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特開2024-7153スタッド溶接機及びスタッド溶接機における溶接不良防止方法
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  • 特開-スタッド溶接機及びスタッド溶接機における溶接不良防止方法 図1
  • 特開-スタッド溶接機及びスタッド溶接機における溶接不良防止方法 図2
  • 特開-スタッド溶接機及びスタッド溶接機における溶接不良防止方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007153
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】スタッド溶接機及びスタッド溶接機における溶接不良防止方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
B23K9/20 D
B23K9/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108426
(22)【出願日】2022-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売した場所:株式会社千勝金属(大阪府大阪市平野区加美東4丁目2-18) 販売日:令和4年3月1日
(71)【出願人】
【識別番号】511236121
【氏名又は名称】株式会社日本フラッシュ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平田 康司
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
(57)【要約】
【課題】スタッドと母材との間の距離の不良に起因する溶接不良を防止することができるスタッド溶接技術を提供する。
【解決手段】本発明のスタッド溶接機1は、母材WにスタッドSを溶接するための溶接ガン2と溶接ガン2を制御する制御部とを備えるものであって、溶接ガン2をZ軸方向下方に移動させ溶接ガン2の先端に配備されたスタッドSを母材Wに押し付けた際に、溶接ガン2に対するスタッドSの上方への移動量を計測する変位計26が設けられており、変位計26が計測した移動量を基に、制御部は溶接ガン2の動作を制御するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材にスタッドを溶接するための溶接ガンと前記溶接ガンを制御する制御部とを備えるスタッド溶接機であって、
前記溶接ガンをZ軸方向に移動させ、前記溶接ガンの先端に配備された前記スタッドを前記母材に押し付けた際に、前記溶接ガンに対する前記スタッドの上方への移動量を計測する変位計が設けられており、
前記変位計が計測した移動量を基に、前記制御部は前記溶接ガンの動作を制御するように構成されている
ことを特徴とするスタッド溶接機。
【請求項2】
前記溶接ガンは、中空状となっている長尺の筒体と、前記筒体の中空部分を貫通する貫通棒体を有し、
前記貫通棒体の下端には、前記スタッドを掴むためのチャックが取り付けられ、前記貫通棒体の上端は前記筒体の上方から突出しており、前記貫通棒体の上方突出部位にはキャップ部材が嵌め込まれていて、前記キャップ部材と前記筒体の上端との間には付勢部材が配備されており、
前記貫通棒体の上端には、前記筒体からの前記貫通棒体の上昇量を検出するための変位計が配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスタッド溶接機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載したスタッド溶接機において、前記制御部は、前記変位計の値が基準範囲内であれば正常なスタッド溶接が可能であると判断して前記溶接ガンによる溶接を行い、前記変位計の値が基準範囲外であれば前記溶接ガンによる溶接を行わない
