(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071745
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】光学部材及び光学ユニット
(51)【国際特許分類】
G02B 1/10 20150101AFI20240517BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20240517BHJP
G02B 1/115 20150101ALN20240517BHJP
【FI】
G02B1/10
G02B7/02 D
G02B1/115
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059386
(22)【出願日】2024-04-02
(62)【分割の表示】P 2019179787の分割
【原出願日】2019-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 友啓
(72)【発明者】
【氏名】加本 貴則
(72)【発明者】
【氏名】若村 紗友里
(72)【発明者】
【氏名】中川 小百合
(72)【発明者】
【氏名】田所 朋
(72)【発明者】
【氏名】山本 明典
(57)【要約】
【課題】防曇性に優れる光学部材及び光学ユニットを提供する。
【解決手段】光学部材1は、少なくとも一方の面が凹面2aである基材2と、前記基材2の前記凹面2aを被覆する第1反射防止膜3と、前記第1反射防止膜3を被覆する第1親水膜4とを備える。前記第1親水膜4は、シラノール基を有する親水性有機化合物を含有する自己組織化膜である。光学ユニット101は、1又は複数の光学部材を備える。前記1又は複数の光学部材のうち、最も物体側に位置する第1光学部材102は、上述の光学部材である。前記第1光学部材102の撮像側の面は、第1親水膜4側の面である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面が凹面である基材と、
前記基材の前記凹面を被覆する第1反射防止膜と、
前記第1反射防止膜を被覆する第1親水膜とを備え、
前記第1親水膜は、シラノール基を有する親水性有機化合物を含有する自己組織化膜である、光学部材。
【請求項2】
前記親水性有機化合物は、ベタイン構造と、末端基としての前記シラノール基とを有するポリマーを含む、請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記親水性有機化合物は、MOSO2-で表される基(Mは、水素原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、アルカリ金属原子又はNH4)と、前記シラノール基とを有する化合物を含む、請求項1に記載の光学部材。
【請求項4】
前記第1親水膜の厚さは、1nm以上50nm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の光学部材。
【請求項5】
前記基材の前記凹面と反対側の面は、凸面であり、
前記基材の前記凸面を被覆する第2反射防止膜と、
前記第2反射防止膜を被覆する第2親水膜とを更に備え、
前記第2親水膜は、無機材料を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の光学部材。
【請求項6】
前記無機材料は、シリカ粒子、光触媒粒子及びリン酸チタニアのうち少なくとも1種を含有する、請求項5に記載の光学部材。
【請求項7】
前記第2親水膜の厚さは、15nm以上200nm以下である、請求項5又は6に記載の光学部材。
【請求項8】
1又は複数の光学部材を備える光学ユニットであって、
前記1又は複数の光学部材のうち、最も物体側に位置する第1光学部材は、請求項1から7のいずれかに記載の光学部材であり、
前記第1光学部材の撮像側の面は、前記第1親水膜側の面である、光学ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材及び光学ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のレンズ組立体は、複数枚のレンズと、対物側開口と結像側開口とを有し複数枚のレンズが光軸を揃えて挿入される中空部が形成されたレンズ枠とを備える。中空部に挿入された複数枚のレンズのうちの最も対物側に位置する第1のレンズは、結像側の面に、第1のレンズの基体よりも親水性の第1のコーティング膜を有する。
【0003】
特許文献2に記載の膜付きレンズは、鏡筒の物体側の端部に設けられるとともに、物体側を向くレンズ表面と、像面側を向くレンズ裏面とを有する。レンズ表面上及びレンズ裏面上には、反射防止膜が形成されている。レンズ裏面には、反射防止膜上に親水膜が50nm以下の厚さで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-244388号公報
【特許文献1】特開2019-60955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のレンズ組み立て体が備える第1のレンズ、及び特許文献2に記載の膜付きレンズは、何れも十分な防曇性を有していない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、防曇性に優れる光学部材及び光学ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の例示的な光学部材は、少なくとも一方の面が凹面である基材と、前記基材の前記凹面を被覆する第1反射防止膜と、前記第1反射防止膜を被覆する第1親水膜とを備える。前記第1親水膜は、シラノール基を有する親水性有機化合物を含有する自己組織化膜である。
【0008】
本発明の例示的な光学ユニットは、1又は複数の光学部材を備える。前記1又は複数の光学部材のうち、最も物体側に位置する第1光学部材は、上述の光学部材である。前記第1光学部材の撮像側の面は、前記第1親水膜側の面である。
【発明の効果】
【0009】
