このとき、それぞれの三量体リンク単位において、2個のTO四面体単位は、MO八面体単位の頂点のうち第1頂点と、第1頂点に対向する第2頂点とに位置する酸素イオンをそれぞれ共有するようにも結合される。
【0036】
一実施例において、イオン伝導性固体電解質化合物は、MO八面体単位がab平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第1格子層、第1格子層上部に配置され、MO八面体単位がab平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第2格子層、及び第1格子層と第2格子層とを連結する三量体リンク単位を含む連結層を含んでもよい。一実施例において、第1格子層及び第2格子層において、MO八面体単位は、四角形、例えば、菱形格子状にも連結される。
【0037】
第1格子層及び第2格子層それぞれにおいて、8個のMO八面体単位が、菱形の頂点及び辺に対応する位置にも配置され、その場合、4つの頂点に対応する位置に配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した4個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第1八面体単位を形成することができ、4辺に対応する位置に配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した2個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第2八面体単位を形成することができる。一実施例において、第1八面体単位及び第2八面体単位それぞれは、化学量論的にMO6/2の組成を有することができる。
【0038】
前述のように形成された第1格子層及び第2格子層それぞれは、化学量論的に、[M18/23-に該当する組成を有することができる。一方、第2格子層は、第1格子層に比べ、a軸に第1間隔(「a」)ほど、b軸に第2間隔(「b」)ほどシフトされ、第1格子層上部に配置されうる。
【0039】
連結層において、三量体リンク単位のうち、MO八面体単位は、第1格子層の菱形の第1頂点に連結された2つの辺にそれぞれ位置する2個の第2八面体単位、及び第2格子層の菱形の第1頂点と反対になる第2頂点に連結された2つの辺にそれぞれ位置する2個の第2八面体単位と頂点を共有するようにも連結される。すなわち、三量体リンク単位のMO八面体単位は、4個の第2八面体単位、及び2個のTO四面体単位と頂点を共有するようにも連結される。そして、三量体リンク単位の2個のTO四面体単位のうち一つは、第1格子層の菱形の第2頂点に連結された2つの辺にそれぞれ位置する2個の第2八面体単位、及び第2格子層の菱形の第2頂点に位置する1個の第1八面体単位と頂点を共有するようにも連結され、三量体リンク単位の2個のTO四面体単位のうち残り一つは、第1格子層の菱形の第1頂点に位置する1個の第1八面体単位、及び第2格子層の菱形の第1頂点に連結された2つの辺にそれぞれ位置する2個の第2八面体単位と頂点を共有するようにも連結される。すなわち、三量体リンク単位の2個のTO四面体単位それぞれは、三量体リンク単位を形成する1個のMO八面体単位、2個の第2八面体単位、及び1個の第1八面体単位と頂点を共有するようにも連結される。
【0040】
その場合、第1格子層及び第2格子層それぞれは、化学量論的に、[M18/23-に該当する組成を有することができ、連結層は、化学量論的に、[MT14/2に該当する組成を有することができる。
【0041】
Aイオンは、MO八面体単位とTO四面体単位との間の空間にも配置される。
【0042】
本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物は、従来に公開されていない新たな三次元骨格構造を有しており、優先的な方向なしに、リチウムイオン、ナトリウムイオン、水素イオン及びヒドロニウムイオンのような陽イオンの三次元伝導が可能であり、熱的及び化学的な安定性にすぐれる。その結果、本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物は、液体電解質が有する安定性問題を解決することができ、非常にすぐれた陽イオン伝導度、及び非常に低い電子伝導度を有する。そのようなイオン伝導性固体電解質化合物は、ナトリウムイオン電池、ナトリウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム・空気電池(Li-air battery)、水素燃料電池、陽性子交換膜燃料電池、リチウム系レドックスフロー電池(Li-redox flow battery)、Li-Hセミ燃料電池、化学的センサなどに、イオン伝導性電解質物質としても適用される。また、本発明によるイオン伝導性固体電解質化合物は、製造方法が単純であり、原料物質の価格が低廉であり、量産のような商業的適用に非常に有利である。
【0043】
図2は、本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法について説明するためのフローチャートである。
【0044】
図2を参照すれば、本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法は、化学式1の化学量論式を有するイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法に係わるものであり、原料物質を混合して粉砕し、第1原料物質を形成する段階(S110)と、第1原料物質を一次熱処理する段階(S120)と、一次熱処理された第1原料物質を、湿式ボールミル工程を介して粉砕及び混合し、第2原料物質を形成する段階(S130)と、第2原料物質を圧縮成形する段階(S140)と、圧縮成形された第2原料物質を焼結する段階(S150)と、を含む。
