(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071740
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】プランジャーおよびコンタクトプローブ
(51)【国際特許分類】
G01R 1/067 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
G01R1/067 C
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059258
(22)【出願日】2024-04-01
(62)【分割の表示】P 2020569566の分割
【原出願日】2020-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019012725
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢一
(57)【要約】
【課題】通電検査において摩耗や損耗を発生しにくくするプランジャーを提供する。
【解決手段】プランジャーは、導電性の母材と、前記母材の外側に設けられた金(Au)又はパラジウム(Pd)を主成分とする被覆層と、前記被覆層を下地めっき層としてその外側に設けられた白金族元素を主成分とする白金族層と、を有し、前記下地めっき層はストライクめっきであって、前記被覆層は、前記母材の外側全体に設けられ、前記白金族層は、前記被覆層の外側全体に設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の母材と、
前記母材の外側に設けられた金(Au)又はパラジウム(Pd)を主成分とする被覆層と、
前記被覆層を下地めっき層としてその外側に設けられた白金族元素を主成分とする白金族層と、を有し、
前記下地めっき層はストライクめっきであって、
前記被覆層は、前記母材の外側全体に設けられ、前記白金族層は、前記被覆層の外側全体に設けられる、
プランジャー。
【請求項2】
検査対象物に接触する先端部を含んで、前記被覆層と前記白金族層を有する、請求項1に記載のプランジャー。
【請求項3】
導電性の基材層と、前記基材層の外側に設けられた金(Au)又はパラジウム(Pd)を主成分とする被覆層と、
前記被覆層を下地めっき層としてその外側に設けられた白金族元素を主成分とする白金族層と、を有し、
前記下地めっき層はストライクめっきであって、
前記被覆層は、前記基材層の外側全体に設けられ、前記白金族層は、前記被覆層の外側全体に設けられる、
プランジャー。
【請求項4】
母材が前記基材層であり、検査対象物に接触する先端部を含んで、前記基材層の外側に前記白金族層を有する、請求項3に記載のプランジャー。
【請求項5】
前記先端部の形状は、円錐形状、角錐形状、球面形状、クラウン形状の何れかである、請求項2又は4に記載のプランジャー。
【請求項6】
前記白金族層は表面層である、請求項1~5の何れか一項に記載のプランジャー。
【請求項7】
前記白金族層は、厚みが0.02μm以上である、請求項1~6の何れか一項に記載のプランジャー。
【請求項8】
前記白金族層は、イリジウム(Ir)を主成分とする、請求項1~7の何れか一項に記載のプランジャー。
【請求項9】
前記白金族層は、ルテニウム(Ru)を主成分とする、請求項1~7の何れか一項に記載のプランジャー。
【請求項10】
前記白金族層は、ロジウム(Rh)を主成分とする、請求項1~7の何れか一項に記載のプランジャー。
【請求項11】
前記白金族層は、オスミウム(Os)を主成分とする、請求項1~7の何れか一項に記載のプランジャー
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載のプランジャーと、端部が前記プランジャーに当接するスプリングと、を備えたコンタクトプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャーおよびプランジャーを備えるコンタクトプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を用いた集積回路や大規模集積回路といった電子部品の電気的特性の検査では、検査対象物と検査用基板とを電気的に接続するためにコンタクトプローブが用いられている。コンタクトプローブは、長手方向に沿って移動可能なプランジャーを有しており、このプランジャーの先端部を、検査対象物である電子部品の電極に弾性的に接触させて通電検査を行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1 : 特開2015-215223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通電検査において、検査対象物に接触させるプランジャーの先端部で摩耗や損耗が発生するという問題が発生している。プランジャーの先端部が摩耗や損耗すると、プランジャーの先端部と検査対象物との間の接触抵抗値が不安定となり、通電検査を正確に行うことが困難となる。近年では、半導体部品の高電流化に伴う検査電流の高電流化によって、この問題がより顕著になっている。
【0005】
本発明の目的の一例は、通電検査において摩耗や損耗を発生しにくくすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、
導電性の母材と、
前記母材の外側に設けられた金(Au)又はパラジウム(Pd)を主成分とする被覆層と、
前記被覆層を下地めっき層としてその外側に設けられた白金族元素を主成分とする白金族層と、を有し、
前記下地めっき層はストライクめっきであって、
前記被覆層は、前記母材の外側全体に設けられ、前記白金族層は、前記被覆層の外側全体に設けられる、プランジャーである。
【0007】
本発明の別の態様は、上述のプランジャーと、端部が前記プランジャーに当接するスプリングと、を備えたコンタクトプローブである。
【発明の効果】
【0008】
本態様によれば、導電性の基材層の外側に、白金族元素を主成分とする白金族層を有するプランジャーを実現することができる。ルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)といった白金族元素は、融点が凡そ2000度超と比較的高く、通電による溶融が発生しにくい。そのため、通電検査において摩耗や損耗を発生しにくくできる。さらに、プランジャーの先端を半田材料に接触させた状態で行う通電検査において、先端部に半田成分が付着しにくく摩耗や損耗も生じにくいプランジャーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】第1試験の試験対象のサンプルの構成を示す図。
【
図5】第1試験のサンプルの損耗量の測定結果を示す図。
【
図11】第1試験のサンプルのFIBによる断面解析写真。
【
図12A】第1試験のサンプルのSEMによる断面画像。
【
図12B】第1試験のサンプルのEDXによる銅(Cu)の成分画像。
【
図12C】第1試験のサンプルのEDXによるルテニウム(Ru)の成分画像。
【
図12D】第1試験のサンプルのEDXによるパラジウム(Pd)の成分画像。
【
図12E】第1試験のサンプルのEDXによる銀(Ag)の成分画像。
【
図12F】第1試験のサンプルのEDXによる金(Au)の成分画像。
【
図13】第2試験の試験対象のサンプルの構成を示す図。
【
図16】第2試験のサンプルの溶融サイズを示す図。
【
