(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071479
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】有効耳内音圧レベルを推定する方法
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
G01H3/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045406
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2021512977の分割
【原出願日】2019-05-09
(31)【優先権主張番号】62/669,177
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514146737
【氏名又は名称】エコール ドゥ テクノロジー スペリウール
【氏名又は名称原語表記】ECOLE DE TECHNOLOGIE SUPERIEURE
【住所又は居所原語表記】1100 rue Notre-Dame Ouest Montreal, Quebec H3C 1K3 (CA)
(71)【出願人】
【識別番号】520439003
【氏名又は名称】アイアールエスエスティー - アンスティテュ ド ルシェルシュ オン サンテ エ オン セキュリテ ドゥ トラヴァイユ ドゥ ケベック
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】ボネ ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォワ ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ネリッセ ユーグ
(72)【発明者】
【氏名】ノガロリ マルコス
(57)【要約】
【課題】個人の閉塞した外耳道の内部における、着用者誘発雑音(WID)を伴わない有効耳内音圧レベルを推定する。
【解決手段】個人の閉塞した外耳道の内部における、着用者誘発雑音(WID)を伴わない有効耳内音圧レベルを推定する方法であって、閉塞した前記外耳道の内部において測定された耳内音圧レベルを取得するステップと、閉塞した前記外耳道の外側で測定された耳外音圧レベルを取得するステップと、着用者誘発雑音が検出されない場合、第1の推定方法によって有効耳内音圧レベルを推定し、着用者誘発雑音が検出される場合、第2の推定方法によって有効耳内音圧レベルを推定するステップと、を含む。
【選択図】
図3D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の閉塞した外耳道の内部における、着用者誘発雑音(WID)を伴わない有効耳内音圧レベルを推定する方法であって、
閉塞した前記外耳道の内部において測定された耳内音圧レベルを取得するステップと、
閉塞した前記外耳道の外側で測定された耳外音圧レベルを取得するステップと、
前記着用者誘発雑音が検出されない場合、第1の推定方法によって前記有効耳内音圧レベルを推定し、前記着用者誘発雑音が検出される場合、第2の推定方法によって前記有効耳内音圧レベルを推定するステップと、を含む、有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項2】
前記第1の推定方法は、取得された前記耳内音圧レベルに基づいて、前記有効耳内音圧レベルを推定する方法である、請求項1に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項3】
前記耳外音圧レベルを取得するステップにおいて、前記着用者誘発雑音が検出される前に測定された前記耳内音圧レベルを取得し、
前記第2の推定方法は、前記着用者誘発雑音が検出される前に測定された前記耳内音圧レベルに基づいて、前記有効耳内音圧レベルを推定する方法である、請求項1又は2に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項4】
前記第2の推定方法は、測定された前記耳外音圧レベルおよび推定ノイズ低減に基づいて、前記有効耳内音圧レベルを推定する方法である、請求項1又は2に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項5】
前記耳内音圧レベルを閾値と比較する比較ステップをさらに含み、
前記第2の推定方法は、
前記耳内音圧レベルが前記閾値を超える場合、前記着用者誘発雑音が検出される前に測定された前記耳内音圧レベルに基づいて、前記有効耳内音圧レベルを推定し、
前記耳内音圧レベルが前記閾値を下回る場合、測定された前記耳外音圧レベルおよび推定ノイズ低減に基づいて、前記有効耳内音圧レベルを推定する方法である、請求項4に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項6】
前記推定ノイズ低減は、前記着用者誘発雑音が検出される前に測定された前記耳内音圧レベルと、前記着用者誘発雑音が検出される前に測定された前記耳外音圧レベルとに基づいて決定される、請求項4又は5に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項7】
前記着用者誘発雑音の検出に用いられる前記耳内音圧レベルは、測定された前記耳外音圧レベルと、測定された前記耳内音圧レベルとに基づいて計算される、請求項1~6のいずれか1項に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項8】
前記着用者誘発雑音の検出に用いられる前記耳内音圧レベルは、測定された前記耳内音圧レベルと、測定された前記耳外音圧レベルとの間のコヒーレンス関数に基づいて計算される、請求項1~6のいずれか1項に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項9】
推定された前記有効耳内音圧レベルに基づいて、一定期間にわたる前記個人の騒音曝露線量を計算するステップをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項10】
前記外耳道より外側の基準耳外音圧レベルを捕捉するステップと、
前記外耳道の内部における鼓膜と前記外耳道の入口との間の中間位置での基準耳内音圧レベルを捕捉するステップと、
捕捉された前記基準耳外音圧レベルと、捕捉された前記基準耳内音圧レベルとの差を計算するステップと、
計算された前記差が最大となる周波数を特定するステップと、
周波数に対する、前記鼓膜の位置での耳内音圧レベル及び前記中間位置での耳内音圧レベルの差であるフィルタにおいて前記差が最大となる周波数を、特定した周波数に合わせることにより、前記中間位置での耳内音圧レベルを前記鼓膜の位置での耳内音圧レベルに変換するための補正係数を計算するステップと、
前記中間位置での耳内音圧レベルを捕捉する捕捉ステップと、
計算された前記補正係数、および前記捕捉ステップにより捕捉された前記耳内音圧レベルに基づいて、前記鼓膜での有効耳内音圧レベルを推定するステップと、を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項11】
前記捕捉ステップにおいて、前記外耳道の内部における前記鼓膜と前記外耳道の入口との間の中間位置での耳内音圧レベルを測定し、測定した耳内音圧レベルを捕捉する、請求項10に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【請求項12】
前記捕捉ステップにおいて、前記耳内音圧レベルは、聴覚保護装置の後方で測定される、請求項11に記載の有効耳内音圧レベルを推定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は2018年5月9日に出願された米国仮特許出願第62/669,177号の優先権を主張し、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ノイズ曝露測定の分野に関する。より詳細には、本発明は耳内有効音曝露の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
