(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071493
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】電極の製造方法、電極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240517BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240517BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240517BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240517BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240517BHJP
C08F 14/22 20060101ALI20240517BHJP
C08F 26/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/525
H01M4/505
C08F14/22
C08F26/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046615
(22)【出願日】2024-03-22
(62)【分割の表示】P 2022545492の分割
【原出願日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2020146163
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】藤田 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】上遠野 正孝
(57)【要約】
【課題】フッ化ビニリデン重合体を含む合剤のゲル化を抑制した電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有するフッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、活物質と、を含有する電極合剤を集電体上に塗布し、前記電極合剤を乾燥させて電極合剤層を得る、電極の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有するフッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、活物質と、を含有する電極合剤を集電体上に塗布し、
前記電極合剤を乾燥させて電極合剤層を得る、
電極の製造方法。
【請求項2】
前記オキシムが下記式(1)で示される化合物、式(2)で示される化合物、および、ヒドロキシイミノ基を有するポリマーまたはオリゴマーから選択される少なくとも1つのオキシムである、請求項1に記載の電極の製造方法:
【化1】
【化2】
式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子、アルデヒド基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、または炭素数3~13の複素環基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、
R
1とR
2とは互いに結合して、R
1およびR
2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよく、
式(2)中、R
7およびR
8はそれぞれ独立して、水素原子、アルデヒド基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、または炭素数3~13の複素環基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、
R
7とR
8とは互いに結合して、R
7が結合している炭素原子およびR
8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。
【請求項3】
前記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数6~18のアリール基、アルデヒド基または炭素数1~10のアルキル基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、
R1およびR2がアルキル基である場合、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよく、
前記式(2)中、R7およびR8はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数6~18のアリール基、アルデヒド基または炭素数1~10のアルキル基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、
R7およびR8がアルキル基である場合、R7とR8とは互いに結合して、R7が結合している炭素原子およびR 8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい、
請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基から選択され、
R1およびR2がアルキル基である場合、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよく、
前記式(2)中、R7およびR8はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10のアルキル基から選択され、
R7およびR8がアルキル基である場合、R7とR8とは互いに結合して、R7が結合している炭素原子およびR8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい、
請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデン重合体は、下記式(3)で示される化合物に由来する構造単位を含有するフッ化ビニリデン重合体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極の製造方法:
【化3】
式(3)において、
R
4は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、または炭素数1~5のアルキル基で置換されたカルボキシル基であり、
R
5およびR
6はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、
Xは単結合、または、主鎖が原子数1~20で構成される分子量500以下の原子団である。
【請求項6】
前記活物質が下記式(4)で表されるリチウム金属酸化物であって、当該リチウム金属酸化物を水で抽出した際の当該水のpHが10.5以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
LiNixCoyMzO2・・・(4)
(式(4)中、MはMnまたはAlであり、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1である)
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法で製造された電極。
【請求項8】
フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有するフッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、活物質とを含有する電極合剤層を集電体上に備える電極(ただし、ポリウレタン樹脂の硬化物を含むものを除く)。
【請求項9】
請求項7または8に記載の電極を備える非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法、電極および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位を主として含むフッ化ビニリデン重合体は、リチウムイオン二次電池等の電池のバインダー樹脂として多く利用されている。バインダー樹脂は、活物質を集電体に接着させるために用いられるものである。
【0003】
電池の高容量化を目的として、ニッケル比率が高い三元系正極活物質を用いる電池が検討されている。一方、三元系正極活物質には塩基が多く含まれるため、フッ化ビニリデン重合体を含むバインダー組成物の劣化が促進され易い。そして、当該劣化により、スラリー状の電極合剤(以下、電極合剤スラリーともいう)が増粘し、最終的にゲル化する。ゲル化した電極合剤スラリーを集電体に塗工することは困難である。したがって、三元系正極活物質を用いる電池において、電極合剤はより高いゲル化耐性が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、フッ化ビニリデンに由来する第1の構成単位と、イソシアネート基または加熱したときにイソシアネート基を生成する構造を有する構造単位とを有する共重合体を含有するバインダー組成物が記載されている。当該バインダー組成物は長時間保存してもゲル化し難いことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、分散樹脂、ポリフッ化ビニリデン、導電カーボン、溶媒、及び重合禁止剤を含有する、リチウムイオン電池正極用導電ペーストが記載されている。当該ペーストは高粘度であり、ゲル化が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-160675号公報
【特許文献2】特開2017-228412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載されるバインダー組成物および導電ペーストであっても、電極合剤のゲル化耐性が十分ではなく、電極合剤のゲル化を抑制するバインダーの開発が求められている。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題を鑑みてされたものであり、従来のバインダーよりも、電極合剤のゲル化を抑制するバインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、を含むバインダーを電極合剤に用いることによって、意外にも、電極合剤のゲル化を抑制することができることを見出したことに基づき、本発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様に係るバインダーは、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有するフッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、電極合剤のゲル化を抑制するバインダーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(バインダー)
本実施形態のバインダーは、フッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、を含有する。本実施形態に係るバインダーは、電極活物質を集電体上に結着するための結着剤として用いられるものである。
【0013】
本実施形態のバインダーはオキシムを含有することにより、電極合剤のゲル化を抑制することができる。すなわち、本実施形態のバインダーはゲル化耐性が高い。例えば、調製直後の電極合剤の粘度よりも粘度が上昇したとき、ゲル化が進行していると判断することができる。
【0014】
(フッ化ビニリデン重合体)
本明細書において「フッ化ビニリデン重合体」とは、フッ化ビニリデンの単独重合体(ホモポリマー)、およびフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体(モノマー)とフッ化ビニリデンとの共重合体(コポリマー)の何れをも含むものである。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、公知の単量体の中から適宜に選ぶことができる。フッ化ビニリデンを共重合させる場合、コポリマーはフッ化ビニリデンを主構成成分として含む。詳細には、コポリマーは、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上で含有し、フッ化ビニリデン単位を80モル%以上で含有することが好ましく、フッ化ビニリデン単位を90モル%以上で含有することがより好ましい。
【0015】
フッ化ビニリデン重合体がコポリマーの場合、フッ化ビニリデンを主構成成分とし、以下の式(3)に示される構造単位を含むフッ化ビニリデン重合体であることが好ましい。
【化1】
【0016】
式(3)において、R4は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、または炭素数1~5のアルキル基で置換されたカルボキシル基であり、R5およびR6は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。重合反応の観点から、特にR4およびR5は立体障害の小さな置換基であることが望まれ、水素または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素またはメチル基であることが好ましい。
【0017】
式(3)において、Xは、単結合または主鎖が原子数1~20で構成される分子量500以下の原子団である。原子団における分子量は、好ましくは200以下である。また、原子団における分子量の下限に特に限定はないが、通常は15である。原子団の分子量が上述の範囲内であることにより、電極合剤スラリーのゲル化を好適に抑えられる。ここで、「主鎖の原子数」とは、式(3)におけるXの右側に記載されたカルボキシル基と、Xの左側に記載された基(R4R5C=CR6-)とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数を意味している。またXは、官能基を側鎖として含むことで分岐していてもよい。Xに含まれる側鎖は、1つであってもよく、複数含まれていてもよい。なお、Xが単結合である場合、式(3)における化合物は、カルボキシル基がR6に結合する炭素原子に対して直接結合している構造となる。
【0018】
式(3)に示される構造単位を有する化合物の例として、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート(CEA)、2-カルボキシエチルメタクリレート、マレイン酸モノメチルエステル、アクリロイロキシエチルコハク酸(AES)、アクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)、メタクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸等を挙げることができる。
【0019】
フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンおよび式(3)に示される構造単位以外の他の化合物の成分を構成単位として有していてもよい。このような他の化合物としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、およびペルフルオロメチルビニルエーテルに代表される、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等;(メタ)アクリル酸グリシジル、および(メタ)アクリル酸メチル等に代表される、末端にCOOH基を有さない(メタ)アクリレート系モノマーを挙げることができる。
【0020】
フッ化ビニリデン重合体がコポリマーの場合、変性量(フッ化ビニリデン重合体中の式(3)に示される構造単位)は0.01~10mol%有することが好ましく、0.1~5mol%有することがより好ましく、0.2~1mol%有することがさらに好ましい。また、フッ化ビニリデン重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位を、90~99.99mol%有することが好ましく、95~99.90mol%有することがより好ましく、99.00~99.80mol%有することがさらに好ましく、99.50~99.80mol%有することが特に好ましい。式(3)で示される構成単位が上記範囲であることにより、調製直後の電極合剤の粘度に対する保存後の電極合剤粘度の変化が小さく、安定した粘度の電極合剤を得ることができる。
【0021】
フッ化ビニリデン重合体のフッ化ビニリデン単位の量、および式(3)で示される構成単位の量は、共重合体の1H NMRスペクトルもしくは19F NMRスペクトル、または中和滴定により求めることができる。
【0022】
(フッ化ビニリデン重合体の例)
フッ化ビニリデン重合体としては、市販のものを用いることができる。例えば、株式会社クレハ製のKF#7300、KF#9100、KF#9700、KF#7500、KF#9400等が挙げられる。
【0023】
(フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(ηi))
本実施形態で用いられるフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度は、特に限定されないが、0.5~5.0dl/gであることが好ましく、1.0dl/g以上4.5dl/g以下であることがより好ましく、1.5dl/g以上4.0dl/g以下であることがさらに好ましい。インヘレント粘度が上記の範囲であれば、電極合剤スラリーを塗工する際に電極の厚みムラを発生させることなく、電極作製を容易に行える点で好ましい。
【0024】
インヘレント粘度(ηi)は、例えば以下のようにして算出する。フッ化ビニリデン重合体80mgを20mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解することによって重合体溶液を作製する。作製した重合体溶液の粘度ηを、30℃の恒温槽内においてウベローデ粘度計を用いて測定する。そして、以下の式からインヘレント粘度(ηi)を算出する。
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
上記式中、η0は溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度、Cは作製した重合体溶液におけるフッ化ビニリデン重合体の濃度(0.4g/dL)である。
【0025】
(フッ化ビニリデン重合体の重合方法)
フッ化ビニリデン重合体の重合方法としては、特に限定はなく、従来公知の重合方法を用いることができる。重合方法としては、例えば懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられるが、その中でも後処理の容易さ等の観点から水系の懸濁重合または乳化重合が好ましく、水系の懸濁重合が特に好ましい。
【0026】
(オキシム)
本実施形態のバインダーに含有するオキシムは、アルデヒドまたはケトンのカルボニル基の酸素原子がヒドロキシイミノ基(=NOH)で置換された化合物である。すなわち、アルデヒド由来のオキシム(RCH=NOH)とケトン由来のオキシム(R’RC=NOH)が存在する。
【0027】
オキシムの例として、式(1)に示される化合物が挙げられる。
【化2】
【0028】
式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、アルデヒド基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、または炭素数3~13の複素環基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。
【0029】
式(1)中、アルキル基の炭素数は1~10であり、好ましくは1~5であり、より好ましくは1~2である。アルケニル基の炭素数は2~10であり、好ましくは2~6であり、より好ましくは2~4である。アルキニルの炭素数は2~10であり、好ましくは2~6であり、より好ましくは2~4である。シクロアルキル基の炭素数は3~10であり、好ましくは3~7であり、より好ましくは5~7である。アリール基の炭素数は6~18であり、好ましくは6~10であり、より好ましくは6~8である。アラルキル基の炭素数は7~14であり、好ましくは7~11であり、より好ましくは7~9である。複素環基の炭素数は3~13であり、好ましくは3~10であり、より好ましくは3~8である。
【0030】
式(1)中、R1とR2とが互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成する場合、環は芳香族環であってもよいし、非芳香族環であってもよい。また、式(1)に示される化合物は共役系化合物であってもよい。環は3~12員環であってもよく、好ましくは3~8員環である。このような環を形成している場合の化合物としては、HO-N=R3で示される化合物が好ましく、ここで、R3は、炭素数3~8のシクロアルキル基である。当該シクロアルキル基の水素原子は、炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよい。
【0031】
式(1)で示される化合物として、アセトンオキシム(アセトキシム)、2-ブタノンオキシム(メチルエチルケトンオキシム)、メチルイソプロピルケトンオキシム、メチルターシャリーブチルケトンオキシム、ジターシャリーブチルケトンオキシム、2-ペンタノンオキシム、3-ペンタノンオキシム、1-シクロヘキシル-1-プロパノンオキシム、アセトアルドキシム(アセトアルデヒドオキシム)、ベンズアルキシム(ベンズアルデヒドオキシム)、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、4-ヒドロキシアセトフェノンオキシム、シクロプロパノンオキシム、シクロブタノンオキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロへプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシム、ベンゾキノンジオキシム、ベンゾキノンモノオキシム、2,3-ブタンジオンモノオキシム、アセトアミドオキシム、3-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノンオキシム、α-ベンゾインオキシム、1,3-ジヒドロキシアセトンオキシム、2-イソニトロソプロピオフェノン等が挙げられる。
【0032】