図17】第2試験のサンプルのEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図18】第2試験のサンプルのEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図19】第2試験のサンプルのEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図20】第2試験のサンプルのEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図21】第2試験のサンプルのEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図22】第2試験のサンプルのEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図23】第3試験の試験対象のサンプルの構成を示す図。
【
図26】第3試験のサンプルの損耗量の測定結果を示す図。
【
図27A】第3試験のサンプルの接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図27B】第3試験のサンプルの接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図27C】第3試験のサンプルの接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図28】第4試験の試験対象のサンプルの構成を示す図。
【
図31A】第4試験における比較用サンプルの接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図31B】第4試験のサンプルJの接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図31C】第4試験のサンプルKの接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図32】第5試験の試験対象のサンプルの構成を示す図。
【
図37B】第5試験におけるEDXによる金(Au)の成分画像。
【
図37C】第5試験におけるEDXによるパラジウム(Pd)の成分画像。
【
図37D】第5試験におけるEDXによるルテニウム(Ru)の成分画像。
【
図37E】第5試験におけるEDXによるニッケル(Ni)の成分画像。
【
図37F】第5試験におけるEDXによる銅(Cu)の成分画像。
【
図38】第5試験におけるEDXによる定性分析結果を示す図。
【
図39】第5試験における接触抵抗値の測定結果を示す図。
【
図40】第6試験の試験対象のサンプルの構成を示す図。
【
図42A】第6試験のサンプルPの電子顕微鏡写真。
【
図42B】第6試験のサンプルQの電子顕微鏡写真。
【
図42C】第6試験のサンプルRの電子顕微鏡写真。
【
図42D】第6試験のサンプルSの電子顕微鏡写真。
【
図42E】第6試験のサンプルTの電子顕微鏡写真。
【
図42F】第6試験のサンプルUの電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態の一例について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。
【0011】
[構成]
図1は、本実施形態のコンタクトプローブ1の概略構成を示す図であり、長手方向に沿った概略断面図を示している。
図1によれば、コンタクトプローブ1は、第1プランジャー10と、第2プランジャー20と、スプリング30と、バレル40とを有する。第1プランジャー10は、検査対象物に接触するものであり、第2プランジャー20は、検査用基板に接触するものである。スプリング30は、第1プランジャー10と第2プランジャー20とを互いに離れる方向へ付勢する。バレル40は、スプリング30と、第1プランジャー10の根元および第2プランジャー20の根元と、を内部に保持して全体を一体として支持する。
【0012】
ここで、コンタクトプローブ1に対する方向を次のように定める。コンタクトプローブ1の長手方向(
図1中における上下方向)を“上下方向”とする。上下の向きは、第1プランジャー10の側(第2プランジャー20から第1プランジャー10に向かう方向)を“上”、第2プランジャー20の側(第1プランジャー10から第2プランジャーに向かう方向)を“下”とする。また、上下方向に直交する面と水平な方向を“横方向”とする。
【0013】
第1プランジャー10は、導電性の材料で形成される。
図1では、検査対象物に接触する先端部の形状を円錐形状として示しているが、例えば、角錐形状や球面形状、フラット形状、クラウン形状といった検査対象物に応じた他の形状としてもよい。
【0014】
図1の右側の部分拡大図に示すように、第1プランジャー10は、プランジャー母材11の外側に被覆層12が形成され、この被覆層12の外側に白金族層13が形成されている。プランジャー母材11は、例えば、パラジウム,銀,銅等の合金(パラジウム合金)や、ベリリウム銅といった導電性の材料から形成されている。被覆層12は金(Au)又はパラジウム(Pd)を主成分とし、プランジャー母材11と白金族層13との密着性を高めるために形成される下地めっき層である。白金族層13はルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)等の白金族元素を主成分とし、本実施形態では表面層である。白金族層13の厚みは、後述する試験結果が示すように、例えば0.02μm以上であると好適である。被覆層12および白金族層13の形成には、例えば、電気めっきや溶融めっき等の表面処理で実現できる。
【0015】
本実施形態では、被覆層12は、プランジャー母材11の外側全体に形成されている。白金族層13は、被覆層12の外側全体に形成されていてもよいが、検査対象物に接触する先端部である
図1の錐状部分のみ、或いは、錐状のさらに突端部分にのみ形成されていてもよい。
【0016】
第2プランジャー20は、第1プランジャー10と同じ材料による同じ層状構成を有する。第2プランジャー20は、第1プランジャー10と異なる材料で構成されていても良いし、第1プランジャー10と異なる層状構成であっても良い。
【0017】
スプリング30は、ピアノ線やステンレス線により形成されたコイルスプリングである。コイルスプリングの表面では、密着性を高めるために、ニッケル(Ni)による下地めっきの外側に金(Au)によるめっき処理が施されていることが多い。しかし、スプリング30の表面では、ニッケル(Ni)による下地めっきを省略して、金(Au)によるめっき処理が施されている。この金(Au)によるめっき処理は、ニッケル(Ni)による下地めっきを省略した分、めっき層を厚く形成している。スプリング30は、上端が第1プランジャー10の後端部(
図1では下端)に当接し、下端が第2プランジャー20の後端部(
図1では上端)に当接するように、バレル40の内部に保持されている。スプリング30は、第1プランジャー10および第2プランジャー20を互いに離れる方向に付勢する。これにより、第1プランジャー10が検査対象物に接触し、且つ、第2プランジャー20が検査用基板に接触する際に、両方の接触に所定の接触力を与えながら弾性接触させることができる。
【0018】
バレル40は、銅や銅合金などの導電性の材料により、上方および下方に開口した中空の筒形状に形成されている。バレル40は、ニッケル(Ni)を主成分とする電鋳(電気鋳造)により形成しても良い。バレル40の上端および下端の開口径は、バレル40の中央部の内径よりも若干小さく形成されており、第1プランジャー10および第2プランジャー20がバレル40から離れて飛び出てしまうことを規制している。第1プランジャー10の根元側(後端部側、
図1では下端部)にはくびれ部が形成されており、バレル40の上端内側に設けられた環状のくさび部が第1プランジャー10のくびれ部に嵌合されている。これにより、バレル40に対して、第1プランジャー10は突出できないように制限されている。第2プランジャー20は、先端側に比較して根元側(後端部側、
図1では上端部)が太くなるように段差部を設けて形成されている。これにより、バレル40に対して、第2プランジャー20は所定の突出制限まで突出が可能に構成されている。
【0019】