ことを特徴とするスタッド溶接機における溶接不良防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接機において溶接不良を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スタッドを母材に溶接する方法としてスタッド溶接がある。特に、CD方式スタッド溶接機(Capacitor Discharge Stud Welding)は広く使用されるものとなっている。CD方式スタッド溶接は、交流電源をもとに大容量のコンデンサを充電し、このコンデンサからの放電を利用してスタッドと母材を溶接する方式であり、スタッドの下端と母材の間にアークを形成し、スタッドの下端と母材を溶融した後、溶融部分同士を圧接して、スタッドを母材に溶着するものとなっている。
【0003】
スタッド溶接に関する公知文献としては、例えば、特許文献1や特許文献2がある。
特許文献1は、スタッド部材である溶接チップを保持するチャックと、前記チャックを連結するとともに正極側電気コードに接続されるチップホルダーと、前記チップホルダーを付勢する加圧スプリングと、接地側電気コードが接続されるアース元パイプと、前記チップホルダーと前記アース元パイプを絶縁する絶縁パイプと、前記アース元パイプに接続される円筒状金属のアースパイプと、溶接指示信号を出すためのスイッチとを具備するスタッド溶接ガンを開示する。
【0004】
特許文献2は、スタッドを保持するスタッド保持手段とスタッドを母材に圧接したり母材から離したりするように前記保持手段を移動させる駆動手段とを有する溶接ガンと、スタッドと母材の間に所定の電力を供給するように溶接ガンに接続された電源と、母材から離したスタッドと母材の間にアークを形成するように電源及び前記駆動手段を制御するとともに、前記アークの継続によってスタッド先端部分と母材部分を溶融した後、溶融後のスタッド部分を溶融後の母材部分に圧接するように前記駆動手段を制御するコントローラとを備えたスタッド溶接機において、前記溶接ガンには、前記駆動手段と前記スタッド保持手段との間に、溶融後のスタッド部分を溶融後の母材部分に圧接する際の反動を緩衝する緩衝手段が設けられているスタッド溶接機を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-346710号公報
【特許文献2】特開2000-301342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたスタッド溶接技術では、作業員が手で把持可能な溶接ガンを使用するものとなっている。このような装置とは別に、XYZ方向に移動可能なキャリッジ(移動機構)や多関節ロボットに溶接ガンを搭載した自動型スタッド溶接機も市場に多く出回っている。
このようなスタッド溶接機はキャリッジ等を制御する制御部(NC装置)を備える。作業者は制御部にスタッド溶接機を動作させるためのデータを入力する。また、スタッド溶接機には、溶接される多種類のスタッドが配備されたマガジンが設けられており、このマガジンには、各種スタッドがその向きが一定となるように装填される。
【0007】
キャリッジに取り付けられた溶接ガンには、制御部によりマガジンから所定のスタッドが取り付けられ、母材の所定位置まで移動しその位置にスタッドを溶接する。
ところが、実際の現場では、マガジンにスタッドを装填するに際し、人為的なミスが発生することが否めない。スタッドの上下向きが逆になったまま装填されていたり、異なったスタッドがマガジンに装填されている可能性もある。
【0008】
その場合、図2(b)~図2(e)に示すように、スタッドの下端(フランジと突起が設けられた部位)から母材までの距離が、制御部のプログラムの値とは異なり、制御部の司令どおりにキャリッジが移動し溶接ガンが作動したとしても、溶接不良が発生する原因となっていた。
特許文献1は、作業員が溶接ガンを手で把持して溶接を行うものであるため、上記の問題を解決するものとはなっていない。特許文献2の技術は、スタッドを母材に圧接させるときの圧接力を調整する技術であり、図2(b)~図2(e)に示すような、スタッド~母材間の距離不良に伴う溶接不具合を防止できる技術とは異なるものである。