(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071490
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】周波数解析方法、周波数解析装置、周波数解析プログラム、機器監視方法および機器監視システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240517BHJP
G01H 3/08 20060101ALI20240517BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H3/08
G01H17/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046381
(22)【出願日】2024-03-22
(62)【分割の表示】P 2020085317の分割
【原出願日】2020-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 敬
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 英毅
(57)【要約】
【課題】精度の高い周波数解析方法を実現する。
【解決手段】周波数解析方法は、機器状態に関するデータを取得するステップと、データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得するステップと、基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出するステップと、第1の周波数解析結果に係数を乗じるステップとを備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器状態に関するデータを取得するステップと、
前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、
所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得するステップと、
前記基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出するステップと、
前記第1の周波数解析結果に前記係数を乗じるステップと
を備える周波数解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の周波数解析方法によって得られた周波数解析結果より単一あるいは複数の周波数での信号強度の時間変化を抽出するステップと、
前記信号強度の時間変化を統計処理して、管理対象値を求めるステップと、
前記管理対象値と管理基準値を比較して機器状態を判定するステップと、
を備える機器監視方法。
【請求項3】
機器状態に関するデータを取得する手段と、
前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得する手段と、
所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得する手段と、
前記基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出する手段と、
前記第1の周波数解析結果に前記係数を乗じる手段と
を備える周波数解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の周波数解析装置によって得られた解析結果より単一あるいは複数の周波数での信号強度の時間変化を抽出する手段と、
前記信号強度の時間変化を統計処理して、管理対象値を求める手段と、
前記管理対象値と管理基準値を比較して機器状態を判定する手段と
を備える機器監視システム。
【請求項5】
機器状態に関するデータを取得するステップと、
前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、
所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得するステップと、
前記基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出するステップと、
前記第1の周波数解析結果に前記係数を乗じるステップとを実行させることを特徴とし、周波数解析装置を機能させるための周波数解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析精度の高い周波数解析方法、周波数解析装置、周波数解析プログラム、機器監視方法および機器監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、ポンプ、回転機等、設備の異常あるいは異常予兆を検知するために、それらの機器の状態をモニタするために設置した、加速度/振動あるいは音響を計測するセンサのデータに対して周波数解析が用いられてきた。とくに、ウェーブレット変換は、周波数解析結果の経時変化も含めて解析できるので、近年盛んに用いられてきている。
【0003】
特許文献1では、周波数解析により連続振動を解析する手段に加えて、エンベロープ処理により断続振動を解析する手段が開示されている。
【0004】
一方、ウェーブレット変換を用いてリアルタイムに近い形で周波数解析結果の経時変化を常時モニタする場合の概要を
図17に示す。まず、加速度/音響センサからの信号データを、検出する周波数が得られる一定時間(周期)ごとに取得する。信号データを取得する際は、わずかな機器・設備の異常も逃さず検出するために、周期毎の境界に隙間があり欠測が生じる状況は避け、全データを欠測なく連続的に取得する。
【0005】