コンタクトプローブ1は、例えば樹脂製のソケットに装着されて使用される。ソケットは、複数の貫通孔を備えており、各貫通孔にコンタクトプローブ1が挿入される。ソケットの両面のうち、一方の面には各コンタクトプローブ1の第1プランジャー10の先端側が突出し、他方の面には各コンタクトプローブ1の第2プランジャー20の先端側が突出する。このソケットは、各コンタクトプローブ1の第2プランジャー20の先端部が検査用基板の電極に接触するように、検査用基板の上に位置決めして載置される。各コンタクトプローブ1の第1プランジャー10の先端部に対して、検査対象物である電子部品の電極が接触するように、ソケットを検査対象物に向けて移動させる、或いは、検査対象物をソケットに向けて移動させる。これにより、検査用基板と検査対象物との間が、コンタクトプローブ1の第2プランジャー20、バレル40、第1プランジャー10を介して電気的に接続される。その後、検査対象物の電気的な検査が実施される。
【0020】
[試験]
本実施形態のプランジャー(第1プランジャー10および第2プランジャー20)の白金族層13について、作用効果を確認するための様々な比較試験を行った。以下では、これらの試験結果の説明を通じて、白金族層13の構成や、本実施形態のプランジャーの作用効果について説明する。
【0021】
第1プランジャー10が検査対象物と接触する際の摩耗や損耗を評価するため、第1プランジャー10のサンプルを作成し、作成したサンプルに対する6種類の試験(第1~第6試験)を行った。サンプルは、パラジウム合金およびベリリウム銅を材料としたプランジャー母材の外側に、めっき層を形成したものである。めっき層は、電気めっきによって形成した。電気めっきでは、めっき液に浸漬させるめっき時間を調整することで、めっき層の厚みを調整することができる。白金族元素を主成分とするめっき層が、本実施形態の白金族層13に該当することとなる。プランジャー母材は、全長3.5mm、外径0.58mmの細い円柱形状であって、検査対象物と接触する先端部を、先端角度60°の丸みを帯びた円錐形状に形成したものである。プランジャー母材の先端部の円錐形状の長さは0.452mmである。以下、各試験について説明する。
【0022】
(A)第1試験
第1試験では通電耐久評価を行った。通電耐久評価とは、サンプルの先端部を検査対象物に接触させながら、検査対象物とサンプルの先端部との間の通電のオン・オフを断続的に繰り返し、サンプルを評価することである。第1試験では、3種類のサンプル(サンプルA,B,C)を用意し、これらに対する通電耐久評価を行った。
図2に試験対象のサンプルの構成を示し、
図3に第1試験の試験条件を示す。
【0023】
図2に示すように、第1試験で用いた3種類のサンプルA,B,Cのうち、サンプルAは、比較用であり、プランジャー母材に金(Au)のめっき層を形成し、白金族層13のめっきは施していないものである。サンプルAのAuめっき層の厚みは1μmである。サンプルBは、プランジャー母材に金の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、イリジウム(Ir)のめっき層を形成したものである。サンプルBは、本実施形態の白金族層13をイリジウム(Ir)の層としたものである。サンプルBのIrめっき層の厚みは0.5μmである。サンプルCは、プランジャー母材に金の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、ルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。サンプルCは、本実施形態の白金族層13をルテニウム(Ru)の層としたものである。サンプルCのRuめっき層の厚みは1μmである。
【0024】
図3に示すように、第1試験では、2種類の通電条件(通電条件α,β)による試験を行った。通電条件αは、印加電流を15アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として、1万2千5百回の繰り返しの通電を行う、条件である。通電条件βは、印加電流を15アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として、2万5千回の繰り返しの通電を行う、条件である。通電条件α,βは、印加電流および印加時間は同じであるが通電回数が異なる条件であるので、試験の手順としては、先ず、通電条件αの試験を行い、印加電流(15A)および印加時間(20ms)を同じとしたまま、続けて1万2千5百回の繰り返しの通電を行うことで、通電条件βの試験を行った。サンプルの先端部に接触させる検査対象物は、半導体パッケージの内部配線として用いられるPPF(Pre Plated Frame)リードフレームとした。
【0025】
図4~
図12Fは、第1試験の結果である。
図4は、サンプルの先端部を横方向から見た拡大写真である。
図4においては9枚の写真を、(1)~(9)として示している。(1)~(3)は、サンプルA(Auめっき)についての写真である。(4)~(6)は、サンプルB(Irめっき)についての写真である。(7)~(9)は、サンプルC(Ruめっき)についての写真である。また、(1),(4),(7)は、試験を行う前の初期状態の写真である。(2),(5),(8)は、通電条件α(通電回数1万2千5百回)の試験後の状態の写真である。(3),(6),(9)は、通電条件β(通電回数2万5千回)の試験後の状態の写真である。
【0026】
図4によれば、通電条件α,βの試験後の状態を初期状態と比較すると、サンプルA(Auめっき)は先端部の損耗が見られるが、サンプルB(Irめっき)およびサンプルC(Ruめっき)は、先端部の顕著な損耗は見られない。
【0027】
図5は、通電条件βの試験後の状態における各サンプルの先端部の損耗量の測定結果である。
図6に示すように、サンプルの初期状態における先端部の円錐形状の長さL、および、通電条件β(通電回数2万5千回)の試験後の状態における先端部の円錐形状の長さL´を測定し、両者の長さの差(=L-L´)を損耗量とした。
【0028】
通電条件βの試験後の状態におけるサンプルの損耗量は、
図5に示すように、サンプルA(Auめっき)の損耗量は6μmであった。これに対して、サンプルB(Irめっき)およびサンプルC(Ruめっき)の損耗は寸法測定上は確認できず、損耗量は0μm、或いはほぼ0μmと言える結果であった。そこで、サンプルB,Cについて、先端部の損耗が実際に生じていないのかどうかを更に確認した。先端部に形成されためっき層の様子を詳細に観察するために、先端部の電子顕微鏡写真を撮影した。
【0029】
図7~
図10は、倍率を2000倍としたサンプルの先端部の電子顕微鏡写真である。
図7は、サンプルB(Irめっき)について、通電条件β(通電回数2万5千回)の試験後の状態の電子顕微鏡写真であり、先端部を上方から見下ろした上面写真である。
図8は、サンプルB(Irめっき)について、通電条件β(通電回数2万5千回)の試験後の状態の電子顕微鏡写真であり、先端部を斜め上方から見下ろした写真である。
図9は、サンプルC(Ruめっき)について、通電条件β(通電回数2万5千回)の試験後の状態の電子顕微鏡写真であり、先端部を上方から見下ろした上面写真である。
図10は、サンプルC(Ruめっき)について、通電条件β(通電回数2万5千回)の試験後の状態の電子顕微鏡写真であり、先端部を斜め上方から見下ろした写真である。
【0030】
図7,
図8によれば、サンプルB(Irめっき)は、先端部のIrめっき層において、接触部分を中心にひび割れが生じているが、Irめっき層の厚みが減少していないことがわかる。
図9,
図10によれば、サンプルC(Ruめっき)は、先端部のRuめっき層においてひび割れが生じておらず、Ruめっき層の厚みが減少していないことが分かる。接触部分を中心に何らかの付着物(
図9,
図10の画像中の白っぽい部分)が存在していることがわかる。この付着物は、接触部分において厚みが最も厚くなっているように見える。
【0031】