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、スタッド溶接機において、スタッド~母材間の距離の不良に起因する溶接不良を防止することのできるスタッド溶接技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかるスタッド溶接機は、母材にスタッドを溶接するための溶接ガンと前記溶接ガンを制御する制御部とを備えるスタッド溶接機であって、前記溶接ガンをZ軸方向に移動させ前記溶接ガンの先端に配備された前記スタッドを前記母材に押し付けた際に、前記溶接ガンに対する前記スタッドの上方への移動量を計測する変位計が設けられており、前記変位計が計測した移動量を基に、前記制御部は前記溶接ガンの動作を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記溶接ガンは、中空状となっている長尺の筒体と、前記筒体の中空部分を貫通する貫通棒体を有し、前記貫通棒体の下端には、前記スタッドを掴むためのチャックが取り付けられ、前記貫通棒体の上端は前記筒体の上方から突出しており、前記貫通棒体の上方突出部位にはキャップ部材が嵌め込まれていて、前記キャップ部材と前記筒体の上端との間には付勢部材が配備されており、前記貫通棒体の上端には、前記筒体からの前記貫通棒体の上昇量を検出するための変位計が配設されているとよい。
【0012】
本発明にかかるスタッド溶接機における溶接不良防止方法は、上記したスタッド溶接機において、前記制御部は、前記変位計の値が基準範囲内であれば正常なスタッド溶接が可能であると判断して前記溶接ガンによる溶接を行い、前記変位計の値が基準範囲外であれば前記溶接ガンによる溶接を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる技術によれば、スタッド溶接機において、スタッドから母材までの距離の不良に起因する溶接不良を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】溶接ガン(特にガンヘッド)及びそれを支持するZ軸キャリッジの模式図である。
図2】スタッドと母材との関係を示した模式図である。
図3】溶接不良防止を実施するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかるスタッド溶接機1、このスタッド溶接機1における溶接不良防止方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。例えば、以降の説明においては、スタッド溶接を自動で行うCD式自動溶接機を念頭に置きながら説明を進めるが、スタッド溶接機1の構成はこれに限定はされない。
【0016】
スタッド溶接機1は、母材Wを設置するテーブル、母材Wに溶接されるスタッドSが装填されるマガジン(スタッドフィーダ)、溶接ガン2、溶接ガン2をX軸方向(左右方向)に移動させるX軸キャリッジ、溶接ガン2をY軸方向(前後方向)に移動させるY軸キャリッジ、溶接ガン2をZ軸方向(上下方向、又は母材に遠近する方向)に移動させるZ軸キャリッジ3、溶接電源部、これらを制御する制御部を備えるものとなっている。キャリッジは多関節ロボットで構成されていてもよい。
【0017】
まず、テーブルには、スタッドSが溶接される母材Wが載置される。図示はしないが、母材Wが設置されるテーブルには、このテーブル上に載置された母材Wを位置決めする位置決め機構を備えることが好ましいが、単なる設置台であってもよい。テーブルに配置された母材Wには、アースケーブルが接続され、アースケーブルは溶接電源部へとつながっている。
【0018】
溶接ガン2はX軸キャリッジやY軸キャリッジによってX軸方向やY軸方向に移動自在である。図1に示す如く、Z軸キャリッジ3によってZ軸方向にも移動可能である。
図1のように、溶接ガン2は中空状となっている長尺の筒体21を有している。
筒体21は上下方向を向くように配備され、Z軸キャリッジ3に連結されている。筒体21内に上下を向くように形成された中空部には、この中空部を貫通するように貫通棒体22が配備されている。貫通棒体22の下端には、スタッドSを掴むためのチャック23が取り付けられている。チャック23内には、スタッドSが必要以上にチャック23内に入り込むことを防ぐストッパー棒体28が上方から挿入されている。
【0019】
貫通棒体22の上端は筒体21から上方へ突出しており、その突出部分(筒体21から突出した貫通棒体22)の中央部には、キャップ部材24が嵌め込まれている。キャップ部材24と筒体21の上端との間には付勢部材25である弦巻バネが配備されている。
この付勢部材25により、Z軸キャリッジ3で筒体21を下方に下げ、チャック23に差し込まれたスタッドSの下端に形成された突起部STが母材Wに接する位置まで、溶接ガン2を移動させることができる。突起部STを母材Wに接触させた後、更に筒体21を下に下げる(再降下させる)ことで、筒体21よりも貫通棒体22が上方に突出するようになり弦巻バネが伸長される。この伸長による付勢力(スタッドSを母材Wに押し付ける力)により、溶接開始後の溶融状態で、スタッドSを母材W側に押し付けて溶接を確実なものとする。