【0045】
第1原料物質を形成する段階(S110)において、Aの原料物質は、Aの炭酸塩、硝酸塩などの化合物が使用され、Mの原料物質は、Mの酸化物、ハロゲン化物などの化合物が使用され、Tの原料物質は、Tの酸化物塩化合物が使用されうる。
【0046】
一実施例において、イオン伝導性固体電解質化合物として、LiTaPOを製造する場合、一例として、リチウム(Li)の原料物質としては、LiCO、LiNOなどが使用され、タンタル(Ta)の原料物質としては、Taが使用され、リン(P)の原料物質としては、(NHHPO、(NH)HPO、(NHPOなどが使用されうる。一方、それとは異なる例として、リチウム(Li)とリン(P)との原料物質としては、LiPO、LiHPOなどが使用されうる。
【0047】
第1原料物質を形成するために、A、M、Tの原料物質を機械的に摩擦させ、原料物質を混合しながら均一に粉砕することができる。
【0048】
第1原料物質を一次熱処理する段階(S120)において、均一に粉砕されて混合された原料物質は、約500℃ないし1,000℃の温度で、約6時間ないし12時間加熱されうる。そのような一次熱処理により、原料物質に含有された不純物成分などが揮発されて除去されうる。
【0049】
第2原料物質を形成する段階(S130)において、第1原料物質は、トルエン溶媒内において、安定した酸化物ボール、例えば、酸化ジルコニウムボールを使用するボールミル(ball mill)工程を介して追加して粉砕されうる。
【0050】
第2原料物質を圧縮成形する段階(S140)において、第1原料物質は、ペレット(pellet)状にも圧縮成形される。
【0051】
圧縮成形された第2原料物質を焼結する段階(S150)において、ペレット形態に圧縮成形された第2原料物質は、約900℃ないし1,200℃の温度範囲において、約12時間ないし48時間焼結されうる。このとき、焼結過程において、アルカリ金属のような+1価陽イオン金属(A)の損失を防止するために、ペレット状の第2原料物質は、同一組成を有する粉末で覆われた状態においても焼結される。そのような焼結工程を介して、第2原料物質は、結晶化されうる。
【0052】
本発明の一実施例において、本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法は、Aイオンのうち第1イオンを含む第1イオン伝導性固体電解質化合物において、第1イオンを、Aイオンのうち他の第2イオンで交換し、第2イオン伝導性固体電解質化合物を製造する段階をさらに含んでもよい。
【0053】
一実施例において、リチウムイオン(Li)を含む第1イオン伝導性固体電解質化合物において、リチウムイオン(Li)を、イオン交換反応を介し、水素イオン(H)、ヒドロニウムイオン(H)またはナトリウムイオン(Na)で交換し、第2イオン伝導性固体電解質化合物を製造することができる。
【0054】
一実施例において、LiTaPOにおいて、リチウムイオン(Li)を水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)で交換し、LiTaPOから、HTaPO・2OまたはHTaPO・HOを製造することができる。例えば、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)を含む酸性水溶液に、LiTaPOを混合させた後、それを一定温度まで加熱することにより、LiTaPO格子内のリチウムイオン(Li)を、イオン交換反応を介し、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)で交換することができる。
【0055】
その場合、酸性水溶液は、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)を含むものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸などが使用されうる。LiTaPO格子内のリチウムイオン(Li)と、酸性水溶液に含有された水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)とのイオン交換反応のために、LiTaPOと酸性水溶液との混合溶液は、約40℃ないし100℃の温度で、約6時間ないし72時間加熱されうる。このとき、均一な反応のために、混合溶液を撹拌器で持続的に撹拌することができ、加熱時、還流装置を利用することにより、酸性水溶液の損失を防止することができる。
【0056】
なお、イオン交換反応後、第2イオン伝導性固体電解質化合物は、水とエタノールとによっても洗浄され、続けて、100℃以上の温度で乾燥することができる。
【0057】
他の実施例において、LiTaPOにおいて、リチウムイオン(Li)をナトリウムイオン(Na)で交換し、LiTaPOからNaTaPOを製造することができる。例えば、ナトリウム塩を溶融点以上に加熱した溶融状態において、LiTaPOを添加して混合するか、あるいは水のようなイオン性溶媒に、ナトリウム塩とLiTaPOとを添加して混合させた後、それを一定温度まで加熱することにより、LiTaPO格子内のリチウムイオン(Li)を、イオン交換反応を介し、ナトリウムイオン(Na)で交換することができる。
【0058】
その場合、ナトリウム塩としては、溶融または溶解された状態で、ナトリウムイオンを提供することができる物質であるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、硝酸ナトリウムが使用されうる。LiTaPO格子内のリチウムイオン(Li)とナトリウムイオン(Na)とのイオン交換反応のために、溶液は、約40℃ないし380℃の温度で、約1時間ないし48時間加熱されうる。溶媒において、ナトリウム塩と反応する場合、均一な反応のために、混合溶液を撹拌器で持続的に撹拌することができ、加熱時、還流装置を利用することにより、溶媒の損失を防止することができる。