毎日、世界中の何億人もの労働者が、聴覚に影響を及ぼす可能性のある騒音レベルにさらされている。仕事中の騒音は、開発途上国だけでなく、多くの先進国でも依然として大きな懸念事項である。2000年には、ヨーロッパの労働者のうち7%が、彼らの労働活動が健康に影響を与え、聴覚障害につながったと報告した。それでも、過度の騒音に曝されている労働者が手遅れになる前に気づけたならば、騒音誘発性難聴(NIHL)は実際に回避可能である。残念ながら、あまりにも頻繁に、NIHLを防ぐことができる安全対策は講じられていない。なぜならば、危険にさらされている労働者は、聴覚を危険にさらしていることに実際に気づいていないからである。このような対策には、騒音制御手段、適切な聴覚保護装置(HPD)の使用、又は短時間労働の導入のような行政管理が含まれる。このような対策の適時な実施を確実にするためには、職場において、あらゆる個人の騒音曝露レベルを正確に把握することが不可欠である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
個人騒音曝露測定は、所定の法律に規定された職業上の曝露限界を確実に遵守するために、人、通常は、労働者の騒音曝露を評価することを目的とする。このような評価は、通常、個人が受け取る周囲(保護されていない)ノイズレベルと、HPDによる減衰(HPDが装着されている場合)と、の2つの変数の決定を通して行われる。周囲ノイズレベルは、標準的な騒音計を用いて、または、より正確には、個人の身体に装着された線量計を用いて、推定することができる。パーソナルノイズ線量計は音環境が経時的に著しく変化する状況において特に有用であり、その理由は、これらの装置が個人の耳の近くの騒音曝露を追跡することができるからである(それらは通常、肩に装着される)。それにもかかわらず、マイクロホンの位置による影響および騒音測定における着用者の声による影響に関連する問題は、任意のHPDによってもたらされる減衰を説明することができない。さらに、HPDの現場性能を評価するために達成された進歩にもかかわらず、現在の適合試験方法は、依然として、所定の個体に対する特定のHPDによる有効な減衰を把握することを困難にする多くの不確実性に悩まされている。最後に、パーソナルノイズ線量計は周囲ノイズレベルに関する情報を提供するだけであり、したがって、着用者の配置効果および着用者の耳の幾何学的形状における個人間の差異を考慮することができない。同じ周囲ノイズレベルにさらされる様々な人々は、実際に鼓膜で著しく異なる音圧レベル(SPL)を受け取り、所定の人によって受け取られる耳内のSPLは、頭部および身体の向きの関数として変化することもある。また、既存の騒音基準における損傷リスク基準は自由場での測定を参照しているが、難聴のリスクは、鼓膜で受け取られる音圧レベルが直接的に関連すると一般に考えられている。
【0005】
前述の問題に照らして、個人の耳内に直接曝露された騒音を連続的にモニタリングする有望なシステムが出現し始めた。これらのシステムは、HPDによる減衰を考慮しているだけでなく、着用者の配置の影響および各個人の耳の固有の形状にも対応している。しかしながら、現在の耳内雑音線量計(IEND)は、鼓膜におけるデータを直接収集することはできないが、その理由はそれらの特徴的な耳内マイクロホンは、快適さおよび安全性の理由により、通常、鼓膜から一定の距離に維持されるからである。したがって、測定されたSPLを鼓膜に変換するための補正が必要である。マネキンを用いて測定されるような平均補正を使用することができるが、個々の補正係数は、それぞれ異なる外耳道の幾何学的形状を考慮することによって、より良い結果を提供すべきである。さらに、個人騒音曝露測定は、人、通常は労働者の騒音曝露量を評価して、その曝露量が所定の法律の曝露限界に適合することを確実にすることを目的とする。曝露のレベルを監視する1つの方法は、個人の身体に装着される線量計であり、これは、個人の位置で連続的に監視する便利さを提供する。パーソナルノイズ線量計は、勤務シフト中に個人が頻繁に動くことが要求されるとき、または、作業場の音環境がほとんど予測不能であるときに特に有用であり、その理由は、そのような変数が標準的な騒音計による測定には考慮され得ないからである。これらの線量計は、通常、耳の近くの騒音レベルを測定するために着用者の肩に装着される。肩への装着は適切ではあるが、この場所は、マイクロホンの配置の影響、特に指向性のある音場に対しては、必ずしも対向しているとは限らない。また、測定された音圧レベル(SPL)は、着用者の声による影響を受ける場合には、周囲雑音を正しく表さない場合がある。さらに、パーソナルノイズ線量計の精度は、聴覚保護装置(HPD)が装着された場合には損なわれる。実際、周囲の騒音レベルから差し引かれるべきHPDによる減衰は、大きな変動と不確実性を示す可能性がある。HPDの現場性能の評価において達成された進歩にもかかわらず、現在の適合試験法は、測定の不確実性、スペクトル不確実性および適合可変性のような主要な不確実性をはらんでおり、また、HPDの影響を排除することまで考慮できていない。周囲ノイズレベルとHPDによる有効な減衰との両者におけるこのような不確実性は、HPDを装着した所定の労働者がある期間にわたって実際に受けた雑音曝露を、正確に決定することを困難にしている。
【0006】
幾人かは、HPD装着下での個人の騒音曝露を継続的に監視するシステムを開発してきた。しかし、個人が雑音から適切に保護されているかどうかを正確に判定するためには、HPDより下で測定されるSPLが着用者によって発せられる雑音によって著しく影響を受ける可能性があるので、耳内雑音線量計による測定値への自己誘発音の影響を考慮する必要がある。これは、いわゆる閉塞効果(OE)が着用者から発せられるほとんどの音を特に低周波数で増幅させることが知られているため、イヤプラグが着用される場合には、特に当てはまる。着用者誘発障害(WID)と呼ばれるこのような音は、叫ぶこと、話すこと、歌うこと、咳をすること、またはくしゃみをすることに起因するが、咀嚼、歩行、引っ掻き、においを嗅ぐこと、または嚥下に関連する更に柔らかい音もまた、低周囲雑音環境において考慮される必要がある。実際に、中耳およびニューロンレベルの両方で生じる抑制機構に起因して、自己誘発音に固有の難聴のリスクが外部ノイズのリスクよりも少なくなり得ることが、過去の研究により示されている。さらに、OEはイヤホンのコードを軽くたたいたとき、またはコードが何かをかすめたときの擦れ合う大きな音(しばしばマイクロフォニックと呼ばれる)など、測定器具と着用者との間の相互作用から生じる非生理学的雑音を増幅する傾向がある。
【0007】
したがって、特にイヤプラグを着用した場合に個人から生じるノイズを除いて、平均ノイズ曝露を測定する必要がある。さらに、耳内で測定されたSPLを鼓膜における同等のSPLおよび/または同等の自由場SPLに変換する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記および他の目的は、一般に、個人の外耳道の有効な耳内音圧レベルを推定するための方法を提供することによって実現される。
【0009】
本発明の一態様では、個人の外耳道の有効耳内音圧レベルを推定する方法が提供される。この方法は、外耳道より外側の基準耳外音圧レベルを捕捉することと、外耳道内の中間位置での基準耳内音圧レベルを捕捉することと、外耳道が閉塞されていない間に、捕捉された前記基準耳外音圧レベルおよび捕捉された前記基準耳内音圧レベルに従って補正係数を決定することと、外耳道内の中間位置で第1音圧レベルを捕捉し、決定された前記補正係数および捕捉された前記第1音圧レベルに従って前記有効耳内音圧レベルを推定することと、を含む。
【0010】
前記第1音圧レベルは、聴覚保護装置の後方で捕捉されてもよい。前記有効耳内音圧レベルを推定することは、測定された前記第1音圧レベルを自由音場音圧に相当する音圧レベルに変換することであってもよい。前記補正係数は、捕捉された前記基準外耳音圧レベルから捕捉された前記基準耳内音圧レベルを減算することによって計算されてもよい。
【0011】
前記有効耳内音圧レベルを推定することは、捕捉された前記第1音圧レベルを鼓膜音圧に相当するレベルに変換することであってもよい。前記補正係数を決定することは、捕捉された前記基準耳内音圧レベルと捕捉された前記基準耳外音圧レベルとの間の差に従って、所定のフィルタおよび定常波最小周波数を特定することをさらに含んでもよい。
【0012】
本方法は、前記第1音圧レベルの捕捉と同時に、外耳道の外側から第2音圧レベルを捕捉することをさらに含み、捕捉された前記第2音圧レベルに従って、前記有効耳内音圧レベルがさらに推定されてもよい。前記有効耳内音圧レベルを推定することは、捕捉された前記第1音圧レベルおよび前記第2音圧レベルに関連する2つの伝達関数間の平均比を計算することをさらに含んでもよい。2つの伝達関数間の平均比は、所定の最小周波数と所定の最大周波数との間の周波数に対して決定されてもよい。捕捉された前記第1音圧レベルおよび前記第2音圧レベルに関連し得る2つの伝達関数間の平均比は、以下のように定義される。