【0020】
詳細は後述するが、本発明の特徴的な構成として、貫通棒体22の上端には、変位計26(リニアゲージ)が取り付けられている。この変位計26は、再降下時における貫通棒体22の上昇量(上昇距離)を計測することができるものである。計測精度は1ミクロン程度が好ましい。この変位計26の測定値は、デジタル信号として、制御部へ取り込まれ、後に述べる処理を施された上で溶接不良防止の判定に用いられる。制御部としては、PLCやパソコンが採用される。
【0021】
本実施形態で述べるスタッド溶接機1は、複数の種類のスタッドSを溶接可能となっている。そのため、スタッド溶接機1の所定位置には、複数のスタッドSを格納しておくことができるマガジンが配置されており、このマガジンに縦置きの状態でスタッドSが積み重なるように配備される。
スタッドSは、その径が様々であり長さも様々である。また、図2に示す如く、スタッドSの先端部はフランジ状のフランジ部SFとなっており。その中央には突起部STが形成されている。この突起部STが母材Wと接し、更には所定の圧力で押し付けられた状態となるように、Z軸キャリッジ3で筒体21は降下される。
【0022】
以上述べたスタッド溶接機1の作動態様について述べる。
まず、スタッド溶接機1に備えられた制御部には、スタッドSごとに当該スタッドSを溶接するときの溶接条件、溶接位置などが格納されている。この格納されたデータに従い、各キャリッジは溶接ガン2を移動させる。まず、溶接対象のスタッドSを把持可能なチャック23を取り付けに行き、その後、マガジンに装填されたスタッドSをチャック23に取り付ける。その後、各キャリッジは溶接ガン2を母材W上の所定の位置(特にXY位置)に持ってゆき、Z軸キャリッジ3により溶接ガン2を下降させて母材WにスタッドSを溶接する(図2(a)参照)。
【0023】
詳しくは、Z軸キャリッジ3によりスタッドSの先端にある突起部STが母材Wに接する位置まで移動させる。さらに、その位置より数ミリ下方に再降下させる。これによりスタッドSに押圧力を加えるようにしている。スタッドSが母材Wに接触し、その後、Z軸キャリッジ3が再降下すると、貫通棒体22は変位計26の測定子27を押し上げて、変位計26が計測を開始し、計測値は制御部へと送信される。
【0024】
その後、後述する「溶接不良判定ロジック」にて正常と判定された場合、制御部は溶接電源部を通じて、スタッドSに規定された電流を流し溶接を開始する。溶接終了後は、Z軸キャリッジ3は上昇し溶接ガン2は上方へ移動して、次のスタッドSを把持すべくマガジンへと移動する。
従来、上記した溶接過程において、次のような問題が起こることがまれにあった。すなわち、マガジンにスタッドSを装填するのは作業員であり、人為的なミスが発生することが否めなかった。
【0025】
例えば、マガジンにスタッドSを上下逆に装填することが考えられる。その場合、図2(b)に示すように、Z軸キャリッジ3により溶接ガン2を下げて、スタッドSの突起部STが母材Wに接する位置(プログラムに則った位置)まで移動させたとしても、スタッドSと母材Wとの間に隙間が空いた状態となる。
マガジンに誤ったスタッドS(例えば、規定より長尺のスタッドS)を装填することが考えられる。その場合、図2(c)に示すように、Z軸キャリッジ3により溶接ガン2を下げて、スタッドSの突起部STが母材Wに接する位置(プログラムに則った位置)まで移動させた際には、スタッドSの先端が必要以上に降下した位置に達する不都合が生じる。マガジンに誤ったスタッドS(例えば、規定より短尺のスタッドS)を装填することが考えられる。その場合、図2(d)に示すように、Z軸キャリッジ3により溶接ガン2を下げて、スタッドSの突起部STが母材Wに接する位置(プログラムに則った位置)まで移動させたとしても、スタッドSと母材Wとの間に大きな隙間が空いた状態となる。
スタッド溶接では、スタッドSの突起部STを母材Wに押し付け溶接を行う。突起部STが存在しない方を母材Wに押し付けたり、スタッドSと母材Wとの間に大きな隙間が空いた状態のまま、溶接電流を流しても(溶接信号をONにしても)高強度の溶接はできず溶接不良となる。
【0026】