次に、この周期ごとのデータに対して周波数変換を行い、その結果を一定周期分ずつ過去の周波数変換結果に対して最新の結果を時間軸に沿って加えていく。その結果得られた監視の対象とする周波数(以下、「監視対象周波数」という。)の強度を経時的にモニタする。最後に、その強度について過去の強度トレンドに対する最新の強度の比や差分あるいは統計的工程管理(Statistical Process Control、以下、「SPC」という。)等により、設備の異常あるいはその予兆を検知している。
【0006】
しかしながら、ウェーブレット変換による解析を一定周期で行い、その結果を経時的につなぎ合わせて周期毎の比較を行うだけでは、詳細な周波数の変化をモニタリングすることはできない。この理由は、ウェーブレット変換による周波数解析では、
図18に示すように、周期ごとの境界(以下、「周期境界」という。)に近いほど周波数の特定が困難になり、真値以外の多数解が得られてしまう影響により、周期境界およびその近傍での解析精度が劣化するからである。
【0007】
特許文献2では、周期ごとの周期境界における解析において、前後の周期で重複する測定時間を設定することにより、解析結果の連続性を担保する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5900296号公報
【特許文献2】特許第3630041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示する方法は計測の連続性を維持することはできても、結局、周期ごとの境界(周期境界)の解析結果が利用されてしまうため、十分に解析精度を得ることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る周波数解析方法は、機器状態に関するデータを取得するステップと、前記データをウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、前記データをウェーブレット変換して第2の周波数解析結果を取得するステップと、前記第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を、前記第1の周波数解析結果と同時刻で前記第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まない前記第2の周波数解析結果と入れ替えるステップとを備え、前記第1の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであり、前記第2の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであって、当該ウェーブレット変換のうちM回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で行われ、当該ウェーブレット変換のうちN-M回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で行われることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る周波数解析方法は、前記第1の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定で2回ウェーブレット変換して取得されるデータであり、前記第2の周波数解析結果が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で1回ウェーブレット変換して、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で1回ウェーブレット変換して取得されるデータであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る周波数解析方法は、前記第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果の時間幅が、前記所定の解析周期の1/2であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る周波数解析方法は、機器状態に関するデータを取得するステップと、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得するステップと、前記基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出するステップと、前記第1の周波数解析結果に前記係数を乗じるステップとを備える。
【0014】
また、本発明に係る機器監視方法は、前記周波数解析方法によって得られた周波数解析結果より単一あるいは複数の所定の周波数での信号強度の時間変化を抽出するステップと、前記信号強度の時間変化を統計処理して、管理対象値を求めるステップと、前記管理対象値と管理基準値を比較して機器状態を判定するステップとを備える。
【0015】