【数1】
【0013】
前記方法は着用者誘発障害を検出することをさらに含んでもよい、前記有効耳内音圧レベルは、検出された前記着用者誘発障害に従ってさらに推定される。所定の最小周波数と所定の最大周波数との間の周波数において検出された前記着用者誘発障害のノイズレベルに従って、有効耳内音圧レベルがさらに推定されてもよい。検出された着用者誘発害のノイズレベルは、捕捉された前記第1音圧レベルをノイズレベル閾値と比較することによって決定されてもよい。前記有効耳内音圧レベルは、前記着用者誘発障害が検出された場合と、捕捉された前記第1音圧レベルのノイズレベルが前記ノイズレベル閾値よりも低い場合と、に捕捉された前記第2音圧レベルに従って推定されてもよい。
【0014】
前記着用者誘発障害は、捕捉された前記第1音圧レベルと捕捉された前記第2音圧レベルとの間のコヒーレンス関数に従って検出されてもよい。前記着用者誘発障害は、さらに、所定の周波数範囲にわたる前記コヒーレンス関数の平均に従って検出されてもよいし、前記着用者誘発障害は、前記コヒーレンス関数の平均が所定の閾値よりも大きいときに検出されてもよい。前記有効耳内音圧レベルは、検出された前記着用者誘発障害を無視することによって推定されてもよい。前記有効耳内音圧レベルは、捕捉された前記第2音圧レベルおよび推定ノイズ低減に従って推定されてもよい。前記推定ノイズ低減は、前記コヒーレンス関数の平均が閾値よりも低かった場合において、捕捉された前記第1音圧レベルと、捕捉された前記第2音圧レベルと、に応じて決定されてもよい。
【0015】
前記有効耳内音圧レベルは、前記コヒーレンス関数の平均が閾値よりも低かった場合に捕捉された前記第1音圧レベルに従って推定されてもよい。前記着用者誘発障害は、所定の閾値ノイズレベルよりも低いノイズレベルを有してもよいし、所定の閾値ノイズレベルよりも高いノイズレベルを有してもよい。
【0016】
本発明の別の態様では、個人の外耳道からの着用者誘発障害を検出する方法が提供される。この方法は、外耳道の中間位置における第1音圧レベルを捕捉することと、外耳道より外側の第2音圧レベルを前記第1音圧レベルと同時に捕捉することと、捕捉された前記第1音圧レベルと捕捉された前記第2音圧レベルとの間のコヒーレンス関数に従って前記着用者誘発障害を検出することと、を含む。
【0017】
前記着用者誘発障害は、所定の周波数範囲にわたる前記コヒーレンス関数の平均に従って検出されてもよいし、前記コヒーレンス関数の平均が閾値よりも大きいときに検出されてもよい。前記所定の周波数範囲にわたる前記コヒーレンス関数の平均は、以下のように決定されてもよい。
【数2】
【0018】
前記所定の周波数範囲は500Hz~2000Hzの間であってもよいし、500Hzから1500Hzの間であってもよいし、500Hz~1000Hzの間であってもよい。
【0019】
この方法は、さらに、捕捉された前記第1音圧レベルに従って、検出された前記着用者誘発障害のタイプを特定することを含んでもよい。検出された前記着用者誘発障害は、捕捉された前記第1音圧レベルが所定のノイズ閾値レベルを下回る場合には低レベルノイズとして、捕捉された第1音圧レベルが前記所定のノイズ閾値レベルを上回る場合には高レベルノイズとして特定されてもよい。前記所定のノイズ閾値レベルは、70dBから85dBの間のノイズレベルであってもよいし、75dBのノイズレベルであってもよい。
【0020】
低レベルノイズとして特定され得る、検出された前記着用者誘発障害は、生理学的雑音であり、高レベルノイズとして特定され得る、検出された前記着用者誘発障害は、発話である。
【0021】
本発明のさらに別の態様では、個人の外耳道からの有効音圧レベルを測定するためのイヤホンシステムを構成するイヤホンが提供される。イヤホンは、外耳道に嵌まるように形成された管嵌合部分を有する基部と、外耳道の入口位置における外耳音圧を測定するために前記基部上に配置された外耳マイクロホンであって、外耳道の入口位置で外耳音圧を捕捉し、前記外耳音圧を変換モジュールに送信するように構成されている外耳マイクロホンと、を備える。イヤホンは、さらに、外耳道の中間位置における内耳音圧を測定するために前記基部上に配置された内耳マイクロホンであって、外耳道の中間位置で内耳音圧を捕捉し、前記内耳音圧を前記変換モジュールに送信するように構成されている内耳マイクロホンを備える。イヤホンは、さらに、較正導管を画定する係合部分であって、前記較正導管は、周囲から音波が係合部分を通って外耳道へ通過するように構成される係合部分を備える。
【0022】
管嵌合部分は、イヤプラグであってもよい。
【0023】
前記較正導管は、取り外し可能なカバーで密封可能であってもよい。前記較正導管は、前記イヤホンの較正中に密封されず、前記イヤホンでの測定中に密封されてもよい。前記イヤホンは、前記取り外し可能なカバーを作動させるための枢動可能レバーをさらに備えてもよい。
【0024】
前記変換モジュールは、前記外耳音圧および前記内耳音圧に従って補正係数を計算するように構成されてもよい。前記内耳マイクロホンは、前記補正係数に従って較正されてもよい。前記変換モジュールは、前記内耳音圧および前記補正係数に応じて有効音圧レベルを算出してもよい。前記有効音圧レベルは、自由音場音圧に相当する音圧レベルであってもよいし、鼓膜音圧に相当する音圧レベルであってもよい。
【0025】
前記変換モジュールは、前記内耳音圧および前記外耳音圧に従って、着用者誘発障害を検出するように構成されてもよい。変換モジュールは、外耳音圧レベルおよび内耳音圧レベルに応じた補正係数を計算するように構成されてもよいし、前記着用者誘発障害が検出されない場合に、測定された前記内耳音圧および前記補正係数に従って前記有効音圧レベルを計算するようにさらに構成されてもよい。
【0026】
本発明の別の態様では、個人が所定の期間にわたって曝露される累積音圧レベル用量を決定するための、有効音圧レベルを測定するイヤホンの使用が提供される。
【0027】
新規であると考えられる本発明の特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】一実施形態として、イヤプラグによって耳が閉塞されたときの、外耳道内にて特定された音圧測定位置が示された外耳道の断面図を示す。
【
図2】一実施形態として、耳が開放されているかまたは閉塞されていないときの、外耳道内にて特定された音圧測定位置が示された外耳道の断面図を示す。
【
図3A】一実施形態として、較正することができる線量測定イヤプラグまたは閉塞イヤホンの斜視図を示す。
【
図3B】一実施形態として、自動較正可能であり
図3Aの線量測定イヤプラグを較正するために使用することができる開放イヤホンの斜視図である。
【
図3C】一実施形態として、
図3Bの開放イヤホンの斜視図および
図3Aの閉塞イヤホンの斜視図を示し、イヤホンはイヤホンの挿入深さを制御するために、耳当接部材を有する。
【
図3D】一実施形態として、イヤホンの自動較正を可能にする取り外し可能なカバーを備えた密封可能な導管を有する閉塞イヤホンの斜視図を示す。
【
図3E】一実施形態として、イヤホンの自動較正を可能にするために、導管を覆う取り外し可能なカバーを移動させるために枢動可能な部材を有する閉塞イヤホンの斜視図を示す。
【
図3F】一実施形態として、外耳道に挿入されるイヤプラグなどの閉塞イヤホンの断面図を示し、閉塞イヤホンは、外耳道内の音レベルを測定するための内耳マイクロホンと、外耳道の入口の音レベルを測定するための外耳マイクロホンと、イヤホンの自動較正を可能にする密封可能な開口と、を有する。
【
図4A】一実施形態として、
図3A~3Fのイヤホンを較正し、有効耳内音圧レベル測定を提供するためのシステムを示す。
【
図4B】外耳道の中間位置から捕捉された音圧レベル測定値に基づいて相当の自由音場音圧レベルを推定する方法を示す。
【
図5】10人の個人から得られた音レベル測定値のグラフを示し、測定値は、それぞれの個人について、鼓膜付近で測定された音レベルと、閉塞していない耳の外耳道入口(Lp3-Lp2)から10ミリメートル(10mm)の外耳道内で測定された音レベルとの間で計算された差異を示す。
【
図6】測定値(Lp3-Lp2)が周波数によって大きく変化しピークに達する周波数領域に着目した
図5の音レベル測定を示す。
【
図7】特定の周波数領域における関数Lp1-Lp2およびLp3-Lp2に従って、個々の耳からの音レベル測定値を示している。Lp1の音レベル測定は外耳道の入口で行われ、Lp2の音レベル測定はLp1の位置から8mm離れた位置の外耳道内で行われ、Lp3の音レベル測定は鼓膜近傍で行われる。