続いて、この付着物の分析を行った。付着物の分析として、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)による断面解析を行った。
【0032】
図11は、サンプルC(Ruめっき)の先端部の断面写真であり、Ruめっき層の表面に生じた付着物を含む、上下方向に沿った断面の電子顕微鏡写真である。この断面写真は、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)による断面解析を行って得られた写真である。先端部の断面を左右に3分割して撮影したため、
図11における写真は3枚となっている。3枚の写真を、
図11において左画像~右画像として示している。付着物の厚みが最も厚い断面部分を含む写真を中央画像として、3枚の写真を並べている。
【0033】
図11によれば、異なる材料からなる複数の層が積層していることがわかる。一番上の層として写っている最も外側の層が、付着物に相当する層であると推察される。
【0034】
また、付着物の分析として、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:エネルギー分散型X線分光法)による成分分析を行った。
図12B~
図12Fは、サンプルC(Ruめっき)の先端部の成分分析結果であり、
図11の中央画像に相当する、付着物の厚みが最も厚い断面部分についての成分画像である。この成分画像は、EDXによる成分分析を行うことで得られた画像である。6枚の画像を、
図12A~
図12Fとして示している。
図12Aは、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による断面部分の画像である。
図12Bは、銅(Cu)の成分画像である。
図12Cは、ルテニウム(Ru)の成分画像である。
図12Dは、パラジウム(Pd)の成分画像である。
図12Eは、銀(Ag)の成分画像である。
図12Fは、金(Au)の成分画像である。成分画像において、白色或いは灰色の部分が該当する成分を含む部分であり、明度が高いほど含まれる成分の濃度が高いことを示している。
【0035】
図11,
図12A~
図12Fによれば、
図11の断面写真におけるサンプルC(Auめっき)の構成要素として、下から順に、Pd合金で構成されたプランジャー母材、下地めっき層であるAuめっき層、白金族層13であるRuめっき層、が順に積層されていることがわかる。そして、Ruめっき層の上に付着物が堆積していることがわかる。Ruめっき層にボイド(空洞)が見られるが、顕著なひび割れや溶融は見られない。
【0036】
図12A~
図12Fによれば、付着物は、金(Au)が主な成分であり、パラジウム(Pd)および銀(Ag)を含んでいることがわかる。金(Au)は下地めっき層(Auめっき層)に含まれる成分であるが、付着物と下地めっき層(Auめっき層)との間のRuめっき層に相当する部分に金(Au)は分布していないことから、付着物に含まれる金(Au)は、下地めっき層(Auめっき層)から露出したものでないと判断できる。パラジウム(Pd)および銀(Ag)はプランジャー母材に含まれる成分であるが、付着物とプランジャー母材との間の下地めっき層およびRuめっき層に相当する部分には分布していないことから、付着物に含まれるパラジウム(Pd)および銀(Ag)は、プランジャー母材から露出したものではないと判断できる。銅(Cu)は、プランジャー母材の部分のみに分布しており、他の層に分布していない。ルテニウム(Ru)は、Ruめっき層の部分にのみ分布しており、他の層には分布していない。
【0037】
これらのことから、付着物は、Ruめっき層である白金族層13が溶融することなく付着したものであると考えられる。検査対象物としてサンプルの先端部に接触させたPPFリードフレームの成分が、通電により溶融などしてサンプルの先端部に転移・堆積したものと推察される。
【0038】
(B)第2試験
第2試験ではスパーク評価を行った。スパーク評価は、サンプルの先端部を検査対象物に接触させた状態で通電を開始し、通電状態のままサンプルの先端部を検査対象物から離すことで、サンプルの先端部にスパークを発生させ、当該箇所の溶融状態を評価することである。第2試験では、3種類のサンプル(サンプルD,E,F)を用意し、これらのサンプルに対するスパーク評価を行った。
図13に試験対象のサンプルの構成を示し、
図14に第2試験の試験条件を示す。
【0039】
図13に示すように、第2試験で用いた3種類のサンプルD,E,Fのうち、サンプルDは、比較用であり、プランジャー母材に金(Au)や白金族層13のめっき層を形成していないものである。サンプルEは、プランジャー母材に金(Au)の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、イリジウム(Ir)のめっき層を形成したものである。サンプルEのIrめっき層の厚みは0.5μmである。このサンプルEは、第1試験で用いたサンプルBと同じ構成であり、本実施形態の白金族層13をイリジウム(Ir)の層としたものである。サンプルFは、プランジャー母材に金(Au)の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、ルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。サンプルFのRuめっき層の厚みは1μmである。このサンプルFは、第1試験で用いたサンプルCと同じ構成であり、本実施形態の白金族層13をルテニウム(Ru)の層としたものである。
【0040】
図14に示すように、第2試験では、3種類の通電条件(通電条件γ,δ,ε)による試験を行った。通電条件γは、印加電流を2アンペア(A)としてスパークを発生させる、条件である。通電条件δは、印加電流を5アンペア(A)としてスパークを発生させる、条件である。通電条件εは、印加電流を15アンペア(A)としてスパークを発生させる、条件である。サンプルの先端部に接触させる検査対象物は、金(Au)を主成分とする金合金とした。
【0041】
図15~
図22は、第2試験の結果である。
図15は、サンプルの先端部の電子顕微鏡写真であり、何れも、先端部を上方から見下ろした上面写真である。
図15においては10枚の写真を、
図15において、(1)~(10)として示している。
図15において、(1)と(2)は、サンプルD(めっき無し)の写真である。(3)~(6)は、サンプルE(Irめっき)の写真である。(7)~(10)は、サンプルF(Ruめっき)の写真である。また、(3)と(7)は、試験を行う前の初期状態の写真である。(1),(4),(8)は、通電条件γ(印加電流2A)の試験後の状態の写真である。(2),(5),(9)は、通電条件δ(印加電流5A)の試験後の状態の写真である。(6)と(10)は、通電条件ε(印加電流15A)の試験後の状態の写真である。サンプルDについては、通電条件δ(印加電流5A)でスパークによる溶融が非常に広い範囲にわたって生じたため、通電条件ε(印加電流15A)の試験を行っていない。
【0042】
図15によれば、試験後の何れのサンプルについても、接触部分の溶融が生じていることがわかる。試験後の各サンプルについて、接触部分に生じた溶融痕の直径を溶融サイズとして測定した。
図16は、サンプルの先端部の溶融サイズの測定結果である。
図16に示すように、通電条件γ(印加電流2A)の試験後の状態については、サンプルD(めっき無し)の溶融サイズは約100μmであり、サンプルE(Irめっき)の溶融サイズは約15μmであり、サンプルF(Ruめっき)の溶融サイズは約12μmであった。通電条件δ(印加電流5A)については、サンプルD(めっき無し)の溶融サイズは約110μmであり、サンプルE(Irめっき)の溶融サイズは約23μmであり、サンプルF(Ruめっき)の溶融サイズは約18μmであった。
【0043】