また、本発明に係る周波数解析装置は、機器状態に関するデータを取得する手段と、前記データをウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得する手段と、前記データをウェーブレット変換して第2の周波数解析結果を取得する手段と、前記第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を、前記第1の周波数解析結果と同時刻で前記第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まない前記第2の周波数解析結果と入れ替える手段とを備え、前記第1の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであり、前記第2の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであって、当該ウェーブレット変換のうちM回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で行われ、当該ウェーブレット変換のうちN-M回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で行われることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る周波数解析装置は、前記第1の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定で2回ウェーブレット変換して取得されるデータであり、前記第2の周波数解析結果が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で1回ウェーブレット変換して、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で1回ウェーブレット変換して取得されるデータであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る周波数解析装置は、前記第1の時刻から第2の時刻までの時間幅が、前記所定の解析周期の1/2であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る周波数解析装置は、機器状態に関するデータを取得する手段と、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得する手段と、所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得する手段と、前記基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出する手段と、前記第1の周波数解析結果に前記係数を乗じる手段とを備える。
【0019】
また、本発明に係る機器監視システムは、前記周波数解析装置によって得られた前記第3の周波数解析結果より単一あるいは複数の所定の周波数での信号強度の時間変化を抽出する手段と、前記信号強度の時間変化を統計処理して、管理対象値を求める手段と、前記管理対象値と管理基準値を比較して機器状態を判定する手段とを備える。
【0020】
また、本発明に係る周波数解析プログラムは、機器状態に関するデータを取得するステップと、前記データをウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、前記データをウェーブレット変換して第2の周波数解析結果を取得するステップと、前記第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を、前記第1の周波数解析結果と同時刻で前記第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まない前記第2の周波数解析結果と入れ替えるステップとを実行させ、前記第1の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであり、前記第2の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであって、当該ウェーブレット変換のうちM回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で行われ、当該ウェーブレット変換のうちN-M回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で行われることを特徴とし、周波数解析装置を機能させる。
【0021】
また、本発明に係る周波数解析プログラムは、前記第1の周波数解析結果が、前記データを所定の解析周期を有する周期設定で2回ウェーブレット変換して取得されるデータであり、前記第2の周波数解析結果が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で1回ウェーブレット変換して、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で1回ウェーブレット変換して取得されるデータであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る周波数解析プログラムは、前記入れ替える第1の解析結果と同時刻で第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まない第2の周波数解析結果の時間幅が、前記所定の解析周期の1/2であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る周波数解析プログラムは、機器状態に関するデータを取得するステップと、前記データを所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して第1の周波数解析結果を取得するステップと、所定の周波数の基準信号を所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して基準の周波数解析結果を取得するステップと、前記基準の周波数解析結果を一定値に変換する係数を算出するステップと、前記第1の周波数解析結果に前記係数を乗じるステップとを実行させることを特徴とし、周波数解析装置を機能させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ウェーブレット変換を用いて