例示的な本発明は、防曇性に優れる光学部材と、上述の光学部材を備える光学ユニットとを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る光学部材の一例の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る光学部材の変形例1の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係る光学部材の変形例2の模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係る光学ユニットの一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例において行った試験例1の防曇性評価試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。図面中の各部材の寸法は、実際の部材の寸法と必ずしも同一ではない。特に、図面中の親水膜、反射防止膜及び基材の厚さ及び曲率は、実際の親水膜、反射防止膜及び基材の厚さ及び曲率とは大きく異なる場合がある。
【0012】
本明細書において、「厚さ」は、平均厚さを意味する。「反射防止膜の厚さ」は、走査電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製「JSM-7900F」)により測定される。「親水膜の厚さ」は、接触式膜厚測定器(例えば、Bruker社製「DekTakXT-S」)により測定される。
【0013】
<第1実施形態:光学部材>
本発明の第1実施形態に係る光学部材は、少なくとも一方の面が凹面である基材と、基材の凹面を被覆する第1反射防止膜と、第1反射防止膜を被覆する第1親水膜とを備える。第1親水膜は、シラノール基を有する親水性有機化合物を含有する。
【0014】
第1実施形態に係る光学部材は、例えば、1又は複数の光学部材を備える光学ユニット(特に、屋外で使用される光学ユニット)に用いる光学部材として好適である。第1実施形態に係る光学部材は、光学ユニットの備える1又は複数のレンズのうち最も物体側に位置する光学部材(以下、第1光学部材と記載することがある)として特に好適できる。第1実施形態に係る光学部材は、第1光学部材として使用される場合、通常、第1親水膜側の面を撮像側に向けた状態で使用される。具体的には、第1実施形態に係る光学部材は、車両の周囲をモニタするための車載カメラのレンズユニット用レンズとして好適である。
【0015】
ここで、一般的に、光学ユニットにおいて最も物体側に配設される光学部材は、撮像側の面が凹面である。このような光学ユニットは、第1光学部材の凹面により形成される隙間に湿気が溜まり、凹面が曇る場合がある。
【0016】
第1実施形態に係る光学部材は、凹面に第1親水膜が形成されている。第1親水膜は、水が付着しても、付着した水が第1親水膜上に薄く濡れ広がり、水滴が形成されない。そのため、第1実施形態に係る光学部材は、曇りの発生を抑制できる。ここで、光学部材に用いられる一般的な親水膜形成用塗布液(例えば、無機材料又はアクリル樹脂を含有する塗布液)では、凹面上に均一な親水膜を形成することが難しい。このような親水膜形成用塗布液を通常の塗工方法(例えば、スピンコート法、ディップコート法及びディップスピンコート法)で凹面に塗工した場合、凹面上に親水膜形成用塗布液が溜まり、凹面上に均一に塗り広がらないためである。これに対して、第1実施形態に係る光学部材が備える第1親水膜は、シラノール基を有する親水性有機化合物(以下、シラノール化合物(α)と記載することがある)を含有する自己組織化膜である。シラノール化合物(α)は、自己組織化材料である。詳しくは、シラノール化合物(α)は、分子中のシラノール基により第1反射防止膜に吸着し、所望の厚さの薄膜(例えば、自己組織化単分子膜)を形成する。そのため、シラノール化合物(α)は、凹面上に均一に塗り広げなくても、均一な厚さの第1親水膜を形成する。このように、第1実施形態に係る光学部材は、自己組織化材料であるシラノール化合物(α)を用いることにより、凹面に均一な厚さの第1親水膜形成を形成している。そして、第1実施形態に係る光学部材は、第1親水膜により、優れた防曇性を発揮する。
【0017】
以下、
図1を参照して、第1実施形態に係る光学部材1を説明する。
図1は、第1実施形態に係る光学部材1の模式図である。光学部材1は、基材2を備える。基材2は、一方の面が凹面2aであり、凹面2aとは反対側の面が凸面2bである。光学部材1は、基材2の凹面2aを被覆する第1反射防止膜3と、第1反射防止膜3を被覆する第1親水膜4と、基材2の凸面2bを被覆する第2反射防止膜5と、第2反射防止膜5を被覆する第2親水膜6とを更に備える。なお、本明細書において、凸面及び凹面は、球面形状であっても非球面形状であってもよい。
【0018】
[基材]
基材2は、透光性を有する。即ち、基材2は光を透過させる。基材2は、透明であってもよく、半透明であってもよい。基材2は、例えば、主成分としてガラス又は樹脂を含有する。
【0019】
基材2の凹面2aの曲率半径としては、2.0mm以上5.0mm以下が好ましい。基材2の凹面2aの曲率半径が2.0mm未満である場合、第1親水膜4の厚さを調整し難くなる傾向がある。基材2の凹面2aの曲率半径が5.0mm超である場合、光学部材1に所望の画角を付与し難くなる傾向がある。
【0020】
基材2の凸面2bの曲率半径としては、10mm以上15mm以下が好ましい。基材2の凸面2bの曲率半径が10mm未満である場合、第2親水膜6の厚さを調整し難くなる傾向がある。基材2の凸面2bの曲率半径が15mm超である場合、光学部材1に所望の画角を付与し難くなる傾向がある。
【0021】
(反射防止膜)
第1反射防止膜3及び第2反射防止膜5(以下、まとめて反射防止膜と記載することがある)は、光の反射を抑制する。具体的には、光学部材1は、第2反射防止膜5を備えることにより、基材2の凸面2bから基材2内に入射しようとする光が凸面2bで反射することを抑制する。また、光学部材1は、第1反射防止膜3を備えることにより、基材2の凹面2aから基材2外に出射しようとする光が凹面2aで反射することを抑制する。