本実施形態のバインダーにおいて、高ゲル化耐性等の点で、式(1)に示される化合物は、R1およびR2がそれぞれ独立して、水素原子、炭素数6~18のアリール基、アルデヒド基または炭素数1~10のアルキル基から選択されることが好ましい。これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよい。また、R1およびR2がアルキル基である場合、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。好ましい態様である式(1)に示される化合物として、アセトキシム、2-ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトアルデヒドオキシム、ベンズアルデヒドオキシム、2,3-ブタンジオンモノオキシム等が挙げられる。
【0033】
本実施形態のバインダーにおいて、高ゲル化耐性等の点で、式(1)に示される化合物は、R 1およびR 2がそれぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基から選択されることがより好ましい。これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、また、R1およびR2がアルキル基である場合、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。より好ましい態様である式(1)に示される化合物として、アセトキシム、2-ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。
【0034】
また、オキシムの例として、式(2)に示される化合物が挙げられる。
【化3】
【0035】
式(2)中、R7およびR8はそれぞれ独立して、水素原子、アルデヒド基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、または炭素数3~13の複素環基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、R7とR8とは互いに結合して、R7が結合している炭素原子およびR8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。
【0036】
式(2)で示される化合物として、ジメチルグリオキシム、メチルエチルグリオキシム、ジエチルグリオキシム、ジフェニルグリオキシム、等が挙げられる。
【0037】
式(2)の好ましい置換基(R7およびR8)の態様は、式(1)の好ましい置換基(R1およびR2)の態様と同様である。好ましい態様である式(2)に示される化合物として、ジメチルグリオキシム等が挙げられる。
【0038】
また、オキシムの例として、ヒドロキシイミノ基を含むポリマー(以下、「オキシムポリマー」と示す場合がある)またはヒドロキシイミノ基を含むオリゴマー(以下、「オキシムオリゴマー」と示す場合がある)が挙げられる。オキシムポリマーおよびオキシムオリゴマーは低揮発性であるため、低分子量のオキシムを用いる場合と比較して、バインダーの長期保存が可能になる。
【0039】
オキシムポリマーまたはオキシムオリゴマーは、ヒドロキシイミノ基を含むモノマーもしくはオリゴマーを重合するか、またはケトン基を骨格に持つポリマーもしくはオリゴマーにヒドロキシアミンを反応させることによって合成することができる。ケトン基を骨格に持つポリマーとしては、例えばポリ(メチルビニルケトン)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、等が挙げられる。
【0040】
オキシムポリマーまたはオキシムオリゴマーの例として、ポリ(メチルビニルオキシム)等が挙げられる。
【0041】
上記オキシムは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、バインダーにおいて、フッ化ビニリデン重合体1gに対して、オキシムが0.005~5mmol含まれていることが好ましく、0.1~5mmol含まれていることがより好ましく、0.25~5mmol含まれていることがさらに好ましい。またバインダーにおいてフッ化ビニリデン重合体1gに対して、オキシムが有するヒドロキシイミノ基が0.005~5mmol含まれていることが好ましく、0.1~5mmol含まれていることがより好ましく、0.25~5mmol含まれていることがさらに好ましい。
【0043】
本実施形態のバインダーの形態は特に限定されず、粉状であっても、液状であってもよい。また、バインダーは、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、非水溶媒であってもよいし、水であってもよい。非水溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、n-ブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよびシクロヘキサノンなどを挙げることができる。これらの溶媒は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
〔電極合剤〕
本実施形態の電極合剤は、上記バインダーと、活物質と、を含む。電極合剤は、導電助剤、非水溶媒、顔料分散剤および分散安定剤等を含んでいてもよい。
【0045】
電極合剤は、塗布対象である集電体の種類等に応じて活物質等の種類を変更することにより、正極用の電極合剤、または負極用の電極合剤とすることができる。フッ化ビニリデン重合体は、一般的に優れた耐酸化性を有しているため、本実施形態の電極合剤は、正極用の電極合剤として用いることが好ましい。
【0046】
(活物質)
正極活物質としては、リチウム金属酸化物が典型的に用いられる。正極活物質は、リチウム金属酸化物の他に、例えば不純物および添加剤等を含んでいてもよい。また、正極活物質に含まれる不純物等および添加剤等の種類は特に限定されるものではない。
【0047】
リチウム金属酸化物としては、例えば、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNixCoyMn1-x-yO2(0<x<1、0<y<1)、LiNixCoyAl1-x-yO2(0<x<1、0<y<1)、LiFePO4等を挙げることができる。
【0048】
リチウム金属酸化物がNiを含有することは、容量密度を高めることによって二次電池を高容量化できる点において好ましい。またリチウム金属酸化物が、Niに加えて、さらにCo等を含有することは、充放電過程での結晶構造変化が抑えられることによって安定なサイクル特性を示す点において好ましい。
【0049】
好ましいリチウム金属酸化物として、以下の式(4)で示されるリチウム金属酸化物(三元リチウム金属酸化物)が挙げられる。三元リチウム金属酸化物は、充電電位が高く、かつ優れたサイクル特性を有することから、本実施形態における電極活物質として特に好ましく用いられる。
LiNixCoyMzO2 ・・・(4)
(式中、MはMnまたはAlであり、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1である)
【0050】
好ましいリチウム金属酸化物の具体例として、Li1.00Ni0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)、Li1.00Ni0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、Li1.00Ni0.83Co0.12Mn0.05O2(NCM811)、およびLi1.00Ni0.85Co0.15Al0.05O2(NCA811)を挙げることができる。これらの好ましいリチウム金属酸化物は、水で抽出した際の当該水のpHが10.5以上である。当該抽出はJIS K 5101-16-2に規定される抽出方法での常温(25℃)における抽出である。