【0059】
一方、イオン交換反応後、第2イオン伝導性固体電解質化合物は、水とエタノールとによっても洗浄され、続けて、100℃以上の温度で乾燥させる。
【0060】
図3は、本発明の実施例による電気化学装置について説明するための断面図である。
【0061】
図3を参照すれば、本発明の実施例による電気化学装置100は、第1電極110、第2電極120及び固体電解質層130を含んでもよい。
【0062】
該第1電極110及び該第2電極120は、電気伝導性物質によっても形成される。
【0063】
固体電解質層130は、第1電極110と第2電極120との間に配置され、図1A及び図1Bを参照して説明した本発明の実施例によるイオン伝導性固体電解質化合物によっても形成される。そのような固体電解質層130は、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)、ヒドロニウムイオン(H)などから選択された1以上のAイオンに対する伝導性を有することができる。
【0064】
本発明による電気化学装置100は、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)、ヒドロニウムイオン(H)などに対する伝導性を有する電解質層が必要な素子であるならば、特別に制限されるものではない。例えば、電気化学装置100は、ナトリウムイオン電池、ナトリウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム・空気電池、水素燃料電池、陽性子交換膜燃料電池、リチウム系レドックスフロー電池、Li-Hセミ燃料電池、化学的センサなどから選択された一つでもある。
【0065】
一実施例において、電気化学装置100が、ナトリウムイオン電池である場合、電解質層130は、化学式1で、Aがナトリウムイオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によっても形成される。
【0066】
他の実施例において、電気化学装置100が、リチウムイオン電池、リチウム・空気電池、リチウム系レドックスフロー電池、Li-Hセミ燃料電池である場合、電解質層130は、化学式1で、Aがリチウムイオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によっても形成される。
【0067】
さらに他の実施例において、電気化学装置100が、水素燃料電池、陽性子交換膜燃料電池である場合、電解質層130は、化学式1で、Aが水素イオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によっても形成される。
【0068】
さらに他の実施例において、電気化学装置100が、ナトリウムイオン電池である場合、電解質層130は、化学式1で、Aがナトリウムイオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によっても形成される。
【0069】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の実施形態に過ぎず、本発明の範囲は、下記実施例に限定されると解釈されるものではない。
【0070】
[実施例1]
LiHPOとTaとを化学量論的比で混合させた後、乳鉢を利用して粉砕し、それを、空気中で600℃で8時間加熱し、続けて、得られた混合物をさらに混合させた後、1,000℃で8時間加熱し、そこから得られた混合物を、ジルコニウムボールを使用してトルエンで1時間粉砕した。
【0071】
続けて、粉砕された粉末を、1.05cm径及び0.21cm厚を有するペレット状に圧縮成形し、それを、1,050℃で12時間焼結した。このとき、リチウムの損失を防止するために、ペレットを同一組成の粉末で覆った状態で焼結した。
【0072】
[実験例]
実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対し、多様な温度でイオン伝導度を測定し、その結果を、下記表1及び図4Aに示すと共に、さらに図4Bにおいて、従来のイオン伝導性固体電解質物質と比較して示した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1及び図4A図4Bを参照すれば、実施例1によって製造されたLiTaPO化合物は、測定された温度領域全体において、非常にすぐれたイオン伝導度を有することを確認することができる。特に、常温(25℃)におけるバルク(bulk)伝導度は、1.6×10-3Scm-1であり、バルクと結晶粒径(grain boundary)とを含む全体伝導度(total conductivity)は、2.9×10-4Scm-1であると測定されたが、それは、これまで研究された他の酸化物系固体電解質で報告された最も高レベルの伝導度を上回るものである。
【0075】
図5は、実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対するX線回折グラフ(λ=1.5418Å)である。
【0076】
図5を参照すれば、実施例1によって製造されたLiTaPOは、結晶性構造を有することを確認することができる。具体的には、実施例1によって製造されたLiTaPOは、単斜晶系空間群を有し、a~9.716Å、b~11.536Å、c~10.697Å及びβ=90.04°の格子定数を有する結晶構造を有するということが分かった。
【0077】
図6は、実施例1によって製造されたLiTaPOペレットに対して測定された交流インピーダンスを示すグラフである。