【0022】
反射防止膜は、一層構造でもよく、多層構造でもよい。反射防止膜は、例えば、金属又は金属酸化物をそれぞれ含有する。反射防止膜は、例えば、蒸着膜又はスパッタリング膜である。
【0023】
反射防止膜の厚さとしては、それぞれ、200nm以上400nm以下が好ましい。反射防止膜の厚さが200nm未満の場合、十分な反射防止効果が得られない傾向がある。反射防止膜の厚さが400nm超の場合、光学部材1の生産性が低下する傾向がある。
【0024】
[第1親水膜]
第1親水膜4は、親水性を有する自己組織化膜である。第1親水膜4は、シラノール基を有する親水性有機化合物(シラノール化合物(α))を含有する。第1親水膜4におけるシラノール化合物(α)の含有割合としては、90質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0025】
第1親水膜4の厚さとしては、1nm以上50nm以下が好ましく、1nm以上20nm以下がより好ましい。第1親水膜4の厚さが1nm以上であることで、第1親水膜4の親水性がより向上する。第1親水膜4の厚さが50nm以下であることで、光学部材1の光学特性が向上する。
【0026】
第1親水膜4の表面の純水に対する静的接触角としては、30.0°以下が好ましく、20.0°以下がより好ましく、10.0°以下が更に好ましい。以下、純水に対する静的接触角を、単に「接触角」と記載することがある。なお、第1親水膜4の接触角は、温度23℃±3℃、相対湿度50%±3%の環境で測定した値である。
【0027】
(シラノール化合物(α))
シラノール化合物(α)としては、例えば、ベタイン構造と、末端基としてのシラノール基とを有するポリマーが挙げられる。上述のポリマーは、シラノール基によって第1反射防止膜3と結合し、ポリマーブラシ構造を形成する。上述のベタイン構造としては、例えば、スルホキシベタイン構造、カルボキシベタイン構造及びホスホリルベタイン構造が挙げられる。上述のベタイン構造としては、スルホキシベタイン構造が好ましい。
【0028】
上述のポリマーを含有する第1親水膜4は、例えば、ベタインモノマーと、アルコキシシリル基含有化合物とを含むモノマーの重合体(以下、ポリマー(β)と記載することがある)により形成される。ベタインモノマーとしては、例えば、スルホキシベタインモノマー、カルボキシベタインモノマー及びホスホリルベタインモノマーが挙げられる。ベタインモノマーとしては、スルホキシベタインモノマーが好ましい。ポリマー(β)を含有する親水膜形成用塗布液としては、例えば、大阪有機化学工業株式会社製「LAMBIC-771W」及び「LAMBIC-1000W」が挙げられる。ポリマー(β)を含有する親水膜形成用塗布液により形成される第1親水膜4は、耐候性(親水性が長期に渡って維持される特性)に優れる。そのため、ポリマー(β)を含有する親水膜形成用塗布液は、第1親水膜4の形成に好適である。
【0029】
例えば、WO2014/84219及びWO2013/65591には、ポリマー(β)を含有する塗布液の一例が記載されている。以下、WO2014/84219に基づき、スルホキシベタインモノマー及びアルコキシシリル基含有化合物の一例を説明する。
【0030】
スルホキシベタインモノマーとしては、下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0031】
【0032】
一般式(I)中、R1は、(メタ)アクリロイルアミノアルキル基、又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を表す。上述の(メタ)アクリロイルアミノアルキル基及び(メタ)アクリロイルオキシアルキル基のアルキル基部位の炭素原子数は、それぞれ、1以上4以下を表す。R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のヒドロキシアルキル基、又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を表す。上述の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基のアルキル基部位の炭素原子数は、1以上4以下を表す。R4は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基、又は炭素原子数1以上4以下のオキシアルキレン基を表す。
【0033】
一般式(I)中、R1は、下記一般式(Ia)で表されることが好ましい。
【0034】
【0035】
一般式(Ia)中、R5は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基、又は炭素原子数1以上4以下のオキシアルキレン基を表す。R6は、-O-又は-NH-を表す。R7は、水素原子又はメチル基を表す。*は、結合手を表す。
【0036】
アルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、下記一般式(II)で表される化合物、下記一般式(III)で表される化合物、2,2’-アゾビス[2-(1-(トリエトキシシリルプロピルカルバモイル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、及び2,2’-アゾビス[N-[2-(トリエトキシシリルプロピルカルバモイル)エチル]イソブチルアミド]が挙げられる。
【0037】
【0038】
一般式(II)中、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を表す。但し、R8、R9及びR10のうちの少なくとも1つは、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を表す。R11は、炭素原子数1以上12以下のアルキレン基を表す。
【0039】
【0040】