通電条件γ,δの試験後の状態に着目すると、サンプルD(めっき無し)では、広い範囲にわたる溶融が生じているが、サンプルE,Fでは、サンプルDに比較して1/4以下の小さな範囲の溶融となっている。このことから、先端部にRuめっき層或いはIrめっき層である白金族層13を形成することで、スパークによる溶融が生じにくくなることがわかる。通電条件ε(印加電流15A)では、サンプルE,Fともに、通電条件γ,δの試験後の状態に比較して広い範囲での溶融が生じている。サンプルE(Irめっき)については、溶融に加えてひび割れが生じていることがわかる。しかし、通電条件εは、通電条件γやδに比べて極めて厳しい条件であり、白金族層13の無いサンプルDでは試験不可能と判断して試験さえも実施しなかった条件である。この通電条件εの試験後のサンプルE,Fの状態が、通電条件γやδの試験後のサンプルDの状態よりも溶融範囲が少ないことは
図15から分かる。白金族層13の有無による作用効果が顕著に表れている。
【0044】
試験後のサンプルの先端部に生じた溶融物に対する成分分析として、EDXによる定性分析を行った。
図17~
図22は、各サンプルの先端部に生じた溶融物の成分分析結果である。何れも、横軸を特性X線のエネルギー値 [keV]、縦軸をカウント数、としており、グラフ中において、固有エネルギー値に相当する元素を併せて表記している。カウント数が多い元素ほど、溶融物に多く含まれていることを示している。
図17は、サンプルE(Irめっき)について、通電条件γ(印加電流2A)の試験後の成分分析結果である。
図18は、サンプルE(Irめっき)について、通電条件δ(印加電流5A)の試験後の成分分析結果である。
図19は、サンプルE(Irめっき)について、通電条件ε(印加電流15A)の試験後の成分分析結果である。
図20は、サンプルF(Ruめっき)について、通電条件γ(印加電流2A)の試験後の定性分析結果である。
図21は、サンプルF(Ruめっき)について、通電条件δ(印加電流5A)の試験後の定性分析結果である。
図22は、サンプルF(Ruめっき)について、通電条件ε(印加電流15A)の試験後の定性分析結果である。
【0045】
図17~
図22によれば、サンプルE,Fの何れについても、通電条件γ(印加電流2A)および通電条件δ(印加電流5A)の試験後に先端部分に生じた溶融物に、パラジウムPdは含まれていない。一方、通電条件ε(印加電流15A)の試験後に先端部に生じた溶融物には、パラジウムPdが含まれている。パラジウムPdは、サンプルのプランジャー母材の材料である。
【0046】
図15の写真に示したように、通電条件γ,δの試験後にサンプルE,Fの先端部に生じた溶融物は、白金族層13(Ruめっき層或いはIrめっき層)が溶融したものである。スパークにより、サンプルの先端部に形成した白金族層13は溶融しているが、プランジャー母材が露出するほどの溶融ではないことがわかる。一方、通電条件ε(印加電流15A)の試験後のサンプルE,Fには、先端部に広い範囲にわたって溶融が生じており、白金族層13(Ruめっき層、Irめっき層)の溶融に加えて、プランジャー母材が溶融していることがわかる。
【0047】
(C)第3試験
第3試験では通電耐久評価を行った。第3試験が第1試験と異なる点は、サンプルの先端部に接触させる検査対象物を半田バーとしたことである。第3試験では、3種類のサンプル(サンプルG,H,I)を用意し、第1試験と同様に、これらに対する通電耐久評価を行った。
図23に、試験対象のサンプルの構成を示し、
図24に、第3試験の試験条件を示す。
【0048】
図23に示すように、第3試験で用いた3種類のサンプルG,H,Iのうち、サンプルGは、比較用であり、プランジャー母材に金(Au)や白金族層13のめっき層を形成していないものである。サンプルHは、プランジャー母材に金(Au)の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、イリジウム(Ir)のめっき層を形成したものである。Irめっき層の厚みは0.5μmである。このサンプルHは、第1試験で用いたサンプルBと同じ構成であり、本実施形態の白金族層13をイリジウム(Ir)の層としたものである。サンプルIは、プランジャー母材に金(Au)の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、ルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。Ruめっき層の厚みは1μmである。このサンプルIは、第1試験で用いたサンプルCと同じ構成であり、本実施形態の白金族層13をルテニウム(Ru)の層としたものである。
【0049】
図24に示すように、第3試験では、3種類の通電条件(通電条件η,θ,λ)による試験を行った。通電条件η,θ,λは、印加時間および通電回数は同じであるが、印加電流が異なる条件である。通電条件ηは、印加電流を5アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として1万2千5百回の繰り返しの通電を行う、条件である。通電条件θは、印加電流を8アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として1万2千5百回の繰り返しの通電を行う、条件である。通電条件λは、印加電流を12アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として1万2千5百回の繰り返しの通電を行う、条件である。
【0050】
図25~
図27は、第3試験の結果である。
図25は、サンプルの先端部を横方向から見た拡大写真である。
図25においては12枚の写真を、(1)~(12)として示している。(1)~(4)は、サンプルG(めっき無し)の写真である。(5)~(8)は、サンプルH(Irめっき)の写真である。(9)~(12)は、サンプルI(Ruめっき)の写真である。また、(1),(5),(9)は、試験を行う前の初期状態の写真である。(2),(6),(10)は、通電条件η(印加電流5A)の試験後の状態の写真である。(3),(7),(11)は、通電条件θ(印加電流8A)の試験後の状態の写真である。(4),(8),(12)は、通電条件λ(印加電流12A)の試験後の状態の写真である。
【0051】
図25によれば、サンプルG,H,Iの何れについても、通電条件η,θ,λの試験後の状態を初期状態と比較すると、先端部が損耗していることがわかる。第1試験におけるサンプルの先端部(
図4参照)と比較してみても、損耗の程度が大きいことがわかる。サンプルH,Iは、それぞれ第1試験のサンプルB,Cと同じ構成である。通電条件η,θ,λは、何れも、第1試験の通電条件α,βと比較して印加電流が低い条件である。従って、検査対象物が半田バーである場合には、第1試験で検査対象物としたPPFリードフレームの場合と比較して、サンプルの先端部が損耗し易い。
【0052】
図26は、各サンプルの先端部の損耗量の測定結果である。
図26では、横軸を通電条件に相当する印加電流、縦軸を損耗量としたグラフである。サンプルG,H,Iそれぞれについて、初期状態(印加電流が0アンペア(A)に相当)、および、通電条件η,θ,λの各試験後の状態、において測定した先端部の損耗量をプロットして示している。また、各プロットに対するフィッティング曲線を暫定的に示した。
【0053】
図26によれば、サンプルG,H,Iの何れについても、印加電流が大きいほど、先端部の損耗量が大きくなることがわかる。また、サンプルH,Iの損耗量をサンプルGの損耗量と比較すると、その差は数~十数nm程度であるが、サンプルIの損耗量のほうが、サンプルHの損耗量よりも小さい。
【0054】
第3試験では、1回の通電毎にサンプルの先端部と検査対象物との間の接触抵抗値を測定した。
図27A~
図27Cは、各サンプルの先端部の接触抵抗値の測定結果である。3つのグラフを1組として3つのグラフ組を、
図27A~
図27Cに示している。
図27Aは、通電条件ηの試験についてのグラフ組である。
図27Bは、通電条件θの試験についてのグラフ組である。