【0051】
具体的には、上記pHの値は、電極活物質重量の50倍量の超純水に電極活物質を入れ、マグネチックスターラーにて回転数:600rpmで10分間撹拌を行い、その溶液を(株)堀場製作所製pHメーターMODEL:F-21を用いてpH測定を行って得られる。
【0052】
上記水のpHが少なくとも10.5以上である正極活物質を含む電極合剤スラリーは、当該スラリー中に塩基を多く含むため、電極合剤が劣化し易い。その結果、電極合剤スラリーの増粘が生じ易い。電極合剤スラリーの増粘を抑制する場合、正極活物質の水洗による塩基の除去が必要である。しかしながら、本実施形態の電極合剤はオキシムを含むことにより、塩基が多く含まれる正極活物質を使用しても電極合剤スラリーの増粘(電極合剤のゲル化)が抑制される。したがって、本実施形態の電極合剤はオキシムを含むことにより、正極活物質の水洗を行う必要がない。
【0053】
負極活物質としては、炭素材料、金属・合金材料、および金属酸化物などをはじめとした従来公知の材料を用いることができる。これらのうち、電池のエネルギー密度をより高める観点から、炭素材料が好ましく、炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素および易黒鉛化炭素等を挙げることができる。
【0054】
電極合剤において、活物質の量を100質量部としたときに、フッ化ビニリデン重合体が0.2~15質量部含まれていることが好ましく、0.5~10質量部含まれていることがより好ましい。
【0055】
また、電極合剤において、活物質100gに対して、オキシムが0.01~10mmol含まれていることが好ましく、0.2~10mmol含まれていることがより好ましく、0.5~10mmol含まれていることがさらに好ましい。また、活物質100gに対して、オキシムが有するヒドロキシイミノ基が0.01~10mmol含まれていることが好ましく、0.2~10mmol含まれていることがより好ましく、0.5~10mmol含まれていることがさらに好ましい。
【0056】
(導電助剤)
導電助剤は、LiCoO2等の電子伝導性の小さい活物質を使用する場合に、電極合剤層の導電性を向上する目的で添加してもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛微粉末および黒鉛繊維等の炭素質物質、ならびにニッケルおよびアルミニウム等の金属微粉末または金属繊維を用いることができる。
【0057】
(非水溶媒)
非水溶媒は、上述のバインダーに含み得る非水溶媒として例示したものを用いることができ、例として、N-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。また、非水溶媒は1種単独でも、2種以上を混合してもよい。
【0058】
(電極合剤の他の成分)
本実施形態の電極合剤は、上述の成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、ポリビニルピロリドンなどの顔料分散剤等を挙げることができる。
【0059】
(電極合剤の調製)
本実施形態に係る電極合剤は、例えば、フッ化ビニリデン重合体とオキシムとを含むバインダー、および活物質を均一なスラリーとなるように混合すればよく、混合する際の順序は特に限定されない。さらにバインダーとして溶媒を含むバインダーを用いる場合、バインダーに当該溶媒を加える前に、電極活物質等を加えてもよい。例えば、バインダーに電極活物質を添加し、次いで溶媒を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。また電極活物質を溶媒に分散し、そこへバインダーを添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。あるいは、バインダーとして溶媒を含むバインダーに電極活物質を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。
【0060】
また、オキシムと活物質とを混合させたのちに、フッ化ビニリデン重合体を混合させることによっても調製することができる。
【0061】
〔電極〕
本実施形態に係る電極は、上記電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える。本明細書等における「電極」とは、特に断りのない限り、本実施形態の電極合剤から形成される電極合剤層が集電体上に形成されている、電池の電極を意味する。
【0062】
(集電体)
集電体は、電極の基材であり、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、およびチタン等を挙げることができる。集電体の形状は、箔または網であることが好ましい。電極が正極である場合、集電体としては、アルミニウム箔とすることが好ましい。集電体の厚みは、5μm~100μmであることが好ましく、5~20μmがより好ましい。
【0063】
(電極合剤層)
電極合剤層は、上述した電極合剤を集電体に塗布して、乾燥させることにより得られる層である。電極合剤の塗布方法としては、当該技術分野における公知の方法を用いることができ、バーコーター、ダイコーターまたはコンマコーターなどを用いる方法を挙げることができる。電極合剤層を形成させるための乾燥温度としては、50℃~170℃であることが好ましく、50℃~150℃であることがより好ましい。電極合剤層は集電体の両面に形成されてもよいし、いずれか一方の面のみに形成されてもよい。
【0064】
電極合剤層の厚さは、片面当たり通常は20~600μmであり、好ましくは20~350μmである。また、電極合剤層をプレスして密度を高めてもよい。また、電極合剤層の目付量は、通常は20~700g/m2であり、好ましくは30~500g/m2である。
【0065】
電極は、上述したように、正極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には正極となり、負極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には負極となる。本実施形態に係る電極は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極として用いることができる。
【0066】
〔非水電解質二次電池〕
本実施形態の非水電解質二次電池は、上記電極を備える。非水電解質二次電池における他の部材については特に限定されるものでなく、例えば、従来用いられている部材を用いることができる。
【0067】
非水電解質二次電池の製造方法としては、例えば、負極層と正極層とをセパレータを介して重ね合わせ、電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。この製造方法において、電極液の注入後の熱プレスによって、電極合剤に含有されるフッ化ビニリデン重合体の少なくとも一部が溶融され、セパレータと接着する。
【0068】
〔まとめ〕
本実施形態に係るバインダーは、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有するフッ化ビニリデン重合体と、オキシムと、を含有する。
【0069】