一般式(III)中、R12~R17は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、又は炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を表す。R12~R17のうちの少なくとも1つは、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を表す。R18及びR19は、それぞれ独立に、炭素原子数1以上12以下のアルキレン基を表す。但し、上述のアルキレン基に含まれるメチレン基のうち1個又は2個のメチレン基は、-O-、-C(O)O-、-O(O)C-、-NH-、-CO-、アリーレン基、ウレタン結合又は1,2-イミダゾリン基で置換されていてもよい。
【0041】
シラノール化合物(α)としては、例えば、MOSO2-で表される基(Mは、水素原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、アルカリ金属原子又はNH4)と、シラノール基とを有する化合物も挙げられる。この化合物を含有する第1親水膜4は、例えば、MOSO2-で表される基と、アルコキシシリル基とを有する化合物(以下、化合物(γ)と記載することがある)を含有する親水膜形成用塗布液により形成される。
【0042】
例えば、特開2009-203185号公報には、化合物(γ)の一例が記載されている。以下、特開2009-203185号公報に基づき、化合物(γ)の一例を説明する。化合物(γ)としては、下記一般式(IV)で表される化合物が好ましい。
【0043】
(MOSO2-R21-)mZ-R23-Si(CH3)n(-Y)3-n・・・(IV)
【0044】
一般式(IV)中、Mは、水素原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、アルカリ金属原子又はNH4を表す。R21及びR23は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基又は炭素原子数6以上8以下のアリーレン基を表す。Zは、-O(CO)-R22-S-、-O(CO)-R22-O-、-O(CO)-R22-NH-、(-O(CO)-R22-)2N-、-S-、-O-、-NH-、>N-、-S-R22-CO2-又は-NHCONH-を表す(R22は、エチレン基、1-メチルエチレン基又は2-メチルエチレン基)を表す。Yは、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基を表す。mは、1又は2を表す。nは、0又は1を表す。
【0045】
一般式(IV)で表される化合物としては、下記一般式(V)~(IX)で表される化合物が好ましい。
【0046】
(MOSO2-R21-O(CO)-R22-)mX-R23-Si(CH3)n(-Y)3-n・・・(V)
MOSO2-R24-X-R23-Si(CH3)n(-Y)3-n・・・(VI)
MOSO2-R21-OCONH-R23-Si(CH3)n(-Y)3-n・・・(VII)
MOSO2-R21-S-R22-CO2-R23-Si(CH3)n(-Y)3-n・・・(VIII)
MOSO2-R21-NHCONH-R23-Si(CH3)n(-Y)3-n・・・(IX)
【0047】
一般式(V)~(IX)中、M、R21~R23、m及びnは、一般式(IV)と同義である。R24は、エチレン基又はフェニレンエチレン基を表す。Xは、-S-、-O-、-NH-又は>N-を表す。
【0048】
[第2親水膜]
基材2の凹面2aと反対側の面は、凸面2bである。そして、光学部材1は、基材2の凸面2bを被覆する第2反射防止膜5と、第2反射防止膜5を被覆する第2親水膜6とを備える。第2親水膜6は、無機材料を含有することが好ましい。ここで、一方の面が凸面であり、他方の面が凹面である光学部材1は、例えば、凸面側の面を外部に露出させた状態で用いる。この場合、光学部材1の凸面側の面は、湿気で曇らないことが望まれる。これに対して、光学部材1の凸面側の面は、第2親水膜6であるため、防曇性を有する。また、光学部材1の凸面側の面は、汚れ又は曇りを除去するために布又はワイパーで払拭されることがある。これに対して、第2親水膜6は、無機材料を含有する比較的硬い層であるため、払拭されても摩耗し難い。以上から、光学部材1は、第2親水膜6を備えることにより、凸面側の面が曇り難く、かつ凸面側の面を払拭しても摩耗し難い。
【0049】
第2親水膜6の厚さとしては、15nm以上200nm以下が好ましく、20nm以上180nm以下がより好ましく、30nm以上160nm以下が更に好ましく、40nm以上160nm以下が特に好ましい。第2親水膜6の厚さが15nm以上であることで、第2親水膜6の耐摩耗性がより向上する。第2親水膜6の厚さが200nm以下であることで、光学部材1の光学特性が向上する。
【0050】
第2親水膜6の表面の純水に対する静的接触角としては、30.0°以下が好ましく、20.0°以下がより好ましく、10.0°以下が更に好ましい。以下、純水に対する静的接触角を、単に「接触角」と記載することがある。なお、第2親水膜6の接触角は、温度23℃±3℃、相対湿度50%±3%の環境で測定した値である。
【0051】
第2親水膜6は、シリカ粒子、光触媒粒子及びリン酸チタニアのうち少なくとも1種を含有することが好ましい。第2親水膜6は、これらの成分を含有することで、防曇性がより向上する。第2親水膜6は、バインダを更に含有することが好ましい。
【0052】
(シリカ粒子)
シリカ粒子は、シリカを主成分として含有する粒子である。シリカ粒子におけるシリカの含有割合としては、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0053】
シリカ粒子の平均粒径としては、1nm以上200nm以下が好ましい。シリカ粒子の平均粒径が1nm以上であることにより、シリカ粒子の凝集を低減できる。シリカ粒子の平均粒径が200nm以下であることにより、第2親水膜6の透光性が向上する。
【0054】
(光触媒粒子)