【0078】
図6のグラフは、実施例1により、厚み0.21cm及び直径1.05cmを有するように製造されたLiTaPOペレットに対し、空気中で4℃の温度で測定され、それぞれの点は、周波数5Hzから13MHzまでの間で測定された実験値であり、連続線は、ZView programを利用し、(RCPE)(RgbCPEgb)(CPEel)に該当する等価回路(equivalent circuit)に係わるシミュレーションデータを示す。ここで、Rは、抵抗であり、CPEは、一定位相要素(constant phase element)であり、指数b,gb,elは、バルク、結晶粒径、電極を意味する。このとき、1.6MHz以上の高周波で示される小半円と、1.6MHzから2.5kHzまでの範囲における大半円、2.5kHz以下の低領域から出る線形グラフが、それぞれバルク、結晶粒径及び電極において寄与するものであるということを、計算されたCPE値から確認することができる。小半円の直径から、バルクの抵抗値を得ることができ、大半円の直径から、結晶粒径の抵抗値を決定することができる。この抵抗値を下記数式1に代入すれば、バルク伝導度は、5.38×10-4Scm-1と計算され、結晶粒径伝導度は、6.58×10-5Scm-1と計算され、全体伝導度は、5.86×10-5Scm-1と計算される。
【0079】
【数1】
【0080】
前述の記載において、本発明の望ましい実施例を参照して説明したが、当該技術分野の当業者であるならば、特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から外れない範囲内において、本発明を多様に修正させて変更させることができるということを理解することができるであろう。
【符号の説明】
【0081】
100 電気化学装置
110 第1電極
120 第2電極
130 固体電解質層
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-03-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質酸化物として、下記化学式1の化学量論式を有することを特徴とするイオン伝導性固体電解質化合物:
【化1】
前記化学式1で、Aは、+1価酸化状態を有する陽イオンであり、Aは、リチウムイオン(Li )であり、Mは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、Mは、5価元素であるニオブイオン(Nb 5+ )、タンタルイオン(Ta 5+ )及びアンチモンイオン(Sb 5+ )からなる群のうちから選択された1つ以上を含み、
Tは、+4価、+5価または+6価の酸化状態を有する陽イオンであり、Tは、リンイオン(P 5+ であり、x及びyは、0を超える互いに独立した実数であり、xは、3y以下である。
【請求項2】
結晶内において、前記Mは、酸素陰イオンによって6配位され、MO八面体単位を形成し、前記Tは、酸素陰イオンによって4配位され、TO四面体単位を形成することを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項3】
前記MO八面体単位が第1平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第1格子層と、
前記MO八面体単位が、前記第1平面と平行な第2平面に沿って四角形格子状に連結されて形成された第2格子層と、
1個の前記MO八面体単位、及びその2個の頂点を共有するように結合された2個の前記TO四面体単位を具備し、前記第1格子層と前記第2格子層との間に配置され、前記第1格子層のMO八面体単位、及び前記第2格子層の前記MO八面体単位と結合する三量体リンク単位を具備する連結層と、を含み、
前記Aは、前記MO八面体単位と前記TO四面体単位との間の空間に配置されることを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項4】
前記第1格子層及び前記第2格子層それぞれにおいて、8個の前記MO八面体単位が、四角形の4つの頂点及び4辺に対応する位置に配置され、
前記MO八面体単位のうち、前記4つの頂点に対応する位置にそれぞれ配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した4個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第1八面体単位をそれぞれ形成し、
前記MO八面体単位のうち、前記4辺に対応する位置にそれぞれ配置されたMO八面体単位は、それぞれ隣接した2個のMO八面体単位と頂点を共有するように連結され、第2八面体単位をそれぞれ形成することを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項5】
前記第2格子層は、前記第1格子層に比べ、前記第1平面及び前記第2平面を定義する第1軸及び第2軸に、それぞれ第1間隔及び第2間隔ほどシフトされたことを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項6】
前記三量体リンク単位の前記MO八面体単位は、前記第1格子層の第1四角形の第1頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位、及び前記第1四角形に対応する前記第2格子層の第2四角形の前記第1頂点と反対になる第2頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位と頂点を共有するように連結され、
前記三量体リンク単位の前記2個のTO四面体単位のうち一つは、前記第1四角形の第2頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位、及び前記第2四角形の前記第2頂点に対応する位置に配置された1個の前記第1八面体単位と頂点を共有するように連結され、