また、本実施形態に係るバインダーにおいて、前記オキシムが下記式(1)で示される化合物、式(2)で示される化合物、および、ヒドロキシイミノ基を有するポリマーまたはオリゴマーから選択される少なくとも1つのオキシムであることが好ましい。
【化4】
【化5】
前記式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子、アルデヒド基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、または炭素数3~13の複素環基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、R
1とR
2とは互いに結合して、R
1およびR
2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよく、式(2)中、R
7およびR
8はそれぞれ独立して、水素原子、アルデヒド基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、または炭素数3~13の複素環基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、R
7とR
8とは互いに結合して、R
7が結合している炭素原子およびR
8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。
【0070】
また、本実施形態に係るバインダーにおいて、前記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数6~18のアリール基、アルデヒド基または炭素数1~10のアルキル基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、R1およびR2がアルキル基である場合、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよく、前記式(2)中、R7およびR8はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数6~18のアリール基、アルデヒド基または炭素数1~10のアルキル基から選択され、これらの基の水素原子の一部または全部が、炭素数1~10のアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選択される置換基で置換されていてもよく、R7およびR8がアルキル基である場合、R7とR8とは互いに結合して、R7が結合している炭素原子およびR8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。
【0071】
また、本実施形態に係るバインダーにおいて、前記式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基から選択され、R1およびR2がアルキル基である場合、R1とR2とは互いに結合して、R1およびR2が結合している炭素原子とともに環を形成してもよく、前記式(2)中、R7およびR8はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~10のアルキル基から選択され、R7およびR8がアルキル基である場合、R7とR8とは互いに結合して、R7が結合している炭素原子およびR8が結合している炭素原子とともに環を形成してもよい。
【0072】
また、本実施形態に係るバインダーにおいて、前記フッ化ビニリデン重合体は、下記式(3)で示される化合物に由来する構造単位を含有するフッ化ビニリデン重合体であってもよい。
【化6】
式(3)において、R
4は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、または炭素数1~5のアルキル基で置換されたカルボキシル基であり、R
5およびR
6はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、Xは単結合、または、主鎖が原子数1~20で構成される分子量500以下の原子団である。
【0073】
また、本実施形態に係る電極合剤において、前記活物質が下記式(4)で表されるリチウム金属酸化物であって、当該リチウム金属酸化物を水で抽出した際の当該水のpHが10.5以上であることが好ましい。
LiNixCoyMzO2 ・・・(4)
(式(4)中、MはMnまたはAlであり、0<x≦1、0<y≦1、0<z≦1である)
【0074】
また、本実施形態に係る電極合剤において、前記活物質100gに対し、前記オキシムの含有量が0.01~10mmolであることが好ましい。
【0075】
本実施形態に係る電極は、前記電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える。
【0076】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、前記電極を備える。
【0077】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0078】
[調製例1]VDF/APS共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1096g、メトローズ90SH-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロン225cb溶液2.2g、フッ化ビニリデン426g、およびアクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)の初期添加量0.2gの各量を仕込んだ。26℃まで1時間で昇温後、26℃を維持し、6wt%のAPS水溶液を0.5g/minの速度で徐々に添加した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させて、極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/APS共重合体)を得た。APSは、初期に添加した量を含め、全量4.0gを添加した。
【0079】
[調製例2]VDF/HFP/APS共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1048g、メトローズSM-100(信越化学工業(株)製)0.62g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロン225cb溶液3.95g、フッ化ビニリデン374g、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)40g、およびAPSの初期添加量0.37gの各量を仕込み、29℃に加熱した。重合中に圧力を一定に保つ条件で、2wt%APS水溶液を反応容器に連続的に供給した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させて、フッ化ビニリデン共重合体(VDF/HFP/APS共重合体)を得た。APSは、初期に添加した量を含め、全量3.66gを添加した。
【0080】
[調製例3]VDF/AA共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水900g、メトローズ90SH-100(信越化学工業(株)製)0.4g、50wt%パーブチルパーピバレート-フロン225cb溶液4g、フッ化ビニリデン396g、およびアクリル酸(AA)の初期添加量0.2gの各量を仕込み、50℃に加熱した。重合中に圧力を一定に保つ条件で、3重量%AA水溶液を反応容器に連続的に供給した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させて、フッ化ビニリデン共重合体(VDF/AA)を得た。AAは、初期に添加した量を含め、全量1.96gを添加した。