図27Cは、通電条件λの試験についてのグラフ組である。また、各グラフ組の3つのグラフは、左から順に、サンプルG,H,Iのそれぞれについてのグラフである。各グラフは、横軸を通電回数、縦軸を接触抵抗値として、1回の通電毎に測定した接触抵抗値を1つのプロットとして示したグラフである。
【0055】
図27A~
図27Cによれば、何れのグラフについても、通電回数の増加によって接触抵抗値は殆ど変化していない。通電の繰り返しによって接触抵抗値が増加する(悪化する)ことはない。通電条件η,θ,λの何れについても、サンプルH,Iの接触抵抗値を、サンプルG(めっき無し)の接触抵抗値と比較すると、ほぼ同じか僅かに小さい程度である。従って、検査対象物と接触する先端部にRuめっき層或いはIrめっき層である白金族層13を形成することで、接触抵抗値が増加する(悪化する)ことはなく、プランジャーとしての基本的な性能に問題はない。
図26に示したように、通電の繰り返しによってサンプルの先端部が損耗するが、この損耗によって接触抵抗値が増加する(悪化する)ことはない。
【0056】
(D)第4試験
第4試験では通電耐久評価を行った。第4試験が第1試験と異なる点は、Ruめっき層の厚みを更に薄くしたサンプルを用いたことである。第4試験では、2種類のサンプル(サンプルJ,K)を用意し、第1試験と同様に、これらに対する通電耐久評価を行った。
図28に、試験対象のサンプルの構成を示し、
図29に、第4試験の試験条件を示す。
【0057】
図28に示すように、サンプルJは、プランジャー母材の先端部に金(Au)の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、ルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。Ruめっき層の厚みは20.8nm(0.0208μm)である。サンプルKは、プランジャー母材の先端部に金(Au)の下地めっき(ストライクめっき)を施した後に、ルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。Ruめっき層の厚みは185nm(0.185μm)である。何れのサンプルも、本実施形態の白金族層13をルテニウム(Ru)の層としたものと言える。
【0058】
図29に示すように、第4試験では、1種類の通電条件μによる試験を行った。通電条件μは、印加電流を15アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として2万5千回繰り返しの通電を行う、条件である。この通電条件μは、第1試験の通電条件βと同じである。また、検査対象物は、第1試験と同じくPPFリードフレームである。
【0059】
図30,
図31A~
図31Cは、第4試験の結果である。
図30は、サンプルの先端部を横方向から見た拡大写真である。
図30においては4枚の写真を、(1)~(4)として示している。(1)と(2)は、サンプルJについての写真である。(3)と(4)は、サンプルKについての写真である。また、(1)と(3)は、試験を行う前の初期状態の写真である。(2)と(4)は、通電条件μ(通電回数2万5千回)の試験後の状態の写真である。通電条件μの試験後の状態を初期状態と比較すると、サンプルJ,Kの何れについても、先端部に特段の損耗は見られない。
【0060】
図31A~
図31Cは、各サンプルの接触抵抗値の測定結果である。
図31Aは、第1試験で用いたサンプルCの接触抵抗値のグラフである。
図31Bは、第4試験のサンプルJの接触抵抗値のグラフである。
図31Cは、サンプルKの接触抵抗値のグラフである。
図31AのサンプルCのグラフは比較用であり、Ruめっき層の厚みが1μmに形成されたサンプルである。何れのグラフも、横軸を通電回数、縦軸を接触抵抗値として、1回の通電毎に測定した接触抵抗値を1つのプロットとして示したグラフである。
【0061】
図31A~
図31Cによれば、サンプルC,J,Kの何れについても、通電回数の増加によって接触抵抗値が殆ど変化していない。つまり、通電の繰り返しによって接触抵抗値が増加する(悪化する)ことは殆どない。サンプルJ,Kの接触抵抗値を、サンプルCの接触抵抗値と比較すると、その差は数mΩ程度であり、ほぼ同じである。従って、Ruめっき層の厚みを20nmにまで薄くしても、接触抵抗値が増加する(悪化する)ことはない。Irめっき層やRhめっき層、Osめっき層といった白金族元素によるめっき層であっても、Ruめっき層と同様である。
【0062】
(E)第5試験
第5試験では通電耐久評価を行った。第5試験は、上述の第1~第4試験と異なり、プランジャー母材をベリリウム銅(BeCu)合金としたサンプルを用いた試験である。第5試験では、1種類のサンプル(サンプルL)を用意し、第1試験と同様に、これらに対する通電耐久評価を行った。
図32に、試験対象のサンプルの構成を示し、
図33に、第5試験の試験条件を示す。
【0063】
図32に示すように、サンプルLは、ベリリウム銅(BeCu)合金を材料としたプランジャー母材の先端部にパラジウム(Pd)の下地めっき( めっき)を施した後に、ルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。Ruめっき層の厚みは1.0μmである。
【0064】
図33に示すように、第5試験では通電条件νによる試験を行った。通電条件νは、印加電流を15アンペア(A)、印加時間を20ミリ秒(ms)として2万5千回の繰り返しの通電を行う、条件である。この通電条件νは、第1試験の通電条件βと同じである。検査対象物は、第1試験と同じくPPFリードフレームである。
【0065】
図34A~
図39は、第5試験の結果である。
図34A~
図34Bは、初期状態におけるサンプルLの先端部の拡大写真である。
図34Aは、先端部を上方向から見下ろした上面写真である。
図34Bは、先端部を横方向から見た側面写真である。
図35A~
図35Bは、通電条件νの試験後の状態におけるサンプルLの先端部の拡大写真である。
図35Aは、先端部を上方向から見下ろした上面写真である。
図35Bは、先端部を横方向から見た側面写真である。
図34A~
図34B,
図35A~
図35Bによれば、通電条件νの試験後の状態を初期状態と比較すると、サンプルLの先端部に損耗は見られないが、何らかの付着物が存在していることがわかる。
【0066】
図36は、通電条件νの試験後の状態におけるサンプルLの先端部の更なる電子顕微鏡写真であり、走査電子顕微鏡(SEM)による撮影画像である。
図36によれば、サンプルLの先端部に形成したRuめっき層にひび割れや溶融は生じておらず、このRuめっき層の表面に何らかの付着物が堆積していることがわかる。
【0067】
続いて、この付着物に対してEDXによる成分分析を行った。
図37A~
図37Fは、付着物のEDXによる成分画像である。6枚の画像を、
図37A~
図37Fとして示している。
図37Aは、走査電子顕微鏡(SEM)による画像である。
図37Bは、金(Au)の成分画像である。
図37Cは、パラジウム(Pd)の成分画像である。
図37Dは、ルテニウム(Ru)の成分画像である。
図37Eは、ニッケル(Ni)の成分画像である。
図37Fは、銅(Cu)の成分画像である。成分画像において、白色或いは灰色の部分が該当する成分を含む部分であり、明度が高いほど含まれる成分の濃度が高いことを示している。
【0068】
図38は、付着物のEDXによる定性分析結果のグラフである。
図38では、横軸を特性X線のエネルギー値[keV]、縦軸をカウント数、としており、グラフ中において、固有エネルギー値に相当する元素を併せて表記している。
【0069】
図37A~
図37F,
図38によれば、付着物は、パラジウム(Pd)および金(Au)が主な成分であり、ルテニウム(Ru)は含まれていない。従って、付着物は、Ruめっき層が溶融したものではなく、検査対象物としてサンプルの先端部に接触させたPPFリードフレームの成分が転移して堆積したものと推察される。