リアルタイムに欠測なく連続的に、解析周期により発生する異常検知精度の劣化を抑制して精度の高い周波数解析方法、周波数解析装置、周波数解析プログラム、機器監視方法および機器監視システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、現在用いられている周波数解析方法の一例における信号、解析結果を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る機器監視システムの構成図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法のフローチャート図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法における信号、解析手順を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法により得られた周波数解析結果を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法により得られる解析結果のデータ品質の模式図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法により得られる周波数解析結果の模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法により得られる解析結果における検知精度指標と時間幅(補完幅)との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法における解析周期とシフト時間を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の第1の実施の形態に係る周波数解析方法及び機器監視方法の概要図である。
【
図13】
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る周波数解析方法のフローチャート図である。
【
図14】
図14は、本発明の第2の実施の形態に係る周波数解析方法を説明するための図である。
【
図15】
図15は、本発明に係る、その他の機器監視方法を説明するための図である。
【
図16】
図16は、本発明に係る実施の形態における、解析周期と解析結果の接続の形態を示す図である。
【
図17】
図17は、従来のウェーブレット変換を用いてリアルタイムに経時変化をモニタするための周波数解析方法の概要図である。
【
図18】
図18は、従来のウェーブレット変換における解析周期の境界の影響を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
初めに、現在用いられている周波数解析方法の一例を説明する。
図1にセンサ等により取得した信号111、信号111について1回のウェーブレット変換により得られた周波数の経時変化(解析結果)112、2回のウェーブレット変換により得られた周波数の経時変化(解析結果)113を示す。
【0027】
この周波数解析では、解析周期を、監視対象である周波数に相当する時間の2倍程度の6秒間としてウェーブレット変換を行った。解析結果112、113において、周波数の信号強度は各周波数帯の色調の明暗(白黒)で表される。色が明るい(白い)領域の信号が強く、色が暗い領域の信号が弱い。
【0028】
図1における信号の解析の詳細を以下に説明する。初めに、加速度/音響センサからの信号データを経時的にモニタし、その変化を監視する。それにより発生している現象の大小比較が行える(111)。
【0029】
次に、一定周期でウェーブレット変換を行い、その周期での経時的な変化を捉える(112)。その結果、センサの生データからは得られなかった発生現象に新たな現象が加わったかどうかを検知できるようになる。
【0030】
次に1回ウェーブレット変換したことにより得られた周波数変換結果に対して単一あるいは複数の監視対象周波数帯のデータを選択し、その周波数帯のエンベロープファイルを取得してそのファイルに対して再度2回目のウェーブレット変換を行い、その周期での経時変化を捉える(113)。その結果、発生していた現象の発生周期に変化があったかどうかが検知できるようになり、発生現象の原因究明につながる解析結果が得られる。
【0031】
ここで、異常検知手法としては、上記生データの変化を含めた3通りの結果を用いてそれぞれ単独の結果に対して、経時変化を捉えた異常検知を行ってもよい。または、周波数解析結果は、1回目、2回目ともに複数の周波数帯での変化を識別できるので、多変量解析や機械学習等の手段を用いて、生データの変化、1回目ウェーブレット変換により得られる各周波数帯の強度およびその変化、2回目ウェーブレット変換により得られる各周波数帯の強度およびその変化を組み合わせて用いて、経時変化を捉えた異常検知を行ってもよい。このように、異常およびその予兆の現象及び原因の検出および特定する精度の向上を図ることができる。
【0032】
解析結果112に示すように、1回のウェーブレット変換により、200Hzの周波数帯のグラフ上での色の濃淡が変化しており、信号強度が時間で変化していることをわかる。
【0033】
解析結果113は、解析結果112に示された1回目のウェーブレット変換により得られた周波数変化について、監視対象周波数帯のデータに対してさらにもう1回ウェーブレット変換を施したものである。つまり、2回のウェーブレット変換を施したものである。
【0034】
解析結果113に示す、2回のウェーブレット変換により得られた周波数の経時変化において、6秒、12秒、18秒と、6秒ごとにスパイク状の異常値(図中、白矢印。以下、「ピーク」という。)が観測される。このピークは、解析周期ごとの境界における周波数特定の困難さにより多数解が発生することによるものと考えられ、真の値以外も含まれてしまっている。このようなピークが観測データに混在すると、経時変化を捉える際に過大な値が解析周期毎に発生し解析精度が劣化し問題となる。