【
図8】
図8は、外耳道の中間位置から捕捉された音圧レベル測定値に基づいて、相当の鼓膜音圧レベルを推定する方法を示す。
【
図9】一実施形態として、着用者誘発障害(WID)を検出するための方法を示す。
【
図10】個人が強い雑音環境中で話している間のデルタ(Δ)値またはDBで表される検出可能な事象のグラフを示す。
【
図11】一実施形態として、WID検出を考慮した有効耳内音圧レベル測定を提供するために、
図3A~
図3Fのイヤホンを較正してWIDを検出するように適応させたシステムを示す。
【
図12A】一実施形態として、外耳道から捕捉された音圧測定を、相当の自由音場音圧レベルに、または、相当の鼓膜音圧レベルに変換するための方法を示す。
【
図12B】一実施形態として、外耳道から捕捉された音圧測定を、相当の自由音場音圧レベルに、または、相当の鼓膜音圧レベルに変換するための方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
イヤプラグを装着した状態もしくはイヤプラグを装着していない状態で、耳内有効音曝露を測定し、着用者誘発障害を決定するための方法とシステムを以下に説明する。本発明は特定の例示的な実施形態に関して記載されているが、本明細書に記載されている実施形態は単に例としてのものであり、本発明の範囲はそれによって限定されることを意図していないことを理解されたい。
【0030】
耳栓(例えば、閉塞した耳)のような聴覚保護装置(HPD)を装着した状態で、または、HPD(例えば、閉塞していない耳)を装着していない状態で、耳内有効音レベル曝露を較正し、測定する方法およびシステムを以下に説明する。システムおよび方法は特定の例示的な実施形態に関して説明されるが、本明細書で説明される実施形態は単に例としてであり、デバイスおよび方法の範囲はそれによって限定されることを意図されないことを理解されたい。
【0031】
図1を参照すると、一実施形態として、耳栓21などによって、閉塞された耳10の外耳道12内の音圧を測定するために使用される位置の概略図が示されている。Lp'2は閉塞された外耳道12内の中間位置2における音圧レベルであり、Lp'3は、外耳道12が閉塞されたときの鼓膜14(例えば鼓膜位置3)における音圧レベルである。HPDを装着した状態における耳内有効音レベル曝露は、Lp'3における音圧レベルであるが、鼓膜位置3に到達しやすくないため、Lp'3の測定は困難である。さらに、鼓膜位置3の近くにプローブを配置することは、鼓膜を傷つける可能性があり、また、着用者を非常に不快にさせる可能性もある。
【0032】
さらに、聴覚健康基準は、通常、自由音場音圧レベルでの音圧レベル曝露を表す。自由音場音圧レベルは、外耳道より外側で測定した音圧レベルである。したがって、外耳道内で測定された音圧レベルを聴覚健康基準と適切に比較するために、その音圧レベルは、自由場音圧レベルに変換されなければならない。
【0033】
一実施形態によれば、鼓膜Lp'3における音圧レベルは、HPDを装着した状態で、閉塞した外耳道12の中間位置2における音圧レベルLp'2を測定し、鼓膜補正係数TP-CORRをLp'2に適用することによって推定される。鼓膜補正係数TP-CORRは開放耳または閉塞していない耳(例えば、HPDが装着されていない耳)において得られる音圧レベル測定に従って決定される。
【0034】
別の実施形態によれば、鼓膜Lp'3における音圧レベルは、HPDを装着した状態で、閉塞した外耳道12の中間位置2における音圧レベルLp'2を測定し、自由場補正係数FF-CORRをLp'2に適用することによって推定される。自由場補正係数FF-CORRは、開放耳または閉塞していない耳(例えば、HPDが装着されていない耳)において得られる音圧レベル測定に従って決定される。
【0035】
図2には、一実施形態として、開放耳10における外耳道12内の音圧を測定するために使用される位置の概略図が示されている。Lp1は、開放されている外耳道12の外耳道入口位置1における音圧レベルである。Lp2は、開放されている外耳道12の中間位置2における音圧レベルであり、Lp3は、開放されている外耳道12の鼓膜位置3における音圧レベルである。Lpは、頭部のほぼ中央に位置するが、あたかも頭部の中央が空いているかのような、人体の中身がない場合の、中央の頭部位置0における音圧レベルである。
【0036】
図4に示すように、一実施形態によると、「自由音場」音圧レベルまたは「鼓膜」音圧レベルを推定するシステム40がある。システム40は、変換モジュール42および推定器44を有する。例えば、変換モジュールが、
図3Aのイヤホン20から少なくともIEM24を受信し、IEM24を、自由音場音圧レベルに相当する「自由音場」音圧レベルに、または、鼓膜音圧レベルに相当する「鼓膜」音圧レベルに変換するように構成される。次に、「自由音場」音圧レベルまたは「鼓膜」音圧レベルは、推定器44によって処理され、ある期間にわたって着用者の騒音曝露線量を推定する。変換モジュール42は、予め取得したIEM24'音圧レベル測定値およびOEM22'音圧レベル測定値(例えば、開放イヤホン20'を用いて取得される)に従って、自由音場音圧に相当する音圧レベルまたは鼓膜音圧に相当する音圧レベルを計算する。一実施形態によれば、システム40は、IEM24'測定値及びOEM22'測定値を受信するように構成された較正モジュール46を有する。IEM24'の測定値およびOEM22'の測定値に従って、較正モジュール46は、所望の補正係数に応じて、自由場補正係数または鼓膜補正係数を計算する。次に、計算された補正係数は、変換モジュール42に用いられ、IEM24の測定値を、相当の「自由場」音圧レベルLpまたは相当の「鼓膜」音圧レベルLp'3.に変換する。
【0037】
図4のIEM24は、
図3Bに示すように、開放型イヤホン20'のIEM24'であってもよいことを理解されたい。同じ補正係数FF-CORRまたはTP-CORRを適用して、測定値を相当の「自由場」音圧レベルLpまたは相当の「鼓膜」音圧レベルLp3に変換する。
【0038】
補正係数CORRという語は、自由場補正係数FF-CORRまたは鼓膜補正係数TP-CORRのいずれか一方を示すために使用されることに留意されたい。
【0039】
(各種イヤホン)
図3A~3Fは、様々なタイプのイヤホンを示す。各イヤホン20、20'及び20"は、外耳マイクロホン(OEM)22及び内耳マイクロホン(IEM)24を有する。
【0040】
一実施形態によれば、
図3Aのイヤホン20は、イヤプラグ21などのHPDを有する。外耳および内耳の音圧レベル(Lp'1およびLp'2)は、それぞれマイクロホン22および24によって捕捉される。イヤホン20は、測定されたLp'2に補正係数CORRを適用することによって、閉塞した耳のようなイヤプラグ21を装着した状態での有効耳内音曝露を測定することを可能にする。外部マイクロホン22は、外耳道入口のような、外耳道の外側の音圧を捕捉することを可能にする。IEM24は、管またはマイクロホンプローブ25に接続されて、中間位置2など外耳道の所定の点または深さで、イヤプラグ21を装着した状態での外耳道内の音圧を捕捉する。一実施形態によれば、イヤプラグ21は、イヤプラグ21の一方の端部から他方の端部にマイクロホンプローブ25を挿入することができるように調整通路31を画定する。イヤホン20は、
図3Bの開放イヤホン20'のようなHPDを有しないイヤホンのマイクロホン22'および24'によって捕捉される音圧に従って較正される。較正は、測定された耳内音圧レベルを相当の「自由場」(Lp)音圧レベルおよび/または相当の「鼓膜」(Lp3)音圧レベルに変換するために、IEM24によって測定された様々なレベルの音圧に適用する補正を決定することを可能にする。
【0041】
調整通路31は、イヤプラグ21による減衰を損なうことなく、または、イヤプラグ21による減衰を実質的に損なうことなく、外耳道内で捕捉された音圧をIEM24に伝達することが可能なように構成される限り、任意の形または形態を有することができることを認識されたい。
【0042】
さらに、IEM24はマイクロホンプローブ25を必要とせずに外耳道内の音圧を直接捕捉するように、イヤプラグ21の先端に配置されるのに十分に小さい小型IEM24であってもよいことを理解されたい。この場合、調整通路31は、捕捉された音圧を示す信号をプロセッサに伝送するためのワイヤが通過可能な形状であってもよい。小型IEM24が捕捉された音圧を示す信号をプロセッサに無線で送信するように構成されている場合、調整通路31は、完全に排除されてもよいことに留意されたい。