【0070】
図39は、サンプルLの先端部の接触抵抗値の測定結果である。
図39では、横軸を通電回数、縦軸を接触抵抗値として、1回の通電毎に測定した接触抵抗値を1つのプロットとして示したグラフである。
図39によれば、通電の開始直後(2千回程度まで)は接触抵抗値が若干増加したが、それ以降は、通電回数が増加しても接触抵抗値は殆ど変化していない。つまり、通電の繰り返しによって接触抵抗値が増加する(悪化する)ことはなく、プランジャーとしての基本的な性能に問題はない。
【0071】
(F)第6試験
第6試験では通電耐久評価を行った。第6試験が第3試験と異なる点は、サンプルの先端部を半田材料にコンタクトした状態で長時間通電させたことである。第6試験では、6種類のサンプル(サンプルP,Q,R,S,T,U)を用意し、これらに対する通電耐久評価を行った。
図40に、試験対象のサンプルの構成を示し、
図41に、第6試験の試験条件を示す。
【0072】
図40に示すように、サンプルP,Q,R,S,TとサンプルUとは、プランジャー母材の材料が異なる。サンプルP,Q,R,S,Tのプランジャー母材はパラジウム(Pd)合金である。サンプルUのプランジャー母材はベリリウム銅(BeCu)合金である。6種類のサンプルP,Q,R,S,T,Uのうち、サンプルPは、先端部に表面処理を施さず、めっきをしていない比較用である。
【0073】
サンプルQは、プランジャー母材の先端部にDLC(Diamond-Like Carbon)コーティング(或いはDLC膜コーティングとも呼ばれる)を施したものである。サンプルRは、プランジャー母材の先端部にロジウム(Rh)のめっき層を形成したものである。Rhめっき層の厚みは1.0μmである。サンプルSは、プランジャー母材の先端部にルテニウム(Ru)のめっき層を形成したものである。Ruめっき層の厚みは1.0μmである。サンプルTは、プランジャー母材の先端部に金(Au)のめっき層を形成したものである。Auめっき層の厚みは1.0μmである。
【0074】
サンプルUは、プランジャー母材の先端部にニッケル/パラジウム/ルテニウム(Ni/Pd/Ru)の三つのめっき層を形成したものである。Ni/Pd/Ruめっき層の厚みは1.0μmである。
【0075】
図41に示すように、第6試験では、1種類の通電条件ξによる試験を行った。通電条件ξは、印加電流を1アンペア(A)、印加時間を72時間(h)、雰囲気温度を摂氏120度として、サンプルの先端部を検査対象物に継続的に接触させて通電を行う、条件である。デバイスの検査が高温で長時間にわたる試験となった場合の過酷な条件を想定した。検査対象物は、半田材料(半田ブロック)であり、いわゆる低融点半田である。
【0076】
図42A~
図42Fは、第6試験の結果である。各サンプルの試験後の状態の電子顕微鏡写真であり、先端部を斜め上方から見下ろした写真である。
図42AはサンプルPの写真であり、
図42BはサンプルQの写真であり、
図42CはサンプルRの写真である。
図42DはサンプルSの写真であり、
図42EはサンプルTの写真であり、
図42FはサンプルUの写真である。
【0077】
図42Aによれば、Pd合金のプランジャー母材にめっきを施さなかったサンプルPは、Pd合金内成分と半田成分のSn(すず)とが反応し、PdとSnとの合金が先端部に生成されていることが分かる。サンプルPの先端部は、損耗している。
【0078】
図42B~
図42Fによれば、サンプルQ,R,S,T,Uには先端部に損耗が生じていないことが分かる。
図42Eによれば、サンプルTの先端部にSn(すず)が付着しているが、半田による喰われが生じておらず、先端部に損耗は生じていない。
【0079】
[考察]
コンタクトプローブ1が有する第1プランジャー10および第2プランジャー20の先端部を評価するため、第1プランジャー10を模擬したサンプルに対する6種類の試験(第1~第6試験)を行った。これらの試験結果から、プランジャーの先端部に、ルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)などの白金族元素を主成分とする白金族層13を、厚みが0.02μm以上のめっき層として形成することで、高電流の通電検査においても、検査対象物と接触させる先端部が摩耗や損耗しにくい、ことが確認された。
【0080】
第1試験では、サンプルBおよびサンプルCの何れについても、15Aの高電流による2万5千回の繰り返しの通流を行った後に、その先端部に顕著な損耗は見られなかった。サンプルBは、厚みが0.5μmのイリジウム(Ir)によるめっき層(Irめっき層)を形成したプランジャーである。サンプルCは、厚みが1.0μmのルテニウム(Ru)によるめっき層(Ruめっき層)を形成したプランジャーである。
【0081】
従って、第1プランジャー10の白金族層13として、厚みが0.5μmのイリジウム(Ir)によるめっき層(Irめっき層)、或いは、厚みが1.0μmのRuルテニウム(Ru)によるめっき層(Ruめっき層)、を形成することで、高電流の繰り返しの通電に対する耐性を有する。特に、厚みが1.0μmのRuめっき層を形成したサンプルCについては、先端部に溶融もひび割れも生じていないことから、より良好な繰り返しの通電に対する耐性を有する。
【0082】
第2試験では、第1試験のサンプルB,Cそれぞれと同じサンプルであるサンプルE,Fの何れについても、2Aおよび5Aの印加電流によるスパークを発生させた後に、その先端部に若干の溶融が生じているが、ひび割れや破壊などは生じていない。高電流である15Aの印加電流によるスパークを発生させた後は、その先端部のRuめっき層或いはIrめっき層の溶融が生じたが、内側のプランジャー母体は溶融していない。
【0083】
従って、第1プランジャー10の白金族層13として、厚みが0.5μmのイリジウム(Ir)によるめっき層(Irめっき層)、或いは、厚みが1.0μmのルテニウム(Ru)によるめっき層(Ruめっき層)、を形成することで、十分なスパーク耐性を有する。特に、Ruめっき層を形成したサンプルFのほうが、Irめっき層を形成したサンプルEよりも溶融サイズが小さいことから、より良好なスパークに対する耐性を有する。
【0084】
第3試験では、検査対象物を半田バーとした場合に、第1試験のサンプルB,Cそれぞれと同じサンプルであるサンプルH,Iの何れについても、12Aの高電流による1万2千5百回の繰り返しの通流を行った後の先端部の損耗量は、めっき層を形成しないサンプルGに比較して同じ程度或いは減少した。
【0085】
従って、第1プランジャー10の白金族層13として、厚みが0.5μmのイリジウム(Ir)によるめっき層(Irめっき層)、或いは、厚みが1.0μmのルテニウム(Ru)によるめっき層(Ruめっき層)、を形成することで、第1プランジャー10の先端部が接触する検査対象物の電極が半田バンプ或いは半田ボールである場合に生じる摩耗や損耗を軽減することができる。特に、Ruめっき層を形成したサンプルIのほうが、Irめっき層を形成したサンプルHよりも損耗量が小さいことから、摩耗や損耗の軽減にはより好適である。
【0086】
第4試験では、厚みが20.8nmのRuめっき層を形成したサンプルJ、および、厚みが185nmのRuめっき層を形成したサンプルK、の何れについても、15Aの高電流による2万5千回の繰り返しの通流を行った後に、その先端部に特段の損耗は見られなかった。繰り返しの通電によって、サンプルの先端と検査対象物との間の接触抵抗値が増加する(悪化する)ことはない、ことも確認された。
【0087】
従って、第1~第3試験で特に良好な耐性が得られたRuめっき層については、更に厚みを薄くした20.8nm(≒0.02μm)であっても、同様に高電流の繰り返しの通電に対する耐性を有する。第1プランジャー10の白金族層13の厚みは0.02μm以上あればよい。
【0088】