【0035】
図1に示すグラフ114は、所定の周波数(例えば、100Hz)に着目してSPC管理した結果である。具体的には、100Hzでの信号強度において周期(6秒間)ごとに最大値を取得して経時的にプロットしたものである。SPC管理においては、最大値以外にも、平均値、標準偏差を用いてもよい。
【0036】
プロットした値が頻繁に情報管理限界(UCL)を超える値を示しているが、この値は、解析結果113における周期境界での影響(ピーク)に起因すると考えられる。
【0037】
このように、周期境界及びその近傍では、解析結果113に示すようにウェーブレット変換信号に、設備等の異常がないにもかかわらず、解析精度劣化による信号が混在して、精度よく連続的にモニタリングすることが困難になる。この解析結果を基にSPC管理すると、グラフ114に示すように周期境界の影響により、異常を検知するので、検知精度が劣化するという問題があった。
【0038】
<第1の実施の形態>
第1の実施の形態に係る機器監視システムと、センサにより取得されたデータの周波数解析方法を、
図2~
図12を参照して説明する。
【0039】
<機器監視システムの構成>
図2に本実施の形態に係る機器監視システム20の構成を示す。機器監視システム20は、センサ211と周波数解析装置212と判定部216と表示部217と通知部218を備える。
【0040】
周波数解析装置212は、データ取得部213と記憶部214と解析部215を備える。センサ211は、モータ、ポンプ等の設備の加速度、振動、音など機器状態に関するデータを測定する。測定したデータは、周波数解析装置212のデータ取得部213で取得され、即時解析が必要なデータは仮記憶部2141へ、または記憶部214に保存される。保存されたデータ、あるいは取得した一定の最新データとして仮保存されたデータを解析部215に読み込んで周波数解析を行う。解析部215では経時変化を捉えて異常があれば検知して通知する。SPC管理等も行うことができる。
【0041】
判定部216では、解析部215で得られた結果を基に設備状態の良否を判定する。表示部217では、データ取得部213で取得した測定データ、記憶部214に保存されているデータ、解析部215で解析されたデータ、判定部216で判定された結果を表示する。
【0042】
通知部218では、判定部216で判定された結果を警報システム等、自動通知に用いられるシステムへと通知する。
【0043】
<周波数解析方法>
図3に、本実施の形態に係る周波数解析方法のフローチャートを示す。また、
図4に、本実施の形態に係る周波数解析方法における信号及び解析手順を示す。
【0044】
初めに、センサ211により機器状態に関するデータである信号231を取得する(ステップ221)。
【0045】
次に、取得したデータについて、1回目のウェーブレット変換を施す(ステップ222)。その結果、解析結果232が得られる。
【0046】
次に、1回目のウェーブレット変換結果得られた監視対象周波数帯のデータについて、2回目のウェーブレット変換を施す(ステップ223)。以下、この周波数解析を「第1の周波数解析」といい、得られた解析結果233をデータAという。このとき、ウェーブレット変換の周期設定(第1の周期設定)において、解析周期を6秒間とする。その結果、解析結果233が得られ、前述(
図1)と同様に、解析周期の境界である6秒ごとにスパイク状のピークが観測される(図中、下向き白矢印)。
【0047】
次に、1回目のウェーブレット変換結果について、第1の周波数解析時と同等の周期設定でウェーブレット変換を施す(ステップ224)。以下、この周波数解析を「第2の周波数解析」といい、得られた解析結果234をデータBという。第2の周波数解析時の周期設定では、第1の周波数解析時の設定に対して、解析周期の開始時刻を最大で周期の半分(この例では3秒間)、時刻進行方向にシフトさせる。実際には、1回目のウェーブレット変換結果の初めの3秒間を対象とせず、3秒間遅らせた時刻から6秒間を解析周期としてウェーブレット変換を施す。以降データA、データBともに同じ周期での解析を繰り返し、経時変化が検出できるようにする。
【0048】
図4に示す解析結果234において、この解析の周期の境界である9秒、15秒、21秒などでスパイク状のピークが観測される(図中、白矢印)。一方、解析結果233でピークが観測された6秒ごとの時刻(6秒、12秒、18秒、、、)では、ピークは観測されない(図中、点線矢印)。
【0049】
次に、データA(解析結果233)の周期の境界である6秒間隔の時刻(6秒、12秒、18秒、、、)において所定の時間幅でデータを削除する(ステップ225、
図5)。本実施の形態では、削除するデータの時間幅は周期の1/2として、周期をTとすると、データA(解析結果233)におけるピークが観測される時刻tについて第1の時刻(t-1/4T)秒から第2の時刻(t+1/4T)までのデータを削除する。例えば、ピークが観測される時刻t=6秒については、4.5秒から7.5秒までのデータを削除する。
【0050】
最後に、データA(解析結果233)でデータが削除された領域に、データB(解析結果234)の同一時刻(6秒、12秒、18秒、、、)の同一時間幅のデータを挿入する(ステップ226、
図6)。
【0051】
本実施の形態では、挿入するデータの時間幅は周期の1/2(3秒)として、データB(解析結果234)におけるピークが観測される時刻tについて第1の時刻(t-1/4T)秒から第2の時刻(t+1/4T)までのデータを挿入する。例えば、データA(解析結果233)でピークが観測される時刻t=6秒については、データB(解析結果234)の4.5秒から7.5秒までのデータを挿入する。
【0052】