光触媒粒子は、光触媒を含有する粒子である。光触媒粒子のうち少なくとも一部は、二次粒子を構成していてもよい。光触媒粒子は、光触媒を含有する限り、光触媒以外の成分を更に含有していてもよい。光触媒以外の成分としては、例えば、電子捕捉効果を有する成分が挙げられる。電子捕捉効果を有する物質としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛及び酸化銅が挙げられる。光触媒粒子における光触媒の含有割合としては、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0055】
光触媒粒子が含有する光触媒としては、例えば、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、リン酸ガリウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウム及び三硫化モリブデンが挙げられる。光触媒粒子は、酸化チタンを含有することが好ましい。光触媒粒子が酸化チタンを含有することで、第2親水膜6の親水性がより向上する。
【0056】
酸化チタンとしては、例えば、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、光触媒活性の観点から、アナターゼ型酸化チタンが好ましい。
【0057】
光触媒粒子の一次粒子の平均粒径としては、1nm以上20nm以下が好ましく、5nm以上18nm以下がより好ましい。光触媒粒子の一次粒子の平均粒径が1nm以上20nm以下であることにより、第2親水膜6の透光性が向上する。
【0058】
光触媒粒子の二次粒子の平均粒径としては、10nm以上90nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下がより好ましい。光触媒粒子の二次粒子の平均粒径が10nm以上であることにより、第2親水膜6の親水性がより向上する。光触媒粒子の二次粒子の平均粒径が90nm以下であることにより、第2親水膜6の透光性が向上する。
【0059】
(リン酸チタニア)
リン酸チタニアは、可視光により活性化される光触媒である。そのため、リン酸チタニアを含有する第2親水膜6を備える光学部材1は、直射日光に晒されない空間(例えば、室内及び車内)での使用に好適である。
【0060】
リン酸チタニアは、分子内にTi-O-P結合を有する化合物である。リン酸チタニアは、水系溶剤中でハロゲン化チタン(例えば、四塩化チタン)と、リン源(例えば、リン酸)とを反応させることで得られる。水系溶剤としては、例えば、水及びアルコール化合物を含有する混合溶剤が挙げられる。
【0061】
リン酸チタニアは、非晶質であることが好ましい。第2親水膜6が非晶質のリン酸チタニアを含有することで、第2親水膜6及び第2反射防止膜5の密着性が向上する。
【0062】
(バインダ)
バインダは、無機バインダ及び有機バインダの何れであってもよい。無機バインダとしては、例えば、シリカ及びシリケートが挙げられる。有機バインダとしては、例えば、樹脂が挙げられる。バインダとしては、無機バインダが好ましく、シリカ又はシリケートがより好ましい。
【0063】
[光学部材の製造方法]
光学部材1の製造方法を説明する。光学部材1の製造方法には、一方の面が凹面2aであり、他方の面が凸面2bである基材2を用いる。光学部材1の製造方法は、基材2の凹面2a上に第1反射防止膜3を形成する第1反射防止膜形成工程と、第1反射防止膜3上に第1親水膜形成用塗布液を塗布することで第1親水膜4を形成する第1親水膜形成工程と、基材2の凸面2b上に第2反射防止膜5を形成する第2反射防止膜形成工程と、第2反射防止膜5上に第2親水膜形成用塗布液を塗布することで第2親水膜6を形成する第2親水膜形成工程とを備える。
【0064】
なお、光学部材1の製造方法において、第1反射防止膜形成工程及び第2反射防止膜形成工程の順番は、何れが先でもよい。同様に、第1反射防止膜形成工程及び第2親水膜形成工程の順番は、何れが先でもよい。第1親水膜形成工程及び第2反射防止膜形成工程の順番は、何れが先でもよい。第1親水膜形成工程及び第2親水膜形成工程の順番は、何れが先でもよい。
【0065】
[第1反射防止膜形成工程]
本工程において、第1反射防止膜3を形成する方法としては、特に限定されず、公知の反射防止膜形成方法(例えば、スパッタリング法及び蒸着法)を用いることができる。
【0066】
[第1親水膜形成工程]
本工程で用いる第1親水膜形成用塗布液は、例えば、アルコキシシリル基を有する親水性有機化合物及び溶剤(例えば、水)を含有する。アルコキシシリル基を有する親水性有機化合物は、塗布工程時に加水分解反応が生じ、シラノール化合物(α)を形成する。アルコキシシリル基を有する親水性有機化合物としては、例えば、上述のポリマー(β)及び化合物(γ)が挙げられる。
【0067】
第1親水膜形成用塗布液の塗布方法としては、ウェットプロセスが好ましい。ウェットプロセスとしては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法、ディップコート法、スプレーコート法及びこれらのうち2以上を組み合わせた方法(例えば、ディップスピンコート法)が挙げられる。ウェットプロセスとしては、スピンコート法、ディップコート法又はディップスピンコート法が好ましい。
【0068】
第1親水膜形成用塗布液をスピンコート法又はディップスピンコート法で塗布する場合、回転速度としては、500rpm以上10000rpm以下が好ましい。
【0069】
但し、本工程では、第1反射防止膜3上に第1親水膜形成用塗布液を滴下した後、第1反射防止膜3を傾けて余剰成分を液切りするという簡便な操作を行ってもよい。
【0070】
本工程では、第1親水膜形成用塗布液を塗布する前に、第1反射防止膜3に表面処理を行うことが好ましい。第1反射防止膜3に表面処理を行うことで、第1反射防止膜3及び第1親水膜4の密着性が向上する。
【0071】
表面処理としては、例えば、プラズマ処理、電子ビーム処理、コロナ処理及びフレーム処理が挙げられる。プラズマ処理としては、例えば、高周波放電プラズマ処理又は大気圧グロー放電プラズマ処理が挙げられる。これらの表面処理は、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0072】