【0043】
一実施形態によれば、
図3Bのイヤホン20'は、HPDを有さず、閉塞されていない耳における有効な耳内音曝露を測定することを可能にする。イヤホン20'は、外耳道内に導入されるように形成されたガイド29を有し、周囲の音波が妨害されることなく外耳道内を通過することを可能にする通路33を画定する。OEM22'は、通路33の入口(例えば、外耳道の入口)で、外耳道の外側の音圧を捕捉することを可能にする。IEM24'は、通路33を軸方向に通過するよう構成されているマイクロホンプローブ25に接続され、決められた点又は深さで外耳道内の音圧を捕捉する。
【0044】
OEM22'及びIEM24'によって測定される様々な音レベルは、
図3Aのイヤホン20だけでなく、開放イヤホン20'自体の較正を可能にし得ることに留意されたい。較正は、測定された耳内音圧レベルを相当の「自由場」(Lp)音圧レベルおよび/または相当の「鼓膜」(Lp3)音圧レベルに変換するために、IEM24'によって測定された様々なレベルの音圧に適用する補正を決定することを可能にする。
【0045】
一実施形態によれば、
図3Cに示されているように、
図3Aの閉塞イヤホン20および
図3Bの開放イヤホン20'は、イヤホン20および20'が同じ深さで外耳道に挿入可能であることを確実にするために、または、
図1および
図2に示されるように、イヤホン20およびイヤホン20'のIEM24および24'が同じ中間位置2に配置されることを少なくとも確実にするために、当接部材30を有する。
【0046】
図3Dに示される別の実施形態によれば、イヤプラグ21のようなHPDを有するイヤホン20"がある。イヤホン20"は、外耳道入口位置1におけるような、外耳道の外側の音圧を捕捉するよう構成されたOEM22"を有する。イヤホンはチューブまたはマイクロホンプローブ25に接続されたIEM24"も有する。IEM24''は、外耳道の所定の深さで、イヤプラグ21の直下または後方での外耳道内の音圧を捕捉することを可能にする。一実施形態によれば、イヤプラグ21は、マイクロホンプローブ25の挿入とイヤプラグ21の一方の端部から他方の端部への密封が可能な導管23の挿入とを可能にする調整通路31を形成する。密封可能な導管23は、取り外し可能なカバー26によって密封することができる。導管23が開放しているとき、導管23は、イヤプラグ21後方の空気伝導を介して、外耳道に向かって音波の通過を可能にする。導管23が密封されると、外部雑音はイヤプラグ21によって減衰される。一実施形態によれば、イヤホン20"は少なくとも2つの機能モードを有し、第1のモードは、導管23が開放しているとともにカバー26が取り外されているときに実行され得る較正モードである。較正モードにあるとき、イヤホン20"は、以下に説明するように、測定された耳内音圧レベルを相当の「自由音場」(Lp)音圧レベル及び/又は相当の「鼓膜」(Lp3)音圧レベルに変換するために、IEM24"又は
図3AのIEM24によって測定された様々な音圧レベルに適用すべき補正係数CORRを決定することを可能にする。
【0047】
第2のモードは、導管23がカバー26によって密封されているときに実行できる測定モードである。測定モードにあるとき、イヤホン20"は、IEM24"および決定された補正係数CORRによって提供される音圧レベル測定値に従って、イヤプラグ21の下で、外耳道内の有効な音曝露を決定することを可能にする。
【0048】
調整通路31は外耳道内にて捕捉された音圧をIEM24"に伝達することを可能にし、かつ、イヤプラグ21の減衰を損なうことなく、または、密封可能な音通路が閉じられたときに、イヤプラグ21の減衰を実質的に損なうことなく、密封可能な音の通路を提供することができる限り、任意の形状または形態を有することができることを認識されたい。
【0049】
さらに、IEM24''は、マイクロホンプローブ25を必要とせずに、外耳道内の所望の深さで音圧を直接捕捉するように配置されるのに十分に小さい小型IEM24''であってもよいことに留意されたい。この場合、調整通路31は、捕捉された音圧を示す信号をプロセッサに送信するためのワイヤの通過を可能にするように形成されてもよい。小型IEM24''が捕捉された音圧を示す信号をプロセッサに無線で送信するように構成された場合、調整通路31は、単に密封可能な音の通路として形成されるか、または、単に密封可能な導管23を通過させるように形成されることに留意されたい。
【0050】
少なくとも1つの実施形態によれば、
図3Bのイヤホン20'は、開放されている外耳道12内の音圧を測定するように構成される。OEM22'は、外耳道入口位置1における音圧レベルを測定するための短いマイクロホンプローブ27を有する。IEM24'もまたマイクロホンプローブ25を有する。しかしながら、マイクロホンプローブ25は、中間位置2での音圧測定を可能にするために、短いマイクロホンプローブ27よりも長い。音圧レベルLp3は、補正係数CORRによる適切な較正または適切な推定を用いて、音圧レベルLp1およびLp2に基づいて推定されるので、鼓膜位置3などの鼓膜における音圧を測定するために必要なマイクロホンはない。
【0051】
(自由場補正係数FF-CORRの決定)
自由音場補正係数FF-CORRは、耳内音圧レベル測定値を相当の自由音場音圧レベルに変換することを可能にする。本解決策のシステムと方法は、測定された耳内音圧レベルを相当の「自由音場」(Lp)音圧レベルに変換するために必要な音補正を特定することを試みる。
【0052】
特定するための音補正の1つに、マイクロホンから鼓膜への補正(MEC)がある。
図1を参照して、外耳道が閉塞された場合に、MECは、測定された音圧レベル(Lp'2)を鼓膜の音圧レベル(Lp'3)に変換しようとする。Lp'2とLp'3の関係は、次式で表される。
【数3】
【0053】
特定するための音補正の別の1つは、開放耳の伝達関数(TFOE)である。
図2を参照して、TFOEによる音補正は、開放耳内の鼓膜音圧レベル(Lp3)を自由音場音圧レベル(Lp)に関連付ける。この関係は、次式で表される。
【数4】
【0054】
補正係数CORRは、外耳道内のイヤプラグ21の下で測定された音圧レベル(Lp'2)を、
図1、3Aおよび3B~3Fに示されるような相当の自由場音圧レベル(Lp)に変換するために、MECおよびTFOEを参照して決定される。補正係数CORRは、MECとTFOEとの和である。
【数5】
【数6】
【0055】
本方法の一実施形態によれば、中間位置2及び鼓膜位置3おける鼓膜の方向への音響インピーダンスは、イヤプラグ21の存在に影響されない。言い換えると、測定された音圧レベルLp’2、Lp2、測定された音圧レベルLp’3、Lp3に関する伝達関数は、
図1に示されている閉塞された耳または
図2に示されている開放された耳の場合とほぼ同じか、または、実質的に同じである。中間位置2および耳の位置3で測定された音圧レベルの差は、閉塞された耳または開放された耳において、次の式で示されているように、実質的には同じである。
【数7】
【0056】
そのため、補正係数CORRはLp-Lp2で表すことができる。
【数8】
【数9】
【数10】
【0057】
外耳道入口位置1で測定された音圧と、外耳道内の任意の点で測定された音圧と、の間の比率は、開放または閉塞された耳(すなわち、Lp'2;Lp2またはLp'3;Lp3)であっても、通常、外部雑音の入射方向とは無関係である。
【0058】
図4Bに示されているように、IEM24またはIEM24'によって提供される音圧測定を参照して、相当の自由音場音圧レベルを推定する方法50がある。方法50は、着用者51の近傍に音場を生成するステップと、中間位置2(Lp2又はLp2')で第1の音圧52を測定するステップと、音場が存在する状態で位置x(Lpx)で別の音圧53を測定するステップと、を含む。
図2に示されるように、位置xは外耳道の外側、外耳道の外耳道入口位置1、または、外耳道入口位置1と中間位置2との間に位置する任意の位置のような中間位置2の上流のいずれかに位置する。方法50は、さらに、音があるときに、位置2(基準Lp2)で開放された耳における基準音圧レベル54を測定し、基準Lp2とLpx(すなわち基準Lp2-Lpx)との差55を計算する。方法50は、さらに、計算された差分を第1音圧レベル(Lp2またはLp2')に適用し、自由場音圧と同等の音圧レベルを推定すること57を含む。
【0059】
図12Aに示されるように、一実施形態によれば、測定された音圧レベル(Lp2)または(Lp2')を、相当の自由音場音圧レベルに変換する方法120がある。方法120は、自由音場補正係数を決定すること122、次いで、音圧レベル(Lp2)または(Lp2')を測定すること123、測定値(Lp2)または(Lp2')を同等の自由音場音圧レベルに変換すること124を含む。