【0081】
[調製例4]VDF/MMM共重合体の調製
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メトローズ90SH-100(信越化学工業(株)製)0.8g、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート2g、フッ化ビニリデン396gおよびマレイン酸モノメチルエステル4gの各量を仕込み、28℃で懸濁重合した。得られた重合体スラリーを脱水および乾燥させて、フッ化ビニリデン共重合体(VDF/MMM)を得た。
【0082】
[調製例5]ポリ(メチルビニルオキシム)の合成
窒素置換した200mL三口フラスコに、メチルビニルケトン10g(143mmol)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)1g(6mmol)、および20分間窒素バブリングしたトルエン40mLを入れ、70℃で3.5時間攪拌した。攪拌後の反応溶液を多量のヘキサンに加え、析出したポリ(メチルビニルケトン)を含む粗生成物を回収した。続いて得られた粗生成物全量、硫酸ヒドロキシルアミン12.8g(78mmol)およびピリジン60mLを200mL三口フラスコに入れ、80℃で4時間攪拌した。攪拌後の反応溶液を多量の純水に加え、析出物を濾別し、目的物のオキシムポリマーであるポリ(メチルビニルオキシム)を6.8g、収率56%で得た。
【0083】
[実施例1]電極合剤の調製
電極活物質としてNCA811を使用した。NCA811に、導電助剤としてカーボンブラック(SP:Timcal Japan社製 SuperP(登録商標)、平均粒子径:40nm、比表面積:60m 2/g)を加え、粉体混合を行った。
【0084】
調製例1で得られたVDF/APS共重合体およびアセトキシムをN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と示す)に溶解し、バインダー溶液を作製した。当該バインダー溶液は、6wt%のフッ化ビニリデン重合体と、フッ化ビニリデン重合体1gに対して0.34mmolのアセトキシムと、を含む。またこの時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するアセトキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.34mmolであった。
【0085】
NCA811およびカーボンブラックの混合物に対し、バインダー溶液を2回に分けて添加し、混練を行った。具体的には、固形分濃度が81.5wt%となるようにバインダー溶液を添加し、2000rpmで2.5分間1次混練を行った。次いで、残りのバインダー溶液を添加して固形分濃度を75wt%とし、2000rpmで3分間2次混練を行うことで、電極合剤を得た。得られた電極合剤における、電極活物質、カーボンブラック、およびVDF/APS共重合体の重量比(電極活物質:カーボンブラック:VDF/APS共重合体)は、100:2:2であった。
【0086】
[実施例2]電極合剤の調製
バインダー溶液中のアセトキシムの量をフッ化ビニリデン重合体1gに対して0.17mmolとした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するアセトオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.17mmolであった。
【0087】
[実施例3]電極合剤の調製
バインダー溶液中のアセトキシムの量をフッ化ビニリデン重合体1gに対して0.84mmolとした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するアセトオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.84mmolであった。
【0088】
[実施例4]電極合剤の調製
バインダー溶液中のアセトキシムの量をフッ化ビニリデン重合体1gに対して0.09mmolとした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するアセトオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.09mmolであった。
【0089】
[実施例5]電極合剤の調製
アセトキシムを2-ブタノンオキシムに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対する2-ブタノンオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.34mmolであった。
【0090】
[実施例6]電極合剤の調製
アセトキシムをシクロヘキサノンオキシムに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するシクロヘキサノンオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.34mmolであった。
【0091】
[実施例7]電極合剤の調製
アセトキシムをアセトアルデヒドオキシムに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するアセトアルデヒドオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.34mmolであった。
【0092】
[実施例8]電極合剤の調製
アセトキシムをベンズアルデヒドオキシムに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するベンズアルデヒドオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.34mmolであった。
【0093】
[実施例9]電極合剤の調製
アセトキシムを2,3-ブタンジオンモノオキシムに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対する2,3-ブタンジオンモノオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.34mmolであった。
【0094】
[実施例10]電極合剤の調製
アセトキシムをジメチルグリオキシムに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。この時、フッ化ビニリデン重合体1gに対するジメチルグリオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量は0.67molであった。
【0095】
[実施例11]電極合剤の調製
調製例1で得られたVDF/APS共重合体を、ホモポリマーであるKF#7300(株式会社クレハ製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0096】
[実施例12]電極合剤の調製
調製例1で得られたVDF/APS共重合体を、調製例2で得られたVDF/HFP/APS共重合体とした以外は、実施例3と同様に電極合剤を調製した。
【0097】
[実施例13]電極合剤の調製
調製例1で得られたVDF/APS共重合体を、調製例4で得られたVDF/MMM共重合体とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0098】