このように、第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を、第1の周波数解析結果と同時刻の第2の周波数解析結果と入れ替える。ここで、入れ替える時刻(時間幅)が広すぎると第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の影響を受けるので、周期境界におけるピークの影響を抑制することができない。したがって、入れ替えに用いる第2の周波数解析結果は、第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まないことが必要である。
【0053】
以上より、第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果と入れ替える第2の周波数解析結果は、第1の解析結果と同時刻で第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まない。
【0054】
図7に、本実施の形態に係る周波数解析方法により取得された解析結果235(以下、「第3の周波数解析結果」という。)を示す。解析結果235において、解析結果233でピークが観測された6秒ごとの時刻(6秒、12秒、18秒、、、)および解析結果234でピークが観測された6秒ごとの時刻(9秒、15秒、21秒、、、)では、ピークが出現しない(図中、点線矢印)。このように、周波数解析結果235における周期境界およびその近傍でのピークは削除され、周期境界での解析精度の劣化は抑制される。
【0055】
本実施の形態では、第2の周波数解析において、周期設定において、解析周期の半分(3秒間)をシフトして解析を行ったが、シフト量は解析周期の半分に限らない。周期境界の影響がピーク周辺にのみ限られる場合には、変換周期の1割等、影響度合いを考慮してシフトすればよい。
【0056】
また、周期境界の影響がピーク周辺以外にも及ぶ場合には、データAの周期境界からデータBの周期境界が最も離れた位置になることを考慮して、シフト量を周期の半分(1/2)としたときに境界の影響をもっとも小さくすることができる。
【0057】
図8に、本実施の形態に係る周波数解析方法により得られた解析結果のデータ品質の模式図を示す。第1の周波数解析によるデータ品質(図中、点線241)、第2の周波数解析によるデータ品質(図中、点線242)、第3の周波数解析によるデータ品質(図中、実線243)を示す。このように、第1の周波数解析によるデータ品質と第2の周波数解析によるデータ品質とが重畳され、シフト量が周期の1/2のときに、第3の周波数解析によるデータ品質は最も良い値を示す。
【0058】
また、2回目の変換後の境界の影響を小さくするためには、2回目の変換の周期を1回目の変換の整数倍にすることにより、境界の発生そのものを減らし、境界の影響を小さくすることもできる。この場合は、リアルタイム性はその倍数に比例して損なわれる。
【0059】
本実施の形態では、削除されるデータAの時間幅又は挿入されるデータBの時間幅(補完幅)を周期の1/2(3秒)としたが、これに限らない。周期境界の影響が境界近傍のみに及ぶ場合には、時間幅の1~2割程度にすればよい。周期境界の影響の度合いを考慮して挿入すればよい。
【0060】
周期境界の影響が境界周辺のある程度の時間幅に及ぶ場合には、データAの周期境界とデータBの周期境界から最も離れたデータを解析に用いることを考慮して、時間幅(補完幅)を周期の半分(1/2)とすることが望ましく、ピークが観測される時刻tについて第1の時刻(t-1/4T)秒から第2の時刻(t+1/4T)までのデータを削除、挿入(入れ替え)することにより、境界部の影響を最小に抑えることができる。
【0061】
図9に、第1~3の周波数解析結果の模式図を示す。
図10に、本実施の形態に係る周波数解析方法により得られる解析結果における検知精度指標と時間幅(補完幅)との関係を示す。前述の通り、時間幅(補完幅)が周期の半分(1/2)のときに、検知精度指標は最良である。一方、計算負荷を低減するためには、補完幅を短くした方がよい。例えば、時間幅(補完幅)が周期の半分(1/2)にすると、補完しない場合に比べて計算負荷は2倍になる。ここで、補完幅が短くなると検知精度指標は低下して、負の値を示す。このように、時間幅(補完幅)は、検知精度と計算負荷を考慮して定めることが望ましい。
【0062】
図11に示すように、本実施の形態に係る周波数解析方法において、解析周期より短い時間をシフトさせ連続的に解析して得られる結果は、周期境界部分を除いて、欠測なく時系列的に使用される。解析周期を長くすれば、周期境界の使用回数が減り、境界付近の使用頻度が減り変換周期の影響を低減できる。この場合、解析周期が長くなることにより、異常検知のリアルタイム性は低下する。
【0063】
図12に、本実施の形態に係る周波数解析方法の概要をまとめる。初めに、センサにより機器状態に関するデータである信号を取得する(251)。次に、本実施の形態に係る周波数解析方法により、解析を行う(252)。最後に、監視対象周波数(例えば、f1、f2)についてSPC管理を行う(253)。本実施の形態に係る周波数解析方法によれば、周期境界の影響を抑制できるので、SPC管理において正常動作にもかかわらず異常検知されることが抑制される。
【0064】
このように、前記第1の周波数解析結果の周期境界における第1の時刻から第2の時刻までのデータを、前記第2の周波数解析結果における第1の時刻から第2の時刻までのデータと入れ替えることにより、周期境界の影響を抑制して精度の高い周波数解析結果が得られる。この解析を解析周期毎に繰り返し連続的に実施することにより、監視対象設備の状態変化を欠測なく経時的にモニタし、より早く異常の予兆段階で変化を検知することが可能になり、監視対象設備のメンテナンス時期等を計画的にかつ少ない損失で実行することが可能になる。
【0065】