【0060】
(鼓膜補正係数TP-CORRの決定)
鼓膜補正係数TP-CORRは、イヤプラグ下で測定が行われるときに開放イヤホンまたはLp3’によって測定が行われる場合、耳内音圧レベル測定値を相当の鼓膜音圧レベルLp3に変換することを可能にする。
【0061】
一実施形態によれば、耳内線量測定のために適合された較正方法が示される。この手法は、鼓膜における音圧レベルを決定するために、関数Lp3-Lp2を特定することを含む。通常、この方法では、Lp2などの外耳道内の音量を測定し、Lp3-Lp2関数を適用してLp3といった対応する音圧値を決定することができる。
【0062】
図5には、10人の様々な個人で測定されたLp3とLp2との間の差を示すグラフが示される。Lp2は、開放されている耳(閉塞されていない耳)の外耳道入口から10ミリメートルの深さで測定される。Lp3-Lp2間の差は、様々な周波数において存在する。気づくことができるように、4500Hzと8000Hzの間でdBの最大差が観測される。最大差の周波数位置は、
図2に示すように、Lp2とLp3の測定位置の間の距離によって異なる。Lp3とLp2の間の差は、中間位置2と鼓膜位置3とを隔てる外耳道の長さによって異なることに留意されたい。
【0063】
図6は、最大差(Lp3-Lp2)が測定される周波数における個々の曲線の重なり(重ね合わせ)を示す。点線カーブは、1/12オクターブバンド周波数で表された重なり合った曲線の平均値を示す。一実施形態によれば、点線カーブは、Lp3を決定するために使用されるフィルタ62である。
【0064】
当業者は、別のグループの個人またはより大きなグループの個人に基づいた同様の分析の後に、他のフィルタが抽出され得ることを認識する。フィルタは、分析した個人の外耳道における形態学的パラメータに応じて若干異なる可能性がある。形態学的パラメータは、外耳道の長さ、外耳道の幾何学的形状、耳垢の存在、鼓膜インピーダンスなどを含むことができる。
【0065】
本手法の一実施形態によれば、Lp3とLp2との差は、外耳道における2つの隔てられた位置で取得された音圧計測値に従って推定される。例えば、Lp3とLp2の差は、
図2に示すように、中間位置2で取得される第1の測定Lp2と、外耳道の外耳道入口位置1、外耳道入口位置1と耳内位置2との間の位置、または、外耳道12から完全に外側の位置といったような第1の測定位置から上流の任意の位置で取得される第2の測定Lpxと、に従って推定される。Lp2とLpxまたは(Lp2-Lpx)の差により、定常波の最小値または定常波の最大値(差がLpx-Lp2と表現されている場合)を特定することが可能となる。定常波の最小値は、典型的には、外耳道12内の入射波と反射波との重なりによって引き起こされる。定常波の最小値の周波数は、典型的には、鼓膜14と、Lp2を測定するために使用される中間位置2と、の間の距離に依存し、探索されるLp3-Lp2関数に対応する最大差の周波数と同一であるか、少なくとも類似している。その結果、差分Lp2-Lpxを使用して、Lp3とLp2(すなわちLp3-Lp2関数)の最大差分に対応する周波数を推定することができる。
【0066】
例えば、
図7は、曲線74として識別される関数Lp1-Lp2と、Lp2が8mmの外耳道深度で測定されるとともにLp1が外耳道入口で測定された同一個人で測定された曲線72として識別される関数Lp3-Lp2とを含むグラフ70を示す。曲線74によって示されるように、関数Lp1-Lp2の定常波の最小は5600Hz付近にあり、曲線72によって示されるように、Lp3とLp2との間の最大差は、5600Hz付近にある周波数に対応する。
【0067】
ここで、
図8を参照すると、Lp2およびLpxを参照して鼓膜における音レベルを推定するために、Lp3-Lp2関数を決定するための方法80がある。この方法は、着用者の近傍で音場を生成すること82と、中間位置2で第1の音圧を測定すること84と、音場が存在する位置xで第2の音圧を測定すること85と、を含む。位置xは、
図2に示すように、外耳道の外、外耳道の外耳道入口位置1、または外耳道入口位置1と中間位置2との間に位置する任意の位置のような中間位置2の上流のいずれかに位置する。この方法は、Lp2とLpx(すなわちLp2-Lpx)との間の差分を計算すること86をさらに含む。この方法は、Lp2とLpxとの間の差分に従って定常波の最小値に対応する周波数を特定すること88をさらに含む。この方法は、特定された周波数に従ってLp3-Lp2を推定すること89をさらに含む。
【0068】
生成される音場82は、着用者の方へ向けられるスピーカのような音源によって生成される音場であり、好ましくは、典型的な50Hz~10kHzの周波数範囲のような、対象とする周波数範囲における全ての周波数をカバーまたは掃引する音場である。さらに、音場の音レベルは、十分に高くなければならず、呼吸音レベル、心拍音レベルなど、着用者によって通常生成される生理学的雑音の音レベルよりも大きくてもよい。一実施形態によれば、音場はホワイトノイズである。別の実施形態によれば、音場はサインスイープである。
【0069】
第1の音圧は、中間位置2または2'で測定され(84)、好ましくは鼓膜と外耳道入口との間の中間で、または、外耳道入口から任意の所定の深さで測定される。第2の音圧が測定される(105)ことは、音源と着用者の頭部との間の位置で測定されることが好ましい。この第2の音圧測定は、着用者の存在下または不在下で行うことができることに留意されたい。
【0070】
Lp2とLpxの差分は、デシベルで表される圧力比Lp2/Lpxを計算することによって計算することができる(86)。
【0071】
一実施形態によれば、Lp3とLp2との差分の推定89は、
図6のグラフ中の点線曲線として描かれたフィルタのような所定の平均フィルタに従って実行される。フィルタは通常、幾人かの個人に対して実行された測定に従って確立される。所定の平均フィルタは、特定された定常波の最小値88に対応する最大値を実質的に有するように、理想的には周波数的に中心に配置されるべきである。
【0072】
一実施形態によれば、方法80は
図3Bのイヤホン20'などの「開放」線量測定イヤホンを使用することによって、イヤホンを較正することを可能にする。理解できるように、イヤホン20'は、減衰を提供せず、補正Lp3-Lp2は外耳道内で測定された音圧レベルを所定の着用者の鼓膜における音圧レベルに変換することを可能にする。「開放」線量測定イヤホン20'が中間位置2で音圧を測定するように適合されたIEM24'を有することを考慮すると、イヤホン20のIEM24が感覚的に同じ中間位置2で音圧を測定するので、例えば、推定された補正Lp3-Lp2は、
図3Aの閉塞イヤホン20のIEM24によって提供される音圧測定値に適用することができる。
【0073】
別の実施形態によれば、OEM22''と、IEM24''と、較正モードで使用されるときに開かれ、線量測定モードで使用されるときに閉じることができる密封可能な導管23と、を有するイヤプラグ21が着用者に減衰を提供するように構成された線量測定イヤホン20''を用いることによって、較正方法80は実行される。密封可能な導管23は、取り外し可能なカバー26によって密封される。それによって、イヤホン20''を取り外すことなく較正を実行することができ、較正はオンザフライまたはリアルタイムで実行することができる。さらに、中間位置2と鼓膜位置3との間の間隔は、較正中並びに線量測定中に同じであることが保証され、IEM測定に適用される補正関数Lp3-Lp2は、線量測定を実行しながら正確であることが保証される。
【0074】
一実施形態によれば、
図12Bに示されるように、測定された音圧レベル(Lp2)または(Lp2')を相当の鼓膜音圧レベルに変換する方法121がある。方法121は、鼓膜補正係数を決定すること125、次いで、音圧レベル(Lp2)または(Lp2')を測定すること126、測定された音圧レベル(Lp2)または(Lp2')を相当の鼓膜音圧レベルに変換すること127を含む。
【0075】
(着用者誘発障害(WID)の決定)
図1のように耳が閉塞されると、音圧レベルは、発話、咳、咀嚼、歩行騒音などの着用者または使用者自身による騒音が発生するときに、かなり増加し得る。このようなノイズは、着用者誘発障害(WID)と呼ばれる。あぶみ骨筋反射のようなある種の音響反射は、人間の耳が自分自身によって生成される騒音から自分自身を保護することを可能にすると考えられている。したがって、HPD下のノイズ線量を測定する際に、着用者自身によって生成される音の寄与と、周囲で生成される音の寄与とを分離できることが重要である。残念ながら、従来の耳内線量測定装置は、周囲で生成された音からWIDを分離することができない。