前記三量体リンク単位の前記2個のTO四面体単位のうち残り一つは、前記第1四角形の前記第1頂点に対応する位置に配置された1個の前記第1八面体単位、及び前記第2四角形の前記第1頂点に連結された2つの辺に対応する位置にそれぞれ配置された2個の前記第2八面体単位と頂点を共有するように連結されたことを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項7】
前記第1格子層及び前記第2格子層それぞれは、化学量論的に、[M18/23-に該当する組成を有し、
前記連結層は、化学量論的に、[MT14/2に該当する組成を有することを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物。
【請求項8】
請求項1に記載のイオン伝導性固体電解質化合物を製造する製造方法において、
A、M及びTの原料物質を混合して粉砕し、第1原料物質を形成する段階と、
前記第1原料物質を一次熱処理する段階と、
前記一次熱処理された第1原料物質を、湿式ボールミル工程を介して粉砕及び混合し、第2原料物質を形成する段階と、
前記第2原料物質を圧縮成形する段階と、
前記圧縮成形された第2原料物質を焼結する段階と、を含む、イオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項9】
前記Aの原料物質は、Aの炭酸塩化合物または硝酸塩化合物が使用され、
前記Mの原料物質は、Mの酸化物またはハロゲン化物が使用され、
前記Tの原料物質は、Tの酸化物塩化合物が使用されることを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項10】
前記第1原料物質に対する一次熱処理は、500℃ないし1,000℃の温度で、6時間ないし12時間行われ、
前記第2原料物質に対する焼結は、900℃ないし1,200℃の温度範囲において、12時間ないし48時間行われることを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項11】
前記イオン伝導性固体電解質化合物は、LiTaPOであり、
リチウム(Li)の原料物質としては、LiCOまたはLiNOが使用され、リン(P)の原料物質としては、(NHHPO、(NH)HPOまたは(NHPOが使用されるか、あるいは前記リチウム及び前記リンの原料物質として、LiPOまたはLiHPOが使用され、
タンタル(Ta)の原料物質としては、Taが使用されることを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項12】
前記イオン伝導性固体電解質化合物において、Aイオンとして、第1イオンを含む第1イオン伝導性固体電解質化合物において、前記第1イオンを、Aイオンにおいて、他の第2イオンで交換し、第2イオン伝導性固体電解質化合物を製造する段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項13】
前記第1イオン伝導性固体電解質化合物であるLiTaPO化合物を、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)を含む酸性水溶液に混合させた後、加熱することにより、前記LiTaPO化合物に含まれたリチウムイオン(Li)を、水素イオン(H)またはヒドロニウムイオン(H)で交換し、前記第2イオン伝導性固体電解質化合物であるHTaPO・2OまたはHTaPO・HOを製造することを特徴とする請求項12に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項14】
前記第1イオン伝導性固体電解質化合物であるLiTaPO化合物を、溶融されたナトリウム塩、またはナトリウム塩が溶解された溶媒に混合させた後で加熱することにより、前記LiTaPO化合物に含まれたリチウムイオン(Li)をナトリウムイオン(Na)で交換し、前記第2イオン伝導性固体電解質化合物であるNaTaPO化合物を製造することを特徴とする請求項12に記載のイオン伝導性固体電解質化合物の製造方法。
【請求項15】
第1電極と、前記第1電極と離隔されるように配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された固体電解質層と、を含む電気化学装置において、
前記固体電解質層は、請求項1ないしのうちいずれか1項に記載のイオン伝導性固体電解質化合物によって形成されたことを特徴とする電気化学装置。
【請求項16】
前記固体電解質層は、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、水素イオン(H)及びヒドロニウムイオン(H)からなる群のうちから選択された1以上のイオンに対して伝導性を有することを特徴とする請求項15に記載の電気化学装置。
【請求項17】
前記電気化学装置は、ナトリウムイオン電池、ナトリウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム・空気電池、水素燃料電池、陽性子交換膜燃料電池、リチウム系レドックスフロー電池、Li-Hセミ燃料電池及び化学的センサからなる群のうちから選択された一つであることを特徴とする請求項15に記載の電気化学装置。
【請求項18】
前記電気化学装置は、リチウムイオン電池、リチウム金属電池、リチウム・空気電池、リチウム系レドックスフロー電池またはLi-Hセミ燃料電池であり、
前記固体電解質層は、前記化学式1で、Aがリチウムイオンであるイオン伝導性固体電解質化合物によって形成されたことを特徴とする請求項15に記載の電気化学装置。