本実施の形態において、第1の周期設定で1回ウェーブレット変換して得られた周波数解析結果に対して、さらに第1の周期設定でウェーブレット変換して得られた周波数解析結果(第1の周波数解析結果)と、第1の周期設定で1回ウェーブレット変換して得られた周波数解析結果に対して、さらに周期をシフトさせた第2の周期設定でウェーブレット変換して得られた周波数解析結果(第2の周波数解析結果)を用いる例を説明した。
【0066】
換言すれば、第1の周波数解析結果として、所定の解析周期を有する周期設定(第1の周期設定)で2回ウェーブレット変換して取得されるデータを用い、第2の周波数解析結果として、第1の周期設定で1回ウェーブレット変換して、第1の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定(第2の周期設定)で1回ウェーブレット変換して取得されるデータを用いた。
【0067】
本実施の形態では、第1の周波数解析結果と第2の周波数解析結果の形態はこれに限らない。第1の周波数解析と第2の周波数解析で行うウェーブレット変換の回数はそれぞれ2回に限らず、1回でもよいし、3回以上でもよく、N回(Nは自然数)であればよい。
【0068】
また、第2の周波数解析における第2の周期設定でのウェーブレット変換は1回に限らず、合計N回のうち何回行ってもよく、M回(MはN以下の自然数)であればよい。ここで、少なくとも1回の第2の周期設定でのウェーブレット変換は、N回のうち最後の回で行うことが必要である。
【0069】
以上より、本実施の形態において、第1の周波数解析結果は、取得された機器状態に関するデータを、所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータである。また、前記第2の周波数解析結果は、取得された機器状態に関するデータを、所定の解析周期を有する周期設定でN回(Nは自然数)ウェーブレット変換して取得されるデータであって、当該ウェーブレット変換のうちM回(Mは自然数)のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定から所定の時間シフトさせた周期設定で行われ、当該ウェーブレット変換のうちN-M回のウェーブレット変換が、前記第1の周波数解析の周期設定と同じ周期設定で行われるものである。この第1の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を、第1の解析結果と同時刻で第2の周波数解析結果の周期境界およびその近傍の解析結果を含まない第2の周波数解析結果と入れ替えることにより、本実施の形態に係る周波数解析方法及び周波数解析装置を実現できる。
【0070】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態に係る機器監視システムと、センサ211により取得されたデータの周波数解析方法を、
図13、14を参照して説明する。第2の実施の形態に係る機器監視システムと周波数解析装置の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0071】
第1の実施の形態で説明した通り、
図1の解析結果113に示す2回のウェーブレット変換により得られた周波数の経時変化において、6秒ごとにスパイク状のピークが観測される。このピークが観測データに混在することにより真の解析結果より広範囲な周波数に対して異常に高い値が算出され、異常検知精度が低下するので問題となる。本実施の形態では、このピークの影響を抑制するために、第1の実施の形態と異なる方法を用いる。
【0072】
<周波数解析方法>
図13に、本実施の形態で用いる周波数解析方法のフローチャートを示す。
図14に、 本実施の形態で用いる周波数解析方法の概要図を示す。
【0073】
初めに、監視対象となる周波数を有する理想的な基準信号411を参照データとする(ステップ311)。
【0074】
次に、この理想的な基準信号411について、1回目のウェーブレット変換を施し(ステップ312)、さらに2回目のウェーブレット変換を施し周波数解析結果412を取得する(ステップ313、以下、「基準の周波数解析」という。)。
【0075】
次に、2回のウェーブレット変換の結果412を一定値に変換する係数(R)413を算出する(ステップ314)。ここで、2回のウェーブレット変換の結果412は、理想的な基準信号411について解析したので、周期の端部の影響がなければ、初めに設定した一定の周波数を示すはずである。したがって、2回のウェーブレット変換の結果412を一定値に変換する係数(R)413が、周期の端部の影響に対する補正係数となる。
【0076】
次に、第1の実施の形態と同様に、センサ211より取得したデータについて、2回のウェーブレット変換を施す(ステップ315~317)。その結果、周波数解析結果(S)414が得られる(第1の周波数解析)。前述のように、周波数解析結果(S)414では、周期境界のピークが観測される。
【0077】
最後に、周波数解析結果(S)414に係数(R)413を乗じる(ステップ318)。
図14中に、係数(R)413を乗じた解析結果415(第3の周波数解析結果)を示す。このように、解析結果415には、周波数解析結果(S)414における周期境界のピークが観測されない。このように、本実施の形態に係る解析方法により、周期境界の影響を抑制することができる。
【0078】
本実施の形態において、基準の周波数解析と第1の周波数解析において、2回のウェーブレット変換を行う例を示したが、ウェーブレット変換の回数はそれぞれ2回に限らず、1回でもよいし、3回以上でもよく、N回(Nは自然数)であればよい。
【0079】
<その他の機器監視方法>
本機器監視方法では、低周波数を含めた広範囲の周波数帯について2回ウェーブレット変換を行って周波数解析結果を取得して、この周波数解析結果から低周波数帯のデータを削除して機器監視に用いてもよい。