【0076】
一実施形態によれば、本方法およびシステムは、着用者によって生成されるノイズ(WID)を区別することを可能にする。
図3Aのイヤホン20のようなイヤホンのIEM24は、着用者が曝されるノイズ線量を測定するように構成されるが、ノイズの起源に応じて、IEM24によって提供される測定値はノイズ曝露の正確な評価を提供するために無視することができる。雑音の原因は、着用者誘発雑音(WID)または環境雑音のいずれかであり得るとともに、OEM22およびIEM24によって提供される測定値に従って特定される。いくつかの実施形態では、システムは、OEM22測定値とIEM24測定値とを比較することによって、着用者によって生成される雑音を検出するように構成される。比較は、リアルタイムで、もしくは、OEM22およびIEM24によって提供される測定値を記録した後に、実行することができる。しかし、WIDの検出は、様々な検出方法に従って行うことができることに留意されたい。
【0077】
(WIDを検出する第1の方法)
一実施形態によれば、イヤホン20は、OEMおよびIEM測定値をデジタル信号プロセッサ(DSP)などのプロセッサに転送するように構成される。プロセッサは、以下の方法に従ってOEM22およびIEM24によって捕捉された信号を比較し、処理することが可能である。
【0078】
一般に、WID検出法40の一実施形態によれば、OEM22およびIEM24によって捕捉された信号に従って2つの伝達関数H1およびH2が決定され(42)、2つの伝達関数に従って検出値Δが計算され(44)、検出値ΔがWID検出しきい値Δsと比較され(46)、WIDを検出する(48)。
【0079】
2つの伝達関数H1およびH2は、OEM22によって捕捉された信号およびIEM24によって捕捉された信号に従って決定される。例えば、伝達関数H1およびH2は、OEM22およびIEM24によって提供される2つの計測値間のインタースペクトルGxyに従って決定される。伝達関数H1およびH2は、さらに、OEM22によって測定された外部信号およびIEM24によって測定された内部信号のオートスペクトルGxxおよびGyyに従って決定される。
【0080】
【0081】
検出値Δは、fminとfmaxの間の周波数における伝達関数H1とH2との間の平均比率(dB単位)に従って計算される。検出値Δは、所定時間、例えば1秒間計算されることに留意されたい。例えば、検出値Δは、以下の式を用いて算出される。
【数12】
Nは周波数帯域を示す数値である。
【0082】
WID検出閾値Δsは、それを超えると、OEM22およびIEM24による対応した測定信号が発話などのWIDによって乱されていると見なされる検出値Δを示す。検出値Δが検出閾値Δs(Δ<Δs)を下回ると、この方法では、WIDは存在しないとみなす。検出値Δが検出閾値Δsより大きい場合(Δ>Δs)、この方法40ではWIDを検出する。
【0083】
一実施形態によれば、方法40は、49のノイズの種類をさらに検証するか、または、着用者由来のノイズレベルを起源とするWIDが高または低であるかを確認する。着用者由来のノイズレベルが低い場合、方法40は、OEM22によって測定された信号がWIDによって影響を受けないことを決定することができるとともに、耳内ノイズレベルを推定するために用いることができる。例えば、生理学的雑音タイプ(例えば、嚥下、咀嚼、心拍、呼吸など)は、一般に、低いノイズレベルを生成し、OEM22によって測定される信号に影響を与えない。
【0084】
検出値Δに影響を及ぼすノイズの種類を決定するために、ノイズレベル閾値Lpsが定義される。この閾値Lpsは、例えば、着用者が話しているとき、または、話していないときに測定される測定値間の音圧レベル比較に基づいて決定することができる。閾値Lpsは、OEM22またはIEM24によって捕捉される音圧レベルに対して定義することができる。以下の表は、一実施形態において、着用者によって生成された発話を検出するために使用される決定プロセスの一例を示す。
【0085】
【0086】
この判定過程によれば、Δ>Δs及びLp'2>Lpsである場合、方法40は、高レベルノイズWIDを検出し、OEM22及びIEM24によって測定された信号を無視する。
Δ>ΔsおよびLp'2<Lpsである場合、低レベルノイズWIDが検出され、方法40は、IEM24によって測定された信号のみを無視するとともに、OEM22信号を用いて耳内ノイズレベルを推定することができる。しかしながら、Δ<Δsの場合、WIDは検出されず、IEM24によって測定された信号は、耳内ノイズレベルの推定のために使用され得る。
【0087】
一実施形態によれば、方法40は、さらに、着用者の音曝露レベルLpexpを決定するように構成される。音曝露レベルLpexpは、Δ<Δsおよび/またはLp'2<Lpsの場合など、高レベルノイズWIDがない場合に捕捉される任意の耳内雑音曝露レベルである。
【0088】
いくつかの方法でLpexpレベルを計算することができる。ある実施形態では、LpexpがIEM24によるオートスペクトル測定に基づいて計算される。このとき、Lpexpレベルは次式に従って決定される。
【数13】
【0089】
他の実施形態では、Lpexpレベルは、IEM24の相関力に基づいて計算される。このとき、Lpexpレベルは次式に従って決定される。
【数14】
【数15】
【0090】
OEM24と比較したIEM24の相関力に基づくLpexpの計算は、Δ>Δsおよび/またはLp'2<Lpsである場合のような非相関ノイズの影響を除外または少なくとも低減することを可能にする。非相関ノイズは、OEM22によって捕捉されるノイズに非常に低い影響を持つ捕捉ノイズである。実際、非相関ノイズは、典型的には、呼吸、嚥下、くしゃみ、さらには歩行、衣服上のワイヤの擦れ、または顔面接触を伴う運動など、着用者によって生成される生理学的ノイズである。
【0091】
一実施形態によれば、イヤホン20は、OEMおよびIEM測定値をデジタル信号プロセッサ(DSP)などのプロセッサに転送するように構成される。プロセッサは、以下の方法に従って、OEM22およびIEM24によって捕捉された信号を比較し、処理することを可能にする。
【0092】
(WIDを検出する第2の方法)
別の実施形態では、特定の周波数における2つの信号の間の相関がコヒーレンス関数γ2である。以下のように定義される。
【数16】
Soo(f)は、OEM22によって測定された時間信号o(t)のオートスペクトルであり、Sii(f)は、IEM24によって測定された時間信号i(t)のオートスペクトルであり、Soi(f)は、2つの信号o(t)とi(t)との間のクロススペクトルである。コヒーレンス
【数17】
は、0(o(t)およびi(t)が無相関)から1(o(t)およびi(t)が完全に相関している)までのスケールで、任意の所定の周波数または帯域中心周波数における2つの信号間の線形関係の程度を測定する。
【0093】
所定の時間フレームiにおいて、特定の周波数におけるコヒーレンス関数を計算し、所望の周波数範囲にわたって平均化することが可能である。これは、以下のようにdBで表される平均コヒーレンス関数である、量Δiを与える。
【数18】
fminとfmaxは決定すべき所望の周波数範囲の最低帯域と最高帯域であり、Nは、この範囲内の周波数帯域を示す数値である。平均コヒーレンス関数は、dBで表される正の数であり、時間フレームiにわたって2つのマイクロホン信号がfminとfmaxの間で高度にコヒーレントである場合には0に近づく。fminおよびfmaxの値は、検出される障害信号(例えば、発話、咳、くしゃみ、歩行など)を示す。一実施形態によれば、狭帯域値からΔを計算することは、より高い周波数に重みを与えすぎて性能を低下させる可能性があるため、式(1)と式(2)は、比帯域計算として実行される。
【0094】
一実施形態によれば、平均コヒーレンス関数Δは、持続時間の時間フレーム毎に(例えば、0.5秒毎に)計算され、それより上ではIEMによって測定される信号の実質的な部分が着用者由来のノイズ寄与からなると仮定される閾値Δthと比較される。Δi<Δthである場合、IEM24によって受信された音圧に対するWIDの影響は無視できる程度であり、それは、以下の式(3)を意味する。
【数19】
ここで、LIEM,i(f)は、時間フレームi中に閉塞した耳の内側で測定されたLp2'などの音圧レベル(SPL)であり、L*IEM,i(f)は、WIDがない場合に測定されるSPLである。