また、図2(d)に示すように、先端にある突起部STの潰れたスタッドSが装填された場合、Z軸キャリッジ3により溶接ガン2を下げて、スタッドSの突起部STが母材Wに接する位置(プログラムでの位置)まで移動させたとしても、スタッドSと母材Wとの間に隙間が空いた状態となる。なお、スタッドSの突起部STが潰れる原因としては、製造過程などでの不具合が考えられる。
【0027】
いずれの状況であっても、予定された「スタッドS~母材W間の距離」ではないので、正しい条件で溶接がなされず、強度不足などの溶接不良を起すことになる。
次に、変位計26が読み取った値をもとに、溶接不良を起こしかねない状況を検出し、溶接不良を防止する考え方(溶接不良防止ロジック)について説明する。
このロジックは、図3のフローチャートで示されるものであって、制御部で実施され、各構成部材(例えば、Z軸キャリッジ3など)へ制御司令が発せられる。
【0028】
まず、溶接作業を開始すると、溶接ガン2は各キャッリッジで移動しチャックステーションでチャック23を先端に取り付ける(S1,S2)。
その後、溶接ガン2は各キャッリッジによりマガジンへ移動し、マガジンでチャック23にスタッドSが挿入されて取り付いた状態となる。(S3,S4)。
その後、溶接ガン2はキャッリッジで移動し、溶接位置へ移動する(S5)。
【0029】
続いて、Z軸キャリッジ3によりスタッドSの下端にある突起部STが母材Wに接する位置(ブログラムでの設定値)まで降下及び再降下する(S5、S6)。この際、付勢部材25により、スタッドSに押圧力が加わるようになる。スタッドSが母材Wに接触し更にZ軸キャリッジ3が降下すると、貫通棒体22は変位計26の測定子27を押し上げる。測定子27の押し上げ量を変位計26自体が測定し、その測定値を制御部へ送信する(S7)。
【0030】
制御部では「変位計26の計測値が3mm±0.3mmの範囲内か?(基準範囲内と呼ぶこともある)」が判定される。基準範囲内であれば(S8でYes)、溶接ガン2の先端部分の状況、言い換えれば、スタッドSと母材Wとの距離は図2(a)の如く適正なものであり、この状態で溶接電流を流し溶接を行うと最適な溶接が行われる(S9)。なお、基準範囲の幅(公差)は0.3mmとしているがこの値に限定はされない。
【0031】
一方、制御部では「変位計26の値が3mm±0.3mmの範囲内か?」が判定され、基準範囲外となったとする(S8でNo)。基準範囲外であれば、溶接ガン2の先端部分の状況、言い換えれば、スタッドSの下端から母材Wまでの距離は、図2(b)~図2(e)のような状況であると判定する。すなわち、スタッドSがチャック23に逆さに取り付けられていたり、長尺又は短尺のスタッドSが取り付いていたり、突起部STが潰れているスタッドSが取り付いていると判定する。
【0032】
このような状況(図2(b)~図2(e))で溶接を行うと適正な溶接が行われないため、この状態で溶接電流を流すことはしない。溶接を行わず、Z軸キャリッジ3により溶接ガン2を上昇させ作業を停止する(S10)。作業員に警告を出すなどした上で、チャック23から不良スタッドSを抜き取り、正しいスタッドSに交換したりスタッドSの向きを変更する(S11)。かかる操作により溶接不良を未然に防ぐことが可能となる。
【0033】
すなわち、図3のフローチャートに則れば、スタッド溶接機1において、スタッドSから母材Wまでの距離の不良に起因する溶接不良を防止することができる。
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
例えば、変位計26で計測されるスタッドSの押し込み量は3mmに限定されない。溶接ガン2の形態やスタッドSの大きさなどにより適宜変更してもよい。同様に公差も0.3mmに限定されるものではなく、適切な値を選択すればよい。
【0034】
また、実施の形態では、キャリッジを用いて溶接ガン2を移動させていたが、多関節ロボットの先端に溶接ガン2を取り付けてもよい。作業員が溶接ガン2を把持するようにしてもよい。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、作動条件や操作条件、構成物の寸法、重量などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0035】
1 スタッド溶接機
2 溶接ガン
3 Z軸キャリッジ
21 筒体
22 貫通棒体
23 チャック
24 キャップ部材
25 付勢部材
26 変位計
27 測定子
28 ストッパー棒体
S スタッド
SF フランジ部
ST 突起部
W 母材
図1
図2
図3