図15に、一例として、1Hzから4000Hzまでの周波数帯について2回ウェーブレット変換を行い取得した周波数解析結果421と、周波数解析結果421から1Hzから10Hzまでの低周波数帯を削除した周波数解析結果422を示す。
【0080】
周波数解析結果421では1Hzから10Hzまでの低周波数帯に解析周期に対応する周波数成分が検出され解析結果の低周波数領域がブロードになっている。一方、周波数解析結果422では、解析結果のブロードな領域が削除されている。このように、真値に近い成分のみ抽出した周波数解析結果を用いれば、誤差が少なく精度の高い異常判定ができる。
【0081】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態に係る機器監視システム20および機器監視方法を、
図2を参照して説明する。本実施の形態に係る機器監視システムおよび機器監視方法は、第1~3の実施の形態に係る周波数解析方法を用いて、機器、設備における正常又は異常を判定する。
【0082】
図2に示す機器監視システム20では、周波数解析装置212における記憶部214に保存されるデータまたは解析周期単位で一時保存されたデータを解析部215に読み込んで周波数解析(2回のウェーブレット変換)を行う。
【0083】
解析部215では、この解析結果を基に統計処理を行い、解析周期毎あるいは監視対象機器の劣化の進行度合いを考慮した解析周期よりも長い周期、もしくは複数の解析周期の解析結果を移動平均化するような平滑化処理をした上で、判定に必要な管理対象値(最大値、最小値、平均値、標準偏差など)を求める。
【0084】
判定部216は、解析により得られる管理対象値と、記憶部214に記憶される管理限界値(上方管理限界、下方管理限界)と比較して、機器状態は正常であるか、異常であるかを判定する。表示部217は判定結果を表示する。
【0085】
また、第1~3の実施の形態では、経時変化の異常判定に生データ、1回目ウェーブレット変換結果として抽出される監視対象である単一または複数の周波数のスペクトル強度、あるいは2回目ウェーブレット変換結果として抽出される監視対象である単一または複数の周波数のスペクトル強度に基づいて、SPC手法を用いたが、他の異常判定手法、例えば、生データの値、1回目および2回目のウェーブレット変換によって得られた周波数別の強度データを複数の変数として扱い、それらに対して多変量解析を適用しても良いし、機械学習等を活用してもよい。
【0086】
本発明に係る実施の形態において、1回目変換に対しては、計算負荷低減のために、シフトさせて解析した結果の入れ替えを省略してもよい。
【0087】
本発明に係る実施の形態において、高精度に異常を捉える必要のないレベルの機器に対しては、本実施の形態に係る解析方法を使わずに解析周期内で各周波数内のデータを単純に平均化処理して、周期毎の変化を検出する方法を用いてもよい場合もある。
【0088】
本発明に係る実施の形態において、1回目の解析と2回目の解析を同じ時間幅で同時刻に行うときに効果が最も顕著になるのは、1回目解析により解析結果の不安定な解析境界が2回目にも使われるためである。そこで、単に1回目と2回目の解析の時刻を解析周期の1/2を目安にシフトして解析することにより、解析境界の影響を軽減できる場合には、この方法で対応してもよい。
【0089】
本発明に係る実施の形態において、真の連続計測を必要としない場合は、解析周期の境界とその周辺のデータを使わずに、解析周期内の中心付近のみのデータを用いて解析してもよい。
【0090】
本発明に係る実施の形態において、発生している周波数帯毎の強度等を自動的に検知しながら状況に応じて高い周波数成分だけを監視する場合には、解析周期を短くしてもよい。また、短い周波数成分を監視する場合には、解析周期を長くしてもよい。
【0091】
本発明に係る実施の形態において、異常検知の観点でのリアルタイム性は若干低下するが、検出する周波数の数倍程度の周期での解析を行い、解析をその幅より短い時間シフトさせた周期で行い、各解析周期の周期境界付近の解析結果を削除して、解析結果が時系列的に欠測にならないように時系列的には連続させて解析結果を繋いで解析してもよい(
図16)。
【0092】
本発明に係る実施の形態において、一例として、解析周期を6秒として説明したが、解析周期はこれに限らず、監視する周波数帯に応じて任意に決めることもできる。また、監視対象機器・設備の仕様に応じて決めてもよいし、周波数変換により検出された周波数から、周波数強度の高いものから順に自動的に決めてもよい。
【0093】
本発明の実施の形態に係る周波数解析装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御する周波数解析プログラムによって実現することができる。
【0094】
本発明の実施の形態に係る周波数解析装置では、コンピュータを装置内部に備えてもよいし、外部コンピュータを用いて実現してもよい。また、記憶部も装置外部の記憶媒体を用いてもよく、記憶媒体に格納された周波数解析プログラムを読み出して実行してもよい。記憶媒体には、各種磁気記録媒体、光磁気記録媒体、CD-ROM、CD-R、各種メモリを含む。また、周波数解析プログラムはインターネットなどの通信回線を介してコンピュータに供給されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、製造現場における製造機器、設備状態を監視、制御する装置、システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
20 機器監視システム
211 センサ
212 周波数解析装置
213 データ取得部
214 記憶部
2141 仮記憶部
215 解析部
216 判定部
217 表示部
218 通知部