【0095】
Δi>Δthである場合、WID(L*IEM,i(f))がない場合に測定されるであろうSPLは、2つの異なる方法を用いて推定することができる。
【0096】
(方法1:WIDが生じている間、イヤプラグ減衰が一定であると仮定)
WIDがない場合に測定されるであろうSPLを推定する第1の方法は、イヤプラグ減衰がWIDの間一定のままであると仮定することによりL*IEM,i(f)を計算することを含む。
【数20】
LOEM,i(f)は、時間フレームiの間にOEMによって測定されるSPLであり、NRtmp(f)は、“Δ<Δth”の条件が最後に満たされたとき、すなわち、WIDが検出されなかったときに測定される推定ノイズ低減(OEMとIEMのSPL差)である。このアプローチは、特に、耳の内側のSPLを増加させるがOEM22によって耳の外側で測定された音圧にほとんど差を生じさせないWIDに適応している。この方法は、以降「低レベルWID」と呼ばれるWIDのような、低から中ノイズ環境により良く適応しており、高ノイズ環境におけるIEM24の信号には通常ほとんど貢献しない。
【0097】
(方法2a:周囲の騒音レベルが一定であると仮定)
WIDがない場合に測定されるであろうSPLを推定する第2の方法は、周囲ノイズレベルがWIDが生じている間、一定のままであると仮定することによりL*IEM,i(f)を計算することを含む。
【数21】
ここで、Ltmp(f)は、“Δ<Δth”の条件が最後に満たされたとき、すなわち、WIDが検出されなかったときに、IEM24によって測定されたSPLである。このアプローチはOEM22によって測定されたレベルに著しく影響を及ぼすWIDに特に適している。このようなWID、以降「高レベルWID」と呼ばれるWIDは、全ての音声WID(発話、咳、咳払いなど)および定義されるべき他のWIDを含む。この方法は、着用者の生理的雑音(呼吸、心拍など)が外耳道内の音圧に連続的に寄与する低雑音環境には適さず、したがって、短期間であっても“Δ<Δ
th”基準を満たすことを困難にする。
【0098】
(方法2b:周囲ノイズレベルを一定に保つと仮定)
低レベルWIDによりΔth値を超えたことから、“Δ<Δth”条件が最後に満たされたとき、または、式(4)を使用して最後にL*IEM,i(f)が推定されたときと同じであるようにL*IEM,i(f)は近似できることに留意されたい。この方法は、後者が方法(1)と一緒に使用される場合、単に方法(2a)の変形である。
【0099】
(方法1と方法2bを組み合わせた方法)
一実施形態によれば、L*IEM,i(f)は、両方の方法に従って計算される(すなわち、WIDの間、イヤプラグ減衰が一定であると仮定し、周囲ノイズレベルが一定であると仮定する)。2つの方法は、それぞれが特定のタイプのWIDに適応されるので一緒に使用することができ、これは、低レベルのWIDを高レベルのWIDから区別するための戦略が見つけられることを意味する。2つのタイプのWIDレベルを区別するのを助けることができる特徴は、対応する信号によって生成される耳内SPLである。実際、発話などの高レベルWIDは、低レベル(および非音声)WIDよりも高い耳内SPLを生成する可能性が高い。したがって、低レベルWIDから高レベルWIDを区別する1つの方法は、それより下では高レベルWIDが理論的に発生し得ない閾値レベルLthを考慮することである。対象の周波数範囲における耳内SPLは、以下のように定義される。
【数22】
【0100】
式(2)と一致させるために、耳内SPLと閾値Lthは、平均コヒーレンス関数Δ(fmin<f<fmax)を計算するために使用される同じ周波数範囲内で比較される。Li>Lthを満たす場合、いかなるWIDが検出されても「高レベル」(すなわち、LOEM,i(f)に重大な影響を有する)と見なされ、これは、方法(1)ではなく方法(2b)が使用されるべきであることを意味する。最後に、方法(2b)は、Ltmp(f)およびNRtmp(f)の事前の知識を必要とし、それは、“Δ<Δth”基準が事前に満たされるべきであることを意味する。WIDが検出され(Δ>Δth)、変数Ltmp(f)およびNRtmp(f)が初期化されていない場合は、次の式を使用してL*IEM,i(f)を推定できる。
【数23】
ここで、量
【数24】
は、OEM24によって測定された信号と無相関である信号の部分から推定されたノイズ寄与をdBで表す。
【0101】
【0102】
一実施形態によれば、音曝露レベルLpexpは、IEM24のオートスペクトルに従って、または、IEM24の相関力に従って、直接的に計算される。
【0103】
(強いノイズ環境におけるWIDの検出)
図10には、曲線104として参照されるように、個人が強い雑音環境下で話している間のある期間中のデルタ(Δ)値またはDBで表される検出可能な事象のグラフが示されている。理解できるように、線102として参照される検出閾値(Δ
S)は、3dBに設定され、検出閾値(Δ
S)よりも大きい関連するデルタ(Δ)値を有する任意の事象は、曲線106として参照されるように、音声によるWIDと見なされる。スライド平均「直近」が、突出した値を無視するためにグラフの値に適用されたことに留意されたい。検出された発話事象は、曲線105として参照されるように、監視された発声(着用者によって生成された発話)期間に感覚的に対応する。
【0104】
図100は、3dBの検出閾値Δs、0.5秒の時間的ステップ、500Hzの最低周波数fmin、1000Hzの最高周波数fmax、及び70dBAにおけるIEMの音レベル閾値Lpsで得られた結果を示す。
【0105】
図10の例はWIDとしての発話の検出に向けられているが、任意の他のタイプのWIDまたはWIDの組み合わせが、この方法によって検出され得ることが認識されるべきである。関連する検出閾値Δs、時間的ステップ、最小周波数および最大周波数は、検出されるWIDの種類に応じて設定することができる。また、検出するWIDの種類に応じて、IEMの音レベル閾値Lpsを設定することもできる。場合によっては、検出パラメータの様々なグループを設定して、いくつかのタイプのWIDを個別に検出することができる。他の場合には、一般に、検出パラメータの単一のグループを設定して、いくつかのタイプのWIDを検出することができる。例えば、IEMの音レベル閾値Lpsは、75dBAなど、65dBAと85dBAとの間の範囲にある任意の音レベルとすることができる。
【0106】
一実施形態によれば、着用者の環境において生成される周囲ノイズは、イヤホン20"の較正を実行するために使用される。すなわち、音補正Lp3-Lp2および/またはLp-Lp2は、音源として環境雑音を用いて推定される。1つの較正方法によれば、LpxおよびLp2を測定する前に、本方法は、較正を実行するために充分な数の周波数が周囲雑音において利用可能であることを検証することを含む。例えば、Δ<Δsであって、かつ、OEM22''による音レベル測定値が、対象である全ての周波数において50dBより大きい場合にのみキャリブレーションは実行されてもよい。
【0107】
さらに別の実施形態によれば、較正方法は、所定の間隔で自動的かつ繰り返し実行される。このような実施形態では、イヤホン20"またはイヤホン20"の制御装置がLp3-Lp2補正関数の連続的または定期的なアップデートを行うように構成されている。このような自動較正は、着用者の介入を必要としないか、または、着用者による最小限の介入しか必要としない。
【0108】
一実施形態によれば、
図11に示すように、システム90はさらに、IEM22及びIEM24によって取得される測定値に従ってWIDが存在するか否かを決定するように構成されたWID検出器98を有する。そして、WIDが考慮されなければならないかどうかを決定する。WID検出器98は、WIDインジケータを変換モジュール92に転送する。変換モジュール92は、WIDインジケータに従ってIEM24音圧レベルを変換する。
【0109】
図3A~3Cのイヤホン20および20'ならびに
図3D~3Fの自動較正イヤホン20"は、本解決策の範囲から逸脱することなく、WIDを検出するように構成されることを理解されたい。
【0110】
以上、本発明の例示的で現在好ましい実施形態を詳細に説明してきたが、本発明の概念は他の方法で様々に具現化され、使用されてもよく、添付の特許請求の範囲は先行技術によって限定される限りを除いて、そのような変形形態を含むものと解釈されることを意図していることを理解されたい。
【符号の説明】
【0111】
10…耳、12…外耳道、14…鼓膜、20…イヤホン、40…システム、42…変換モジュール、44…推定器。