本工程では、第1反射防止膜3上に第1親水膜形成用塗布液を塗布した後、第1親水膜形成用塗布液を加熱乾燥させることが好ましい。加熱乾燥における条件としては、例えば、加熱温度を100℃以上140℃以下、加熱時間を5分以上30分以下とすることができる。
【0073】
なお、第1親水膜形成用塗布液を加熱乾燥させた場合、加熱乾燥後に余剰成分を純水で洗い流すことが好ましい。
【0074】
[第2反射防止膜形成工程]
本工程において、第2反射防止膜5を形成する方法としては、特に限定されず、公知の反射防止膜形成方法(例えば、スパッタリング法及び蒸着法)を用いることができる。
【0075】
[第2親水膜形成工程]
本工程で用いる第2親水膜形成用塗布液は、例えば、シリカ粒子、光触媒粒子及びリン酸チタニアのうち少なくとも1種と、溶剤とを含有する。第2親水膜形成用塗布液は、バインダ原料を更に含有することが好ましい。
【0076】
第2親水膜形成用塗布液の溶剤としては、水系溶剤が好ましい。水系溶剤は、水及び添加物を含有する。添加物としては、例えば、有機酸、アルコール化合物及びアンモニアが挙げられる。水系溶剤における添加物の含有割合としては、0質量%超20質量%以下が好ましい。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸及びリンゴ酸が挙げられる。アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール及びブタノールが挙げられる。
【0077】
第2親水膜形成用塗布液の塗布方法としては、ウェットプロセスが好ましい。ウェットプロセスとしては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法、ディップコート法、スプレーコート法及びこれらを組み合わせた方法(例えば、ディップスピンコート法)が挙げられる。ウェットプロセスとしては、スピンコート法、ディップコート法又はディップスピンコート法が好ましい。
【0078】
(バインダ原料)
第2親水膜形成用塗布液が含有するバインダ原料としては、例えば、シラン化合物が挙げられる。シラン化合物としては、例えば、アルコキシシラン、シラザン、及びこれらを原料とするオリゴマー(以下、シリケートオリゴマーと記載することがある)が挙げられる。アルコキシシランは、一般式「Si(R31)4-l(OR32)l」で表される化合物である。上述の一般式中、R31は、水素原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基又は炭素原子数1以上10以下のアリール基を表す。R32は、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R32は、メチル基又はエチル基を表すことが好ましい。上述の一般式中、lは、1以上4以下の整数を表し、4を表すことが好ましい。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが挙げられる。バインダ原料としては、シラン化合物が好ましく、シリケートオリゴマーがより好ましく、アルコキシシランを原料とするシリケートオリゴマーが更に好ましい。
【0079】
第2親水膜形成用塗布液における光触媒粒子の含有割合としては、0.01質量%以上50質量%以下が好ましい。第2親水膜形成用塗布液をスピンコート法又はディップスピンコート法で塗布する場合、回転速度としては、500rpm以上10000rpm以下が好ましい。第2親水膜形成用塗布液の固形分濃度としては、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0080】
本工程では、第2親水膜形成用塗布後に加熱処理することが好ましい。加熱処理により、第2親水膜形成用塗布液中の揮発性成分の除去が促進される。加熱条件としては、例えば、処理温度60℃以上200℃以下、処理時間10分以上10時間以下とすることができる。
【0081】
本工程では、第2親水膜形成用塗布液を塗布する前に、第2反射防止膜5に表面処理を行うことが好ましい。第2反射防止膜5に表面処理を行うことで、第2反射防止膜5及び第2親水膜6の密着性が向上する。第2反射防止膜5に行う表面処理としては、例えば、第1反射防止膜3に行う表面処理として上述した方法と同様の表面処理が挙げられる。
【0082】
<変形例1>
次に、
図2を参照して、光学部材1の変形例1に係る光学部材11を説明する。光学部材11は、基材12を備える。基材12は、一方の面が凹面12aであり、他方の面が凸面12bである。光学部材11は、基材12の凹面12aを被覆する第1反射防止膜13と、第1反射防止膜13を被覆する第1親水膜14と、基材12の凸面12bを被覆する第2反射防止膜15とを更に備える。
【0083】
変形例1に係る光学部材11は、
図1の光学部材1と比較し、第2親水膜6を備えないという点のみが相違する。そのため、光学部材1と重複する説明については省略する。光学部材11は、例えば、凹面側の面のみに防曇性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0084】
<変形例2>
次に、
図3を参照して、光学部材1の変形例2に係る光学部材21を説明する。光学部材21は、基材22を備える。基材22は、一方の面が凹面22aであり、他方の面が平面22bである。光学部材21は、基材22の凹面22aを被覆する第1反射防止膜23と、第1反射防止膜23を被覆する第1親水膜24とを更に備える。
【0085】
変形例2に係る光学部材21は、
図1の光学部材1と比較し、基材22の一方の面が平面22bであるという点と、第2反射防止膜5及び第2親水膜6を備えないという点とが相違する。そのため、光学部材1と重複する説明については省略する。光学部材21は、例えば、凹面側の面に防曇性が要求される平凹レンズとして好適に用いることができる。
【0086】
[その他の変形例]
以上、第1実施形態に係る光学部材について、図面を参照しつつ説明した。しかし、第1実施形態に係る光学部材は、
図1の光学部材1、