第5試験では、プランジャー母材を、第1~第4試験で用いたパラジウム(Pd)合金とは別の材料であるベリリウム銅(BeCu)を用いたサンプルLについて、15Aの高電流による2万5千回の繰り返しの通流を行った。しかし、その先端部に特段の損耗は見られなかった。このサンプルLについて、繰り返しの通電による接触抵抗値の増加は見られなかった。
【0089】
従って、高電流の通電検査において摩耗や損耗が生じにくい良好な耐性を有するには、先端部に、Ruめっき層やIrめっき層による白金族層13を形成すればよく、プランジャー母材11の材料は限定されない、ことが確認された。
【0090】
第6試験では、様々なサンプルについて、雰囲気温度摂氏120度の中、先端部を半田材料に接触させた状態で、1A電流を72時間の間通電し続ける通電耐久評価を行った。使用したサンプルは、プランジャー母材をパラジウム(Pd)合金とし、めっき層の材料を異ならせたサンプルP,Q,R,S,Tと、プランジャー母材をベリリウム銅(BeCu)合金とし、めっき層をニッケル/パラジウム/ルテニウム(Ni/Pd/Ru)の三層としたサンプルUと、である。
【0091】
この結果、先端部にロジウム(Rh)のめっき層を形成したサンプルRや、先端部にルテニウム(Ru)のめっき層を形成したサンプルS、先端部にニッケル/パラジウム/ルテニウム(Ni/Pd/Ru)の三つのめっき層を形成したサンプルU、を含むサンプルQ,R,S,T,Uには、先端部に損耗が生じないことが確認された。サンプルQ,R,S,Uには、先端部に半田成分であるすず(Sn)が付着していないことが確認された。白金族元素を主成分とする白金族層13をめっき層として形成することで、半田材料に対する高温且つ長時間の通電検査においても、半田材料と接触する先端部はすず(Sn)が付着せず摩耗や損耗しにくいことが確認された。
【0092】
[作用効果]
以上の試験結果から、本実施形態のコンタクトプローブ1のプランジャー(第1プランジャー10および第2プランジャー20)は、通電検査において摩耗や損耗が生じにくい構成であることが確認された。白金族層13は、白金族元素を主成分として形成すると好適であるが、特に、ルテニウム(Ru)を主成分として形成するとより好適である。通電検査において摩耗や損耗が生じにくいコンタクトプローブ1であるため、通電検査に用いた場合に、交換作業の手間やコストが削減できる。さらに、第6試験の試験結果から、本実施形態のコンタクトプローブ1のプランジャーは、プランジャーの先端部を半田材料に接触させた状態では、通電検査において先端部にすず(Sn)が付着せず摩耗や損耗が生じにくい構成であることが確認された。白金族層13は、白金族元素を主成分として形成すると好適であるが、特に、ルテニウム(Ru)やロジウム(Rh)を主成分として形成するとより好適である。プランジャーの先端部を半田材料に接触させた状態で行う通電検査において、先端部にすず(Sn)が付着せず摩耗や損耗が生じにくいコンタクトプローブ1であるため、通電検査に用いた場合に、交換作業の手間やコストが削減できる。
【0093】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0094】
上記実施形態では、白金族層13を構成する白金族元素の例として、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)或いはロジウム(Rh)の例を詳細に説明した。しかし、これらに代えて、オスミウム(Os)で白金族層13を構成するとしてもよい。
【0095】
第1プランジャー10や第2プランジャー20の先端部において、白金族層13の外側に、更に、金(Au)や金(Au)合金、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金によるめっき層を形成しても良い。
【0096】
被覆層12を形成することなくプランジャー母材11の外側に、白金族層13を形成することとしても良い。
【0097】
[概括(generalization)]
幾つかの実施形態およびその変形例について説明した。これらの開示は、次のように概括することができる。
【0098】
本開示の一態様は、導電性の基材層と、前記基材層の外側に設けられた白金族元素を主成分とする白金族層と、を有したプランジャーである。
【0099】
本態様によれば、導電性の基材層の外側に、白金族元素を主成分とする白金族層を有するプランジャーを実現することができる。ルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)といった白金族元素は、融点が2000度超と比較的高く、通電による溶融が発生しにくい。そのため、通電検査において摩耗や損耗を発生しにくくできる。さらに、プランジャーの先端を半田材料に接触させた状態で行う通電検査において、先端部に半田成分が付着しにくく摩耗や損耗も生じにくいプランジャーとすることができる。
【0100】
母材が前記基材層であり、検査対象物に接触する先端部において、前記基材層の外側に前記白金族層を有する、としても良い。
【0101】
これにより、検査対象物に接触する先端部が摩耗しにくいプランジャーを実現できる。
【0102】
前記基材層の外側に金(Au)又はパラジウム(Pd)を主成分とする被覆層を有し、前記先端部において、前記被覆層の外側に前記白金族層を有する、としてもよい。
【0103】
これにより、基材層と白金族層の間に有する、金又はパラジウムを主成分とする被膜層によって、基材層と白金族層との密着性を高めることができる。
【0104】
前記白金族層は表面層である、としてもよい。
【0105】
これにより、白金族層の形成を、プランジャーを製造する最後の工程とすることができるため、例えば従来のプランジャーの製造工程の最後に1つの工程を追加するだけで済む。また、白金族層を表面層とすることで、白金族層を表面層としない場合に比較して、摩耗や損耗が発生しにくいプランジャーとすることができる。
【0106】
前記白金族層は、厚みが0.02μm以上である、としてもよい。
【0107】
これにより、白金族層の厚みを0.02μm以上とすることで、通電検査に用いても摩耗や損耗が発生しにくいプランジャーを実現できる。
【0108】
前記白金族層は、イリジウム(Ir)を主成分とする、としてもよい。
【0109】
これにより、白金族層を、イリジウム(Ir)を主成分として形成することができる。
【0110】
前記白金族層は、ルテニウム(Ru)を主成分とする、としてもよい。
【0111】
これにより、白金族層を、ルテニウム(Ru)を主成分として形成することができる。ルテニウム(Ru)を主成分として白金族層を形成した場合には、イリジウム(Ir)を主成分として白金族層を形成した場合に比較して、摩耗や損耗が生じにくいプランジャーとすることができる。さらに、プランジャーの先端を半田材料に接触させた状態で行う通電検査において、先端部に半田成分が付着しにくく摩耗や損耗も生じにくいプランジャーとすることができる。
【0112】
前記白金族層は、ロジウム(Rh)を主成分とする、としてもよい。
【0113】
これにより、白金族層を、ロジウム(Rh)を主成分として形成することができる。さらに、プランジャーの先端を半田材料に接触させた状態で行う通電検査において、先端部に半田成分が付着しにくく摩耗や損耗も生じにくいプランジャーとすることができる。
【0114】
前記白金族層は、オスミウム(Os)を主成分とする、としてもよい。
【0115】
これにより、白金族層を、オスミウム(Os)を主成分として形成することができる。
【0116】
上述の何れかのプランジャーと、端部が前記プランジャーに当接するスプリングと、を備えたコンタクトプローブ、を構成してもよい。
【0117】
これにより、通電検査に用いても、検査対象物に接触するプランジャーの摩耗や損耗が生じにくいコンタクトプローブを実現することができる。
【符号の説明】
【0118】
1…コンタクトプローブ
10…第1プランジャー
11…プランジャー母材、
12…被覆層、
13…白金族層
20…第2プランジャー
30…スプリング
40…バレル