[実施例14]電極合剤の調製
調製例1で得られたVDF/APS共重合体を、調製例3で得られたVDF/AA共重合体とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0099】
[実施例15]電極合剤の調製
アセトキシムをポリ(メチルビニルオキシム)に変更し、バインダー溶液に含まれるポリ(メチルビニルオキシム)を、フッ化ビニリデン重合体1gに対して、ポリ(メチルビニルオキシム)が有するヒドロキシイミノ基の量が0.34mmolとなる量にした以外は、実施例11と同様に電極合剤を調製した。
【0100】
[比較例1]電極合剤の調製
バインダー溶液にアセトキシムを添加しなかった以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0101】
[比較例2]電極合剤の調製
バインダー溶液にアセトキシムを添加しなかった以外は、実施例11と同様に電極合剤を調製した。
【0102】
[比較例3]電極合剤の調製
アセトキシムをヒドロキノンに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0103】
[比較例4]電極合剤の調製
アセトキシムを3,5-ジメチルピラゾールに変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0104】
[比較例5]電極合剤の調製
アセトキシムをイソシアネート化合物MOI-BP(昭和電工株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。MOI-BPは、2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリラートである。
【0105】
[比較例6]電極合剤の調製
バインダー溶液にアセトキシムを添加しなかった以外は、実施例12と同様に電極合剤を調製した。
【0106】
[比較例7]電極合剤の調製
バインダー溶液にアセトキシムを添加しなかった以外は、実施例13と同様に電極合剤を調製した。
【0107】
[比較例8]電極合剤の調製
バインダー溶液にアセトキシムを添加しなかった以外は、実施例14と同様に電極合剤を調製した。
【0108】
[評価例1]電極活物質のpH測定
電極活物質(NCA811)のpHは、電極活物質を水で常温(25℃)抽出した時の水のpHとした。電極活物質の水への抽出はJIS K 5101-16-2に規定される抽出方法で行った。具体的には、電極活物質重量の50倍量の超純水に電極活物質を入れ、マグネチックスターラーにて回転数:600rpmで10分間撹拌を行い、その溶液を(株)堀場製作所製pHメーターMODEL:F-21を用いてpH測定を行った。NCA811を水で抽出した際の抽出後のpHは11.5であった。
【0109】
[評価例2]フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(ηi)の測定
フッ化ビニリデン重合体80mgを20mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解することによって重合体溶液を作製した。作製した重合体溶液の粘度ηを、30℃の恒温槽内においてウベローデ粘度計を用いて測定した。そして、以下の式からインヘレント粘度(ηi)を算出した。
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
上記式中、η0は溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度、Cは作製した重合体溶液におけるフッ化ビニリデン重合体の濃度(0.4g/dL)である。
【0110】
[評価例3]フッ化ビニリデンおよびコモノマーの構成単位量の測定
重合体粉末の1H NMRスペクトルを下記条件で求めた。装置として、AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター(Bruker社製)を使用した。
<測定条件>
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO-d6
測定温度:25℃
【0111】
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびコモノマーに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルから算出した。具体的には、主としてコモノマーに由来するシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルとの積分強度に基づき算出した。
【0112】
コモノマーとしてアクリル酸に由来する構造を有するコモノマーを用いた場合には、重合体におけるアクリル酸に由来する構造を含む構成単位の量を0.03mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた中和滴定により求めた。より具体的には、重合体0.3gをアセトン9.7gに約80℃で溶解した後、3gの純水を加えることで被滴定溶液を調製した。指示薬として、フェノールフタレインを用い、室温下、0.03mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定を行った。
【0113】
[評価例4]電極合剤のスラリー粘度の測定
実施例および比較例で得られた電極合剤について、40℃、窒素雰囲気下にて所定の時間(24時間または168時間)保存した。そして、E型粘度計を用いて、25℃、せん断速度2s -1で測定を行った。粘度は、スラリー(電極合剤)を測定装置に仕込んでから60秒待機し、その後ローターを回転させることで測定を行った。また、ローターの回転開始から300秒後の値をスラリー粘度とした。調製直後の電極合剤のスラリー粘度を初期スラリー粘度とした。
【0114】
実施例および比較例の電極合剤の調製に使用した材料を表1に示す。表1中、「VDF/コモノマー」は、フッ化ビニリデン重合体中の、VDFの割合(重量比)/コモノマーの割合(重量比)を示す。実施例12および比較例6は、フッ化ビニリデン重合体中の、VDFの割合(重量比)/コモノマーであるHFPの割合(重量比)/コノマーであるAPSの割合(重量比)を示す。MMMは、マレイン酸モノメチルを示す。比較例5のイソシアネート化合物は、2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリラートである。また、ヒドロキシイミノ基の量は、バインダー中のフッ化ビニリデン重合体1gに対するオキシムが有するヒドロキシイミノ基の量(mmol/gフッ化ビニリデン重合体)である。
【0115】
【0116】
実施例および比較例の電極合剤の評価結果を表2に示す。実施例12~14および比較例1~8の電極合剤については、168時間保存後のスラリー粘度の測定を行っていない。
【0117】
【0118】
表1および2より、オキシムを含有するバインダーを使用した実施例1~15の電極合剤は、24時間保存後のスラリー粘度が初期スラリー粘度よりも下がっていた。一方、オキシムを含有しないバインダーを使用した比較例1~8の電極合剤は24時間保存後のスラリー粘度が初期スラリー粘度よりも上昇していた。このことから、実施例1~15の電極合剤はゲル化耐性が高いことが分かった。特に、実施例1、3、5、6、10および11の電極合剤は、168時間保存後のスラリー粘度が初期スラリー粘度よりも減少しており、優れたゲル化耐性を有していることが分かった。