図2の光学部材11及び
図3の光学部材21に限定されない。
【0087】
基材は、少なくとも一方の面が凹面であればよい。基材の凹面と反対側の面は、平面、凸面、及び凹面の何れであってもよい。基材は、例えば、レンズ(具体的には、例えば、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ及び凹メニスカスレンズ)としての機能を有する。
【0088】
光学部材は、基材、第1反射防止膜及び第1親水膜を備えればよく、第2反射防止膜及び第2親水膜は必須ではない。また、光学部材は、基材、第1反射防止膜、第1親水膜、第2反射防止膜及び第2親水膜以外の他の構成を更に備えてもよい。
【0089】
第1親水膜及び第2親水膜は、それぞれ、単層構造を有することが好ましいが、多層構造を有していてもよい。また、第1親水膜及び第2親水膜は、それぞれ、第1反射防止膜及び第2反射防止膜の全面を被覆していることが好ましいが、必ずしも全面を被覆していなくてもよい。
【0090】
<第2実施形態:光学ユニット>
本発明の第2実施形態に係る光学ユニットは、1又は複数の光学部材を備える。1又は複数の光学部材のうち、最も物体側に位置する第1光学部材は、本発明の第1実施形態に係る光学部材である。第1光学部材は、第1親水膜側の面が撮像側に位置する。
【0091】
以下、
図4を参照して、第2実施形態に係る光学ユニット101を説明する。
図4は、第2実施形態に係る光学ユニット101の模式図である。光学ユニット101は、複数の光学部材と、複数の光学部材を保持する筒状のホルダ107とを主に備える。複数の光学部材は、物体側(
図4では上側)から順番に配設される第1光学部材102、第2光学部材103、第3光学部材104、第4光学部材105、及び第5光学部材106である。複数の光学部材のうち、最も物体側に位置する第1光学部材102は、第1実施形態に係る光学部材である。第1光学部材102は、第1親水膜側の面(凹面側の面)が撮像側に位置する。
【0092】
本発明の第2実施形態に係る光学ユニット101は、本発明の第1実施形態に係る光学部材を第1光学部材102として備える。そのため、本発明の第2実施形態に係る光学ユニット101は、第1光学部材102の凹面側の面の曇りによる光学性能の低下が発生し難い。
【0093】
以上、第2実施形態に係る光学ユニットについて、図面を参照しつつ説明した。しかし、第2実施形態に係る光学ユニットは、
図4の光学ユニット101に限定されない。特に、第2実施形態に係る光学ユニットの備える光学部材の数及び形状については、光学ユニットの用途に応じて適宜変更可能である。
【実施例0094】
[試験例1]
以下の方法により、一般的なアクリル樹脂を含有する親水膜をガラス基板上に形成した。まず、アクリル樹脂を含有する塗布液(日油株式会社製「モディパー(登録商標)H2100」)を、ガラス基板上の一部の領域にスプレーコート法で塗布した。塗布液の塗布量は、形成される塗膜の厚さが2μm~3μmとなる量に調整した。次に、塗布液を塗布した後のガラス基板を、30℃で1分間乾燥させた後、120℃で30分間の加熱処理を行った。これにより、ガラス基板と、アクリル樹脂を含有する親水膜とを備える試験片を得た。以下の方法により、この試験片に対して防曇性評価試験を行った。
【0095】
(防曇性評価試験)
60℃の温水を用意した。上述の試験片の親水膜側の面と、上述の温水の水面とが対向するように、上述の試験片を上述の温水の上方で5秒間保持した。上述の試験片の親水膜側の面と、上述の温水の水面との距離は、3cmとした。その後、上述の試験片の表面を観察した。観察結果を
図5に示す。
図5において、「A」は、親水膜を形成しなかった領域を示す。「B」は、親水膜を形成した領域を示す。
【0096】
図5から明らかなように、防曇性評価試験後の試験片において、親水膜を形成しなかった領域(
図5のA)には、曇りが発生した。一方、防曇性評価試験後の試験片において、親水膜を形成した領域(
図5のB)には、曇りは発生しなかったが、親水膜にクラックが発生した。親水膜にクラックが発生した理由は、以下の通りであると判断される。アクリル樹脂を含有する親水膜は、一定の吸湿性を有するため、防曇性評価試験によって体積が増大した。一方、ガラス基板は、ほとんど吸湿性を有しないため、防曇性評価試験によって体積がほとんど変化しなかった。その結果、親水膜及びガラス基板の体積変化率に差が発生し、親水膜にクラックが発生したと判断される。
【0097】
以上の試験例1から、一般的なアクリル樹脂を含有する親水膜は、湿気によりクラックが発生するため、光学部材に防曇性を付与するという用途には不適であると判断される。そこで、以降の実施例1及び比較例1では、シラノール基を有する親水性有機化合物を含有する親水膜の防曇性を評価した。
【0098】
[実施例1]
以下の方法により、実施例1の光学部材を製造した。まず、基材として、レンズ(HOYA株式会社製「TAFD-5G」、組成:ガラス、直径12.9mm)を用意した。このレンズは、一方の面が凹面(曲率半径3.07mm)であり、他方の面が凸面(曲率半径12mm)であった。次に、レンズの凹面上に第1反射防止膜を形成し、凸面上に第2反射防止膜を形成した。第1反射防止膜及び第2反射防止膜は、それぞれ、SiO2層、TiO2層、及びTa2O5層を含んでいた。第1反射防止膜の合計厚さ及び第2反射防止膜の合計厚さは、それぞれ、約300nmであった。これにより、第1反射防止膜と、基材と、第2反射防止膜とがこの順番で積層された第1積層体を得た。次に、第1積層体の第1反射防止膜及び第2反射防止膜に対してそれぞれ表面処理(30秒間)を行った。表面処理としては、プラズマ表面改質装置を用いたプラズマ処理を行った。
【0099】
(第1親水膜形成工程)
上述のポリマー(β)を含有するコート剤(大阪有機化学工業株式会社「LAMBIC-771W(固形分濃度:10質量%、溶剤:水)」)0.297gと、純水1.186gとを混合した。得られた混合液を、第1親水膜形成用塗布液Aとした。プラズマ処理後の第1積層体を、第1反射防止膜が鉛直方向上側となるように固定した。この第1積層体の第1反射防止膜上に、第1親水膜形成用塗布液Aを滴下した。これにより、第1反射防止膜の全面を第1親水膜形成用塗布液Aの液膜で被覆した。その後、第1積層体を裏返し、第1親水膜形成用塗布液Aを流し落とした。次に、第1積層体を、120℃で15分間乾燥させた。これにより、第1積層体の第1反射防止膜上に第1親水膜を形成した。その結果、第1親水膜と、第1反射防止膜と、基材と、第2反射防止膜とがこの順番で積層された第2積層体を得た。次に、第2積層体の第1親水膜側の面を純水で洗浄し、余剰成分を洗い流した。次に、第2積層体の第1親水膜側の面をブロワーで乾燥させた。乾燥後の第2積層体を、以降の操作に供した。
【0100】
(第2親水膜形成工程)
酸化チタン粒子の水分散体(石原産業株式会社製「STS-01」、酸化チタン粒子の平均粒径:7nm、酸化チタン粒子濃度:30質量%)1mLに、イソプロピルアルコール29mLを添加し、混合液Aを得た。酸化チタン粒子及びバインダ原料(シリケートオリゴマー)を含有するコーティング剤(石原産業株式会社製「ST-K211」、溶剤:水及びエタノール、固形分濃度:0.2質量%)と、混合液Aとを、質量比1:1で混合し、これを第2親水膜形成用塗布液とした。
【0101】
第2積層体の第2反射防止膜上に、上述の第2親水膜形成用塗布液をスピンコート法で塗布した。スピンコート法には、スピンコーター(ミカサ株式会社製「MS-B100」)を用いた。塗布条件としては、回転速度5000rpm、回転時間30秒間とした。塗布後、80℃、30分間の加熱処理を行った。これにより、第2積層体の第2反射防止膜上に第2親水膜を形成した。その結果、第1親水膜と、第1反射防止膜と、基材と、第2反射防止膜と、第2親水膜とがこの順番で積層された実施例1の光学部材を得た。
【0102】
実施例1の光学部材の第1親水膜及び第2親水膜の厚さを、接触式膜厚測定器(Bruker社製「DekTakXT-S」)を用いて測定した。実施例1の光学部材の第1親水膜の厚さは、20nmであった。実施例1の光学部材の第2親水膜の厚さは、20nmであった。
【0103】
[比較例1]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1の光学部材を製造した。比較例1の光学部材の製造では、第1親水膜の形成を行わなかった。
【0104】
<評価>
実施例1及び比較例1の光学部材に対して防曇性評価試験を行った。
【0105】
60℃の温水を用意した。各光学部材の凹面側の面と、上述の温水の水面とが対向するように、各光学部材を上述の温水の上方で5秒間保持した。各光学部材の凹面側の面のうち水面に最も近い部位と、上述の温水の水面との距離は、3cmとした。その後、各光学部材の表面を観察した。
【0106】
実施例1の光学部材は、第1親水膜に曇りが発生していなかった。また、実施例1の光学部材は、第1親水膜にクラックが発生していなかった。一方、比較例1の光学部材は、第1反射防止膜に曇りが発生していた。以上から、実施例1の光学部材は、防曇性に優れていたと判断した。また、実施例1の光学部材の第1親水膜は、容易に形成することができた。
【0107】
以下、第1親水膜の形成に用いる材料について更なる検討を行った。まず、以下の方法により、実施例2の光学部材を製造した。
【0108】
[実施例2]
イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル(チッソ株式会社製)6.86質量部(27.8モル部)と、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム(シグマアルドリッチ社製、テクニカルグレード)4.5質量部(27.8モル部)と、ジラウリル酸ジ-n-ブチルスズ0.2質量部とを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)100質量部に溶解させた。得られた反応液を、アルゴン雰囲気下、80℃で17時間反応させた。これにより、上述の一般式(IV)で表される化合物(γ)である3-(N-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)カルバモイルオキシ)プロパンスルホン酸ナトリウム(NaOSO2-CH2CH2CH2-OCONH-CH2CH2CH2-Si(OCH2CH3)3)を含有するDMF溶液を得た。このDMF溶液を、第1親水膜形成用塗布液Bとした。
【0109】
第1親水膜形成用塗布液Aの代わりに第1親水膜形成用塗布液Bを用いた以外は、実施例1の光学部材の製造と同様の方法により、実施例2の光学部材を製造した。
【0110】
<評価>
加速劣化試験を行い、実施例1及び実施例2の光学部材の第1親水膜の耐候性を評価した。まず、実施例1の光学部材及び実施例2の光学部材に対して、上述の防曇性評価試験を行った。得られた評価結果を「初期」の防曇性とした。
【0111】
次に、実施例1及び実施例2の光学部材を80℃の温水に3時間浸漬した。次に、温水浸漬後の実施例1及び実施例2の光学部材をブロワーで乾燥させた後、上述の防曇性評価試験を行った。得られた評価結果を「温水浸漬3h」の防曇性とした。
【0112】
次に、実施例1及び実施例2の光学部材を80℃の温水に24時間浸漬した。次に、温水浸漬後の実施例1及び実施例2の光学部材をブロワーで乾燥させた後、上述の防曇性評価試験を行った。得られた評価結果を「温水浸漬24h」の防曇性とした。
【0113】
評価結果を下記表1に示す。下記表1において、「A」は、第1親水膜に曇りが発生しなかったことを示す。「B」は、第1親水膜に曇りが発生したことを示す。
【0114】
【0115】
表1から明らかなように、実施例1の光学部材は、温水に24時間浸漬しても良好な防曇性が維持された。一方、実施例2の光学部材は、初期の防曇性は良好であったが、温水に24時間浸漬すると防曇性が低下した。つまり、実施例1の光学部材は、実施例2の光学部材と比較し、第1親水膜の耐候性に優れていた。以上から、ポリマー(β)を含有する第1親水膜形成用塗布液Aは、化合物(γ)を含有する第1親水膜形成用塗布液Bよりも、耐候性に優れる第1親水膜を形成できると判断される。